寝言を聞いているだけでも、幸せ。
そう考えたまといは、一直線に望の元へと向かった。
時刻は夜の10時。
まだ望は就寝前で、本に集中していた。
霧は理科室に引きこもっており。
交は今日、奈美の家に泊まっている。
つまり、望は一人きりで居るのだ。
壁に寄り掛かり、小説をめくる。
背中のすぐ近くには、大きな窓。
まといは気付かれないように側に寄る。
暑い夜を快適に過ごす為に、窓は開け放たれていた。
静かに風が入り込む宿直室の中で、望は小説を閉じる。
両手を上げ、足を伸ばす。
固まった間接をほぐしてから、望は立ち上がった。
「さてっ、風呂にでも入りましょうか…」
(チャンス!?)
望の独り言を壁一枚後ろで聞いていたまといは、心の中でガッツポーズをした。
望が不在の間に、色々と仕掛けをしようという魂胆だ。
望が居間から離れて、風呂場に行ったのを確認してから、まといは中に潜り込む。
相変わらず殺伐とした空間は、霧がこまめに掃除しているという事実を連想させる。
一瞬だけムッとなったまといだが、すぐに気を取り直して、準備を始める。
とりあえず部屋に置いておいた盗聴器が外されていないかを確認する。
全部で158個あった盗聴器は、152個に減っていた。これも霧に違いないと思った
が、圧倒的な勝利による優越感に浸る。
外されていた6個のスペアを出して、より判りづらく、見付けにくい場所にセットする。
新たな勝利を予感したのか、まといはニヤリと笑った。
そして、最後に今日の大一番。
望の寝言を聞きたいが為に、今日はやってきたのである。
早速、寝所へと移動。
すでに敷かれている布団が、その部屋の大部分を占領していた。
枕元にひざまつき、新たな盗聴器をセットする。
途中で邪魔な枕を掲げあげると、微かに望の香りが。
ドキリと胸が高鳴る。
悪いことをしているのだという背徳感からも、ドキドキが止まらなくなる。
やってはダメだと自分に言い聞かせながらも、まといは枕を抱きしめる。
鼻から胸一杯に空気を吸い込むと、ハッキリ望の匂いだと分かるものが、鼻腔をくすぐる。
数回繰り返していくうちに、まるで麻薬常習犯のように止められなくなり。
ついには、布団の中にその身を埋めていた。
入ってすぐは冷たい掛け布団だったが、すぐに体温で暖かくなり、心地好い。
人の温もりと、望の香りにほだされて、まといの意識はだんだん遠くへと流れていった。
最高に幸せそうな寝顔を望が見付けるのは、それから約10分程後でした。
おまけ
「どうして、常月さんが寝ているのでしょうか…?」
「…ZZZ」
「全く…、私のスペースがありませんよ」
「…ZZZ」
「しかし、寝顔は可愛いものですね」
「…ZZZ」
「起こさないようにしないと…」ゴソゴソ
「…ZZZ」
「おやすみなさい、常月さん」
翌日、期待を遥かに越えた望の言葉が録音されている盗聴器を手に入れたまといでした。