どうも先ほどから手足に受ける奇妙な感触に、まぶたは閉じたまま少しうるさそうに眉をしかめて首をよじってみる。  
寝苦しさとともに何とも言えない不快な感じを受け、半分ほど目が覚めかけているようだった。  
重いまぶたをゆっくり持ち上げてみると、そこから入ってくる光とともに目の前の映像が瞳の中へと映り込んでくる。  
宿直室の風景はいつもと変わらない。ただ、視界の中で自分の足元付近にいる少年の動きが気になり、意識が次第に覚醒してゆく。  
彼の表情は良く分かっている。あれは悪戯をしている時の物だ。  
悪い事と分かっていながら内緒で何かをしようとしている表情だった。  
先生と同じように、良くも悪くも正直な彼は、表情に出てしまう事をまだ隠しきれない。  
 
「交くん、何してるの……?」  
唐突に、だが、出来るだけやんわりとした口調で交に話しかけた。  
その声に、一瞬だけギクリと体を震わせるが、交は口を閉じたまま立ち上がり、無言で寝転がる霧を見下ろしている。  
いつもなら、霧が何も聞かないうちから言い訳の一つや二つ飛び出して、そのまま御免なさいとなって行くのだが、  
交の様子から何か異変を感じたのか、霧は完全に目を開いてまだ少し残っている睡魔を隅に押しやりながらもう一度口を開く。  
「……交くん?」  
やや口調を堅くして尋ね、同時に起き上がろうとするのだが、どういうわけか思うように体が動かず、霧はようやく自分に起きている異変を自覚し始める。  
常に包まっているはずの毛布はどこにもなく、最近はもうすっかり楽な服装でいる事が多くなった事もあり、  
タンクトップ一枚と下着のみという油断しきった格好を交の前にさらけ出してしまっていた。  
それだけならまだしも、どうにも手足が動かない状態を目で追うと、霧の腕は真上にバンザイをするように伸ばした状態で、  
手首をタオルか何かで結ばれてしまっており、その先は、位置からしておそらくテレビの足か何かに結わえ付けられているようだった。  
とっさに毛布を探して包まろうとしたようだったが、それが出来ない事を悟り、霧は顔を赤く染めながらも少し怒った表情を交に見せる。  
「交くん…! なんのイタズラなの!? やめてよ!」  
それまで無言で佇んでいた交だったが、自分を睨む霧の方へゆっくりと向き直り、ぼそりと呟いた。  
「……霧ねーちゃんが悪いんだ」  
「……? 何の事…?」  
交の口から飛び出した思ってもみない言葉に、霧は戸惑いの表情で無意識に首を小さくかしげる。  
「だって、霧ねーちゃんは……」  
交は両手のこぶしをにぎりしめ、それを震わせて続けていた。  
霧は交の意思を量りかねているのだろう。戸惑いの表情で次の言葉を待っている。  
「…このままじゃ、叔父さんのものになっちゃうんだろ……!?」  
目を見開いて一息にそう告げると、呆然としている霧に向かい堰を切ったように喋り始める。  
「そうだろ!? なんだかんだ言って、叔父さんが一番信用してて頼ってるのは霧ねーちゃんだろ!  
ほとんど毎日一緒に暮らしてて、料理も洗濯も全部やって、そんな霧ねーちゃんを叔父さんが嫌なわけないだろ……!   
絶対…… ねーちゃんは叔父さんの霧ねーちゃんになっちゃうんだよ……」  
「交くん……」  
少々頬を赤らめながら、霧は困った顔で視線をそらしてしまう。  
「……大人って …好きな大人同士って『えっち』をするんだろ? ねーちゃんと叔父さんもそのうちしちゃうんだろ…!?」  
「ま、交くん…!? 何言ってるのよ!」  
抑揚もなくただ淡々と告げられた単語だけに、かえって意識してしまったのか霧は焦った声を上げるが、  
どう説明すればいいのか言葉を選べないでいるようだった。  
「オレ、そんなの嫌だからな! 霧ねーちゃんが取られちゃうなんてやだからな!   
だから… だから…… オレが先にねーちゃんと『えっち』して、ねーちゃんをオレの霧ねーちゃんにするんだ!」  
「そ、そ、そんな… 事……! 交くんには、まだ……!」  
「できるよ!」  
完全に真っ赤になって目を見開いている霧の前に交は顔を近づけ、言い放った。  
「オレだってできるんだよ! 子ども扱いするなよ!」  
怒りの色を含んだ瞳で霧を見据えたまま、交の手がタンクトップの裾を掴む。  
「あ!?」  
交が何をしようとしているのかを察した霧が身をよじるが、交は両手で裾を握り締め、強引にそれを捲り上げて行く。  
両手が使えない状態では大して抵抗もできず、すぐに霧の白い腹部が見え、浮き上がった肋骨の辺りまで晒される。  
 
