体育館のあちこちに散らばった生徒達が、各種の飾り付け、パイプ椅子の設置、テキパキと作業をこなしていく様子を、  
望は半ば夢の光景でも見るような気持ちで眺めていた。  
巡り巡って季節は春。  
次第に風もあたたかくなり始めた3月の事である。  
「不思議なものですね。分かっていた筈なのに、こうしてその日が近づいてくるまで、実感なんて全然湧かなかったですよ」  
「そんなものですよ、糸色先生。私もこの仕事は長いですから、それこそ何十回と繰り返している筈なんですが、未だにどこか慣れません」  
望の傍ら、パイプ椅子の並べ方を表にしたプリントを片手に、甚六先生がしみじみとした口調で答えた。  
「こればかりは教師という職業の業ですな。彼ら彼女らは今から新しい世界に羽ばたく身、我々にできるのはもう笑顔で見送る事だけです」  
「……そうですね。きっと、そうなんでしょう……」  
………卒業式が近づいていた。  
2年へ組、かつて望が担任を受け持った、『絶望教室』とも呼ばれる異常なほどに個性の強い面々が集まったあのクラス。  
2のへの生徒たちと過ごす時間はやかましく騒がしく、圧倒的な密度で、今までの望のどこか空虚だった人生を埋め尽くした。  
たくさん苦労もしたし、望の方が迷惑をかけた事も多々あったが、今にして思えばあの空間は他には代えられない大切なものを共有していた。  
2のへの生徒達と望の繋がりは強く、3年生に進級後、それぞれが進路に沿ってクラス分けされた後も、  
事あるごとに望は元2のへメンバー達の引き起こす騒動に巻き込まれて、コテンパンにされた。  
自分の手元から離れても何かと厄介ごとを持ち込む生徒達に、望は苦笑しながらも、  
何だかんだと言われながらも慕われていたのだなと、その事にどこか面映い感覚を覚えていた。  
実際、一癖も二癖もある2のへメンバーにまともに付いて行けるのは望ぐらいのもので、  
担任で無くなった後も彼らの専任教師であるような見方を周りからされていた。  
そうやって、2のへは散り散りになり受験などを控えた忙しい時期だったというのに、  
まるで2年生の時の続きのように、望の周囲では相も変わらぬ騒がしい日々が続いた。  
そして、気がついた時には、彼ら彼女らの卒業は目前に迫っていた。  
「甚六先生…。ここからいなくなってしまうんですね、彼らは……」  
「ええ……」  
「寂しくなります………」  
かつて2のへの生徒達にさんざん苦労させられ、振りかかるトラブルに悲鳴を上げていた望の、それは偽らざる気持ちだった。  
「寂しいな……どうしてでしょうね?どうしてこんなに……」  
「糸色先生……」  
うつむいて、小さく呟き続ける望の肩に、甚六先生がそっと手を置いた。  
体育館の片隅で立ち尽くす望をよそに、着実に、卒業式の準備は進められていった。  
 
ふと通りかかった体育館の脇の廊下で、少し開いたその扉の向こうに望の姿を認めて、可符香は足を止めた。  
体育館は在校生達総出で作業の真っ最中のようだ。  
「そっか、もう少しで卒業式なんだ……」  
何気なく呟いた自分の言葉に、可符香は改めて別れの時が近づいた実感を噛み締めていた。  
この学校での生活も、もうこれでお終い。  
ここにいられて、みんなに出会えて本当によかったと、可符香はそう思っていた。  
大体において、可符香をはじめとした旧2のへメンバーほど濃い学生生活を送った人間などこの日本中を探してもどれだけいるかどうか。  
三年に進級してからもそれは相変わらずで、2のへの生徒がそれぞれ別々のクラスに散らばった事で、毎度の大騒ぎはさらに規模を増していたのではないかと思う。  
笑って、走って、声を上げて、高校生活最後の一年間はあっという間に過ぎてしまった。  
もうすぐ、みんなはそれぞれの道へと旅立っていく。別れていく。  
千里ちゃん、奈美ちゃん、あびるちゃん、小森ちゃん…2のへのみんな………そして、…先生とも……。  
そこで可符香はふと気がつく。  
失ったり、奪われたり、捨てられたり、引き離されたり……今までの自分の人生の中でそれ以外の別れ方をした経験はほとんどない。  
実質的には、これがほとんど初めてと言ってもいいかもしれない。  
自分の意思で選び取る、最初のお別れ………。  
今までの可符香にとって別離はいつも突然で残酷なものだったから、一体どんな顔をしてその日を迎えればいいのか分からない。  
だから、なのだろうか?  
最近の可符香は望と顔を合わせたり、話をする事をそれとなく避けていた。  
何故だろう?  
可符香の話術をもってすれば、望とのやり取りを上手くやり過ごす事など朝飯前なのに。  
顔を見て、声を聞いて、ただそれだけの事がとても苦しくて、その場から逃げ出してしまうのだ。  
「先生……」  
可符香は体育館の中に立つ望の後ろ姿を見つめる。  
その背中はとても寂しそうで、今にもどこかへ消えてしまいそうな風情がある。  
きっと彼も間近に迫った卒業式に思うところがあるのだろう。  
相変わらずわかりやすい人なのだ。  
それが少しだけ可笑しくてクスリと笑いを漏らした可符香だったが、やがてその顔に悲しげな色を滲ませてつぶやく。  
「そうだ。この学校を卒業したら、きっともうあの背中を見る事だって……」  
どうしてこんな事になったのだろう?  
どうしてこんな気持ちになるのだろう?  
きりきりと胸を締め付けるその感覚を振り切るように、可符香は望に背を向けてその場を立ち去る。  
(わからない。わからないよ………)  
心の中で呟いたその言葉を、あざ笑うようにもう一人の自分が告げる。  
わからない?何を今さらとぼけてるんだか……  
もうとっくに気付いているだろう?  
自分の気持ちがどこにあるのか………。  
 
