あなたと一緒に  
 
いつも通りに始業のチャイムが鳴って、いつも通り席に付いた私達の前に現れたのは、いつも通りの先生の姿ではなくて、ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべる甚六先生だった。  
「みなさん、おはようございます」  
甚六先生はぺこりと頭を下げる。私は手を上げて質問した。  
「甚六先生、糸色先生はどうしたんですか?もしかして、風邪をひいたりとか…」  
「いえいえ、そういう事ではありませんよ、風浦さん。体調を崩されたとか、そういう事ではないので安心してください」  
それから甚六先生は、少し困ったような、申し訳なさそうな表情を浮かべて、こう続けた。  
「糸色先生は出張に出ています。出張先で一泊して明日の朝に戻っていらっしゃる予定です。……本来は、私の仕事だったんですが……」  
多くの学校の教職員が集まる会議、甚六先生はこれに参加する予定だった。  
しかし、甚六先生が担任を受け持つ3年生のクラスの、ある生徒の推薦入試の準備のために出張に時間を割く事が難しくなってしまった。  
他の先生たちも色々と忙しかったの中で、ウチの先生だけがなんとか時間に都合をつけられそうだと、甚六先生の代理を引き受けたらしい。  
場所も遠いし、会議もかなり長引くらしいので、今夜は出張先で一泊して明日はそこから直接学校に来るという予定になっている。  
つまり今日は丸一日先生はいないという事だ。  
「急な話で皆さんには大変申し訳ない。何か糸色先生に急ぎの用事がある方は、出来る限り私の方で対応させていただきますので…」  
そう言って、甚六先生はぺこりと頭を下げてから、教室から出て行った。  
残されたのは空っぽの教卓が一つだけ。  
いつもなら、朝も早くから何かに絶望して大騒ぎを始める先生の姿は、そこにはない。  
「…そっか…いないんだ……いないんだ、先生…」  
確認するように私は呟く。  
ほどなくして鳴り響く一時限目の開始を知らせるチャイム。  
こうして、先生のいない一日が始まった。  
 
先生がいなくとも2のへに騒ぎの種は絶えない。  
今は昼休憩。  
愛ちゃんがいつもの加害妄想を発揮して、そこから勝手に話を膨らませた千里ちゃんがスコップを片手に暴れて、晴美ちゃんがそれを後ろから羽交い絞めにして止める。  
私もいつも通りにみんなの輪に加わる。大騒ぎして、笑う。  
いつも通りの教室、いつも通りのみんなとの時間、だけど………。  
「……………」  
その事がより一層、先生の不在を際立たせる。  
楽しいのに、楽しくない。  
振り返った視線の先にある教卓に、いつもなら騒ぎの中心にいる筈の先生の姿は無い。  
ため息を一つつく。  
「あれ、可符香ちゃんがため息なんて珍しいね、初めて見たかも。どうかしたの?」  
いつの間にか横から奈美ちゃんがこっちを覗き込んでいた。  
「あ、奈美ちゃん、ううん、なんでもないよ」  
「もしかして、先生がいなくて寂しいとか?」  
知ってか知らずか、私の意識していた事をピンポイントで突いてくる奈美ちゃんの言葉。  
「そうだね、うん、ちょっと寂しいかも」  
スンナリとその言葉を認めて、笑顔を返す事で、これ以上その話題で追求されることをシャットダウンする。  
「そっか、可符香ちゃんなんだかんだで先生と一緒にいる事が多いもんね」  
「うん」  
「……あ、ほら、そんな暗い顔しないでよ」  
奈美ちゃんの言葉にハッとなって頬に手を当てる。笑顔のつもりだったのに、私はうまく笑えていなかったんだろうか。  
「先生なら明日にはもう帰って来るんだから、ね?」  
奈美ちゃんが私の肩を掴んで、励ますように言った。  
「うん、わかったよ。奈美ちゃん」  
なるべく明るい声で答えて、私はうなずく。今度はうまく笑えただろうか。  
「な、奈美ちゃんお願い、千里を止めるの手伝ってぇ〜っ!!!」  
 
