もうすぐ夏になろうかという日のことである。  
その日はからっと雲一つなく晴れわたっていた。  
時折爽やかな風が通りを吹き抜けるうち、ようやく道行く人の影が長くなり始めた夕方のことである。  
 
「もう飛び込みはないな。遅くなったが、そろそろ店仕舞いとするか」  
 
ここは糸色医院。糸色家の三男、糸色命が若くして開業している小さな個人医院である。  
最近、誰かがネット上で焚きつけてくれたおかげで客足は順調であり、新しくナースを雇う余裕もできた。  
だが、今日もまともな患者は来なかった。  
来る患者来る患者が特定の傾向を示す連中ばかりで、せっかくの新入りのナースの眉を顰めさせていた。  
もっとも、以前からいる先輩ナースは、  
「いいのよ。おかげで薬価が稼げてありがたいじゃない」  
とさばさばしている。  
 
「そんなもんでしょうか」  
「そうよ。前は本当に患者さんが来なくてねぇ」  
「へえぇ、そうだったんですか?」  
 
やや小柄で丸顔の新入りが、大きな目をくりくりさせて先輩の話に耳を傾ける。  
なかなか好奇心旺盛のようだ。  
 
「ええ。もうね、毎日毎日暇でしょうがなくて、先生とにらめっこしたり、視力や血圧を計りっこしたり」  
「へえぇ、本物のお医者さんごっこですねぇ」  
 
二人の脇で命が渋い顔をしている。  
が、彼女の言う事は本当だし、何よりも患者が寄り付かなくてともすれば沈みがちな命を、  
このナースが献身的に――精神的にも、時には肉体的にも――励ましてくれたのも事実なのだ。  
そのスレンダーながらも大人の色香を発散させている魅惑の身体で、  
打ちひしがれている命を何度優しく包み込んだことだろう。  
一方、新入りのナースは、小柄ながら白衣の下は出るところはしっかり出ているようだ。  
昔で言うボン・キュッ・ボンのトランジスタ・グラマーである。  
つつくとはじけそうなピチピチした肌をしている。  
 
突然、受付から電子音のメロディーが鳴った。  
火災報知器ではない。セキュリティ関連のものでもない。  
 
「先輩、あの音って」  
「赤ちゃんポストのじゃないかしら」  
 
糸色医院に赤ちゃんポストが設置されて以来初めての利用だった。命がテキパキと指示を下す。  
 
「赤ちゃんポストを見に行ってくれ。こっちも準備を始めておく」  
「はい。あなたも一緒に来て頂戴」  
「はい、先輩」  
 
命を診察室に残し、ナース達がポストに駆け出した。  
 
新米ナースが逸早くポストの受け入れ口に駆け込んだ。  
だが、どうもポストの様子がおかしい。ポストのベッドに何か大きなものが覆い被さっている。  
そう、赤ちゃんポストに入っていたのは、赤ちゃんではなく成人男性だったのである。  
思わず新入りが叫んだ。  
 
「赤ちゃんポストに大人が入ってます!」  
 
ポストに上半身を突っ込んでいたのはもちろん望である。  
無邪気な顔をして赤ちゃん用のベッドを占領している。  
あとから追いついてきたナースが院長の弟の背中を見下ろしながらボソリと呟く。  
 
「成人は想定外ね」  
 
そこへ新入りの叫び声を耳にした命がやってきた。  
その場の様子を見て取ると、思わず頭を抱えた。  
――この馬鹿、また恥ずかしい事を!  
  あとでどれだけ関係各所に頭下げる羽目になるのか、分かってんのか!  
 
そんな兄の気持ちを知ってか知らずか、望は期待に胸を膨らませたように顔なじみの先輩ナースに訊ねた。  
 
「赤ちゃんポストに入ったので、人生やり直せますかね」  
「ません」  
 
即答で却下した彼女は、さすがに困った風で命に指示を仰いだ。  
 
「どうします?」  
「妖怪ポストにでも入れとけ」  
 
命は顔を顰めたままこう言うと、何やらひそひそと耳打ちをした。  
ナースはしきりに頷いていたが、指示を受けるうちに顔色がやや紅潮してきた。  
最後にはいたずらっぽい笑み――そしてぞくっとするような淫蕩な笑み――を浮かべて  
「はい、分かりました」  
と指示を引き取った。  
そしてやはり後輩にさりげなく耳打ちをした。  
指示を受けているうちに、先輩の肩ほどの彼女の丸い眼がますます丸くなり、おまけに爛々と輝いてきた。  
 
「じゃあ、いいわね」  
「はい、分かりました」  
 
ここで先輩ナースが望に向かってこう言った。  
 
「じゃあ、所定の手続きがありますので、どうぞこちらへ」  
 
こうしてナース二人が望を医院の奥に連れて行った。  
 
手術室へ向かいながら、医院に昔からいて望と顔なじみのナースが望の意向を確かめた。  
 
「ええと、人生をやり直したくて赤ちゃんポストに入ったんですよね」  
「ええ。もう、一からやり直したくて」  
「なるほど」  
「一から、ですか」  
「ええ。それが?」  
「いえ、何でも」  
 
ナース達が顔を見合わせて頷き合っているのを不審に思った望が聞き返したが、それはさりげなく受け流された。  
 
「では、望さんが人生を一からやり直すお手伝いをしますね」  
「はぁ」  
「望さん?」若いナースが先輩に尋ねた。  
「そう、糸色望さん。院長の弟さんよ」  
「へええ、そうだったんですか」  
 
若いナースは風変わりな患者の素性に興味津々な様子だ。  
一方、先輩のほうは淡々と手続きを進めていく。  
 
「服を脱いでこちらに横になってもらえますか。あと、血圧を測りますから」  
「はあ」  
 
これまで何度となく横になっていて、寝心地を熟知している手術台。  
勝手知ったる何とかとばかり、望はすいすいっと服を脱いで脱衣籠に放り込むと、  
純白のシーツが敷いてある台に下帯一丁で横になり、腕を投げ出した。  
 
「下着もお願いします」  
「え、そうなんですか。では、ちょっと失礼」  
 
望は素直に下帯も解き、これも脱衣籠に放り込んで再度横になった。  
そこへ新顔のナースが上腕にカフ帯を巻きつけ、手順通りに血圧を測っていく。  
 
「あら」目盛りを見つめていた顔なじみが呟いた。  
「望さん、血圧が高いですよ。下が100、上が160も! これはいけないわ、ちょっと点滴の準備をしますね」  
「え〜? そうなんですか」  
 
自分ではまったく気づかなかった異常にびっくりするやら、医者に来て異常が見つかってどこか嬉しいやらの望である。  
点滴をされるのにもまったく抵抗はなかった。  
あれよあれよという間に点滴が始まり、  
「じゃあ、30分ほどかかりますけど、ゆっくりしていてくださいね」  
と、横になっている上から薄手のタオルケットをかけられた。  
つい気持ちよくなってうとうとしているうちに、ことんと意識が途絶えた。  
 
