暖かな春の日差しに包まれた街の中を、長身痩躯の青年が歩いていく。  
端正な顔立ちの口元に浮かぶのは、穏やかで優しげな微笑。  
「いい日和ですねぇ、ほんの1,2ヶ月前が嘘みたいな上天気です」  
「ホントですね、先生」  
青年の言葉に答えたのは、前髪を可愛らしい髪留めで留めたショートカットの少女だった。  
青年と少女、糸色望と風浦可符香は寄り添って休日の街の人通りの中を歩いていく。  
「まさか、あなたに出会えるとは思いませんでしたよ、風浦さん。でも良かったんですか?私の予定に付き合わせてしまって……」  
「それはもう、先生と一緒にいられるだけで楽しいですから……それに、私も本は大好きだし」  
普段は自分の暮らす宿直室で甥っ子の交の相手をしたり、同じく宿直室で暮らしている霧の家事を手伝ったりして、  
のんびりと休日を過ごす望だったが、今日は少し遠くまで足を延ばして古書店めぐりをする事にしていた。  
そして、宿直室を出て少しのところで偶然に可符香と出くわし、そのまま彼女も同行する事になったのだ。  
ふらりふらりと、気の向くままに古本屋をはしごして、いつの間にやら二人の両手は購入した本をいっぱいに入れた袋でふさがれてしまった。  
「なるほど、ミステリがお好きなわけですね」  
「はい。でも、先生は色々な本を読むんですね」  
「雑食と言ってください。節操がないんですよ」  
「ううん、もっと文学一辺倒だと思ってたんですけど………先生の執筆した原稿すべてに目を通した人間としては……」  
「な!?ふ、ふ、ふ、風浦さん!?今、あなた何て言って……!!?」  
「だから、この間、宿直室の押入れから出てきた先生の原稿やノート、全部読んじゃったんです」  
「いやああああああああああああっ!!!!!!」  
以前、宿直室の押入れの整理をした時に、望が若い頃から書き溜めていた小説の原稿やアイデアノートが発掘された事があった。  
どうやら、可符香はそれを片っ端から読みつくしてしまったようである。  
誰にとっても触れられたくない黒歴史、それを暴かれた恥ずかしさに望の顔は真っ赤になる。  
「う……うぅ…禁ポジ眼鏡騒動ですっかり忘れてました…油断してました……」  
「えへへ……でも、先生の小説、面白かったですよ」  
「ほ、ほんとですかぁ?」  
「はい!………でも、技術的な面も考慮に入れて点数をつけると大体60点ぐらいかな……」  
「うわああああああんっ!!!採点がシビアですぅ!!!」  
「好きな作家、作品に影響されるのはいいですが、少し直接的すぎですね」  
「本当に容赦がないですぅうううううっ!!!!」  
可符香の作品評がザクザクと胸に突き刺さり、望はほとんど半泣きの状態だ。  
「まあまあ、技術的なところはこれからの精進次第ですよ、先生」  
「私はもう筆を置いた身です。あなたの言う通り、正直作品にはキツイ部分も多いし……」  
「でも、私は本当に好きですよ、先生の書く小説……」  
「あんな暗くてジメジメした絶望ストーリーがですか?」  
「暗くてジメジメしてて絶望的で………でも、優しいんですよ。先生の書く話って……」  
ニッコリと、可符香が微笑む。  
「信じれば夢は叶います。今から小説家になるのだってきっと無理じゃないですよ」  
「正直、その辺の志はもうどうでも良いんですが……あなたに読んでもらうために何か書いてみるのも悪くないかもしれませんね……」  
可符香の微笑に、望も嬉しそうに微笑み返す。  
それから互いにもう少しだけ近くに体を寄せ合った二人は、そのまま街の通りを歩いていった。  
 
一方、学校の宿直室では、いそいそと夕飯の準備などしながら、霧が考え事にふけっていた。  
彼女の頭に浮かぶのは担任教師にして同居人である糸色望の事である。  
「………最近、楽しそうだよね、先生………」  
いつも間近で見てきた霧だからこそわかる、望の変化。  
そして、その原因となったのはおそらく………  
「可符香ちゃんとも…仲良いし………」  
以前から何かにつけて行動を共にする事の多かった二人だが、ここ最近の二人は一層親密になった気がする。  
いや、気がする、なんてものじゃない。  
 
つい先日、ポジティブ思考を封じる禁ポジの眼鏡を可符香が誤ってつけてしまった時の事。  
彼女の状態が考える以上に危険であると知った時の、望の血相を変えた表情を霧ははっきりと覚えている。  
それを思い出すたびに、霧の胸の奥はギュッと締め付けられる。  
望は優しい、霧はそれをよく知っている。  
例えば、自分が可符香と同じ状況に陥ったなら、やはり必死に霧の事を案じて解決策を探そうとしてくれる筈だ。  
だけど、あの時望が見せた表情はそれだけのものではないのだ。  
あの時、側で見ていた霧には、身を引き裂かれるような望の心の痛みが伝わってくるようだった。  
「………やっぱり、駄目なのかな……私じゃ、駄目なのかな………」  
と、その時である。  
ガラガラと宿直室の扉が開く音が聞こえてきた。  
望が帰って来たのだろうか?  
霧は夕飯の支度をする手を止めて、扉の方に顔を出す。  
だが、そこで見たのは、彼女の予想もしないものだった。  
「まとい……ちゃん?」  
常月まといが、そこに立っていた。  
望の姿はない。  
いつも片時たりとも望の側を離れようとしない彼女が、たった一人でそこにいる。  
「上がるけど……いい?」  
「う、うん……」  
霧はまといを宿直室に上げ、温かいお茶をだしてやる。  
望を巡って普段対立の絶えないまといに対して霧がそこまでしたのは、俯いて覇気のない彼女の表情のせいだ。  
「どうしたの?なんであなた一人なの?先生はどこに……」  
「先生は………可符香ちゃんと一緒にいる……」  
瞬間、霧は言葉を詰まらせる。  
沈黙した霧に、まといは自分の見たものを語って聞かせた。  
手を繋いだり、キスをしたりする訳ではない。  
ただ、二人が一緒に古本屋を巡っているだけの話だ。  
だけど、そんな二人の間に漂っていた、これ以上ないほどの親密な空気にまといは打ちのめされた。  
二人が恋人同士として振舞っているのを見たとしても、これほどのショックはなかっただろう。  
それでも諦めない、先生の事が好きなんだと、そう強く思う事ができただろう。  
だけど、望と可符香の間にあった、まるでパズルのピースがぴったりとはまったようなあの親密な空気は、  
二人の関係が何にも代える事の出来ないものであると示しているようで………。  
「こんな事、初めてよ……私、どうしていいかわからなくなっちゃった……」  
呟いて、ちゃぶ台に突っ伏したまといに、霧もかける言葉が見つからない。  
(先生……可符香ちゃん……)  
霧の頭の中を、言葉に出来ない思いがぐるぐると駆け巡る。  
どこかで、今までのような日々がいつまでも続いていくのだと、霧はそう信じていたのかもしれない。  
だけど、時はゆっくりと動き始めている。  
これまでずっと見ない振りをしてきたものと直面しなければならない。  
決断のときが、やって来たのだ。  
 