『先生。長い間お世話になりました。私、帰るね』  
『そんな顔しないで。私だってさみしいんだよ。でも、きっと大丈夫だから。頑張るから』  
一人ぼっちの宿直室にぽつねんと座り込んで、望はかつての同居人、小森霧の事を思い出していた。  
引きこもり続けていた彼女が学校から出て行ったのは、2週間ほど前のこと。  
かなり以前から決めていた事らしい。  
全座連には既に去年の年末の段階で彼女と交代する座敷わらしの派遣を要請していたらしい。  
彼女の実家は座敷わらし不在でえらい事になっていた気がするが、彼女が戻るなら大丈夫だろう。  
『少しだけでもいいから外に出て、色んな人に会いたい。そう思ってるの。……全部、先生やみんなのお陰だよ』  
『ありがとう、先生。………大好き。でも、今はちょっとだけ、さよなら』  
この学校で望やクラスメイト達と共に過ごした時間が霧を変えた。  
初めて出会った頃、部屋の外の全てを敵だと思い込んでいた彼女はもういない。  
校門の外まで見送った望に、最後に振り返って見せた笑顔には寂しさの色はあれど、かつての暗い影は欠片も残っていなかった。  
一緒に見送った交は最後の最後まで、こぼれ落ちそうな涙を必至に堪えて、遠ざかっていく霧の背中を見つめていた。  
それから、霧が作ってくれた最後の夕飯を無言のまま食べ終えると、緊張の糸が切れたのだろうか、ほどなく深い眠りに落ちていった。  
そして一晩が明けて、目を覚ました交はいつにない真剣な顔で望に言った。  
『オレ、蔵井沢に行くよ。ノゾム』  
高校卒業後、故郷に戻りより本格的に華道に打ち込むことに決めたらしい倫。  
彼女に祖父・糸色大を説得してもらい、蔵井沢の糸色本家で暮らし、そこで小学校に通う。  
それが交の決断だった。  
『オレが蔵井沢にいたら、父さん達もじいちゃんともっと楽に会えるかなって…そう考えたんだ』  
そう語る交の瞳からはポロポロと、霧を見送ったときには我慢できた筈の涙がこぼれていた。  
『だって…きりねーちゃんにカッコ悪いとこ、見せらんないよ……』  
『私にはオーケーって事ですか?』  
『…うん……だってノゾム、オレよりずっと弱虫だし………』  
苦笑する望の胸に顔を埋め、優しく背中を撫でられながら、交はいつまでも泣いていた。  
その後、倫による糸色本家への説得は成功し(それはもう、実の父である大が何も言えなくなるほどの凄まじいものだったらしい)  
晴れて糸色本家で暮らせる事になった交は、倫より一足先に蔵井沢へと旅立っていった。  
「………一人に、なっちゃいましたね………」  
霧と交のいない宿直室は、薄ら寒いほどに広く空虚に感じられる。  
卒業式が終われば、妹の倫だって蔵井沢に戻ってしまう。  
望の周りにいた人々が、一人、また一人と姿を消していく。  
取り残された子供のような気分の望は、他に何をする事も出来ず、最近はただ2のへを中心としたあの騒がしい面々の思い出に浸ってばかりだ。  
「……そういえば、あなたももう居ないんですよね。常月さん……」  
望が不意にちゃぶ台の上に置かれた、何やら小さな機械に向かって話しかける。  
それは、小型の盗聴器とCCDカメラだった。  
どちらも常月まといが望へのストーキングの為に使っていたものだ。  
「聞こえてますか?見えてますか?……私は今、とても寂しいです……」  
聞こえる筈がない。見える筈がない。  
それらはもう役目を終えて、その回路に電気が流れる事はもう無い。  
「これじゃあ、いくら話しても、こっちからは何も聞こえないし見えないです。…もう少し、気の利いた贈り物をしてくれもいいじゃないですか、常月さん?」  
まといもまた、道を選んだ。  
一世一代の彼女からの愛の言葉を、望は真っ向から受け止めない訳にはいかなかった。  
彼が返した答えには、嘘や誤魔化しの入る余地はなく、まといは今の望の隣に自分の居場所はないと、そう悟った。  
『それでも、私、諦めてませんから。きっともっと素敵な女性になって、先生を振り向かせますから』  
泣き笑いの顔でそう言ったまといに託されたのが、この糸色望監視セットだった。  
何がしかを決意し、一歩前に踏み出す事。  
それはきっと喜ばしい事なのだろう。  
「それなのに、今の私は………」  
呟いた望の言葉に、答える者はいなかった。  
 
