『とある廃墟の都市伝説』  
 
小石川区に存在する、とある廃墟。  
この廃墟はバブル時代に建てられたホテルで、バブルの後期頃は大勢の客が宿泊していたという。  
しかしバブル崩壊の影響により経営を続けるのが困難となってしまい、経営者と従業員は全員夜逃げして失踪。  
その後、ホテルは長い歳月により朽ち果てて崩壊し、そのまま廃墟となった。  
以後、各地の廃墟マニアがここを訪れるようになったのだが、やってくるのは廃墟マニアだけではない。  
時にはこんな連中もやってくる。  
 
ある日の夜、一代の改造車がこの廃墟に訪れた。  
改造車に乗っている人数は、運転席に乗っている男が一人、助手席に座っている女が一人、後部座席に座っている男二人の、合計四人。  
髪を染め、耳にピアスを付け、だらしない服装と、いかにも不良とわかるような連中だ。  
改造車から降りた不良達は、近くのコンビニで買ってきた缶ビールと様々な種類のスナック菓子の入ったビニール袋、バット二本、鉄バット二本を持って、廃墟の中に入った。  
そして、ビニール袋を床に置くと、大声を発しながらバットと鉄パイプを振り回して、あちらこちらを叩き割って回った。  
この不良達にとって廃墟とは、旧式のドアの取っ手や蛇口の収集をするための場所でなく、また、廃墟が持つ独特の雰囲気を味わう場所でもなく、  
ただのストレス発散のためのサンドバッグのような場所であった。  
親は「いつまでも遊んでないで就職活動をしろ」とやかましく怒鳴ってストレスが溜まる。  
だが、弱そうな学生や老人を傷めつけたりすると、即刻警察に御用となる。  
だから、暴力をふるうにはこういう廃墟の方がいい。  
廃墟には滅多に誰も近づかないし、どうせ廃墟の中の物を壊しても、そこに管理者がいるわけでもない。  
仮に管理者がいたとしても、いつもここにいるわけじゃないのだから、実質管理者がいないのも同然。  
表にばれなければ何をしてもいいのだ。  
不良達は壊しまわるのに飽きると、ビニール袋を置いた場所へ戻ってその場に座り込み、  
そして、ビニール袋の中に入ってある缶ビール、酒、スナック菓子を取り出して、バカ騒ぎを始めた。  
リーゼント頭の男は缶ビールを一気飲みし、坊主頭の男はスナック菓子をバリバリと食べる。  
長い髪が特徴の男はタバコを吸いながら、彼女である茶髪のショートカットの女の胸を揉んだ。  
「いやぁん、やめてよぉ!」と女は嬌声を上げる。  
月の光が照らす廃墟に不良達の下卑た声が木霊していた。  
数分して、リーゼントの男が突然立った。  
「おっ、どうした?」  
「へへへ、ちと用を足しに行ってくんだよ」  
「大か、小か?」  
「小さい方に決まってるだろうよ!」  
リーゼントはそう言って「ははは!」と高らかに笑いながら、部屋を出ていった。  
 
リーゼントは千鳥足でトイレの場所を探した。  
しかし、ここはもともとホテルであった場所。  
トイレなどすぐ見つかるわけがない。  
「しゃあねーなぁ。どうせここには俺ら以外誰もいねぇんだし、そこらへんで用足すか」  
リーゼントはジーンズとパンツを下ろし、廊下の壁に用を足した。  
数秒して、用足しが終わると、リーゼントはパンツとジーンズを上げて、仲間のいる場所へと戻ろうとした。  
 