古本屋めぐりを終えて帰途についた望と可符香の二人。  
夕方近くになって、二人はそれぞれの帰る家への分かれ道の手前にいた。  
「それじゃあ、ここでお別れですね、風浦さん……」  
「はい、今日は楽しかったですよ、先生」  
可符香のその言葉に、望は少しすまなそうな顔をして答える。  
「そういえば……あなたにはあまり、恋人らしい事もしてあげられていませんね……」  
互いに想いを通じ合わせた二人であったが、望の言う通り普通の恋人がするような事を行う機会には恵まれてこなかった。  
望はそれを心苦しく想っていたのだが……  
「でも、この間、一緒にチューリップ見に行ったじゃないですか」  
「いや、その、あれは……なんというか、私の趣味に偏りすぎていて……」  
それでも先日、二人は色とりどりのチューリップが広がる花畑を開放している農園に二人で行って、一日のんびりと過ごしてきたのだが  
実はこのセレクト、望の趣味が如実に反映されていたのである。  
「先生がああいうの好きだなんて知りませんでしたよ。一面のチューリップを見たときの先生の表情なんてもう……」  
「うぅ……あの時の事は忘れてください………」  
小さい頃は会う人会う人に女の子だろう、なんて言われていた望は、親戚の女の子やおばさん達に混じって遊ぶことも多く、多少、少女趣味なところがあった。  
その辺が場所のセレクトに影響を与えたようだ。  
 
「でも、あの時は私も楽しかったですよ」  
「いえ、どうせなら行き先は二人で決められた方が良かったかな、と思いまして……」  
なかなか可符香とじっくり話す機会が持てず、自分の独断で行き先を決めざるをえなかった事を望は後悔しているのだ。  
だが、可符香はそんな望ににっこりと笑って  
「いいじゃないですか……これからは一緒に決めれば問題ないですよ」  
「………そうですね、これからそうしていけば、それで問題なしですよね」  
そうだ。  
ようやく想いが通じ合って、こうやって二人でいられるようになったのだ。  
あれが出来なかった、これが出来なかったと悔やむより、それを未来に実現させていく事の方が建設的だ。  
望と可符香は、どちらともなく体を寄せ合う。  
「二人で一緒に色んな物を見ましょう、先生……」  
「そうですね、二人一緒に………」  
唇をそっと重ね合わせる二人。  
だが、最後の瞬間、望が呟いた言葉が、二人の胸の奥底にほんの少しだけ引っかかった。  
「二人一緒に……これからも、ずっと………」  
ほんの少しの違和感。  
ほんの小さな不安感。  
何気ない言葉に、どうしてそんなモノを感じてしまうのか、望にも可符香にもわからなかった。  
だから、二人はその事を顔には出さず、笑顔のままそれぞれの家路についた。  
歩いている内に二人の頭からはその奇妙な感情の記憶は薄れていったが、  
その時感じた小さなしこりのような違和感はいつまでも胸の奥に残り続けた。  
 
いつもの教室、いつもの喧騒の中、望は授業を進める。  
昨夜は買ったばかりの本につい夢中になってしまったため、寝不足の望は時折こっそりとあくびをかみ殺す。  
(うう〜……社会人としてはちょっと駄目っぽいですねぇ……)  
探し回っていた本をようやく手に入れた嬉しさと、その出来が期待以上のものであった事も夜更かしの原因ではあるが、  
きちんと翌日の事を考えて行動しなかった自分に、望は後悔のため息を漏らす。  
教科書をめくり、黒板に板書して、生徒達に問題を出して、その答えについて解説する。  
2のへの生徒達は誰も彼もが一癖も二癖もある難物ぞろいだが、勉強への意識はそれなりに高い。  
こうして淡々と授業を進めるのも、それはそれで充実した時間ではある。  
(……というか、もしかして、私の存在が一番授業の妨げになっているんじゃないでしょうか……?)  
なんて思いつつも、やはり授業がはかどるのは楽しいものだ。  
眠気を堪えつつも授業を進める望の表情は明るい。  
ふと見ると、一生懸命に板書を書き写す可符香の表情も活き活きとしている。  
(そういえば、昨日も楽しかったですね……)  
禁ポジの眼鏡にまつわる一連の騒動は、結果としては可符香の心にプラスに働いたようだ。  
可符香がこれまで時折見せた不安定な部分も、ほんの少しではあるが落ち着いたように思える。  
そして、望への想いをより確固たるものとした可符香を見て、望の可符香に対する気持ちも一層強くなったように思える。  
だが、しかし  
(でも……昨日のあれは何だったんでしょう?)  
昨日、可符香との別れ際に不意に望の胸によぎった得体の知れない不安感。  
昨夜の内はそれほど気にならなかったものが、今日になってから妙に心に引っかかってくる。  
望と可符香、二人が互いを想う気持ちは確かで、もう何も不安に思う事などない筈なのに………。  
(いけませんね……この手の事はいくら考えても埒が明きません。今は授業に集中しましょう)  
不安を振り払い、再び授業に集中し始める望。  
だが、その胸の奥で、心を苛む得体の知れない何かが着実に大きくなっていくのを、望は感じ続けていた。  
 
授業が終わる。  
「う〜ん」  
伸びをして固まってしまった体をほぐしてから、可符香は自分の席から立ち上がった。  
「昨日は、楽しかったな……」  
望と一緒にいくつもの古書店を巡った休日。  
とりとめもなく雑談を交わして、雑踏の中ではぐれないように二人寄り添って歩いた。  
何か大した事をしたわけじゃない。  
だけど、確実に充実した、満ち足りた一日だった。  
それに加えて、実はそれなりに読書家でもある可符香には、以前から探していた書籍をいくつも購入できたのも嬉しい出来事だった。  
同年代の少年少女達に比べると、豊富すぎるぐらいの知識を可符香は持っている。  
だけども、世の中には彼女の知らない事もまだまだたくさん存在するのだ。  
昨日、望につれられて訪ねた数多くの古書店もそうだ。  
初めて訪ねた店の棚で出会った数多くの本達。  
 
