「先生っ!」  
と、大声を上げて宿直室の扉を開いたのは藤吉晴美。  
「先生…?あれ?」  
きょろきょろと宿直室内を見回すが目当ての人物の姿はない。  
どうしようか、と困る晴美の肩を誰かがぽんと叩いた。  
振り向いてみると、そこには晴美のクラスメイト、可符香が立っていた。  
 
「藤吉さん、先生探してるの?」  
「ん?うん。あのね、千里がね…」  
晴美が宿直室に住まう担任を訪ねたわけは、例のごとく彼女の親友、千里に関する面倒事だ。  
千里の暴走には望をぶつける…それは彼女たちのクラスのいつもの光景だった。  
 
とりあえず、晴美は望の居場所を知っていそうな可符香に事情を説明する。  
 
年忘れを許さない女、千里。  
年相応の生活を送るべき、とする千里だったが、彼女はその肌年齢が28歳であることを知ってしまった。  
そして、自身の主張どおり、きちんと28歳の生活をしてみせた千里であったが…  
 
「ってわけでね…千里が28歳から帰ってこないのよ」  
「ずいぶんのめりこんじゃったんだね。それで先生に…あ、でも……」  
「でも?」  
「まあいいか。来ればわかるよ」  
そう言うと、可符香は晴美の手を引いて歩き出した。  
 
晴美が、可符香に案内されて辿り着いたのは、糸色の表札のかかった木造の家。  
その庭に、晴美の探していた人物の姿があった。  
だが、その様子を見て晴美は愕然とする。  
少し曲がった腰で、ちょきんちょきんと盆栽に鋏を入れる望は明らかに普段の彼ではない。  
 
「先生も?」  
「うん。先生、脳年齢が57歳だったから」  
「あーもう……先生もこうなってちゃどうしたら……」  
晴美が頭を抱えて唸る。  
だが、そんな晴美を尻目に可符香は、てくてくと望に近づいて声をかけた。  
 
「せんせーい」  
「ん…………?ああ…………風浦さん?お久しぶりです」  
「お久しぶりです」  
「……お久しぶりじゃないんだけどなあ」  
何やら話し合っている二人を眺めながら、晴美がぼやいた。  
 
「ふぅ…」  
ひとりぼっちの部屋で、千里はため息を吐いた。  
最近、随分とため息を吐くことが多くなった気がする。  
ぼーっとテレビを見ているが、つまらない番組は、千里の寂しさを払ってはくれない。  
「はぁ…どこかに素敵な人居ないかなあ……あの人もあの人も奥さん居るしなあ…」  
また深くため息を吐いたとき、不意にチャイムが鳴って来客を告げた。  
 
「誰かな……って、どうせまた宅配便とかよね……」  
特に期待はせずに、千里が玄関の扉を開ける。  
だが、その扉の向こうに居た人物を見て、千里は驚き言葉を失った。  
10年前の千里の、まだ高校生だった頃の千里の担任教師。  
毎日学校で顔を合わせ、学校のない日だって用事を作って会いに行っていた人。  
大好きだった先生。  
 
「お久しぶりです」  
「……」  
「あの……木津さん?」  
「え!?ああ……はい、お久しぶりです……」  
少し緊張しながらも、千里はどうにか返事を返した。  
 
「あの、どうぞ中へ…」  
と、言う千里に促されて望が千里の部屋に入り、扉が閉められた。  
その様子を少し離れた場所からうかがっていた晴美は、心配そうな顔をする。  
「大丈夫なのかなあ、先生に任せちゃって…そりゃ、行き当たりばったりなのはいつものことだけど」  
「確かにちょっと心配だね。だから……」  
というと、可符香は千里の部屋の隣の部屋の扉を開け、晴美に手招きをしてから中に入った。  
怪訝な顔をするが、とりあえず晴美も可符香の後を追って中に入る。  
中を見回してみると、一般的な生活用品に混じって置かれた3つのモニターが嫌でも目についた。  
そこに映るのは、千里と望の姿。  
考えるまでもなく、千里の部屋のライブ映像だった。  
ご丁寧に音まで拾っている。  
 