と、その時である。  
 
遠くから、カツン、カツン、という音が聞こえてきた。  
リーゼントは「なんだ?」と言って首を傾げた。  
仲間の誰かが用足しに来たのかと思い、彼は、音が聞こえる方へと歩を進めた。  
しばらく歩いていると、音の主が現れた。  
音の主は、黒のショートカットに悪そうな目つきの少女であった。  
学生服を着ていることから、どこかの高校の女子高生だろうと、リーゼントはすぐに判断した。  
「あぁん、誰だお前?どっかの高校の廃墟マニアか?」  
「・・・・・・」  
「おい、なんか言えよ!!」  
「・・・・・・」  
「てめぇ、ふざけてんのか、あぁっ!?」  
「・・・・・・」  
少女はリーゼントの問いに答えようとない。  
リーゼントは少々苛立ったが、同時によこしまなことを考えた。  
自分の目の前にいるのは女子高生。  
今ここには自分と少女の二人だけしかいない。  
ならば、ここで少女を犯しても、誰にもばれやしない!!  
彼は両手を前に出し、少女を捕まえようとする体勢に入った。  
リーゼントはじゅるりと舌なめずりをする。  
「へへへ・・・、何にも言わねえんなら、てめぇを犯してでも言わせてやるぜぇ〜!!  
後で文句を言うんじゃねーぞ〜!!何にも答えねぇてめぇが悪いんだからな〜、へへへへへ〜!!」  
「・・・・・・」  
少女はリーゼントを見つめるだけで、何も言わない。  
「じゃ、じゃあ行くぞぉ〜〜〜!!」  
リーゼントはそう叫び声を上げて、少女に飛びかかった。  
と、同時に、少女は背中からあるものを取り出す。  
それは、銀色に光る鉄バットであった。  
 
廊下からリーゼントの絶叫が聞こえた。  
 
部屋で宴会をしていた三人は、リーゼントの声に気づいた。  
「お、おい、今のって・・・」  
「あ、あぁ。あいつの声だよな・・・」  
「な、何?何があったのよ!?」  
三人がそう戸惑っていると、部屋の戸が横に開いた。  
部屋に入って来たのは、無惨な姿になったリーゼントと、そのリーゼントの頭を左手に掴んだ、目付きの悪い黒のショートカットの少女であった。  
少女の鉄バットと学生服には、帰り血が大量についている。  
リーゼントの顔は、赤く染まっていた。  
長髪の男の側にいた女は、「ひ、ひいいいいいっ!!!!!!」と悲鳴を上げた。  
「て、てめぇ!!よくも俺達の仲間を!!」  
頭に血が昇って酔いがさめたのか、坊主頭の男は鉄パイプを持って少女に襲いかかった。  
少女はリーゼントをゴミのように捨てると、鉄バットを両手で持ち刺突の構えを取り、向かってくる坊主頭の男の腹にバットの先を強く突きつけた。  
坊主頭はその衝撃で鉄パイプを落とし、腹を押さえた。  
やがて、彼の口から胃の中にあった消化途中のビールとスナック菓子が胃液と共に逆流した。  
「ぐうっ、おええええええっ!!!!」  
腹部のダメージが強いためか、坊主頭の男は何度も嘔吐する。  
少女は嘔吐し続ける坊主の後頭部に、鉄バットを振り下ろした。  
坊主頭の顔面が、嘔吐物まみれの床に激突する。  
「ぎぃっ、ぎゃあぁっ!!痛ぇ、痛ぇよぉっ!!」  
あまりの激痛に坊主頭の男はその場で転げまわるが、少女は坊主頭の男の前まで近づくと、鉄バットをゆっくりと振り上げた。  
「ちょっ!!ちょっとやめっ、やめてくれ!!血が、頭から血が出てるんだって!!  
このままだと、マジで死んじまうっ!!だからもう止めてくれ!!」  
坊主頭の男は少女に命乞いをした。  
少女は坊主頭の男を睨みつけると、無言でバットを振り下ろし、何度も何度も打ちつけた。  
 
