もくもくと立ち昇る白い湯気。  
寒風吹きすさぶ寒空の下にあっても、その場所だけはホカホカと心地良い空気に包まれていた。  
ここはとある温泉旅館。  
しかし、この旅館、普通の温泉宿と比べると随分と様子が違っていた。  
大勢の客達の応対をするのは、全員が十代の年若い少女達ばかり。  
実は彼女達、2年へ組の女子一行もこの温泉に客として訪れた人間だった。  
ところが、彼女達がたっぷりと温泉を楽しんで旅館の館内に戻ってみると、つい先ほどまでいた筈の従業員達は揃って姿を消していた。  
残されていたのは、『温泉をよろしくおねがいいたします おかみ』と書かれた書置きが一枚きり。  
彼女達は旅館の運営を託されてしまった。  
実はこの温泉旅館は『かくし湯』ならぬ『たくし湯』だったのだ。  
というわけで、女将代理の千里を筆頭に2のへの絶望少女達は旅館の従業員の代わりを務める事となってしまった。  
そんな所にふらりと現れた彼女達の担任教師、糸色望。  
彼がやって来た事によって、事態はさらにややこしい方向へと進んでいくのだった。  
 
旅館自慢の露天風呂、現在、その一つは十数人もの入浴客ですし詰め状態になっていた。  
しかも、そのほとんどが女の子である中にたった一人男性が混ざっているという奇妙な状況。  
女の子達はみな件の2のへの少女達、男性は彼女達の担任・糸色望である。  
これにはちょっとした事情があった。  
いくつもある露天風呂の中からまだ誰も入っていない風呂を選んだ望。  
しかし、この『たくし湯』において、その行動は少し軽率だった。  
『たくし湯』に一番最初に入ってしまった者は他人から何かを託されてしまう。  
今回、望が託されてしまったもの、それは……  
「託されてしまいました」  
「託されちゃいました」  
温泉に入った望の左右から寄り添ってくるまといとあびる。  
彼女達に惚れちゃってた若干ストーカーっぽい男達から、望は二人の事を託されてしまったのである。  
そして、ソレはまといとあびるの二人だけにはとどまらなかった。  
次から次へとやって来る見も知らぬ男達が、勝手に絶望少女達の事を望に託して去っていくのである。  
気が付けば、温泉にやって来た2のへ女子のほとんどが望のたくし湯に入っていた。  
残っているのは可符香と千里の二人だけである。  
可符香は立て続けの『たくし』連発によってすっかりドツボに嵌った望の姿を見ながらニヤリとダークな笑顔  
「これはまた、いい委ね」  
なぁんて事を言ってみたりする。  
一方、千里は裸の女子生徒達と露天風呂でハーレム状態の望にご立腹。  
可符香曰く「絶望先生 混浴温泉で女生徒に囲まれてもっはもっはの巻」なこの状況に対して  
にっこり笑顔と共にスコップを構え  
「いや、普通に湯けむり殺人事件だろ」  
と、殺る気マンマンである。  
若く瑞々しい素肌を晒す少女達に囲まれてガクブル状態の望はそれに気付く余裕もない。  
このまま毎度の猟奇な展開に突入するのに、さして時間は掛からないだろう。  
ところが、そんな時である。  
「そっか……あの人が千里先生の好きな人なんだ……」  
「へっ!?」  
いつの間にやら、彼女の背後に立っていたまだ小学生と思しき少年。  
彼は望の姿を見ながら、少し寂しそうに呟いた。  
「やっぱり、僕みたいな子供じゃ千里先生の相手は出来ないよね……」  
その言葉で千里は思い出す。  
以前、千里は以前、小学校で(ちょっとばかり過激かつ危険な内容の)図画工作を教えた事があった。  
その時、千里によく懐いてくれた男の子が一人いたのを思い出す。  
「僕は、千里先生に幸せになってほしいから……だから、お願いしますっ!!!」  
少年の手の平が千里の背中をポンと押した。  
それはごく軽い力だったのだけど、不意をつかれた千里はバランスを崩しそのまま望達の浴槽にドボン!!  
「ちょ…ちょっと待ちなさい!!」  
ズブ濡れになった千里が体を起こし、周囲を見回した時には、既に少年の後姿は遠く彼方へと走り去っていた。  
残された千里はただただ呆然。  
そんな彼女の所へ、晴美が近付いてくる。  
 
「なるほど〜、あの子にとって、千里は憧れのお姉さんだったわけだ」  
「な、な、な、何よ晴美!?何なの、その言い方?」  
「千里ってなんだかんだで面倒見は良いもんね。年下の子に好かれちゃうのもわかるなぁ……まぁ、それはともかくとして…」  
戸惑う千里の前で晴美はにやまりと満面の笑みを浮かべ  
「ていっ!!」  
「きゃあああああっ!!!」  
千里の着ていた着物を、肩からズリ下ろし、下着も脱がせて一気に彼女を裸に剥いてしまう。  
「ちょっと晴美、何するのよっ!!!」  
顔を真っ赤にして怒る千里に、晴美は悪びれた様子も見せずにこう答える。  
「千里こそ、何をボンヤリしてるのよ。せっかくのチャンスなんだから積極的にいかないと!」  
「あっ……」  
そうなのだ。  
現在のこの状況、千里は他の絶望少女達と同様に自分の事を勝手に望に託されてしまったのだ。  
これは望に想いを寄せる千里にとって、またとないチャンスである。  
すぐ近くには少女達に囲まれて、すっかり弱り切っている望の背中が見えた。  
「そうね。私だって……」  
望の後姿を見ながら、千里はぐっと拳を握り締める。  
というわけで、『たくし湯』での絶望少女達による望へのアプローチはさらに激しさを増していく事になった。  
 