「用意良いね……というか、いいのかなコレ?」  
「今の先生と千里ちゃんだけにしとくのは、危ないからね」  
「ん…………そうだね」  
とりあえず、その理由で納得したことにする。  
実際のところは、今の千里と望が一体どんな会話をするのかという好奇心に負けたからだったが……  
「じゃあ、はい」  
「ほんとに用意良いね…」  
と、可符香がさし出したクッションとショートケーキと紅茶を受け取る。  
クッションに座り、紅茶で喉を潤してから、晴美は二人の映るモニターに目を向けた。  
 
「あれ?先生、なんか若返ってない?」  
「ほんとだ。たぶん、話してるうちに千里ちゃんの方に引き込まれたんだね」  
ついさっきまで、望(57歳)の腰は曲がっていたはずだが、今はピンと背筋がのびている。  
千里(28歳)の世界にのみこまれたのか、その分設定年齢が低くなっているようだ。  
 
「復調の兆し…でいいのかな?」  
ケーキを口にしながら晴美が心配そうに呟いた。  
だが、同時にちょっと期待もしてしまう。  
どうせ覗き見れるのなら、千里も望も10年後であった方が面白いものが見れそうだ、と。  
 
「疲れてる……?私がですか?」  
「ええ」  
「晴美にそう言われて……ね…………そっか、この間一緒に飲んだとき…」  
くす、と千里が少し困った顔で笑う。  
「ほんと、先生って昔から……普段は面倒くさがりなのに、ときどき妙に面倒見いいですよね」  
「妙に…は心外ですね。卒業したって、私の教え子です。心配になりますよ」  
「ごめんなさい。来てくださってありがとうございます」  
千里は柔らかく微笑むと、カップを口にした。  
 
「そうですね……確かに最近は、ちょっと疲れてはいます」  
「お仕事、ですか?」  
「それもありますけど………………ふふ、もう28歳になっちゃいました」  
「ん……」  
望は、困り顔で頭を掻いた。  
「23歳で結婚する、なんて決めてたんですけどね。周りはもう……晴美も結婚しちゃいましたし。  
 それで、つい晴美に愚痴っちゃったんです……先生に会いたいって」  
 
 
「そうなの?」  
「知らない……」  
「じゃあ、千里ちゃんのアドリブだね」  
「というか私、誰と結婚してることになってるんだろう」  
「意外と先生と…なんてね」  
「えー、それはないでしょ。というかさっき先生、私のこと藤吉さん、って呼んでたし」  
ケーキを食べながら、晴美と可符香は千里の脳内設定をネタに談笑していた。  
 
「卒業してから、男の人と付き合ったりもしましたよ。もちろん好きだったからですけど……」  
ふう、と千里がため息を吐くと、腰を上げて望に近づいて、隣に並んでソファーに座った。  
「でも……先生ほど夢中にはならなかったなぁ……」  
軽く望に体重を預けて、うつむきながら千里が寂しげに呟いた。  
お互いに無言のまま時が過ぎていく。  
 
千里が顔を上げて、少し緊張した様子の望に柔らかく微笑み、その手を握った。  
「ねえ先生、抱いてくれません?」  
「…………なぁっ!?」  
「そんなに驚かなくても」  
「駄目ですって、私とあなたは」  
「教師と生徒、ですか?それは、私にとって先生はずっと先生ですけどね。  
 でも、今はもうただの大人の男と女です。しちゃったって、誰かに咎められる謂れもありません」  
「それは…」  
「私のこと、慰めに来てくれたんじゃないんですか…?」  
望の指に自身の指を絡ませて、絡み合った二人の指を見つめながら、千里が甘えた声で言う。  
「う……」  
「大丈夫ですって。私だってもう大人なんですから、1回したからどうこうなんて言いません」  
また千里が顔を望の方に向けると、困った顔で唸る望が千里の目に映った。  
そんな望に千里が、少し寂しそうな笑顔で言う。  
「先生、私じゃそんな気にもなれませんか?」  
「いや!そんなことは…けして……」  
じっと見つめる千里に目を合わせることが出来ずに、望は目を泳がせる。  
そんな望の様子を黙って見ていた千里が、目を閉じて望に決断を迫った。  
 