ひらひらと桜の花びらが舞い散っっている。  
霞む頭の隅っこの辺りで、望はそれが夢であると何とはなしに悟った。  
あたたかな日差し。優しい風。  
視界に映る全てが輝いているようだ。  
どういう訳か上を向く事は出来ないけれど、空は見事なまでに晴れ渡っているだろう。  
そして、望にはもう一つ気付いている事があった。  
(ああ、これは………)  
頚部を圧迫する慣れ親しんだ縄の感触。  
地面から数十センチは離れ、宙ぶらりんに揺れている自分の足。  
(夢の中まで……ですか。いい加減、自分でも呆れますよ)  
絶望した!  
死んでやる!  
今までそんな事を幾度言ってきたか知れない。  
それらは所詮、世の中を拗ねた、大きな子供が喚き散らし、誰かに見て欲しくて騒いでいただけの事だ。  
でも、だけど……。  
(本当にそれだけだったんでしょうか……?)  
今更ながらに思う。  
自分は本当に『消えてしまいたかった』のではないだろうか?  
首を鍛え、自殺道具に細工を施し、万が一にも死ぬことのないように手を尽くしてきた望。  
でも、もしもその『万が一』が起きていたら?  
繰り返してきた自殺未遂のどれか一度でも成功したなら?  
自分の心の奥底には、そんな暗く濁った願いがあったのではないのか?  
夢の中、望は考える。  
あの頃、2のへの面々に出会う前の自分は、いつも俯きながら歩いていた気がする。  
周囲の景色などお構いなしで、ただ足元に伸びる自分の影だけを見つめていた日々。  
そうだ。  
そんな日々が変わり始めたのは………。  
『いけません!!』  
突然、耳に飛び込んできた馴染みのある声に望はハッとする。  
(そうですか。これはあの時の……)  
黄色いクロスの髪留めの下、青ざめた少女の顔が見えた。  
(風浦さん……そんなに血相を変えて…あなたらしくもない……)  
桜の枝から首を吊った望の体に、必至でしがみつき、地面に引きずり降ろそうと揺さぶる彼女。  
よほど必死で気付いていないのか、それともわざとなのか、望の首は彼女に引っ張られて余計に圧迫されてしまう。  
(てか、夢の中なのにどうしてこんなに苦しいんですか!?んなとこまで再現しなくていいですからっ!!!)  
やがて、もがき苦しむ望の動きも手伝って、首吊りの縄は千切れ、二人の体は重なりあうように地面に倒れ込んだ。  
『死んだらどーするっ!!』  
ここが夢の中である事も忘れて、思い切り叫んだ望。  
そんな彼の視線と、可符香の視線が交錯する。  
(あ………)  
まっすぐに自分の方を見つめてくる、曇りのない赤の瞳。  
その瞳に魅入られたように言葉を失った望は、あの日、2のへの担任として今の学校にやって来たあの頃の事を思い出す。  
(そうだ。この時、この瞬間から私は………)  
巡る記憶のそこかしこに映る赤い瞳の少女の姿。  
それは最後に、望の目の前にぺたんと座り込んだ、出会った頃の可符香の姿と重なって………。  
 
そこで望の意識は夢の中からゆっくりと浮上してきた。  
うっすらと瞼を開くと、まだ暗い窓の外の空に、ぼんやりと輝く月が見えた。  
望はゆっくりと体を起こし、先程の夢の内容を思い返す。  
「あまり勘の良い人間じゃないとは自覚してましたが、今更ながら自分で自分に呆れますよ……」  
ぽろぽろと指の隙間からこぼれていくように、これまでの日常が失われていく。  
多分、その動揺が望に見失わせていたのだ。  
大切なこと、大事な人、決して忘れてはならないその気持ちを……。  
もう、卒業式までの時間はいくらもない。  
それでも動き出さなければ。  
たとえ、どんな結果に終わるとしても、今ここでやらなければ後悔する事がある。  
暗い天井を睨みながら、望はぎゅっと拳を握りしめたのだった。  
 
そして翌日。  
「つまり、きっちり責任を取るつもりは無いと?」  
「あ、うう…そういう事になるんですかね?」  
「許せない…許さない………」  
「はい、わかってますよ。いつもの事ですから…今更あなたから逃げおおせられるなんて思ってませんからぁ!!!!」  
「うぅなぁあああああああああああああっっっっっ!!!!!!!」  
「いやぁあああああああああああああっっっ!!!!」  
千里の右手が放ったスコップによる突きの一撃は、さらに彼女の手首回転が加わる事でさながら削岩機の如き威力を発揮した。  
それをまともに食らった望は、憐れその体は宙に舞い、校舎に強かに叩きつけられたのだった。  
 
「あれ?これで終わりなんですか?もっと洒落にならない事されると思ってたのに……」  
「先生は私の事を何だと思ってるんですか。………まあ、もうニ、三発くらいやってもいいかな?とは思わないでもないですけど…」  
「すみません。ホント、勘弁してください」  
必殺スコップ攻撃を食らってズタボロになった望と、当の加害者である千里。  
可符香は校舎の陰に隠れて、二人の会話にじっと聞き入っていた。  
「でも、良いんですか?さっき、はっきりと言ってくれましたよね。あなたはずっと私の事を……」  
「そりゃあ、良くはないです。良くはないですけど……」  
望の悲鳴を聞いて思わず何事だろうかと駆けつけた可符香だったが、二人のこんな会話を聞く事になるとは思わなかった。  
(そっか…千里ちゃんは先生に自分の気持ちを伝えて……)  
おそらくは千里にとっては一世一代、ずっと胸の奥で温めてきたその想いを言葉にして伝えたのだ。  
望はそれを真っ向から受け止めた。  
逃げず、誤魔化さず、自分の答えを返した。  
千里の気持ちを受け入れる事は出来ない、と。  
その結果が先程、可符香の耳にも届いた千里の怒りの一撃だったわけだ。  
「良いわけがない。本当は今だって、先生に『好き』だと言ってもらいたい。そう思っています。でも……」  
「木津さん………」  
「本当は心のどこかで、先生がいつもみたいに逃げ出して、ぜんぶうやむやにならないかって、そんな事を考えてたんです。  
ほんと、きっちりしてませんよね?だけど、先生は私の言葉に、私の気持ちに、ちゃんと真正面から答えてくれた。だから、もういいんです……」  
次第に涙声に変わっていく千里の声に胸が締め付けられるようで、可符香は壁を背にその場に座り込んだ。  
千里の言葉の一つ一つが、可符香の胸の奥に埋もれていたものを抉り出していく。  
可符香がずっと見ないふりをして、やり過ごしてきた事。  
それに千里はありったけの勇気で挑みかかった。  
そして今、彼女はその答えを手に入れた。  
たとえそれが彼女の望むものではなかったとしても………。  
「先生っ!先生…せんせ……ぐすっ……ごめんなさい。涙、止まらなくて……」  
「木津さんが謝る必要なんて何にも無いですよ。ほら、涙を拭いて…」  
結局、千里が泣き止み、二人がどこかへ行ってしまうまで、可符香は物陰に隠れたままじっとうずくまっていた。  
冷たいコンクリートの壁に体温を奪われ、冷え切った体を抱えて、可符香が歩き出したとき、  
彼女はゆっくりと、自分のやるべき事、やりたい事について考え始めていた。  
 
