「あれ…ここは?」  
目を開けた命の上から、呆れたような声が降ってきた。  
「ようやく気が付きましたか。」  
見上げると、包帯を巻いた少女が自分を見下ろしている。  
「小節さん…?私はいったい?」  
「急に出てきて、患者の話をしはじめたと思ったら  
 いきなり気絶したんですよ、覚えてませんか?」  
「ああ…そういえば。」  
『大きな間違いには気がつかない』という話題に乗って、  
自分が話した大怪我に気がつかない患者達の惨状を思い出し、  
命は再びすーっと体中の血が引いて行くのを感じた。  
あびるがそれを見て、大きなため息をつく。  
「命先生、それでもお医者さんですか。」  
「何?」  
「だって、大怪我の人思い出しただけで倒れるなんて…。」  
命はムッとした顔であびるを見返した。  
「その医者に毎週のように掛かっている君に言われたくないな。」  
「それとこれとは違うんじゃないですか。」  
「何がどう違うんだ。」  
 
「あれって…。」  
言い合う命とあびるを遠巻きに眺めながら、奈美が誰にともなく呟いた。  
「どうみても2人とも気がついてないですよねぇ。」  
望が奈美の隣で笑みを浮かべる。  
「どうやら、そのようですね。」  
「どうします、先生?言ってあげますか?」  
「いいんじゃないでしょうか、あれはあれで放っておいて。  
今回は『気がつかれなかった大きな間違い展』なんですから。」  
「うーん、間違いって言うのも違う気がするけど…。」  
 
あびると命は、全く気がついていなかった。  
口をとがらせて文句を言い合いながらも、いまだにお互い、  
相手を抱きしめ、そして抱きしめられていることに―――。  
 
 

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