『101回目のぷんすか』
〜あるいは、小森爆ぜる!?
日刊新聞誌『帝京スポーツ』エロ面記事より抜粋〜
『美女相手に100人斬り!(写真)さすがにやつれているが達成感に満ち溢れる顔でVサインをする糸色氏。
それもそのはず、血縁関係に「絶倫」もいるというのだから当然の偉業と言えそうだ。(以下略)』
東京府小石川区の朝。
区内の駅売店、コンビニエンスストア、個人営業のタバコ屋、書店、
新聞自動販売機などなどで販売されたとある新聞には上記の記事が掲載されていた。
同区在住の高校教師・糸色望氏がたった一日で成し遂げた未曾有の偉業を喧伝する内容であった。
エロ面に載っている事からも、一日で百人の美女を相手にしたと読者に連想させる文面であった。
相手をつとめた女性のコメントや、一部の顔写真、そして糸色氏のテクニックの解説なども面白おかしく記されている。
ところが実はこれ、もともとは前日に同区の某体育館で開催された永遠にかみあわない弁論闘争大会『対極拳』の大会における
そのラストプログラム・『百人組手』を糸色氏が達成した件についての記事なのだ。
男女の論争というテーマにおいて男性代表となった彼が彼の教え子を含む百人の女性と論を戦わせ、
へろへろに憔悴しながらも論破されること無くやり過ごした、というのが真実である。
しかし取材から戻った記者が記事を起こす段階で、デスクを通してある方面から高度な圧力がかかった。
同区の闇社会に絶大な影響力を持つとささやかれる暗黒の天使の息吹、というやつ。
結果、前記のような下世話な連想を喚起させる内容に改められ、印刷・流通することとなったのであった。
ちなみにその天使様は自らの通う学校で、おん自ら印刷した同記事の号外版を満面の笑みで配り歩いておられた。
そこは糸色氏の勤務する学校でもある。
その当然の帰結として―。
糸色氏は男性からは羨望と尊敬を、女性からは軽蔑と嫌悪と怒りを、それも猛烈に浴びせられることとなった。
彼に取っての問題は、後者であった。
「どーいうこと?」
当面の住処である校内の宿直室に帰った糸色望を出迎えたのは、やるかたない憤懣こもった少女の声。
いつものように毛布にくるまったその声の主は、小森霧であった。
校内にひきこもる彼女は宿直室の望とほぼ同棲状態にあった。
彼女の足元には件の新聞とビラが置かれている。
そのビラと新聞は、天使様じきじきにこの宿直室にもたらされたものであった。
「どーして男の人って!」
望の顔面に、怒声とともにその紙の束が叩きつけられた。
お怒りはごもっとも。
霧は望の校内での日常生活を世話するのみならず、望の預かる甥っ子の交の面倒まで見ているのだから。
それが望の偉業、もとい、ご乱行を喧伝する記事など読んで心穏やかでいられようか。
こんなに日々尽くしているのに、一日で浮気を百人、百回ぶんもされるなんて!というわけだ。
彼女のまわりには、『ぷんすか』という擬音がほとんど物質化して浮かんでいるように見えた。
「いや…ですからね」
とはいえこの記事の内容じたいは捏造で、真実は前述の通りなのだが、望の弁解など霧には取り付く島もない。
彼女の長い黒髪が振り乱れて前に垂れ、その隙間から怒りに光る瞳が覗いていた。
怖い。はっきり言って怖い。
「は、はぁあ…だ、誰かたすけ…」
おたつく望は周りや背後に目を向ける。それは味方になってくれそうな人間を探そうとでもしているように見えた。
「…交くんは倫ちゃんの家に遊びに行ったよ」
霧は無情に同居人の不在を通達する。
実際はビラを読んだ霧の震える肩に立ち上る鬼気を見てとった交が、いち早く逃げ出しただけのことなのだが。
「あと、あのストーカー女は今日この時間は家に帰ってるよ」
常に望に付きまとう常月まといは、収集した望に関連する物品や音声・画像・動画データなどの整理とファイリングのため
実家に定期的に戻っていた。彼女の部屋を埋め尽くす糸色望グッズはその産物である。
そんな事は望は知るどころか一切気付きさえしなかったが、霧は違っていた。
ともに望を巡って争う恋敵同士、お互いの行動パターンや思考・手の内は知悉しているのだ。
「そ、そうだったんですか…。絶望した!孤立無援の状況に絶望した!」
まといは対極拳百人組手を間近で見ていたので、霧の誤解を晴らす証人になったはずであった。
…いや。
望は考える。この場合のまといなら霧の誤解を決定的にするためにあることないこと捏造したかも。
