悪態── 他に形容の仕様がない言葉を吐きながら、広い廊下の真ん中を遠慮の無い足取りで歩いている。  
片手を腰に当て、行き交う男子生徒と比べても長身な背を真っ直ぐに、堂々とした態度で胸を張り、靴音を立てている。  
ひときわ短いスカートから伸びた脚は元々の長さをさらに強調するように、ほとんど腿の付け根近くまでもをさらしており、  
僅かにでも風が吹いたりしたら簡単にその中身が見えてしまうだろう。  
だが、すれ違う男子生徒の視線はそのポイントには無く、むしろ奇異の視線が一人喧嘩腰の口調で喋り続けながら歩くその少女の仕草に集まっている。  
長身な上、背中に長く伸ばした明るい金色の髪という姿は普段でさえ目立つというのに、  
その少女が何か見えない相手と口論でも繰り広げているような様子でいれば、注目を集めてしまうのは必然といえるだろう。  
「だからもう! いつまでもウザイ事言い続けても始まらないだろ!? ウジウジ考えんな!」  
突然立ち止まり、今までの調子とは違った、怒気をはらんだ声を上げ、その場で床を蹴りつけた。  
その大きく響いた声と音に驚いた周りの生徒達は一瞬体をすくませ、そっと見守るようにそれぞれの視線が集まる。  
激しい声を吐き捨てた少女だったが、次には一瞬その表情が止まり、頭痛でも起こったように眉間にシワを寄せて軽く呻き、頭に手をやってみせた。  
だが、すぐに姿勢を正し、少し前屈みがちな格好で両手をスカートの前に置き、うつむき加減になった顔に悲しそうな表情を浮かべると、  
カールのかかった長い金髪を揺らして頭を左右に振った。  
「……どれだけ想っても、叶わぬ事は承知していますもの。──だから …だから、私、愛しきあの方の姿と思い出を胸に、  
一人静かに、つつましく、この一生を終えたいと思いましたのです」  
物憂げな瞳を潤ませ、胸に手を置き、その少女の口からは先ほどまでとは打って変わり、今にも消え入りそうな細々とした声が漏れ出した。  
廊下の窓から入り込んだ風が、緩やかにウェーブしている金色の髪を、柔らかそうに揺らし──  
「はああ!!」  
止めていた息を吐き出したような声を出して勢いよく顔を上げ、ギリっと歯を食いしばる音をさせる。  
「冗談じゃないわよ! 一生ぉ!? 馬鹿じゃないの!? 無駄すぎるだろ、そんな人生!」  
信じれないと言ったふうに目を見開いて叫び、そのまま大きく首を横に振ってみせると、  
少し落ち着いたのか軽く息をついて前に垂れてきた髪を肩越しに背中へと返し、少し手ぐしを通すようにして整え直した。  
「ん……?」  
そこでふと、周囲の生徒達から自分に注がれる視線に気がつき、少し唇の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべ、  
脚を肩幅に開いて片手の甲を首筋にあて、モデルのような姿勢を取ってみせる。  
大きく胸を張ると、遠目でも分かるほど豊かにブラウスを押し上げる膨らみがくっきりと形を作り、  
その中にネクタイが隠れてしまうほどの谷間を作り出している様子が分かった。  
「なにジロジロ見てるのよ? ──訴えるよ」  
軽く睨むような笑みを周囲に送りながら、さらりとした口調でそう告げると、  
──ぶいんっ!!  
そんなはずは無いのだが、確かに聞こえた風を切る音と共に周囲の生徒達が一斉に顔を背け、まとわり付くように感じていた視線の気配が瞬時に消え去った。  
「……ちょっ!? 何なのよ!?」  
申し合わせていたかのように揃った周囲の反応に、思わず愕然とした表情となり、  
きょろきょろと首を振って、視線を逸らしつつ静かに通り過ぎようとして行く生徒達の姿を追い──  
突然、開いたままの窓から吹き込んできたつむじ風が廊下を通り、  
長い両足の間を通り抜けた事を示すようにその短いスカートの生地を捲くりあげ、下着がさらされる。  
「きゃっ……!!」  
短い悲鳴をあげ、慌ててスカートの前を押さえるが、下着の後ろは丸出しのまま、はためくスカートの下で形の良いヒップラインの張りを公開していた。  
おおおおおおおおおおおお!!  
それと同時に廊下にいた生徒たちから一斉に感激したようなどよめきが響き渡り、うち何人かがこちらに駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。  
色白の頬をやや朱色に染めながらも、強気な視線は崩さないまま、少し微笑んでいるかのような表情で顔を上げる。  
──が、正面の方向から廊下を駆けてきた生徒は、視線を窓の外に向けたままその横を素通りしてゆく。  
「…あ?」  
一瞬ぽかんと口を開け、通り過ぎて行った生徒たちの方を振り向いた途端、  
「智恵先生がセーラー服を着ているぞぉぉぉっっ!!」  
「眼福だあぁぁ!!」  
 
「生きててよかったぁー!!」  
口々に魂の底から湧き上がってくるような雄叫びを上げながら、我先にと地響きを立てて廊下を走りぬけてゆく。  
 
やがてその騒音が収まり、教室の中にすらだれもいなくなってしまったのか静まりかえった廊下でしばし固まっていた少女は、  
やがて真っ直ぐに背を伸ばして、両方の拳を握り締める。  
そして、ショックを受けたように引きつった表情で、大きく息を吸い込んでみせる。  
「訴えてやるっっ!!」  
涙目になりながら全身に力を込めて叫んだその声は、静かな廊下に響きわたり、微かに窓を震わせて校舎の中をこだまして行った。  
 
