ただ、先生の後ろにいたい。
たったそれだけのこと。
それは、とても簡単なことなのに。
それは、とても幸福をもたらす。
望の一挙一動が、まといの心を満たす。
どこまでも罪作りな人。
自分を冷静に眺めるまといは、静かに呟いた。
時刻は夕方の6時。
いつものように、宿直室で暇を持て余す望。
あまりに空白の時間が長いため、普段ではあまりしないことをしてしまう。
「常月さん、いらっしゃいますか?」
「はい、先生」
「…本当にいたんですね」
「えぇ、ずっと。何か御用ですか?」
「こちらにいらっしゃいませんか…?」
「…先生が、そうおっしゃるなら」
何処から現れたのか、まといが望の目の前に座る。
ちゃぶ台を間に置いて、望がまといを見つめる。
好きな人を見つめるのには慣れている。
だが、見つめられるのには慣れていない。
望の真っ直ぐな視線に堪えられず、ついドキドキしてしまう。
「常月さん、…実はお願いがあるのです」
「は、はい!何でしょうか?」
「その、私、また実家に帰らなければならないことになりまして」
「あの、お見合いの儀ですか?」
「はい…」
「では、私も付いて行きます♪」
ここまでは、望の予想の範囲内。
愛の深いこの少女なら、付いて来ると考えていたから。
ここからが、勝負所なのだ。
「…できれば、恋人のふりをお願いできませんか?」
「えっ…!?」
「両親が早く結婚をするように勧めて来まして…」
「…」
「私はまだ、結婚する気などないのです」
「だから、恋人のふりを…?」
「はい、…やはり嫌でしょうか?」
「いえっ、その…」
じっ、と望がまといを見つめる。
少女が、自分に恋慕しているのは知っていた。
それを利用しようというのは、ひどく心を痛める。
だが、もはや望になりふりを構っている余裕はなかった。
すぐにでも結婚をするように強要してくる両親。
逃れるためには、これしか方法がない。
思い詰めた様子の望。
普段の様子からは、あまり考えられない相談。
余程切羽詰まっているのだと、まといは判断した。
だが、それは同時にチャンスでもある。
どさくさに紛れて望との婚姻関係を、締結させられるかもしれない。
前に婚姻届を出したときは、まといが勝手にやったことだ。
今は、望のほうからそれを望んでいる。
内心ニヤリとしながら、まといは口を開いた。
少し困ったふうにして。
「わ、分かりました、先生。先生の頼みでは断れません」
「すみません、助かります。常月さん」
「…常月さん、じゃあダメですよ」
「えっ…、まぁ、確かにそうですね」
「まとい、って呼んでください」
「ま、…二人きりのときは意味ないでしょう…」
「いいえ、先生。練習ですよ」
「…仕方ありませんね。まとい、さん…」
「はい、あなた♪」
既にノリノリのまといに、少々不安を抱えながらも望は出発の準備を始めた。
翌朝の宿直室。
朝早くから起き出す望。
閉め切られたカーテンを開けて、朝陽を拝む。
照り付けられた光りに少し眉を潜めて、窓を背にする。
天気予報より先に、降り注ぐ日光が、今日を晴天であると告げている。
顔を洗い、タオルで顔面の水を吸い取る。
そうして、置いておいた眼鏡をかける。
鏡に映る自分の姿、そして、後ろには和服姿の少女が。
普通なら驚いて、慌てふためくところだが、望は冷静だった。
慣れとは素晴らしいものでもある。
「居たんですか…」
「えぇ、ずっと」
別段、少女が居て困ることなどないので、気には止めない。
そのまま洗面台を離れて、居間に向かう。
いつもなら霧が、朝食を用意してくれている。
しかし、今朝は時間が早過ぎるので、前の晩に断っておいた。
なのに、朝食は用意されていた。
「…貴女が、やってくれたのですか?」
「はい、これでも料理は得意なんです」
「ありがとうございます」
どうして少女が料理を得意としているのか。
深くは追求しない望。
理由は明快な気がしたから。
ただ、昔付き合った男性の中に料理好きな人が居ただけだと。
その考えは何故か、心の内に黒いモヤモヤをもたらす。
そんな馬鹿げたことはない、と望は考えるのを止めた。
綺麗に並べられた朝食を平らげる。
