ゆらりゆらり。
揺れ動く霧の髪の毛。
足元まで届こうかと言うような長さにも関わらず。
艶やかで美しい。
あまりの暇な休日の中で、望の視線はそこに集中していた。
霧が歩けば、それに付き従い。
霧が座れば、綺麗に拡がる。
風呂好きな霧は、やはり髪にも気を遣っているのだろうと、望は考えた。
視界の端で髪の毛を見ながらコーヒーを啜る。
もはや手に持った小説には興味がなく。
霧に釘付けになったように見入る。
あまりにじっくり見られるものだから。
霧も気付かないふりを続けるのは無理だった。
意を決して、望に話し掛ける。
「どぉしたの?せんせぇ」
「えっ、いえ、何でもありませんよ」
「なんか付いてる?」
そう言って霧は自分の背中を見てみる。
とは言っても、毛布だが。
しかし、得に変わったものはない。
当然だが。
霧は仕方なく、全身を確かめるために、その場でクルクル回ってみる。
あまりの可愛らしさに、つい見とれる望。
そうしてまた、その視線に気付く霧。
少々顔を赤らめて、問い掛ける。
「な、なんなの?せんせぇ、恥ずかしいよ…」
「あ、そのっ、すみません…」
「…私、どっか変かな?」
「いえ、そういうわけじゃありません」
「…?」
言い辛い。
今更だが、自分が教え子に見とれていたことを話すのは、あまりに気恥ずかしかった。
徐々に顔が火照るのを感じて、望は目線を逸らした。
このまま見つめ続けるなど、所詮無理な話。
だが、霧はより望の事を不審がる。
片付けている途中の洗濯物を投げ出し、望の前に座り込む。
「ねっ、なぁに?」
「そ、その、…髪を」
「………髪の毛?」
「えぇ、見ていただけです…」
「…やっぱり長いかな?」
「いえ…」
「でも、毎日洗ってるから汚くはないよ!?」
「小森さん、私は」
「せんせぇ、ショートのほうが好きなの?」
「小森さん、話を聞いてください」
「…」
「私は、貴女の髪を綺麗だと、思っています」
「…!?」
「とても、美しいですよ」
「あ、ありがとう…」
「はっ、夢!?」
霧は飛び起きた。