 
「……ああ ……日が長くなりましたよねえ……」  
未だ微かに茜色の名残を残した窓の外を遠い目で眺めながら、先生は小声でぽつりと漏らしていた。  
明かりのついていない部屋の中には十数個の事務机が整然と並べられ、  
机上に立てられているファイルやら教科書などの冊子がそれぞれの机にぼんやりとしたシルエットを落としている。  
やがて放心していたような顔を目の前にある自分の机に向けると、小さく溜め息をついてみせた。  
「…さて、どうしたものでしょうかね……」  
微かに聞こえる小さないびきに耳を澄ますように、静かな動作で体ごと向き直る。  
椅子に腰掛け机の上に上半身を突っ伏した状態で身じろぎ一つしないその背中には、薄暗い中でもはっきりと分かる金色の髪が腰まで流れている。  
他の生徒達とは異なる特徴的な制服姿と併せて見れば、それが誰であるかは考えるまでも無く判別できた。  
「……今の木村さんがカエレさんの人格ですと下手に起こせば訴えられそうですし… スルーして帰っても、  
これもまた保護責任が云々となるかもしれませんね……」  
困り果てたように眉をしかめ、先生が小さく唸り声を出した時、カエレの座っている椅子が小さく軋む音を立てた。  
「──はっ!?」  
その音と揺れに反応したのか、ほぼうつ伏せの状態でいた体を跳ね上がるように起こし、カエレは未だ少し眠気が残っていそうな表情で周囲の様子を伺う。  
「…あ…… おはようございます」  
半笑いでとりあえず挨拶の声をかけた先生を一瞥し、そのまま視線をぐるりと部屋全体に巡らせると、  
意識が完全に覚醒したのか額に青筋を立てて荒い声を上げた。  
「ちょっとぉ!! 職員室に生徒ほったらかしで先生達が全員帰宅ってありえないだろ!?」  
目を見開いて激昂するカエレに、先生は愛想笑いを浮かべて目の前で両手を広げ、「まあまあ」と言いながらその手を軽く振って見せる。  
「…きっと、あまりに気持ちよく寝ていらっしゃる木村さんを起こすのが恐……いえ、忍びなかったのでしょう。  
──えー、まあ、それはそうと、木村さんはなぜここにいらしたのでしょうか? もう、とっくに下校時間は過ぎてしまっていますよ?」  
おちついた声でなだめるように話す先生に、少し眉を寄せながらも軽く鼻で息をつくと、カエレは椅子を軋ませて座りなおした。  
「──中々来ない先生を待ちくたびれて居眠りしてしまった訳ですから、この責任の所在は先生にあります」  
きっぱりと言い放つカエレに、先生は困惑した顔で笑いながら言葉を返す。  
「…それは、かなり理不尽に思えるのですが…… つまる所、私に御用があるという解釈でよろしいのでしょうか?」  
首をかしげて訊ねる先生に、カエレは一つ頷き、  
机の上に片肘を乗せて椅子の背にもたれかかり、長い脚を組みながらもう片手の親指で先生の足元を指し示した。  
「目の前で突っ立ってないで座って下さい」  
「…あ、はい」  
短く返事を返し、先生は膝を曲げると、袴の裾を手で払いのけながらその場に正座をしてみせる。  
「……椅子に座って、という意味だけど?」  
「いえ…… 何となくこうしたほうが良い気がしまして。…あ、どうぞ、お構いなく、続けてください」  
片手を小さく差し出して話を促がす先生に、カエレは一瞬眉をひそめるが、特に追及する事無く、一瞬考えをまとめたような沈黙を置いて、口を開いた。  
「──ハッキリ言いますが…… 迷惑しています。 先生が、い……」  
「すいませんでしたぁ!!」  
言葉を続けようとしたカエレを遮ると、正座したままの先生は素早く土下座をする姿勢になり、謝罪の声を上げた。  
「ちょっ!? まだ、理由も何も言ってないじゃ……」  
「いえ! 私がとんだ事をしでかしたせいで御迷惑をおかけしてしまいましたぁ! 何をしたのかは分かりませんが、先に謝らせていただきます!」  
「とりあえず保険で謝るなよ! 話聞けよ! って言うか、聞く気あるの!?」  
腰を浮かし、眉を逆立てて身を乗り出すカエレに、先生は床に顔を伏せたまま首を振ってみせる。  
 
「この責任は重く受け止めます……! また法廷画になるのは嫌です……」  
床を見つめたまま動こうとしない先生の後頭部を嫌そうな顔で見つめていたカエレだったが、  
やがて溜め息をついて肩を落とすと、椅子から立ち上がりながら、声のトーンを落として口を開く。  
「…とりあえず、人払いを要求します。他人に内容を聞かれないような場所への移動を求めます」  
「はい……? ここでは駄目なんでしょうか? ……すでに校内にも誰も残っておりませんが……」  
ようやく顔を上げ、不思議そうに訊ねる先生に、カエレはしれっとした表情で淡々とした声を出した。  
「盗聴器が仕掛けられている危険は?」  
「そ…… そんなに危ない内容のお話なのですか!?」  
「人に聞かれたら先生の身の破滅に──」  
事も無げな口調で恐ろしい事を口にしたカエレに、  
先生の顔色が一瞬で青くなり、がば、と身を起こして机の引き出しから使い込んだ様子のノートを取り出した。  
「何ソレ…? 死に… るる……?」  
「あああっ!! 最近はあちこち取締りが強化されてしまって……! ならもう、あそこしか無いでしょう! …遺書も持って行くべきでしょうか!?」  
「……いいからさっさと引率して」  
あたふたと机の中から色々取り出そうとする先生の背中を押して、カエレはあきれたような溜め息をついて髪をかき上げた。  
 
 
少し錆びたような軋みを響かせながら、重い音を立てて所々ペンキの剥げた扉が閉まる。  
今日はあまり風も無く、蒸した空気はまだ多少残ってはいるものの、昼間のように体にまとわり付くような感じは無い。  
もう黄昏も過ぎ、一面に広がった藍色の空は、西の方に微かな橙の残滓を見せるだけとなり、  
雲もほとんどない上空からは、これから少しずつ冷えた空気が降りてくる気配が伝わってくる。  
「…ここなら、聞き耳を立てられる心配もありませんよ。  
ここより高い建物は周りにはありませんし、こんな時間に屋上へ来る人はまずいませんから、静かに旅立つにはとても良い条件がそろっているのですよ」  
若干、解説するのが楽しそうにも見える先生の声を背中で聞きながら、カエレはゆっくりと屋上の中心へと足を進める。  
少し離れて先生が続き、やがて入口からも縁にあるフェンスからも離れた位置に移動したカエレは、足を止め、  
ゆっくりと振り向くと腕を組んでその場に佇み、先生の方を正面から見据える。  
先生はやや気後れしたような仕草で、カエレから数歩の位置で足を止め、こちらは露骨に視線を外してカエレの方を向いていた。  
「…先生に初めてセクハラされた場所ですか」  
「…何だか、これから少年漫画の対決シーンが始まりそうな雰囲気ですね……」  
「意味が良く分かりませんが」  
噛み合わなかった会話に機嫌を損ねたように、カエレは一瞬不愉快そうに眉をゆがめるが、  
すぐに気を取り直したのか、首を軽く振ってからゆっくりと口を開いた。  
「いつもいつもいつもいつもいつも四六時中、毎日! 欠かさず! ネガティブなダメ教師の話を聞かされる身にもなってみなさいよ!  
 たまったものじゃないわ! 知らないうちに勝手に一目惚れして、全然何も進められずにずっと悩んでる奴の相手をするのは、  
もう、うんざりしてきたのよ! いい加減どうにかしろよ!」  
突然文句をまくし立て始めたカエレに、最初はぽかんとした顔でその言葉を聞いていた先生だったが、  
やがてその言葉の意味する所を探り当てたのだろう、微妙に気まずそうな笑みを口元に浮かべて、そっと窺うような小さな声を返す。  
「……あ…… もしかして楓さん、の事なのでしょうか?」  
「他に何があるのよ? 先生には責任が無いとは言わせないよ! ……断るなら断るで、さっさとすれば一言で済む事でしょうが。  
きちんとフッてしまわないままだから私が迷惑するのよ!」  
イラついたように組んだ腕の中にある指で二の腕をトントン叩きながら、きっぱりとそう言い捨てる。  
返答に詰まった先生が言い淀み、表情を曇らせていると、やがてカエレは力を抜いたように腕組みを解き、少しあごを上げて視線を上に向けた。  
「…って、思ったんだけどねぇ…… それをやると、奴の事だから、一生ずっと引きずったままにしそうでさ。……勘弁してほしいよ、ホントに」  
やや表情をゆるめて、欧米人がよくやるように、両手を広げて肩をすくめる仕草をしてみせる。  
「…そう、ですか…… しかし、それでは一体私はどうすれば……」  
「だから、私、楓の奴と賭けをしたよ」  
「賭け…… ですか?」  
オウム返しに尋ねる先生に、カエレは頷きはせずに視線を先生に向けて、少し早口になりながらはっきりと告げる。  
「一度だけ。…先生と愛の行為をする事が叶ったら、きっぱり振り切るって」  
 