学校からの帰り道を一人とぼとぼと歩きながら、可符香はずっと考えていた。  
(千里ちゃんは選んだ。決めた。…逃げたりしないで、自分の気持ちを先生に伝えようって…)  
頭の中に望と千里のやり取りが何度も繰り返し再生される。  
(なら、私はどうするの?この胸の中のモヤモヤを、一体どうすれば……)  
思い悩む可符香にもう一人の自分が囁く。  
『モヤモヤ』だなんて、まだそんな事を言っているの?  
もう分かっているんでしょう?その気持ちがどんな意味を持っているのか……。  
(………分からないよ…だって、こんな気持ち…胸が苦しくなるようなこの感じ…本当に初めてなんだから……)  
失って、奪われて、見捨てられて、引き離されて………。  
可符香の人生における他人との関わり合いは、いつもそんな不幸な結末を迎えてきた。  
だから、可符香は極力、自分に近づいてくる人間に心を開かないようにしてきた。  
失いたくなければ、最初から手に入れなければいい。  
満面の笑顔で心を覆い尽くして、いつか来る別れの日までの時間をやり過ごす。  
苛烈な人生を歩んできた可符香が自分の心を守るために編み出した方法がそれだった。  
だけど、唯一、あの2のへでの生活だけはそれまでと違っていた。  
騒がしい友人達の声が、その真ん中にいる望の笑顔が、どうしても忘れられない。  
(私は…一体どうしたら………?)  
そんな時だった。  
ひらり。  
可符香の視界を何かが舞い落ちていった。  
ハッと顔を上げた可符香はそこで目にする。  
「そっか、もう咲き始めていたんだ……」  
頭上を覆う桜の枝の至る所に既に開いた花が、あるいは開きかけのつぼみが姿を見せていた。  
ここ数日の晴れ日がこの後も続くなら、卒業式には満開の桜が見られるだろう。  
「そうだ。私はここで初めて先生と出会って………」  
可符香は思い出す。  
「これが桃色若社長だから……ここにぶら下がってたんだ、先生……」  
生半可な事では動じない彼女も、望のあの姿にはすっかり取り乱してしまった。  
何しろ、父親が『身長を伸ばそうとした』経験があるものだから、トラウマをざっくり抉られてしまったのだ。  
無我夢中で地面に引きずり下ろしたその人物の第一声は  
「死んだらどーするっ!」  
全くめちゃくちゃだ。  
可符香が望に抱いた最初の印象は、変わった人、騒がしい人、そんな所だった。  
だけど……  
「それから、全部が変わっていったんだ……」  
ずっと前しか見ないで走ってきた。  
自分を捕らえようとするもの、絡め取ろうとするもの、それらを全て振り切ってただひたすらに前向きに。  
背後から迫る不幸の黒い影に、決して捕まる事のないように。  
だけど、それは自分の周囲の人間までも振り切って、一人ぼっちになるのと同じ事だった。  
それでも、可符香はそれ以外にこの世界を生き抜く方法を知らなかった。  
このままずっと一人で走り続けて、一人ぼっちで人生を終える、そう思い込んでいた。  
だというのに……  
(先生はぜんぶ違ってた……)  
騙されやすく、後ろ向きで臆病で、そのクセ変にお人好しな、なんだか子供みたいな彼。  
糸色望はあろうことか、全速力で走る可符香の隣を並走し始めたのだ。  
文句を言いながら、悲鳴を上げながら、そんなに嫌ならやめればいいのに、結局彼はいつも可符香の隣に居続けた。  
彼女の隣で笑ってくれた。  
そんな望につられて、可符香も変わっていった。  
今まで見向きもしなかったもの、前だけを見ていた可符香の視界に入らなかった右や左や後ろの景色が彼女の視界に広がっていった。  
世界が色を変えた。  
そして、その隣ではいつだって、困ったような笑顔を浮かべてあの人が寄り添ってくれていた……。  
「先生………っ!!!!」  
堰を切って溢れ出した感情が可符香の胸を埋め尽くす。  
ドキドキと高鳴る胸をぎゅっと抱きしめて、今こそ可符香は確信した。  
「私は、先生の事が………」  
 
一方その頃、学校の宿直室。  
望もまた、可符香と共に過ごした日々に思いを馳せていた。  
「風浦さん……」  
世の中には何もいい事なんて無いと拗ねて、下ばかり向いて歩いていたかつての望。  
「だけど、あなたが変えてくれたんですよね…まあ、かなり無茶ばかりしましたけど……」  
止まる事を知らないかのような可符香の背中を追いかけて、望は必死で走りだした。  
痛い目や危険な目に遭う事は多かったけれど、それが辛かったのかと聞かれれば、迷わずNOと答える。  
「楽しかったです。本当に……」  
あの日、可符香に首くくりの木から引き摺り下ろされて始まった日々。  
彼女と共に走り抜けたその時間は望にとって何にも代える事のできないものだ。  
2のへで起こる大騒ぎの最中、望の傍らにいつの間にかちょこんと座り込んでいたあの少女。  
彼女が何を思って望の傍に居てくれたのか?  
それは分からない。  
ただ、そんな2のへでの毎日が徐々に育んでいったこの気持ちを、今は信じていたかった。  
「風浦さん、私は決めました……」  
ネガティブで後ろ向きな青年の、一生一度の太決心。  
ゆっくりと立ち上がった望の向かう先はただ一つしかなかった。  
 