「あ、うん、…それじゃあ、可符香ちゃん、元気出してね」  
それから奈美ちゃんは藤吉さん達に呼ばれてそちらの方に。  
去り際の奈美ちゃんの笑顔は、明るくて優しくてとても素敵だった。  
2のへは色々と個性的過ぎる面子が揃っているから、『普通』なんて言われるけれど、不登校に家庭の事情と奈美ちゃんが抱えてるものはそんなに楽なものじゃない。  
それなのに、どうしてあんな風に笑えるんだろう?どうしたらあんな風に笑えるんだろう?  
もう一度、そっと自分の頬に手を当てる。  
先生がいないだけで、どうやら私の笑顔はボロボロらしい。それに……  
「…明日か……」  
たった一日なのに。土日に祝日、春休み夏休み冬休み、お休みなんていくらでもある。  
こっちから会いに行ったり、偶然会う事もかなり多いけど、基本的にお休みの最中は先生とはあまり会えない。  
それが普通で、それで今までなんともなかったのに、どうして今日に限ってこうなってしまうんだろう?  
「先生………」  
もう一度空っぽの教卓を見る、いる筈の無い人の姿を求めて、未練がましく。  
そこで、昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。なんだか随分長い休憩だったような気がする。  
先生のいない時間はどこまでも引き延ばされていくみたいで、私はその中でゆっくりと憂鬱と倦怠の沼に沈んでいくようだった。  
 
チャイムが鳴る。授業が終わる。今日の一日が終わる。  
いつもなら下駄箱に直行するところだけど、つい宿直室の方に足が向いてしまう。  
入り口から覗く。そこにいるのは夕飯の支度をする小森ちゃんとそれを横で手伝う交くんだけ。当然、先生の姿は無い。  
こちらまでは聞こえないけれど、何か楽しそうに話している二人。  
だけど、その笑顔が少し寂しそうに見えるのは、単に私自身の不安を二人に投影しているだけだろうか。  
それからくるりと踵を返し、下駄箱に向かう。  
もうみんなは帰ってしまったみたいで、いつもならわいわいとお喋りをしながら帰る道を、私は一人で歩いていく。  
道路にのびる黒い影、遠くに聞こえるカラスの鳴き声、だんだんと冷えていく空気、いつもなら気にならないそれらに私の心を憂鬱にさせていく。  
家に帰り、鍵を開ける。扉を開いて中へ。  
一人ぼっちで暮らす私だけれど、毎日『言ってきます』と『ただいま』を欠かした事はなかった。  
だけど、今日はそれを言う元気も無い。  
ふらふらと自分の部屋に向かい、ベッドの上にばたんとうつ伏せに倒れた。  
「……本当に、どうしちゃったのかな?今日の私……」  
寂しい。寂しい。寂しい。  
そんな気持ちで頭の中がいっぱいになっていく。  
この時間に一人きりなのはいつも通りの、当たり前の事なのに。  
「晩ごはん、作らなくちゃ……」  
そう呟いてみるけれど、起き上がる気にならない。  
明かりもつけないまま、ずっとベッドの上に寝転がっていると、昔あった色々な出来事がとりとめもなく蘇ってくる。  
お父さんの勤める会社が倒産して、たくさんの借金を抱えて、家の中の空気はだんだんと暗くなっていった。  
そして、ある日突然、私はひとりぼっちになってしまった。  
私は、自分が歪んでいる事を自覚している。  
物事の意味を読み替えてポジティブにしかとらない自分の性格は、全ては幼い頃の記憶に根差しているのだと。  
それでも不安と孤独に押し潰されないために、生き抜いていくために、私はそうなるしかなかった。  
そんな私も高校に入って、少しずつ少しずつ、友達と一緒にいる事や、学校での生活を楽しめるようになった。  
そして、あの日、満開の桜の下で出会ったあの人。  
あの日からの毎日は、いつだって最高に楽しくて、みんなと一緒に騒いで笑って、そしてその真ん中にはいつだって先生の姿があった。  
くるくると脳裏を駆け巡る思い出の中には、いつだってどこかに先生の姿がある。  
「そっか……私は先生に会いに学校に通ってたのかも…」  
目頭が熱い。  
私は枕に顔を押し付けた。  
自分の瞳から溢れ出してくる熱い雫に気付かない振りをして、私は必死に口元に笑みを浮かべる。  
「いやだなぁ、明日の朝なんてすぐにやって来るのに…」  
 
明日の事を考えて、自分をなだめて、なだめて、だけどとうとう私はごまかしきれなくなった。  
私はベッドから起き上がり、制服を着替える。  
時計を見るともう8時が近かった。思った以上に長い間、ここにいたらしい。  
暖かいコートに袖を通して、秋の寒空の下へ。玄関に鍵をかけて、私は家を後にした。  
 