命の指示はこうだった。  
 
「今後恥ずかしくてウチに寄り付かなくなるようなことをしてやってくれ。  
 そうだな、『人生を一からやり直す』と言うんだから、下の毛を剃っちゃって、見かけを子供みたいにしてやろう。  
 これならヤツも君たちに会わせる顔がないだろうから、二度とウチに足を踏み入れないだろう」  
 
ナース達は、この指示を嬉々として受け入れた。  
 
今、目の前の手術台では、望が無防備な裸体を晒している。  
先輩がシェービングクリームを泡立ている間、後輩が清浄綿で局部を丁寧に拭き清め始めた。  
縮んでいる絶棒も、根元から丁寧に拭き上げる。  
先っぽも包皮をムキッと剥いて、カリ首のあたりを新しい清浄綿で丁寧に拭ったり、溝を一周させたりする。  
先輩が泡を下腹部に丹念に塗りつけながら新入りに訊ねた。  
 
「そういえば、あなた、ここを剃毛したことあるの?」  
「いいえ。看護学校では同級生と腕のうぶ毛で実習したくらいでした」  
「そう。じゃあ、いい機会だから、やってみて」  
「はいっ!」  
――じょりじょり、じょりじょり。ぞりぞり、ぞりぞり。  
 
新入りナースが細く可愛い指で望のそれを摘みながら、  
白い泡で覆われている部分の左上から剃刀で少しずつ少しずつ剃り下げていく。  
半分ほど剃り終えたところで、あろうことか摘まれていた絶棒がむっくり頭をもたげ、みるみるうちに硬度を増してきた。  
 
「あらっ……先輩、どうしましょう」  
「大きくなっちゃったわねえ」  
 
以前からいるナースがひくついている絶棒に手を伸ばし、茎を指でつまんでみた。  
 
「硬いわ……ずいぶん血液が集まってる。これじゃ危ないわ。剃毛は一時中止ね」  
 
新入りも同じようにつまみ、さらには手でぎゅっぎゅっと握ってみた。  
 
「硬いですね。うーん……院長のよりも固いです」  
 
あっけらかんとした後輩のセリフに先輩は衝撃を受けた。  
 
――院長のよりもって……院長、このコに手を出してたのね! ずっと私だけを見つめてるって言ってたくせに!  
 
動揺を押し隠し、先輩として後輩に指導を続けた。  
 
「あなた、こういう時はどうしたらいいか、分かってるわね?」  
「はい、習ったことはあります。しばらく刺激を与えて柔らかくするんですよね」  
「そうそう。じゃあ、丁度いい機会だからやってごらんなさい。手か口で」  
「はいっ! えーと、ん――」  
 
新人ナースは絶棒を握ったまましばらく考えたが、いきなりその先に顔を寄せた。  
そして可愛い桜色の舌を覗かせると、裏筋をちろちろっと舐め始めた。  
果たして、絶棒がぴくんっと痙攣した。  
 
「いいわよ、その調子」先輩も励ます。  
「はいっ!」  
 
褒められて気を良くしたのか、今度は亀頭のあちこちにチュッチュッと可愛くキスを落とし、  
カり下の溝に沿って舌を這わせていった。  
 
「む」  
 
望がかすかにうめいたが、まだ目を覚まさないようだ。  
ここで先輩がさらにアドバイスした。  
 
「とても上手だけど、もう少し強い方がいいかな。早く済むから」  
「はいっ! えーと」  
 
小首をかしげていた彼女が、今度は上半分をすっぽり飲み込んだ。  
そして頬張ったものに舌を絡め、ねっとり舐め上げ始めた。  
 
「ん……ん」  
 
望がまたうめき、わずかに身を捩らせた。頬に血の気が差し、何かを堪えている様子である。  
 
だが、新人は一生懸命に刺激を与えていく。  
いったん口を外すと、改めて絶棒の張り出した鰓をとがらせた舌先でなぞり始める。  
鰓の上をさっと軽く一周すると、根本に手を添え、下のくびれを念入りにたどる。  
 
――んーと、もう少し強く、もう少し強く。  
 
先輩の教えを念頭で繰り返しながら、まるで舌先で溝の掃き掃除をするように、舌先を小刻みに動かす。  
時には強く押しつけて、堅くなった亀頭を舐めあげていく。  
いくら寝ているとはいえ、この刺激は男にとって我慢できるものではない。  
たちまち鰓が膨れ上がり、涙をにじませた。  
 
ここで新人ナースが頬をやや紅潮させながら絶棒を握り直した。  
そして舌を平らにして、亀頭の先をにじんだ涙ごとペロンっと舐めあげた。  
握られたままの絶棒がたまらずぴくっと痙攣し、さらに涙をにじませた。  
さすがに舌が疲れてつりそうになったので、今度は唇で亀頭を挟み、はむはむはむ……と繰り返した。  
張り出している部分を唇に弾かれるようにされたのではたまらない。  
望の絶棒がさらに硬くなり、新人の口の中でエラが膨れ上がった。  
そこを彼女がちゅぱっちゅぱっと音を立てて吸い、最後にきつく吸い上げた。  
 
――ちゅううううううううううううううっ!  
「!」  
 
新入りナースは一瞬目を大きく見開くと、吸い上げるのを中断した。  
刺激に耐え切れなくなった絶棒が、思いっきり欲汁を彼女の口に発射したのだった。  
だが、口は離さないまま、二本指で茎を下から上に丹念に扱き上げ、なお吸い続けた。  
ようやく絶棒から口を離した後輩に、先輩がティッシュを差し出した。  
だが、後輩は無言のままジェスチャーでそれを断ると、こくん、と喉を鳴らして飲み下した。  
そして照れたように報告した。  
 
「えへっ。飲んじゃいましたぁ」  
「まぁ……大丈夫? 気持ち悪くない?」  
「大丈夫ですよぉ」  
「じゃあ、うがいしてらっしゃい。顎にクリームもついてるから、ついでに顔も洗って」  
「はぁい」  
 
洗面所に向かう彼女の背中をあきれた面持ちで見やりながら、先輩ナースはシェービングクリームを補充した。  
十分泡立てて望の下半身に塗りつけていると、風もないのにふらふら揺れている絶棒に偶然手が触れた。  
 