自宅のベッドに腰掛けて、可符香は携帯のアドレス帳を開いていた。  
画面に映るその名前をじっと見つめて、ゴクリと唾を飲み込む。  
「伝えよう。先生に……」  
震える指先で携帯のボタンを操作する。  
何度目かのコール音の後、ずいぶん久しぶりに思えるその声が可符香の耳に飛び込んできた。  
「もしもし、風浦さん?……こんな時間にどうしたんですか?」  
「あ、先生…その……」  
いつもは淀みなく出てくる言葉が、今日は喉の奥につっかえたように出てこない。  
喉がカラカラに乾いて、頭がくらくらして、自分が何を言おうとしていたのかさえ、一瞬分からなくなりそうになる。  
それでも、携帯をぎゅっと握り締め、可符香は一つ一つ言葉を紡いでいった。  
「は…話があるんです…先生に。…とっても…大事な話が……」  
「そう…ですか……」  
望の声に若干強張ったように感じられて、可符香の緊張はいよいよ高まる。  
それでも、爆発してしまいそうな心臓の音を押さえつけて、可符香は望に伝えた。  
「だから…今から先生の所に行ってもいいですか?」  
「……………」  
その一言を言葉にしただけで、可符香の胸は酸素を求めてゼイゼイと息切れをする。  
果たして望はこの申し出を受け入れてくれるのか?  
今日の昼、千里の告白を逃げずに受け止めた彼ならば、きっと大丈夫だとは思うのだけれど………。  
「……すみません。それ、無理です」  
だが、返ってきた答えはあまりに残酷なものだった。  
瞬間、可符香の思考は真っ白になって、何も言えなくなってしまう。  
やがて、その言葉の意味を十分に理解した可符香は、ポツリと口を開いて……  
「ごめんなさい、先生………」  
それだけ言って、通話を終了しようとした。  
だけど……。  
「ちょ、ちょっと待ってください!!風浦さん、あなた、誤解してますからっ!!!」  
「えっ!!?」  
慌てた様子の望の声に可符香は顔を上げた。  
「あなたと話したくないとか、そんな事じゃないんです。というか、むしろこっちが……」  
その声は手にした携帯電話からだけではなく、可符香の暮らすアパートの、ドアの外からも微かに聞こえていた。  
「先生……いるんですか……?」  
「はい………」  
転びそうな勢いで玄関まで飛び出した可符香は、ゆっくりと開いたドアの向こうにその人の姿を見た。  
「……風浦さん、私もあなたに話したい事があります………」  
いつもと変わらぬ苦笑交じりの表情で、望はそう言ったのだった。  
 
街灯に照らされた暗い道を可符香と望が歩いていく。  
(部屋の中で二人きりで話すのは……)  
(流石に気まずいですからね…………)  
期せずして同じ考えに至った二人は、外に出て散歩しながら話をする事になった。  
というわけで、丸い月の見下ろす夜空の下、二人は微妙に距離を開けつつ並んで歩いているのだが……  
「そういえば、最近、風浦さんとあまり話せてませんでしたね……」  
「……そうですね。こんなに落ち着いて先生と話すなんて、本当に久しぶりな木がします……」  
二人揃って本題に入るタイミングを見失い、ここ最近の近況という当たり障りのない話題でお茶を濁していた。  
事前に『話す事がある』と伝え合ってしまった事で、望も可符香も相手の出方を窺って、萎縮しているようだった。  
(いけません!これを逃したら、もうチャンスは無いかもしれないのに……っ!!!)  
(先生にちゃんと気持ちを伝えるって決めた筈だったのに………っ!!!)  
眼に見えない煩悶を腹の中に抱えながら、二人は行く当てもなく夜の街を歩く。  
その内、二人はとある踏切にさしかかった。  
「あ…ここは?」  
「……?どうしたんですか、先生?」  
「むぅ…まさか風浦さん、忘れたとか言いませんよね?」  
「いえ、さっぱり記憶に無いですけど?」  
あっさりとそう答えた可符香に、望は若干不機嫌そうな表情を見せて  
「ほら、私が転任してきたばかりの頃、ここの踏切であなたに背中を押されて……」  
「ああっ!直前まで『死なせてください!!』って言ってたのに、間一髪列車に轢かれずに済んで『死んだらどーするっ!』って叫んでた……」  
「うぐ…それは置いといてですね……」  
「あの時に改めて実感したんですよね。先生の生き意地のきたな…もとい、どれだけ命を大切になさっているかを……」  
可符香の切り返しに完全に言葉を詰まらせる望。  
彼女はさらににっこりと微笑んで  
「あ、それともチキンの方が分かりやすかったですか?」  
「うぅ…もういいです…参りました……」  
すっかり拗ねてしまった望の姿に、可符香がくすくすと笑う。  
「そういえば、その後でしたよね。先生が小森ちゃんの家を訪ねたのは……」  
「…ええ、そうでしたね。小森さんの家の前であなたとばったり鉢合わせして……」  
そんな話をきっかけに、二人の話題は望が2のへに転任してきた頃の思い出話にシフトしていく。  
「今ではすっかりお馴染みになっちゃいましたけど、常月さんが袴姿になったのもちょうどあの頃からなんですよね」  
「あびるちゃんのバイト先の動物園で、虎に食べられそうになったり……」  
「木村さんがうちのクラスに来たのもちょうどその頃でしたね」  
「芽留ちゃんや先生といっしょにポロロッカと交信したり………」  
「いえ、あの時、何か聞こえてたのはあなただけですから……」  
次々と浮かび上がってくる記憶は止まる事を知らず、二人は夢中になってかつての2のへでの日々の事を語り合った。  
その中で望と可符香は改めて実感する。  
(……そうだ。先生はずっと私の隣にいてくれたんだ……)  
(……風浦さんと過ごす毎日は本当に楽しくて……だから、私は……)  
それぞれが胸に抱く思いが熱を帯びていく。  
その熱が二人の気持ちに確信を与える。  
いつの間にか、少しだけ開いていた筈の二人の間の距離は縮まって、肩と肩が触れ合うほど近くに寄り添って歩いていた。  
そして………。  
 