また電車が通り過ぎて、そもそも叶う筈の無い期待を胸に、改札から出てくる人の群れを、少し離れた柱の影から見つめる。  
もちろん、そこに先生の姿は無い。  
当たり前だ。先生が帰ってくるのは明日の朝で、いくら今ここで見張っていても何の意味も無い。  
それでも電車がやって来る音が聞こえる度に、改札を通る大勢の人たちの中に先生の姿を探してしまう。  
我ながら不毛な事だと思いながら、私はここから離れられないでいた。  
 
駅前のハンバーガー屋で適当に頼んだセットを胃袋に入れて、それから3時間以上だろうか、ずっとこうしている。  
途中、絡んでくる酔っ払いや不良、それからおまわりさんなんかを言葉巧みにかわして、目立たないように隅っこの方に座って列車を待ち続ける。  
列車が到着して、先生を探して、見つけられなくて、当たり前の事なのにひどく落胆して、そして次の列車がやって来て、また同じ事を繰り返す。  
「寒いな……」  
駅の構内に流れ込んでくる冷たい空気が、手先足先から私の体をじわじわと冷やしていく。  
もう帰ろう。  
私の理性はそう言うけれど、今の私は切実に、先生の姿を、声を、存在を求めていた。  
だから、だんだんと人気の無くなっていく駅の中で、息を潜めるようにして、私は待ち続ける。  
次の列車、次の次の列車、次の次の次の列車、次の次の次の次の列車………。  
その度に失望を積み重ねる。それでも、私の足はここから離れてくれない。  
やがて、最後の列車が行き過ぎて、そこから降りて来た人たちの流れも絶えた。最後まで先生は姿を現さなかった。  
さあ、もう十分でしょう?  
理性の声の促すままに、私は駅から出て行く。そして……  
「…………」  
ぺたん、と駅の入り口脇に腰を下ろした。  
冷え切った地面にさらに体温を奪われて、ぶるり、私は身震いした。  
ここで、先生を待とう。  
先生の帰ってくる明日の朝まで、ずっとここに座っていよう。  
もはや馬鹿げているとか、そういったレベルを超えている。どうせ明日になるのなら、いつも通り学校に行って、いつも通り先生に会えばいい。  
こんな所に一人でいて、どんな人間に目をつけられるかわかったものじゃない。だいたい、ただでさえすっかり体が冷え切っているのに……。  
理性の叫ぶ声を無視して、私は駄々っ子のようにその場にうずくまる。  
我慢できない。寂しい。切ない。恋しい。苦しい。  
私の中から溢れ出す信じられないほどたくさんの気持ちが、そのまま私をこの場に留める重石になる。  
それらの感情はたった一言、この言葉に集約される。  
「会いたい………」  
呟いた時には、もう決意は固まっていた。  
何があっても、朝が来るまで、先生を迎えるまで、絶対にここを動かない。  
体育座りの両膝をぎゅっと抱き寄せて、天敵から身を守る小動物みたいな格好で、私は先生を待つ。  
深夜を迎えた街からはだんだんと明かりが消えていく。  
残された飲み屋や、コンビニ、街頭の明かりは夜の街の寒々しさを余計に際立たせるようだった。  
そんな景色を見るともなく見ながら、そのまま数分が過ぎた、その時だった。  
「そんな所で何をしているんですか?」  
耳に馴染んだ声、待ち望んでいた声、信じられない気持ちのまま声の聞こえた方向を見た。  
「こんな時間に一体どうして…何かあったんですか?」  
いつも通りの着物に袴穿き、その上に外套を羽織って、先生はそこに立っていた。  
その顔に浮かんでいるのは驚きと不安の表情。きっと私は、またうまく笑えなかったのだ。  
「ほら、立ってください……って、体めちゃくちゃ冷えてるじゃないですか。本当にどうしたんです?」  
私を立ち上がらせようと手の平を引っ張って、先生は私の体が冷え切っている事に気が付いたみたいだ。  
 