「……キス……しちゃった……」  
モニターに映る二人を見ながら、晴美が言った。  
「しちゃったね」  
「わ、また……うわ、え、えええ…私達見てるのに……うそ……?うっわぁぁ……」  
「どうする?止める?」  
「え?ああ……でも、やっぱり二人が自分の意思で……やってるんだし、うん」  
可符香と自分に向けて言い訳をすると、晴美は再びモニターに意識を集中した。  
 
モニターの向こうでは、ベッドに寝転がった千里の胸を望が揉んでいる。  
少し顔を赤らめて、恥ずかしそうにする千里の耳元で何かを望が囁くと、  
千里は、はにかみながらも嬉しそうな顔をして、望の頭を抱え、自分の胸に押し付けた。  
千里の腕の中で望は、密着する千里の乳首を口に含んで、ちゅうちゅうと吸い付く。  
「…あ、だめだって先生……千里は、先生の生徒なのにぃ……」  
二人の情事にのめりこんでいく晴美を見ながら、可符香が小さく笑った。  
 
「う……んんぅ…あ……」  
むにゅむにゅと千里の二つの乳房を揉みながら、気まぐれに口に含み、千里の反応を楽しむ望。  
「かわいい……ほら、あなたのここ、ぴーんと立っちゃってますよ?そんなに気持ちいいんですか?」  
望が唾液にまみれた千里の乳首を人差し指で押しながら、見せつけるように言う。  
「あっ!やぁ……はい、いい……です……やっ…ん」  
「素直な良い子ですね。よし、じゃあこっちにも」  
望の指が千里のふとももをさすりながら股のつけねへと向かった。  
千里のクレバスを探り当てた望の指が、秘部を左右に開いてその中へと侵入していく。  
少し恥ずかしそうではあるが、期待に満ちた嬉しそうな目で見つめる千里に微笑むと、  
望は指を千里の中で前後に動かしはじめた。  
 
「あっ……あ……んっぅう…」  
望の指から与えられる快感に悶える千里の唇を唇で塞ぎ、舌をその中へ侵入させて千里の舌をくすぐる。  
息苦しさを感じながらも、千里は望の背中に手を回して抱きついて、彼女もまた望を強く求めた。  
幾度も唾液を交換し合い、望に膣内をかき回される快感に千里は溺れていく。  
長いキスの後、望が千里から唇を離すと、二人の唾液がつうっと糸をひいた。  
その光景をうっとりと眺める千里が、離れていく望の舌に引かれるように伸ばしていた舌に、  
望が再び口を近づけて吸い付くと、抑えきれぬほどの快感に限界を迎えた千里の体が小さく跳ねた。  
 
「せんせい……せんせぇ……」  
望の胸に顔をうずめて甘える千里。  
その反応に気を良くした望が、千里のもっとも敏感な部分に指を伸ばした。  
指先でその芽に軽く触れてみると、千里が小さく反応して望に体を寄せた。  
千里の頭を優しく撫で、望が指をゆっくりと動かしはじめた。  
甘い声を漏らして、とろけてしまいそうな快感に溺れる千里が、望を見つめる。  
指の動きはそのままに、望は千里の頬に手の平で触れながら言う。  
「木津さん、今さらなことを尋ねますが……私のこと、好き、だったんですか……?」  
望の質問に千里は、軽いキスを返した。  
 
「好きでしたよ……ふふふ、言ったのは初めてですね。ずっと……言えませんでしたから」  
頬に触れる望の手にその手を重ねて続ける。  
「卒業式の日だって、せっかく晴美がお膳立てしてくれたのに、泣いて……逃げちゃって…」  
「ええ……」  
「好きだったんです。大好きでした。先生のことが好きすぎて……だから、認められなかったんです。  
 私はこんなに好きなのに、先生がそうじゃないっていうのが…………本当に子供だったんですね」  
 
