「先生、今日はこちらから帰りましょう」  
「居たんですか…?」  
「えぇ、ずっと」  
 
すっかり日が暮れて、暗い夜道。  
後ろから望の袴を引っ張り、分かれ道の別の方を指し示す。  
どんよりとして、不気味な細道。  
どうにも気が滅入りそうな道だ。  
 
「嫌ですよ、こんな暗い道…」  
「そんなっ!こっちに行けば、きっと幸せなことが起きますよ」  
「例えば…?」  
「えっ…?そうですね、暗い道だから、私が手を繋いでほしいって言うかもしれませんし」  
「…」  
「他にも、はぐれないようにピッタリ横にくっついたり」  
「…」  
「猫が飛び出してきて、私が抱き着いたりしますよ?」  
「…馬鹿なことを言ってないで、早く帰りますよ」  
 
まといの手を握り、自分の後ろから横に来させる。  
思った以上に、強い男の力に驚く。  
それでも、ギュッと握られている手には顔を赤らめてしまう。  
カランコロンと、下駄の音を鳴り響かせる望。  
その横を手を牽かれついていくまとい。  
 
「こちらの道でも、幸せでしょう?」  
「………先生の意地悪」  
「貴女が望んだことではありませんか」  
「…先生の幸せは、何でしょうか?」  
「はい?」  
「教えて下さい」  
 
真剣な顔でまといが聞いてくる。  
望に関する情報のときは、いつでもこうだ。  
新たな悪戯心が芽生え、望はまといの耳元に顔を寄せる。  
一瞬ビクッとしたが、構わず囁いた。  
 
「早く家に帰って、常月さんを抱きしめること、ですかね」  
「…っ!?」  
 
火が出そうになるくらい、顔が真っ赤に。  
可愛らしい少女の反応に満足して、また歩き出す。  
決して手は離さなかった。  
 
「行きますよ、常月さん」  
「…はい、先生」  
 
また今日が終わる。  
 
 
 
 
 

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