――あら!? まだ完全に萎れてないわ。まるで若いコみたいねぇ。  
  よっぽどあっちの方の経験を積んでるのかしら。  
 
時折ひくつく絶棒をやはりあきれた面持ちで眺めていると、トテトテと足音をさせて新入りが戻ってきた。  
 
「ただ今戻りましたぁ」  
「今クリームを補充しておいたから、残りを剃毛しちゃいなさい」  
「はい」  
 
後輩が剃毛を再開しようと手を触れると、またしても絶棒に力が蘇ってきた。  
絶棒から手を離すと、またもぷらんぷらんと揺れた。しかも揺れ幅が先ほどより大きい。  
 
「まぁ」  
 
後輩はその動きが物珍しいのか、頬をさらに紅潮させて凝視している。やがて、目を潤ませて言った。  
 
「先輩……私、これ欲しいですぅ」  
「はいはい。後でね」  
「え――」  
「ほらほら、先に済ませてしまわないと」  
 
こうして望の陰毛はきれいに剃り落とされ、やがて二人の目の前に、輝く無毛の荒野にそびえ立つトーテムポールと、  
脇を固める隕石二つ、というなんともアンバランスな光景が広がった。  
望はまだ目を覚まさない。  
哀れ、望は自分が意識の無い間に一本抜かれ、下半身だけがツルツルの子供状態にされてしまったのである。  
 
「はっ!」  
 
ようやくここで望が目覚めた。  
すぐに下半身に残る射精後の感覚に気づいた。  
おまけに絶棒が妙に熱っぽく力を帯びている。しかも誰かに幹を握られている気配さえある。  
こそこそと身を起こして確かめようとした。そして自分の逸物に視線を遣った望は我が目を疑った。  
 
「こ、これは?」  
 
自分の下半身が、なぜかまっさらの無毛になってしまっている。  
性に淡泊な質とはいえ、それなりに生えていたものが今やつるつるになっている。  
それに、今日初めて見かけた小柄の可愛いナースが、上半身はそのままなのにスカート以下の下半身だけすっぽんぽんになっている。  
そうして固くそそり立っている自分の分身に取り付いていて、今にも腰を下ろしそうにしているのである。  
若いのに肉感的な腰つきやらジューシーそうな太腿やらその付け根の男心をそそる草むらに、望はすっかり目を奪われた。  
すると、望の頭のすぐ横でパンストごとぱんつを脱ぎ捨てていた顔見知りのナースが望の顔を跨いできた。  
ようやく我に返った望が思わず叫んだ。  
「いったい、これは何なんで」  
「しっ! 静かに」  
 
望の大声を先輩ナースが遮った。  
 
「望さんが人生を一からやり直す」  
「お手伝いをしてるんですよぉ」  
「お、お手伝いって」  
 
だが、まさかの事態にうろたえる望が逡巡する暇は与えられなかった。  
 
「じゃあ、望さん、いただきまぁす」  
「い、いや、ちょっとぉ! やめ、わぐぅうう」  
先に放出した痺れが残っている絶棒を、熱く滑ったものが包み込んできた。同時に先輩ナースが望の顔に腰を下ろし、唇に  
「ん。全部入っちゃいましたぁ」  
「これも人生をやり直す一環です。私たちを満足させてみて」  
こう言いながら、先輩ナースが望に自分自身を押しつけてきた。  
蜜で潤んだスリットが唇に触れた。若い女性のフェロモンが望の鼻腔に達した。  
「む、むぐううぅぅ」  
「ほらほら。どうしたの? 望さん」  
腰で円を描くように催促され、仕方なく望は舌先でちろちろとスリットをなぞり始めた。  
 
「ん、くぅ」  
 
先輩が太腿で望の頭の両側を締め付けながら、髪に置いた手をしゃにむに動かし始めた。  
その声を耳にしながら後輩も望の生白い腹に手を置き、ゆるゆると上下運動を始めた。  
 
「ん、あん、奥まであたってますぅ」  
 
絶棒の先が奥の感じるスポットをついているらしく、新入りの動きに淫らなものが加わった。  
そのどん欲な動きに絶妙な締め付けが加わり、先ほど放出したばかりの絶棒は早くも追い込みをかけられていた。  
 
追い込みから少しでも逃れようと、望は目の前のスリットに意識を集中して口撃することにした。  
舌先をとがらせて内部の襞を丹念になぞっているうち、ジューシーな恥蜜があふれてきた。  
それを丹念にすくい取ってから、赤く大きくなっている豆を徹底的に攻めた。  
大きく周囲を舐め回してから、下から上に何度も弾き上げる。  
 
「あぁん! それはダメぇ」  
 
たまらず先輩ナースの腰が跳ね、逃げようとする。  
そこをすかさず捕まえると形のよいヒップをがっちり抱え込み、なおも口撃を続行する。  
今度は左右にレロレロレロレロと連続して心行くまで弾き、腰が浮ついたところを仕上げにちゅうううっと吸いつく。  
 
歓喜を訴える先輩につられ、新人も動きが大きくなった。  
バスンバスンと上下に激しく律動していたかと思うと、前後に激しくシフトし、回転も加え激しく快感をむさぼった。  
望も時折下から突き上げ応戦すると、彼女の中が熱くたぎる絶棒にねっとり蜜を絡ませてくる。そして新入りは身体を弓なりに反らせながら震わせる。  
 
「あぁン、それ、いいですぅ! もっとぉ!」  
 
ナース達と望はこうして手術室で同時にめくるめく絶頂に達してしまった。  
 
「望さん、あなた上手、もうダメえええぇぇ」  
「先ぱぁい、もうダメですううううぅぅぅぅ」  
「あぁ。あぁ。あぁ。はぅああああああああ」  
――ガチャ。  
「おーい、もう準備はできたか、あ!?」  
 
そろそろいいかな、と処置室の中をのぞき込んだ命が、三人の痴態に気付いた。  
新入りは望の下半身に跨ったまま望の腹に手をつき、荒い息をついていた。  
先輩ナースは望の顔に跨り奉仕させ終え、望の頭を抱え込んでいた。  
望は全身で糸色医院のナースたちに精一杯奉仕し終えたばかりで半ば放心状態である。  
三人とも朦朧とした意識の中で、ようやく命の存在に気づいた。  
 
「あっ」  
「あん」  
「あら」  
「もが」  
 
手術台に寝たままの弟の枕元で、命が静かに切り出した。口元がひきつっていて、眉もややつり上がっている。  
 
「うちのナースに手を出すとは、我が弟ながら許せんな」  
 
望は黙りこくっていた。手を出されたのはこちらだと反論をしようとしたが、状況からみて無駄だと悟ったのだ。  
 
「せっかく赤ちゃんからやり直すのに協力してやろうとしたのに、やることはすっかり大人だな。え?   
 じゃあ、体もそれに見合ったものにしてやろう」  
「?」  
「例の切除術の準備だ」  
 