一方、そんな温泉の様子を見ながら可符香は満足そうに微笑んでいた。  
千里による猟奇オチも良いが、この展開もなかなか悪くない。  
だが、絶望教室の黒幕はどこまでも貪欲だ。  
彼女は望む、さらなる混沌と混乱を…………。  
「もしもし、ちょっと用意していただきたいものがあるんですけど……」  
温泉をこっそり抜け出した可符香が、電話で依頼した『ある物』は、この後、望と少女達をとんでもないパニックへと導く事となる。  
 
それは突然の出来事だった。  
「うわあああっ!!!しまった、積荷がっ!!!!」  
露天風呂の外から聞こえてきた強烈なブレーキ音と叫び声。  
それから少し遅れて夜空に弧を描き、その『積荷』とやらが温泉に飛び込んできた。  
パッと見、セメント袋のようなそれは露天風呂の敷地の内側に落下した後、水に濡れた石床を滑りその全てが望達のいる浴槽へと突っ込んできた。  
「きゃあああああっ!!!!?」  
悲鳴を上げる少女達の目の前で『積荷』はお湯の中に落ちてしまった。  
しかも、ここまで飛ばされてくるまでに袋が破れてしまったらしく、その中身がどんどんお湯に溶け出していく。  
大草さんが袋に印刷された文字を読み上げて、少女達は温泉のお湯を白く濁らせていくソレの正体を知った。  
「……片栗粉…業務用!?」  
「片栗粉って、あんかけとか料理にとろみをつけるのに使う、あの片栗粉?」  
意外な答えに声を上げた奈美に、大草さんは肯いた。  
空から飛来した片栗粉の大袋。  
訳のわからない状況にお湯の中の面々は呆然とするしかない。  
「とにかく、このままだと片栗粉がどんどんお湯と混ざってしまいます。とりあえず、お湯の中から出してしまいましょう」  
そんな中、兎にも角にもこの異常事態に対処しようと立ち上がったのは望だった。  
彼は周囲の2のへ女子達の裸が目に入らぬよう顔を伏せながら、片栗粉の袋に近付いていく。  
そして、袋の近くにしゃがみ込み、そのまま袋を持ち上げようとしたのだが……  
「ひえっ!?」  
スッテーン!!!!  
望は足を滑らせて、水しぶきを上げながらその場に転倒してしまった。  
「先生っ!」  
さらに心配して駆けつけようとした愛も同じように足を滑らせ  
「危ない、加賀ちゃん!!」  
彼女の体を支えようとした奈美も、巻き込まれてお湯の中に倒れこむ。  
「ど、どうなってるの、コレ?」  
「とにかく助けなきゃ」  
そう言って、千里と晴美が三人の方へ一歩踏み出したが  
「駄目っ…足元が滑って進めない!」  
「なんだかお湯がぬるぬるしてきてるよ、千里…っ!!」  
ねっとりと肌に絡みつくお湯がそのぬめりで少女達の動きを阻む。  
この露天風呂の中で何が起こっているのか、ここまで来れば理解出来ない者はいなかった。  
「片栗粉のせいで温泉にとろみがついちゃったの!?」  
呆れたようなまといの声が響く。  
 