たくしあげた裾に引っかかっているらしい霧の膨らみは、交の目の前で白い二つの塊となってその下部だけを見せている状態になっていた。  
交の喉がごくりとなり、まくった服をほんの気持ちだけ上にずらすと、隠れていた先端が現れて、  
二つの膨らみは柔らかそうに揺れながら元の状態に戻ってゆく。  
「や……」  
眉をしかめて顔を赤くしながら、霧の口から細く声が漏れた。  
呆然とした顔で、揺れる膨らみを目で追っていた交だったが、やがて視線はそれに釘付けになったままゆっくりと両手を差し出してゆく。  
「…霧ねーちゃんの……」  
紅潮させた顔に真剣な表情を浮かべて、滑らかな霧の肌に触れ、ふわりと軽く揉んでみる。  
「…う……」  
「…わ、わ、わ…… すっげー柔らけーんだ……」  
胸の膨らみをまじまじと見つめながら、その感触に魅入られたように揉み続ける交の姿に霧はぐっと唇を噛んで目をそらした。  
「……先生にも見せた事なかったのに」  
一瞬びっくりした様子で交は慌てて手を離し、窺うような視線で霧の顔を見つめる。  
よそを向いたままの霧の顔と、目の前にある二つのふくらみを見比べていたが、  
やがて意を決したのか、膨らみの片方を両手で包み込むように掴んだ。  
霧のそれは小柄な体格に反して、  
交の小さな両手ではとても包みきれない大きさを持っており、仰向けになった状態でもそれほど形が流れていない。  
「……?」  
訝しげに目だけで交の様子を窺う霧と一瞬目が合うが、すぐに目をそらして交はおもむろに両手で持った膨らみの先端部を口に含み唇で軽く吸い上げる。  
「は……っ… ん……!」  
微かに痛みを併せた刺激を与えられ、霧は思わず目を閉じて細く声を上げてしまった。  
交は一瞬不思議そうな顔をして霧を見たが、すぐに顔を伏せ、固く立ってきた先端部を含んだまま、小さな音を立てて何度も吸い上げている。  
最初は性感にも似た感覚を覚えてしまった霧だったが、舐めるわけでもなく、ただ無心にそれを吸い続ける交の単調な動作に次第に刺激は薄れていった。  
 