そうだ。  
昨日までの自分は自分の読みたい本の在り処さえ知らなかったのだ。  
まだまだ自分の知らないものも、場所も、いくらでもあるのだろう。  
自分だけではない、先生が知らないものを、こちらから教えてあげられる事もあるかもしれない。  
先生と一緒に、先生の隣で、色んな物を見て、色んな話をしたい。  
少し前までは、そんな自分自身の気持ちに対してさえどこか臆病だった自分が、今ではこんな風に考える事ができる。  
可符香にはそれがたまらなく嬉しかった。  
「みんな、変わっていくんだ………」  
呟いて、可符香は自分の唇に触れる。  
昨日の別れ際のキスの感触を、今もこの唇は覚えている。  
可符香が変わったように、望も変わった。  
先日の禁ポジの眼鏡にまつわる騒動で、今までよりもずっとはっきりと自分の気持ちを望に伝えた。  
それからだろうか。  
これまで彼女を気遣うあまりにどこかおっかなびっくりだった望の可符香に対する態度にどこか安心したような様子が感じられるようになった。  
信頼してもらえた、という事なのだろうか。  
今までどこか不安定な部分のあった二人の関係が、少しずつ変化を見せようとしている。  
寄り添って歩き始めた二人の気持ちが、未来を形作り始めている、そんな実感があった。  
だけど………。  
「昨日から……どうしちゃったんだろう、私……」  
胸の奥に何か言葉では言い表せない淀みのようなものを感じる。  
昨日、望との別れ際に一瞬感じたこの感覚が、どうしてこんなにも心を騒がせるのだろう。  
つまらない事は気にしないように、そう何度自分に言い聞かせても気がつけばこの感覚に心を捕らわれている。  
正体不明の不安感に駆られていた可符香はふと気がつく。  
「あれ………どうして?」  
それは、見慣れたクラスの面々の中、見慣れた顔がそこにいるだけの、どうという事もない出来事。  
だけどそれは、同時にこの上もなく致命的な変化でもある。  
授業を終えた望は教室を後にして、すでにここにはいない。  
それなのに、どうして彼女がここにいるのか………  
「まとい……ちゃん……?」  
教室の片隅、誰にも気付かれることなく静かに佇む彼女の名前を、可符香はそっと呟く。  
常に望の傍らにいて、片時も離れない筈の彼女がどうしてここにいるのか?  
その時だった。  
「えっ………!!?」  
まといの顔がこちらを向いた。  
いつもの彼女とは違う、どこか感情の感じられない瞳で、まっすぐに可符香を見据えてくる。  
そして、可符香がどんな反応を返すべきか迷っている内に、まといは可符香から視線を逸らして、そのまま教室の外へと立ち去ってしまった。  
残された可符香は、言葉もなくただ立ち尽くすしかできなかった。  
それはほんの少しの、だけども致命的な変化。  
可符香は変わった。  
望も変わった。  
それは二人にとって喜ばしい事だったのかもしれない。  
だが、一つの変化は、そこからさらなる新しい変化を誘発せずにはおかない。  
そして、その変化の流れがどこに向かうのかは、誰にも予想する事などできないのだ。  
可符香と望の周りで、ゆっくり、ゆっくりと、何かが動き出そうとしていた。  
 
授業が終わり、夕陽が西の空に沈み始めて、それまで学校で部活やら何やら色々な活動をしていた生徒達が徐々に帰宅し始める。  
望も諸々の仕事を終えて、既に他の教師達の姿もまばらになり始めた職員室を後にする。  
「休み明けのテストの採点も終わりましたし、しばらくはのんびりと出来そうですね」  
大学受験や高校入試で何かと忙しかった時期も過ぎて、久しぶりに平穏な時間がやって来たようである。  
仕事だけでなく、サーカスにまつわる出来事や禁ポジの眼鏡に関する騒動など、最近は私的にも慌しかった気がする。  
だが、とりあえずはそれらも全て切り抜けて、当分は何事もない日々が続くだろう。  
可符香と共に過ごす時間も、これからはもう少し多くとる事ができる筈だ。  
「色々と、話したい事もありますからね……」  
10年ほど前の突然の出会いと、同じくらいに突然に訪れた別れ。  
望にも可符香にも積もる話は山ほどあった。  
「それに、今度はどこに行くのか、風浦さんと一緒に決めるんでしたよね……」  
可符香と共にある未来を心に描いて思わず浮き足立つ心に、望は少し苦笑する。  
 
そんなに慌てずとも、今度は二人で足並みを揃えて一緒に歩いていくのだ。  
二人の時間はどこまでも広がっている。  
(どこまでも、ずっと、一緒に………いけませんね、またですか…)  
そんな望の脳裏に、またあの得体の知れない不安感がよぎる。  
(私は、一体何を恐れているのでしょうか?)  
それはほんの微かなものであるが故に、その正体を探り当てる事ができない。  
しかし、同時にそれは望の心の奥深くにしっかりと刻み込まれて、片時も消える事はない。  
日常の騒がしさに紛れてその存在を忘れる事はあっても、それは決して消えてなくなったりはしないのだ。  
さきほどまで高揚していた心に、冷や水を浴びせかけられたような気分だった。  
「考えてもわからない事にいちいち気を取られているのも馬鹿らしいですね……今日はテレビでも見ながらのんびりしましょう」  
気を取り直して、なるべく明るい調子でそう言った望だったが、胸の奥の不安は消えてくれない。  
せめて、いつもの宿直室の賑わいがこの気分を紛らわせてくれないか。  
望は足早に校舎の中を通り過ぎて、宿直室にたどり着く。  
(大丈夫……こんな気分、すぐに忘れられますよ……)  
そして、望は扉に手を掛け、愛しの我が家へ、いつも通りの日常が待つ筈の宿直室の中に踏み入る。  
だが、そこで望が見たものは……  
「な、なんですか……これは一体!?」  
まだ茜色の空の光が差し込んでいる筈の窓が、何枚もの木の板と分厚いカーテンに閉ざされている。  
部屋に明かりはなく、人の気配もない。  
「小森さん!?…交!!」  
いつもなら望を出迎えてくれる筈の引きこもり少女と甥っ子の名前を呼びながら、望は部屋の真ん中まで進む。  
と、その時である。  
ガラガラガラ、ピシャッ!!!!!  
望の背後で勢いよく扉が閉まった。  
さらに、ジャラジャラジャラッ!!と、鎖の音がけたたましく響いた。  
そして最後に、ガチャッ!ガチャリッ!!ガチャガチャッ!!ガチャンッ!!!  
いくつもの錠前が、南京錠が、鍵をかけられ閉ざされる音がした。  
ゆっくりと望は振り返った。  
「せんせい……」  
そこにいたのは、先ほど望が名前を呼んで捜し求めた引きこもり少女。  
彼女はいくつもの鍵を手に持ち、鎖と錠前でガッチリと閉ざされた扉の前に立っていた。  
そのいつになく真剣な眼差しが、望の心を射抜く。  
そして、彼女はゆっくりと口を開き、こう言った。  
「先生、私といっしょに引きこもってくれるよね?」  
 
夕暮れの街を、可符香は足早に歩いていく。  
俯きがちなその表情は少しだけ暗い。  
どうしても忘れられないのだ。  
昼間に見た、まといの不可解な行動と、自分に向けられたあの眼差しの意味が……  
「何か……あったのかな?」  
考えられる事は、やはり望に関する何事かであろう。  
以前は一年の間に何度となく恋愛感情を向ける相手が変わっていたまといが、今では一途に望の事だけを想っている。  
彼女の他にも望に思いを寄せる女子生徒は数多くいる。  
特にまといが望に向ける想いは強く純粋なものだ。  
いずれは決着をつけなければならない現実である事はわかっていた。  
だが、そうだとしても、彼女が望の元から離れた理由がわからない。  
新しい恋愛対象を見つけた様子でもない。  
一体、まといの心にどんな変化が生じたというのだろうか?  
「先生に、相談してみた方がいいかな……?」  
事態の中心人物であり、ある意味では2のへの中で最もまといと長く接してきた望ならば、彼女の思惑がわかるかもしれない。  
そんな事を考えているうちに、気がつけば、可符香は自宅のアパートの近くにまでたどり着いていた。  
いつの間にか夕陽は完全に沈んで、紫色の空に周囲の建物が黒いシルエットを浮かべている。  
不意に吹き抜けた風の意外な冷たさに、可符香は身を縮め込ませる。  
「……寒いな…」  
そういえば、今日は春にしては比較的気温が低くなると天気予報で言っていた気もする。  
可符香は足早に自宅の玄関に駆け寄り、鍵を取り出そうとして、ふと気がつく。  
「あれ、開いてる……?」  
普通ならば空き巣などを警戒すべき所だったが、可符香はついそのまま玄関のドアを開け放ってしまう。  
 
