糸色望が記憶を失った。
それだけでも大事件だが、更に複雑な事が起こった。
記憶を失う原因である、少女たちの連続殴打。
その合間合間に刷り込まれた偽りの記憶が本来の記憶に影響を及ぼしてしまった。
己の受け持ちの生徒である五人の少女を、妻だと思い込んでしまったのだ。
六人が世にも奇妙な共同生活を営んでいる宿直室。
深夜、ぐっすり眠る千里の布団に侵入する腕があった。千里はすぐに目を覚ます。
眠りが浅い方では無いが、事故の後から神経が過敏になっていた。
「千里……?」
「先――じゃなかった、望さん? あの」
望は、ぴくりと反応を返した千里に小さく呼びかけると、体温で満ちた布団の中へ体を滑らせた。
自分の布団は望の隣ではないのになぜ?千里は軽いパニックに陥りそうになり、身を縮こめる。
「起こしてしまってすみません」
謝りながらも、望は千里の腰に腕を回し自然な動作で抱き寄せる。
本当に、自分の妻にそうするように堂々としていた。
元より望の思い込みが激しい事は周知の事実だったが、まさかここまでとは。
気持ちが沈みかけたが、急に唇を塞がれて意識を引き戻される。
深く口内まで舌でなぞられ、魔法のように体の力がするっと抜けた。
「んんっ…、ふ」
「千里…」
「あ、あのっ、明日も…学校ですよ…?」
ファーストキスの余韻を感じている余裕はない。
望がこれから行おうとしている事は間違いなく夫婦の営みだ。
望に対する恋愛感情は薄れていないから嫌悪の感情は起こらないが、
性経験の無い自分が応じたら確実にボロが出て、望の記憶を混乱させてしまうだろう。
「はい…でも、恥ずかしながら溜まってしまって。兄さんの目がある病院では出来ませんでしたし」
「ええと、命先生は何か仰ってませんでしたか?」
「特に、こういう方面の話はしていませんね……」
今の望には、自分と行為に及ぶことは当たり前の日常なのだ。
千里は、覚悟を決めたように望の方を見た。灯りの無い中で薄らと不安げな表情が見える。
自分から抱きついて耳元にキスをすると、裏側のスイッチに舌先を這わせた。
息を殺した望の鼻腔から僅かに呼気が漏れる。
唇を当てたまま囁きかけた。
「ごめんなさい、今日は都合の悪い日なんです。だから、口でさせて欲しいです……望さんのを」
緊張感に鼓動が速くなっていく。
恥ずかしさから、答えを待たずに布団の中へ潜ってしまうと、さっと帯を解いて浴衣の合わせを乱した。
おそるおそる、下着の上から股間の辺りを撫でる。
溜まってしまったと自分で話していた通り、望の股間は布越しに緩く反応していた。
体の方は完全に回復しているようだ。
初めて口淫を行う千里にとって、布団により視力・聴力が遮断されているのは心細かったが、
他の少女達に気付かれないためには都合が良い。
はむ、と形に添って咥え、形が更にはっきりしてくると下着のゴムに手をかけた。
引っ掛かってしまう下着を苦労しながら下ろすと、大きくなった絶棒を取り出す。
実物の男性器をはじめて目の前にしているのだが、この暗闇ではほとんど見えない。
手と口の感覚で形を想像しながら、根元からやわやわと揉んだり、上下に擦りながら先端にキスをしてみる。
ぎこちなく刺激を続けていると、望の手が自分の手に重なった。
やはり物足りなかったのか、自分が一番感じる場所を示すように千里の手を導いて、そのまま上下に動かしはじめた。
千里の掌も当然つられて動く。
しばらく操り人形になっていると、今度は頭の後ろに手を添えられた。
前に押すような動きを察すると、千里は陰茎を深く咥える。
独特の匂いと味が広がり咳き込みそうになるが、頭を抑える手の力は更に強くなっている。
ふっとその力が緩まり頭を引くと、またすぐに強く押し付けられる。
力の強弱に合わせて頭を上下させ、裏筋を舌で何度も舐め上げてみた。
「んっ…ふ、ぅ……」
「千里、良いですよ…その調子です。ん…もう少し頬を窄めて…。あと、ちょっとですから…」
望が、掛け布団に顔を少し潜らせて囁いてくれる。
こんな状況でも、嬉しいものは嬉しい。
自分のぎこちない性技でも達してくれようとしている絶棒を、目尻に涙を浮かべながら一生懸命唇と舌で扱く。
望の掌が、落ち着かない様子で千里の長い黒髪をくしゃりと握ったり離したりしはじめた。
限界が近いのかもしれない。そう思い、少し強く陰茎全体を吸い上げてみる。
「っ!…千里、このままイキますよ…っ」
「ぅ、…っん…、んく…!」
望の切羽詰った声に数瞬遅れて、口の中に温かく苦い液体が放たれた。
