「ツインテールが好きだっ!!」
「髪留めのボンボンが可愛いっ!!」
「ちっちゃい手の平がたまんねえっ!!」
それぞれが芽留に対して魅力を感じる部分を主張して、より細分化された小さなファンクラブに分かれてしまったのだ。
まあ、芽留を溺愛する事にかけては他の追随を許さない芽留パパにかかれば
「全部っ!!!」
とばかりにそんな細かな違いの壁など全てぶち抜かれてしまうのだったけれど……。
【……なんでこうなるんだろうな?前に次回からオレが成長するってデマが流れたときも凄かったし……】
目の前で繰り広げられる、めるめるファンクラブ+芽留パパによる乱痴気騒ぎを、芽留は呆然と眺める。
「人気者は辛いな」
【うるせー、キモオタ!!!……ていうか、いつの間にファンクラブなんて出来たんだ?】
隣に控えていたわたるの余計な一言に言い返しつつも、芽留の口からはため息が一つ。
「……まあ、お前のクラスには、こういう事を誘導して楽しみそうなヤツもいるけど…」
わたるの脳裏に浮かんだのは、黄色いクロスの髪留めがトレードマークの例のポジティブ少女だったが
「たぶん、こいつらが勝手に始めた可能性の方が遥かに高いな。残念だが……」
芽留の一部層へのアピール力の強さは以前からのものだった。
こんな団体が結成されてしまうのも時間の問題だったのかもしれない。
【なんで当のオレの意思を無視して、勝手にファンクラブなんて始めちまうんだよぉ……】
「やめろって言ってもやめるような連中には見えないし、諦めるしかないな……」
ガックリと肩を落とした芽留の背中を、わたるは慰めるようにポンポンと叩いてやる。
その後しばらく、うなだれたままの芽留だったが、ふと何かを思いついて顔を上げ、わたるにこう質問した。
【んじゃあ、オマエはオレのどこが好きなんだよ?】
「んな……っ!?」
その発言に、わたるはしばし固まってしまう。
まずはわたるのそんな反応を期待していた芽留は意地悪な笑いを顔に浮かべて、もう一度尋ねる。
【どうなんだ?早く答えろよ?】
実際、それは芽留にとって興味のある事でもあった。
芽留パパのように、「全部」と言い切ってしまうのも一つの言い方ではあるが、
その相手の全ての部分を気に入っているとしても、「特にここが好き」というポイントはあるだろう。
わたるが一体自分をどんな目で見ているのか、芽留はそれが知りたかった。
それを、こういうタイミングで茶化したようにしか聞けないあたりは、いかにも芽留らしい発言だった。
だが、強情でひねくれ者な事ではわたるも負けてはいない。
「コイツ…そんな事を、今この場所でか……!?」
うめきつつも、わたるは芽留とそっくりの意地悪な笑顔を顔に浮かべ、こう答えた。
「そうだな。まずはその生意気で態度がデカイあたりが好きだな」
【なっ!?】
「ついでに言うと、とんでもなく口が悪いのもたまらなく好きだぞ」
反撃成功。
ニヤリと笑うわたるを、芽留はむーっと睨みつける。
このまま、コイツの言わせたいようにしてなるものか!!
【そうか……なら今度はオレの番だな…。オマエの脂肪だらけの体とその目つきの悪さには惚れ惚れしてるぜ】
「ほう、それはそれは嬉しい話だな」
【いやいや、オレの方こそオマエの話に照れちまったぜ】
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
二人の間で無言のプレッシャーがぶつかり合う。
まあ、毎度憎まれ口を叩き合っている二人には、ありがちなパターンだった。
この後は、そのまま喧嘩へとなだれ込むのがお決まりだったが、しかし、今回は少し違った。
【このヤロー】
「なんだとぉ……って、ん?」
何かに気付いたように、わたるが表情を変えた。
そして、
「そうか。そうだな。確かに好きだな……」
急にそんな事を言って、楽しそうに、嬉しそうに笑い出した。
【お、おい…いきなり何言って!?何の事だよ?】
「何って、さっきから話してるだろ?お前の好きなところの話だよ」
わたるはしゃがみ込んで、芽留にぐいっと顔を近づけた。
「生意気で態度がデカイところが好きだ。とんでもなく口が悪い所も好きだ……」
【な、な、な、何だよ、ソレ!!?】
先ほどと同じ言葉を、先ほどのからかうような調子とは違う、優しげな口調でわたるは言った。
「つまり、そういうお前が本当に、心の底から好きなんだよ、俺は……」
【えっ!?あ…うぅ……それ、なんかズルイ……】
時々腹を立てたり、さっきのように喧嘩もする、でも、それを含めた音無芽留と過ごす時間が、わたるは好きなのだ。
良いも悪いもなく、そういう芽留をわたるは愛していた。
「で、今度はこっちから聞くんだが……デブで目つきの悪い俺の事、お前はどう思ってる?」
【そ、それは………】
芽留はわたるからのその問いにしばし逡巡したが、
【もちろん、好きに決まってるだろ!わたるっ!!】
最後にははっきりと、そう答えたのだった。