学校の廊下を歩きながら、望はふと思い出して、呟いた。
「そういえば…。」
「どうしたんですか?」
背後からの問いに、望は振り向いた。
「常付さん、いたんですか。」
「ええ、ずっと。」
「ちょうど良かった、あなたに聞きたいことが…。」
望は思案顔で尋ねた。
「あなた、何で小森さんが同棲日記付けているの、
知ってたんですか?」
先日の宿直室での出来事。
まといは、迷いもせずに押入れの霧を見つけてみせた。
「…そんなの、一目瞭然です。」
霧のことを尋ねられたのが面白くなかったのか、
まといは、口を尖らせ上目づかいに望を見た。
「だって、私が先生と一緒に宿直室に行くと、いつも、
あの座敷わらし、日記をつけてましたもの。」
望は驚いた。
「そうだったんですか…私は全く気がつきませんでしたよ…。」
まといはにっこり笑った。
「いいんです、先生は他の女のことなんか見なくても。
私のことだけ見ていれば。あの女は私が見張っていますから。」
「…はぁ…。」
翌日の夜、宿直室で、望は探し物が見つからず、
部屋の隅でパソコンに向かっている霧に声をかけた。
「小森さん。」
「…。」
「小森さん?」
霧は、ハッとしたように顔を上げた。
「あ、ごめん、先生、何?」
「…先ほどから何を熱心に見ているんですか?」
霧は再び画面に目を戻すと、上の空の様子で答えた。
「…ネットオークションだよ…あのストーカーが、しつこくて……。」
「ストーカーって…常付さんですか?」
「うん……。」
望は嫌な予感がしてモニターを覗き込んだ。
「いったい、何を常付さんと争っているんですか?」
「あ、駄目!」
「―――!!!」
何やらアングラのオークションらしい黒い画面には、
『超レア!糸色望の中学時代の日記、恥ずかしいポエム付!』
というポップな文字が躍っていた。
その下には、確かに見覚えのある日記帳の写真が載っている。
「な、な、なんですか、これは―――!!!」
霧が諦めたようにため息をついた。
「ここのオークション、けっこう先生のグッズ充実してるんだ。」
「ちょ、ま、私のグッズって、いったい!?
誰ですか、人の物を勝手に出品している不埒な輩は!?」
霧は肩をすくめた。
「分からないよ。ここは会員の秘密厳守で有名なサイトだから、
多分、管理者に聞いても教えてくれないと思うよ。」
「ああ、絶望した!個人情報のネットへの流出は許すくせに
プロバイダー責任を果たそうとしない管理者に……ん?」
望は振り上げた両手を宙で止めた。
「だったら、さっき、何で常付さんだって分かったんですか?」
霧は肩をすくめた。
「それくらい分かるよ。あの女のことはいつも見てるんだから、
行動パターンは読めてるもん。」
「…へぇ…。」
翌日、望は交を風呂に入れながらぼやいていた。
「まあ、あの2人が私のことを好いてくれてるからこそ、
お互いをライバル視してるってことは分かってるんです。
でもね、最近2人とも、お互いのことしか見てなくて、
本来の目的を見失っている気がするんですが…どう思います?」
「…子供にそんなこと相談するなよ!」