昔、見たような夢。
大切な人が死んでしまう夢。
現実なのか、夢なのか。
あまりにもリアル過ぎて、判断がつかない。
今、目の前にいたはずの人が死んでしまう。
ショックが大きすぎて、上手く呼吸ができない。
なんとか体が動くようになったら、その人の元でひざまづく。
いつもなら縄が切れて、背中から落ちてくるはずなのに。
今だけは宙に揺れて、ピクリともしない。
まだ温かい手の平を握りしめた。
ボロボロこぼれ落ちる涙が止まらない。
自分が喋る言葉も。
自分が出しているとは信じられないもので。
空気のように口から抜け出した。
「…せ、せんせぇ。死ぬときは、い、一緒だって…、」
指が手から離れる。
空中に浮かぶ袴を握り締めた。
手汗が染み込むのが、分かる。
「し、死にたくなったら、言いなさいって、言ってくれたのに…」
止められない涙は、頬を伝り顎に溜まる。
しばらくはその場で耐える雫。
重力に逆らえなくなった、その瞬間。
雫が落ちて、地面にぶつかる、その刹那。
霧は意識を取り戻した。
「…さん、小森さん!」
「あっ、…せんせぇ」
「よかった、起きましたか」
「えっ、あれ?…夢?」
「ひどく、うなされていらっしゃいましたよ」
「あっ、…えと、ありがと」
「大丈夫ですか?余程ひどい夢だったのですね」
心の中で霧は返事をした。
自分が望の自殺する夢を見たことは、何故か伝えたくなかった。
そんなに弱い人間であることを示したくなかった。
何より、望に心配をかけて、これ以上の重荷になるのが嫌だった。
「だ、大丈夫だよ、せんせぇ。ちょっと変な夢見ちゃった…」
か弱い笑顔でニコリとする。
普段の癖からか、先程まで被っていた毛布を抱き寄せて、体に巻き付ける。
外界から身を守ろうとする霧の姿。
非常に細い少女のことが心配になる望。
黙ったまま暗闇で見つめ合う二人。
霧が先に動き出した。
「じゃあ、もう寝るね。明日も早いから」
背を向けて寝ようとする霧。
あまりに寂しそうなその背中に耐え切れず。
そっ、と身を寄せる。
霧と比べれば大きな体で、毛布ごと優しく包み込む。
一瞬、ビクッとした小さな体。
今は落ち着いて座っている。
「何を見たのか分かりませんが…」
「…」
「私は、いつでも小森さんの側にいますよ」
「…ありがと、せんせぇ」
最後の一滴だけ。
望には気付かれないように、涙を落とした。