どんな少女も、こと恋にかけては生まれながらのマキャベリストなのだから。
望はどうやらこの場は説得どころか発言も不可能な雰囲気に支配されつつあることを感じ取った。
かくなる上は今はひたすら平身低頭、米つきバッタの如くへいこら這いつくばり、霧の機嫌が直るまで謝罪に謝罪を重ねるしか――。
「もうご飯つくってあげない!」
「えぇっ!」
霧の怒りはとどまるところを知らないようだ。
もともと幾人もの女生徒を惹きつけ恋に惑わせていた望に、今まで霧は何度『ぷんすか』してきたことか。
「もうパチンコいくお小遣いもあげない!」
「い、いやいや、それは私の給料なわけで…」
現在、望の財布は霧に握られている。食費光熱費通信費などはもとより、望の遊興費まで彼女の管理のもとにある。
「何か言った!?」
「い、いえ…」
「…それにもう…えっちだって、させてあげない」
「…こ、小森さん…、そ、それは…」
どうやら手遅れのようであった。
そもそも二人の関係は教師と生徒の同居人でありながら人目をはばかる恋人同士。
如何にして二人が結ばれたか、それは別の物語、ここでは語らぬこととするが――ともあれ柳眉を逆立てた霧の『絶交宣言』。
『絶交』のいかんはともかく、霧の剣幕は望の背筋を氷点下の吹雪の中に叩き込んだ。
以前、彼女の安心毛布を紛失してしまった時の比ではない。
このまま霧の怒りが収まらなければ、毛布のカバーが髑髏柄に変わり、その黒髪が金色に輝き出す。
かつて望はその状態になった霧にやりたい放題痛めつけられた事があった。
「こっ、小森…さん…。いや、とにかくこの通り謝りますから、機嫌をですね、その…何でもしますから、このとおーり!」
Oh!ナイス土下座!!
それは一点の綻びも歪みもねぇ土下座であった。
さながら中華皇帝に対する蛮族の朝貢使のごとく三跪九叩頭、その身にあらわすのは最大限の恐縮恭謙。
それを見下ろしながら、頬をふくらませたここ宿直室の女帝陛下は――。
「ふぅん…先生、いま『なんでも』って言った?」
豊かな髪の向こうで、霧の薄紅の唇がゆがんだ。
彼女独特の抑揚がおさえられたささやくような声が、這いつくばる望の耳に投げかけられる。
「おもてをあげい」
「はっ、はひぃ…」
伏せた上体を僅かに起こし顔をめいっぱいあおのけた望の前髪に、膝立ちになった霧の毛布がふれる。
望の眼前で霧のその毛布が左右に割れてゆく。
「こ…小森さん…」
毛布の下には少女の柔肌――。
屋内にひきこもって日光を浴びない霧の、どこか病的なほど白い磁器のような膝、太もも、そしておなかがあらわになっている。
おなかと太ももの間には純白の可愛らしいショーツ。
それが、望の鼻先に突きつけられていた。
ジャージさえ着なくなり、下着の上に毛布を直接羽織るようになったのはいつごろからだったか。
毛布のなかから、霧の微かに甘い体臭と髪のいいにおいが望の鼻腔をくすぐった。
「うっ…な、何を…」
望はもごもごと何か言いかけたが、霧は耳を貸さない。
彼女はちょうどおへその下あたりを望の顔に当てるとそのまま膝立ちで迫る。
やわらかな、しかし適度な弾力のある肉の壁が望の顔を押し、上体をそらせた。
膝の上に乗った霧が望の肩を押すと、望はそのまま後ろにひっくり返ってしまった。
「先生…何でもするって、言ったよね…?」
あおのけの望の胸の上に乗った霧が、含み笑いの混じった声でささやく。
華奢な指が望の眼鏡に伸び、それをつまみとった。
「ふふっ…没収」
「い、いったい、何を」
霧は望の身体の上で身体をひるがえし、望の脚の方に向き直った。
望の視界には霧の黒髪とその肢体を包む毛布がそびえて見えた。それが、ふわりと広がったかと見えたとたん、望の頭をまたいだ。
望の目を塞ぐように、霧の小ぶりなお尻が顔にのっていた。
その下着越しからでもわかるもっちりとしたやわ肌が、望の顔に吸い付くかのようだ。
柔らかさの中にある筋肉のうねりが、そして霧の匂いが、望の肌に鼻に直で伝わってくる。
「もがっ!もががっ」
「ん…急に動いちゃだめ」
薄絹の下着越しに、霧のからだで最も柔らかく敏感な部分が望の鼻先に押し付けられていた。
秘裂がかすかに開きながら、鼻梁にのっているのがわかる。
望には幾度もからだを重ねて慣れ親しんだはずの霧の肢体だったが、こんな格好で触れ合ったことはなかった。