千里が、望の手の甲に軽く口付けをしながら、望に拗ねたような顔を見せた。  
「でもぉ…先生も悪いんですよー、いつもいつも期待させるようなこと言って、  
 式場の下見に行こう、とか物件の下見に行こうとか……私、あのとき本当に嬉しかったのに  
 ほんといつもいつも女の子を勘違いさせるようなことばっかり言って」  
「…すいません」  
「ふふ、いいですよ。おかげでずっと先生のこと好きでいられたんですし。  
 結ばれなかったけど、先生のこと好きだったの、後悔なんてしてませんから」  
楽しかったです、と千里が望に微笑みかける。  
 
お互い無言のまま時が過ぎる。  
しばらくすると、絶頂を迎えた千里が小さく声を上げて全身を痙攣させた。  
「は……っぁああ…………先生、次は私がしてあげますね」  
千里は、艶っぽく笑うと望の服に手をかけて脱がしにかかった。  
 
「うっわああ、先生……私たちも見てるんだよ?お、おっきくなってるんだよね、これ…?  
 あ、千里が触って……舐めて……え?え?そこにキスしちゃうの?そんなところにまで!?」  
「千里ちゃん、えっちだね」  
「ほんとだよぉ……いつも私にあんなこと言うくせに、千里の方がずっとえっちじゃない……  
 あぁぁ……千里が先生のぺろぺろ、って……ああ……咥え……ちゃったぁ……」  
「ほら、あんまり騒ぐと二人に聞こえちゃうよ、隣なんだから」  
「え……ん……」  
「そうそう、静かにね……ちょっと私、お手洗いに行ってきますから」  
そう言うと、可符香は空になった二人分のカップと皿を持って立ち上がった。  
真っ赤な顔で頷き、晴美はきらきらと瞳を輝かせながら、二人を見守る。  
 
 
ちゅっちゅっ、と音を立てて、千里は絶棒にキスの雨を降らせる。  
片手でゆっくりと竿をしごきながら、先っちょや袋を軽く口に含んだりぺろぺろと舐める。  
焦らすようなその刺激は、快感ではあるが射精にまでは至らない。  
「っはぁ……はぁ」  
「せんせい……かわいい」  
息を荒げる望に見せつけるように、くにくにと絶棒をいじりながら舌を使って刺激する千里。  
教え子に好きなように操られているようで、望は、ばつが悪そうに少し困った顔を千里に向ける。  
そんな望に千里は笑顔を返すと、かぷりと絶棒を口いっぱいに咥えこんだ。  
たっぷりの唾液をすりこむように、千里は舌を使って望を悦ばせる。  
手はやわやわと望の袋をもみ、その中にある玉を指でころころと転がしている。  
 
「うっ……ん、木津さん!出ます、離して」  
だが、千里は首を横に振り、さらに深く絶棒を咥えて、動きを激しくする。  
「木津…さっ!?あっ……!ん……うう……」  
望は与えられる快感に陥落し、限界に達した。  
絶棒がびくびくと跳ねながら千里の口内で欲望を放つ。  
その感覚に千里はうっとりと目を細め、望の精液を飲み込んでいった。  
 
「はぁ……飲んじゃいましたぁ……えへへ」  
挑発するような笑顔で言う千里に、望はすっかりペースを握られてしまった。  
千里は、少し元気を失っている絶棒にそっと手をやって、こびりついた精液を舌で拭う。  
指で優しく撫でながら、舌で精液を舐めているうちに絶棒は再び硬さを取り戻していく。  
 
「ふふ……良かった。また元気になりましたね」  
綺麗になった絶棒をきゅっと握りながら言うと、千里は望の隣に寝転がった。  
望の顔を見上げながら千里がちょんちょん、と絶棒に触れる。  
「ほらぁ、せんせぇー」  
くすくす笑いながら、甘い声で望を誘う千里。  
望は頷くと、千里の股を開かせて、自身の先端を千里の秘部に触れさせた。  
 