さっきまでずっと止んでいた風が少しだけそよぎ、仁王立ちとなっているカエレの髪とスカートを微かに揺らす。  
それでようやく硬直が解けた様子の先生が、ゆっくりと足を動かして後ずさろうとした所を目に留め、カエレは反射的に身を乗り出して制止の声を上げる。  
「ちょっとぉ! 今、逃げようとしたでしょう!?」  
「…あ、その…… もう夕食時でお腹が空きましたし…… 続きは、また今度と言う事で…」  
「──夕食以下!? 私は夕食以下かよ!?」  
一瞬よろめき、こちらを涙目で睨みながらぶるぶると握った拳を震わせるカエレに、先生は慌てて側まで寄りながら窘めるような声をかける。  
「あああ……! すいませんすいません、訴えないで下さい! ……いえ、夕食はともかく ……木村さん、あなた今興奮して  
判断力が鈍っているのだと思うのですよ…… よく考えて下さい。…私と、楓さんがその……すると言う事は、つまり……」  
「わかってるわよ、そんな事!」  
もうほとんど日が落ちているせいで顔色までは分からないが、眉間にしわを寄せ、めずらしくやや目をそらしながらカエレは忌々しそうな声で答える。  
「一度や二度、過ちで抱かれたくらいで私の価値が下がるものじゃないだろ。  
ダメ教師とするなんて最悪だけど、犬に噛まれたとでも思えば数の内に入らないよ」  
「……犬って…………」  
あからさまな表現で話すカエレの言葉にやや身を引きながらも、先生は少し嫌そうな表情でぼそりと返す。  
またしても口籠ってしまった先生に業を煮やしたのか、  
カエレは何かを振り払うように一度大きく頭を振ってみせると、片手を胸にあてて高らかな声を上げる。  
「ああもう!  私の国では、女子からの告白を受けた男子には、その場で跪き、生涯を捧げる事を誓うのが義務付けられています!」  
「…………はあ」  
「…そして、断った者には20年以上の禁固刑が科せられるよ」  
「犯罪なんですか!?」  
目を見開いて引きつった声を出す先生の袖を逃がさないように掴み、カエレはずいと顔を近づけてくる。  
「さあ! さっさと始めなさいな! …心配しなくても、すぐに楓と交代するわよ!」  
やや切れ長の大きな青い瞳で睨みつけながら、カエレは自分の襟元に手を伸ばしてネクタイを少し緩めてみせた。  
 
いまだ気が進まないように立ちすくんでいる先生の襟に手を伸ばすと、カエレはその着物を引っ張りながらもう片手で床を指差してみせる。  
「先にこれを脱いで、そこに敷いて」  
「……?」  
「こんな床で直接転がったら、私の服が汚れるだろ」  
「そりゃまあそうなんですが…… まあ、いいです。汚れたら、木村さんの帰りが大変でしょうからね」  
いまいち得心はしていない表情だったが、言われるままに着物を脱いで床に広げ、カッターシャツと袴だけという妙な格好になった。  
カエレはふわりと髪をなびかせてその上に腰を下ろすと、少し後ろに反りかえるように体を倒し、  
背中側に回した腕を床に立てて体を支え、目の前に立つ先生を見上げる。  
「先生は教師になる前は相当やんちゃしてたって話だから慣れてるね? じゃ、この後は任せますから。…乱暴な事したら訴えるよ」  
「人聞きの悪い事を言わないでください!」  
「女の子にリードしてもらわなきゃいけない程、経験無いわけじゃないでしょ」  
「それは……」  
ぽんぽんと即座に言葉を返すカエレについムキになっていた自分に気がついたのか、先生は言いかけた言葉を切ると、  
その目の前にしゃがみ込み、膝立ちになりながら、少々気だるそうなポーズでこちらを見ているカエレと同じ目線で向き合った。  
「……カエレさんはお相手に不自由したことなどなさそうですよねぇ……」  
少々気後れしたように苦笑しながらつぶやく先生に、カエレは一瞬片方の眉を上げてから、得意そうに鼻で一つ笑って髪をかき上げる。  
「あたりまえでしょ。このカンペキな顔とボディの美女を男たちが放っておくわけないだろ?   
向こうに居たときは言い寄ってくる男なんて星の数だったよ。……ま、よっぽどの男じゃなきゃ相手しなかったけど。  
それでも喰った相手の数なんて軽く三桁はいってるかしらね」  
ふふっ、と含むように笑いながら、あきらかに上から見下ろすような目線を先生に向けるカエレだったが、  
先生は真面目な顔で首をかしげ何やら片手の指を折りながら数を数えているようだった。  
「……木村さん、たしか三ヶ月くらいの留学でしたっけ? 日替わりでお相手がいたとしても、ちょっと計算が──」  
軽く唸りながら考え込む先生の言葉に、カエレの動きが瞬時に固まり、涙目にゆがめた顔をずいと近づけて引きつった声を投げつけてくる。  
 
「……うっ、訴えてやるっ!! …つーかくだらない事言っていないで、さっさとしなさいよ!  
 女の子を待たせるなんて最低だろ! この国では『据え膳喰わぬは腹八分目』って言うでしょう!?」  
「…いえ、先生そのことわざは存じませんが……」  
掴みかからんばかりの勢いで迫るカエレに、先生はやや身を引かせていたが、  
ふと、今にも噛み付きそうなカエレの背中に手を回すと、そっとその背中に掌を触れさせる。  
ビクッ! と体を震わせて、再びカエレの動きが硬直した。  
先生は固まってしまったカエレの体を背中からゆっくりと抱き寄せるように、自分の胸の前にカエレの頭が来るようにして、膝の上に抱え込んでしまった。  
「……何よ」  
「いえ、何となく…… ただその、……私、木村さんは結構体格が良いがっしりした方だと思っていたのですが──」  
言いながら、両腕をカエレの背中に回してそっと感触を確かめるように抱きしめてみせる。  
「こんなに柔らかなんですね…… 失礼ながらびっくりしていますよ…… スタイルなんか、これほどに発育が良いのに、触れると全然違った感じで……」  
感動したように自分を抱きしめる先生に、少し頬を赤くしながらも、気の強い瞳で上目使いに睨みながらカエレは低い声で答える。  
「…ガキ扱いするなら訴えるよ……?」  
その言葉に先生は小さく肩をすくめ、特に返事はせずに背中に置いた手を、腰の方へと下ろしてゆく。  
見事なくびれを見せている引き締ったその腰を優しく撫でながら進み、すぐに辿り着いたスカートのすぐ上で躊躇したように、一旦その手が止まる。  
「…………いいって言ってるでしょう。今だけは触っても訴えないよ……!」  
即座に様子を察したカエレが少々苛ついた声を上げると、「失礼します」との小さな声と同時に掌がスカートの上をすべり、ヒップラインへと触れる。  
ゆっくりとスカートの上から張りのある丸みをなぞり、裾の方へと手先を進めると、遠慮がちに短いそのスカートが捲られてゆく。  
「…普段から見慣れてるだろうに」  
下着が晒されてゆく様子を感じ、溜め息交じりな声でつぶやくカエレに、先生の苦笑交じりな声が返される。  
「確かに、普段はスベりパンチラくらいにしか思っていませんでしたが…… こういう時に目に入ると、やはり違うものですよ」  
「ス…… スベ……!?」  
ひき と頬を引きつらせるカエレだったが、先生の手が下着の上から自分のヒップを優しく掴んでくると、  
抗議の声を上げようとした口を閉じ、少し視線を逸らしながら、そっとその場所を揉む指の感触を意識しているようだった。  
先生の手が指を伸ばしながら少し位置を替え、その指先が微かに自分の大事な場所に触れると、カエレはギクリと身をすくませて思わず目を閉じる。  
「…あ、失礼しました。…ちょっと、まだ、いきなりすぎますよね」  
慌てて先生の手がそこから引いてゆき、少し安堵したような表情で目を開けたカエレは、  
今度は先生の手がスカートのジッパーを下ろそうとしている事に気がつく。  
「あ……! 服脱ぐのはダメ。……パンツは仕方ないけど」  
「え……?」  
「…万が一誰か来たりしたら、すぐに逃げられないだろ」  
事も無げな表情でそう告げるカエレに、先生は困った顔で少し考え、頬を掻いてみせる。  
「……私は逃げ遅れる事必至ですが」  
「先生の裸なんて、みんな見慣れてるだろ。気にされないよ」  
一瞬嫌そうに顔をしかめた先生だったが、チラリとだけ屋上の入口に目をやると、膝の上にあるカエレの体を抱えてその向きを仰向けに変えてしまう。  
 