さっきまで顔面に腰をおろす少女に謝っていたにも関わらず、望は倒錯した興奮が沸き起こってくる。
どうやら霧が自分に何をしようと、いや、させようとしているのか、薄ぼんやりと理解しはじめる。
望には見えなかったが、霧は全体重が望の頭にかかってしまわないように後ろに伸ばした手で上体を支えている。
脚は膝立てて望の体に投げ出されていた。
敏感な部分を横たわる骨と肉で出来た座布団にゆるゆるとこすりつけ、
そこから吐き出される喘鳴を両の脚のつけねに受けてうっとりしていた。
『えっちさせてあげない』などといったくせに、霧は自分のその台詞と下手に出た望の態度を見て、
そして先日望が美女たちに行ったであろう行為を想像でもしたのか、何らかのスイッチが入ってしまったらしい。
「ふふ…先生、わかった?許して欲しかったら…」
霧は腰を僅かに浮かせ、ショーツのへりを望の鼻に引っ掛け、ずり下げる。
あらわになった柔肉をふたたび望の鼻先におろすと、白磁の肌を火照らせて妖しく笑った。
「私の、ここに…チューしなさい」
じゅるぅぅぅぅ。
濡れ光る霧の秘唇に、望の唇が吸いついている。
舌を伸ばし、狭い柔らかな肉の壁をかきわけ、ねぶりあげる。
その奥から溢れてくる粘液を、淫らな音を立ててすすり、飲み下す。
普段とはちがう高圧的で攻撃的な霧の態度に、望は倒錯した昂ぶりを感じていた。
「あんっ!あぁああ、先生じょうず、気持ちいいよ…」
霧は望の唇が『そこ』に届くようにおへそを突き出していた。
許してもらおうと必死で動く望の舌の動きにあわせて腰をうねらせ、すりつける。
今まではどちらかと言えば受身にまわることの多かった霧は、
望が自分の言いなりに奉仕してくれることに嗜虐的な喜びを味わっていた。
「でももっと!ほら、こっちの方にも…チューしなさい」
霧は少し腰を浮かせると望の唇のある所を見当を付け、尻肉の真ん中をそこに押し付けた。
お尻の下でうめき声が上がったが、その情けない声は霧を興奮させるものでしかない。
可愛らしい肉のすぼまりを突きつけられた望は、秘裂から垂れてくる愛液を舌にのせるとそこに一気にむしゃぶりついた。
「んぁぁっ!」
閉じた菊門をほぐすと舌を挿し入れ、先ほどと同じように丹念に愛撫を捧げる。
「あはっ!いいよ、いいよせんせぇ…もっと舐めて…!私のお尻の穴、舐めなさい!」
霧は初めての感覚にうっとりとしながら、今までにない快感を味わおうと白い尻を震わせた。
普段のように顔を見合わせては絶対にこんな事は言えなかっただろう。
望に『ぷんすか』していなければ。望の顔が見えない、それも自分の尻に文字通り敷いているこの状況でなければ、
はしたないを通り越して浅ましくさえある、こんな台詞など。
望はもどかしくなったのか、霧のふとももを下から支えていた手を秘裂のほうに伸ばしまさぐりはじめた。
「あふぁあっ!」
その新しい刺激に、霧は望の下顎と襟元に蜜を吹きこぼしてしまう。
溶けそうな意識をつなぎとめながら、はしたなく快感にゆがめた顔をのけぞらせてあえいだ。
頭を起こして望のからだの方に目をやる。
その股間が、袴の上からでもはっきりわかるほど持ち上がっていた。
霧はそれをみて、ぺろりと紅い唇を舐めた。
「先生、苦しい…?」
霧の太ももを持ち上げた望が、さすがにこの態勢に疲れたのか、やや苦しげに応える。
「い、いいえ…小森さんが気持ちよくなってくれるなら、もう少し頑張りますから…」
「ちがくて。ほら…ここ」
形のよい脚が持ち上がり、膝が伸ばされる。
そのつま先が望の盛り上がった袴の上にのせられた。
親指の裏でくりくりと、そこを転がすようにもてあそぶ。
「うわっ!」
たちまち反応した望。
霧は右足だけでなく左足も伸ばし、望のそこを挟みこんだ。
「固いよ?先生のここ…痛くないの?ふふ…苦しくないの?」
袴の布地の上から足の裏でするするとこすってやると、望の腰がのけぞるのがわかった。
望は今度は霧の尻をつかんでやっと持ち上げ、切なげに答える。
「あ、くっ…!小森さん、どこでこんな事っ…」
「ネットは広大だよ…私だって『勉強』してるんだから…。でも、疑問文に疑問文を返さないでよ。
ほら、先生?どうして欲しいの?」
霧は瞳をきらきら光らせて、舌なめずりした。
―先生を困らせたい。恥ずかしいこと、言わせたい。
「ひ、ひきこもってナニ調べてたんですかっ…!ああもう、そうです苦しいですよ!