「結構……キツい、ですね…」  
「うう…ん…」  
狭い膣内を少しずつ押し広げながら、望は千里の中へと入っていく。  
その苦しさに千里は強くシーツを握り締めて震える体を抑えていた。  
だが、少し進んだところで望が動きを止めた。  
「木津さん……今は、どうなんですか?」  
「今?」  
「私のこと、まだ……好いてくれてるんですか?」  
「先生?」  
「私だって……いくら昔の教え子に頼まれたからって……こんなこと、しませんよ」  
「……」  
「あなたは、私のクラスでも特に手のかかる生徒で、そういう子ほどってわけでもないですけど、  
 つい気にかけてしまう子で、ずっと……頭から離れなかったんです、卒業してからも……」  
「先生…」  
千里が望の背中に手を回して抱きついた。  
「いいんですか、いまさら……先生にそんなこと言っても……」  
「木津さん」  
ぐっと腰を深く突き入れると奥に挿し込まれた絶棒が、ぷつんっと何か薄い膜を突き破った。  
 
『へ?』  
二人ともないとは思っていたそれの感触に、千里と望は同時に間抜けな声を上げた。  
少し遅れて、強烈な痛みに襲われて千里が悲鳴を上げた。  
「いっっ〜〜〜!?」  
「え?え?なんですかこれぇ!?」  
「うっっ、ああっぁああ!?」  
「っ!?すいません、今抜きますから!」  
千里の中から自身を引き抜こうとする望だったが、望の背中に回されている千里の手がそれを止める。  
「動かないっっで……」  
抜く痛みにも耐えられない様子の千里に、望はとにかく動きを止め、千里が落ち着くのを待った。  
 
 
「魔法が――――解けた………」  
晴美が呟いた。  
モニターに映る二人は、既にいつもの二人に戻っている。  
強烈なショックによって元の状態に戻ったということなのだろう。  
だが、自己暗示にかかっていたために、意識できていなかった痛みが突然かつ一度に押し寄せ、  
千里はもちろん、望もまた動けなくなっていた。  
ぎゅっとこぶしを握りしめ、晴美は固唾を飲んで二人を見守る。  
 
 
少しずつ、ここに至るまでの記憶が整理されていく。  
とんでもない事態になってしまっていることに、望は大いに絶望した。  
こんなことをしてしまって、今度こそ殺されるかもしれない。  
逃げてしまいたい所だが、ボロボロと涙をこぼす千里を前にして、さすがにそんなマネはできない。  
さらにもうひとつ、千里の中の気持ちよさに腰を動かしたい衝動にも駆られているのだが……  
自身をぐっと抑え、望は震える千里を抱きしめる。  
 
 
「せんせい」  
少し落ち着いたようで、千里が震える声で望を呼んだ。  
「さっきの……本当なんですか?それともただの……」  
「え……」  
「私、私は……」  
 
 
「がんばれ……千里……」  
晴美が、モニターの向こうの千里に声援を送る。  
小さく震える千里の唇を見つめる晴美は、すっかり千里に入れ込んでしまっているようで、  
瞳に涙を浮かべながら、祈るように掌を合わせていた。  
 
 
「好きです……先生が、大好きです」  
ようやく千里が絞り出したその言葉に、望は何も答えず黙ったままだ。  
「先生?」  
望が返事をしないまま、時間だけが過ぎていく。  
「答えて……くれないんですか」  
千里の寂しげな呟きにも望は黙ったままだ。  
その沈黙に耐えられなくなった千里が、ぐっと腰を動かして絶棒を自身の奥へと導いていく。  
「っくぅ……った」  
「やめなさい、痛いんでしょう?」  
痛みに耐えながら、望と深く繋がろうとする千里を止め、今度は望が腰を引いた。  
 
「あ……ああ……う、ううわあぁぁ…」  
望に拒絶されて、千里は涙を流した。  
全身から力が抜けて、ベッドに沈みこむ千里の中から絶棒が引き抜かれていく。  
だが入り口付近でその動きを止め、今度は奥に少し、そしてまた戻り、と前後に動き出した。  
「え?あ……あぁ…ん」  
「ここも痛いですか?」  
目を見つめて尋ねる望に、千里はふるふると首を振った。  
 
