「和みますねぇ……」  
 
「だねー……」  
 
「ですね……」  
 
この先寒くなる一方のこの季節、宿直室にこたつを置いて  
くつろぐ望と霧、そして何故か当たり前の様にそこに居るまとい。  
交はお使い中で居ないものの、かなりほのぼのとした空間だった。  
 
――しばらく、ほんわかとした空気が流れる……。  
 
「……先生、ちょっとお手洗いの方に行ってきますね」  
 
そう言って望が立ち上がると、ここぞとばかりに目を光らせるまといを  
「……男子トイレ、ついてっちゃダメだよ」と元の位置に座らせる霧。  
 
「……先生、遅いね」  
 
「………そうね」  
 
それから、30分程経過したが、未だに望が戻って来ない。  
 
――それもその筈、望がお手洗いから出た直後、  
サボった分の仕事を全て渡され、そもそも最初に執務をサボった  
自分が悪いのだから断ることもできず、現在書類整理中だからだ。  
 
「………」  
 
「………」  
 
妙な静けさを持つこの空気に、(気まずいなぁ……)と、二人の思考が重なる。  
何とか状況打破しようと会話を試みるも、仲が仲だけにどう話しかけたらいいのかも分からない。  
――コンコン、と、静かな空間に乾いた音が響き渡る、どうやら宿直室への客人の様だ。  
 
「入って」  
霧がそう言うと、「お邪魔しまーす!」と入って来たのは奈美だった。  
奈美は少し辺りを見回し、望を探しているようだ。  
 
「……先生ならいまトイレ行ってるよ」  
 
多分もう直ぐ戻ってくるから、と付け足して、  
少なくともまといと二人っきりよりは良いだろうとここで待つように促す霧に、  
寒かったのもあり、「それじゃ、お言葉に甘えて」とするりとこたつに入る奈美。  
 
 
――が、状況は変わること無く、寧ろ人数が増えた事により更に悪化したこの状況に、  
今度は三人同時に気まずい≠ニいう言葉が頭に浮かぶ。  
二人とも奈美とはそこまで仲が良い訳でもなく……所謂、『普通』の仲なのだ。  
 
(ちょっと!、何状況悪化させてんのよ!)  
 
(仕方ないじゃない!耐え切れなかったのよあの状況!)  
 
最早無意識の内に目と目だけで会話するまといと霧、そして何か話題を探す奈美。  
……虫の鳴き声だけが空しく響き渡る部屋の中、  
三人とも既に心が折れそうだったが、そこにまたノックの音が――  
 
 
(今度こそ盛り上げられる人を……!)心の中で祈りつつ、「どうぞ」と招き入れる霧。  
「先生いらっしゃいますか?」と入って来たのは何やら手荷物を抱えた可符香だった。  
 
 
(風浦さん……ちょっと苦手だけど……彼女なら!)  
 
 
――とは、奈美・霧・まとい三人の思考である、  
電波発言でも何でもいいからこの場を盛り上げてくれと言わんばかりの眼差しに、  
(あぁ、タイミング最悪か……)と密かに溜息をつく可符香。  
 
そもそも、周りをからかう発言は本人が意図しない時に言うから面白いのであって、  
そんな期待の眼差しを向けられても今直ぐに確実にウケる駄洒落を言え  
というような無謀ともいえる無茶振りであって……  
 
――なんて事を一々説明するわけにも行かないので、とりあえず帰ろうとする可符香を、  
霧が呼び止める。……どうやら、もういっそ巻き添えにする気のようだ。  
逃走は諦めて大人しくこたつに潜り込む可符香を含め、今この場に居る全員の思考は一つ。  
 
 
(………気まずい………)  
 
 
――そこにまた乾いたノック音が響き渡る。  
 
 
……さて、この空気を打破できる人は来るのか、後何人巻き込まれるのか、  
そしてさりげなく知恵の仕事まで混ぜ込まれた望の執務は終わるのか。  
 
 
――それはまた、別の話である――  
 
 
 
糸冬  
 

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