羽織っていた外套を私の肩の上に被せてくれた。外套に残った先生の体温が、じんわりと私の体に染み込んだ。  
「さあ、帰りますよ。これ以上ここにいたら、本当に風邪をひいてしまいます」  
先生に背中を押されて、私は歩き出した。  
「……先生、帰ってくるのは明日だったんじゃ……」  
「思ったより早く会議が終わったんですよ。それでも、こんな時間になっちゃいましたが……」  
予定通り一泊して帰る事も考えたけれど、学校に小森ちゃんと交くんを二人きりで残しているのが気がかりだった、と先生は言った。  
「そうだ、一応小森さんには帰って来たって連絡しておかないと……」  
先生はそう言って、携帯電話を取り出し、相変わらずの慣れない手つきでメールを打ち始める。  
私はとっさに、先生のその手を掴んでいた。  
「ちょ…何をするんですか。どうしたんです、さっきからずっとおかしいですよ…」  
「……家に、来てください…」  
もう理性の声は聞こえなかった。溢れ出す感情を、そのまま言葉に変える。  
「心配しなくても、こんな夜道を生徒一人で帰らせたりはしませんよ。私も一応教師なんですから、ちゃんと家まで…」  
「…家に来てください、お願いです………」  
掴んだ先生の手を、ぎゅっと握り締める。  
「……家に来てほしいんです、先生…お願いします……」  
「……風浦さん…あなたは……」  
ようやく先生は、私の発言の意味を理解したようだった。先生はメールを打つのをやめ、携帯を懐へ。  
私はそのまま、先生の手を引いて家に向かって歩き始めた。  
 
家に着くまでの道程では、先生も私も一言も言葉を発する事はなかった。  
無言のまま、歩いて、歩いて、私の家の前までたどりついた。  
玄関の鍵を開けて、先生を招き入れる。居間まで案内して、対面に並べられたソファーに、向かい合わせで腰を下ろす。  
「………それで、一体どうしたんですか?」  
先生が静かに口を開いた。  
私はそれに答える言葉を持たない。  
こうして衝動に任せて行動した事を、私は今になって後悔し始めていた。  
私の気持ちを、私の中にとめどなく溢れ出る感情の全てを、それを先生にぶつけて一体どうしようというのだろう。  
ありがちなラブソングに歌われているように、それは人と人との関係を致命的なレベルで変えてしまう。  
今までの先生と私ではいられなくなる。  
私にはそんな勇気はなかった。  
「…言いにくい事ですか?それならば無理強いはしませんが……今日のあなたは普通ではありませんでしたよ」  
対する先生の言葉はあくまで淡々として、その瞳は普段の先生からは信じられないくらい静かで、まっすぐな視線を私に投げかけてくる。  
自分で掘った落とし穴に、自分ではまったようなものだ。  
普段見せている笑顔の仮面はすでに無残に剥がれ落ちて、私を庇う物はもう何も無い。  
逃げ場なんて無い。  
それが痛いほどわかっている筈なのに、臆病な私は無様に事態を取り繕おうとする。  
「……い、いやだなぁ…別に大した事じゃないんですよ……ただ、あの時はあれぐらい強引じゃないと来てくれないかと思って…」  
無理のある笑顔に、無理のある言い訳。  
一度、仮面の剥がれ落ちた姿を見せられて、そんな言葉で納得できる人間なんてどこにもいない。  
私を見つめる先生の視線は全く揺るがず、私の笑顔は乾ききって今にも崩れ落ちそうだ。  
「それでも、聞かせてください。私に何か言いたい事があるのには変わらないでしょう?」  
「いえ、そんな、やっぱりいいですよ。ほんとに大した事じゃないんです……先生も早く宿直室に帰った方がいいと思うし…」  
「……私には、大した事でないようには見えないのですが……」  
先生はどこまでも食い下がってくる。  
私は半ば無駄と悟りながら、貧弱な嘘の城壁でそれを凌ごうとする。  
「…いやだなぁ、本当にそんな急ぐような話はないんですよ。私、先生みたいにすぐに絶望したりしないし…」  
「……本当にそうですか?」  
寒々しい、白々しい、それでも私は既に破綻した演技を続けるしかない。  
 
だけどそんなもの、今の先生を止めるのに何の役にも立ちはしない。  
「……神、未来人、ポロロッカ星人…」  
「……えっ?」  
「覚えていませんか?進路絶望調査書ですよ。あなたの書いた、あなたが絶望的だと思う進路です。ポジティブが身上のあなたでも諦める事はある。同じように、悩むことも、苦しむことも……」  
少しずつ、先生は私への包囲を狭めていく。退路を次々に潰されて、私は返す言葉すら失っていく。  
先生の視線は先ほどからずっと、私の方に注がれたまま動かない。まるで内心の全てを見透かされているような錯覚を、私は覚えた。  
「お願いします、風浦さん……」  
 