目を閉じ、無意識なのか時折膨らみを両手で押す動作を加える交の様子に、霧の口元に微笑が浮かぶ。  
──まだ、覚えてるのかな?  
思わずその頭を撫でたい衝動に駆られたが、両手が動かせない事を思い出して口元の笑みが苦笑に変わる。  
出るわけでもないのに一心に吸い続けている交の安心しきった表情に、霧の喉から無意識に声が漏れた。  
「……可愛い」  
ぽつりと言ったその言葉に反応したのか、交は目を開け霧の顔を見る。  
目が合った途端、交はふくらみから口を離して立ち上がり、口元を袖でぬぐってみせた。  
「……怒った?」  
困った表情で笑いながら訪ねる霧には答えず、交は不機嫌そうな顔で少し後ずさり、霧の腰に手をやってスパッツに指をかける。  
「あっ!?」  
慌てて脚を閉じて脱がされそうになるスパッツを押さえるが、引っ張り続ける交の手により少しずつ少しずつ足の付け根から腿へ、  
腿から膝へと剥かれてゆき、やがて膝を通った所で一気に引き抜かれ、霧は白い小さな下着一枚の姿となってしまった。  
続け様に、残った下着も脱がそうと手を伸ばす交に、霧は慌てて首を振って制止の声を上げる。  
「…まっ、待って交くん! 恥ずかしいから、そこは脱がさないでよ!」  
霧の声に交は動きを止め、きょとんとした顔になる。  
「なに言ってんだよ。脱がないとえっちできないだろ?」  
「…できるよ ……ずらしたりとかすれば ……そういえば交くん、どうやってするのかはホントに知ってるの?」  
「それくらいしってるよ! 男の人のちんちんを──」  
交は憤慨した顔で自分の股間を指差し、続いて霧の両膝に手をかけて勢い良く脚を開かせる。  
「やっ……!」  
「女の人のここに──」  
声と同時に人差し指で、下着に覆われたままの霧の秘所を指し示す。  
「こうして入れると……」  
説明する交の指先が下着の上からちょうど亀裂のある場所に触れ、柔らかい感触の中に交の指先が軽く沈む。  
一瞬、秘所から背中に走った快感に、霧は体を小さく震わせて細い鼻声を漏らしてしまう。  
「き…… 気持ちよくなるん、だろ?」  
最後は少し自信なさげに告げ、指先で数回霧の敏感な部分を突っついた。  
 
「やはっ! ……んっ…!」  
我慢しきれず脚をビクつかせながら嬌声を上げた霧に、交はびっくりした様子で霧と自分の指先を見比べる。  
「…霧ねーちゃん。もしかして…… 気持ちいーのか?」  
「そ、それは……」  
困惑した表情で答えようとした霧は言葉に詰まり、一瞬考えて、やがて目をそらしながらぽつりと呟いた。  
「……ちょっとだけ」  
「やっぱ、そうなんだ!」  
嬉しそうな声を上げると、交は指で霧の入り口をかき回すような動きをし、下着の上から柔らかい霧の秘所を弄り回してゆく。  
「やんっ!? あっ…! あ…… ふ……っ!? ま、交くん… 乱暴なのはやだ! もっとそっとして……!」  
「あ…! うん……」  
交は素直に指の動きを止め、今度はゆっくりと撫で回すように霧のそこに手を這わしている。  
優しく動き回る手の感触に、霧は甘い声を交えた吐息を漏らし、恥ずかしそうに顔を赤くしながらもその瞳は次第にとろんと潤んでくる。  
やがて交の手が撫で続けている霧のそこの感触が微妙に変わり、交が軽く指を立てると少し湿り気を含んだ音を立てるようになっていた。  
「……あのさ…… 霧ねーちゃん、漏らしちゃった…… のか?」  
「ちっ……!! ちがうよっ! ……これは、その……」  
反射的に叫んで否定しながらも、霧は何と説明していいのか言いよどんでしまう。  
口篭ったままの霧に、交は何かを思い出したのか、短く「あ!」と声をあげて霧の秘所から手を下げた。  
「知ってるぞ! 確か、準備オッケーだとこうなるって言ってた!」  
「…交くん、どこでそんな事覚えてくるの?」  
赤い顔のまま眉をしかめて尋ねる霧には答えず、交はその場に立ち上がると霧を見下ろす形でその顔をじっと見つめる。  
「…霧ねーちゃん ……いいよな?」  
「え…!? え……っ?」  
あたふたと視線を泳がせながら、霧は袴を履いたままの交の股間を視界の端でそっと確認する。  
どう控え目に見ても、大人と同じように性行為できる男性器がそこにあるようには見えない。  
霧の頭の中で疑問と戸惑いが交互に渦巻き、何度も交のそれがある場所に目を向けてしまい、そのたびに赤くなりながら視線を外して考え込む。  
「……う……うん… そうだね……」  
なんとも曖昧な返事を返す霧だったが、それでも交には了承の意に取れたのだろう。その顔が一瞬で嬉しそうに輝く。  
「お…… おう! ちょっとまってて!」  
踵を返し、部屋の隅でなにやらごそごそとしている気配が伝わってくる。  
 
