長く伸びた影。
放課後の学校に、傾いた太陽が灯を当てる。
カラスが空を蹂躙し、我が子の待つ巣へと舞い戻る。
夕陽に照らされた廊下を、望が一人歩く。
その後ろに付き纏う一つの影。
望と同じような着物を身に着ける。
おかっぱ頭の、美しい黒髪が怪しく光る。
その手に持つものは、首輪。
金属製のそれは、一度付ければ決して取れない。
そのような雰囲気を醸し出しており。
今まさに、ターゲットに向かって付けようとしている。
ふと、望が窓の外を眺めて立ち止まる。
絶好の機会を逃さないように、まといが走る。
最後の一歩は、愛しい恋人に抱き着くかのように。
思い切り飛び付き。
その両手は、望の首を狙い。
その両手は、首輪を掲げる。
もうすぐ見えなくなるカラスを眺めていた望。
あまりの衝撃にその場に立ってはいられず。
前のめりに倒れ込む。
その上にホントに嬉しそうに抱き着くまとい。
「いたたた…、一体なんですかぁ!?」
後ろに誰がいるかも確かめずに、立ち上がる望。
まといが軽すぎるのか、ひ弱な望でもまといが背中にいるまま立ち上がれた。
結果として、まといは腕だけでおんぶをされた格好のまま話をすることに。
「先生!よくお似合いですわ」
「つ、常月さん。居たんですか?」
「えぇ、ずっと」
「そんなことより、私に似合っているって、何がですか?」
「先生、よく首を確かめて下さい」
「へっ…!?な、何ですか、これは?」
「首輪です」
「な、何故、私の首に首輪を…?」
その質問には答えず、望の背中から降りる。
手には首輪の鎖が持たれている。
まといは相変わらずニコニコしているが。
鎖が繋がっていることを知った望は、逆に青くなっていった。
「…な、何が目的ですか?」
「ふふっ、私ダメなんです」
「…?」
「好きな人が今何をしてるのか気になって」
「首輪は関係ないでしょう!?」
「いいえ、これで私と先生はずっと一緒です」
そう言い放ち、手に持った鎖を手錠に掛けて。
余ったもう一つの手錠を自分の左手首に掛ける。
人間用の散歩紐。
それが今、完成してしまった。
「離れませんよ、先生♪」
「もぉ、やめてくださーい!!」
暗くなる校舎の中に、望の声が響いた。