「あっ………」  
二人はY字路にさしかかって、その足を止めた。  
可符香の家への道と、学校へ至る道のちょうど分岐点。  
しかし、今の望と可符香にはこのY字路がそれ以上の意味を持ったものに感じられていた。  
(多分、これがラストチャンスなんでしょうね……)  
(ちゃんと先生に伝えなくちゃ………)  
二人の鼓動がまたドキドキと高鳴り始める。  
先程まであれほど楽しげに思い出を話していた口が急に重くなる。  
緊張に全身が強ばり、忘れていた筈の不安感が頭をもたげてくる。  
………しかし、それでも、今の二人が抱く気持ち、その確信は揺らがなかった。  
「風浦…さん……」  
「えっ…あ…先生……?」  
先に口を開いたのは望だった。  
彼は自分の手の平を可符香に差し伸べて、言った。  
「この手を握ってくれませんか?……この先の道を、私と一緒に歩いてくれませんか?」  
まっすぐに自分を見つめる眼差しに、可符香はそれが言葉以上の意味を持ったものであると理解した。  
………この先の道を、人生を、先生とずっと一緒に………  
「私はこんな男ですから、あなたを幸せにするなんて、とてもじゃないけど言えません。  
だけど、あなたがこの手を握ってくれるなら、私はどんな道だって進んでいけます。だから、風浦さん……」  
望の言葉がゆっくりと、可符香の胸の奥にまで染みこんでいく。  
嬉しくて、ただ、嬉しくて…可符香は胸がいっぱいになって何も言葉を返す事が出来ない。  
答えは一択。  
迷う必要は無い。  
ただ、目の前のこの手をしっかりと握ればいい。  
だけど………。  
(どうして…こんな時に……っ!?)  
可符香の脳裏をよぎる、かつての別れの記憶達。  
失い、奪われ、引き裂かれ、一人で歩いてきた記憶が可符香の心を締め付ける。  
もしも、この優しい手の平を失う事になったとしたら、その時自分はどうなってしまうのだろう?  
言い知れない恐怖が、彼女の決断を躊躇わせていた。  
(だけど…それでもっ!!)  
それでも、可符香は選んだ。  
「先生…っ!!!」  
望の手の平をぎゅっと握り締め、そのまま彼の胸に踊りこんだ。  
恐怖が消えた訳じゃない。  
不安は相変わらず胸の奥を締め付けている。  
だが、たとえいつか失われる運命だったとしても、可符香はこの選択を後悔しないだろう。  
「先生…好きですっ!!」  
「風浦さん……」  
望の腕が背中をぎゅっと抱きしめる感覚に、可符香は身をゆだねる。  
好きなんだ。  
大好きなんだ。  
この手を拒む事がどうして出来るだろう?  
失い、奪われ、引き裂かれるというのなら、全力でそれに抗おう。  
この手をずっと握っていよう。  
「風浦さん、私もです。……私もあなたを愛しています……」  
そして、望のその言葉が可符香のその決意を、強い確信へと変えた。  
やがて、二人は指と指とを絡め合い、ぎゅっと手を握り合ったまま、学校へと続く道へ……  
望と可符香が一緒に生きる未来へと歩み出したのだった。  
 
