窓の外から聞こえる車の音や動物の鳴き声、隣の部屋の住人の生活音。
そんな無数の音達が一人ぼっちの部屋の静けさを余計に強く感じさせるそんな夜。
私は携帯を片手にアパートのベランダに出る。
それから、『あの人』の電話の番号を液晶に表示させる。
そのまましばらく、闇の中に煌々と光る画面と、そこに映し出された名前をじっと見つめる。
通話ボタンに指をかけたまま、少しだけ悩む私。
かけるべきだろうか?
かけないでいるべきだろうか?
電話の向こうから聞こえてくるあの人の声は、きっと私を安心させてくれるだろうけれど、
その居心地の良さに溺れてしまう事が私には何だか少し恐ろしかった。
躊躇う事十数秒、結局私はボタンを押した。
耳元に響くコール音と一緒に心臓が少しずつ鼓動を早めているのが分かる。
ちゃんと出てくれるだろうか?
いつの間にか携帯をぎゅっと握りしめている自分に気付く。
やがて、短くて長いその時間が過ぎ去った後、その人の声が電話越しに聞こえてきた。
『もしもし、こんばんは、風浦さん』
「こんばんは、先生」
お馴染みのその声を聞いただけで明るくなる自分の声に、我ながら現金だなと苦笑を一つ。
そんな自分の感情を悟られぬよう、なるべくいつも通りの声を装って、私は先生に話しかける。
「今夜は月が綺麗ですよ、先生。空の真上で大きな鏡みたいに輝いてるのが見えます」
『ああ、ちょうど私も見てた所ですよ。今日は本当によく晴れましたからね』
「はい。月の右下には虹色に輝くポロロッカの星も見えるし」
『いえ…あの、私の目にはちょっとそういうアレは確認出来ないのですが』
「そこから飛来するポロロッカの宇宙船の大編隊も!!」
『いや、風浦さん、ちょっと落ち着いてくださいって!!!』
と、その時、雲一つ無い夜空を横一文字に切り裂いていく光が一つ。
『あ……私にも見えました。何か飛んでいきました』
「ふふふ、既に数多くのポロロッカの人々が地球にやって来ているのです」
『ちょ…マジですか?マジなのですかー!!?』
すっかり私のペースに乗せられて慌てふためく先生の様子に、クスリと小さな笑い声を漏らす。
残念ながらさっきの光は宇宙船のソレではない。
衛星軌道を周回する人の手で創りだされたお星様、人工衛星の光だ。
それを見越してアドリブをしただけなのだけれど、流石先生、こういう時の反応は段違いだ。
予想以上の先生のリアクション、ここはもう一押ししない方が失礼というものだろう。
「ほら、先生の後ろにもポロロッカ星人が……」
『ひ…ひぃいいいいいい!!?』
電話越しに聞こえる悲鳴とドタバタと騒がしい音だけで、今の先生の様子が目に浮かぶようだ。
『ああ!ポロロッカが…ポロロッカがーっ!!!』
(ちょっと先生、落ち着いてよ)
『これが落ち着いてられますか、小森さん!!ひぃいい…窓にっ!窓にっ!!』
(アレは先生のお兄さん達でしょ?今日遊びに来るって先生が言ってたんだよ?)
(おい、望、今日は一体どうしたんだ?)
(なんだぁ、望、ずいぶん騒がしいじゃないか?)
(なっさけないなぁ、ノゾム!)
