怪しい雲行きの中。  
望は薄暗い街中を歩く。  
手には、少し大きめの傘。  
天気予報では降水確率70%。  
このまま行けば、そのうち降り出しそうだ。  
目的地まで、もうしばらく掛かる道のり。  
望の足は急ぎ始めた。  
そんなに足が速いわけでもない望。  
急ぎとはいえ、その速さは、たかが知れていた。  
不意に立ち止まると。  
ついに降り出してしまった。  
手に持った傘を拡げて、後ろを振り返る。  
誰もいない、寂しい街角。  
望は独り言のように、呟いた。  
 
「常月さん。風邪を引いてしまいますよ、こちらにいらっしゃい」  
「…分かってたんですか?」  
「えぇ、ずっと」  
 
少し悪戯っぽく微笑む望。  
悔しいのと、嬉しいのでまといはどんな顔をしたらいいか分からない。  
ただ、頬を軽く染めただけ。  
美しく白い肌に、ほんのり朱色が混ざる。  
降り始めた雨から逃れようと。  
望の元へと駆け寄る。  
すっ、と持ち替えられた傘。  
望の左肩が、少しずつ湿気をおびていく。  
まといは、何処も濡れてはいない。  
地味ではあるが、よく着こなされた着物。  
少し派手で、女の子らしさがよく表れた着物。  
二人は、共に並んで歩き、帰路を急ぐ。  
しとしと流れる雨は、二人を包み。  
他には誰もいないかのような、空間を作り出す。  
一歩、また一歩と踏み出される足。  
揃えて歩く二人が見えなくなったのは、雨のせいだろうか。  
 
 
おまけ  
 
 
「…ぶえっくし!うぅ…、私のほうが風邪を引いてしまいました」  
「先生!大丈夫ですか?こんなときは…」  
「…?」  
「裸で温めあうしかありません!」  
「それ違うから!!」  
「先生のためなら、私恥ずかしくなんてありませんよ?」  
「そういうことじゃありませんから!」  
「…♪」ゴソゴソ  
「こ、こら!服を着なさい!貴女まで風邪を引きますよ!」  
 
翌日、二人とも風邪で学校を欠席したとさ。  
 

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