霧は苦笑しながらも、膨らんだ好奇心で頭の中が一杯になり、交が戻ってくるのをじっとまっていた。  
「……もし、できなかったら、諦めてくれるよね……?」  
「できるよ! そのために準備してきたんだからさ!」  
「……準備?」  
首をかしげた霧の視界に、準備とやらが出来たのだろうか、立ち上がった交の背中が見える。  
特に着替えた様子もなく、下も相変わらずの袴姿のままで何も変わった様子はない。  
だが、交がゆっくりと振り向いて自分の方へと歩み寄って来る姿を見た時、霧の表情は驚きと恐怖で凍りついてしまった。  
袴の上から一見して海水パンツのような物をつけているように見える。  
しかし特筆すべきは、そのパンツ状の物の前面に、一目で男性器を模したものだと分かる塊が据え付けられている事だった。  
「ぺ……ペニス、バン……ド……!?」  
霧の頭の中で、以前ネットショップでチラリと見た記憶が呼び出され、瞬時にそれが何をするための物かを理解する。  
「そんな物、何で持ってるの……!?」  
「…えすしー室、だっけ? あそこの戸棚の中で見つけたんだ。」  
気軽な口調で答えながら交は霧の足元にしゃがみ込み、反射的に閉じてしまった霧の両足を開こうと、膝に手をかける。  
「…や、止めよっ…! 交くん! こんなの止めようっ! お願い!」  
「なんだよ…… さっき、霧ねーちゃん『うん』って言ってたぞ!」  
「……あ! それは、その……」  
交の言葉に戸惑った霧はそれで脚への注意がそれたのか、交の手によって両開きの戸を開けるように一息に開かれてしまう。  
間髪いれず、交は膝立ちのまま両腿の内側へと進み、片手を霧の秘所を覆っている部分の布切れに手をかける。  
「やめて! 待って、交君っ!!」  
「……やめねーからな。だって、やめたら、霧ねーちゃんを取られちゃうだろ。…オレの霧ねーちゃんじゃ無くなっちゃうんだろ。」  
 
「そんなこと……ない、から…」  
否定しながらも、見開いていた霧の大きな瞳が揺れ、小さくなった語尾と同時に目を伏せてしまう。  
交は眉をしかめ一瞬だけ泣きそうな表情を見せるが、すぐに先ほどと同じ不機嫌な顔に戻り、自分の陰部にある男性器を模した塊を霧の秘所へと誘導する。  
「…見ないようにすれば、ねーちゃんは恥ずかしくないんだよな?」  
言うと同時に交は目を閉じ、手探りで器用に霧の下着をずらしながら、剥き出されたその秘所に樹脂で作られたグロテスクな塊を無造作に押し当てる。  
今まで、自分の指以外は触れたことの無い場所に、ひやりと冷たく固い無機質な塊を押し付けられ、堪えていた恐怖心が霧の中から一気に吹き出した。  
「…やめて! やめて! いやぁ…! こんなのいやぁ! 初めては、先生と… 先生と……っ!」  
激しく首を振って暴れながら懇願する霧の声に交の顔色が変わり、小さく唇を震わせながら躊躇しているようにも見えるが、  
すぐに思い切ったのか、無情にも腰をゆっくり突き出して、その塊を霧の中へと埋め込もうとしてゆく。  
先ほどの行為でまだ濡れたままだった霧の秘所へと塊の先端が吸い付き、まだ幼い形の割れ目を左右に開き始める。  
自分の大事な部分がこじ開けられようとしている事を悟ると、  
霧は暴れるのを止めてしまい、いつの間にか涙で溢れてしまっている瞳を閉じて小さく嗚咽混じりの声を漏らした。  
「……せんせい、ごめんね…… 私、先生にあげられない……」  
観念した様子で目を閉じて、予測される喪失の痛みに耐えようと歯を食いしばり、貫かれる衝撃を待ち構える。  
 
