校則の『暗黙のルール』化によって、いつも以上にドタバタした今日の学校も既に放課後を迎え、太陽が西の空を赤く染めていた。  
木野国也は夕陽の差し込む廊下を一人歩いていた。  
特に用事があるわけでもないのに、こんな時間まで学校に残っていたのには理由がある。  
待ち人がいるのだ。  
「加賀さん、そろそろ補習、終わったよな」  
木野が思いを寄せるクラスメイトの少女、加賀愛は先日の試験を休んでしまったため補習を受けているのだ。  
木野はその補習が終わるのを待って、彼女と一緒に帰ろうと考えていたのだが……  
「ん?あれって……先生か?」  
しばらく廊下を歩いた先に、全身に耳なし芳一の如くびっしりと文字を書かれ、半裸の状態で倒れている男がいた。  
近づいてみると、どうやらそれは2のへの担任教師、糸色望であるらしかった。  
「この様子だと……また、ウチの女子達に玩具にされたパターンだな」  
望は担当するクラスの女子の多くから好意を持たれているのだが、その女子達がくせものなのである。  
一癖も二癖もある彼女たちは、気の向くままに行動し、時折このように望を悲惨な目に遭わせてしまう。  
「そういえば、加賀さんの補習って、先生の担当だったよな」  
足元に転がる望の姿を見つめながら、木野は呟いた。  
どの時点で望がこんな有様になってしまったのかはわからないが、この分ではマトモに愛が補習を受けられたかどうかはかなり怪しい。  
「もしかしたら、加賀さん、もう帰っちゃってるかもな……いや、でも、加賀さんの事だから……」  
愛が、こういう時にサラッと見切りをつけてさっさと学校を帰ってしまえるような性格ならむしろ問題は無いのだ。  
しかし、重度の加害妄想を抱えている彼女ならば、勝手に帰っては迷惑をかけてしまうと、いつまでも望の帰りを待っていてもおかしくない。  
「よし!もしかしたら、誰かが加賀さんにこの事を伝えてくれてるかもしれないけど、一応、確認だけはしてみるか」  
暗い教室でいつまでも望を待ちわびる愛の姿を思うと、木野はいてもたってもいられなくなってきた。  
武士の情けとばかりに、はだけていた望の着物をキチンと直してやってから、木野は補習が行われる筈だった教室に急いだ。  
だが、そこで彼はとんでもないものを目にしてしまう。  
「加賀さんっ!!」  
ガラガラガラガラガラッ!!!!  
勢い良く扉を開いて飛び込んだ教室の中、木野は目の前に現れた光景に我が目を疑った。  
「あっ……木野君!?」  
ピッチリと閉じられたカーテンによって、夕陽さえも遮られた薄暗い教室。  
そこに、一組の布団が敷かれていた。  
その上で掛け布団をかぶって、木野の姿を呆然と見つめている少女の姿があった。  
「加賀さん……何してんの!?」  
「あ、その…これは……あの…!!!」  
布団の中の少女、加賀愛と木野は驚愕の表情で固まったまま、しばらくの間互いに見詰め合う。  
「えっと…加賀さんは…補習…受ける筈だったんだよね?」  
呆然と呟く木野の視界に映る景色は、どう考えても勉強をしようという様子ではない。  
暗がりの教室を照らすものは、布団の枕元に置かれた灯りがただ一つだけ。  
薄明かりの中に浮かび上がる教室の光景は、なんだかとってもイケナイ雰囲気で、それだけで木野は何だか恥ずかしくなってしまう。  
しかも、枕元に灯りと一緒に置かれている本のタイトルは『夜の補習』ときたもんだ。  
どう考えても、マトモな状況ではない。  
「あっ…これには、理由があるんです……っ!!」  
戸惑うばかりの木野の様子を見て、何か言わなければならないと思ったらしい愛が口を開くが、これがまた良くなかった。  
「…こ、これは…補習を受けて……きちんと成績をつけてもらう為に……」  
愛の言葉に嘘偽りはなかったが、そこには重要な要素が抜けていた。  
このいかがわしい教室の風景は、そもそも誰の考えによるものなのか?  