いつもと違う味、しかも美味しい朝食に、つい舌鼓を打つ。
「ごちそうさまでした。しかし、常月さん。こんなに朝早くに来て、荷物はあるんですか?」
「えぇ、ちゃんと準備して来ました」
「そうでしたか、用意がいいですね」
「いつでも後を追えるように準備してましたから」
「…。では、そろそろ出発しましょうか?」
「はい、先生」
身支度を整えて、外へと向かう。
大きな正門を抜けて、一番近い駅へと。
その体に似合わない巨大な荷物を運ぶまとい。
それに引き換え、いつも持ち歩く旅立ちパックと変わらない荷物の望。
横に並んで共に歩く。
「大きな荷物ですね…、何が入ってるのですか?」
「着替えとか、他にもいろいろです。先生は随分と荷物が少ないやうですが…」
「私は実家に私物がありますから…」
「そういえば、そうですね」
少し気怠そうに荷物を引く少女。
何も言わず、すっ、と手を差し延べる。
まといが荷物を持つ手と、望の手が重なる。
それが何を意味するのか、まといには理解できた。
しかし、あえて意向に逆らう。
差し出された手を荷物を離して、ニッコリ笑って掴む。
指を絡めて、きゅ、っと締め上げる。
絡み合う指。
まといからすると、至福の感触だろう。
自分の考えと違う行動に出た少女にビックリする望。
しかし、幸せそうにニコニコする顔には何も言えない。
まといはもう片方の空いた手で、荷物を掴む。
力強く握って、また歩きはじめた。
せっかく繋いだ手を離せず、望は黙って後に続いた。
まだ残る朝霧の中に二人は、仲良く消えて行った。
ガタガタと揺れる電車。
ボックス席を占領する、二人の和服姿。
好きな人と一緒に居られてニコニコなまとい。
しかも、いつもなら邪魔をする他のクラスメイトもいない。
まさに、幸せの絶頂。
そんなまといとは対照的に、浮かない顔の望。
これから先の旅で、自分に降り懸かる苦労を見透かしている。
そんな暗い表情のまま、窓から外を眺めた。
次々と流れていく情景。
その時、広い田んぼの中で。
一人ポツリと立っている案山子。
物寂しい様子で立つそれに、自分の姿が重なる。
不意に、望は深い溜め息をついた。
「はぁ…」
「どうかされましたか?先生」
「いえ、なんでもありませんよ」
「なんでもないのに溜め息をついては、幸福が逃げてしまいますよ?」
相変わらず上機嫌のまといが言う。
いつもは後ろで黙っているだけの少女が。
こんなにもお喋りな少女だと知った望。
そんな活発なまといを、素直に可愛いと思える。
しかし、自分の立場を考えると自嘲して終わり。
それ以上のことは、何も浮かばない。
「ねぇ、先生。練習、しましょうか?」
「練習ですか?」
「はい、二人が恋人のふりをするための練習です」
「はぁ、一体何でしょうか?」
「簡単ですよ、名前を呼び合うんです」
…それは、必要な練習だろうか?
強く疑問に思ったが、少女は既に始めている。
額から頬に汗が流れるが、無視。
「望さん…」
「…ま、まとい、さん」
「望さん」
「…まとい、さん」
「望さん♪」
「まといさん…」
嬉しそうに微笑むまとい。
望に名前を呼ばれるのが、そんなに嬉しいのだろうか。
満足気な笑顔は、爛々と輝き。
その眩しさに堪えられなくなる。
自分の狂言に付き合わせてるだけだというのに。
「も、もぉいいでしょ…。さすがに恥ずかしいですよ」
「せっかく、これからでしたのに」
むくれ顔のまとい。
初めて見る表情の気がした。
頬を膨らませる姿は、とても愛らしい。
つい望が赤面してしまう。
「わ、我が儘は勘弁して下さい」
「分かりました、あなた♪」
「…!?」
突然の呼び掛けに、驚く望。
すっかり上機嫌のまといに戻り、悪戯っ子のように笑う。
望の反応を見ているかのようで。
我慢できず、そっぽを向いた。
窓の外は、相変わらず田んぼばかり。
また、案山子を見つけた。
今度は一人でなく。
二人並ぶように、立てられている。
誇らしげに立つ案山子に安堵して、正面を向く。
珍しく少女は、自分を見ていなかった。
望がさっきまで見ていた場所を、じっ、と見つめる。
「あの案山子…」
「…」
「私たちみたいですね」