もう覚悟を決めるしかなかった。  
「わ、私は……」  
ぎゅっと握った手の平が、膝が、喉が、体中が震えて頭の中にははっきりあるその言葉が、上手く声になってくれない。  
先生の視線に見据えられたまま、心臓はバクバクと鼓動を早め、焦りと不安が頭の中をめちゃくちゃにかき乱す。  
それでも私は、その言葉を先生に伝えた。  
「…私、好きなんです…先生の事…好きなんですっ!!」  
一気に言い切って、そのまま下を向いた。  
先生の顔を見る勇気なんてなかった。ただ暴れだしそうに苦しい胸を抑えて、怯えたようにうずくまるだけ。  
(言っちゃった……)  
そんな私の頭上から、先生の声が響く。  
「………何の冗談ですか」  
そこには何の感情も込められていなかった。  
ただ淡々と、先ほどまでと何ら変わらない調子で発せられたその言葉には、言葉以上の意味が込められているように感じられた。  
たぶん、私は拒絶された。  
顔を上げる。  
ソファに腰掛けた先生は微動だにしておらず、先ほどの私の告白に対しても、何の動揺も見せていないように思われた。  
「先生、私は……っ!!」  
一番恐れていた事態が現実のものとなった。  
涙さえ出てこない。  
言いようの無い感情が胸の中に溢れ出して、抑えきれずに叫びとなる。  
「…私は本当に、本当に先生の事を…っっ!!!」  
「…冗談はいい加減にしてくださいっ!!!」  
もう一度先生が叫んで、私の心はナイフで切られたみたいに血を流す。  
それでも私の叫びは止まらない。  
いつの間にか私の中をいっぱいに満たしていたその感情の全てを、先生に向けてぶつけた。  
 
「……私は先生を…愛してますっ!!!!!!」  
「…私があなたを好きな事、知っているんでしょうっ!!!!!」  
 
そして、重なった二人の叫びを、私と先生、それぞれが理解するまでに数秒の時間が流れた。  
 
「「……へっ!?」」  
ぽかんとした表情で、私と先生は見つめ合う。  
「先生、今なんて言いました?」  
「あ、あ、あなたこそ…」  
もう一度、お互いの発言を反芻、検討。導き出される答えはやっぱり同じ。  
「「え、え、えええええええええええええええええええっ!!!?」」  
次に口を開いたのは私だった。  
怒っているんだかなんだか、訳がわからないまま先生を責め立てる。  
「じゃ、じゃあどうしてあんな言い方をしたんですかっ!!!」  
「何の話ですっ!?」  
 
「私が先生を好きだって言ったら、『何の冗談ですか』って、すごく冷たい声で……っ!!!」  
そこまで叫んだところで、急速に記憶が巻き戻されていく。  
私の告白を聞いた直後の先生の言葉が、もう一度脳内に再生される。  
『……な、な、何の…冗談ですかっ!?』  
思いっきり動揺してるし……っ!!  
突然の生徒からの告白に戸惑う、気の小さな先生としては至極まっとうな反応。  
そもそも、あの時の私は先生の言葉を冷静に聞ける精神状態ではなかったのではないか……?  
先生がまったく動揺しているように見えなかったのは、驚きのあまり身動きも取れないほどに硬直していたからだとしたら……  
私がビクビクしていた先生の態度は全て、尋常ではない様子の私を心配して真剣に向き合おうとしていたからだと考えれば……  
「いや、あなたの告白に真剣にとりあわなかったのは悪かったと思いますが、こっちの気持ちもさっき言った通りですし、その辺り察してください…」  
全ては先生に拒絶される事を恐れた私の心が引き起こした錯覚……。  
どうやら、それが答えらしい。  
「あなたの様子があまりに普通じゃなかったので、何か大変な事が起こったんじゃないかと思っていて……。そしたら、思っても無かった事を言われて、私も動転してしまって……」  
先生の言葉もほとんど耳に入らない。私は顔を真っ赤にしてうずくまる。  
「えっと、私そんなに信用ないでしょうか?涙ながらの告白を無下に扱うような奴だって、もしかしてそう思われていますか?」  
「……そんな人に、私、告白なんてしませんよ……っ!!」  
驚きと恥ずかしさが落ち着いてくると、ぼろぼろと涙が零れてきた。  
心の底からホッとして、安堵感が胸を満たして、それまで栓をされていた涙腺が一気に決壊したみたいだった。  
そんな私の頭を、先生の手の平がぐしぐしと優しく撫でる。  
「先生…私の事…好きだって……嘘じゃありませんよね?」  
「今更、嘘はありませんよ」  
「いつから…どうしてなんですか……?」  
先生は私のその質問に、しばし考え込むように間を空けてから、ゆっくりと答えた。  
「いつの間にか、知らない内に、……そういう風にしか私にも言えません。ですが…」  
そっと、先生の手の平が頬に添えられて、その手に促されるままに私は顔を上げる。  
すぐ目の前、鼻と鼻がくっつきそうな距離に、先生の笑顔があった。  
「私が学校に赴任してからずっと、私の側にいてくれたのはあなたじゃないですか。……それは、まあ、その分あなたにはずいぶんと苦労させられましたけど……」  
あの出会いから始まった2のへでの日々、その中で私の心の真ん中にはいつも先生がいて、そして先生の心の真ん中にはいつも私がいた。  
先生の言葉が、気持ちが、私の中に染み込んでいく。  
「私の意気地なさは知っての通りでしょう。あなたの勇気がなければ、こんな風に気持ちが通じ合えるなんてあり得ませんでした。………今度は私が勇気を見せる番です」  
そう言ってから、先生はそっと私の唇にキスをした。  
時間が止まったかのような数瞬が過ぎて、唇を離した先生は私にこう告げた。  
「……改めて、愛しています、風浦さん……」  
「…私も好きです…大好きですよ、先生……」  
ずいぶんと思いつめたくせに、なんだかお互い間の抜けた所を見せて、ようやくここに至れたのが、どうにも私と先生らしくてクスクスと笑った。  
これからもきっと、こんな風にして先生と時を重ねていける、それが何よりも嬉しかった。  
 