決して広くはないアパートの一室ではあるが、夕方の薄暗さのためにそこに何がいるのか、誰が潜んでいるのかわからない。  
「誰か、いるの………?」  
可符香は薄闇に呼びかけながら、部屋の中に一歩足を踏み入れる。  
その時、可符香は暗がりの中に、一瞬銀色の光が閃くのを見る。  
「可符香ちゃん、私だよ……」  
続いて聞こえてきたのは、2のへでの生活の中で散々耳に馴染んだ声……。  
「まとい…ちゃん……」  
常月まといが、そこに立っていた。  
彼女はゆっくりと可符香の方に近付いてくる。  
やがて、まといは可符香の2メートルほど手前、外からの弱弱しい光が差し込んでくる場所までやって来る。  
そこで、可符香は気付く。  
先ほど、闇の中に閃いた銀色の光の正体を……。  
「まといちゃん、それ………!?」  
彼女が手にしていたのは、一振りの出刃包丁。  
可符香が自宅での料理に使用する、愛用の品だ。  
そして、まといの手の平に握られた出刃包丁の、その鋭い切っ先はまっすぐに可符香の胸へと向けられていた。  
 
「小森さん、これは一体どういう事なんです?」  
「どうもこうもないよ……さっきも言った通り、私は先生と一緒に引きこもりたい。先生とずっと一緒にこの宿直室で過ごしたい、それだけだよ……」  
霧の眼差しは真剣そのものだった。  
彼女は、望の事を強く強く想っている。  
その気持ちは、どこまでも純粋でまっすぐだ。  
だが、しかし、だからといってこんな事をする理由がわからない。  
部屋の窓を、扉を、外に通じる全てを閉ざして、彼女は一体どうしようというのだろうか?  
「だって……こうしないと、先生、可符香ちゃんの所に行っちゃうでしょ?」  
「…………っ!!?」  
だが、次の一言で望は悟らざるを得なかった。  
霧は、今、ここに自分の全てを懸けているのだ。  
鎖と、鍵と、板で打ち付けられた窓、完全に閉ざされた二人だけの空間。  
無茶苦茶なやり方である。  
普通なら、相手の反感を買ってしまっても文句は言えないだろう。  
だけど、確実に可符香に対して心動かされ始めてしまった望を引きとどめるには、これほどのパワーが必要なのだ。  
霧の静かな眼差しが、望に語りかける。  
嫌われてもいい。  
どんな形でも構わない。  
それでも、自分の側にいてほしいのだと………。  
まっすぐと望を見つめる霧の瞳には、いつにない強い意思が込められているように思えた。  
(いつかは、向き合わなければならない事だったんですよね……)  
霧の眼差しに促されるように、望も覚悟を決める。  
「小森さん、あなたの気持ちはわかりました……」  
望はゆっくりと口を開く。  
「そして、あなたも私の気持ちを知っている。なら、これぐらいじゃ、今の私を止められない事もわかるでしょう?」  
霧は無言のまま、望の話に耳を傾けている。  
「自分でも不思議なくらいですよ。私の中にこんなに強い想いがあっただなんて……  
でも、それは今も確かに私の胸の奥で息づいているんです。風浦さんの存在が、深く深く刻み込まれているんです……」  
それが、望の真摯な気持ちだった。  
この可符香に対する思いがある限り、生半可に他の女性に触れる事は、結局その人物を傷つける事にしかならない。  
それは、望自身には到底収める事が出来ないほどの熱く激しい想いなのだから………。  
「うん、わかってる………」  
対する霧も、その事は理解していた。  
だけど、彼女もまた望への気持ちを留める事などできない。  
だから、彼女は選択する。  
今から自分が口にする言葉のその意味を考えてか、少しだけ辛そうな表情を見せて望に語りかける。  
 
「わかってるよ、先生。先生の気持ちは、とてもよくわかってる…………でもね」  
次に霧がその口から紡ぎ出した言葉に、望の全身が固まる。  
「でもね……私は、いなくなったりしないよ。……可符香ちゃんみたいに、突然消えたりしない…」  
驚愕に目を見開き、自分を見つめる望の眼差しに、霧は罪悪感を掻き立てられる。  
(これは……すごく卑怯な言い方だよね……とても卑怯で、きっと許されない事……だけど…)  
その情報は、まといから手に入れたものだった。  
10年ほど前に、望と可符香が出会っていた時期があった事。  
そして、突然に訪れた別れが、望の心に大きな傷を残した事……。  
まといは、望についてのあらゆる事柄を調べる中で、その事実をおぼろげながらも探り当てた。  
そして、二人が別れ別れになった因縁あるサーカスがやって来たのを切欠に、二人の距離がぐっと縮まった事から、確証を深めたのだ。  
それは、とてもとても卑怯な手段だ。  
望の心の古傷を抉り、動揺を誘って、その隙に付け入る。  
だけど、霧はそれを全て承知で、この一手に懸けた。  
(そうか……あの違和感、不安感の正体は……)  
一方、望は霧の言葉から、昨日から胸の奥で燻っていた得体の知れない不安の正体を理解し始めていた。  
望は、怖かったのだ。  
確かに、今の望と可符香の心はこれ以上ないぐらいに近くに寄り添っている。  
だけど、それでもいつ何が二人を引き裂いてしまうかわからない。  
10年前のあの時だってそうだ。  
二人は、互いが別れ別れになる運命に対して、何ひとつ抵抗する力を持っていなかった。  
運命は、時に理不尽に襲い掛かってくる。  
全てを破壊し、押し流す土砂流は、何の前触れもなく力ない人間からあらゆる物を奪い去ってしまう。  
愛別離苦の言葉の通り、あらゆる別れは突然にやって来て、それに抗う手段など存在しないのだ。  
望は、それを本能的に恐れていた。  
10年前、一筋の涙を流して消えた少女の姿は、強烈なトラウマとなって望の心に刻み付けられた。  
望は可符香を強く強く愛している。  
愛しているが故に、それが恐ろしくてたまらないのだ。  
「先生、私、悪い子だよね…卑怯な子だよね……でも、この学校の宿直室でなら、私はずっと先生と一緒にいてあげられる……」  
己の中に潜む恐怖に気付いた望には、霧のその言葉はとても甘美な響きを持って耳に届いた。  
魂に刻まれた恐怖を、霧の優しさに満ちた言葉が揺さぶる。  
霧が一歩、また一歩と望の元へと歩み寄る。  
「ねえ、先生、だから私と……ずっと、私と一緒にいて……」  
望の手の平に、霧の柔らかな指先がそっと触れる。  
そして、10年前のトラウマと、可符香への愛の狭間で揺らぐ望は…………  
 