ガラガラと引き戸を開けて、二人は宿直室の畳に腰を下ろした。  
今、この学校には望と可符香の二人以外誰もいない。  
「そっか…交君も小森ちゃんもみんな出ていってしまったんですね……」  
「ええ。もう二度と会えない訳じゃないですが、寂しいですよ、正直なところ……」  
「みんなとも、後数日でお別れなんですね……」  
「……そうですね…」  
間近に迫った別れを想って、二人の間にしんみりとした空気が流れる。  
しかし、望はそんな雰囲気を振り払うように笑顔を浮かべて  
「それでも、良かったですよ。この学校に来て、みなさんに会う事が出来て……」  
可符香も柔らかな微笑みを浮かべて、望の言葉を引き継ぐ。  
「そうですね。私もみんなに会えて良かった……」  
「……それに…今はあなたがここにいてくれますから………」  
望の腕が、隣に座った可符香の華奢な体を掻き抱く。  
そのまま、引かれ合うように唇を重ねた二人は、しばらくの間、初めて味わう愛しい人とのキスに没入する。  
「ん…ぷぁ……せんせ…」  
「…風浦…さん……」  
最初は唇を触れ合わせるだけだったそれは、次第に激しさを増し、どちらともなく突き出した舌を絡め合うようになる。  
互いの唾液の味に溺れ、脳の芯まで痺れるようなその感覚に我を忘れた二人は、無我夢中でその行為に酔い痴れた。  
「あっ…うぁ……んんっ…先生…もっと触って…強く抱きしめてください……」  
「くぅ…ううっ……風浦さんっ!…風浦さん……っ!!!」  
ずっと胸の奥に秘めてきた互いの想い、それを確かめた事がトリガーになったのだろう。  
溢れ出る熱情はタガを外され、二人はより激しく、より強く、お互いの熱と手触りを求めて抱きしめあった。  
「ひぁ…はぁ…うああっ!!」  
セーラーの裾から入り込んだ望の手の平が、可符香の白磁の肌を滑る。  
その指先は興奮のせいかより敏感になった可符香の肌の上を縦横無尽に走りぬけ、痺れるような感覚に可符香は切なげに声を上げる。  
「うぁ…ああっ……くぅ…さすが、昔は男女のべつまくなし、やんちゃで鳴らした先生です…」  
「……うぅ…なんだってこのタイミングでそういう事を言うんですか?」  
「事実じゃないんですか……?」  
「……それは……そういう時期が無かったとは言いませんが……あうあう…」  
可符香はすっかり弱り切ってしまった望の頬に両手をあてがい、もう一度優しくキスをする。  
「でも…今は私だけの先生……なんですよね?」  
「……はい。…正直、もうあなた以外の誰も目に入らないって、そんな気がします……」  
望の言葉を聞いてうれしそうに微笑んだ可符香に、今度は望からお返しのキスをする。  
それから、望は可符香のセーラーをたくし上げ、ブラを外し、露になった形の良い両乳房にそっと触れる。  
「ひ…うんっ!…あ…くすぐった…ひぅううううっっっ!!!」  
「…きれいですよ、風浦さんの体……」  
「だめ…です……そんな事言わないでぇ…あっ…くぅうううううん!」  
あくまで丹念に優しく、可符香の胸を愛撫する望の手先の動きは繊細そのものだ。  
まんべんなく揉まれた双丘はじんじんと痺れ、先端のピンクの突起を刺激される度、可符香の喉から甘い悲鳴が漏れる。  
さらに望の指先は可符香の体の至る所をまんべんなく愛撫し、やがて彼女の体は火傷しそうな熱を帯び始める。  
「…ああっ…せんせっ…も…熱くて…おかしくなりそうです……っ!!!」  
最初は遠慮がちに押さえられていた声も、もうこうなってしまっては歯止めがきかない。  
迸る快感と、感情のうねりに任せて、可符香は叫び、泣く。  
そして、それは望にしても同じ事だった。  
「風浦さん…好きです……その声も、涙も、あなたの全部が……だから、もっと見せてください……っ!!!」  
生物の本来的な欲望に、愛しい人と触れ合い、愛し合える歓喜が混ざり合って、その熱を加速させていく。  
太ももの内側に指を這わせたとき、鎖骨にキスをしたとき、ビリビリと震える可符香の体の感触に望の熱情は高まっていく。  
「はぁ…はぁ…せんせ…うあ…ああああっ!…先生…っ!!!」  
「…風浦…さんっ!!!」  
互いの体をくねらせ、絡ませ合う二人の動きは激しさを増していく。  
衣服の布地が畳の上を擦る音、荒く切れ切れの息遣い、触れ合った肌から感じる微かな鼓動。  
その全てに愛しい相手の事を感じ取って、望と可符香はさらに強く深くその熱の中に溺れていった。  
 
やがて、望の指先は可符香の両脚の付け根の間、一番敏感で大事な場所に触れる。  
指先に触れた熱い蜜の感触に背中を押されて、望は可符香のショーツをずらし、今度は直接その場所を愛撫する。  
「ひぁ…ああっ…せんせ…やぁ…先生のゆびがぁっ!!!…ふああああああっっっ!!!」  
誰にも触れられた事の無かったその場所に、望の指先が触れている。  
恥ずかしさと快感が絡み合うように押し寄せて、可符香はたまらず望の背中にしがみついていた。  
「せんせ…すごい…きもちよすぎて…どうにかなっちゃいそうで…ひああっ…やあああああっっっ!!」  
何度となく入り口の部分を指で撫で、かき回し、溢れ出る愛蜜で手の平がびしょびしょになるまで、望は可符香を攻めつづけた。  
「うあ…ああっ…せんせいのが…ほしいですっ!!!」  
「……風浦さん…私も…風浦さんとひとつに……っ!!!」  
やがて、高まり続ける快感と熱の中で、二人は次の段階に進む事を決めた。  
一番敏感で熱い部分で繋がり合って、快楽を共有し、互いの存在を感じ合いたい。  
望は自らの分身を、可符香の秘所の入り口の部分に押し当てた。  
「風浦さん………」  
「せんせ…きて……」  
望と可符香は互いの気持ちを確かめ合うように、長い長いキスを交わしてから、ついに挿入を開始した。  
ゆっくり、ゆっくりと可符香の中に沈み込んでいく望のモノは、やがて引き裂くような痛みと共に少女の体を貫いた。  
「あっ…くぅ……痛…ぁ……」  
「だ、大丈夫ですか、風浦さん!?」  
「だいじょうぶです。…いたいけど、平気……それよりもっと…もっと先生の事、私に感じさせてください……」  
掠れそうな声で哀願する可符香の言葉を受けて、望は腰を動かし始める。  
あくまで初めての痛みに震える少女の体を気遣うように、ゆっくりと……。  
「…ふあ…あああっ!!…せんせいの…あつい……っ!!!…く…うぅうううっ!!!」  
望が腰を動かす度に、可符香の体を痛みと快感が混ざり合った強烈な感覚が貫いていく。  
強烈な刺激の渦が、体の内側で暴れまわって、もう何も考える事が出来ない。  
ただ、自分のことをいたわるように抱きしめる望の腕と、体の内側に感じる望の感触が、可符香をさらに激しい行為に駆り立てていく。  
「ああっ!…風浦さんっ!!…風浦さん……っ!!!」  
「…せんせ……せんせいっ!!!…好きっ!!…好きですぅ……!!!!」  
痛みも、快楽も、熱も、愛しい人と交わり感じられるその全てが愛おしい。  
もっと強く、もっと激しく、大好きな『あなた』を感じて高みに上り詰めたい。  
重ねた手と手、指と指を絡みあわせて、互いの息遣いと鼓動をシンクロさせて、可符香と望はより深く交わっていく。  
「ひあっ…あああっ!!…あ…せんせ…すごい…せんせいのがあつくて…わたしぃ……っ!!!」  
迸る甘い痺れに、燃え上がる熱に、可符香は全身を震わせて望にすがりつく。  
望はそれに応えて、可符香の華奢な体を抱きしめて、激感に震える少女の額にキスをしてやる。  
痛くて、気持ちよくて、熱くて、愛しくて、渦巻く感覚と感情が可符香と望を高みへと押し上げていく。  
「うあ…せんせいっ!!…あついのがこみあげてきて…わたし…もう……っ!!!」  
「風浦さんっ!!…私もっ!…私もいっしょにっ!!!!!」  
一際強い突き上げと共に、可符香の体の奥で弾ける熱。  
それはギリギリまで張り詰めていた糸を断ち切り、可符香の心と体を絶頂へと導く。  
「風浦さんっ!!愛してますっ!!風浦さん……っっ!!!!」  
「あああああああっ!!!!!せんせ…好きっ!!!…せんせいぃいいいいいいいいっっっっ!!!!!」  
細い体を弓なりに反らせて、絶頂感に体を震わせる可符香。  
やがて、その体からは糸の切れた操り人形のように力が抜けて、望の体にくったりと寄りかかる。  
望は初めての行為に息を切らせる可符香の背中を優しく撫でてやる。  
やがて、その呼吸が落ち着いた頃、可符香はゆっくりと顔を上げて  
「先生…好きです……」  
「私もですよ、風浦さん……」  
優しく微笑みあった二人は、そっと唇を重ねあったのだった。  
 
