望は平和ないつもと変わらない一日を迎えていた。  
今日は休日なので学校も休みである。  
宿直室で寝そべりながら穏やかな一時を堪能していた。  
望がこの状態になってから数時間ほど経った頃、宿直室のドアがゆっくりと開かれる。  
入って来たのは小さな女の子だった。  
「おや、どこから入って来たんですか?ここは部外者は立ち入り禁止になっているんですよ」  
突然の来客に望は首を傾げる。  
「先生!!」  
女の子は望を見るや否やいきなり抱きついてきた。  
「うわっ!?私はあなたの先生じゃありませんよ!!」  
望は急な事に驚きながらも、女の子が危なくないように体を支える。  
「先生、気付かないんですか?」  
「気付かないって何の事ですか?」  
女の子の言葉に望は疑問に思いまじまじと見つめる。  
よく見るとその女の子は、見慣れた顔、髪に付けた黄色いクロスの髪止めと、まるである生徒に  
そっくりな格好をしていた。  
「風浦さんの妹さんですか?」  
「いやだなぁ、妹なんていませんよ。本人ですよ」  
「へっ!?」  
予想だにしなかった返答に望は目を見開く。  
「前に原形留め無い為にイメチェンしたじゃないですか」  
「あー…そういえばそんな事ありましたね」  
「今度は限界まで原形を留めようとしたらこうなっちゃいました!!」  
「留めるを通り越して若返っているじゃないですか!!」  
こんな状況でも可符香は楽しそうな笑顔を見せる。  
「こんな体験滅多に出来ませんよ、楽しまなきゃ損じゃないですか!」  
「ポジティブですね…私なら一晩は寝込んでいそうですよ…」  
「という事で先生、お世話になりますね」  
「はいっ!?」  
望は思わず変な声を上げる。  
「何でそうなるんですか!」  
「こんな小さな女の子を一人にしていいんですか?」  
可符香は絶対離すものかと望に抱きつく強さを強くする。  
「は、離してくださいよ…」  
「嫌です、先生が面倒見てくれるって言ってくれないと離しません!!」  
今の可符香なら望が振りはらう事は簡単だが、望にそんな事が出来る訳もなかった。  
「風浦さん、小さくなってから少し様子がおかしいですよ!!」  
確かに今までの可符香なら望に抱きつく事などしなかったはずである。  
「えへへ…小さいのを理由に今まで出来なかった事をしちゃおうかな…と考えたんです」  
「風浦さん…わかりましたよ…ここにいていいです…」  
いつになく素直な可符香に望はいとも容易く折れてしまった。  
 
 
いつの間にか日もすっかり暮れていた。  
「では、風浦さんの布団を用意しなくてはいけませんね」  
望はそう言って押し入れを開ける。  
「必要ありませんよ、先生と一緒に寝ますから」  
「そ、そんな事出来る訳無いじゃないですか!!」  
可符香のあまりの大胆発言に望は顔を赤くする。  
「あら、先生は小さい子と一緒に寝て興奮する人なんですか?」  
すかさず可符香は望を挑発するように言う。  
「そ、そんな訳無いじゃないですか!いいですよ証明して見せますよ!!」  
望は簡単に可符香の挑発に乗ってしまう。  
 
一つの布団に男と女が二人、こう言ってしまうと何か良からぬ事を感じられるものがあるが  
今の二人の状況は他の人が見たら一緒に寝る仲のいい親子にしか見えないだろう。  
可符香は疲れてしまったのか、寝てしまっている。  
そしてその横には見えない何かと必死に戦っている望がいた。  
(風浦さんは、何でこんな状況で眠れるんですか…私なんて意識して眠れそうにありません…)  
いくら外見が小さい女の子だとしても、中身は年頃の少女である。  
望は何とか眠りにつこうと目を瞑るが、意識は可符香の方に向いてしまう。  
(信じられていると考えれば悪い気はしないのですが、あまりにも無防備すぎますよ…)  
確かにこの状況は男として少し寂しいものがある。  
だが何か起こしたら、明日の臨時ニュースになりかねない。  
今は一刻も早くこの状況に慣れて、眠りにつくのが得策であった。  
(こんな日が後いつまで続くんでしょうか…)  
望が眠りにつくのはそれから数時間後の事だった。  
 