薄闇の中で輝く銀の刃を、まといは逆手に持ち替える。  
その切っ先が向かう方向は、可符香の胸から180度反転して、まとい自身に向けられる。  
「まといちゃんっ!!!」  
自分自身に刃を向けるまとい。  
その姿を見て、思わず可符香は叫んだ。  
「ごめんね、可符香ちゃん………」  
ぽつり、呟いたまといの声は思いのほか穏やかで、だけど、どうしようもないくらいの悲しみを湛えていた。  
「ごめんね、私にはもう、こうする事以外考えられなかったの………」  
「まといちゃん、やめてよっ!!どうしてそんな事……っ!?」  
まといの眼差しはただただ静かで穏やかだった。  
それは、全てを諦め切った瞳の色。  
可符香は、そんな瞳を知っている。  
(お父さんの時と、同じだ……)  
かつて、どうにもならない苦境の最中に可符香の父は『身長を伸ばそうとした』  
父だけではない。  
可符香は短い人生の中で、どれほど多く、この瞳を目にしてきただろう。  
「………恨んでいられれば良かった。嫉妬していられれば良かった。………そう出来たらなら、きっと、こんなに苦しまなかったと思う…」  
静かに、まといが語り始める。  
「私は、ずっと先生の事だけ見てたから……先生と可符香ちゃんの事も、わかったよ、だいたいだけどね………」  
2のへでの生活が始まってからずっと、望の側にはいつも可符香がいた。  
ネガティブ教師と超ポジティブ少女、コインの裏表みたいな二人はごく自然に近くに居て、ごく自然に会話を交わしていた。  
 
まといも、最初はその親密な距離感が羨ましくて、妬ましかった。  
だけど、いつの頃からだろう。  
まといは次第にその光景を当然のものとして受け入れ始めてしまった。  
「ほら、可符香ちゃんはクラスの他の娘みたいに先生が好きだって、表立って言ってなかったから  
……だから、あれはそういうのとは違うんだって、無理にそう思おうとしてたんだ……」  
だが、結局、まといは突きつけられる事になる。  
だんだんと近付いていく望と可符香の心、二人がいっそう親密になっていくその姿を目の当たりにする。  
しかし、その時まといの心に浮かんできたのは、彼女自身思いもかけない感情だった。  
「先生が、可符香ちゃんに笑いかけられて、嬉しそうに笑い返したとき、私、嬉しくなってたんだ……喜んでたんだ……」  
常に望と共にあり、望と同じ時間をすごして、望の感情を我が事のように感じる。  
まといはずっとそうしてきた。  
だから、望が心から笑えたその瞬間に、まといも同じように笑う事が出来たのだ。  
大好きだから、愛しているから………  
「私、わからなくなっちゃったんだ……こんなに先生の事が好きなのに、愛しているのに……  
先生の心が可符香ちゃんに動いてるってわかってて、それでも悲しんだり、怒ったりできなかった………」  
だから、彼女は自分で自分の事が理解できなくなってしまった。  
何としても、誰よりも望の近くにいたいから、およそストーカーにだって出来ないぐらい近くに居続けてきたのに……  
「そしたら、私、気付いちゃった……私はみんなの事が大好きだって…可符香ちゃんも、千里ちゃんも、奈美ちゃんも、あびるちゃんも……みんな」  
何をしたって、望の事を渡したくないと思っていたはずだった。  
何にも増して、望の事だけを思い続けているはずだった。  
だからこそ、彼女には自分の中のその想いをどう考えていいのかわからなくなってしまった。  
「先生以外は何もいらない……私はそう思ってるんだって……でも、それは嘘だった……  
だったら、私のこの気持ちは、先生に対する気持ちは何なの……!!?」  
そして、まといの中で何かが崩れ落ちた。  
何よりも一途な筈の望への気持ちを、自分自身が信じられなくなってしまったのだ。  
彼女は証を欲した。  
自分が望を愛しているという証を。  
自分が望の事だけを想っているのだという証を、心から欲した。  
だから………  
「だから、私はこうするの。これしか思いつかなかったから………私に懸けられるのは、もう、命しかないから……」  
「駄目だよ……駄目だよ、まといちゃん……」  
可符香もまた、ここに来て悟っていた。  
昨日から、胸の奥でかすかに疼く、得体の知れない不安の正体を。  
(私は、運命を恐れている………理不尽に、気まぐれに、全てを奪い去る存在を恐れている……)  
それは突然に現れ、いとも容易く大事なものを奪い取っていく。  
かつて、望と可符香が、抗いようのない運命の中で別れ別れになったように。  
そして今、目の前で大切な友達の命が失われようとしているように。  
「ごめんね、可符香ちゃん……」  
まといは、もう一度謝った。  
包丁を握る彼女の両手に、ぐっと力がこもる。  
まといが包丁を自らの胸に突き立てるまで、ほんの一瞬もかからないだろう。  
そして、強く高まった彼女の思いは、それを確実にやり遂げてしまうだろう。  
可符香の脳裏に浮かぶ、10年前のサーカスの光景。  
あの時の、あの別れと同じだ。  
いつだって運命は強大で、抗い難い………。  
だけど、しかし………  
(これが、こんなのが運命だっていうのなら………っ!!!)  
スッと、滑るように最初の一歩を踏み出す。  
そのまま、二歩目、三歩目、まといまでの2メートルの距離を可符香は一気に詰める。  
「駄目、可符香ちゃんっ!!」  
ほとんど泣き出しそうな声で叫んで、まといは自分に向かって包丁を一気に突きたてようとする。  
だが、それよりも一瞬……ほんの一瞬だけ早く……  
「いやだよ、まといちゃん………」  
「可符香…ちゃん……!?」  
可符香の手のひらが、包丁の刃の部分を強く握り締めていた。  
思い切り握り締めた刃で切ってしまったのだろう、その手の平からは、ポタリ、ポタリと赤いしずくが滴り落ちている。  
可符香の手が、まといの包丁を止めたのだ。  
「死んじゃやだよ……まといちゃん……」  
 
「無理なんです。それは、無理なんですよ、小森さん………」  
「先生…………」  
どれだけ強く想い合う二人でも、運命は容赦なくそれを引き裂く。  
だから、ずっと二人で、運命の荒波の届かない穏やかな場所で、二人っきりでいよう。  
それが、霧の望に対する精一杯の言葉だった。  
だけど、それに対する望の答えは、もしかしたら、最初から決まっていたのかもしれない。  
「もし、また私と風浦さんが別れ別れになっても、そしてそれが二度と巡りあえない運命だとしても、私にはそれはできません……」  
そこで、望は少し微笑む。  
すまなそうに、申し訳なさそうに、霧に微笑んで言葉を紡ぐ。  
「私のここには、風浦さんがいるんです……」  
そう言って、胸に手を当てる。  
少年の頃憧れた幼い少女の希望に満ち溢れた笑顔、この学校に赴任してからの日々で積み重ねられてきた彼女への想い。  
それらは望の心の一番根っこの部分で、望の心の一番大事な部分を形成する芯となって揺らぐ事無く存在する。  
確かに、かつての別れのトラウマは強烈で、それを拭う事は一生かかっても出来ないかもしれない。  
強大な運命はやっぱり恐ろしくて、望にはそれに抗う手段などありはしない。  
「もし、もう一度風浦さんと離れ離れになって、二度と会えない運命だったとしても、私は風浦さんの所に、きっと走って行ってしまう……」  
いや、今の望の心はそれに止まらない。  
そうだ、自分と彼女をへだてる何かが存在するなら、それがどんな物だって……  
「いいえ、きっと運命が邪魔したって、私は風浦さんの所に辿りつく。辿り着いてみせます……っ!!!」  
ほとんど絵空事のようなその言葉を、望は100%の確信を持って口にした。  
そして、霧も悟る。  
望の今の言葉には、一かけらだって嘘や偽りは含まれていない。  
それは間違いなく望の、真実の言葉なのだと………。  
(私に向かって行ってもらえたら……きっと、最高だったんだけどな……)  
だから、全てを受け入れた霧の微笑は、どこまでも柔らかで、優しかった。  
 