そして、卒業式当日。  
粛々と進められる式の様子を、望はただじっと見守っていた。  
これで見納めとなる生徒達の姿を目に焼き付けようと、まばたきする瞬間さえ惜しんで、教え子達を見つめていた。  
式が終わりに近づくと、感極まって涙をこぼす生徒や教師の姿もちらほらと見られたが、望は不思議と涙を流せなかった。  
ただ、胸に込み上げてくる寂しさと喜びが入り交じった、言い表わし難い感情を押さえ込むのにはひどく苦労した。  
 
「……まあ、教室に戻って最後のホームルームをしてる内に、結局大泣きしちゃったわけですが……」  
「凄かったですね。涙も鼻水もぜんぜん止まらなくて、結局クラスのみんなに総出で慰められて……」  
「うう、情けないです………」  
そして、今、望は可符香と共に、思い思いに記念写真を撮ったり、後輩達に声をかけたりしている卒業生達に紛れて、舞い散る桜の中に立っていた。  
「みんなここを出て行くんですね。この学校を旅立って、それぞれの道に進んで……」  
可符香は、少し寂しげな望の顔を見て、彼の手の平に自分の手をそっと重ねた。  
そして………。  
「でも、私がいますから。……私はずっと、先生のそばにいる。そう決めましたから……」  
「わかっています。……ありがとう、風浦さん」  
望はその言葉に応えて、可符香の手をぎゅっと握り返し、優しい微笑みを彼女に向けた。  
可符香はそんな望の様子を見て、照れくさそうに頬を染めた後、望の体にそっと寄り添ってきた。  
その温もりに望は改めて決意する。  
この手を決して離さない。  
ずっと彼女の隣にいて、彼女と一緒に歩いて行こう。  
それこそが、あの夜、二人で手と手を握り合い、選び取った道なのだから……。  
と、望がそんな感慨にふけっていた時である。  
可符香が不意に口を開いた。  
「先生、そういう訳で私達は一緒になる事になった訳ですけが」  
「はい……」  
「人生には色々な辛い出来事もあるわけで」  
「まあ、そうですね……」  
「私たちはこれから、そういう試練を乗り越えていかなきゃならないんです。……と、いう訳で!!」  
「はいっ!?」  
突然、可符香がビシッと指差した方を見て、望は完全に凍りついた。  
 
「そっか…二人ってそういう仲だったんだ……」  
セーラー服の肩に毛布をひっかけた奇妙な出で立ちの小森霧が……  
「一度は諦めたつもりだったけれど、こんな風に見せつけられたら、ちょっと黙ってられないですよね……」  
同じく久しぶりのセーラー姿の常月まといが……  
「やっぱり、キッチリとけじめはつけなくちゃいけないわよね……」  
スコップを肩に担いだ木津千里が……  
そして、かつての2のへ女子メンバー達が異様な妖気を漂わせて、そこに立っていた。  
「ちょ…皆さん、待ってください!!そんな殺る気満々で来られたら、さすがの私も……」  
まさに蛇に睨まれた蛙状態の望の背後にちょこんと隠れた可符香が、彼の耳元で囁く。  
「愛の試練・その1です。先生の健闘を祈ります!」  
「ふ、風浦さんまでそんな……ああ、皆さん武器をこっちに向けないで……っ!!!!」  
泣き笑いの表情の望にじりじりと迫る女子生徒達。  
どうやら望の受難はそう簡単に終わってくれはしないようだった。  
 

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