「あ……!?」  
驚いたカエレを背中から抱きかかかえ、そのままシャツの上から胸に両手を伸ばし、豊かな膨らみを掌で捕らえた。  
ゆっくりと撫でながら軽く揉み始める先生の手の動きに、顔を赤らめながらも、ヤル気のなさそうな表情でカエレはぶつぶつとつぶやいてみせる。  
「…何なのよ……今日は…… いつものチキンはどこに行ったん……っ、あっ……ん…!」  
シャツの生地とブラに遮られている膨らみの先端を先生の指に探り当てられ、カエレの口から初めての嬌声が漏れ出した。  
「いえ…… しないと訴えられてしまうのなら、これはさすがに私もせざるを得ないといいますか、まあ、その……」  
「不可抗力だってか!? …あっ…… ふ……っ…!」  
先生の手の動きが次第に激しくなり、大きな膨らみをこね回すような愛撫にカエレの口からは何度も溜め息が漏れる。  
「やっぱり… 大きいんですね、木村さんの胸は… 自慢したいのも分かる気がします」  
愛撫を続けながら感心したような声でそう言う先生に、一瞬まんざらでもない笑みを浮べるが  
すぐに少し表情をしかめると、背中側からシャツの中へと自分の手を伸ばしてみせた。  
 
「…ちょっ……と… ブラ…苦しい…… 今……」  
言いながら背中のホックに辿り着いたカエレの指が留め金を外し、  
開放された二つの膨らみは、先生の掌の中に作り立ての餅のような柔らかい感触と、ずっしりとしたボリュームを伝えてくる。  
膨らみを持ち上げるようにすると、たった今緩んだブラのカップが外れたのだろう、シャツ一枚隔てて、硬くなった膨らみの先端が掌に触れる。  
その先端を指の腹で弄ると、声もなくカエレが体を震わせ、そこが敏感な部分である事を知らせてきた。  
しばらくそこを撫でていた先生の指がシャツのボタンに伸びる。  
が、それに気がついたカエレの手が先生の手を叩き、退けてしまう。  
「……え?」  
「…見せてやらない。……触るだけならOK」  
睨むように自分を見上げる青い瞳を覗き込んでいた先生だったが、小さく肩をすくめ、  
次の瞬間素早くシャツの裾を捲くり、カエレのへその上を通って、直に、少し汗ばんだ膨らみを片手で捕まえてしまった。  
「ちょっ…!? …あっ!……あ………あっ…!」  
「触るだけですか……」  
シャツの中をまさぐるように膨らみを愛撫しながら、指先で先端の突起をはさみ、くりくりといじり出す。  
膝の上で、びくびくと体を震わせるカエレの耳もとへともう片方の手を伸ばし、  
頬をなでながら自分の方を振り向かせるように顔の向きを変えてやると、目を閉じて眉をしかめているカエレの唇へ、自分の唇を重ねあわせた。  
「…………んっ……!?」  
驚きに目を見開くカエレの唇を舌先で軽くなぞると、その唇を割って、口内に自分の舌を侵入させてゆく。  
「…………!!」  
反射的に自分の舌に絡み付いてくる先生の舌先を避けようとするが、  
未だシャツの中で続けられる愛撫へどうしても優先して反応してしまい、そのまま狭い口内で先生と自分の舌が絡みあった。  
喉から背中へと抜けるゾクゾクとした感覚に一瞬頭の中に火花がはじけ、唇を離そうとするが、  
口内までもを愛撫する先生の舌先に捕まってしまい思うように動く事ができず、じわりとした物が自分の中から湧き上がってくる様子を感じてしまう。  
「…………! …………っ!! はあ!」  
むりやりに唇を引っぺがすと、カエレはキッと険しい目つきをしてみせ、不服そうな声を上げた。  
「ちょっとお! いつまで私に任せる! 早く交代しなさいよ!」  
切羽詰った声色で文句を放つカエレに、先生は小さく笑うと、頬に添えた手でカエレの耳たぶのあたりをそっと撫でる。  
「…ひょっとして、楓さんが来ないんでしょうか?」  
「応答ナシって! 冗談じゃないわよ! 誰のためにやってると……! ここにきて恥ずかしがってんじゃないわよ!」  
顔を真っ赤にして焦るカエレに、先生は困ったように微笑むと、今度はそっと触れるだけのキスでカエレの唇を塞いだ。  
文句を中断させられ目を白黒させているカエレだったが、先ほどとは違った優しく唇をあわせるキスに、  
次第に落ち着いてきたのか吊り上がっていた目が柔らかく、遠くを見るような瞳をしながらまぶたを閉じて行く。  
耳たぶにあった手は後ろ髪を撫でるような仕草に変わり、  
やがてゆっくりと唇が離されると、一瞬とろんとした表情で目の前の先生を見つめたカエレだったが、すぐに我に返ったように表情が厳しく引き締まる。  
「あのへタレ……! 何考えてるのよ!」  
「楓さんは恥ずかしがっていらっしゃるようですから…… そっとしておいてあげましょうか」  
「できるか! 楓とじゃないと意味ないだろ!?」  
「……私はそうでもありませんが」  
ふっと、真剣な表情となる先生に、カエレは思わず言葉をなくし、  
薄暗がりの中で星明りを携え、逸らすことなく自分を見つめてくるその瞳に思わず息を呑んでしまう。  
──と、いつの間にかカエレのスカートの中に移動していた先生の手が、自分のパンツの端を掴んだ事に気がつくが、  
カエレが動くより早く、先生の手がその布切れをめくり、するすると膝近くまで下ろしてしまった。  
「──!? ……! …………!!」  
真っ赤な顔で目を見開き、  
声も無く何度も口をパクパクさせているカエレの背中に腕がまわされ、床に敷いた着物の上へとその長身をゆっくりと横たえられる。  
覆いかぶさるように目の前にいる先生が、再びスカートの中に手を差し込みながら小さく口を開く。  
「…ここも、見てはダメでしょうか?」  
「絶対、ダメ!!」  
ほとんど脊椎反射で返事を返しながら睨みつけてくるカエレに、先生は残念そうな苦笑を浮べると、  
カエレの片足を上げ、パンツを片脚だけ残して足を抜くと、むき出しの秘所に指で触れた。  
 