「……ご…… …めん……」  
すぐに自分の中へと入り込んでくるだろうと思っていたのだが、しばらく経ってもその様子は無く、霧の耳には今にも消えてしまいそうな交の声が届いた。  
目を開けてみると、交はすでに霧の脚の間から離れており、半ばむしり取るように、履いていたパンツ状のそれを外して部屋の隅へと放る。  
「交くん……」  
目を真っ赤にして涙ぐみながら、交は急いで霧の手首を拘束してある布切れに飛びつき、焦りから震える手元でそれを解いてゆく。  
「ごめん…! ごめん…! ごめん……!」  
拘束を解かれ、両手が自由になると霧は上体を起こして少し赤くなってしまった手首をさする。  
その背中に、ふわりといつもの毛布が掛けられた。  
「交くん?」  
「ごめん! 霧ねーちゃん、ほんとにごめん…!」  
背中の毛布ごしに交の謝罪の叫びが聞こえ、そのまま霧の横を通って走り去って行こうとする小さな足音が聞こえた。  
「! まって、交くん!」  
とっさに手を伸ばし、目の前を逃げようとした交の足首を掴むと、勢い余って交は前のめりに畳の上に倒れてしまった。  
 
「…ごめん ……ごめん ……ごめん……」  
交は、うつ伏せに転んだ姿勢のまま小刻みに肩を震わせて、涙ぐみながら必死に謝り続けている。  
足首を掴んでいた手を離し、その手を交の背中に伸ばして軽くぽんぽんと叩くと、霧は短く苦笑を漏らして口を開く。  
「……怒ったりしないよ。だから、逃げる事ないよ」  
落ち着いた声でそう言うと、それまで休みなく謝罪の言葉を続けていた交が言葉を切り、僅かに顔を振り向かせて霧の方を伺う。  
「……で …でも、ほんとは怒ってるだろ? あんな事して……」  
「んー……」  
霧は一瞬考え込むように目をそらし、首を大きくかしげてみせる。  
やがて考えがまとまったのか、交へ視線を戻すとやや真剣な面持ちとなった。  
「ちょっと、怒ってるかな? ……でも、交くんの気持ちはとても嬉しかったから。だから、怒りたくはないな」  
肩をすくめて微笑みながら交の頭に手を伸ばし、その髪の毛を指でくしゃくしゃとかき回してみせる。  
それで少し落ち着きを取り戻したようで、交は目尻に涙を溜めたまま起き上がり、やや乱暴にそれを袖でぬぐいとる。  
「霧ねーちゃん……」  
「…でも、自分が、悪い事をしたのは分かってるよね? ……悪い事した子にはお仕置きなんだよ。それは分かるよね?」  
ちょっとだけ怖い顔を見せて交の目を覗き込んだ霧に、交は息を呑んで頷き、神妙な顔でその場に正座をする。  
膝の上で拳を握り締めてうなだれる交に、霧はクスッと一つ笑うと、もう一度その頭を軽くなでた。  
「そんなに怖いことしないよ。ちょっとそのまままってて…」  
毛布を羽織りなおしながら立ち上がった霧は、交に背を向けると何やら毛布の内側でごそごそと動いているようだった。  
 