先輩ナースが思わず聞き返した。  
 
「いいんですか?」  
「構わん。いい薬になるさ」  
「せ、切除っていったい、何を?」  
 
困惑している望を他所に、新米ナースが空になっていた点滴液を取替えコックを開いた。再び点滴が始まる。  
そして顔なじみのナースが無毛となった望の絶棒を清潔にすると、にゅるにゅると薄青色のジェルを塗る。  
 
「え、え、え〜?」  
 
いくら何でも兄の前で扱かれるのは、と思っていると、今度は上からシューッとスプレーを噴射された。  
そしてすっかり力を失っている茎に白く細いテープを巻かれた。  
 
「な、何なんですか、いったい?」  
 
うろたえる弟を前に、すっかり手術用の出で立ちを整えた命がどこかのんびりとした調子で答えた。  
 
「馬鹿だなあ、何変な気になってるんだ。麻酔だよ、麻酔」  
「へ?」  
「もう感覚がほとんどなくなってるはずだぞ。ほれ」  
 
命が白衣の胸ポケットに刺さっていたボールペンの背でつんつんと突っつくが、なんら感触がない。  
 
「あの、もしかして」  
「うん。うちのナースでヤることヤっちゃったからには、体も大人にならんとな。   
 せめて兄である俺の手でお前を大人にしてやろう」  
 
望は慌てた。  
 
「ちょ、ちょっと待って! いくら何でも兄さんとえっちするのは嫌です! しかもギャラリーつきで」  
「え、えっち?」  
 
命は一瞬目を白黒させた。  
望と顔見知りのナースは笑いを懸命に堪えている。新入りは堪えきれずにプッと吹き出した。  
 
「な、何か?」  
 
望は女性に笑われ顔を真っ赤にした。だが、兄は努めて冷静に弟に告げた。  
 
「何を変なこと考えてるんだ。それはまた今度じっくりと」  
 
「だから、そういう冗談は止めろって言ってるだろぉがぁ!」  
 
ついに望がキレた。  
 
「あらぁ、言葉遣いが悪いですよぉ」  
 
横から新入りナースが望の前で指を振りながらたしなめる。実家なら時田の役目である。  
 
「分かってると思ってたがなぁ。これからするのは、お前の包茎手術だ。さぁ、覚悟を決めろ」  
「へ?」  
 
望はうろたえた。  
兄が「包茎」を心なしか強調して言ったのもしゃくに障る。  
確かに余りものは大嫌いだが、何も手術をすることはないか、と思っていたのだ。  
 
「ちょ、ちょっと待って……待てったら、おい!」  
 
だが、命は弟の狼狽する姿にまったく頓着せず、小型で極薄のメスを手にした。  
 
「こら、止めろぉ! てめええ」  
「起きたら大人になってるぞ。……じゃあ、入れて」  
 
思わず言葉遣いが荒くなった望をよそに、ここで新人のナースが点滴液に麻酔用薬剤を数滴垂らした。  
間もなく望の意識が再び遠のいていった。  
最後に望が目にしたのは、兄の手にしているメスが無影灯の光を反射してきらりと輝くところであった。  
手術室に新たな人影が現れたときにはすっかり意識を失っていた。  
 
     ☆  
 
「はっ!」  
望が目覚めた。彼の頭をマスク・キャップをした4人が囲んでいた。  
 
――へ!? 4人? ナースさんは2人しかいなかったはず。あれぇ?  
 
「おっ、目が覚めたか」マスクをとりながら、命が声をかけた。  
「おめでとうございます。手術は成功でした」やはりマスクをとりながら、年上のナースだ。  
「おめでとうございます。すっかり大人になっちゃいましたね」こちらは新入りナースだ。  
「おめでとうございます。先生」  
最後にマスクを取った女性を目にして望は驚愕した。頬をほのかに赤く染めたまといが、軽く微笑みながらじっとこちらを見つめていたのだ。  
 
「つ、常月さん! もしかして……い、いい、いたんですか」  
「ええ、ずっと」  
「彼女のたっての願いでな。お前が麻酔にかかったすぐ後から、ずっと手術を見学してもらってたんだぞ」  
「あう……あう……」  
「ま、とりあえず今後の説明をしとくぞ。  
 鎮痛剤を出しておくから、痛み始めたらすぐ飲むように。  
 患部は清潔にしておく必要があるから、ガーゼと包帯をまめに換えて清浄綿で全体を拭くこと。いいな」  
 
あまりのショックに望は放心状態だった。かまわず命が説明を続ける。  
 
「シャワーは明日から浴びていいが、浴槽には浸かってはだめだ。あ、それから」  
 
ここでいったん言葉を切ると、まといをちらっと見遣り、再び説明を続けた。  
 
「3週間は激しい運動、ならびに性行為は控えること」  
「お任せください。私がずーっと見張っていますから」  
 
まといが口を挟んだ。  
 
「おお、それは心強い! じゃあ、よろしく。  
 でも、悪いけど一人だけだとなんだから、小森さんとかいう娘さんと分担して見張ってもらおうか。  
 あのコはずっと学校にいるから」  
 
まといは一瞬露骨に顔をしかめたが、ことは望の身体と自分の将来に関わるだけに、しぶしぶと同意した。  
 
「四週間経ったら、そろそろ解禁してもいい。  
 だが、激しくするのはもちろんご法度。  
 念のため、一週間ほどは一人でできそうな方法で試すといい。もちろん、柔らかく、柔らかくだぞ。  
 それで問題ないようなら、五週間目で全面的にオーケーだ。  
 よかったな、五週間経つうちには毛も生え揃うだろう。  
 晴れてどこもかしこも一人前の大人の身体になる訳だ」  
 