「は!? やっ!?」  
身をよじって先生の指先から逃れようとするが、かわそうとした方向を察知したように先生の指が追いかけてくる。  
指先はカエレの秘裂の上をなぞり、すでに湿り気を帯びているそこへとほんの爪先程をうずめ、細かに動かしながら丹念に割れ目にそって往復を繰り返す。  
やがて、カエレの中から湧き出してきた蜜のようなそれが指に絡みつき始めると、二本の指を使って秘裂を左右に広げてしまった。  
いままで隠れていた自分の大事な場所に外気が当たり、  
それが晒された事に気がつくと、カエレは歯を食いしばった顔で必死に反応しまいと耐えているようにみえる。  
先生の指先が、陰茎のある位置へと触れ、  
さらに空いている他の指が膣の口になる部分を軽くつつくと、たまらずカエレは体を跳ねるように反応してしまい苦しそうな息を漏らした。  
「くう……っ……!! く…っう……ん……んっ……!」  
秘所を愛撫したまま、先生の指がカエレの胸に伸び、シャツの上から先端をつまんで弄り始め、さらにもう片方の膨らみを口で含み、舌先で転がし始める。  
「…い……やあぁっっ! ……あぁん……! はっ…… あああっ!」  
耐えきれなくなったのだろう。カエレの口から快感を訴える声が上がり、目を閉じて首を左右に振りながら逃れようともがいているようだった。  
勢い付いたように先生の愛撫の動きが早まってゆき、カエレは頭の中にショートする火花のようなものを感じながら、いまや成す術もなく身を任せてしまっている。  
やがて、絶頂を迎えたのだろう。その長身を大きく震えさせ、  
一度、胴を弓なりにそらせると、全身から力が抜けたようにぐったりとなり、眼を閉じたまま荒い息をついていた。  
 
目を開けると、すぐそばで覗きこむような先生の顔が見えた。  
機嫌が悪そうに眉をしかめてみせると、カエレはまだ乱れている呼吸を落ちつけようとして一度深く息を吸い込んでみせる。  
「……しかし…… あらためて言うのもなんですが、本当に抜群のスタイルをされていますよね……」  
一瞬何かの皮肉かと邪推をしてしまったカエレだったが、  
本当に他意のなさそうな先生の表情をみて、少しあごを引いて、寝そべる自分の姿を目に入れてみた。  
身につけているシャツとスカートは、いまや吹き出した汗でべったりと肌に張り付き、  
胸の膨らみなどは形が完全にわかるほどに布地がぴったり張り付き、ピンと立った先端部までもはっきりと見て取れる。  
おそらく腰回りも似たような物だろう。水着をつけている時よりもはるかに体のラインが浮き出ている事は明白だった。  
一瞬頬に朱が差したカエレだったが、反射的に隠そうと動こうとした手を止め、少し余裕をみせた誇らしげな表情で先生にニヤリと微笑んでみせた。  
 
やがて、横たわるカエレを見つめていた先生がのそりと動き、同時に袴を下げたらしき布擦れの音が聞こえてきた。  
一度鼓動が大きく跳ね上がるが、何気ない表情でそれを流しているうちに、自分の上へと体重をかけないように気をつけながら先生の体が覆いかぶさってくる。  
「……もう、我慢がきかなくなってしまいました」  
意外なほど切なそうな表情をしている先生の顔に、カエレは一瞬だけ躊躇をみせ、すぐに皮肉っぽい笑みを浮かべて答える。  
「下半身で物を考える生き物に、ここでおあずけってのは酷でしょ? ──しかたないねぇ……」  
どこまでも挑戦的なままの眼差しを向けるカエレに、  
先生は少し相好を崩して肩をすくめ、微笑を浮かべて何も言わずに軽くカエレに口づけながら、緩やかな声で囁いた。  
「……では ……お相手してください、カエレさん」  
一呼吸置き、自分が名前で呼ばれたことに気がついたカエレが、眼を見開き口を大きく開けて声を上げる。  
「ちょっ…!? ちょっとぉ! 私じゃないだろ!? ちゃんと楓の方を呼びなさいよ!」  
やや赤くなりながらも迷惑そうな表情で抗議するカエレに、先生は真剣な表情で正面から見つめ返し、その頬に片手を添える。  
「でも…… 私の目の前にいるあなたは、カエレさんですよ──」  
一瞬のうちに顔が火照り上がり、激しく打ちつける動悸を悟られまいとしているのか、  
カエレは怒ったように先生を睨み返すと、そのままプイと横を向いてしまった。  
「…もう、好きになさいな」  
突き放すような返事を返したカエレに先生は小さく苦笑いをしてみせ、  
すでに目前にある情交を期待しはち切れんばかりになっている絶棒を、手探りでカエレの秘所へと導いてゆく。  
先ほどの愛撫で濡れそぼっているその場所を探り当て、絶棒の先端を、柔らかく吸いついてくるような秘裂の間にピッタリと押しつける。  
 
自分の大事な場所へと触れた絶棒から伝わってくる、じんじんとした痺れるような感覚に、  
カエレは首を正面に戻して先生と眼を合わせ、少々上ずった声で口を開く。  
「…わ、わかってるでしょうね!? これは楓の為なんだからね!  
 言ってみれば義理よ! 義理でしているんだからね!! …いくらヘタクソでも、あまりに痛くしたりしたら訴えるよ!?」  
噛みつくように迫るカエレに、先生は少しびっくりした表情を浮かべるが、すぐに、大丈夫とでも言うようにゆっくりと頷いてみせる。  
「これだけ十分に濡れていれば痛い事はないでしょうから…… 私も、まだ理性は残っていますから。カエレさんを粗雑に扱ったりはしませんよ?」  
静かに、諭すように答える先生に、まだ不満気な表情のままだったが、とりあえずカエレが沈黙した様子を見届けると、  
ふたたびそっぽを向いてしまったカエレの横顔を見つめながら、秘裂にあてがっている絶棒をゆっくりと押し込んでゆく。  
じりじりと先端からカエレの中へと埋没してゆくが、  
絶棒の亀頭までがもぐりこんだ所で、急に侵入を拒むように押し返されるような抵抗を絶棒に感じ、先生は少し苦しそうに顔をしかめる。  
カエレの表情へとチラリと眼を向けると、特に反応している様子はなかったが、よく見ると、口の中では強く歯を食いしばっているようにも見え、  
閉じた瞼にある長いまつ毛がまぶたと共に小刻みに震え、何かを必死に耐えているように感じられる。  
さらに腰を突き出し、カエレの奥深くを目指して絶棒を打ちこんで行くが、  
思った以上に窮屈で、きつく締めあげるように絶棒を包むカエレの体の中に、先生の方もなかなか攻めあぐんでしまっているようだった。  
「…せ…… 狭くて中々入ら…… くうっ…… これは、もしかして、カエレさん……」  
それでもなんとか少しずつ侵入してゆくたびに、先生はカエレの中を絶棒で裂きながら進んでいるような感覚に囚われ、思わず声を上げてしまう。  
「……狭いんじゃなくてっ! 名器……っ…! って言いなさいよ! ……余計な事考えてるなら、干からびるまで絞り取るよっ!」  
潤んだ瞳を見開き、ドスの聞いた声で凄むカエレに一瞬驚いた表情を見せた先生だったが、  
次に、この状況に似つかわしくない穏やかな微笑みを浮かべると、カエレの手を取り、二人の指を絡めてしっかりと握りしめ、  
その体の上にゆっくりと倒れるように覆いかぶさって来る。  
「──カエレ…… さん……」  
小さな呟きと共に腰を深く突き出し、カエレの奥底を目がけて絶棒を深く押しこんだ。  
「────っ!!」  
先生に貫かれた瞬間、その衝撃に、たまらず口から声を上げようとしたカエレだったが、  
一瞬早く先生の口がその唇を塞ぎ、それは声にならないくぐもった音となって二人の耳に届く。  
 