 
「おはようございます!!」  
可符香の大きな声に目を覚ます。  
「やっぱり寝たら戻っているなんてご都合主義はありませんか…」  
小さいままの可符香を見て望は溜息をつく。  
「今日は学校があるのですが風浦さんはどうするんですか?」  
「大丈夫です!ちゃんとここで大人しくしていますよ」  
「それは助かります!では、授業が終わるまで待っててくださいね」  
「いってらっしゃーい!!」  
まるで親の出勤を送る、子供の様である。  
宿直室のドアがバタンと音を立てて閉じる。  
「先生、『ここ』っていうのは学校って意味なんですよ…」  
そう呟いた可符香の表情は無邪気な子供の笑顔だった。  
 
「先生、可符香ちゃんはお休みですか?」  
滅多に休まない可符香がいない事に2のへメンバーが不思議に思う。  
「はい、用事があるようで少しの間学校には来れないみたいですよ」  
「そうなんですか、寂しくなりますね…」  
奈美ががっかりしながら言う。  
「一体用事ってなんですか?キッチリと理由を知らせておいてくれないとイライラするの!」  
千里が詳しい話を追求する。  
「えっと…用事というのはですね…」  
(困りましたそんな事考えてませんよ…)  
どうやら対策が甘かったようである。  
「さあ!はっきり言ってください!!」  
千里が望に詰め寄る。  
その時、急に教室のドアが開かれる。  
「あれ…可符香ちゃん?…じゃない…誰?」  
そう言ったのはドアを開けた人物を一番最初に目にした千里である。  
(なっ!?風浦さん何でここに!?)  
可符香は少し辺りをキョロキョロと見渡した後、望に走り寄り、抱きついてとんでもない言葉を口にする。  
「お父さん!!」  
「はい?」  
望は突然の事に良く分からないまま返事をする。  
「えーーーーー!!!!」  
と同時に2のへ生徒全員が驚きの声をあげる。  
その衝撃は准が驚きの表情を見せるほどであった。  
「先生、用事ってこれか〜!?」  
真っ先に動いたのはもちろん千里である。  
「そうですね、二年生になってからもう6年以上も経ちますもの、子供の一人くらい出来ますよね」  
「何、一人で納得して暴走しているんですか!!」  
「ゆるさ……ぬ!」  
千里は早くも暴走モード突入である。  
望は可符香を連れて何とかその場から脱出する。  
「一体どういうつもりですか!」  
「家族って事にした方が後で楽かなって思ったんです」  
「そういう事する時は事前に私にも言ってください!!」  
「はい、そうした方がよさそうですね」  
可符香は十分楽しんだのか、満足そうな顔をしている。  
「それじゃあ、止めてきますね!!」  
可符香はそう言って教室に戻っていく。  
「えっ…止めるって…」  
可符香が教室に入った数十秒後には千里の暴れる音がピタリと止んだ。  
「先生、入って来ても大丈夫ですよ」  
教室のドアから可符香がヒョコリと顔を出す。  
「……一体何したんですか?」  
「秘密です」  
望が教室の中を恐る恐る覗き込むと、その中には朗らかな顔をした千里の姿があった。  
「そうなの〜、杏ちゃんって言うんだ、お母さんは誰なのかな?」  
「可符香お母さんですよ!!」  
「お母さんにそっくりだねー!」  
千里がそう言いながら可符香の頭を撫でる。  
その光景を望はげっそりとしながら眺めていた。  
「一体何があったんですか!木津さんが近所のおばさんみたいになっていますよ!!」  
「べ…別に…」  
他のクラスの生徒は何か恐ろしいものを見たような表情をしながら首を横に振った。  
「でも先生、子供ってどういう事ですか!?」  
奈美が混乱しながら望に尋ねる。  
「ぐっ…せっかく話を逸らせたと思ったのに…」  
しかしながらこの事に関しては望も被害者みたいなものである詳しく説明できる訳が無かった。  
 