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。  
 
少女はバットを振り下ろすのをやめると、坊主頭の男はピクリとも動かなくなった。  
 
「や、やべえ、マジでやべえよコイツ!!マジでイカレてやがるっ!!」  
長髪の男は彼女を置いて部屋から出ると、一目散に逃げ出した。  
彼女である茶髪のショートカットの女は、腰を抜かして立つことができない。  
「ちょ、ちょっと待ってよ!!私だけ置いて行かないでよ!!ねえっ!!」  
女はそう叫ぶが、叫んだ頃には長髪の男はどこかへ行ってしまっていた。  
少女が女の方を睨みつけると、女は「ひっ!」とか細い悲鳴を上げた。  
「も、もしかして次は私!?い、いや!!絶対にいやよ!!  
どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの!?」  
少女は女の方へゆっくりと歩いてくる。  
「いやあ!!来ないで、こっちに来ないで!!来ないでって言ってるでしょ!!」  
女は側にあった缶ビールの缶を投げつけるが、少女はそれを簡単に避けた。  
少女が距離を少しづつ縮めようと一歩、また一歩と近づく。  
女はなんとか這いながら逃げようとするが、少女との距離を縮めることはできなかった。  
そして、少女は女の目の前まで近づいた。  
女は滝のような涙を流す。  
「いやぁっ!!お願い!!殺さないで!!どうして!?私達が一体何をしたっていうの!?  
私達はただこの廃墟で遊んでただけじゃない!!  
なんで怪物のような奴に殺されなきゃならないのよ!?」  
女はそう泣きわめくが、少女は女の涙に目もくれず、女の右脚にバットを振り下ろした。  
ぐきっと骨が折れる音がした。  
「あああああっ!!脚が、脚が!!」  
女は折れた右足を押さえて泣き叫ぶ。  
すかさず少女は女の左腕を強く打ちつけた。  
女の悲鳴が部屋中に響く。  
「ぎゃあああああっ!!!!痛い、痛い、痛いいいいいっ!!!!」  
少女はそのまま女の身体中をバットで打ちつけた。  
女はさらなる悲鳴を上げ「助けて、もう止めて」と命乞いをするも、その声は少女には届いていなかった。  
しばらくして、女の声がか細くなり、さらに数分経つと何も言わなくなった。  
両腕と両脚はぐにゃぐにゃに折れて、不良であるとはいえ整った顔立ちをしていた彼女の顔は、原型が分からないくらいに無惨な状態となっていた。  
少女はそのまま部屋を出た長髪の男を追った。  
 
廃墟から脱出した長髪の男は改造車の運転席のドアを開けた。  
「化け物だ・・・、この廃墟には化け物がいやがる・・・!!」  
男は身体を震わせながら車のキーを差してエンジンを入れた。  
しかし、こういう時に限ってエンジンはかからない。  
「くそっくそっ!!早くかかれよ!!」  
男が車のエンジンをかけるのに手間取っていると、廃墟の中から鉄バットを引きずる音が聞こえた。  
あの化け物が追いかけてきた、と男は判断した。  
男は歯をがちがちと鳴らしながら廃墟の入り口の方へ顔を向けた。  
案の定、廃墟の入り口には血まみれの鉄バットを持った少女がいた。  
少女の目は男の方に向けられている。  
男は「うわああああっ!!」と悲鳴を上げながら、車のエンジンを何度もかけた。  
「早く、早くかかってくれよ!!あんな化け物に殺されるのは嫌だぁっ!!」  
男がそう叫ぶと、車のエンジンのかかる音がした。  
「やっ、やった!!かかった!!かかったぞ!!」  
男はそのまま車で逃げ出そうと運転席に座って、ドアを閉めようとした。  
しかし、ドアは鉄バットによって、閉めるのを防がれた。  
男は口を開きながら、ドアの隙間を見る。  
ドアの隙間には、男を恐ろしい形相で睨む少女の顔があった。  
その瞬間、男は白目を剥いて気絶した。  
 
黒のショートカットの少女・三珠真夜は、月に照らされる廃墟を見ていた。  
(この廃墟には月の光と静寂さがよく似合う場所。  
その場所を荒らす人間は、私は許さない。この廃墟は、私が守る・・・)  
真夜はそう思いながら、廃墟を去っていった。  
 
その後、四人の不良達は不法侵入の罪で警察に逮捕された。  
真夜に倒された三人は奇跡的に一命を取り留めたものの、全治三カ月の重傷を負い、しばらく警察病院でお世話になることとなった。  
長髪の男は取調室で刑事にこう言っていた。  
「だから、あの廃墟には化け物が住んでるんですって!!  
きっとあいつは、廃墟に入ってきた人間を敵とみなして排除するんすよ!!  
あの化け物はあの廃墟の守り主だったんですって、信じてくださいよ!!」  
もちろん警察は男の話を信じなかった。  
しかし、男の語ったこの話はどこかで漏れてしまい「とあるホテルの廃墟には侵入者を排除する守り神がいる」という噂となって全国に広まり、  
やがてこの話は廃墟マニアや噂好きの中高生の間で知られる都市伝説となった。  
 
「ねえ知ってる?とあるホテルの廃墟の話なんだけど・・・」  
奈美はクラスメイトにホテルの廃墟の都市伝説を語っていた。  
真夜は自分の席に座りながら奈美の語る都市伝説を遠くで聞いていた。  
(ふーん、廃墟に住みつく守り神か・・・。その守り神がいる廃墟ってどんなところなんだろう?  
今度の休日に探してみようかしら・・・)  
奈美の語る都市伝説の守り神のモチーフが自分自身であるということに、真夜は気付くことは無かった。  
 
終  
 
 

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