兄の説明を聞いているうち、望はついに嗚咽を漏らし始めた。  
 
「うぅっ。すんすん。すんすん。すんすん」  
「なんだぁ? 嬉し泣きかぁ〜? そうそう、それからな」  
「あのぉ」  
 
どこか楽しげに術後の説明を続ける命に、まといが声をかけた。  
 
「あの、例のもの、よろしくお願いしますね」  
「ん? ああ、分かった。そっち方面の知り合いに頼んでおくよ。1週間もしたら出来てくるだろう」  
 
     ☆  
 
望とまといが帰りがけに、新入りナースが望の元に駆け寄ってきた。  
にっこりと微笑み、頬を赤らめ、まといが側にいるというのにこんなことを望の耳元で囁いた。  
 
「またこんど、ちゃんとえっちしてくださいねっ☆」  
――ちゅっ。  
「え」  
「あっ、こらぁ!」  
 
接吻を頬に落とされ望は驚き、まといは怒声を上げた。  
 
「えっへへ、ごめんごめん。あれ、ちゃんとコピーしとくから許して。ねっ」  
「ん、もぉ〜〜」  
 
いたずらっぽくウインクをする新入りナース。まといはまだふくれっ面をしている。  
そこへ、奥にいた先輩ナースから声がかかった。  
 
「ほらほら。手術室の後かたづけ、まだだったでしょう。さっさと」  
「は〜〜い。今行きまーすっ」  
 
振り返って大声で返事をすると、二人に軽く手を振った。  
 
「じゃあねっ」  
 
すっと身を翻し、トテトテと足音をさせながら医院の奥へ戻っていった。  
 
     ☆  
 
新入りが後かたづけをしている頃、診察室の自分の椅子に腰掛け、背伸びをしていた命に先輩ナースが語りかけた。  
 
「先生、手術お疲れさまでした」  
「ん? うん。どうもありがとう」  
 
日頃耳にしない言葉なので命は不審に思ったが、とりあえず礼を言っておいた。  
 
「ところで、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」  
 
声の調子は柔らかだが、いつになく低い。命は気付かなかったが、やや目の端がつり上がっている。  
 
「なんだい?」  
「先生、ひょっとして」  
 
ここでナースが命の耳を摘んで囁きかけた。  
 
「あのコに手を出したんじゃないでしょうね」  
 
一瞬の沈黙があった。その後、命は無理に冷静さを装った調子で返答した。  
だが、視線が彼女の顔に向いていない。おまけに目が泳いでいる。  
 
「な、何を言っているんだい? 君らしくもないなぁ。そんなこちょ、ありゅ……う」  
 
とどめに、普通なら噛むはずのない言葉を噛んでしまい、後ろ暗い点があることを図らずも吐露してしまった。  
 
「よく分かりました。続きはこちらで伺います」  
 
先輩ナースは目を怖いほど光らせ、命の耳を摘んだまま彼を院長室に引っ張っていった。  
 
「あい痛たたた、おい、痛いいたいイタイ、ちょ、ちょっと!」  
 
命がつい泣き声を上げる中、ナースは命を院長室に放り込むと自分もドアの内側に滑り込み、内側から鍵を掛けた。  
 
 
望は肩を落としてとぼとぼと宿直室へ向かっている。  
その横をまといがしずしずとお供をしている。二人とも無言である。  
 
――知らない間に剃られて貞操を汚されるなんて! ううう……  
よりによってクソ兄貴の手でホ、ホーケ……あんな手術をされ、それをこのコに見られるなんて!  
 
望は恥ずかしさとやり切れなさのあまり、いますぐ駆け出して川に身を投げたくなった。  
が、いかんせん激しい運動は厳禁である。  
しずしずと宿直室へ戻るしかなかった。  
まといも、こんな時には腕を組もうとはしない。望に嫌われないよう、絶妙な距離感を保っているのだった。  
 
     ☆  
 
宿直室に着いてからもまといは帰らなかった。それどころか、部屋に上がり込んで早々に  
「今日は泊まります」  
と宣言する始末である。  
霧と張り合う気満々だった。  
ただ、霧は今日の経緯について、あらかじめ糸色医院側から連絡を受けていた。  
なのでいたずらにヒートアップせず、結果として望の傷口が血を吹くことはなかった。  
 
     ☆  
 
さて、いつもながらの霧の手料理を皆で囲んでいた時のことである。  
――なんだかんだと、まといも霧の手料理は口にするのであった。  
突然、望の下腹部がかぁっと熱くなってきた。加えてじんじんと鈍い痛みが響いてきた。  
 
「ぐ……」  
 
望が食べかけのぶり大根を急に皿に戻し、箸を投げ出して顔を顰めたのに二人が気づいた。  
 
「先生、大丈夫?」  
 
霧が声をかけると同時にコップに水を汲みに走った。  
 
「鎮痛剤ね、待ってて!」  
 
まといが、糸色医院から貰ってきた大きな包みの中から鎮痛剤を取り出した。  
そして、まといが望の口に薄桃色の錠剤を放り込むと、霧が望の頭を胸に抱え込み、コップの水をゆっくりと飲ませた。  
望はされるがまま、素直に水と錠剤を飲み込んだ。  
 
寝る前にも二人の連係プレーが光った。  
手術当日はシャワーも禁止なので、まといと霧が分担して濡れタオルで望の全身を拭いた。  
包帯を取り替える際にうっすら血の滲んだガーゼを目にすると、望の顔から血の気が引いた。  
だが、女子二人は淡々と、こちらも血の気が引いて縮こまっている絶棒を清浄綿で拭き上げ、  
新しいガーゼをゆっくりあてがい、新しい包帯を上から丁寧に巻いていった。  
 
望が横になると、二人がぴったり寄り添ってきた。  
仕方がないので、霧には左腕で、まといには右腕で腕枕をする格好になった。  
年下の女のコの肌の温もりや息遣いを身近に感じながらも、かえって手出しをすることが出来なくなってしまった。  
――もっとも、幸か不幸か、今日は糸色医院で心ならずも欲望を発散した後だったので、余裕がなくなって困ることはなさそうだった。  
逆に言えば、霧とまといは望に手を出そうと思えばいくらでも出せるのである。  
そこを二人が互いに牽制しているのだった。  
 
     ☆  
 
手術から丁度二週間後の夜、望は夢を見ていた。  
今自分は白い雲の中、螺旋階段を登っている。どこまでもどこまでも上に登る螺旋階段。  
建物は無い。ただ階段だけが、雲の中からはるか天の彼方にまで続いている。  
 
――どこまで続くんだろう……  
 
上を見上げた。階段の先が雲に霞むはるか彼方で小さな点となっている。あとどれくらい登れば辿り着くのか、見当もつかない。  
 
――ヒュウウウウウウウウ……  
 
不意に、下から風が吹き上げてきた。思わず下を見ると、抜けるような青空が広がっていた。  
 
――ヒュウウウウウウウウ……  
 
再び風が吹き上げてきた。自分の足から腹にかけて、爽やかな風が快い感触を伴って吹き抜けていく……  
 
     ☆  
 
「はっ!」  
 
ここで望は目を覚ました。実に久しぶりの浮揚感だった。  
そろそろと起き上がろうとすると、先が濡れている感触がする。――夢精したのだ。  
 
――とほほほ……いったい何が悲しくて、いい年こいてこんな羽目に!  
 