先生の声に重なって聞こえる宿直室に集まったみんなの笑い声。
今日はどうやら絶景先生と絶命先生もいるらしい。
私は少しだけ眼を閉じて、その賑やかな光景の中にいる自分の姿を想像する。
それが出来るなら、それ以上の幸せなんて無いのに。
でも、私が今ここでこうして一人ぼっちでいる事も、2のへの皆にすらどこかで一線を引いて心を閉ざしているのも、全部自分で選んだ事。
先生もみんなも、私をのけ者になんかしないって、きちんと分かっているのに。
その一歩を踏み出す事が出来ない私の居場所は、やっぱりこの一人ぼっちのアパートだけだ。
『はぁはぁ、ふ、風浦さん担ぎましたね!!あなたが宇宙船だって言ってたの、人工衛星の光だそうじゃないですか!!』
「おお、さすが先生、鋭いです!」
『うう…いつもいつもあなたは、そうやって人をからかって……』
ようやく騙されていた事に気づいた先生が恨めしそうな声で語りかけてくる。
だけど、どんなに私に文句を言っても、電話を切ったりしないんですね。
怒って呆れて、痛い目に遭わされても、こんな私にどこまでも付き合ってくれる。
私、先生のそういう所、大好きなんですよ。
「えへへ…楽しいですね、先生」
『私はぜんぜん楽しかないですよ!というかですね!あなたはいい加減、もうちょっと人の気持ちってものを…』
「でも、私が楽しいのは本当の事ですから……」
『……?…風浦さん、どうしたんで……ザザッ…あれ?また携帯の調子が…ザザザッ…ザーッ…風浦さん、聞こえてますか?風浦さん!』
その時、突然先生の言葉を遮るようにスピーカーから聞こえてきた雑音。
どうやら、今日の電話はそろそろお終いみたいだ。
『風浦さん!…風浦さ…ザザッ…ザーッ』
先生の携帯電話はとても古い。
もう何年使ってるか分からないくらいの年代物で、すっかり故障しやすくなっている上、メーカーに部品の在庫もあまり残っていないような有様だ。
バッテリーはすぐに切れるし、ボタンが反応しない事なんてザラにある。
そして今日みたいに突然通話が途切れてしまう事だって、頻繁に起こってしまう。
「おやすみなさい、先生」
もう繋がっていないだろう電話口にそれだけ呟いてから、私は通話を切った。
これでいい。
もし、ずっと好きなように、先生と話し続ける事が出来たなら、きっと私はその居心地の良さに溺れてしまう。
私が決めて、私が選んだ居場所は、一人ぼっちのこの部屋なのだから、そんなわがままは許されない。
先生の声を聞いて、笑顔を分かち合う。
それだけで私は十分に幸せなんだから。
それ以上を望んだりするのは、きっと贅沢というものだ。
私は再びベランダから室内に戻って、静かな部屋の中に周囲から響いてくる様々な音に耳を傾ける。
「なんだか、さっきよりちょっと寂しいかな?」
ベッドの上に寝転がっていると、あっという間に時間は過ぎていく。
だけど、私の耳に届く音はさっきからあまり変化が無いようだ。
窓の外から聞こえる車の音や動物の鳴き声、隣の部屋の住人の生活音。
それから、あまり油をさしてもらってないらしい自転車のギコギコとチェーンの軋む音。
それを漕いでる男の人の、ゼエゼエと苦しそうな声。
誰かに……そう、私の知ってる誰かにとってもよく似た、そんな声。
「ひぃ…ひぃ……私ももう年ですねぇ。全力で漕ぐと流石に疲れます……」
「え……っ!?」
そこで、耳に届いた声を聞いて、私はベッドから跳ね起きた。
慌ててベランダに飛び出したけれど、そこに自転車の姿はなく、代わりにアパートの階段を登る誰かの足音が背後から聞こえてきた。
まさか……そんな気持ちで振り返る。
やがて足音は立ち止まった、他でもない私の部屋の前で……。
ピンポーンと鳴り響いたチャイムの音に急かされるように、私は玄関へと向かう。
それから、鍵を開ける時間ももどかしくドアを開くと、その向こうには思った通りの人の姿があった。
「先生………」
「はぁはぁ…ひぃひぃ……いや、あんまり無理はするもんじゃないですね、風浦さん……」
貧弱な体でどれだけ急いで自転車を漕いできたものやら、汗まみれで肩で息をする先生が苦笑を浮かべて私を見下ろしていた。