やがて軽い布すれの音と共に、霧の足元に今まで着けていたタンクトップが落ちてきた。  
 
一瞬目を見開き、慌てて逸らしながらも横目でチラチラと伺う交も目の前で、霧は片足ずつ交互に上げると、つま先から下着を抜き取り脱いだ服の上に乗せる。  
すとんと腰をおろし、まとめた服を隅に押しやると、半身をよじりながら振り向いて交に声をかけた。  
「……いいよ交くん。こっち来て…… 服は脱いでね」  
口元に薄く笑みを浮かべて指示する霧の声に、交は一瞬びくっと体を震わせるが、やがて真剣な顔で立ち上がって服を脱ぎ始める。  
横目でこちらを見続ける霧の視線に、やや居心地が悪そうにぎくしゃくと着ている物を脱ぎ去ってゆき、  
やがて下着まですべて取り払うと、両手で前を隠しながら霧の方へと一歩踏み出した。  
「…隠しちゃだめだよ」  
ぼそりとした霧の低い声に一瞬硬直してしまった交だったが、やがて観念したのか前を覆っていた手をおずおずと退けてみせる。  
霧の表情は変わらないが、交にはその頬が僅かに赤くなっているように見えた。  
次の瞬間、毛布の中から伸びた霧の白い手が交の体に絡みつくように回され、あっという間に毛布の中へとその小さな体を引っ張り込んでしまった。  
そのまま頭から毛布をかぶって前を閉じたのだろう。  
完全に暗闇となったその中で、交は霧の両腕の中にしっかりと抱えられていた。  
突然の事に言葉を無くしている交の顔に霧の両手が回され、すこし冷たい手に両頬を挟まれる。  
「……交くん ……私の事、好き?」  
「うん……! すきだよ」  
間髪いれず答えた交に、霧は少し苦笑を含みながらも嬉しそうな笑い声を漏らす。  
「でも、さっきのは酷かったよ。…もう、あんなの嫌だよ」  
「ご、ごめん!  もう絶対しない! 約束する…!!」  
必死な声で答える交に、霧は満足そうに触れたその頬を両手で撫でながら、少し声のトーンを落として口を開いた。  
「…あのね。交くんの欲しかった『初めて』をあげることは出来ないけど… その替わり、他の『初めて』の事を、交くんにあげる。……絶対に秘密に出来る?」  
「……できる! 絶対ヒミツにする!」  
毛布に包まれた暗闇の中で、自分と向かい合っているはずの霧に、力強い声で交は答えてみせる。  
霧の顔は見えず、どんな表情をしているのかは分からない。  
が、すぐ間近から感じられるその吐息がすこし熱く荒くなって、交の額にかかってきているように感じられた。  
頬にあった霧の両手が離れ、交の両肩にそっと添えられる。  
「ふふ…… じゃあ…… ちょっとだけ、大人にしてあげるね……」  
一瞬だけ喉の奥からくぐもった笑い声を漏らし、霧の口が交の耳たぶに触れる。  
「ひゃあ!?」  
「くすぐったい? …でも、動いちゃ駄目だよ」  
その言葉に無言で頷いて答えた交の耳を口に含み、軽く噛みながらゆっくりと舌を這わせた。  
動かないよう我慢しているらしく、全身を小刻みに震わせている交の耳たぶからゆっくりと首筋へ唇を動かし、舌先を尖らせて何度もうなじをなぞってみせる。  
ふと、ひやりとした感触の霧の手が交の性器に触れ、交はびくりと体を跳ねさせると、霧の手首を両手で掴み引き離そうと力を込める。  
「…だめだよ?」  
耳元で囁かれ、交は一瞬硬直すると、渋々といった感じで霧の手首を離した。  
「ふふふ……」  
嬉しそうな声を漏らしながら、霧の手が、その掌に納まってしまいそうなサイズのそれをぐりゅぐりゅと揉むようにして弄り続ける。  
霧の唇が交の肩や腕、それに胸などを動物が毛繕いするように丹念に舌を這わせ、交のものを時にはつまんだり、指の間に挟んだり、擦ったりしながら弄ってゆく。  
「んー…… さすがにまだ気持ちよくはならないかな……?」  
残念そうな響きの霧の声に、交はやや眉をしかめながら考え考え答えてみせる。  
「よ……く、わからないけど…… くすぐったくて、時々むずむずする感じがする。…でも、霧ねーちゃんの手は冷やっこくて柔らかくて気持ちいいぞ?」  
交の言葉に霧はくすくすと喉の奥で笑ってみせ、いきなり交の背中に手を回して抱きかかえると、ゆっくりと床に体を倒して交の上に覆いかぶさった。  
すこし毛布がずれ、霧の紅潮した顔と、ゆらゆらと揺れる光を持った大きな瞳が見えた。  
霧は交の性器を撫で続けながら、少しずつその真上に来るよう体を移動させてゆく。  
「…交くん。大人はね。……お口でもえっちするんだよ。知ってる?」  
「え? え?」  
戸惑う交に、霧は悪戯っぽく笑みを浮かべてみせた。  
「お口…… 交くんが初めての人だよ」  
もう一度、今度は恥ずかしそうな笑みを投げかけ、霧はそのまま交の性器を唇で咥えてしまった。  
 