だが、一見すると馬鹿馬鹿しいだけのこの状況、よく考えると実は非常に拙い。  
「きゃっ!滑った!!」  
「翔子、大丈夫?って、しまった、私まで!!?」  
片栗粉が混ざって粘性を持ち始めたお湯のせいで、少女達は滑ったり転んだり散々な目に遭ってしまう。  
しかも、元々十数人が一緒に温泉に浸かっていたせいで、浴槽の中は誰かが手足を動かせば別の誰かに当たるような状態である。  
誰かが転べば、周りの誰かにぶつってしまう。  
ぶつかられた誰かはバランスを崩して、次の誰かを巻き込んで自分も転ぶ。  
次々と起こる連鎖反応のおかげで、いまや露天風呂の浴槽内は完全にパニックに陥っていた。  
しかも、そうやってじたばたともがく少女達の動きにかき混ぜられて、お湯はさらにとろとろのぬるぬるになっていく。  
「うわっ!!」  
「きゃあああっ!!?」  
ぬめるお湯に足を取られて転んだカエレは、咄嗟に目の前にいたあびるの体に抱きついた。  
「ごめん、あびる……」  
「カ、カエレちゃんこそ大丈夫?」  
謝るカエレと、彼女を心配するあびる。  
二人の顔は真っ赤だった。  
なぜなら、あびるに抱きついたカエレの右手はあびるの右の乳房を掴み、左手はあびるのお尻の辺りを抱きしめ、  
最後に右頬はあびるの左乳房に押し付けられていたのだから。  
気心知れた友達同士とはいえ、この密着状態は恥ずかしすぎた。  
「す、すぐに体勢立て直すから、待ってなさい…!!」  
慌ててあびるの体から離れようとするカエレだったが、足元もおぼつかないこの状況では簡単な事ではなかった。  
慎重に、慎重に、バランスを立て直そうとするカエレ。  
しかし……  
「カエレちゃんの指…胸に当たって…ひああっ!?」  
「あ、あびる?」  
カエレが体勢を立て直す際、体中のいたる所を彼女の手の平で触られ、  
ぬるぬるの肌を密着させられるその未体験の刺激が、今度はあびるの体のバランスを崩させた。  
当然、あびるに寄りかかって立っていたカエレも同じ運命を辿る。  
二人の体はもつれ合うようにしてぬるぬるのお湯の中へドボン!  
「ああんっ!?…あびる…そこ、触っちゃ駄目ぇ……!!」  
「カエレちゃん…太もも、すりつけないで……っ!!」  
お湯の中で起き上がろうとする動きがぶつかり合って、意図せずして相手の体を刺激してしまう。  
二人の大きめの乳房がぶつかり、くにゅくにゅと形を歪めながら何度も押し付け合わされる。  
必死にしがみついてくるあびるの指先に背中をなぞられて、カエレがたまらずに声を上げる。  
「ひっ…あっ…あびる…だめっ!…だめよぉ!!!」  
「カエレちゃん…止まってぇえええっ!!!」  
抜け出そうとすればするほど、互いの体が刺激し合って体がさらに敏感になってしまう。  
あびるとカエレはまるで底なし沼にでもはまったように、ぬるぬるの中でもがき、悲鳴を上げ続けた。  
 
一方、片栗粉の袋の付近で倒れた望、奈美、愛の三人は、袋から直接溶け出した特に片栗粉の濃度の濃い場所にいた為にほとんど身動きを取れずにいた。  
方膝立ちの望に左右から奈美と愛が必死でしがみついている。  
三人ともこの状態が恥ずかしくて仕方がないのだが、手を離せばたちまち滑ってぬるぬるのお湯の中に沈んでしまい、  
二度と起き上がれなくなりそうだったので、このままの体勢から動くことが出来ない。  
「日塔さん、加賀さん、二人とも大丈夫…ですか?」  
「う…うぅ…あんまり大丈夫じゃないかもです」  
「すみません…こんなはしたない格好で先生にくっついたりして……」  
互いを気遣いながらも、三人は決して目を合わそうとはしない。  
思いを寄せる担任教師が相手に、素っ裸で密着しているこの状況。  
お湯の熱さも手伝って、ほとんど脳が茹で上がってしまいそうな恥ずかしさである。  
この上相手の顔など見てしまった日には、頭がショートしてしまいかねない。  
「こうなっては、もう片栗粉の袋を回収しても意味はありません。とにかく、誰か一人でもここを出て助けを呼んで来ないと……」  
望はそう呟いて周囲を見渡すが、ぬるぬる温泉の中の少女達は誰もがほとんど同じような状態で、ここから抜け出せそうな者はいない。  
「わ、私がいってきます……」  
愛が静かにそう言った。  
「加賀さん、無茶ですよ」  
「そうだよ!こんなにぬるぬるじゃ、お風呂から出る前に絶対転んじゃうよ!!」  
望と奈美がくちぐちに愛を止めようと言葉をかける。  
「でも、誰かが行かなければならないんです……」  
しかし、愛の決意は固かった。  
「それじゃあ、いってきます……」  
慎重に最初の一歩を踏み出す愛。  
お湯の底のぬめりの状態に気を付けながら、さらに一歩、もう一歩と進んでいく。  
だが、しかし……  
「きゃあああああっ!!?」  
やはりそれは無謀な挑戦だったのか?  
フラリと倒れこんできた女子の背中にぶつかられて、愛の体勢はいとも容易く崩れてしまった。  
「か、加賀さんっ!!」  
こちらに倒れてくる愛に向かって、望は咄嗟に手を伸ばし、彼女の体を受け止めた。  
その衝撃に望は危うく転倒しそうになるが、そこをさらに奈美が支える。  
「だ、大丈夫ですか、加賀さん?」  
「はい……でも…」  
しかし、この一連の動作によって望、奈美、愛、三人の体勢はさっきより不味い感じになっていた。  
望は愛を正面から受け止めたため、当然二人の体の前面は否応なしにくっつき合う形になっていた。  
さらに望を背後から支える奈美の胸が、彼の背中にぎゅうぎゅう押し当てられている。  
しかも、三人はこれ以上バランスを崩さないために、互いに強く抱きしめ合っていなければならないのだ。  
密着した肌から伝わってくる体温の熱さが三人からだんだんと思考能力を奪い去っていく。  
「せ、せんせ〜い……すみません…すみませぇん……!!」  
「ちょっ…加賀さん、落ち着いて!体を擦り付けないでくださいっ!!」  
「うう…加賀ちゃんばっかりズルイよ…私だって、せんせい……」  
次第に暴走を始めた愛と奈美。  
二人に前後から挟まれ、サンドイッチ状態の望には抵抗の術もない。  
ぎゅっと望をしがみついて体を擦り付けてくる愛と、そんな愛と望、二人の体をまとめて抱きしめてくる奈美。  
「せんせい…!せんせい……っ!!」  
「ああっ!!せんせいがドキドキしてるの、伝わってくるよう……」  
絹よりも滑らかな二人の少女の肌が、ぬるぬるのお湯を潤滑剤にして望の体の上を滑る。  
愛と奈美は望の体の感触を全身で受け止めて、さらなる興奮の渦に飲み込まれていく。  
当然、こんな状態で望の体の、男性としての機能が反応しない筈がない。  
「あ……せんせい…なにか硬いものがあたってます……うあ、これ、熱いですぅ……」  
「か、加賀ちゃんばっかりずるいよぉ……先生…先生ももっと私のこと感じてください……」  
「二人とも勘弁してください!ていうか、止まって!止まってくださいよぉ!!」  
無論、望の哀願など聞き入れられる筈もない。  
愛は望の腰のタオルを下から盛り上げる硬い部分に、夢中になって自分の大事な部分を擦りつけ  
同じく奈美も、大事な部分を背後から望のモモに擦り付けて、何度となく切なげに声を上げる。  
「せんせい…すみません…わたしっ!…わたしぃいいいいいいっ!!!!」  
「ふああああああっ!!!!せんせい…私…もう……っ!!!!!」  
一際大きな声を上げ、全身をビクビクと震わせてから、奈美と愛はその場にへたり込んだ。  
 
