「木津さん、どうしました?」
不意に、先生の手が私の額に触れる。
「それほど熱は無い……いや、少し額が熱くなっているようですね。」
「……先生?」
薄ぼんやりとした視界に一杯、先生の顔が映る。
男の癖に少し冷たい掌がそうっと、私の額に触れている。
わからない、だけど私の顔は確かに紅潮していただろう。
「誰か、保健委員……いえ、私が連れて行きましょう。」
「ソッチノホウガ、危ないト思うケドナ。」
マリア、……先生に触れたから、熱くなったのと思うの。
「皆さん、先生が居ない間は自習していてください。」
ただ言われるままに、先生の背中に寄りかかる。
……先生の華奢な体躯は、私の体重を支えられないと思ったけど。
「先生……思ったよりも肩幅が広いのですね。」
「木津さん、少し揺れますよ。」
先生は私に振動を与えない様に、そろりそろりと歩く。
先生、私の、心臓の音が聞こえますか?
私は先生の首に手を回し、きっちりと体が揺れない様、安定して歩ける様に気を遣う。
時々、先生の首筋に触れる程度に唇で触れ、その度に溜息を漏らすのを聴いた。
「木津さん、まさか、起きていませんね?」
「……。」
「考えすぎでしたか。 では、静かに……。」
先生は、私の先生は、私を気遣って、私を起こさない様に……。
体の奥から沸き上がってくる感情で身が焦がれる。
「木津さん、今回は保健室で休んでいて下さい。 いずれ、今日の埋め合わせ分の授業はします……。」
私の躯を保健室へ横たえ様子を伺った後に、優しい言葉をかけてくれる先生、優しい先生。
呼吸が荒くなる、私の精神が乱され今までの事なんか、どうでも良いほどに思える。