「私は先生が好き、まといちゃんも好き、だから、どっちも諦めないよ………」  
ぽたぽたと、指先から流れ落ちていく赤い血の感触、鋭い痛み。  
だけど、可符香は、自分に怪我を負わせてしまった事に怯えるまといに、精一杯に優しく微笑みかける。  
「えへへ……私、無茶苦茶な事、言ってるよね……」  
確かに無茶苦茶かもしれない。  
だけど、それが可符香の出した答だった。  
運命の荒波を前にしても、決して諦めない。  
もちろん、その理不尽で圧倒的な力に対する恐怖は消えないけれど、それさえも呑み込んで前に進みたい。  
望と共にある未来を掴み取りたい。  
今の彼女には、それ以外の選択肢を思いつく事ができない。  
もしそれが行く手を阻むのなら、世界にすら喧嘩を売って、自分の望む道を踏破する。  
傲慢というなら、これ以上ないくらい傲慢な解答だ。  
「駄目だね、最後まで敵わないな…………」  
諦めたように、まといが包丁の柄からゆっくりと手の平を離す。  
それから可符香に微笑んで見せたまといの笑顔には、どこかスッキリしたような、爽やかな色が含まれていた。  
「これだけ大口叩いといて、先生を途中で諦めたりしないでよ。その時は、私、容赦なく先生の事、奪っちゃうんだから……」  
「大丈夫だよ。私の心は、ずっと先生の事だけ、見つめてるから………」  
微笑をかわして、可符香と入れ替わるように、まといは部屋の中から出て行く。  
そのまましばらく歩いてから、道の途中で立ち止まった彼女は、ハッとしたように呟く。  
「なんだ……心配なんかしなくても、私はやっぱり先生の事………」  
こみ上げてくる切ない想いは、決して夢や幻ではない。  
まといの心の中は、こんなにも沢山の望への気持ちで満たされていたのだ。  
それを、ああだこうだと型に嵌めて考えようとしたのが、そもそもの間違いだったのか。  
「大好きです、先生……これからも、ずっと……」  
溢れる想いを抱きしめるように、自分の体をぎゅっと抱きしめながら、まといは夜の街並みの中を一人、歩いていった。  
 
 
「………まあ、宿直室の扉は引き戸ですから……こうやって、こうすれば、ほら、この通り……」  
ガチャガチャ、ガチャリ、ガチャガチャリ、金属音を響かせながら、望は宿直室の扉をレールから外してしまう。  
せっかくの錠前も鎖も、こうされては何の役にも立たない。  
望は宣言どおり、早速、自分と可符香の前に立ち塞がる壁をひとつ突破してみせたわけだ。  
「うわああああああああっ!!!!私の鉄壁の引きこもりバリアーがぁ……っ!!!」  
予想外の解決法に、アリの這い入る隙間もないと自信満々だった霧は呆然自失である。  
そんな霧の様子を横目で見ながら、望が不意に呟く。  
「……本当に、小森さんには迷惑をかけてばっかりですね………」  
こんなに近くに居て、こんなに大切に思っていても、望には霧の想いに応える事はできない。  
望には、自分の胸の内で燃える思いを、自分でどうこうする事などできないのだから………。  
「ううん、いいよ、先生は私がいないと駄目なのはいつもの事だし……これからも、迷惑かけていいから……」  
そして、それは霧も同じだ。  
彼女の中の気持ちも、きっとどんな事があろうと変わる事はない。  
「それでは、小森さん……」  
春にしては冷え込んだ空気が入ってくる中、望は寒さしのぎの外套をまとう。  
向かうべき場所はたった一つ。  
今のこの気持ちを、できるだけそのままで、歪める事も、曲げる事もなく彼女に伝えなければならない。  
今はそんな気がしていた。  
「行くんだね。可符香ちゃんのところに………」  
「はい…………」  
その想いは、揺るがず、変わらず、常に望の中にある。  
だから、望にはそう答える事しかできない。  
どんなに残酷でも、真実の言葉を紡ぐ事しかできない。  
「すみません、小森さん………それじゃあ、いってきます」  
最後に、本当にすまなそうに、それだけ告げて、望は夜の学校を飛び出していく。  
取り残された霧は、もう見えなくなったその後姿を思いながら、一人つぶやく。  
「馬鹿だなぁ、ありがとう、だよ……先生……」  
 
走る。走る。走る。  
元来、体力の乏しい望の息はすぐに上がって、わき腹が鈍い痛みを感じ始める。  
そもそも、何か時間の制約や、急ぐべき理由があるわけではない。  
だけれども、望は少しでも早く前に進もうと、走り続ける。  
伝えなければならない。  
自分の言葉で、彼女の目の前で……。  
だから、望は走る。  
貧弱な体は既に根を上げる寸前で、足取りも次第に怪しくなってきている。  
それでも、少しでも早く、少しでも前へ……。  
「…っはぁ…はぁはぁ……やっと…はぁ……着いたみたいですね……」  
望が走る道の先に、可符香の自宅が見えてきた。  
玄関の手前までやって来て、望はようやくスピードを緩めて立ち止まる。  
そこで、望は玄関の前にいた人影の存在に気がつく。  
「風浦さん……?」  
望の声を聞いて、可符香は振り返る。  
「せ、先生……どうしたんですか?」  
「いえ……話したい事があって来たんですが……何か用事がおありのようですね」  
驚いた様子の可符香に、まずは何と説明したものか判断できず、望はとりあえずそう答えた。  
「あ、その……実は私も先生に話したい事があって……」  
「あなたも…ですか?」  
意外な言葉に驚きながらも、可符香の元に歩み寄った望は、彼女の両手の指に不器用に巻かれた包帯の存在に気付く。  
薄っすらとではあるが、滲んだ血の赤に、望は血相を変える。  
「ど、ど、どうしたんですか?…怪我してるじゃないですか……しかも、両手とも…!?」  
心配そうな望に、こちらも色々と込み入った事情のあった可符香は、とりあえず苦笑しながら答える。  
「ちょっと、色々あったんですよ………でも、両手とも怪我しちゃったから、包帯も上手く巻けなくて……」  
「……とりあえず、私が手当てしましょう……今よりはもう少しましに出来ると思いますから……」  
そして、可符香と望は玄関のドアをくぐり、部屋の中で傷の手当をする事となった。  
 