耐え難い味に、すぐ飲み込むが、射精はすぐには落ち着かない。
何度かに分けて吐き出され、完全におさまるとようやく口を離した。
もそもそと布団の外に出ると望がそろりと頭を撫でてくれる。
用意してくれていたティッシュを受け取り、口元を拭うと力強い抱擁があった。
「ありがとうございます…それでは自分の布団に戻りますね」
「はい…おやすみなさい。望さん」
「おやすみなさい…また明日」
望は頬にキスを残して自分の布団に戻ったが、千里はまだ胸が高まっていた。
頭から掛け布団を被る。望の残した香りがしっかり残っていた。
パジャマのズボンの中に指をしのばせると、下着がしっとり濡れていた。
ほんのり残る熱の勢いで自慰を…とも考えるが、悠長に幸福感に浸っているべきではないのだと考え直す。
今日はかわす事が出来たが、いつかきっと、最後まで求められてしまう。
望の口ぶりから、まだ他の少女達とは関係を持っていないようだったが、これからまといや霧たちの布団へも行くだろう。
熱と嫉妬と幸福感が複雑に混じりあう感情を抱えながら、千里は早く眠りに落ちてしまおうと強く目を閉じた。
望が千里に夫婦の営みを求めた翌日の放課後。
千里の呼びかけによって、2のへの教室で望には秘密の集会が行われた。
たっぷりの間の後に切り出された千里の報告に、少女達はそれぞれ複雑な思いを胸に抱いた。
千里としては、話す途中で表現に困る部分が多々あったが、
一緒に生活している他の少女に隠しておくわけにもいかなかった。
今回の報告で一番胸が焼け焦げるような思いをしたのは、まといだった。
望が布団から出て行ったことに気付かなかった。
昨日の夜だって、自分は望にぴたりとくっついて眠りに落ちたはずなのに。
女性が必要な夜だったのなら、何故真っ先に自分を求めてくれなかったのか。
嫉妬心を燃やしている場合ではないと頭では理解していても、感情は曲げられない。
互いにライバルだと認識しあっていたはずの霧を見るが、しおらしい様子で俯いている。
普段のあざとさは何処へやら、張り合いの無い霧の様子に、まといは深く溜息を零した。
深夜、望の腰元を探る手があった。
ぴったり隙間無く密着する体から伸びるのは、まといの腕だ。
望は落ちかけていた意識を浮上させられくらりとした。
「ん……まとい?眠れませんか?」
「先生、体の方も大分回復したみたいですし、久しぶりに…しませんか?」
「また、“先生”呼びですか?」
「ふふ、結婚前みたいで良いじゃないですか。マンネリ解消ですよ」
「それでは、私は常月さんと呼んだ方が良いでしょうかね」
常月さん。久しぶりに呼ばれる苗字に、まといの目尻が僅かに潤む。
暗がりの中に光るものを見つけた望は、少し焦って目の端を優しく親指で拭った。
「どうしたんですか?何か悲しい事でも?」
「いえ、違うんです。はじめて先生を好きになった頃を思い出しただけです」
体勢を変えて向き直ると、望はまといの背中に腕を回した。
背筋に沿い、幾度か撫でてから浴衣の帯紐を解く。
前の合わせを左右に開き、露になった外向きの膨らみを下から押し上げるように揉み始める。
ゆっくりと、温もりと柔らかさを味わうように緩慢な動作を繰り返すと、
まといの唇は薄く開いて吐息が熱くなり、表情は恍惚とした。
熱に浮かされて、とろりと緩んだ目元を見下ろしながら、
望は悪戯をするように臍の周りを撫でる。
「や…くすぐったいです……」
「気持ちよくなってくると、こんなところでも感じちゃうんですか?」
「ぁ…っ」
望の言った通り、まといの体は背を撫でても、滑らかな腿を撫でてもぴくんと反応した。
足の間に指を這わせ下着の上から触れると、
一番大切な部分を被っている一箇所に細長く染みが出来ているのが分かった。
「常月さんは感じやすいんですね…とても、色っぽいです…」
「だって、先生だから…っ…あぁっ」
ぷくりと膨らんだ芽を擦られ、まといは小さく声を上げてしまう。すぐに口元を手で覆った。
望はずっと、内緒話をするように声のボリュームを落として話している。
自分が声を上げたら気にしてしまうだろう。
しかし、本当はきっと必要ない。
放課後にあんな話を聞かされた後では全員が眠れずにいるに違いない。
ほんの10分前まで、自分の布団に望が来るかもしれないと期待と不安を混じらせていた筈だ。
望は、下着の隙間に手を入れて直に割れ目をなぞりながらまといの体を仰向けにさせ、身を重ねる。
表情にも快感を露にしてしまっているまといは、腕を上げて目元を隠した。
望に見られているのが嬉しい。そんな自分が恥ずかしい。