「…もう私…お婿に行けません……」  
そして、望も力尽きたようにその場にペタンと尻餅をつく。  
もはやこの三人に、旅館の館内にまで助けを呼びにいける気力など残っていなかった。  
 
さて、今度は露天風呂の浴槽のフチ近く、そこでは美子が必死になってお湯の中から脱出しようとしていた。  
だが、浴槽の外に伸ばされた彼女の腕はお風呂の外の石敷きを空しく滑るばかり。  
溢れ出たぬるぬるのお湯が周囲を囲んで、浴槽の外までも滑りやすくしているのだ。  
「や、やっぱり駄目みたい…きゃっ!?」  
幾度かのチャレンジの後、お湯の中に滑り落ちそうになった美子の体を、翔子が支える。  
「美子、あんまり無理しないでよ」  
「ごめん、翔子……」  
二人は色々と工夫を凝らして浴槽の外への脱出を図っていたが、それらはことごとく失敗に終わっていた。  
「このまま脱出できないのは辛いわね……だいぶのぼせてきちゃった。頭がくらくらするわ」  
翔子に背中を預けたまま、美子がぼやいた。  
彼女達がこの露天風呂に入って、はてさてどれくらいの時間が経過したものか。  
冷たい外気に直接触れる事のできる露天風呂とはいえ、そろそろ熱いお湯の中に留まり続けるのも限界である。  
それなのに、風呂から上がろうとしても、目の前のせいぜい数十センチの段差を越えられないのだ。  
「普通に従業員がいるなら、そっちの助けを期待してもいいんだけどね……」  
いい加減ぼんやりし始めた頭を抱えて、翔子もため息を吐いた。  
現在、この旅館の営業は全て彼女達2のへの女子に託され、本来の従業員は影も形もないのだ。  
そして、その2のへ女子ご一行はほぼ全員がこのぬるぬる温泉から抜け出せない状態。  
まさに打つ手なしである。  
と、そんな時……  
「うわわ…すべる…すべっちゃう、翔子助けて!!」  
「み、美子っ!!?」  
翔子にもたれかかっていた美子の体がぬるりと滑って浴槽の中にひっくり返りそうになっていた。  
そうなれば最後、とろみのついたお湯の中から這い上がるのはかなり困難である。  
翔子は慌てて美子に抱きつき、彼女の体を支えようとした。  
ところが、翔子の手の平が掴んでしまったものは……  
「しょ…翔子…痛い…そこ、痛いから!!」  
「あ、美子……ご、ご、ご、ごめんっ!!!」  
翔子が掴んだのは美子の乳房だった。  
そんな所に滑り落ちそうな自分の全体重がかかっては、痛いのも当然。  
しかし、翔子にはそれに対処する術もない。  
せめて腋の下に手を入れられれば、そこで美子の体を支える事が出来るのだが、あいにく彼女は美子の両腕の外側から体を抱きしめていた。  
美子も手足を動かして何とか自分の体がこれ以上沈まないように踏ん張るが、なかなか体勢を元に戻すことが出来ない。  
ぬるぬるのお湯の中でじたばたともがいて、ようやく美子が起き上がる事が出来たのはそれから五分も経過した後だった。  
「あうう…翔子、ごめん…ただでさえのぼせてるのに、疲れさせちゃって……」  
「き、気にしないで、美子……」  
ようやくピンチを脱した二人は、さっきの二の舞にならぬよう、互いの体にしがみついて支え合っていた。  
しかし、体力を激しく消耗した二人の意識は、温泉の熱に当てられてだんだんぼんやりと霞んでいく。  
 
