私はアパートにいた。  
 
 そこは紛れもなくアパートだった。  
 でも、なぜアパートだとわかるんだろう。  
 私は漠然とそんなことを考えていた。どこか、とても懐かしい感じがするけど、デジャヴかな。  
 
 私はポーッとそこに突っ立っていた。そこへ大人がやって来る。  
 「さ、真夜ちゃん、行こう」  
 男なのか、女なのか。その人は不思議にぼやけている。誰かは私を引っ張ろうとしたが私は動かなかった。どうしてなのか、動きたくなかった。  
 
 「だめだよ、行かないと」  
 誰かは困ったような顔で言う。でも、私は動きたくない。  
 「これでもう、お別れだけど……」  
 「いや」  
 私は拒絶した。誰かはやっぱり困り顔。  
 「もう2度と会えないんだよ」  
 私は少しビクッとした。  
 「2度と?」  
 「そうだよ」  
 
 私はやっと歩きはじめた。となりの部屋にある、大きな木箱。  
 私はその中を恐る恐る……  
 
   
 
 「……ぅん……」  
   
 
 そこで私は起きた。  
 暖かい布団。ちょっと堅い枕。紛れもなく私の部屋のぬくもりだ。  
 それでも私は目を開けなかった。ぎゅっと目をつぶった。  
 
 そんなはずはない。そんなはずはない。  
 ここは私の部屋。ここは私の部屋だ。  
 
 そう言い聞かせてから、私は目を開ける。  
 目に映る光景はやっぱり私の部屋。  
 
 夢。そう、夢だ。  
 
 私は何度も何度自分に言い聞かせながら、顔を洗うために立ち上がった。  
 
 「……」  
 
 真夜は頭をかきながら、今見たばかりの夢について考えていた。彼女の鋭い、しかしどこか優しげな視線は勉強机の上に置かれた1つの写真立てに注がれている。  
 あくびをして、その写真を手に取る。何ともいえない微妙な表情で見つめてから、真夜はそれを元の場所に戻した。  
 
 「今日は……いい日?」  
 
 真夜は写真に話しかけてみる。写真の主は何も言わない。  
 
 
 
 

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