男の性とは言え、自己嫌悪に駆られながら後始末をしようとした。すると、望の手をそっと押さえた者がいる。  
 
「!」  
「いいんです、先生」まといだった。  
「ちゃんと取り替えてあげるから、心配しないで」霧も優しく囁いてきた。  
「い、いつの間に! まさか、ずっと起きていたんですか」  
「いいえ、ちゃんと私たちも休んでましたよ。で、今ふと目が覚めたら」まといのセリフに霧が続けた。  
「先生の様子がおかしかったんだよ。身体がぴくぴくってなったから」  
 
そう、あれから二人が、ほぼ毎晩、望の両隣で休み、不測の事態に備えていたのだった。  
 
「とほほほほ……」  
 
自分の分身が吐き出した精にまみれて汚れたガーゼや包帯、それに下着を  
異性の教え子二人に密着されて取り替えてもらうのは死ぬほど恥ずかしく情けなく、気が滅入った。  
だが、二人がこれまでのバトルを封印してまで自分の世話を続けてくれているありがたさが分かるだけに、  
どうしても抗う事がはばかられた。  
清浄綿で丹念に拭かれ、ガーゼをあてがわれ包帯を巻かれる独特の感触がいつまでも絶棒に残った。  
 
     ☆  
 
その感触が手術後すっかり敏感になってしまった絶棒に残っていたのだろうか。  
朝、ガーゼと包帯を二人に取り替えてもらっているうち、霧とまといの細い指が絶棒の回りを動き回る心地よい感触や、  
ざらっとしたガーゼが亀頭をこすれる快感などを堪えていると、不意に腰の奥から何かがせり上がってきた。  
そして鈍い快感が半勃ちの絶棒を駆け抜けていった。  
そのまま再度吐精してしまったのであった。  
後始末をしているうちに遅刻しそうになり、2のへ教室には予鈴が鳴った直後に望とまといが並んで入った。  
幸い、まといが望に付き従っているのはいつものことだったので、今の望の絶望的な状況に不審の目を向ける者はいなかった。  
また、まといがいつものように教卓の中から望を監視しているようでいて、  
実は傷跡の様子を注視していたのも絶望少女達には気付かれなかった。  
まといは望の授業を受けるだけでなく、糸色医院に追加の包帯や鎮痛剤を受け取りに行ったり、  
霧に頼まれて夕食の食材を買ってきたりと、献身的な活躍をしていた。  
なお、交は当番の家を泊まり歩いているので、今回の事態には気づいていない。  
 
手術から四週間が経った。  
 
気のせいか、日々の献立に精のつくものが増えている。  
オクラ・モロヘイヤ・山芋・シジミ……食材の買出しはまといが行っている。  
妙な連帯感が二人の間に生まれているようだった。  
 
「ごちそうさまでした」  
「ごちそうさま」  
「お粗末さまでしたぁ〜」  
 
いつもながら充実した食事のあとでまったりしていた時のことである。  
茶を啜っていたまといがことりと湯呑みをちゃぶ台に置き、おもむろに切り出した。  
 
「先生、今日で四週間ですね」  
「な、何がですか」  
 
空とぼけようとしたが、さすがに声が上ずっている。  
 
――くっ、やっぱり忘れていないようですね。  
「手術から四週間経ったんだよ」霧がずばっと切り込んでくる。  
「ええ、まあ、そういうことになりますねぇ」  
 
望は下を向いたまま煮え切らない返事をする。だが、二人の追求は容赦ない。  
 
「今日はちゃんとしたお風呂に入れますね」  
「はあ、まあ……でも、シャワーでもいいんですけ」  
「ちょっとだけ湯船につかってみて、ダメだったら出たらいいよ」  
「そうね。じゃあ、これから入りましょうか」  
「うん。みんなで洗いっこしよ」  
「もう、いい湯加減になってるはずですし」  
「え……あの、あのぉ〜」  
 
望の意志を聞かないまま、二人は気乗り薄な望を風呂場へ引きずっていった。  
 
     ☆  
 
いつものように望の身体を洗ったあと、局部を念入りに清潔にし、いよいよ湯船につけてみることにした。  
望が湯船にそろそろと浸かっていく。  
二人が注視する中、絶棒付近がゆっくりと湯に沈んでいく。  
――大丈夫だ。  
望も幾分安堵したかのように底であぐらをかき、壁にもたれかかる。特に傷口が開いたりはしないようだ。  
女子二人も洗いっこしたり交代で湯船に浸かったりして皆が程よく温まった。  
 
「先生、大丈夫? 痛くない?」  
「ええ、大丈夫ですよ」  
「疼かないですか?」  
「ええ、おかげさまで、もう大丈夫なようです」  
「じゃあ……」  
 
ここで、霧とまといがいきなりジャンケンを始めた。  
「「最初はグー! ジャンケン、」」  
「「グー!」」  
「「パー!」」  
「グー!」「チョキ!」  
「やったあ、勝ったぁ!」  
「いやああああぁぁんっ」  
 
風呂場で裸でジャンケンをする女子高生もなかなか元気があっていいな、などと場違いな感想を抱いているうちに、  
話が何やら変な方向に進んでいた。  
 
「じゃあ、最初は私ね」  
 
霧が得意げに宣言し、椅子に座っている望の前に陣取った。  
 
「ううう……明日はきっと勝つんだから」  
 
まといは口惜しがりながらも、望の背中にピッタリと張り付き、美乳をぎゅうっと押し付けて肩越しに望の局部を覗きこんだ。  
 
「あのぉ、いったい何を」  
「じゃぁ、じっとしててね」  
 
霧が両手で望の局部を包み込むように持った。  
そして絶棒を指先でさわさわと刺激した。  
たちまち頭をもたげた分身の頭に霧が顔を寄せていった。  
 
「あの、あのぉ」  
「ふふっ」  
 
大体のいきさつが飲み込めたものの、なお心の準備ができないでいる望に、霧が優しく上目遣いで微笑みかけた。  
そして小さな唇をゆっくりかぶせ、飲み込んできた。  
 
「あぅ」  
 
絶棒を包み込む温かい感覚に望は我を忘れた。思わず腰をせり上げていた。  
そんな動きに合わせ、霧は実に優しく舌で亀頭を舐め回した。決して激しくは動かさないが、敏感な部分を丁寧にたどってきた。  
途中夢精はあったものの、四週間の禁欲で望の感度は最大限に敏感になっていた。  
もう腰の奥に発射の予兆が生まれていた。背筋をゾクゾクッとした電流が何本も伝わっていった。  
 
――こ、こんなにお口でしてもらうのが気持ちいいとは!  
 
望は感嘆しながら、無意識のうちにさらなる快感を追い求め、足をさらに広げてしまった。  
 
事情は霧・まといも一緒である。はやく望と合体したいという思いでいっぱいであった。  
まといが胸を望の背に擦り付けながら望の右手を自分の秘所に導き、その指で微かな水音を立て始めた。  
負けじと霧も自分の大きな瑞々しい乳房を望の左手に持たせ、  
優しく揉むようおねだりしてきた。  
 
望が受け持ちの女生徒二人に快感を与えているうちに、  
霧の唇が鰓やそのすぐ下のくびれを優しくはむはむっと甘噛みし始めた。  
そうしながら指で幹を優しく扱き、もう一方の手は股の奥に向かった。  
たまらず望はギブアップ宣言をした。  
 
「あああ、もう、もう出ます。ああ、ああ、もう」  
 
霧は、いっぱい出してねと言うかのように、やや強めにはむっとしたまま強力に吸い上げた。  
そうして舌先で裏筋を何度もチロチロこすり上げた。  
 
――ちゅううううっ! ちろちろ。ちろちろ。ちゅううううっ!  
 