 
二人はたった今繋がった体を重ね合わせたまま微動だにせず、握りしめた手とまだ離れない長いキスを続けたまま、時が過ぎるのを待っているようにみえた。  
──やがて、頭を振り払うようにして重ね合っていた唇を離したのはカエレの方だった。  
少々怒っているように柳眉を逆立てているが、その口から罵声が飛び出すことはなく、やや荒い息をついて先生の様子をうかがっているように見える。  
そんなカエレを見つめたままの先生の口が静かに動いて、細い声で言葉が紡ぎだされてきた。  
「……入ってしまいました、カエレさんの中に。 ……まさか、カエレさんとこの様な事をする時が来るなんて、あの頃は夢にも思いませんでしたね……」  
呆然と、というよりは、感極まったといった感じでつぶやきを漏らす先生に、カエレは顔をしかめたまま一つ鼻を鳴らして横を向いてしまった。  
「──あー、はいはい。……そりゃ良かったですこと」  
投げやりなセリフを吐くカエレに、先生は少し笑って、そっと、乱れた金色の髪を撫でている。  
愛しそうな手つきで髪をなでられながら、カエレは困ったような微笑を浮かべ、肩をすくめて溜息をついてみせた。  
 
「何……? うごかないの?」  
繋がった体を密着させたまま、いつまでたってもじっとしている先生に、カエレは訝しそうな声で尋ねる。  
「え…… ええ…… も、もう少し、このままがよいです……」  
少々固い表情で笑ってみせる先生に、カエレは特に返事は返さずに、そのまま顔を背けてまぶたを閉じた。  
 
目を閉じてみると、感覚がそこに集中するのか、自分の中を押し広げるように入り込んでいる絶棒が異物感となって下腹の中で感じられ、  
そこから感じられる僅かに自分よりも高い体温と、ここに侵入しているのが目の前にいるいつも自分がなじっている担任教師だと言う事を実感させられ、  
止めようがなく湧き上がってくる興奮を落ちつけようとカエレは何とか意識をそらそうとしていた。  
しかし、考えなくしようとすればするほど、体内にいる絶棒へと注意が向いてしまう事を止められずにいる。  
ふと、自分の中でじっと待機しているような絶棒が、時折ぴくりぴくりと震えている事に気が付き、  
その様子から伝わってくる余りに切なそうな衝動を感じ、カエレはたまらず目を見開くと、じろりと先生の顔を見据えて口を開く。  
「──気持ちいいんだろ?」  
カエレの低いトーンがすぐに耳に届いたらしく、先生は小さく体を震わせて目をそらしてしまう。  
「早く私の中で動きたいんだろ!? 正直におっしゃい!」  
詰問口調ではあるがストレートな言葉を使うカエレに、先生は苦しそうな顔に申し訳なさそうな表情を混ぜた状態で、何とかといった感じで口を開く。  
「……すみ、ませ…… カエレさんの中…… 良すぎて…… 理性がとろけてしまいそうです……」  
「──訴えられるのが恐くて自分から攻められないチキン?  
 もう、私は、早くシャワー浴びてエアコン効いた部屋でくつろぎたいんだよ! つべこべ考えずにさっさとやりなさいよ!」  
イラついた様子を露わにして喧嘩腰の言葉を吐くカエレに、先生は一瞬、驚いたようにカエレの怒った表情を真剣な眼差しで見つめ、  
「──カエレさん…… 申し訳、ないです……っ」  
苦しそうな言葉と同時に、腰を引いて絶棒の中程までをカエレの中から引き出し、  
続けてもう一度、未だ侵入を拒むようにきつく押し返してくるカエレの奥深くへと滾り切った絶棒を挿入する。  
「──っぐ…………!」  
やや仰け反ったカエレの口から微かに低い呻き声がもれた。  
「……う…あっ……ああ……!」  
それと同時に、挿入した絶棒へと握りつぶそうとするかのような締め付けを与えられ、  
絶棒とカエレの膣壁が摩擦するごとに与えられる快感に先生の口からも声が漏れ出した。  
「…すみません、カエレ……さん…! もう、止められそうに……っ!」  
精一杯といった感じで謝罪の言葉を告げ、先生は腰を前後に動かし始めると、何度も何度もカエレの中へと絶棒を打ち付けてゆく。  
「…いっ……!? あ……かぁ……っ…!」  
押し殺しきれない呻き声を唇の端からこぼれさせながら、目尻一杯に涙を溜めて、  
それでも不機嫌そうな表情のまま、無我夢中の様相で自分を求めてくる先生に一瞬だけ口の端で笑みを作ってみせた。  
「……中坊みたいにがっついちゃって、本当に格好悪いわね」  
皮肉っぽい口調で先生に聞こえるようにつぶやくカエレに、先生は少し余裕を取り戻したのか、  
困ったように微笑んで、腰の動きを緩やかにしてゆき、絶棒を半分くらいの所まで引き出すと、蜜壺の浅い部分に先端が当たるような動きに替える。  
「…何? もう疲れた……の…… ア……っ……! うっ……ん……」  
続けざまに先生をなじろうとしたカエレだったが、先ほどまでとは違うじわりとした淡い快感を結合部に感じてしまい、  
思わず漏らしてしまった嬌声混じりの溜め息に顔を赤くして先生の方を鋭くにらみつけた。  
その視線をどこか心地よさげに受けながら、先生は片手をカエレのほほに伸ばしてそっと触れ、  
もう片手は胸の膨らみに添えると、掌に余るそれをゆっくりと揉んでいる。  
「カエレさん……」  
「……何……よ……」  
時折小さな甘い鼻声を漏らしながらも、面白くなさそうな顔で返事をするカエレに、  
先生は膨らみを愛撫しながら腰を突き出し、ゆっくりとカエレの奥へと絶棒を押し込んでゆく。  
「……う…… んん……」  
かすかに快感を受け取っている声をあげ、不貞腐れたような表情で顔をそらすカエレに、先生はそっと笑って静かな声を出す。  
「──どうやら私たち、とても相性がいいのかもしれません…… そしてほら、身長のサイズも私たち、ぴったりだと気がつきましたよ……」  
カエレは思わず先生の顔を見つめ、それがやや上目使いであり、自分の目線には先生の口元あたりが来ている事に気がついたようだった。  
男女の部分を繋がった状態で初めて認識した自分の位置は、覆いかぶさる先生の腕の中にすっぽり包まれてしまっているようで、  
冷たい視線を送ろうとしても、どうしても普段のように見下ろすような目線は出来ない事に気がつき、反論できず、不服そうに溜め息をついてみせた。  
 