朦朧とする意識の中で翔子は、さきほど掴んだ美子の胸の感触を思い出していた。  
(美子のおっぱい…柔らかかったな……形もキレイだし………もう一回ぐらい、触ってみたいかも……)  
頭の芯までのぼせきった翔子の思考回路は、なんだか妙な方向へ流されていく。  
翔子にしがみついて、自分の体を休めるのに精一杯な美子はそれに気付く由もない。  
やがて、翔子の左手はゆっくりと美子の胸に伸びてゆき……  
「ひあっ!?…ひゃあ!!…しょ、翔子!!?…いきなり何して……!!!」  
「やっぱり美子の胸、すごく柔らかくてすべすべ……気持ちいいな…」  
美子の悲鳴も耳に届かないのか、翔子は夢中で美子の胸を交互に触り、揉み、手の平の中で弄ぶ。  
現在の体勢を支えるので精一杯な美子は、その間、翔子にぎゅっとしがみついている事しか出来ない。  
翔子の手の平はあくまで優しく美子の乳房に触れてくる。  
先ほど胸に感じた痛みとの落差もあって、美子は親友の指先の感触をいつしかこそばゆくも心地良く感じ始めてしまう。  
翔子の指に弄られるたび、美子は翔子の体に抱きついた腕にぎゅっと力をこめる。  
(あ、また美子がぎゅっとしてきてる……もしかして、気持ちいいのかな……?)  
そして、そんな美子の行動がさらに翔子を暴走させてしまう。  
美子の胸の先端、薄桃の突起を指の間に転がし、何度も力をこめて摘み上げる。  
敏感なその部分を刺激されて、美子の息はどんどん乱れていく。  
「ふあっ…ああっ……翔子っ…翔子ぉ!!!」  
「美子、可愛い……すごく可愛いよぉ…」  
翔子の責めを味わい続ける美子には恥ずかしさを感じる余裕など既に無く、何度も大きな声を上げてしまう。  
そして、普段はクールな親友の乱れた声が、翔子の興奮をさらに高めていく。  
「美子っ!好きっ!大好きっ!!」  
「あああっ!!翔子っ!私もっ!!私もぉおおおおっ!!!」  
温泉で高められた体温がさらに燃え上がり、密着した素肌を通じて二人を高みへと導いていく。  
「ひっ…あっ…くぅううんっ!!…翔子っ!…翔子ぉおおおっ!!!」  
「ああああっ!!!美子ぉおおおおおっ!!!!」  
やがて、美子はビリビリと全身を痙攣させたかと思うと、ぐったりと翔子の体へ寄りかかってきた。  
翔子はそんな彼女の体を愛しげに、優しく抱きしめる。  
それから、荒く息を切らす美子の耳元に、翔子はこう囁いた。  
「ねえ……今度は美子が私にさっきのアレ、してくれないかな?」  
それを聞いた美子は少し考えてから、  
「うん……」  
頬を赤く染めて、肯いたのだった。  
 
美子と翔子がそんな事をやっているそのすぐ隣では、音無芽留がなにやらじたばたともがいていた。  
(は、放せっ!放しやがれぇええええっ!!!!)  
「こら、芽留ちゃん、そんなに暴れないの。お湯が周りに飛び散って迷惑でしょう?」  
(お前がオレを放さないからだろうがぁ!!!)  
芽留は大草真奈美の膝の上に抱かれていた。  
というか、麻菜実に捕まって、ぎゅうっと抱きしめられていた。  
芽留はこの状況が非常に不味いものであると理解していた。  
普段ならば旦那さんの為に苦労して、危ないお金儲けに嵌ってしまう以外はごく常識人の麻菜実だが、  
ときどきとんでもない暴走をし始める事があるのだ。  
芽留の脳裏に昨年の、ダメAEDでの一件のときの麻菜実の姿が蘇る。  
今の彼女は、あの時と同じ目をしていた。  
「芽留ちゃん、おとなしくして。でないと、ちゃんと体を洗ってあげられないじゃない」  
(だから、何でオレがオマエに体を洗ってもらわなきゃならないんだよ!)  
怪しい光をたたえた眼差しを向けられて、芽留の全身が震え上がった。  
麻菜実は芽留の体をそっとその指先で撫でて  
(ひ…ああっ!?…なんか、今、体がゾワって……っ!!?)  
「タオルが流されちゃったけど、私の手で丁寧に洗ってあげるからね、芽留ちゃん」  
優しげな声で芽留にそう囁きかけた。  
それから、麻菜実は芽留の体を洗うべく、彼女の体中をその柔らかな手の平でこすり始める。  
麻菜実の指先は一切の遠慮無しに芽留の肌の上を動き回る。  
小学生と見紛うほどに小柄な芽留には、そんな麻菜実の手の中から逃れるだけの力は無い。  
ただ、甘んじて麻菜実の指先が体中を撫でて、揉んで、こするのを受け入れるしかない。  
(…うあっ…くぅううっ!?…そんなとこ…さわんなぁっ!!!)  
腋の下に脇腹、そして小さな胸に至るまで麻菜実はどんな場所でも一切手加減なし。  
敏感な場所を好きなように弄くられて、芽留は何度も体を仰け反らせ声にならない悲鳴を上げた。  
(…っあ…こんな…むちゃくちゃされたら…オレ…変になるぅ……)  
目尻に涙を浮かべる芽留を無視して、麻菜実は彼女の幼い胸を徹底的に揉み洗い。  
さらに、先端の突起を指で摘まみ  
「芽留ちゃんのここ、綺麗な色してる……」  
なんて言いながら、指の間でくにくにとこね回す。  
(はぁ…ひぃ…くぁあああっ!!…だめ…それいじょ…むりなのにぃいいっ!!!)  
あまりに激しい刺激に頭をイヤイヤと左右に振る芽留の反応も、暴走中の麻菜実には芽留が喜んでいるようにしか見えない。  
 