「いや…私も何が何だか…」  
「何だかわからないうちに子供が出来る訳無いじゃないですか!まといちゃんなんてショックで気絶  
 しちゃいましたよ!!」  
奈美は後ろのあびるが介抱しているまといを指差す。  
「つまり衝動でヤッたって事じゃないか?」  
マリアがニヤリとしながら言う。  
「憶測でものを言わないでください、私はそんな野蛮な事はしていません!!」  
「つまり同意って事か?」  
「そうでもありません!!」  
「さっき先生の実家に聞いたらもう結婚してるって言われたんですが…」  
携帯電話を持った准が、そのまま言われた事を言う。  
「…………………」(あの人たちは…面白そうだからってやりすぎですよ…)  
望は親にさえ遊ばれている状況に絶望する。  
『先生…』  
可符香が望に耳打ちをする。  
『先生、今は家族って事にしていてください、誤解は後でも解く事が出来ますよ…』  
『しょうがありませんね…』  
可符香がこんなに面白い状況をそう簡単に終わらせるとは思えないが、今は言う事を聞くしかない。  
「えーと…とにかく、娘の杏です。可愛がってください」  
「はじめまして」  
可符香はそれに合わせてお辞儀をした。  
 
あれから少し経って、落ち着いたとまではいかないものの先程の騒ぎは治まっていた。  
2のへメンバーが可符香を囲むように立っている、もちろん仲良く会話をしているのだが…  
「お父さんとお母さんはもう結婚したの?」  
「杏ちゃん、やっかいなお父さん持つと大変だね」  
「本当に可符香ちゃんにそっくりだね」  
「お父さんに変な事されていない?」  
「夜、お父さんとお母さんが変な事してなかった?」  
可符香は質問攻めにあっていた。  
「質問の殆どが私への嫌がらせになっているのは気のせいですか…  
 後、教育に良くない質問をしないでください!!」  
近くでそれを眺めていた望が言う。  
「あなた達と一緒にいさせたらやっかいな子になってしまいそうで恐ろしいです」  
望はそう言いながら可符香をヒョイと抱きあげる。  
(ふえっ!?せ…先生!!)  
可符香は突然抱きあげられた事で、口には出さなかったが恥ずかしそうな顔をする。  
「先生ずるいですよ、杏ちゃんを一人占めして!」  
後ろで愚痴を言われていたが望は無視する。  
望は可符香を抱いたそのままの状態で、教室を出て宿直室に向かった。  
「あれって可符香ちゃんだよね」  
望と可符香が出て行った後、あびるがそう言う。  
「あっ、やっぱり気付いてた?」  
その言葉に晴美が反応する。  
「可符香ちゃんだけだったらわからなかったかもしれないけど、先生は行動に態度が出過ぎてたから」  
「だよね、可符香ちゃんが私達と話している時、先生ずっとムスッとしてたし」  
「いいなぁ…可符香ちゃん。先生にヤキモチ妬いてもらえて…」  
奈美は羨ましそうに呟いた。  
 