目を見開く交の視界の中で、霧の口の中へとその幼い性器が含まれてゆき、温かい口中で柔らかな舌が絡み付いてくる。  
困惑した表情のまま、それでも食い入るようにその光景を見つめる交の顔を上目使いで伺いながら、  
霧は口に含んだ交の性器を舌で転がしたり、唇で吸い上げたりと、ややうっとりした表情になりながら愛撫し続ける。  
 
やがて口淫を続けていた霧が口を離して顔を上げ、唇を自分の唾液で光らせたまま熱っぽい表情で交の顔を見る。  
「…ねえ、交くん。私の大事な場所…… もっとちゃんと見たい…?」  
「……みたい」  
顔を真っ赤にして答えた交に嬉しそうな笑みを返し、霧は顔の位置は変えないまま体だけ動かして、交の顔の上に自分の陰部がくるように跨ってきた。  
「見える……?」  
「み、みみ、見える……!」  
目の前に晒された一本の筋のようにも見える霧の秘所は、もう大分湿り気を帯びており、交は興奮した表情でその場所に目が釘付けとなってしまう。  
「いま、私が交くんにしてあげてるような事…… 交くんもしてくれる?」  
「うう、うん! いいよ!」  
どもりながらうわずった声で返事をして、交は恐る恐る目の前の秘所に舌を伸ばしてゆく。  
「……うん、やさしく…… そう、割れ目にそって動かして…… あ、ん……っ… 気持ちいいよ…   
…そのまま、ちょっとだけ舌先を差し込んで…… うん、上手…… あっ……! ん! うふぅ……っ!」  
霧は、目を細めて自分の秘所に与えられる刺激を感じながら、指と舌で交の性器の愛撫を再開する。  
「…次…… 割れ目のはじっこに、ぷっくりした小さな物あるよね……? それを…… 優しく剥き出して… 舌でなでなでしてあげて…… きゃ…ん……!?」  
言い終わらないうちに交の舌がそれを見つけたらしく、霧の体に何度も電流のように強い刺激が走った。  
「大丈夫…! そのまま続けて… んっ! んんんっ……! 交くん上手だよ…… とっても、気持ちいい… あっ! あんんっ!」  
もはや遠慮なく嬌声を上げながら、霧はうっとりとした表情で交の性器に目を落とし、その先端を指でつまんでみる。  
「…まだ…… 剥くのはちょっとキツいかな……?」  
包皮を指先で弄りながら、両手の指で皮の先端を掴み、中を覗き込むように小さく広げてみる。  
「きれい…… かわいい…… 交くんの……」  
蕩けそうな表情で呟きながら、細く縮めた舌先を性器を包む包皮の先端から差し込んでゆく。  
「…痛っ……!? き、霧ねーちゃん! なんか、じんじんして、ちょっと痛い!」  
「我慢して……! 続けて……!」  
ほとんど無意識にそう言って、霧は秘所に与えられる快感に時折喘ぎながら、  
包皮の中に舌を差し込み、その中にある幼い絶棒を求めるように何度もその上に舌を這わせる。  
苦しさからか、霧の秘所を愛撫する交の動きが次第に激しくなってゆき、霧は自分の頭の中に急速に真っ白い光が広がってゆく事を感じた。  
「…そのまま! 交くん…! そのままもっと激しく動いて!」  
言われるままに愛撫の動きを早めた交の性器を自分も夢中で味わうように口淫を続け、  
やがて霧の体が一瞬持ち上がるように軽くなり、その喉から声にならない嬌声が漏れ出した。  
びくびくと何度も体を震わせて絶頂を迎えた霧の手から力がぬけ、無意識のうちに握り締めていた交の性器がくたりと抜け落ちる。  
交に体をぐったりと預けたまま、余韻に浸るように霧の口からは長い吐息が何度も吐き出される音がしていた。  
 