先生の腕に抱かれて、ソファに体を横たえる。  
私の体を優しく愛撫する先生の指先に身を任せながら、私は何度となく先生の唇を求めた。  
「…んっ…んくぅ……んんっ…あっ…先生……」  
「きれいです、風浦さん……」  
先生の手で服を脱がされて、生まれたままの姿に戻っていく私。  
じっと見つめてくる先生の視線が熱くて、体中がゾクゾクと疼いた。  
しゅるり、先生も自分の着物を脱ぎ捨てて、細身で華奢な先生の裸身が私の目の前にあらわになる。  
私はただ息を呑んで、それに見蕩れる。  
「キレイですよ、先生も…」  
「それ、男としては複雑な心境になっちゃう言葉なんですが……」  
「いいじゃないですか、キレイなものはキレイなんですよ」  
私の言葉に苦笑しながら、先生はおでこにキスをしてくれた。  
 
それから、先生は裸の腕で私の体を抱き締めた。  
触れ合う肌と肌。先生の体温は燃えるように熱くて、それに包まれた私の心も、体までもが一緒に燃え上がってしまいそうだった。  
「……っあ…ひぅ…くぁあああっ!!」  
先生の指先が、私の体をなぞる、撫でる、這う、弄る。  
その刺激に、快感に、思わず漏れ出てしまう私の声。  
恥ずかしくておかしくなりそうだったけれど、絶える事の無い快感の連続攻撃は、私からそれを拒否する言葉も気持ちも根こそぎ奪い去っていく。  
「ひあっ…やっ…んぅ…あああああああああああっ!!!!!」  
体の火照りに合わせる様にピンと立ち上がった、私の胸の上のピンク色の突起に先生がキスをする。  
体中の神経が集まったみたいに敏感になっていたその部分を、唇で、歯で、舌先で、先生は徹底的に刺激して、弄んだ。  
どんどん大きくなっていく私の声、だけど先生は容赦なく私の体を刺激し続ける。  
「…ひゃ…うぅんっ…あぁ…ひぁあああああっ!!」  
先の部分だけでなく、胸全体が熱くて、ジンジンして、ワケがわからなくなりそうだった。  
その間にも、先生の指先は私の体の上を自由自在に行き来する。  
今度はきゅと閉じられた太ももの内側、私の一番敏感で大事な場所ギリギリの部分を何度も撫でられる。  
先生の愛撫ですでにびしょびしょなっている秘所には触れずに、その手前ギリギリだけを延々と刺激され続ける。  
それがじれったくて、もどかしくて、私は先生の体の下で何度も身をくねらせる。  
「…せんせ…おながい…そんな…いじわるしないでぇ…」  
「わかりました。それじゃあ……」  
あまりの切なさに哀願した私の言葉を受けて、先生の指先がつーっと太ももの内側を這い上がって、私の大事な部分に触れた。  
その手先があまりに滑らかだったせいで、ほとんど何の覚悟も無いまま秘所に触れられて、私はまた背中を反らして大きな声を上げてしまう。  
「あっ…あああああっ!!!…すご…こんなぁ…」  
くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃと恥ずかしい音を立てて、先生の指先が私のアソコを蕩けそうなほどに刺激しまくる。  
内側から溢れ出てくる蜜は止めようもなく、私の内股と先生の手の平を濡らしていく。  
「…ひっ…くぅんっ…あぁ…は…ひぅううううんっ!!!」  
電気のように体を駆け抜ける刺激が、私の頭まで痺れさせていく。  
先生の指先の動くまま、声を上げて、あえぎ続けるだけの存在に変えられていく私。  
もう体中のどこを触られても、いやらしく声を上げてしまいそうだった。  
やがて、めくるめく快感の渦の中、私の中で一つの、燃え上がるような衝動が湧き上がってくる。  
「…せんせい…わたし…せんせいと…せんせいといっしょに……」  
私の体の中に、先生を受け入れたい。  
その衝動は、先生への激しい愛情と絡まりあって、抗いがたいほどに私を突き動かす。  
