暗闇の宿直室。
一人泣き続ける愛が座っている。
側に佇む望は、どうすればよいか分からず。
オロオロと様子を伺うばかりで、役に立たない。
「加賀さん、もう泣かれないで下さい」
「すみません!すみません…グスッ」
愛には分からなかった。
いくら匿名からの指示があったからとはいえ。
どうして、自分はあんなに大胆な行動に出れたのか。
今でも望は優しく慰めてくれるが。
心の中では、自分を淫乱女と思っているに違いない。
望がそんな風に思っているのだと、考えれば考えるほど悲しく、そして申し訳なかった。
望には、そんな風に思われたくない。
でも、そう思われても仕方ない行動に出たのは自分。
だから、この状況をどうすればいいか分からない。
ただただ、涙が止まらない。
どうせなら、抱いてほしい。
こんな恥ずかしい思いでも、二人ですれば。
少しは和らぐ気がする。
そんな思考に行き着くと、また申し訳なさが滲み出てきて。
涙が頬を伝う。
「さぁ、加賀さん。補習はもうおしまいです」
「えっ…!?」
伏せていた顔を上げる。
優しく微笑みかけてくる望。
それは、とても近くのことで。
一瞬、キスされるかと思った。
背中に回された腕。
正面から、しっかり抱きしめられている。
互いの体温を共有する胸の感覚。
そこから、無限に溢れる懺悔の気持ち。
全て、望は受け止めているのだと。
そんな錯覚に陥って、また涙が出た。
申し訳ないとか、そんなことは考えないで。
愛も、腕を回して抱き着いた。
泣き続ける愛を、正面から見据える。
「ほら、そんなに泣いては、せっかくの美人が台無しですよ」
「えっ…、そ、そんな…!?」
「私は何も気にしていませんから、今日はお帰りなさい」
「…はい、すみません」
つい口を付いて出た台詞。
クスリと笑う望の目を見て、確信した。
あぁ、本当にこの人は本当に気にしていなかったのだと。
それは、少し胸を刺す鈍い痛みでもあったが。
同時に、愛に申し訳なさを感じさせた。
「すみません!すみません!勝手な勘違いをして…」
「やっと、いつもの貴女になりましたね」
ふっ、と微笑む望。
「加賀さんは、そちらのほうが可愛らしいですよ」
「…!?すみません!失礼します!」
振り返ることなく、宿直室を出た。
教室に着いた今も、心臓がドキドキいっている。
顔が、赤い。
望の顔を思い出して、一度だけ笑う愛。
明日からは、またいつもの絶望少女。
オマケ
「加賀さん…、ちょっと裏山来てくれる?」
「ひっ…!?」