 
 
「…今日のことは誰にも内緒だよ」  
「うん、わかってる」  
満ち足りた表情で壁にもたれて膝の上に交を抱えながら、霧はその頭を優しくなでていた。  
交は霧の胸に抱かれ、まだ少し照れが残った顔で柔らかいふくらみに顔を埋めている。  
二人を包む毛布の中で交がごそりとうごき、霧の顔を見上げた。  
「なあ、霧ねーちゃん」  
「ん?」  
「……どうすれば、霧ねーちゃんはオレを『好き』になってくれるのかな? …やっぱノゾムが好きだからダメなのか?」  
真剣な表情で尋ねられ、霧はちょっと困った顔で考えるように目で天井を仰ぐ。  
「…ん…… 今は、無理だけど…… 交くんがもう少し大きくなって、その時、先生よりも夢中にさせてくれたら……」  
「ホントか!? あ! でも、もう少しって……いつなんだ? それまで霧ねーちゃんは、まっててくれるのか?」  
一瞬表情を輝かせ、すぐに不安げに眉を下げた交に、霧は少し考えると微笑んで首を縦に振って見せた。  
「いいよ。……待つのには慣れてるから」  
交は今度こそ喜びの声を上げ、毛布から飛び出すと素早く着物を身にまといながら霧を振り返る。  
「やくそくだぞ! 絶対、待っててくれよ!」  
そういって部屋を飛び出そうとしたところで思い出したのか、  
部屋の隅に転がしたままだったペニスバンドを掴み、「返さなきゃ!」と呟きながら、霧に手を振って元気良く廊下へと走り出て行った。  
 
小さくなってゆく交の足音を聞きながら、霧は毛布の中から掌を出し、その指を何度も動かしながらじっと見つめている。  
やがて霧の口から苦笑が漏れ、交の去っていったドアの方へと視線を向けた。  
「……でも、……交くんの『好き』と、私の『好き』は…… きっと違うものなんだよ……」  
一瞬寂しそうな笑みを浮かべ、一度大きく広げた毛布の中に全身を包み、霧はそのまま目を閉じて横になった。  
 
 
「ノゾム!」  
廊下を歩いていた先生は名前を呼ばれて立ち止まり、声の主の方を振り返る。  
「…おや、交。どうし……」  
「オレ、負けないからな! 正々堂々だからな! いいか!?」  
「はあ?」  
訳が分からず首を傾げる先生の手に、交は持っていたものを押し付ける。  
「それ、返しといてくれよ。じゃあな!」  
一方的に言い放ち、踵を返して去って行く交の背中を見送りながら、先生は首を捻ったまま手渡された物を確認し、  
次の瞬間目を見開いてその場に硬直してしまう。  
「……っこ!? これ…… これは、なんでこんなものがあ!?」  
「先生!?」  
思わず悲鳴に近い声を上げたと同時に背中からかけられた声に、先生は真っ青になって凍りつく。  
振り返らなくても誰だかわかる。  
その声の主から向けられる視線はまさに絶対零度の凍気となって、刃物のように背中に刺さってくるようだった。  
「…誰と何をしてきたんですかぁっ!!」  
「そのポイントで怒るんですか!?」  
振り返った先生の視線の先には、全身に怒りの炎をまといながらスコップを構える少女の姿があった。  
「…ぜ 絶望した! 身に覚えのない事でも即日処刑を行ってくる女学生に絶望し──」  
問答無用で振るわれたスコップの唸る音と、続けて何やら鈍い音がし、校舎中に先生の悲鳴が長く響き渡っていった。  
 
 
 
 
 

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