「そうですか……常月さんがそんな事を………」  
「…小森ちゃんも…先生の事、大好きだったですからね……」  
しゅるり、しゅるしゅると包帯を巻く音の中、二人は今日互いに起こった出来事を話していた。  
「ありがとう、ございました……あなたがいなかったら、常月さんはきっと……」  
常に自分の側にいて、常に時分の事を思い続けていた少女の危機に、何も出来なかった自分を望は悔いる。  
だけど、可符香はそれを何でもないように笑って言葉を返す。  
「いいえ、私もまといちゃんの事が好きで、まといちゃんに生きてて欲しかった……結局、私の我侭をまといちゃんに聞いてもらった、それだけですよ」  
可符香の手の平の傷は、それほど深いものではなかった。  
包丁を止めるときに握った部分と、タイミングが良かったのだろう。  
少なくとも、傷口を縫い合わせる必要はなさそうだった。  
だけど、それでもその傷口から流れた血は多く、丁寧に手を洗った後でも僅かにその痕跡を残している。  
包帯を巻き終えた望は、可符香の手の平を優しく撫でながら、こう言った。  
「常月さんも、小森さんも、みんな覚悟を決めて私と向き合ってくれました。だから、私も改めて、覚悟を決めて自分の気持ちをあなたに伝えたい……」  
望は可符香の瞳をまっすぐ見ながら、その言葉を言った。  
「私は、これからの一生をずっと、あなたと一緒に生きてゆきたい……」  
それが、今の望の心からの気持ちだった。  
可符香は、望のその言葉に頬赤く染めて、はにかみながら言葉を返す。  
「なんだか……プロポーズみたいですね……」  
「そう取ってもらってかまいません。……私は、あなたと一生を共に過ごしたいんです……」  
ようやく望はその言葉を可符香に伝えることができた。  
心の底からそれを望みながら、それが全て台無しになる不安に怯えて言えなかった言葉、その一線を望は踏み越えたのだ。  
「やっぱり怖かったんですね。いつか離れ離れになる、その未来が恐ろしくて、どこかであなたに触れる事を怯えていた……」  
「それは、私も同じ、私も怖かったですよ、先生……」  
「でも、その怖さもひっくるめて、私はあなたと一緒にいる人生を肯定したい。あなたといる喜びを、あなたを失う事への不安を、全部抱きしめて生きていきたい。  
たとえ、宇宙の彼方、冥王星の向こう側にまで吹っ飛ばされたって、きっとあなたの元に戻ってきますよ」  
「それじゃあ、その時は、土星のあたりで待ち合わせにしましょう」  
「……えっ?」  
「先生が宇宙の彼方に行っちゃったなら、私もきっと追いかけますから……」  
もう二人に迷いはなかった。  
愛別離苦の苦しみが避けることの出来ないこの世の習いなら、それさえもひっくるめたものが自分の最愛の人に対する気持ちなのだから……。  
全てを背負って、目の前の愛する人と生きてゆきたい。  
「ありがとうございます、風浦さん……」  
「先生………」  
二人の唇が重ね合わさる。  
今までに交わしたどんな口付けよりも熱く強く、互いを求め合う。  
それから、唇をゆっくりと離した二人はうっとりと見つめ合い………  
「先生、私………」  
「風浦さん、私もあなたの事が……」  
きつくきつく、二人は抱きしめ合う。  
胸の内に燃え上がる熱情が、互いの存在をより近くに、より強く感じる事を求めていた。  
望は可符香の体をゆっくりとベッドの上に横たえ、可符香もそれを望のなすがままに受け入れる。  
「えへへ、ドキドキしますね……」  
「私もですよ……」  
「あれ?先生は昔、男女のべつまくなしのヤンチャさんで……」  
「う…うぅ…その話はなしです。……っていうか、あなたが相手だからこんなにドキドキするんですよ!」  
照れ笑いと軽口を挟みながら、望はその手の平をまずは可符香の頬に触れさせる。  
そのまま首筋をなぞり、上着の上から彼女の柔らかな乳房に触れて、脇腹の辺りをなぞる。  
「……あっ………ふぁ……先生の手が………」  
ぴくり。  
可符香の体は望の指先に触れられる度に敏感に反応する。  
望はそんな彼女の体の上に、できるだけ慎重に、気遣うような繊細な手つきで触れていく。  
だんだんと荒くなっていく吐息、触れ合った肌から感じる互いの体温の上昇。  
しばらくの間、それだけが望と可符香の間に交わされる全てになる。  
 
布地越しに敏感な場所に触れられて、切なげに体を震わせる可符香の姿が、望には愛おしくてたまらなかった。  
ときに軽く、ときに深く、幾度となく口付けを交わしては、互いの瞳を見つめあう。  
やがて、望の指先はおずおずと、可符香の上着の裾から、彼女の裸の脇腹へと伸ばされる。  
「ひくぅ……くぁ…ああっ……せんせ……うああっ!!!」  
幾度となく愛撫を受ける内にすっかり敏感になってしまっていた素肌に触れられて、可符香が声を上げた。  
望の指先はそのまま彼女のおへその周囲を撫でて、上着をそっと捲り上げながら上へと進んでいく。  
「………触り…ますよ…?」  
「はい………」  
緊張気味に問いかけた望の声に、可符香が答える。  
その言葉を確認してから、望は可符香のブラをずらして、露になった柔らかな二つの膨らみにそっと触れてみる。  
「……んっ……あぁ…先生の手……私の胸に触ってるんですね……」  
望の指先が、可符香の乳房をゆっくりと揉みしだき、可愛らしく存在を主張するその先端のピンク色の突起を指先で撫でる。  
おたがいに気恥ずかしさと静かな興奮に飲み込まれながら、行為は続いていく。  
望が可符香の乳首を指先につまんで転がすと、彼女は体を軽く震わせて、甘い悲鳴を上げる。  
「きゃっ…あうぅ……せんせ…先生…だめ…ふあああっ!!……」  
望はその愛おしすぎる声をもっと自分の耳で聞きたくて、さらなる反応を求めて今度は手の平を彼女の太ももの内側に伸ばす。  
「ひっくぅ…ふあっ……あ…せんせ……うあああああっ!!!」  
太ももの内側、可符香の秘所にほど近い敏感な部分を、望の指先が絶妙な力加減で何度もなぞる。  
その間にも望はもう片方の手の平で可符香の乳房を愛撫し、さらに首筋から鎖骨にかけてのラインに何度もその舌先を這わせる。  
手を変え品を変え、様々な場所に触れてくる望の愛撫。  
その刺激はいつしか可符香の心と体をいっぱいに満たし、飽和状態へと導いていく。  
「風浦さん…ここ……いきますよ……」  
「ふぇ…あっ……うああっ!!…先生っ…くあああっ!!!…うあぁ…そこぉおおおおっ!!!」  
やがて、太ももの辺りを幾度も往復していた望の指先が、慎重に可符香の秘所に触れ始める。  
下着の上から何度かその部分をなぞり、刺激を与えてから、望の手のひらが可符香のショーツの中に差し込まれていく。  
「う…くああっ…あっ……せんせ…の…ゆび……あつい……ひぅ…ああああっ!!!!」  
くちゅり、くちゅくちゅ、僅かに湿った音を響かせながら、望の指先が可符香の秘所を何度も撫で回し、浅くかき回す。  
もはや望の与える刺激に体を躍らせるばかりとなった可符香に、望はさらに何度も何度もキスをする。  
夢中で互いの唇を、唾液を求め合い、舌を絡ませあう中で二人の意識は陶酔の中に飲み込まれていく。  
望も可符香も既に呼吸は行きも絶え絶えで、その視界には互いの姿しか映っていない。  
そんな中、可符香が囁くような、微かな声で呟く。  
「せんせ……きてください……私、先生が欲しいです………」  
望も、その言葉に静かに肯く。  
「はい。私も、あなたの全部が欲しい………」  
言ってしまってから、二人は互いに照れくさそうに笑い合う。  
それからゆっくりと、望は可符香の上に覆い被さるように態勢を変える。  
大きくなった自身のモノを可符香の秘所にあてがうと、伝わり合う体温の思いがけない高さに、二人はビクリと体を震わせた。  
「風浦さん……愛しています……」  
「先生……私も、大好きです……」  
言葉を交わし、笑顔を交し合い、最後にもう一度口付けをする。  
それからゆっくりと、望は可符香の中へと、進入を開始し始めた。  
「…っく……あ…痛ぅ……」  
望が奥へと進む内に、ほどなく訪れた引き裂くような痛み。  
可符香は下唇を噛み、望の背中に必死に抱きついて、それを堪えようとする。  
だが、まといとの一件で傷ついた彼女の指先には十分な力が入らず、望の背中に回した腕もかすかに震え始める。  
「風浦さん、大丈夫ですか……?」  
だが、それを察したように、望の腕がかわりに可符香の体を包み込んだ。  
望の細腕からは信じられないような力強い感触に抱かれて、可符香の心と体はようやく安らぐ。  
「辛いようでしたら、無理はしない方が……」  
「いえ、先生に抱きしめられてたら、だんだん平気になってきましたから……」  
気遣う望に微笑んで、可符香はこの行為の続行を促す。  
望はおっかなびっくり、可符香になるべく苦痛を与えぬよう慎重に、ゆっくりと腰を前後に動かし始める。  
 