私はそんな目の前の光景が信じられず、思ったままの言葉を口にする。
「どうして……?」
「どうしても何も…ぜぇぜぇ…ひぃひぃ…通話が途切れる直前の風浦さん、なんか様子がおかしかったじゃないですか…」
「それだけの為に…来てくれたんですか?」
「『それだけ』なんて言うほど軽くはないと思いますが、まあ、そういう事です」
「勘違いかも知れないのに…」
「私がどれだけあなたに苦労させられてきたと思ってるんです!それぐらい、嫌でも分かりますよ」
言いながら、先生の手の平が優しく頬に触れた。もう限界だった。知らず知らずの内にふらついた体が前に倒れて、私はちょうど先生のみぞおちの辺りに顔を埋めるようにして先生にすがり付いてしまった。
先生はそれに特段動じる様子もなく、ただそっと手の平を私の両肩に添えた。
「別に……」
「……?」
「別に……大した事じゃなかったんですよ?いつもの事だったんです。ほんの少し寂しかっただけなんです。……わざわざ先生が来る事なんてなかったんですよ?」
「それはすみませんでした…」
先生の一言一言が、肩に触れた手が、私の心を安心させていく。
ああ、このままじゃ駄目なのに。このままじゃ、私はこの場所から、先生のそばから動けなくなってしまうのに。
「で、その『ほんの少し寂しい』はどうにかなりましたか?」
「…………はい」
「それは良かったです」
「でも……」
放っておけばいつまでもこのままで居てしまいそうな自分を奮い立たせて、私は顔を上げる。
見下ろす先生の顔と真っ向から見つめ合う。言わなければいけない。伝えなければいけない。全部、私の選んだ事なんだから。私にはそうする責任があるんだから。
「でも、やっぱり先生がここまでする事なかったんですよ。私が一人でいるのも、私が寂しいって感じるのも、全部私が決めた事なんですから…」
「そうかもしれませんね。……でも、私も風浦さんの電話を聞いて、風浦さんの所に行こうって決めちゃいましたし」
「う………」
こんなの反則だ。たぶん、いつになく難しい顔をしてる筈の私に、ちょっと気圧されながらも、それでも先生は笑って答える。
私はそれに上手く言い返す事ができない。
「これからも来ます。行きます。あなたを放っておくの、やっぱり嫌ですから。それに……」
「あ……」
「一度決めたからって、それに縛られる必要もないんですよ。寂しいなら言ってください、私のとこに来て下さい。その方が私も嬉しいです」
先生の手の平が、私の手をそっと握る。こっちへ来いって促すみたいに、私の手を引っ張る。
扉の向こうへ、先生の側へ、私を導く。
「さあ、風浦さん…」
「先生……」
最初から分かってた事だった。自分で決めたから、なんて都合のいい言い訳だ。自分で自分を縛り付けて、動き出さない理由をでっち上げていただけ。
先生は今も目の前で、私の事を待っている。それなら、私ももう一度決めるしかない。
「ありがとうございます、先生……」
にっこりと、たぶん、今日初めての素直な笑顔を先生に向ける。
細く繊細な指先、優しい手の平をきゅっと握る。
そして……。
「えいっ!!」
「おわっ!?ふ、風浦さん!!?」
バタン。先生の手を思い切り引っ張って、アパートの部屋の中へ。
「決めました。どうせ先生と一緒なら、今は二人きりがいいです」
「そうきましたか……流石です」
呆れたような、困ったような先生の笑顔に、私はクスクスと笑い声を漏らす。
「あれ?以外に動揺しませんね?」
「そりゃあ、あなたと一緒にいて、これぐらいでいちいち驚いていたらキリがないですから」
「なるほど、そこで下手に隙を見せないのが男女のべつまくなしのヤンチャ生活を支えた秘訣ですか!」
「む…ぐぅうう……」
軽口と冗談に高鳴る鼓動を紛らせながら、私は一歩前へ。先生の間近に寄り添って、もう一度、あの優しい顔を見つめる。
「すみません。ありがとう。先生が来てくれて、やっぱり嬉しかった。だから、私……」
先生の背中にそっと手を回す。まぶたを閉じて唇をそっと差し出すと、私の肩を同じように優しく抱きしめる先生の腕の感触が分かった。
「風浦さん……ずっと一緒にいますから」
「はい……」