 
静かな屋上に、先生とカエレ、二人の息遣いと、時折、互いを求め、肌を打ち付ける音が聞こえている。  
あくまで不機嫌な様子を崩さないカエレの中で絶棒と膣壁が擦りあい、そこから湧き出す感覚に、  
今、自分たちが愛の行為をしているのだという事を実感させられてゆき、次第にカエレの息遣いも先生動揺荒くなり始めたようだった。  
このままカエレが絶頂を迎える気配は感じられない一方で、  
ちょっと激しくするとすぐにでも昇り詰めてしまいそうな所に自分が来ている事を認識し、先生は豊かな膨らみを愛撫する手を止め、すまなそうな声を出す。  
「…す…… すみませんカエレさん… 私の方は、そろそろ……」  
そう言いながら腰の動きを続けたまま、自分に繰り返し突き上げられ目の前でゆさゆさと揺れる柔らかそうな膨らみと、  
少し眉をしかめながらも目を細く閉じて、体にあわせて揺さぶられているカエレの顔を覗き込む。  
少し遅れて、カエレはゆっくりと目を開け、夢の中にでもいるようなぼんやりとした瞳で先生を見つめ返す。  
その唇からは漏れる小刻みな吐息は、先程とは違って、あまり苦しそうな様子は見えず、どこか艶のある小声を交えて吐き出されていた。  
やがて、その大きな青い瞳に少し意思が戻ったように、焦点が先生の瞳へと合わさった。  
「……あ……ちっとまって、ちゃんと…ヒニン……」  
「…ええ。すみません。 ……もう、抜きますね」  
名残惜しそうにカエレを突いていた動きを止め、ゆっくりと腰を引いて絶棒を引き抜こうとしてゆく。  
自分の中を何度も擦っていた物が急に大人しくなり、そこから去って行こうとする動きをハッキリと感じ、カエレは息を詰めて少し唇をゆがめる。  
するっ、と、何の前触れもなくカエレの長い足が動き、先生の腰に絡まりついてきた。  
「……えっ!? ちょっ…? カエレさん!?」  
後退しようとしている動きを突然封じられ、先生は泡を食ったような顔で驚きの声を上げる。  
「──あ! こ……っ……! これはっ……! その、楓が……!」  
「か、楓さん…… ですか?」  
目を丸くしている先生に、カエレは少し困ったように目を逸らして頬を赤くする。  
「……あ…えっと…… つまり… 『欲しい』とか『産みたい』とか訳の分からない事を言い出すから……!」  
ぼそぼそとした声で話すカエレに、先生は口を半開きにしたまま言葉をなくしたのか、その顔を凝視しつづけている。  
カエレは逸らしていた視線を戻し、真上から自分を組み敷いた格好のまま硬直している先生と、目が合ってしまった。  
激しく気まずい感じが湧き上がってくるのだが、目を逸らす事ができないままでいると、  
先生の顔が先程よりも朱色が増している事に気がつき、そしてその瞳の奥から自分へと訴えてくる切なさを感じ、カエレの顔はのぼせたように赤く染まってゆく。  
 
「…………だ…… だから…… つまり……」  
「……えっ…………あの…… それは……」  
互いに赤らめた顔を見合わせ、中々出てこない次の言葉を探しているように、意味を持たない単語ばかりが口からでてくる。  
しだいにカエレの中にいる絶棒が先程よりも膨れ上がった感があり、  
そして何かを期待するようにビクビクと小さく震え、催促されているような感覚が下半身に伝わってくる。  
ただでさえ赤面した様子が分かりやすいカエレの白い肌が、さらに赤く染まったように見え、  
怒ろうか笑おうか決めかねているような引きつった表情の唇が一度閉じ、一瞬目を逸らして、すぐに先生の顔へと向き直る。  
「……で……だ…ダメに決まってるだろ! 常識で考えなさいよ! 教師だろが!」  
目を吊り上げて声を荒げるカエレに、先生はほんの一瞬切なそうに表情を翳らせるが、すぐに慌てた様子となり、カエレが脚を解くと共に腰を引いてゆく。  
「す、すみません! そうですよね……!」  
焦った顔の先生が腰を引くと、ほどよく絡みついた蜜で滑りが良くなっていた絶棒は、  
名残り惜しそうにカエレの内壁に自らを擦りつけながら、するりと抜き去られてゆく。  
「…………あぁ………」  
自分の中から先生が出て行ったと同時に、微かな吐息がカエレの唇から漏れ、逆立っていた眉がすこし下がり、一瞬だけ表情を曇らせる。  
だが、すぐに、不機嫌を露わにした表情へと戻ると、覆いかぶさっていた先生が離れ起き上がろうとしている様子に気がつき、  
素早く片手を腰へと伸ばして、捲くれ上がっていたスカートを戻し、今まで絶棒を受け入れていた場所を隠してしまった。  
苦笑しながら身を起こす先生と同時に、カエレも起き上がり、先に立ち上がった先生を見上げるように膝立ちとなる。  
背中を預けていた着物はカエレの汗を吸って多少色が変色していたが目立った汚れはない。  
 
が、着物の端、丁度尻を乗っけていた辺りを境に床の上に小さな染みのような物が出来ている事に気がつき、  
カエレは慌てて靴の裏で擦って、その汚れを消した。  
「…ちょっと…… どこか、その辺で処理…… してきます」  
カエレの動作には気がついていないのか、そわそわとした様子で、まだ自分の股間でいきり立つ絶棒に手を沿え、  
きょろきょろと適当な場所を探している先生をやや気恥ずかしげな目で見ていたカエレだったが、  
その視線を下に落とし、硬直したままの絶棒が目に入った途端、カエレの瞳が見開かれた。  
素早い動作で先生の股間へと手を伸ばし絶棒を鷲掴みにすると、そのまま自分の顔を近づけ、開いた口の中へするりとくわえ込んでしまう。  
「えええっ!?」  
ほぼ一瞬でその動作をやって見せると、慌てふためく先生には構わず  
その腰へ両手を回して逃げられないようにがっしりと抱え、絶望の根元まで唇を進め、口内へと飲み込んでしまった。  
「カ、カエレさ…… あつっ……!?」  
焦ってカエレの頭に手を伸ばし引き剥がそうとした所で、カエレが歯を立てたのだろう、絶棒に軽く痛みが走る。  
「ン…… オ……ッ!」  
口いっぱいに先生自身を含んだ状態でカエレが何か言おうとしたようだったが、  
当然声になどならず、絶棒が奥まで入ってしまったのか、少し苦しそうに喉を鳴らした。  
口元を手で隠し、自分の顔を呆然と見下ろしている先生を上目使いにギロリと凄むような目つきで睨みつける。  
慌てて先生が顔を逸らした様子を確認すると、少々ぎこちなく絶棒へと舌を絡ませ始めた。  
ほとんど前後に扱くような動きはせずに、絶棒全体へと満遍なく舌を這わせて舐め取るような動きを繰り返す。  
やや息苦しそうにしながら、少々ザラついた舌で撫で続けられ、  
先生は早くも臨界点が近付いて来ている事を感じ、思わずチラリと目を動かして、口淫を続けるカエレの様子を伺おうとする。  
絶棒の形に開き咥えている柔らかい感触の唇、少し赤らめ膨らんだ頬、  
困ったように曲げられた眉が視界に入り、その視線に気がついたのか、ふと、カエレの青い瞳が動いて先生を見上げた。  
「あ──っ!? う…… うあっ……! あぁ……」  
カエレと目があった、その瞬間、それが刺激となったらしく口内で絶棒が弾け、大量の快液が先端から迸った。  
「ンムッ……!?」  
ほとんど反射的に喉への直撃を避けようとし、カエレは息を止めて舌でそれを受け止める。  
どくどくと震え脈打ちながら口の中で動く絶棒からは止め処なく温かく粘り気のある液体があふれ出し、  
逃げ場の無い口の中で溜まって行くそれはむせ返る様な匂いを鼻腔の方へと押しやり、  
頭の中がクラクラしてゆく状態に耐えながら、じっと放出が終るのを待っていた。  
 