袖を外していない浴衣が肩で引っ掛かり、白い腋が晒される。
同時に、薄く色付いた乳輪の真ん中にある乳首がつんと真上を向いた。
「こっちもして欲しいんですね?良いですよ」
望はふふっと笑みを浮かべ、まといの豊かな膨らみに顔を埋める。
10代の滑らかな肌を存分に食み、吸って揉みしだいた。
刺激を待ち侘びるように立っている乳首を舌で舐め上げると、
まといの腰が揺れ、艶のある声が零れた。
「はっ…ぁあ…ん、せんせい…気持ち良いですっ…んん…」
「それじゃあ、これはどうですか?」
ちゅ、と幼子のように吸い付きながら、舌でぐるりと突起の周囲を舐め、押し潰した。
まといは下着の染みを更に濃くし、望からの愛撫にびくびくと身を震わせる。
望はいそいそと帯を解き腿の間に身を置くと、下着を大きくずらし、
ぬるりと潤んだ箇所に熱い絶棒を押し当てた。
「あっ、せんせ…」
「常月さん……、…ッ…」
「ゃ、…ぁっ…ぁあ…!」
望が少し力を加えるだけで、柔らかい奥へと絶棒が飲み込まれ、内壁と入口とで締め付けられる。
挿入の一瞬だけ背が寒くなるが、体はすぐに熱くなる。
一つ呼吸を置くと、腰を引いて中をゆっくり往復しはじめる。
動きを止めずに耳に口付けると、香るのは同じシャンプーの匂いだ。
「っ…常月さん、大丈夫ですか?」
「ん…ぁあッ、…はい、せんせい、っ…」
短くカットされた前髪から覗く額にもキスをすると、
望は少し上体を起こしてまといの両足を抱え上げた。
挿入の角度が変わるが、まといは多少眉を寄せただけで従順に受け入れる。
「先生っ……ああ、っ…ぁ、気持ちいい、です…」
「良かった、…私も、とても気持ちが良いですよ…」
「ひあっ、ぁああっ…恥ずかしい…!」
まといの内腿を撫で、左右に大きく開かせる。
薄闇に目が慣れ、恥ずかしがるまといの姿をじっと見下ろす。
自然と律動が速まっていく。
「あぁっ……ぁ、ぁあんっ、先生、だめ…っ…!!」
「はぁ、常月さん…っ、分かりました、ここもですね」
「えっ…先生――…!?ぁ、ふぁ…ッあ、ああぁッ!!」
激しく内壁を擦り上げながら下の茂みに指を乗せ、愛しげに撫でてから
しばらく触れていなかった割れ目の内側、赤く熟れたクリトリスを上下に擦る。
途端に、まといの体がびくりと跳ねる。
大きな収縮により自分自身が締め付けられ、望は僅かに表情を顰めた。
「先に、達してしまったんですか…?私はもう少し…こうしていたいですよ、まとい」
「ん…はい、先生、…望さん、どうぞ…いくらでも」
望が一度性器を抜き去った意味を理解したまといは、酔ったように蕩けた笑みを浮かべた。
四つん這いに体勢を変え、落ちてきた浴衣を捲り上げて望の方へ尻を高く上げる。
突き出すと、つい先ほどまで男性器を咥え込んでいた濡れた入口も後ろから丸見えになった。
従順な自分の姿に、まといは錯覚を起こしてしまいそうだった。
記憶を違えているのは望ではなく、実は自分達の方ではないのか。
望の事故の前にも、自分はこうして望に愛されていたのではないかと。
そう思ってしまいそうになるくらい、望の体は自分にしっくりと馴染んだ。
望は、まといの肉厚な尻を鷲掴みに揉みながらその少し下へ、腰を押し付けていく。
濡れそぼったそこは、余りの潤いに絶棒をにゅるりと入口より下へ滑らせてしまう。
「はっ…ぁ、はぅ……っ」
「常月さん、駄目ですよ…?クリトリスが気持ちいいのは分かりますが、ちゃんと先生のを受け入れてくれないと」
「やっ、ぁあ…はい、もちろんです…先生っ…」
まといは背中をしならせて望自身に入口を押し付ける。
ようやく、まだ硬いままのものがまといの体内へと収まった。
中が狭く感じられる体位に、望は肌を粟立たせた。
膝立ちの状態で、尻に手を添えたまま腰を揺らす。
激しくすると、肌と肌がぶつかる音が室内に響いた。
もう、周りに気を配ろうという余裕も無い。
快感を求める事だけに意識が集中していた。
「ああっ、先生…はげしい、です…!!ぁっ、ぅ…んんっ…!」
「はぁ、はぁっ……常月さん…っ、ぅ」
まといも自分から腰を揺らして望を深く求める。
望が息を詰める音がはっきりと響いた。
その直後、収まっていたものが引き抜かれ、まといの背に熱い迸りが散った。
お互いに体を拭い衣服を整えると、まといの体を望の腕が包み込む。
正面から抱き枕のようにされて、自分の中に満ちていく違和感に、
まといは、やはり錯覚は錯覚なのだと意識する。
いたんですか。
ええ、ずっと。
再び、この掛け合いをするまでは、この生活に終わりは来ない。