凍えるような寒空。
望は宿直室の中で、ぬくぬくとテレビを見ていた。
いつもはただのちゃぶ台。
今は炬燵となっている。
雪が降りしきる外を尻目に、眠たげな望。
うつらうつらとしながらも、蜜柑を取って皮をむく。
昼間のテレビはどれもおもしろくない。
消去法で選んで、みのもんたが忙しなく話す。
むき終わった蜜柑を一口、放り込む。
甘い汁が広がるのを感じる。
と、同時に足元で何か動くのを感じた。
最初は勘違いかと思ったが、再び動く気配がする。
不審に思った望は、炬燵布団をめくる。
言い慣れてしまった台詞が口をついて出た。
「…いたんですか?」
「えぇ、ずっと」
和服の着物を身に纏う少女。
炬燵の中で息苦しそうにしている。
足を入れておくだけなら、暖かい炬燵だが。
中に全身を入れると話が違う。
小さい頃の記憶が甦り、まといに気を遣う望。
めくっていた布団を上げたままで、声をかける。
「中は暑いでしょう?こちらにいらっしゃい」
「…いいんですか?」
「何も遠慮することなどありませんよ」
少し微笑みかける望。
嬉しそうにしながら、まといが中から出てくる。
器用に、望の前に。
あぐらをかいている望の足の上にちょこんと座った。
他の女生徒と比べても小柄なまといでは、本当に座っているか疑う程で。
望は何も言わず、それを許していた。
得に、天使のような笑顔の前には、文句など引っ込んでしまう。
そのまま、後ろから抱き寄せるようにする。
まといのつむじに顎を乗せて、むいた蜜柑を食べようとする。
一つ摘み、飲み込む。
その動作をじっ、と見ていたまとい。
もう一つ蜜柑を取り、まといの口元に寄せる。
ニッコリ笑ってそれに食いつく。
餌付けのようで、楽しみだす望。
残り三つになったときに、望はふと思い出した。
まといが話していた、あることを。
「そういえば、常月さん」
「はい、何ですか?」
「この間お話していたことは、本当ですか?」
「…この間とは?」
「皆さんで雪合戦したときです」
「……あぁ、あれですね」
まといも思い出した。
望に対して、自分の一矢報いる方法を話したこと。
もし、望が他の女と添い遂げたら。
自分の子供に望と名付けると脅した話だ。
別に本気で話したわけではない。
ただ、望に釘を刺しただけであって。
望がそんなに気にしてるとは思ってなかった。
「本気だったらどうしますか?」
「絶対にやめて下さい。同窓会に出席しませんよ」
「ふふっ、嘘ですよ。だって…」
「…何ですか?」
「たとえ先生に捨てられても、私は永遠に先生を愛してますから」
「…!?」
「諦めたりしませんよ」
「…貴女は本当に愛が深いですね」
どこか安心した声で、ため息と一緒に呟いた。
残していた蜜柑を再び食べる。
甘酸っぱい感覚が、何故か身に染みた。
この少女を捨てるのは無理だと、断定した望。
目の前に座るまといをぎゅ、っと抱き締めた。