やがて、絶棒が急速に鎮まり硬度を失って行き、もう口内に新たな快液が吐き出されて来ない事を確認すると、  
カエレは唇をすぼめてそれを引き抜き、ちゅぽっ、と軽い音を立てて絶棒はカエレの口内から去った。  
それと同時に、腰が砕けたようにへたへたと座り込んでしまった先生から離した両手で口を押さえ、  
両の頬を少し膨らませて涙目になりながら、カエレは吐き出す場所を探しているのかしきりに周囲を見回している。  
「カ…… カエレさん…! 早くその辺の側溝にでも吐き出しちゃってください…!」  
苦しそうなカエレの様子に、のろのろと手を伸ばして、屋上の床にある雨水避けの溝を指し示し、カエレを促がしている。  
迷わず膝立ちのままそこまで進み、口の中の物を吐き出そうと上体を屈みかけ──  
そこで、何かに気がついたようにハッとした表情になると、カエレは口に手を当てたまま空を仰ぎ、目を閉じてごくりと喉を鳴らした。  
「カエレさんっ!?」  
裏返った先生の声には答えず、そのままもう一度、重たいものでも飲み込むように喉を大きく鳴らす。  
それでようやく息がつけた様子で、一旦勢いよく息を吐き出すと、また口に手を当て「おえ」という気持ち悪そうな声を出しながら、手の甲で唇を拭った。  
「……あの…………」  
「こんな所に吐き散らかして、万が一誰かに見つかったらヤバいでしょ」  
まだ驚きが抜けない先生を振り返り、渋そうな表情を浮かべ、そっけない口調でカエレは答える。  
「…そ、そうでしょうか?」  
「鑑識並みの調査力とか、いざとなったらDNA鑑定も辞さない奴とか、色々心当たりはあるでしょ」  
「あ…………」  
思い当たる物が頭をよぎったのか、引きつった笑いを浮かべる先生に、カエレは少し湿気を吸って乱れた髪を背中に流しながらその場に立ち上がる。  
 
「さあ! もう終わったでしょう! 綺麗にしてあげたんだからさっさと服着てその見苦しい物をしまわないと、今度こそセクハラで告訴するよ!」  
「あ、はい」  
苛ついた口調で急かされるままに、先生は手早く袴をはき直し、広げてあった着物に袖を通して帯を巻く。  
 
「まったく…… 奴はこないし、とんだ目に会ったわよ…! もう、金輪際こんなのは御免ね」  
律儀に待っているのか、先生に背をむけたままぶつぶつ毒つくカエレに、  
はや着物を身にまとった先生は、その背中にそっと近づきながら悪戯っぽい笑みを浮かべ、  
腕組みをして何やら文句を言い続けるカエレの背中から、ふわりと腕を回して包み込むように抱きしめる。  
「ちょっ……!? なに……」  
突然背中から抱きしめられて狼狽するカエレに、先生は口元に微笑を浮かべて目を閉じ、カエレを腕で包みながら小さな声をその耳元に寄せる。  
「……カエレさんは…… なんと言うか… やっぱりカエレさんでした。 ……これ以上言うと訴えられそうなので言いませんが」  
「──ちょっとお! 何を、なんだか意味深な事言った気分になって纏めようとしているのよ!? 訴えるよっ!」  
目を吊り上げた顔で、緩く自分を囲う先生の腕の中で振り返り、少し上にある先生の顔を見上げながら睨みつける。  
──と 先生の手がカエレの両頬にそっと添えられた。  
思わず硬直したカエレの目の前に、真剣そのものな先生の顔がゆっくりと近づけられてくる。  
目を見開き、頬を真っ赤にしながらそれに見入っていたカエレだったが、  
すぐに唇を真一文字に結び、キッ、と眉を寄せて顔をそらし、先生の腕を掴んで振り払うようにして撥ね退けてしまった。  
「ああもう! 一度抱いたくらいで相手が自分のものになったなんて思わないことね!」  
ダン! と床を音を立てて踏みしめると、そのまま先生に背を向けてスタスタと出口に向かい始める。  
振り払われた先生は、少しだけ寂しそうな、でもどこか嬉しそうな苦笑を浮かべ、ぽつりとした言葉をカエレの背中に投げかける。  
「…また、沢山、訴えられてしまいそうですねぇ……」  
「──訴状を書くのに徹夜になる事への損害賠償も含めます」  
さっくりと切り返し、カエレは一度足を止め、先生の方へと顔だけで振り返る。  
「泣き寝入りはしないわよ!」  
こまった顔で頬などを掻く先生に、まだ少し赤らめた頬のままそれだけ吐き捨てると、正面を向きドアノブに手をかけようとして、  
「……あ、カエレさん、ちょっと……」  
「何…! ……って、きゃああっ!?」  
先生に声をかけられ、もう一度振り向こうとしたカエレだったが、  
突然屋上を吹き抜けた風が足元を通り、めくり上げられてしまったスカートの前を咄嗟に両手で押さえた。  
 
よくある事とはいえ、後ろまでもはどうやっても咄嗟にカバーしきれず、風にまくり上げられるままとなっている。  
「…何なのよ! いつもいつも! …どうせ義務とか言う……」  
乱れたスカートを直しながらこぼすカエレだったが、  
ふと、背中側にいる先生が自分の方を見たまま凍りついたかのように動きが止まり、その頬をなぜか赤く染めている事に気がつく。  
「…何よ? どうせ、いつもの自意識過剰とか言……」  
「……か……過剰といえば過剰ですが……いつもより… その、それ……」  
ぎこちない動作で腕を上げ、こちらを指差す先生に、カエレは苛々した態度を隠す様子もなく、大きな声を上げる。  
「だから、何!?」  
「…………パンツを…… はき忘れてみえるようで……す…」  
顔をそらしながら指し示す先生の言葉に、弾かれたように自分の脚── その腿のあたりを確認する。  
先ほどの行為の時、先生に途中まで脱がされたパンツが太い紐のように丸まった状態で、片方の腿の途中に引っかかっているのが見える。  
みるみる耳まで真っ赤になり、目尻に涙を溜め、拳を握り締めたカエレは先生に向かい、喉の奥からあらん限りの声を絞り出す。  
「言えよ!! 早く!! ──訴えてやるぅ!!」  
カエレの声は屋上から夜の空へと反響しながら広がり、星の瞬く暗い空へと昇り、僅かな余韻を残し吸い込まれていった。  
 
 
 

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