その点をハッキリと説明していなかったのだ。  
木野は必死に考える。  
(この補習はそもそも、先生が加賀さんにやらせたわけだから……)  
彼は、廊下に無残な姿で転がっていた担任教師の姿を思い出す。  
例えば、こう考えれば辻褄が合うのではないか?  
望は今は枯れているように見えるが、彼の妹の倫の話によると、昔は男女のべつまくなしだったという。  
そんな彼が、成績の事を理由に、愛にいやらしい行為を強要したのだとしたら?  
 
そして、それは一度は成功しかけたように見えた。  
だが、その現場を2のへの他の女子達に見られてしまったのだ。  
その結果、望は女子連中に散々に弄ばれ、廊下の隅に打ち捨てられた………。  
「これで、全部説明がつく………」  
木野の表情がみるみる怒りの色に染まっていく。  
「ちくしょうっ!!!担任教師だからって、こんな無茶な道理が通ると思ってんのかよ!!!」  
「あっ!?木野君っ!!!」  
怒りの声を上げて、教室から飛び出そうとする木野を見て、愛は何やらとんでもない誤解が生じてしまった事に気がついた。  
「す、すみませんっ!!!木野君っ!!待ってくださいっ!!待ってくださいっ!!!!」  
「は、放してくれ加賀さん、俺は絶対にアイツを許さねえっ!!!」  
木野の腰に縋りつき、愛は必死で彼を止めようとする。  
木野の口ぶりからすると、どうやら彼の怒りは誰か第三者に向けられているらしいのだ。  
どうあっても、ここで木野を行かせてしまう訳にはいかない。  
自分の発言のために、木野や、他の誰かにまで迷惑をかけるなんて、許されるはずが無い。  
愛が木野の体を思い切り引っ張った、その時だった。  
「うわっ!!?」  
ほんの偶然に、木野は布団の端を踏んづけて体勢を崩してしまう。  
バランスを失った彼の体は、力いっぱいに引っ張ってくる愛の腕によって後ろへと倒れる。  
そして……  
「あっ……!?」  
「す……すみません…」  
ドサッ!!  
木野は愛の体の上に覆い被さるように倒れてしまった。  
ほとんど受身を取る事もできなかった木野だったが、間に掛け布団が挟まった事で衝撃は吸収され、愛も怪我をしている様子はない。  
布団の上の二人はただ呆然として、おでことおでこがくっついてしまいそうな至近距離で見詰め合う。  
「本当に……すみません…なんだか、誤解させてしまったみたいで……」  
「そんな、木野さんは……」  
「いえ、本当に違うんです………これ、全部私がやった事なんです……」  
それから、こみ上げてくる罪悪感に任せて、愛は木野に、自分がどうしてこの教室で布団なんかに包まっていたのか、その理由を説明し始めた。  
愛曰く、それは匿名の指示だったという。  
補習の行われる教室で、夜具を用意して、糸色望を待つべし。  
それが、補習を受ける上での、暗黙のルールなのだと、そう伝えられたのだ。  
その指示の意味するところを理解してから、愛は考えた。  
(こんな事が暗黙のルール………でも、確かにそれぐらいしないと、きちんと補習は受けさせてもらえないのかも……)  
その指示を疑う気持ちもあるにはあったが、生来気弱な彼女は結局それを実行する事に納得してしまった。  
だが、結果は散々だった。  
補習を行いにやって来た望は、布団の中で待っていた愛を見るなり、教室を飛び出していってしまった。  
「だから、先生が廊下で倒れていたのも、きっと私が悪いんですっ!!!」  
「いや、そんな事はないと思うよ。多分、あれはクラスのみんながいつもの調子でやったんだ」  
「本当に、そうでしょうか?」  
「大丈夫、請け合うよ」  
木野の言葉を聞いている内に、愛もだんだんと落ち着いてきたらしい。  
それからしばらくの間、木野はそのままの体勢で、加害妄想に震える愛の頭を撫でていたのだが……  
(……って!?そのままの体勢!!?それじゃあ、今、俺は……)  
だんだんと気持ちが落ち着いてくる内に、二人は今の自分達が置かれた状況に気付き始める。  
 
よくよく考えれば今の二人は、掛け布団越しとはいえ、木野が愛を押し倒し、その体の上に覆い被さっているような体勢になっているのだ。  
(ま、ま、ま、まずいっ!!!いくらなんでも、これは……っ!!!!)  