「あ……すご……千里の中で先生のが…」  
ぽーっと、まるで夢の中にいるかのようなふわふわとした心地で晴美が言う。  
そんな晴美の頬にちょん、と可符香が軽いキスをした。  
思わず、びくんと跳ねるように反応してしまう。  
「っぁ!?え?え?どうしたの?」  
「藤吉さんこそどうしたの?真っ赤な顔しちゃって……限界なんじゃない?」  
「なにが……っちょ!?」  
晴美のふとももをさすって、可符香の手が晴美の下着に触れる。  
「ほら、濡れてる。でも、仕方ないよね。千里ちゃんがえっちしてる所なんて見ちゃったんだし。  
 というか……さっき、私が離れてた間に触ってたでしょ?」  
「やっぁぁ……」  
「がまんしなくていいよ。私も手伝ってあげるから」  
すりすり、と下着越しに晴美の秘部を刺激する。  
力の抜けた晴美を床に寝転ばせて、スカートをめくり上げた。  
「あ、千里ちゃんの方見たままでいいからね」  
「だめ……え」  
力ない抗議は無視して、可符香が晴美の下着に手をかけた。  
 
幾度も動き続けるうちに、望から与えられる刺激が確かな快感へと変わっていく。  
ずちゅずちゅと水音も次第に激しくなり、千里も甘い声を漏らし始めた。  
千里の様子を確認しながら、望が絶棒を少しずつ奥へと進ませていく。  
「んっ…せん……せ」  
「私も、あなたのこと……好きですよ」  
望が千里の耳元で囁いた。  
きゅーんとお腹の奥が締め付けられるような感覚を覚える千里。  
ぽろぽろと涙をこぼしながら、望に強く抱きつく。  
「先生、お願い!もっと、もっと…………あっ……あ」  
さらに深く、絶棒が千里の中を進み、ついにその先端が最奥に辿りついた。  
一番深い場所と軽くキスをすると、また前後に動き千里の中をかき回す。  
すさまじい快感と幸福感、痛みの中にも望を感じることが出来て、それが千里にはたまらなく嬉しい。  
 
「あっ……あっ……あっ!せんせ……私、イッちゃ……う?」  
「私も……限界です。ほら、一緒に」  
「うん。うんっ……」  
そして二人は同時に昇り果てる。  
自身の中に精液を流し込まれる感覚に酔いしれながら、千里はがくがくと全身を痙攣させていた。  
 
(まったく、何がもう大人ですから……なんですか)  
望が心中で毒づいた。  
望の胸に顔をうずめて甘える千里には、少し前までの大胆に望を誘っていた彼女の面影などなく、  
年相応に、もしくはそれ以上に子供っぽい。  
 
千里の頬に手を当てて撫でると、千里はとろんと惚けた目で望を見つめた。  
望が指を伸ばして、千里の唇に触れ、ふにふにといじってみる。  
この小さな唇に肉棒を咥えられて、いいように遊ばれていた、ということが信じられない。  
不意に千里が口を開き、はむっと望の指を咥えた。  
「あ、ちょっ」  
「?」  
こういうことじゃなかったんですか?と、指を咥えたまま千里が小首を傾げた。  
(う……かわいいじゃないですか)  
望は千里の頭をくしゃくしゃと撫でると、指で千里の舌に触れる。  
千里は、ん、と小さな声を上げてちゅうちゅうと望の指を吸った。  
 
「はぁ…………23歳で結婚、でしたよね」  
望の指を咥えたまま、千里はきょとんとした顔で望を見る。  
「ちゃんとそれまで……私のこと、好きでいてくださいよ」  
ぱちぱちと目を瞬かせた後、千里の顔がだらしなく緩んだ。  
千里は、こく、と小さく頷くと、指から口を離して、望に抱きついた。  
 
 
「良かったね、千里…………私も…もらわれちゃったぁ……」  
モニターの向こうで幸せそうに抱き合う二人を見ながら甘ったるい声で呟く晴美。  
そんな晴美を後ろから抱きしめている可符香は、心底楽しそうに笑っていた。  
 

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