「…そうでしょうか?」
嬉しかった。
少女と自分の考えていることが、一緒なのが。
突然訪れた幸福感は、よく確かめる間もなく消え去った。
最後のトンネルに入り、周りから風景が消える。
もうすぐ、目的の駅に到着する。
悲しみからか、喜びからか。
望は静かに目を閉じた。
駅のホームに降り立つ二人。
ようやく着いた望の故郷は、相変わらずの田舎だった。
まといの荷物と自分の荷物をまとめて持ち、出口へと向かう望。
その横にピッタリくっついて、離れないまとい。
今ではもう、横にいるのが自然なくらいだ。
突然、目の前に人が現れる。
立派な口髭を携えた初老の男性。
糸色家専属の執事、時田である。
「お迎えに上がりました、望坊ちゃま」
「久しぶりです、時田」
「お久しぶりです、時田さん」
「…坊ちゃま。そちらのかたは、坊ちゃまの教え子である、常月まとい様でございますね?」
「…えぇ、そうです。私の恋人でもあります」
「許嫁ですよ、先生♪」
嬉しそうに会話に加わるまとい。
対峙して腹を探り合う二人は、気にも留めず。
望はまといが右腕に抱き着いても、何も言わなかった。
この嘘がどこまで通用するか、望は内心ドキドキだったが、次の言葉に全て打ち砕かれる。
「望坊ちゃまも、常月様も無理をなさらないで下さい。全て、調査済みでございます」
「…どうゆうことですか?」
「これが猿芝居だと、分かっているということでございます」
「なっ、…!?」
「望坊ちゃま、糸色家の情報網を甘くみてはなりません」
そう言うと、時田は一枚の紙を広げた。
綺麗な和紙には、びっしりと文字が書いてある。
それを受け取り、読み進めると、望の計画が全て書いてあった。
「な、何故ばれたのですか…?」
「先生、よく見て下さい」
「へっ…?」
「これ、倫ちゃんの字ですよ」
「………絶望した!実の兄を陥れる妹に絶望した!」
その場にガックリとひざまづく望。
見かねた時田が声をかける。
「絶望なさることはありません、坊ちゃま」
「しかし、作戦が筒抜けでは意味がありません…」
「お聞き下さい、望坊ちゃま。このことを大様に説明しましたところ…」
「先生のお父様ですね」
「はい。大様はおっしゃいました。望坊ちゃまはお見合いの儀に参加しなくてよいと…」
「…本当ですか!?」
一気に顔を上げる望。
涙で濡れていた瞳が、今は爛々と輝いている。
逆に少々残念そうなまとい。
「本当でございます、但し条件がございます…」
「じょ、条件?何でしょうか?」
「望坊ちゃまのために里までいらっしゃった常月様に、望坊ちゃまが、おもてなしをすることでございます!」
「はっ…?」
「えっ…?」
ババーン!
まるで効果音が付くような衝撃な台詞。
…というわけでもなく、望は落ち着き払っていた。
「…そんなことで、いいんですか?」
「坊ちゃま、そんなことではございません。この里での一日のお世話を、全て坊ちゃまがなさるのですよ?」
「はぁ…」
いまいち実感の湧かない望は、返事に元気がない。
頬をポリポリ掻いていると、まといが口を挟む。
「それでは、この里に一泊するということでしょうか?」
「はい、見合いの儀を行う24時間の間は里を出てはなりません」
「えっ…!?そ、そんな…」
「また、見合いの儀に巻き込まれないためにも、宿泊は人里離れた小屋で行います」
不機嫌だった顔がみるみる幸せそうになるまとい。
しかし、逆にまた顔が萎れる望。
未だに、一度も表情を変えない時田。
「絶望した!悪戯好きな自分の父親に絶望した!」
望の絶叫は蔵井沢の空に響いた。
川のせせらぎが聞こえる。
二人しかいないこの小屋の中で。
望は相変わらず絶望していた。
故郷に帰ってきた最初は、見合いの儀を逃れられると思い狂喜した。
だが今は、絶対的な権力の元に、まといとの同棲を強制させられている。
一方まといは、願ってもない状況に、つい顔がにやけてしまう。
ここでは盗聴も盗撮もする必要がない。
望とまとい、二人きりなのだ。
電気が通っていない薄暗い小屋。
一つだけある大きな窓から、日光が射している。
それが反射して、何とか人の姿を認識できる。