(あ…うあ……木野君の体が……私の上に………っ!!!)  
ようやく事態を把握しはじめた二人は、猛烈な気恥ずかしさに襲われる。  
早くこの体勢から脱出しなければ!!  
だが、一旦、互いの存在を意識し始めると、ほんの些細な行動でさえもが途端にとてつもなく恥ずかしく感じられるようになってしまう。  
愛の上から体をどけようと、木野の体の下から這い出ようと、二人が動く度に、手と手がぶつかる、足と足が当たる。  
相手の体の感触を感じるごとに、二人の顔は急速に赤くなっていく。  
さらに、掛け布団越しであるという中途半端さが状況をさらに悪化させた。  
布団の厚みの向こう側に、相手の体の輪郭をより鮮明にイメージしてしまう。  
そうやって、木野も愛も互いにどうする事も出来ず、ジタバタと布団の上でもがいている内にそれは起きた。  
二人が、互いの体から離れようとする動きが偶然に重なり合い、愛と木野のおでこがぶつかり合ってしまったのだ。  
「あ……!」  
「うわ……っ!」  
その思いがけない衝撃に、愛は咄嗟に木野の体に抱きついてしまう。  
木野も、愛のその意外すぎる行動にしばし呆然としてから……  
「か、加賀さん……っ!!」  
「ひゃぁ……っ!!!」  
思わず、愛の体を抱きしめてしまった。  
ドキンドキン。  
二人の心臓の鼓動が、これ以上ないぐらい近くでビートを刻む。  
まるで体が燃え上がってしまったかのように体温が上昇し、愛も木野も自分では気付かないままに相手を抱きしめる腕にさらに力を込める。  
ぎゅっと抱きしめた腕の中に広がる体温の愛おしさ。  
やがて、熱に浮かされたように、二人は互いの唇を近づけてゆき……  
「加賀さん…加賀さん……っ!!!」  
「あ…木野君……んっ…んぅ!!」  
一度、唇を重ね合わせたが最後、夢中になって強く激しく互いの唇を味わう。  
無我夢中、ほとんど忘我の境地のまま、幾度と無くキスを繰り返してから、二人はようやく唇を離す。  
「…………」  
「…………」  
見詰め合う二人の間に言葉は無かった。  
だが、木野も、愛も、自分達が抗いようの無い怒涛の如き流れの中に飲み込まれてしまったのだと理解していた。  
それからすぐ後、二人のいる教室の扉は閉ざされ、内側からしっかりと鍵がかけられた。  
 
兎にも角にも、外界から遮断された環境を手に入れて、木野と愛の興奮はいよいよ高まっていた。  
「あ…う……その、加賀さん……」  
「は、はい…なんでしょうか?」  
それでもまだ木野の心には迷いもあった。  
状況に流されてこんな事になってしまったが、果たしてこれは本当に愛の望んでいる事なのだろうか?  
「……なんだか…勢いでこんな事になっちゃって…キスなんかしたりして…でも、もしも加賀さんが嫌なら今からでも……」  
我ながら情けない言い様だとは思ったが、今の木野には現在の状況は夢の出来事の中のようで、まるで現実感がない。  
本当にこのまま、この熱に浮かされて、愛の事を求めるのが正しいのか、すっかりわからなくなってしまっていた。  
だが、そんな木野に愛はおずおずと、しかしはっきりとこう言った。  
「…う、嬉しいです…私は……木野君と…木野君が、あんな風に私なんかの事を抱きしめてくれて…あんなに強くキスしてくれて……」  
それは、恥ずかしさで今にも胸が張り裂けてしまいそうな愛の、精一杯の言葉だった。  
それは最後の一線で揺らいでいた木野の背中を、強く前に押し出す。  
 
「か、加賀さんっ!!!」  
一組の布団の中で、木野は愛の華奢な体を強く強く抱きしめる。  
先ほど以上に激しくキスの雨を降らせ、片方の手で愛と指を絡め合い、もう片方で愛のうなじから首筋をつーっとなぞった。  
ビクンッ!!  