そして、それは先生も同じのようだった。  
「…風浦…さん…私も、あなたの全てがほしい……」  
先生の愛撫の手が止まる。  
先生の瞳が、私の瞳を覗き込む。  
そのまま二人で見つめ合う。言葉もなく、ただお互いの瞳に心奪われる時間だけが過ぎていく。  
やがて、先生の瞳に、私の心に浮き上がってくる確信。  
「…風浦さん……」  
「…先生……」  
ささやくように、お互いの名前を呼んだ。  
先生は私の大事な場所の入り口に、大きくなった自分のモノをあてがう。  
触れ合っただけで、熱と痺れに思考が停止しそうになった。  
そして、先生は自分の唇を私の唇に重ねる。舌を絡め合わせ、互いの唾液を味わうような濃厚なキス。  
そのまま先生は、私の中へ、ゆっくりと挿入を開始する。  
「…んっ…んくぅ…あ…痛ぅ…」  
「だ、大丈夫ですか?」  
「…はい…平気ですから…先生…もっと私の中に……」  
引き裂くような痛みの後から、私の中を満たしていく先生の熱と質量を感じた。  
痛みと歓喜が入り混じった、形容しがたい感覚と感情の中で、私は先生の背中に必死でしがみついた。  
 
「初めての時の痛みは人によりますから、これ以上無理をしなくても……」  
「…いいんです、先生…私…もっと先生を感じたい……」  
そう言って、私は先生にしがみつく腕に精一杯の力を込めた。  
それで先生の決意も固まったようだ。  
ゆっくりと、私を気遣うように先生は腰を動かし始める。  
「…っく…うああっ…あっ…ひあああっ!!!」  
先生が私の中を、奥深くまでかき混ぜ、攪拌する。  
その度に私を襲う痛みと、体の奥から湧き上がる得体の知れない熱さ。  
私はぽろぽろと涙を零しながら、何度も声を上げて、先生の体にしがみついた。  
「ひぅ…ああんっ…や…うあああああっ!!!」  
抜き差しを繰り返すたびに、混ざり合って判別がつかなくなっていく熱と痛み。  
私の体は、心は、いつしかその、自分を内側から壊されていくような狂おしい感覚を求めるように変わっていく。  
先生もいつしか我を忘れて、腰を動かし始めていた。  
「…ああっ…風浦さんっ!!!」  
「…ひあっ…ああっ…せんせ…せんせいっ!!!」  
私と先生は溺れていく。  
渦巻く熱の真ん中で、理性も何もかも溶かされて、剥き出しの愛をぶつけ合い、お互いを求め合う。  
壊れたように腰を動かし続け、ほとばしる熱をさらなる原動力に変えて、さらに行為を続ける。  
「…ひゃうぅ…あぁ…すご…いぃ…っ!」  
引き抜かれる動きと共に、二人が繋がった部分から、初めての証の赤い色と、大量の蜜が溢れ出す。  
「…あっ…そんな…奥までぇええええっ!!!」  
そして、すぐさま根元まで挿入される。  
先生の、先端の部分に一番奥を叩かれて、私は思わず大きな声を上げる。  
繰り返される激しいピストン運動。  
自分と相手以外の何もかもが見えなくなって、感覚の全てを激しい熱に塗りつぶされて、私と先生はただただ貪欲にお互いを求めた。  
「…風浦さんっ!!…そろそろ限界みたいですっ…」  
「…ああっ…せんせいっ…わたしも…わたしもいっしょにぃいいっ!!!!」  
熱く。さらに熱く。もっと熱く。  
二人が溶けて、混ざり合って、それでも足りないほどに私と先生は互いを求め続け、行為を加速させていく。  
そして、最も激しい突き上げと共に、凄まじい熱の津波が私の意識を呑み込み、全てを粉々に砕いた。  
「くっ…風浦さんっっっ!!!!」  
「あああっ!!せんせ…わたしっ…ひああああああああああっ!!!!!!」  
ビクンビクンと全身が痙攣して、私の体から一気に力が抜ける。  
そんな私を抱き締める、先生の腕の優しさに浸りながら、私の意識はゆっくりと薄れていった。  
 