「慌てないで、たっぷり時間をかけて、体の隅々まできれいにしてあげるから……」  
(…ひゃ…ひゃめろ…もう…そんなの耐えられない……)  
全身に絶えず刺激を与えられ続けた芽留は、もはや手足を持ち上げる気力すら失われてしまっていた。  
そんな無防備を晒す芽留の体を、麻菜実の指は容赦なく侵略していく。  
やがて、麻菜実の指先が辿り着いたのは、女性の体の中でも最も敏感な部分。  
両脚の付け根に挟まれた大事なその部分も、麻菜実の指のターゲットになっていた。  
(や…めろぉ…そこは…そこだけは……)  
麻菜実が次に何をしようとしているか、それに気付いた芽留は必死に体を起こそうとするが、刺激に痺れた体は全く言う事を聞かない。  
「ほんと、芽留ちゃんの体ってきれいね……私も頑張って洗ってあげなきゃ…」  
(だから…洗わなくていいだろぉおおおおっ!!!?)  
なんとかそれだけは回避しなければと、麻菜実の手を掴み芽留だが、指先が痺れて力が入らず、結局彼女の手を止める事が出来ない。  
やがて、麻菜実の人差し指と中指が芽留の股の内側に割り入り、その部分に触れた。  
(…………っっっ!!!!)  
瞬間、芽留の頭の中を強烈な電流が駆け抜ける。  
芽留の体のほかの部分と同じく、まだ未発達なソコを自分以外の誰かの手に触れられる衝撃に彼女は耐えられなかった。  
「うわあ、芽留ちゃんのアソコぷにぷにしてる。奥の方まで徹底的にキレイにしてあげるからね」  
傍から見ると、麻菜実の行動はどこぞの変態と変わらないのだが、当人に全くその自覚はない。  
ただひたすらに善意と真心をこめて、麻菜実は芽留の体を洗うのだ。  
そして皮肉な事に、麻菜実があくまで真摯に真面目に、芽留の体を洗おうとすればするほど、それは芽留を激しく責め立てる事になるのだ。  
(ひにゃ…はうぅうううっ!!…くぅ…あはっ!…ああっ!!!…こんな…めちゃくちゃにされるなんて……うああああっ!!!)  
敏感な部分を徹底的に弄り倒されて、麻菜実の腕の中で芽留の体が激しく踊る。  
麻菜実の指先はさらに幼い割れ目に押し入り、くちゃくちゃと内側をかき回す。  
一切の遠慮容赦のないその指の動きに、芽留の意識は何度も寸断される。  
(あああっ…も…だめ…これ以上オレ、ぜったい我慢できない……)  
「それじゃあ、最後の仕上げにもう一度、徹底的に洗うわよ!!」  
(や、や、やめろぉおおおおおおおおおっ!!!!!)  
芽留の心の悲鳴は届くことはなく、麻菜実の指先は芽留の割れ目の一番奥深くまで差し入れられた。  
(ひぅ…ああああっ!!…だめだっ!!だめぇえええええええっ!!!!)  
そしてその状態から、激しく内側をかき回す。  
あまりに凶悪で強烈なその刺激が芽留の全身を貫く。  
(…うあ…ゆるして…も…ゆるしてぇええっ!!!!)  
既に許容量いっぱいの刺激を受け入れた芽留の体に、麻菜実の指がさらなる激感を送り込む。  
麻菜実の指に深く強く突き上げられた芽留の体は、まるで雷に撃たれたように震えた。  
全身を弓なりに逸らし、白い喉をむき出しにして、恍惚と困惑の狭間で翻弄され続けた芽留は絶頂の高みへと持ち上げられる。  
(ひぅ…くぅああああっ!!…や…あぁ…イクぅ…オレ…イっちゃうよぉおおおおおおおおおっ!!!!!)  
そして、芽留の体は糸の切れたマリオネットのように力なく崩れ落ちた。  
「うふふ、芽留ちゃん、体きれいになったね……」  
満足げに微笑む麻菜実の声も、意識を失った芽留には届くことはなかった。  
 