それから、唇に触れたぬくもりと、その幸せの中に私は心も体も委ねていった。
そのまま、二人で幾度キスを繰り返した事だろう。
頭がぽうっと熱っぽくなって、胸の鼓動はどんどん早くなって、私はその行為を止める事が出来なくなる。
「…っはぁ…あ……先生…」
「…風浦…さん……」
ふと気付いて、先生の顔をまじまじと見ると、こちらも頬を紅潮させてとてもドキドキしている様子だ。
胸に耳を当てると、私に負けないぐらいの速さで脈打つ先生の心臓の音が確かに聞こえた。
「ドキドキしてるんですね、先生……」
「あ、あなただって同じじゃないですか」
「そりゃあそうですけど、ほら、先生は色々と百戦錬磨な経歴をお持ちなわけだし」
「だーっ!!そのネタはなしです!なしですからっ!!」
私に散々いじられた先生はバツが悪そうに頭をかきながら
「……だって、あの頃はこんな気持ちになる事なんて無かったですから」
そんな事を言った。
「と言っても、我が身の不実が招いた事ですから、自業自得です。
あの頃出会った誰か一人とでも、真っ向から向き合っていれば、色々と事情は違ってきたんでしょうけどね…」
それから先生は私をじっと見つめて
「今更、風浦さんを相手に同じつてを踏む訳にはいきません」
「……大丈夫ですよ。ここまで駆けつけて、私の手を握ってくれたのは先生じゃないですか」
不安げな先生の顔に私は微笑む。
「心配いりません。先生と私なら、きっと……」
「風浦さん……」
再度、重ね合わさる私と先生の唇。
そして、そのまま先生の手の平は、私の服をずらして素肌にそっと触れた。
「あっ……」
先生の熱が、指先の感触が、肌の上を滑っていく。
同時に耳たぶと首筋に落とされたキスに、体がビクンと震えた。
「せんせ……」
「綺麗ですよ、風浦さん……」
先生の指先の導くまま、スカートを脱がされ、ブラをずらされて、次第に生まれたままの姿に近づいていく私。
高鳴る心臓の上、外気に触れて敏感になった私の胸を包みこむように先生の手の平が触れる。
「ひあ…ああ…くっ!…ああ……」
溶けていく。
先生の指先が私の乳房を優しく揉んで、脇腹やおへその辺りをそっと撫でて、その度に高まる熱が内側から私を溶かしていく。
呼吸はどんどん荒くなって、触れられる度に漏れ出る声はだんだん押さえがきかなくなっていく。
ビリビリと全身を駆け抜ける甘い痺れの中で、私は宙に投げ出されたような浮遊感を何度も味わった。
今まで味わったことのない感覚の坩堝。
それでも私が怯えずにいられたのは、きっと自分の全てを託せる存在が傍にいたからなんだろう。
「風浦さん…だいじょうぶですか?」
「…はい…だから……せんせ…もっと…触ってください……っ!!」
瞳の端から涙を滲ませながら、私は先生の名を呼ぶ。
先生に揉まれた胸はまるで内側に熱い芯を持ったみたいに、ジンジンと私に絶え間ない刺激を伝えてくる。
心も体も全てが熱に包まれて、私はその灼熱の中で水を求めるように、ただひたすらに先生を求めた。
「はぅっ…ひぃ…くああっ!…あっ…せんせ……せんせい…っ!!!」
先生の指先が私の太ももの内側をなぞる。
ビクビクと細かく反応する私の様子を伺いながら、やがてそれは私の一番敏感な場所に到達する。
「風浦さん、いいですか……?」
「はい…今は先生に…私のぜんぶに触れてほしいから……」
コクリ、小さく肯いた私の顔を見てから、先生の指先がその場所に触れた。
「…うぁ…ああっ…ひっ…ああああっ!!」
瞬間、体を駆け上ってきた甘い痺れに、私は声を上げて体を反らせた。
二度、三度、ショーツの上から撫でた後、ついにその内側へと入っていく先生の指先。
恥ずかしさと、快感と、先生に全てを委ねている実感。
そんなものがぐるぐると渦巻いて、その最中に私は何度も先生の名を呼んだ。
「…せんせ…っ!!…ああっ!…せんせい―――っ!!!!」
やがて、理性や思考力といったものはその熱の中に溶けて消えて、私はただただ先生の与える刺激を甘受するようになっていく。
もっと強く、もっと熱く、お互いを感じていたい。
限度を知らず高まる私と先生のその気持ちは、ついに行為を次の段階へと推し進める。
「風浦さん……私は風浦さんと……」