そんな、ボロ小屋。
「先生、何をなさっているのですか?」
「長恨歌に今回のことを書いているのです!」
鞄から取り出した愛用の歌集。
今までに望が受けた被害が全て、書き示してあるその本。
あまりの文章量に、周りの人間をドン引かせた一品だ。
恨みを書き記して満足したのか、望は今までの恨みを読み返し始めた。
ぺらぺらとめくっていく望。
その姿を見つめている、まとい。
中身がよほど気になるのか、ずいずいと望の近くに寄る。
望と歌集の間に頭を割り込ませて、内容を覗く。
微かに漂ってくるシャンプーの香り。
安いガムのような、そんな貧相なものではない。
とても豊かで、魅了するような。
「ちょっ…、常つ、き、さん…」
そんな、香しい匂い。
つい、ドキッとしてしまい、望が後ろに身をのけ反る。
すかさず、その隙間に体を寄せて、くっつくまとい。
もはや、歌集の中身には興味がなかった。
たった二人きりで、狭い小屋の中にいる。
動悸が早くなり、耳元で鳴っているかのよう。
二人どちらかを形容したわけではない。
近付く顔。
離れない瞳。
会話などというコミュニケーションはいらなかった。
まといが目をつむり、顔を寄せる。
触れ合う唇。
ようやく言葉を取り戻した、二人が。
「お慕い申しています、先生」
「だ、ダメですよ、常月さん。私達は教師と生徒なんですから…」
「今は、違いますよ」
「それは…」
「先生からおっしゃったんですから、責任をとって下さい」
「しかし…」
まだ抗議しようとする口を再び塞ぐ。
今度は意図して、触れ合う唇。
押し付けられる児戯の口づけに、戸惑う望。
「常月さん、貴女初めてですか…?」
「……キスがですか?」
「はい」
望を押し倒すような形なのに。
上に乗る少女は恥ずかしそうにしている。
モジモジとした態度から、正直に言うべきか迷っていることがうかがえた。
しかし、そうこうしているうちに少女は軽く頷いてみせた。
「あれだけの人と付き合ってたのに、キスは初めてなんですね…」
「そんなことする前に別れを切り出されますから…」
「…そ、そうですか」
「逃げないで居て下さったのは先生だけです…」
そう呟くと、まといは望の胸に顔を埋めた。
耳まで真っ赤になっているのが分かる。
急にこの少女が愛おしくなった望は、優しく頭を撫でた。
もう片方の空いた手を回して、背中から抱き締める。
素直に可愛いと思った。
抱き締めていてあげるくらいなら、構わないと考える。
そんな一瞬の油断を、見抜くまとい。
抱き着いて背中に回した手を、器用に動かし望の袴を解きほぐす。
まといを甘やかすことに夢中の望は、気が付かない。
何度も頭を撫でていると、既にまといが落ち着いているのが見えた。
疑問に思い、声をかける。
「落ち着きましたか?常月さん」
「…はい」
「では、そろそろ離して下さい」
「…嫌です」
悪戯が成功した少女は、ニヤリと笑いながら、望を見上げた。
引きずり落とされる望の袴。
外気に触れる絶棒。
あまりの出来事に、一瞬動きが止まる望。
「な、何をしているのですか!?」
「ふふっ、ちっちゃくて可愛いですね」
興奮など微塵もしていない望のそれは、小さく縮こまっていた。
躊躇うことなく、まといが絶棒の先を舐める。
長い間ご無沙汰だった望には、衝撃な快感で。
チロチロ繰り返す舌の動きに、絶棒が反応する。
みるみる形を変えて、それが異業のものへと。
大きくなったそれを、一気に口に含むまとい。
「あっ、うぅ…。常、月さん、…」
「……ひもひいいでふか?」
「は、初めてなんじゃ、ないんですか…?」
顎が疲れたのか、一旦絶棒から口を離す。
唾液に濡らされた絶棒と、まといの口に一筋の線が。
それが切れて落ちると同時に、次は手で刺激を与える。
「初めてですよ、先生」
「うっ…」
「初めてだから、先生に捧げるんです」
するすると、着物を脱いでいくまとい。
帯が外れ、前がはだける。
白く、成熟しない裸体が目の前に。
美しく綺麗な胸が、着物の影からちらりと見える。
望のものを舐めただけで興奮したのか。
まといのそこは、準備万端だった。
端正で卑猥なそこは、早く望を迎えたいとひくついている。