 
「先生、そろそろ降ろしてくださいよ…」  
「嫌です」  
可符香は何度も離してくれるように言ったが望は全て拒否した。  
「いや〜、ずっとこうしていられるなら小さい風浦さんも良いかもしれませんね」  
体格差がありすぎる今の体では、可符香は望に逆らう事は出来ない。  
「先生、この状態とっても恥ずかしいんですよ…」  
可符香は望の腕の中でもがくが、そんな動きも今の望には愛らしいものだった。  
「私が優位に立つなんて今まで出来なかった事ですね」  
「むー、何だか元に戻りたくなってきました…」  
「どうやって元に戻るんですか?」  
「簡単ですよ、変身や呪いなどを解く方法は古くから大抵それと決まっているんですよ!」  
「それってもしかして…」  
可符香がやっと望の腕から解放される。  
「先生の考えている通りです!さあ先生、やってください!!  
 こういうのは呪いを解く方からするものですよ!」  
可符香はそう言って望の方に顔を向けて目を閉じる。  
(いきなり予想もしなかった展開になってしまいました!!)  
おそらく予想出来なかったのは望だけである。  
(ええいもうどうにでもなってください!!)  
望は半ばやけくそ気味に可符香と唇を重ねた。  
「……………………」  
キスをしていたのは数秒かそれとも数分か、二人は時間の間隔がわからなくなる。  
やがてどちらからともなく唇を離す。  
「先生、大成功ですよ!!」  
可符香の声に望は目を開く。  
その先には見慣れた可符香の姿があった。  
「効き目あるんですね、流石古くから伝わる対処法」  
「本当に戻るとは思って無かったんですけどね」  
「えっ!?」  
可符香のまさかの一言に望は硬直する。  
「じゃあ、何でそんな事言いだしたんですか」  
「むしろ何も起こらないで先生をからかう予定だったのに…」  
可符香はがっかりした顔をする。  
「でも既成事実は出来たのでいいとしますか!!」  
可符香はとりあえずポジティブ?に捉える。  
「あの…もしあれで元に戻らなかったら、どうしていたんですか…?」  
「お手上げでしたね。そして先生は幼女にキスをした変態教師として伝説を残していたかもしれません」  
「風浦さん、本当に戻ってくれてありがとうございました…」  
望は心から可符香が元に戻った事に感謝した。  
「でも先生、生徒にキスしたというのは事実なんですよ」  
「あっ…」  
望は可符香にまた一つ弱みを握られてしまった訳である。  
「用件はなんですか…?」  
望は可符香の方に振り返り恐る恐る聞く。  
 
「そうですね…ただ先生を好きに出来るとかでは面白くありませんし…」  
可符香は新しいおもちゃを買ってもらう子供の様な笑顔を見せる。  
「そうだ、前に千里ちゃんが嘘はいけない事だと言っていたじゃないですか」  
「そういえばそんな事言ってましたね」  
「そういえば千里ちゃんは、嘘を本当に変えることで嘘を無くしていきましたよね」  
「そんな事もありましたね…」  
望はコウノトリに連れ去られた赤ちゃんを思い出した。  
「私達もみんなについている嘘があるんじゃないですか?」  
「子供の事ですか?」  
望はすぐに考えつく嘘を言った。  
「それはもうみんなにバレているので本当にする意味はありません」  
「えっ、バレてたんですか?」  
「先生嘘が下手だからみんなわかりますよ」  
「下手って…確かにそうですが…」  
可符香の言葉が胸に突き刺さる。  
「他についた嘘なんてありましたっけ?」  
望はこれ以上の事は考えつかない。  
「私達はついてませんよ」  
「…と言いますと?」  
望は自分がついていなくて自分に関係のある嘘を記憶の中から探す。  
「あの…もしかしてアレの事ですか?…」  
答えを見つけた望は、言いずらそうに言う。  
「はい、そうですよ」  
その嘘は今から少し前の事、一つの機械を通して告げられたものだった。  
『さっき先生の実家に聞いたらもう結婚してるって言われたんですが…』  
准の言っていた言葉が蘇る。  
「風浦さん、軽く告白になっていますがそう捉えてもいいんですか…?」  
「いいですよ、先生と結婚なんて楽しそうじゃありませんか!」  
「そうですか…」  
望は観念したように言う。  
「何だかさっきよりも緊張しちゃいますね…」  
望が肩に手を置くと、可符香は恥ずかしそうに呟いた。  
「今度はあなたへの誓いの為に…」  
望は暫く可符香を見つめた後、優しく抱きしめて唇を重ねた。  
 
 

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