僅かな刺激にも敏感に反応する愛の体に、さらに愛おしさを募らせながら、木野の指先は愛の胸元へと伸びる。  
「あ…すみません………私…体…貧相ですから……」  
「えっ…そんな事ないと思うけど……」  
どうやら、愛は自分のスタイルに自信がないらしい。  
確かに胸は大きい方ではないけれど、木野が見る限り標準的な程度の大きさはあるように見える。  
全身を見ると、線の細さが目立つが、それはどことなく儚げな愛のイメージに合っているように思えた。  
要するに、個性の問題だ。  
木野にとっては何より、愛の姿が美しく可愛らしくその目に映るのだ。  
「きれいだよ…加賀さん……」  
「そ、そんな事……きゃっ!?」  
戸惑う愛の胸を、セーラー服の上から優しく愛撫する。  
手の平から伝わってくる愛のぬくもり、柔らかさ、それらが木野の意識をさらに深くこの行為にのめり込ませていく。  
「…ひぅ……あっ…や……はぁはぁ……木野…くん……」  
一方の愛も、木野の愛撫によってだんだんと心を蕩かされていく。  
木野の指先の動きはつたなく、ぎこちない。  
だけれども、愛の体をひたすらに慈しむような、繊細で優しい手つきが、愛の心を幸福で満たしていくのだ。  
「……木野君……もっと…たくさん、木野君に触ってもらいたいです……」  
やがて、愛はおずおずと自分の上着を捲り上げ、下着をずらし、その白い肌を木野の前に晒す。  
「…あ……うあ……」  
露になった愛の裸身に、木野はただ言葉を失う。  
それは彼にとって、触れれば砕けて消えてしまいそうな、繊細な彫刻のように見えた。  
「………木野君…」  
愛の声に促されるように、木野は震える手の平をそっと彼女の鳩尾の辺りに触れさせた。  
肌から肌へ、直接に伝わってくる、愛の存在。  
(やっぱり…壊れちゃいそうだ……)  
実際に触れてみても、愛に対するそんな印象は変わらなかった。  
だから、木野はこれまで以上の繊細さで、そっと指を滑らせ、愛の乳房に触れた。  
「……っあ…くぅ……ひぅ……」  
切なげに声を漏らす愛の顔を見ながら、木野はその指先で次々と愛の体に触れていく。  
乳房全体をやさしく揉んだ後、その頂点でピンと張り詰める可愛らしいピンクの乳首を撫でてやる。  
滑らかな素肌の上に指を這わせて、脇腹に、おへその周囲に、何度も刺激を与える。  
そのたびに、ピクン、ピクン、と愛の体は敏感に反応する。  
「…ふあっ…ああっ……木野君…木野君……」  
切れ切れの呼吸の合間に名前を呼ばれて、木野は彼女の求めるままもう幾度目かわからないキスを交わす。  
その間にも、彼の指先は休む事無く、彼女の体への愛撫を続け、二人はただひたすらに互いの存在を求め続ける。  
だけど、どうしてだろう?  