私のここを…小森さんの足で、いっ、虐めてください!」
「…よくできました。じゃあ、足だと脱がせられないから自分で脱いでよ。
見ててあげるから、このまま自分で…おちんちん、引っ張り出しなさい」
望は顔面に座る少女の秘部に奉仕を続けながら袴の帯を解き、下帯を解いた。
首にかかる荷重を支えるのに、日頃の首だけトレーニングが役に立ったに相違ない。
ただ生徒の命令と自らの欲望に負けて脱衣するという羞恥に対しては、また別の耐久力が必要であったろう。
ともあれ、空気に触れた望のそれは、痛々しいほど反り返り、牡の透明な粘液を先端にうっすらにじませてさえいた。
「こ、これでいいですか小森さん…。は、はやく…」
望は衣服を解いた手を自らの肉棒に伸ばそうとはせず、律儀に霧の太ももに戻しながら懇願する。
望はそんな情けない台詞が、お互いの官能を昂ぶらせるのを本能的に知っていた。
感受性や共感能力に優れ、悪く言えば場の空気に染まってしまいやすい面もある彼は、
その状況の中で相手から求められる役割というものに自然になりきることができた。
自分自身すら気づかないほどのそれは、彼の持つ特異な才能であると言っていいだろう。
今の彼は、小森霧の完璧なしもべになりきっていた。
霧はむろんそんな事には気がつかない。
ただ無心に、自分の言いなりになる愛しい先生に素直な興奮と今の彼女なりの愛情を表現するだけだった。
「エヘ…おちんちん可愛いよ、先生…。ごしごし、してあげるね…」
ぴくぴくと濡れ光るそれは、まっすぐ霧の官能を突き刺してくる。
ちいさな両の足を差し伸ばす。
重力に従ってへそまで反り返る望の肉棒の中程につま先を挿し入れると持ち上げた。
お腹に垂れた染みから糸引く先端を、今いっぽうの親指の先ですりあげる。
「ぅあっ!」
望の反応が、霧の耳には心地よい。
霧は両足の土踏まずで肉棒を挟みこむと、ゆっくりとその硬いものをしごきあげはじめた。
「ぁあ…うぅあぁ…!小森…さんっ…!」
霧のお尻の下で、望の首がよじれのけぞる。
異様なほど柔らかくなめらかな霧の足裏は、望にかつて味わったことのない官能をもたらしていた。
「足なんかが…こんなに…感じるなんてっ…」
本来、日常生活を営む人間の足裏など、女性だろうとある程度の硬さをしているものだ。
靴に押し込められ、歩むたび走るたび体重を支えているのだからそれは当然だ。
たとえば常に裸足で何処だろうと駆ける関内・マリア・太郎などは常人よりもずっと足裏の皮膚が硬質化している。
硬いものを叩き続けた空手家の拳がやがて石のように固まるように、人の体はその用いられ方によって驚くほど硬度が変わる。
だが、小森霧の足の裏の肉は常人のそれよりもはるかに柔らかかった。
彼女は宿直室にひきこもってほとんど出歩かず、立って体重を足裏で支えることなど台所で食事の支度をする時ぐらい。
靴どころか靴下を履くことすらまれな霧の足は、その指までも猫の肉球のような感触を維持していたのだった。
「先生…お口が、お留守だよ…」
「す、すみません小森さん…。で、でもあなたの足が、気持ちよすぎてっ…!」
「ふふ…可愛い先生…」
力なくゆるゆると波打つばかりになった望の舌と唇に、霧は糸ひく秘所をすりつけながら足を動かしていた。
足の甲に押し付けて親指の付け根で軽く蹴るようにこすってみたり、親指と人差し指の谷間で亀頭のえらを虐めてみたり―。
先走る望の粘液を足指に塗りつけ、霧は思いつくままに望をもてあそび、絞り上げ、責め苛んだ。
望の腰のふるえが、霧のつま先に伝わってくる。
その反応が、霧には可愛らしくてたまらない。
もう限界が近いくせに、一秒でも長く快感を味わいたくておなかをうねらせて耐えようとする望が、愛しくてならなかった。
―さっきは軽くイかされてしまった。今度は、私のばん―。
霧は両足でしっかり肉棒を包むと、とどめをさすようにひときわ激しくしごきあげてやる。
そして耳まで真赤に染めながら手指を伸ばし、望の舌が出入りする秘裂のうえの肉のつぼみをまさぐった。
自分のなかにも昂ってくるものを感じながら、普段なら絶対口にしないような台詞を言い放つ。
「先生…ほら、もういいでしょ…?びゅぅっ、てしちゃいなよ…?