もはや誰も彼もが乱れに乱れ、とんでもない騒ぎになっている露天風呂を見渡しながら、千里は呆然と呟いた。  
「変よ。これ、絶対変だわ。ただの片栗粉だけで、みんながこんな風になる筈ない……」  
千里の推理は当たっていた。  
この騒ぎの原因の片栗粉、それを持って来るように依頼した犯人である可符香は、  
片栗粉の中にちょいと怪しいおクスリを混ぜておくように指示していたのだ。  
その成分はお湯を通して、風呂の中の全員の体にすみやかに浸透し、彼女達をここまで乱れさせてしまった。  
(ちなみに片栗粉自体もこの温泉の成分と反応して、よりヌルヌル感が増すように細工をされている。)  
千里はその事を、何よりも温泉の熱以外の原因で熱く火照り始めた自分の体から感じていた。  
そして、この後彼女はさらに、片栗粉に混ぜられた怪しい成分の力を、嫌というほど実感する羽目になる。  
「ち〜り〜!!」  
「きゃっ!?は、晴美!!?」  
突然、背後から抱きすくめられて、千里はあやうく体のバランスを崩してこけそうになる。  
何しろ、今のこの浴槽の中はぬるぬるのお湯でいっぱいなのだ。  
それは晴美も承知している筈なのだけど……  
「晴美、いきなりどうしたの!?転んじゃったらどうするのよ!!」  
「えへへ〜、千里、そんなに怒んないでよぉ」  
「な、何?ちょっと変よ、晴美……?」  
「変じゃないよ。ほら、お詫びの印………」  
そう言ってから、晴美は突然に千里の唇にキスをした。  
「んぅ!?…んんっ…んくぅうう……ぷあ…あ……は、晴美!!?」  
「あは、千里ってやっぱり可愛い…初めて会った頃と全然変わらないなぁ……」  
どこか遠くを見るような、蕩け切った晴美の瞳。  
それを見て、千里は彼女に何が起こっているのかを悟る。  
(やっぱり、あの片栗粉……)  
何とか晴美を止めなければ、そう考える千里だったが、片栗粉に混ぜられたモノの影響を受けているのは自分も同じである。  
「は、晴美…ちょっと落ち着いて…少し話しましょう」  
「だーめ!千里って目を離すとすぐにどこかに行っちゃうから……今日は私、ぜったい千里の事、離さないんだ」  
二度目、三度目のキスが千里の唇に降り注ぐ。  
そして、親友からの口付けの感触を味わう度に、千里の中で保たれていた理性がぐずぐずと溶けていく。  
(ダメなのに…こんなのいけないってちゃんと分かってるのに…私……)  
心の中でぐるぐると葛藤を繰り返す千里。  
そして……  
「は、晴美…私も……」  
「ん…んんぅ……ち、千里……」  
四度目のキスは千里から仕掛ける事になった。  
息継ぎも忘れて、互いの唇に自分の舌を差し入れ、夢中になってお互いの唾液を味わう。  
長い長いキスが終わった後、唇を離して晴美を見つめる千里の瞳は恍惚の色に輝いていた。  
今まで考えた事もなかった、同性との行為。  
しかも相手は幼馴染であり、長年の親友でもあるのだ。  
だけど、今の二人には一度堰を切った感情を止める事が出来ない。  
「はぁ…あ…千里っ…千里ぃ……」  
「…うああ…晴美ぃ……」  
互いの名を呼び合いながら、ぬるぬるの温泉に濡れた艶かしい肌を擦り付け合い、まさぐり合う。  
晴美には千里の、千里には晴美の感じやすい部分、触れて欲しい部分が手に取るようにわかった。  
(こんな事するなんて、考えた事もなかったのに……不思議ね)  
ぼんやりとした意識の中で千里は思う。  
多分、これは二人が重ねてきた長い長い時間のためなのだろう。  
小さな頃、ろくに友達もいなかった千里と出会い、今まで一緒にいてくれた親友。  
想いはきちんと言葉にしなければ伝わらないもの。  
だけど、一度伝え合う事が出来たなら、お互いの気持ちを感じ取って通じ合う事ができる、それだけのものが二人の間にはあるのだ。  
 
