重力に逆らわず、大粒の雫が降り注ぐ。  
毛布に包まったままの霧が、窓から外を眺める。  
珍しくテレビもパソコンも、電気類は付けられていない。  
静かに流れる雨の音は、外の世界と宿直室とを隔離していた。  
仕事もなく、外に出掛けるのも億劫な天気の中で、望も静かに読書をしている。  
時折ページを捲る音が、部屋の中で響いた。  
窓の外のグラウンドには、水が溜まる。  
この中を歩き廻れば、際限なく足が濡れるだろう。  
もう長いこと外を歩いていない霧は、ボンヤリ考えた。  
 
「…凄い雨だね」  
 
読んでいた本から目を離して、霧の方へと目を向ける。  
窓から顔を逸らさずに、外を見たまま霧は話しかけていた。  
身を乗り出してた霧の身体から、毛布が落ちそうだ。  
望はキャミソール一枚とショートパンツの霧の向こう側に目を遣る。  
風は強くないのか、雫は叩き付けられるようには降っておらず。  
真っ直ぐに導かれるように、地面に落ちている。  
たまに物好きなものだけが、窓にぶつかり。  
ツゥー、っと一筋に流れる。  
 
「確かに、凄い雨ですね」  
「…うん」  
「どうかされたのですか?小森さん」  
「ううん、何でもないよ。せんせぇ」  
 
霧の興味は雨に向かってだけ注がれており。  
自分の姿には無頓着だった。  
ずり落ちた毛布から覗く、白い肌。  
ゆらゆらと揺れる、長い髪。  
望の目には霧の足の裏まで、美しく見えた。  
霧が気付かないほどに静かに立ち上がり。  
ゆっくりと側まで歩いていく。  
後ろまで来て、ようやく霧が気付いた。  
 
「小森さん。そんな格好では風邪をひきますよ」  
「あっ、…うん」  
「ちゃんと毛布を被るか、服を着てください」  
 
そう言って霧の背中にそっと、毛布を掛ける。  
 
「ありがと、せんせぇ」  
「どういたしまして」  
 
振り返り、望を見つめる。  
そんな姿が愛らしくて、微笑みかける。  
霧もまた、望に極上の笑顔を見せた。  
二人共に思う。  
たまには、こんな雨の日も…。  
 

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