ついに望は霧の口中に大噴射を遂げた。噴射は長く長く続いた。  
絶棒を通り抜けていく快感のラッシュに、  
望は腰が抜けるとはこういうことかと実感として味わった。  
白く細い指で最後まで絶棒を扱いて中身を絞り出していた霧は、  
こちらも長いことかかって望が放出した毒液を全部飲んでしまった。  
 
「ふぅ。いっぱい出たね」  
 
涙目になりながらも笑顔で健気な報告をしてくれる霧を望は思わず抱きしめていた。  
ややあって、まといも一緒に抱き抱えた。  
 
     ☆  
 
翌日の入浴時のことである。望の「慣らし運転権」を賭け、二人は「あっち向いてホイ!」で勝負をしていた。  
 
「ジャンケンホイ! あっち向いてホイ!」  
霧が上を指したがまといは下を向いた。続けて……  
「ジャンケンホイ! あっち向いてホイ!」  
「ジャンケンホイ! あっち向いてホイ!」  
「ジャンケンホイ! あっち向いてホイ!」   
「きゃあ! やああああん」  
「やったああああ!」  
 
まといの左を指す指に霧がつい釣られてしまい、見事に左を向いてしまったのだった。  
 
昨日と同じく洗い場の椅子に腰掛けた望の前に、今日はまといが陣取った。  
まといは望の足をぐいっと開かせると、自分の手のひら・指にシャボンをたっぷりつけ、  
望の局部や絶棒をやわやわ、にゅるりぬらりと優しく妖しく刺激し始めた。  
敏感なところをぬらぬらっと擦られる感触はたまらない。  
たちまち絶棒が熱を帯びて固く大きくなった。  
 
「先生、堅あい。それに、熱い」  
 
まといが正直な感想を漏らしながら、指先で小さな輪を作って絶棒をその中に通し、そのまま上下し始めた。  
上下する度にカリ首を擦られるので、たちまち反り返った絶棒が程なく先走りの涙を流し始めた。  
 
「ふふっ。私で感じてくれてるんですね。嬉しい」  
 
そのまま指の動きを続けながら、まといは望の乳首や首に次々に吸いついた。  
そしてついに望と唇を合わせ、望の背中側にいる霧に見せつけるように互いに舌先を絡め合った。  
 
一方、霧は自分の大きく柔らかい乳房にシャボンを塗りつけると、  
望の首根っこに後ろからかじり付いてそれを押し当て、ぬるぬると上下に動かし始めていた。  
そうして時折うなじや背中にキスマークのつくようなきつい接吻を繰り返していた。  
望は身体の前後あちこちから与えられる快楽に我を忘れていた。  
高ぶりが身体を突き抜けようとする際にも、まといがまだ口を塞いでいた。  
 
「んん。んん――――。ん――」  
 
望がもう発射直前であることをしきりに訴えようとしていた。  
すると、まといは望に接吻したまま抱きつかんばかりに接近した。  
そして硬化しきった絶棒を自分のスリットにぴったりあてがい、そのまま優しく扱き始めた。まるで、  
 
――さあ、先生、ここに。この中に出して下さい。  
 
とアピールしているようだった。  
だが、フィニッシュの直前、あまりの気持ちよさに絶棒がいつもより急角度で反り返ってしまった。  
さらに、霧が望のうなじへ渾身の接吻を落とした。  
この双方が効いたのか、絶棒から放たれた男のエキスはまといの首筋から乳房、そして腹へと幅広く飛び散ってしまった。  
 
――わむう! ん――!  
 
思わずまだ口を合わせている二人から声が漏れた。  
 
 
     ☆  
 
さらに次の日。献立に卵や肉なども目立って増えてきた。  
食後、いきなり霧がまといに出題した。  
 
「どっちがまーえだ?」  
「え!? ん〜〜〜」  
 
まといは、かつて交が苦戦した質問にまんまと引っかかり、ぐるぐる霧の周りを回り始めた。やがて:  
 
「こっちよ! こっちが前だわ!」  
 
まといが自信を込めて一方向を指さした。  
すると、霧がまといの方を向いている髪を掻き分けた。  
 
「ブー。横でしたぁ」  
「ひどぉい!」  
「横でしたぁ。今日は私ね」  
 
その晩の入浴で、霧はパイズリで望の分身から欲望をしぶかせた。もちろん、傷口はふさがったままだった。  
 
こうした丁寧なリハビリが功を奏したのか、特に傷口が開いたり化膿したりすることはなかった。  
さらに精のつくメニューが食卓を覆うようになる中、いよいよ全面的な「解禁日」がやって来た。  
 
     ☆  
 
その日の授業が全てつつがなく終わった望は、職員室でつまらない雑用を超特急で終えた。  
あとは宿直室へ戻るばかりとなっていた望を、SC室の前で智恵が呼び止めた。  
 
「糸色先生」  
「おや、智恵先生」  
「今ちょうどお茶が入ったとこなんです。よろしかったらご一緒に」  
 
憧れの人から声をかけられ、望はすっかり舞い上がってしまった。  
 
「いいんですか? じゃあ、お邪魔します」  
 
     ☆  
 
SC室で望は智恵と二人っきりでお茶の時間を過ごしている。  
だが、対面していると目のやり場に困った。  
今日に限って、智恵は大きく胸元の開いた薄手のブラウスを着ているのだ。  
話をしながら智恵が姿勢を変えると、胸元が大きく動く。  
ともすると、奥の淡い色合いのレースや、その奥の白い肌まで見えそうになる。  
望は視線を引っぺがすのに苦労した。  
そうこうするうち、  
 
「先生、まだちょっと早いですが、水羊羹ってお好きですか。よろしかったら」  
「ええ、大好きです。いいんですか? じゃあ、喜んで」  
 
智恵が部屋の隅にある小さな冷蔵庫へ向かった。  
中腰で中身を取り出そうとする姿勢を戸外から入り込んでいた陽光が優しく照らした。  
望は何気なくその様子を見て愕然とした。  
 
――し、下着の線が透けてるぅ!  
 
たちまち絶棒がむくむくと頭をもたげてきた。喉がカラカラに渇いた。  
その後、どんな会話を交わしたのかさっぱり覚えていない。  
吸い込まれるような大きな瞳、艶かしい唇の動きや、髪の毛をけだるげに掻きあげる様子ばかりが目に付いた。  
そうこうするうち、焦って手元が震え、匙を床下に落としてしまった。  
 
「あっ、すみません」  
 
慌てて机の下にかがみ込み、匙を取ろうと前に手を伸ばした。  
その際ふと前を見ると、智恵の椅子に座った腰から下、足下までが丸ごと視界に飛び込んできた。  
気のせいか、見えてはいけない神秘の部分までおぼろげに見えている。  
 
――こ、これは!  
 