「きてください…先生…私もおんなじ気持ちです……」
潤んだ瞳で互いを見交わし、熱く強いくちづけをもう一度。
それから、ベッドの上に横たえられた私のあの場所に、大きくなった先生のモノが押し当てられた。
「いきますよ、風浦さん……」
「はい……」
互いにコクリと小さく頷き交わしてから、先生のモノがゆっくりと私の中に進入を開始した。
肉と肉、粘膜と粘膜、お互いの最も原始的で、どこよりも生物の本能を色濃く反映させたその部分がこすれ合い、繋がり合う。
駆け抜ける熱と刺激の坩堝の中で必死に先生の背中にしがみついた私を、先生もぎゅっと抱きしめてくれた。
「ひあっ!!…あああっ!!…せんせいっ!!…せんせいぃいいいいいっっっ!!!!」
何度も何度も、先生の分身が私の中を行き来して、迸る熱と快感が下腹部全体を埋め尽くしていく。
まるでそこから先生と私の二人が融け合って、一つになっていこうとしているかのように、その感覚は次第に強さを増していく。
「せんせい…このまま、わたしとせんせい、ひとつになって…とけあって……っ!!」
「ええ。ずっとこのまま一緒に!!風浦さんと強くつながったまま……っ!!」
私も先生も無我夢中のまま、数えきれないくらいのキスを交わした。
互いの体の輪郭が曖昧になって、湧き上がる熱情の中で心までが溶け合っていく。
強く突き上げられて、ただひたすらに先生の名前を呼んで、私は先生の腕の中どこまでもその熱に酔い痴れた。
「せんせいっ!せんせいぃいいっ!!!…ああっ…好きですっ!!…好きぃいいいいいっ!!!」
「私も…私も好きですっ!!…大好きですよ、風浦さん!!!」
感情のままに放たれる言葉と言葉。
自分の素直な気持ちを先生にぶつけられる事が、そして先生がそれに応えてくれる事が嬉しかった。
嘘も誤魔化しも全て脱ぎ捨てた行為の中で、私達はどんどんヒートアップしていく。
「くっ…風浦さんっ!!!」
「ああ…せんせ……私、もうっ!!!」
やがて、熱と感情の高ぶりはそのクライマックスに向かって加速し始める。
強く抱いて、抱きしめられて、繋がり合った部分で感じる熱と快楽にその身をゆだねる。
心も体も、まるで破裂寸前の風船みたいにギリギリなのに、私も先生も、お互いを求める事を止められなかった。
繋がり合った部分から何度も全身を貫くような快感が電流の如く突き抜けていく。
「ひはっ…ああああっ…ふあああああああっっっ!!!!」
その度にビクンと震える私の小さな体を、先生の腕がしっかりと抱きしめてくれる。
それが嬉しくて、心の底から嬉しくて、私はさらに行為に没入していった。
もうきっと私は先生なしに、先生は私なしにいられない。
心と体を深くつなげ合った行為の最中、私は、そして多分先生も、それを強く感じていた。
そして、止まらない熱と感情の奔流の中で、私と先生はついに限界を迎える。
「風浦さん…愛していますっ!!風浦さんっ!!!」
「あああああああああっ!!!!…せんせ…わたしも…わたしもすきぃ!!!せんせいっ!!!せんせいぃいいいいいっ!!!!」
ビリビリと駆け抜ける快感の衝撃に一瞬意識を持ち去られながら、私と先生は抱き合ったまま達してしまった。
一気に力が抜けて崩れ落ちそうになった体を先生に抱きしめられたまま、私は全身を駆け抜けた衝撃の余韻に浸っていた。
その間、先生も私もどちらも言葉を発する事はなかった。
お互い、乱れた呼吸を整えるだけで精一杯だったからだ。
だけど、不安は感じなかった。
目を閉じれば、あの時手の平をさし出してくれた先生の姿が蘇る。
あの笑顔が心にあるなら、きっと大丈夫。
ふと、顔を上げると、私を見下ろす先生の、いつもどおりの困ったような笑顔が見えた。
私はそんな先生にそっと微笑み返し、今度は自分からその唇にそっと口付ける。
私が決めた、私の居るべき場所。
それを確かめるために、今度は私から踏み出した、先生への一歩。
もう絶対に無くしたりしない、この気持ちを胸に刻み込む。
そして、そんな私に応えるように、先生も私の体を抱きしめるその腕にぎゅっと力を込めてくれたのだった。
ずっと変わることのない、私の居場所。
それはいつも、ここにある。