少女が上に乗ってくる。
なすがままだった望が、真剣な声で問う。
「常月さん、…本当にいいのですか?」
「はい。私には、先生しかないのです…」
迷うことなく答えるまとい。
真っ直ぐ自分を見つめる目から、つい視線を逸らしそうになる。
だが、きちんと見つめ返す望。
どうやら、まといの熱意の前にダウンしたようだ。
ニッコリ笑って、まといが動き始めた。
ヌルヌルに濡れている絶棒の先を、自らにあてがう。
未だ男を知らない少女の入口は固く。
中々思うようにいかない。
少し焦りつつも、何度か繰り返すうちに、先っちょが埋め込まれる。
ついビクッとするまとい。
その動きに唆され、少しずつ陥没していく。
一体となるのを感じるべく、少女の動きは緩やかなものだが。
確実に、絶棒は包まれていった。
途中に、少女の純潔を守る壁も壊されて。
今は根元まで深く繋がっている。
「痛くありませんか…?」
「す、少しだけ、痛いです…。でも」
「…?」
「とっても、嬉しいです」
そこに居たのは、いつもの常月まとい。
愛する者と淫乱な儀式を行う不義の少女ではなく。
愛しい者に付き纏う、常月まといがそこにいた。
いつもと変わらない、優しい笑顔で。
目の前の望に微笑んでいる。
交わる前と、同じように。
微笑んでいる。
「んっ…、先生、動いて下さ、い…」
「しかし、まだ痛いでしょう?」
「だ、大丈夫です。せ、んせいに、気持ちよくなって、欲しい、んです…」
健気な言葉に、胸が震えた。
どうしてこの少女は、こんなにも自分に尽くすのか。
それは、行為の後にでも考えようと思う。
今はただ、目の前の少女に集中するだけ。
ゆっくりと動く望。
まといの体調を気遣って、本当にほんの少しだけ。
クチュ、と小さく水音がする。
それに合わせて、まといの身体がぴくぴくと動く。
反応の可愛さに、悪戯心が浮かび上がり、それを食い止められない。
段々と動きを激しくする望。
やはり、それに合わせて反応するまとい。
慣れてきたのか、喘ぎ声が大きくなる。
「あっ、あんっ、…せっんせぇ…」
「気持ちいいですか?常月さん」
「あっ、…ひゃっ」
返事もできない程によがり狂うまとい。
ついつい膨れ上がる欲望。
「答えないと、続けませんよ…?」
まといをギュッと抱きしめて、耳元で囁く。
急に快感が消え失せる。
不満が残るまといは、壊れた玩具のように頭をがくがくと振った。
目に溜まる涙が、頬を伝う。
再び動き出した望。
少女を下から突き上げる。
絶え間無く続く、拷問のような快楽の波。
二人同時に、堪えられなくなってくる。
下半身に込み上げてくるものを感じる。
このまま果てたら、どんなに幸せだろうか。
望が頭の隅で考えると。
まといが耳元で囁いた。
「せんせっ、あん、あっ…、今日は、んっ、大丈夫、ですから…」
「!?」
「どうぞ、はぁ…んっ、中、に出してぇ、あっ、下さい…んんっ!」
狂った頭が歓喜して踊った。
もう他には何も考えていない。
ただ、まといの中に性をぶちまける。
それだけなのだ。
互いに抱き寄せ合い、身体を密着させる。
舌を絡ませ、夢中で吸う。
まといが望の頭を抱いた、その瞬間。
望の絶棒が爆ぜた。
まだ幼き少女の中で暴れ、欲望を放つ。
それを受け止めるまといもまた、頂点に達した。
一度も受けたことのないその感覚は、魅力的過ぎて。
少女の意識を遠くに流すほどだった。
次に気が付いたとき、まといは望の腕の中にいた。
丁寧に敷かれた布団の上に、身を横たえて。
太陽の匂いがする、白い掛け布団。
眼鏡を外した望が、まといを見つめていた。
「起きちゃいましたか?」
「…先生」
「まだ、しばらくは寝てても大丈夫ですよ。時間がありますから」
「…はい」
「ところで、常月さん」
「なんでしょうか?」
「大丈夫な日って、本当ですか?」
「はい、本当ですよ。私は、先生には嘘がつけませんから…」
(本当に、赤ちゃんを作るのには大丈夫な日です)
安心しきった顔の望。
望の前では演技をするまとい。
内心は、やはり悪戯が成功した幼児のような心境で。
つい、にやけてしまった。
「私、愛が深いんです♪」