「っく…うああっ…あっ……せんせ…のが…なか……うごいて……っ!!!」  
先ほどよりも若干は和らいだものの、やはり繋がりあった部分の痛みは続いていた。  
だが、それに混じって感じる、自分の中にある望の質量、熱が可符香の心と体を震わせる。  
「ああっ…風浦さんっ!!……風浦さんっ!!!」  
望もまた、抱きしめる腕の中に、繋がりあった部分の熱に、全身で感じる可符香の存在に夢中になっていく。  
ゆっくりと、二人の動きは次第に加速していく。  
乱れる呼吸の合間に息継ぎのようにキスを交わし、互いを抱きしめる腕にはさらに力がこもる。  
「くぅ…ああっ……あはぁ…あっ…せんせっ……あああっ…先生ぃいいいいっ!!!!」  
涙をこぼし、可符香は何度も何度も望を呼んだ。  
いまや下腹部に感じる熱と痛みは渾然一体となり、ほとばしる電流のような衝撃をともなって可符香の体を幾度となく貫く。  
行為が加速していくほどに、全身がさらに狂おしいほどに望の存在を求め、可符香の意識はその熱の中に溶けていく。  
求めて、求められて、汗に濡れた肢体を絡ませ合う。  
望に突き上げられる毎に、頭の中を覆う真っ白な稲妻に声を上げ、涙をこぼして可符香はさらに強く望を抱き寄せた。  
「うっ…ああっ……風浦さぁんっ!!!」  
「ひぁ…あああっ…せんせ…好きっ!!…大好きぃいいいっ!!!!」  
心も体も全てが溶けていく灼熱の中、二人は我を忘れるほどに行為に没入していく。  
だけど、それでも、目の前の愛する人だけは見失わない。  
ただそれだけを求め、求め続けて、今の二人はここにいるのだから……。  
「…ああっ…せんせ……私…もう…っ!!…ふああああああっ!!!!!」  
「風浦さん……私も…!!」  
やがて、互いを求め続け、高まり続けた熱の中で、二人は限界を迎える。  
望と可符香の心と体の中、弾けとんだ凄まじい熱の塊が、津波となって二人の意識を押し上げる。  
「くぁっ…ああああああっ……風浦さんっ!!…風浦さんっっっ!!!!」  
「あああああああああああっ!!!!…先生っ!!!…先生ぃいいいいいいいいいいいっ!!!!!!」  
そうして、きつくきつく抱きしめあった二人は、絶頂の高みへと上り詰めたのだった。  
 
 
ガラガラガラガラガラ。  
引き戸が開かれる音が聞こえて、霧は顔を上げた。  
宿直室の入り口に立っていたのは、彼女にはお馴染みの常月まといの姿だった。  
「ちょっと、いい……?」  
「うん、いいよ……」  
霧の答を聞いてから、まといは宿直室の畳の上、霧のとなりに腰を下ろす。  
霧は、まといの横顔を見ながら、いつにない優しい口調で語りかける。  
「駄目…だったね……」  
「……そうね」  
「失恋しちゃったね………」  
「……うん」  
そのまま、それ以上言葉もなく黙りこくってしまったまといに、霧は自分の毛布をふわりとかけて  
「な、何すんのよ!?」  
「私、もう泣くのすませたから……」  
「だから、何?」  
「泣いてもいいよ……」  
霧のその言葉に、まといは一瞬どうして良いかわからずに戸惑いの表情を浮かべ、しばらく沈黙してから  
「……………」  
ぽすん、と霧の毛布の中に顔を埋めた。  
霧はそんなまといの頭を撫でながら、宿直室の窓から見える夜の空を、ただじっと見つめ続けていた。  
 
望と可符香は、二人の始めての行為を終えてからずっと、狭いベッドの上に寄り添って体を横たえていた。  
「………ていうか、このベッド、私にはちょっと長さが足りないような……」  
「あはは、先生、無駄に身長高いですからね……」  
「む、無駄とはなんですか、無駄とはっ!!」  
時折軽口を叩き合いながら、親密な空気の中で、二人だけの時間を過ごす。  
「……ずっと、一緒なんですよね……」  
「はい、どんな事があっても、きっと、ずっと一緒に……」  
これから過ごす日々の中で、あらゆる物が二人の行く手を阻むだろう。  
そんな中で、二人が寄り添って生き続ける事は、言葉にする以上の困難だ。  
だけど、それでも、今の二人に迷いはない。  
望にとっては可符香が、可符香にとっては望が、互いに代える事の出来ない心の中核となっているのだ。  
今の二人にとっての自分自身とは、相手を思う熱く強いその感情をもひっくるめて、初めて自分自身なのだから。  
たとえ銀河系の端っこと端っこに飛ばされても、互いを思い、生きていこう。  
二人が、お互いを目指して歩くのなら、どれほど広大な距離に隔てられても、それは実際の二分の一にしかならない。  
あなたの心に私があるように、私の心にあなたがあるように、それが二人の行き方なのだから。  
そして、だからこそ二人は、今一度、確かめ合うように互いの気持ちを口にする。  
「愛していますよ、風浦さん……」  
「私も、愛してます、先生……」  
口付けを交わし、二人は微笑んだ。  
互いの瞳に、愛する人の姿を映して………。  
 

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