こんなにも近くに居るのに、こんなにも触れ合って、キスをして、目の前の相手の事を精一杯に享受しているのに、  
足りないのだ。  
抱きしめて抱きしめて、触れて触れ合って、それでもまだ、彼女が、彼が欲しいと心が激しく訴えるのだ。  
愛も、木野も、こんな気持ちは初めてだった。  
相手を愛おしく思う気持ちが自分という器の中にさえ納まり切らないほどに、とめどなく溢れ出てくるのだ。  
「…加賀さん…ここも…とっても熱くなってる……」  
「ふぁ…あ……木野君…恥ずかし……っ…あぁ…ふあああああっ!!!!」  
太ももと太ももの間に手の平を滑り込ませ、何度も愛の細い脚を撫で回した。  
脚の付け根に、敏感な部分に近付くにつれて、高くなっていく彼女の声に、木野の心臓も鼓動を早める。  
やがて、たどり着いた彼女の秘所を、下着の上から撫でてやると、愛の全身は雷に撃たれたようにビリビリと震えた。  
「…ひぅ…くぅんっ!…あ…木野君に触られた所……痺れて…変にぃいいいっ!!!!」  
駆け巡る甘い電流に、心と体を震わせて、愛は夢中で声を上げた。  
木野も溢れ出て止まらない想いに背中を押されるまま、一心に愛を求め続けた。  
ショーツの中に差し込まれた木野の手の平は、愛の秘所を優しく撫で、浅く割れ目をかき混ぜて、より大きな快楽を引き出そうとする。  
 
「……っはぁ…はぁ……木野君っ!…ふぁああああっ!!!…私っ…私ぃいいいいっ!!!」  
「…加賀さんっ!!…ああっ!!加賀さん――――っっっ!!!!」  
二人を照らすのは、枕もとの弱弱しい灯りが一つきり。  
ほとんど相手の事しか見えないこの暗がりの中で、木野と愛は目の前の愛おしい人と快楽を分かち合う悦びに溺れていく。  
やがて、二人はどちらからともなく、より強く、より深く、この熱情の中で一つになりたいと願い始める。  
「…加賀さん…俺……」  
「…はい…木野君……お願い…します……」  
スカートとショーツを脱いで、露になった愛の大事な場所に、木野は大きくなった自身のモノをあてがう。  
最初はふとした弾み、ほんの偶然の出来事の筈だった。  
それがいつの間にか、こんなにも激しくお互いを求め合っている。  
正直、木野も、愛も、そんな自分達がこうしている事がまるで夢のように思える。  
だが、この胸に湧き上がる愛しさと熱は、まぎれもない現実なのだ。  
「いくよ、加賀さん……」  
「あっ…木野…くん……」  
ゆっくりと、木野のモノが愛の中に挿入されていく。  
やがて、彼女を襲った引き裂くような痛みに、愛は全身を震わせ、それを感じた木野も一瞬躊躇するが……  
「………ん…くぅっっ!!!…うあ…あああっ!!!!」  
背中をぎゅっと、強く抱きしめる愛の腕が行為を止める事を許さなかった。  
愛の心の中で高まった情熱は、いまや木野を受け入れるこの痛みすらも強く求めていた。  
やがて、愛が木野の全てを受け入れ、一つに繋がりあった二人は、高まる想いのままに互いの熱を、存在を求めて行為に没入していく。  
「あぁっ…くぅ……うぁ…加賀さんっ!!加賀さんっ!!!」  
「ひあっ…や…はぁああああっ!!!…木野くんっ!!…木野くぅんっっっ!!!!」  
指を絡めあわせ、互いの手の平を強く握り合い、呼吸も忘れるほどにキスを繰り返す。  
汗ばむ肌、際限なく高まっていく体温の中、溶けて混ざり合い、一つになっていくような錯覚を覚えながらも二人の行為は加速していく。  
「あっ…くぁあああっ!!!…や…はげし…あああああっ!!!!」  
突き上げられるたび、愛の体を駆け抜ける熱と痛みと、言い表しがたい切なさ。  
木野が与える激しいその感覚に、神経の全てを塗り潰されて、愛はその中で我を忘れていく。  
木野も、抱きしめて、抱きしめ返される度に高鳴る鼓動に、体が壊れてしまいそうな錯覚を覚えながらも、行為を止める事ができない。  
ただ、駆け巡る熱の嵐の中で、二人は溶鉱炉の中で溶けていく鉄よりも熱く、ドロドロに溶け合って、ただひたすらに互いを求め合う。  
「ひはぁ…あああっ!!…木野くん…すごく……熱くて…私……っ!!!」  
「あああっ!!…加賀さんっ!…俺も…加賀さんの体、熱すぎて……っ!!!」  
教室の中、唯一の光源である枕元の灯りが、二人の交わる影を壁に映し出す。  
その中で、愛と木野の二人は、ほとんど見分けがつかないほどに一つに重なり合って、激しく交わり続ける。  
二人の汗が、吐息が、零れ落ちる涙が、混ざり合って互いを分かつ境界線を曖昧にしていく。  
何度も何度も呼び合う互いの名前ですら、いつしか自分のものと相手のものとの区別すらつかなくなってしまったような気さえする。  
(一つになりたい……)  
(加賀さんと…本当に一つになってしまいたい)  
(木野君と、もう二度と離れられないぐらい、一つになって……)  
(もっと強く、もっと激しく、愛して、愛されて……)  
((この熱の中で、いつまでも二人で愛し合っていたい……っ!!!))  
