「医療業界全体に人員不足の進む昨今、目が回るくらいに忙しいのは考え物でしょうが、
目をどこに向けて良いものか悩んでしまうくらいに暇なのも考え物ですね」
「それを言うな」
涼しい顔で軽口を叩く看護婦をたしなめて、私は唸った。
午前中の病院は忙しくなるはずなのだが、どういう訳か私の医院はいつでもそれに当て嵌まらない。
やはり私の名前が悪いのだろうか…いや、自分に散々言い聞かせたはずだ。
いきなり私のコンプレックスを言い当てた望の生徒にだって言った。
自分の名前は、人の命を預かる医者になるべく運命付けられた名前であると。
しかし、そんな事を鬱々と考えた所で医院が流行るのかと言うと、それはまた別問題だった。
「…先生。そんなに眉間に皺を寄せてはいけませんよ。せっかく綺麗な顔をしてらっしゃるんですから」
気付いたら顔を覗き込まれていた。
彼女の事だ。私が何を考えて苦い顔をしていたのかはお見通しだろう。
「物思いに浸れる時間があるのはいい事でしょうけど…
先生、まだ休憩時間はありますし、少し気分転換しませんか?」
「散歩にでも行くのか?まあ今日はいい天気だし…っ!?」
いきなり、唇をふさがれた。首筋に柔らかな手が添えられている。
「んっ、っちゅ、んむぅ…」
ざらついた舌が唾液のぬめりと共に唇を割り、咥内を撫で回す。
彼女の舌は器用に私の舌を絡め取り、ぴちゃぴちゃと音を立てては歯列やその裏側を擦った。
「っん、んくぅ、…ぷあぁ…、先生?」
一旦離れた赤い唇が、くっと吊り上がる。
瞳は笑んで細められ、一見すると全てを受け入れる聖母の笑みだ。
だが、形だけではぬぐえない淫靡さがその笑みには漂っていた。
日はまだ高い。のどかな午後、うららかな日差しが窓の外から降り注いでいる。
「こんな昼間から…。退廃的だ」
「先生のいつもの憂慮だって、十分退廃的です」
再び唇が重なる。思うさま互いの咥内粘膜を蹂躙し、唾液を交換し合う。
するすると衣擦れの音がして、看護衣が床に落ちた。
鎖骨があらわになった。続いて細い肩先が現れ、豊かな胸元がさらされた。
白く滑らかな裸身を、上下揃いのローズピンクの下着が、ご丁寧にガーターベルト付きで彩っている。
「…先生、ほらぁ…下ろしてください」
彼女は甘えるような声で言いながら、私の手を下半身に導いた。
今までにも何度かこうして誘われているのに、未だに頭がぼうっとする。
私は言われるままにレースをあしらった布をつまみ、引き摺り下ろしていった。
膣口に伸ばした指先がぬるりと滑った。
2本の指で入り口を探り、粘膜に滑り込む。内部で指を開くと、粘液が糸を引いて垂れてきた。
ゆっくりと、襞をすみずみまで辿るように指をうごめかせる。
「んんっ!あはぁ、んんん…っ!」
うっすらと桜色に染まった太腿が、私の手を締め付けるように合わされてぶるぶると震えている。
彼女の手は縋るように私の肩に回された。立っているのが辛いらしい。
「ブラジャーだけ残すなんて…今の私、少し滑稽ですよ?」
私が下腹部への愛撫に夢中になっているのを見て、彼女は自らブラジャーを取り去った。
薄く透けたレースを散りばめた薄紅色の布は、床に脱ぎ散らかした白衣に重なり落ちた。
首筋をなぞり続けていた唇を胸元に寄せる。華奢な身体には若干不釣り合いにも思える、豊かな形良い乳房。
中央には、触られぬ内から乳首が赤く尖っていた。
静脈が透けて見えるほどの白い肌を舐る。
片手では変わらず膣を弄りながら、もう一方の手で胸の頂をつまみ、扱く。
「ひぁっ!やだぁ…先生…」
舌と指先で執拗に乳首をなじる。口で吸い上げながら、舌先で固い先端を何度も擦る。
彼女の声は甘く跳ね上がって、少女の泣き声のような響きを帯びた。
「っあ、先生…、あまり、焦らさないで…っん、ください…」
緩慢な指の動きにもどかしく身悶えながら、彼女が訴える。
粘液をたっぷりと湛えた熱い粘膜も、せがむように内部をひくひくと収縮させていた。
白い指先がズボンのジッパーを下ろして下着の中に潜り込んでくる。
「こら、下着の中で出させるつもりか」
ペニスに指が絡み、ゆるゆると上下に動き始めたことに焦りながら言うと、
「だったら、っん、早くぅ…っ、これ、くださいね…?」
幾分拗ねたような声が返ってくる。
「ふぅ…分かったよ。休憩時間も限られているからな」
着衣を脱ぎ去ると、すでに全裸の彼女が私を床に押し倒した。
「っは、ううぅ…っ、あぁあん!!」
彼女が私の上で腰を落とし、粘液でてらてらと濡れ光る肉の内部にペニスを飲み込んでいく。
「っあ、んあぁ、先生の…奥にっ、あたって…っ」
腰を浮かし、再び落とされ、それが繰り返される。
肉のぶつかる音が響く。
内部がびくん、びくんと大きく縮み、裏筋を擦って締め上げる。ぬるついた襞が絞るように蠢いた。
彼女は陶酔の笑顔を浮かべ、奔放に快楽を貪った。大胆に広げられた股から伸びる太腿に汗が滲んでいる。
淫靡ではあるのだが、華奢な体躯と顔の造形のせいか涼やかさが感じられる。
乱れていてなお、乱したくなってしまう、そんな欲望が背筋を駆け抜けた。
右手の親指を結合部につけ、充血した肉芽を指の腹でつぶすように擦り立てた。
細い腰を掴んで下から思い切り突き上げる。ぐちゅ、と音がして愛液が細かな露となって床に散った。
「くぁあ!そんなにぃ…っ!ひあっ!きゃあっん!」
ともすれば泣き声になりそうな甲高い悲鳴が唇から漏らされた。
何度も突き上げ、子宮口をえぐるように叩き、私は快楽を高めて行った。
翻弄される側になった彼女は、眉を八の字に寄せ、行き過ぎた快楽に耐えるように固く目をつぶる。
「それぇ、されたらあ…っ、すぐに…、いっちゃうのにぃ…っ!!」
先ほどから内部がどろどろと潤滑液を吐き出しながら激しく蠕動している。彼女の全身がわななき、足先がぴんと張っている。
「…っ、奇遇だね…、私も、そろそろだ」
「ひっ…!あぁああっ!あうぅうぅん!!」
全身を大きく震わせて、彼女は達した。私も絶頂後の彼女の身体にペニスを何度か叩き込み、精液を吐き出した。
「先生、気分転換にはなりましたか?」
「…素直になれる気分じゃないな…」
終わってみれば、当たり前だが明るい室内。日差しは変わらず柔らかで、窓の外からすずめの鳴き声が聞こえる。
程よい疲れと妙な罪悪感が私の中に同居していた。
彼女はくすりと笑って、
「これでしている最中にまで余計な事を考えていたら、張り倒すつもりでしたよ」
と朗らかな声で告げる。
確かに、その点ではきちんと気分転換を果たしてくれたのかもしれない。
「さ、午後からの診療も頑張りましょうね?」
とどめの笑顔が降ってきた。これが来た時はさっさと気分を切り替えなければいけない。
「…そうだな、頑張ろうか」
大きく伸びをして、私は休憩室を後にした。
終わり