私のここまで、飛ばしなさい…!」
「ああ、…あああぁあ小森さぁんんんっ!」
望の手が霧の太ももをぎゅっと掴んだそのとたん。
霧の足のなかではじけるように脈打った肉棒から、白濁がほとばしる。
「きゃっ!あは、あははっ…いっぱい、出た…」
それは驚くほどの勢いで霧に向かって跳び、そのおへそを胸元を、そして口元までも白く汚していった。
望の顔面から降りた霧は、毛布をはだけさせてちょこんと座っていた。
「ふぅん…百人斬りのあとでも、こんなに出るんだ…」
霧は没収した眼鏡を返しながら、意地悪く笑っている。
「い、いや…ですからね…それはそもそも」
霧の体重に圧迫されていたせいでぼやける視界に戸惑いながら、望は汚してしまった霧のおなかや胸元をぬぐっていた。
「言ってみただけ。もうわかってるもん…。記事はたぶん嘘、先生は無罪だって」
今の射精という物的証拠もあるが、ともあれ望をひとしきり責め立てたことで、
日頃から溜まっていた鬱憤もろとも霧の溜飲も下がったようであった。
とは言え、首をさすっている望を見ると、少々彼女も気が咎めるようだ。
首の骨をポキポキ鳴らした望が、苦笑していた。
「それにしても…普段おとなしい小森さんが、あんな事をするなんて。
いや、驚いたというか、興奮したというか…」
顔を見合わせた霧は、毛布をかき合わせて真赤になってしまった。
今は胸のつかえを吐き出して、もういつも通りの彼女に戻っている。
それでも望を横目で見ながら、ぽしょぽしょとつぶやいた。
「また、して、ほしい…?」
「ええ。でも、私はいまの続きがしたいんですが…その、また起きてきちゃいまして…。
百回とは言いませんが、頑張りますから」
こんどは望にスイッチが入ったのだろうか?
妙に直截的なその物言いに、霧はほてった顔にさらに血をのぼらせてそっぽを向いてしまった。
望の言葉がなんだかさっきの仕返しのように聞こえるのは、少々の罪悪感からだろうか。
霧はかぶりをふると、ぱっと立ち上がって言った。
「…ごはん、作ってあげる。せっかく二人きりなんだし…食べたら、その…いいよ」
それだけ言って、台所に身をひるがえしてしまった。
はぐらかされた望は肩をすくめて笑った。
「やれやれ…じゃあお風呂でも使わせてもらいましょうかね…。
言われてみれば、夕食まだでしたし」
あったかご飯にブリ大根、すりおろした生姜入りの味噌汁。サラダ、漬物、ちょっぴりの晩酌―。
その後、霧が腕をふるった食卓を二人仲良く囲んだのだったが―。
仲直りに少々浮かれ気味の霧は大事なことを失念していた。
食事どきを少々回ったこの時間。
それは望に影のごとくつきまとう、宿命の天敵とも言うべき恋敵が自宅から戻ってくる時間である、ということを。
その少女は、望のベッドの下の闇の中に、すでに超人的な隠形術をもって潜んでいた。
宿直室に満ちるいわゆるラブラブな空気を敏感に察知し、
隠し持った包丁と電柱(何処に隠しているのか、などと突っ込んではいけない。これはそういうものなんです)を握りしめていた。
さて。
その後宿直室にどんな嵐が吹き荒れたか―。
そう、きっといつもの、オフエアバトル。それは別の物語。
――糸色望氏の生活は、にぎやかに多難である。
『101回目のぷんすか』 おしまい