高まり合う二人の想いに呼応するかのように、二人が分かち合う快楽と熱もやがて臨界点を突破する。  
「…加賀さんっ!!…くっ…俺……もう…っ!!!」  
「…ひあっ…ああっ…何か熱いのがこみ上げて……ああああっ!!!…木野くんっ!!木野くぅんっっっ!!!!」  
限界を越えた二人の中で、凄まじい熱量がこみ上げてくる。  
それは容易く二人の神経を焼き尽くし、激しい絶頂へと二人を導く。  
「…ああああっ!!!!加賀さんっ!!加賀さぁああああああんっっ!!!!」  
「ふあああああっ!!!!木野くんっ!!!木野くぅうううううううううんっっっ!!!!!」  
強く強く抱きしめ合い、互いの名前を呼び合いながら、二人の意識は絶頂の熱の中でホワイトアウトしていった。  
 
それからしばらく後、木野と愛の二人は、まだ例の教室の中にいた。  
衣服は既に直していたが、何となく先ほどまでの行為の余韻が抜け切らない二人は、  
狭い布団の中に仲良く並んでもぐりこんで、じっと天井を見つめていた。  
二人の間に会話はない。  
お互い、自分が勢いだけであんな行為に及んでしまうとは思いもしなかったのだ。  
恥ずかしくて、隣の相手に話しかける事ができない。  
ただ、心と体が繋がりあった証であるかのように、二人の手の平だけは布団の下でしっかりと握り合っていた。  
(……なんだか、まだ信じられないな……俺と加賀さんが……あんな事になるなんて……)  
今回の二人の行為を後押ししたのは、信じられないくらいの偶然の連鎖だ。  
もし、愛に対して匿名の指示とやらがされなかったら。  
もし、望が教室から逃げ出さなかったら。  
もし、廊下の脇で倒れていた望に木野が気付かなかったら。  
もし、あの時、木野が愛の上に倒れこまなかったら。  
考えればキリがない。  
(ここまで、都合よく色んな出来事が重なると、何だか今度の事自体がまるで嘘みたいに思えてくるな……)  
木野の胸をふとよぎる、そんな考え。  
そもそも、愛が彼を受け入れてくれた事だって、何かの気の迷いじゃないのか。  
一度考え始めると、不吉な想像は次々と湧き出て、木野の頭の中はそんな考えでいっぱいになってしまう。  
しかし……  
「木野君……」  
そう呼びかける声に、木野はそっとそちらの方向に視線を向ける。  
少し心配そうに、自分を見つめる愛の眼差し。  
「何を…考えていたんですか……?」  
問いかける声の優しい響きを聞いて、木野は確信する。  
ああ、嘘じゃない。  
この気持ちも、彼女の気持ちも、一かけらだって嘘じゃない。  
「ちょっと、どうでもいい事を考えてただけだよ。心配しないで、加賀さん……」  
愛の心配を少しでも払拭できるよう、なるべく明るい声で木野は答える。  
それを聞いて、愛もようやく安心したような表情を浮かべる。  
そうだ、怯える事なんて何も無い。  
(加賀さん、大好きだよ……)  
想いを込めて、きゅっと彼女の手を握る。  
すると、彼女も同じように、強く優しく木野の手を握り返してくれた。  
それから、愛はとても嬉しそうに、木野に微笑む。  
それは、これ以上ないくらいに最高の、木野の想いに対する愛の返答だった。  
 

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