「千里の胸、すごく可愛いね……」  
「や、晴美……ダメよ。私、晴美みたいに胸、大きくないから……」  
「ううん。私は千里の胸、好きだよ」  
「ひあ…はぁあああっ…あっ…晴美ぃいいいっ!!!」  
晴美の舌が千里のささやかな胸をぺろぺろと嘗め回す。  
くすぐったくも心地良いその感覚に、千里は何度も声を上げた。  
「あ…はぁ……晴美…それなら、私だって晴美にたくさんしてあげたい……」  
そして、晴美が唇を千里の胸から離すと、今度は千里が晴美の胸に両手をあてがい、その形の良い乳房を優しく揉み始めた。  
「あっ…くう…千里の手が…私のおっぱい触ってる…気持ちいいよぉ……」  
ときに繊細に、ときに大胆に、千里の愛撫は晴美の胸をたまらない刺激で満たした。  
快感の強さに耐えかねて、千里の背中に回した晴美の腕がビクビクと震える。  
「晴美のおっぱい…すごく柔らかい……」  
「ふあっ…ひああっ…千里っ…もっとして…もっとっ!!!」  
晴美は千里の右肩の辺りに顔を埋め、そこから鎖骨を通り首筋に至るラインに何度もキスをした。  
こそばゆい唇の感触を何度も味わって、千里の声も一際大きくなる。  
「千里…私もっと、千里といっしょに気持ちよくなりたいよ……」  
「晴美……私も…大好きな晴美と一緒に……」  
そんな言葉を交わした後、千里と晴美、二人の右の手の平はそれぞれ相手の一番敏感な部分へと伸ばされていく。  
「あっ…千里のここ、すごく熱くなってる……」  
「あんっ…晴美ぃ……晴美のだって、すごく熱いよ……」  
余った左腕で互いを抱きしめ、唇は幾度もキスを重ねる。  
そして右手の指先で、愛しい親友の大事な部分に指を這わせ、くちゅくちゅとかき混ぜ始めた。  
「はうっ…ふぁ…ひやああっ!!…あっ…千里っ!!すごいっ!すごいよぉ!!!」  
「は…晴美ぃいいっ!!!…私も…も…気持ちよくて……うああああんっ!!!!」  
互いに互いをぎゅっと抱きしめながら、一心不乱に相手の熱い部分を弄る二人。  
触れ合った体の全体から伝わる、相手の強い想いが千里と晴美の行為をさらに白熱させていく。  
ぬるぬるのお湯はお互いを愛撫する際の最良の潤滑剤となり、擦り付け合わせられる素肌と素肌が艶かしい光を放つ。  
「ああっ…千里…いっしょにイこう……私、千里といっしょにイキたいよぉ!!!」  
「私もよ、晴美ぃ!!……二人でいっしょに…いっしょにぃいいいいっ!!!!」  
一際強くお互いの体を抱きしめながら、二人は叫んだ。  
互いのアソコを弄る指の動きは激しさを増し、千里と晴美を際限のない快楽の高みへと引きずり上げていく。  
やがて、二人の中で極限まで高められたそれは、ダムの決壊の如く津波となって千里と晴美を飲み込んだ。  
「くぅ…ひあああああっ!!!!千里っ!!イくよっ!!私、イっちゃうぅううううっ!!!!」  
「晴美っ!晴美ぃいいっ!!!…ああ、私もイくぅううううううううううううっ!!!!!!」  
怒涛のような快感の中で、二人は絶頂へと上り詰めた。  
それからしばらく、二人は動く気力もなくその場にへたり込んでいたのだが、  
「千里……」  
「晴美……」  
お互いの名前を呼び合い、もう一度強く抱きしめあったのだった。  
 
さて、そんなぬるぬる風呂での大騒ぎを物陰から見る人物が一人。  
「あらら、予想以上にとんでもない事になっちゃった。クスリがききすぎたかな…?」  
みんながたくし湯に入る中、一人だけ傍観者の位置をキープし続け、片栗粉を使ってさらなる混乱を招いた張本人。  
風浦可符香はクラスメイト達の乱れ様を見て、流石に少し後悔していた。  
「そろそろ、みんなをお風呂から引っ張り上げてあげた方がいいよね」  
呟いた彼女は、救出用のロープを片手に2のへの面々の入る露天風呂へと近付いていった。  
「先生、大丈夫ですかぁ?」  
可符香はまず、浴槽の真ん中あたりで数人の女子に囲まれてぐったりしている望に声を掛けた。  
「これが大丈夫に見えますか?みなさん、このぬるぬるのお湯のせいで大変な事になってたんですよ」  
「あはは……とにかく、今、助けのロープを投げ込みますから、体重の軽い人からそれを使ってお風呂から上がってください」  
「うう……そんなものがあるなら、もっと早く助けに来てくれてもいいじゃないですか」  
ロープを受け取った望は、それを近くにいたマリアの手にくるくると巻きつけてやる。  
その様子を見ながら、可符香が口にした次の一言。  
これが余計だった。  
「すみません……でも、今回は私もちょっとやり過ぎたかなって反省してるんですよ?」  
「えっ!?」  
驚きに顔を上げる望と、明らかにしまったという表情を浮かべる可符香。  
「風浦さん、もしかして今回のコレ、ぜんぶあなたの仕込みなんじゃ……」  
「い、いやだなぁ、先生……そんな事あるわけないじゃないですか……」  
苦しい言い訳を口にしながら、可符香は一歩前に踏み出す。  
だが、そこには露天風呂から溢れ出たぬるぬるのお湯がたまっていて……  
「きゃああっ!!?」  
足を滑らせた可符香は前のめりに宙を飛び、露天風呂の中へドボンと落ちてしまった。  
幸い、咄嗟に望が手を伸ばして受け止めてくれたお陰で怪我はなかったのだけど……  
「どうするんですか!!これじゃあ、ロープを引っ張ってくれる人がいないじゃないですか!!!」  
「あ、あらら〜」  
流石の可符香もこれには呆然自失。  
「こ、これはですね。私も自分の事を先生に託してみたいなって……」  
「託されたって、この中にいる限り私には何も出来ませんよぉ!!!!」  
露天風呂の上に広がる冬の寒空に、望の絶叫が響き渡る。  
2のへの面々がこのぬるぬる風呂から脱出するには、まだしばらくの時間が必要なようだった。  
 

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