その部分を凝視したまま固まっていると、智恵がゆっくりと脚を組み替えるではないか。  
パンストに包まれたむっちりした太腿のなだらかな曲線を目で追っていくと、奥の奥がはっきり見えた。  
そして翳りのシルエットまでが悩ましく浮かんでいた。  
 
――ピ、ピ、ピンクだ!  
 
ゴクリと生唾を飲み込んでいると、上から声がした。  
 
「先生、スプーンありました?」  
「うはっ、は、あいたっ!」  
 
慌てて頭を上げて返事をしようとしたので、机の引き出しにいやというほど頭をぶつけてしまった。  
 
「あいたたたた……ええ、ありました」  
「あらあら、だいじょうぶですか? たんこぶできてません?」  
 
机の下から這い出てきた望に智恵が寄り添い、頭に手を遣った。  
ところが、智恵のあの巨乳が、服越しとはいえ望の腕に当たっているではないか。  
その柔らかくて思わずふるいつきたくなるような感触に望の理性はあらかた消し飛びそうになった。  
 
――お、おっぱいが腕に当たってるぅ!  
 
その後、望はメロメロであった。  
せっかくの水羊羹の味などまるで分からない。  
おそらくは会話もまともに噛み合っていなかったに違いない。  
ほうほうの体でSC室を後にした。  
 
あたふたと宿直室へ向かう望を見送りながら、智恵が呟いた。  
 
「いくじなしなんだから、もぅ」  
 
     ☆  
 
望がSC室で智恵に誘惑されていた頃のことである。  
糸色医院から追加の包帯・清浄綿を受け取りに行ったまといがあるDVDを新入りのナースから受け取り、  
その足で宿直室に持ち込んだ。  
 
実は、糸色医院の新人ナースが、自己の看護師としての技術向上・研鑽の参考にするため、  
自分が関わった診察や手術中の様子を録音・録画していたのである。  
当然、望の包茎手術も完全にDVD化されていた。  
そのDVDをコピーしてもらったのだった。  
晩ご飯の支度を手早く終えた二人は、さっそく鑑賞会を催した。  
(その際、まといが手術に立ち会った者として画面のそこここに注釈を付けては霧をうらやましがらせることが度々であった。)  
興奮した面もちで鑑賞し終わった二人が、顔を見合わせた。  
「傷跡がどうなってるか、確かめてみたくなっちゃったよ」  
「私も。今日はあの日だから、注意してみてみましょ」  
「そうだね」  
 
そこへDVDの主演男優が戻ってきた。  
 
「ただいまぁー」  
「あ、お帰りなさい」  
「お帰りなさーい」  
 
DVD再生をオフにすると、慌てて二人で二人だけのスターを出迎えた。  
 
いよいよ解禁日の夜になった。  
いきなり最初から激しいえっちはまずいだろうと、順を追って試すことにした。  
まず、望が仰向けに横たわる。  
既に絶棒は今後の期待にうち震えて最大限に屹立している。  
まず、霧もまといも入れるだけで動かないでいた。  
 
「くうっ、もうそれだけで泣きたくなるほど温かくて、おまけにきゅっきゅっと締め付けられてもう出そうです」  
「入ってるだけで目の前が真っ白になるよ」  
「腰が溶けちゃいそうです」  
 
三人とも、たちどころに身体が燃え上がってしまうようだった。  
 
次に、女性陣が少しずつ腰を振ることにした。  
だが、霧が再び望に跨り、ずっ、ずっと腰を上下させ始めた途端:  
 
「ひあっ! 小森さん、そんなにぐいぐい締められては、もう! うあああああっ」  
「ああん! 先生、奥の気持ちいいところばっかり突いてずるいよ。もうだめえぇっ」  
 
なんと、数分も経たないうちに、両者とも激しく達してしまった。  
 
まといと望とのえっちでもまったく同じだった。  
まといが望のものを胎内に収め、ゆるゆると動き始めて数分後:  
 
「ひぐっ! 中がそんなににちゅにちゅ動くなんて反則です! あう、あうううぅっ」  
「はうん! 先生、擦れたところから溶けちゃいそうです! いやあ、溶けちゃうぅ」  
 
やはり数分で、両者ともめくるめく絶頂を極めた。  
数週間に及ぶ禁欲のせいで、疑似的な「早漏」になってしまった三人が、  
以前のような性生活を営めるようになるにはしばらくかかりそうである。  
 
     ☆  
 
だが話はここで終わらない。  
望がともかくも無事に教え子二人とえっちし、二人の中にたっぷり注ぎ込んだ後のことである。  
仰向けでうとうとしていたところを当の二人に襲われた。  
霧が腹に、まといが太腿に跨ってきて望は動けなくなった。  
抵抗できないでいるうちに、せっかく生えかけていた陰毛をまた剃られ、再びつんつるてんにされてしまった。  
 
「ど、どうしてこんなことを」  
「うふふ」  
「なんだか可愛いし」  
「浮気防止よ」  
――くっ、この最後のが本音ですね。  
 
とまあ、この日はいろいろあったが、念のため、望は鎮痛剤を飲んで寝ることにした。  
 
翌朝も、二人に一本抜いてもらってから教室へ向かった。  
その日の夜のことを考えるといつになく機嫌が良く、鼻歌などが飛び出しては2のへの皆を不審がらせた。  
 
だが、その晩、霧とまといがネットで見つけ注文した「珍太くん」で絶棒の型を取られる羽目になるとは、  
哀れな望は知る由もなかった。  
 
     ☆     ☆  
 
――エピローグ――  
 
まといの「望コレクション」に新たな獲物が加わった。  
使用済のガーゼと包帯(望の精が付いたものは貴重なので冷凍パック保存してある)、  
薬を入れていた袋はもちろんのことだが、中でも白眉は六角柱の水晶を模した透明なペーパーウエイトである。  
その中に望の「余り物」が薄く広げられ、防腐処理を施された上で固められて入っているのだ。  
まるで極小のコウモリが透明な柱の中で翼を拡げているようであって、  
光にかざすと毛細血管の精緻な模様が浮かび上がり、見る者を飽きさせない。  
まといに言わせれば、こんなに素晴らしいアイテムはめったにないとのことだ。  
もちろんこの世に一つしかない代物である。  
命の知り合いに赤ちゃんの臍の緒を加工して親へ売るための記念品にする業者がいたので、その伝手で出来たものだった。  
まといと命の間にどんな取引条件があったのか、いずれ明らかにされる筈である。  
 
 
―――[完]―――  
 
 

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