 
カーテンの隙間から差し込む朝の光で、私は目を覚ました。  
私は裸のままで、その代わり毛布が二枚、体の上にかけられていた。  
「……先生?」  
目をこすりながら探すと、向かいのソファですやすやと寝息を立てている先生の姿を見つけた。  
先生は着物を着て、外套を毛布代わりに眠っていた。  
幸せそうな寝顔を眺めていると、昨夜の事がまるで嘘みたいだったけれど、体に残る微かな熱の名残が、そうではない事を教えてくれた。  
そして、私は立ち上がり、部屋の時計を見る。  
学校に行くまでにはまだ余裕があったけれど、ものすごく早起きしたとは言えないぐらいの時間だ。  
自分の部屋に戻り、下着を身に付けて、制服に袖を通す。  
顔を洗って、歯を磨いて、出来ればシャワーも浴びたかったけど、そこまでの余裕は無い。  
それから台所に向かい、朝食の準備に取り掛かる。  
トーストを二枚、二つ並べたグラスに牛乳を注ぐ。ちょっと簡単すぎるけれど、今日は仕方が無い。  
「ふぁ〜……風浦さん?」  
「あ、先生、おはようございます」  
オーブントースターのタイマーが鳴らしたチンという音で目を覚ましたのか、先生が眠そうに目をこすりながらやって来た。  
私は焼きたてのトーストと、牛乳の入ったコップを先生に手渡す。  
「……?これは?」  
「朝ごはんです。急いで食べてください」  
「でも、まだそんな時間じゃ…」  
もふもふとトーストを食べながら、未だに頭のハッキリしないらしい先生に、私は明るくこう言った。  
「何言ってるんですか、一緒に学校に行くんですよ」  
「はぁ……」  
「だから、先生、ここはいつもの宿直室じゃないんですよ」  
「あっ…!!」  
ようやく先生は事態に気付いたようだ。  
慌ててドタバタと支度を始めて、部屋の中を右往左往する先生を見ながら、私ももふもふとトーストを頬張り、牛乳を飲む。  
「持って行ってた筈なのに、髭剃りが見つかりませんっ!!!」  
「先生、ヒゲも体毛も薄いですから、きっと平気ですよ」  
慌てふためく先生に、無責任な言葉を投げかけて、クスクスと笑う。  
それから、ようやく髭剃りを見つけて、身支度を整えた先生と私は玄関に並ぶ。  
「……よく考えたら、朝っぱらに教え子の家から姿を現す教師ってヤバくないですか?」  
「今頃気付いたんですか?」  
「一緒に学校に行ってて、他の生徒たちに見られたら、なんて言い訳しましょう?」  
「駅で会って、一緒に学校に行くことにしたって言えばいいんじゃないですか?」  
「大胆に、中間の過程が省かれてますね……」  
「でも、嘘じゃありませんよ」  
苦笑する先生に、私は目いっぱいの笑顔で答える。  
「なんだか、楽しそうですね…」  
「それはもちろん!」  
だって、私の横には先生がいてくれるのだから。  
たぶん、昨日みたいな不安に襲われる事だってもう無い筈だ。  
だって、先生が受け止めてくれたから、抱き締めてくれたから、もう不安を感じる必要なんてどこにもないのだから。  
それから、私は先生に向かってさっきの質問を投げ返す。  
「先生こそ、楽しくないんですか?」  
「…………」  
先生はその質問に少しの間黙りこくってから  
「………楽しい、です…」  
観念したように、頬を赤くして答えた。  
私は笑顔でうなずいて、それから玄関のドアを大きく開け放つ。  
「それじゃあ、いってきます!」  
「いってきます」  
爽やかな朝の光の中へ、私達は二人一緒に足を踏み出した。  
 

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