誰かがわたしを呼んでいる。
「……さん、日塔さん」
誰だっけ。
「…ダメだな、完全にオチてる」
ため息。椅子を引く音。そして本を開く音。
それから声はぱたりと止んで、わたしの寝息とたまにページを繰る静かな音。
いくらか浅い眠りについていた。
「やっと起きたの」
目の前で笑むクラスメイト。
「…久藤くん」
背中が熱い。夏の陽射しはずいぶんだ。
ぼんやりとした頭で時計を覗く。午後三時。驚いてがばりと起き上がった。
「普通にうっかり寝過ごした?」
ハハッと声を立てる。
「ふつうって言うなあ! どうしよう、千里ちゃんと待ち合わせしてたのにっ」
「それは大変だね。相手はあの木津さんだ」
「埋められる! いやぁぁっ」
取り乱すわたし。久藤くんは穏やかなまま。
「今からでも行くべきだよねっ。もう一時間も経ってるけど大丈夫だよねっ」
「一時間…。それはタダじゃ済まないんじゃ」
「いやぁぁ」
「とりあえず連絡取ってみなよ」
久藤くんが諭すように言った。
冷静さを失っていてこんなことも忘れてた。
「あ、う・うん!」
あわてて携帯の着信を確認する。
「どうだった?」
「…なんか千里ちゃん先生を追っかけまわしてるみたい。
知らない女の人と話してるのを見かけたとかで…」
「そ、そう。なら約束の方は大丈夫そうだね」
「だといいなぁ…」
ほっとして、とたん恥ずかしくなる。
そしてとっくに図書室は閉館時間を過ぎていることに気付いた。
そういえば久藤くんは図書委員だ。そうか、じゃあ…。
「あはは…いろいろごめんね久藤くん。わたしが寝てたからずっと…」
「気にしなくていいよ。中間考査が終わって疲れが出たんだろうし」
久藤くんの優しさにじーんとした。
「それに女の子と図書室にふたりきりなんて、美しい青春のひとコマだよ」
「へっ!?」
「なんてね。最近少女漫画に凝ってるんだ」
無駄にあせって我ながらバカだよなぁと思った。
「ふーん…じゃ、じゃあ遅くまでありがとう! バイバイ!」
奈美「少女漫画かぁ…わたしも主人公になってステキな恋がしたい・・」
久藤「もしさよなら絶望先生が少女漫画だったら、僕は普通少女の日塔さんと恋に落ちていたかもね…」
久藤「……この考え方、木野からの悪影響か…」
(オワリ)