酒に酔った高校生。
しかも女生徒が二人。
望が日々を過ごしている宿直室に溜まっている。
いつも着ている毛布が、少しずり落ちている霧。
丁寧に付けられた着物が、少し着崩れているまとい。
冷や汗をダクダクにかいた望を挟み込む。
「先生から離れなさいよ、この引きこもり」
望の左腕を、まといが抱き寄せる。
「アンタが離れなさいよ、このストーカー」
望の右腕に、抱き着く霧。
「ふ、二人とも、喧嘩はよくありませんよ…」
ただ一人だけ素面の望が、二人をなだめる。
それでも両者は一向に引こうとしない。
赤らめた顔を望に近づけて、睨みつける。
「せんせぇは黙っててよ」
「先生は黙ってて下さい」
「…はい」
当事者であるのに、意見が言えない望。
あまりの虚しさに、飲んでいないのに涙が出そうになる。
せめてきちんと服を着て欲しかった。
毛布の下は薄着の霧は、その白い肌を隠し切れていない。
酒に酔ったせいなのか、その純白の肌にうっすらと朱色が染まり、美しい。
着物が崩れているまといは、胸元が大きくはだけていた。
霧よりは小さいが、しっかり谷間を作るそれは、色っぽさを強調する。
霧からは女の子の柔らかさを感じる。
まといからは女の子の香りを感じる。
男としては天国。
望の立場からすると地獄。
女生徒と関係を持つなんてことはあってはならない。
しかし、揺れる理性を直す方法を、望は知らなかった。
もういっそ、何にも考えないで…。
今日何回目か分からない思考に行き着く。
結局はチキンハートが踏み止まらせるのだが。
そんな望の心を知らない二人。
相も変わらず、口論を続ける。
「アンタねぇ、髪長すぎなのよ。ちゃんと洗ってるの?」
「洗ってるわよ!それに、せんせぇ私の髪を好きだって言ってくれるよ」
「なっ…!?私でも言われたことないのに」
「ふふーん」
「でも、私だって寝顔可愛いって言われたし」
「なっ…!?なんで寝てるのに言われたって分かるのよ?」
「盗聴器に録音されてたの」
「………ストーカー」
「…!?」
「なにがディープラブよ」
「うるさいわね、引きこもり!引きこもりなんか先生には似合わないわよ」
「そんなのせんせぇが決めることでしょ?」
「…じゃあいいわ、どっちが先生に相応しいか。決めてもらいましょう」
いつの間にやら、主題になっていた望。
真ん中にいるので当然、会話の中身は丸聞こえ。
汗の量が更に増える。
急激に焦りだす望。
無言で見つめてくる二人。
その視線には期待、脅迫、恋心、…あらゆるものが詰まれている。
どちらが、より望に相応しいと、望が考えているか。
悩みに悩んだすえに出した答えは。
やはり、チキンな答えだった。
「せ、先生は二人とも相応しいと思いますよ…」
「…ジロリ」
「…ギロリ」
「こ、小森さんは家事をしてくださってとても助かってますし…」
「…ニヤリ」
「…ギロリ」
「つ、常月さんはいつも側にいて下さるので、寂しくないです!」
「…」
「…ニコリ」
この答えではダメだろうかと、冷や汗がピークに達する。
が、二人の反応は満更でもなかった。
「せんせぇそう言うなら、ずっと家事しててあげるよ」
ニコニコしながら右半身にしな垂れかかる。
「先生がそうおっしゃるなら、私一時も離れません」
ニッコリ笑って左半身に胸を当てる。
二人の純粋な反応と汚れなき笑顔に、優柔不断な心がチクリとする。
しかし、この場は収まったようで。
口論が起こることはなかった。
二人とも、思い思いの様子で、望に甘える。
同時に相手をするのは辛いが、どちらかに偏るとまた口論が始まる。
それを恐れた望は、完璧な50対50で二人の相手する。
霧が甘えれば頭を撫でてやり。
まといが甘えれば膝枕をしてやる。
相手が望むことを返してやり、それを延々と繰り返すと。
ようやく酔いが回ってきたのか。
二人は頭をもたげて眠り込んでしまった。
どうすることもできない望は、二人の少女を膝に抱えたまま次の日を迎えましたとさ。
めでたしめでたし。