鏡は美しい女の顔を写し出している。その女は化粧を終えたところだった。  
もう出勤の時間だった。女は身支度を整えると廊下を玄関へと歩む。  
廊下とドア一面にびっしりと貼られたお札を一瞥し、心のなかで呪言を唱え、行ってきますとつぶやいた。  
これは儀式なのだった。聖別された己の城の門をくぐり、穢れに充ちた外界へと出かけるための。  
 しかしながら、女はそんな子どもじみた儀式も貼りつけられたお札の類いも、自分の心の壁を可視化したものに過ぎないことをわかっていた。  
しかしわかっていても止められはしない事も骨の髄に染みている。  
誰しも心には秘密がある。悩みがある。他者を容れ得ないそれを囲う壁がある。もしそれを取り払えたら、どんなに楽になれるだろう。  
そんな葛藤をいままで何年繰り返したことか。解決出来ない自分のそんな懊悩は、他者に見せねば良いだけのこと――今ではそう結論している。  
女はお札を一枚剥がすとジャケットのポケットにしまった。  
 女はドアを開けると自分の職場へ歩みだした。  
この女の名は、新井智恵、という。  
 
 
 
 『素晴らしくも素晴らしき新世界』 前編  
   
 〜暴かれた世界〜  
 
 
 
 こつり。こつり。だれもいない廊下を規則正しい音が移動してゆく。  
新井智恵の歩む、パンプスのかかとが鳴らす音だった。いかにも勝手知った場所をいつもどおりに通過している、そんな風情だ。  
小石川区、とある高等学校の放課後だった。歩を進める智恵の耳には屋内外からの様々な音が潮騒のように聞こえてくる。  
校庭や体育館からの運動部の活動音。吹奏楽部の切れ切れの演奏。教室に居残った者たちの談笑の声。  
ここまではどこの学校でも当たり前に存在するものだが―。  
「さあ、皆さん!私たちは兄弟です!お互いの恥部を隠す必要はありません!  
 心の壁を取り払って、みんなと一つになりましょう!魂磨きに精進し、精神を次なるステージに進化させれば、  
 きっとポロロッカ星人もわれわれに会いに来てくれます!素晴らしき新世界はすぐそこです!」  
柔らかな、聴く者の心のスキマに自然に入り込んでくるような声。これはこの学校の特産品とでも言うべきものだろう。  
続いてその何とか星人にでも呼びかけているのか、何人もの男女の合唱が低く長く響いてくる。さらに、  
「いまなら魂のステージを高める霊符、魔除けのお札とセットで千円だよ」  
「初回特典でAKB84メンバーの生写真もついてるよ」  
などという、別の声も聞こえる。こうした声もこの学校独特の物だ。  
 ――ふぅ。  
智恵はため息を漏らした。自分のジャケットとブラウスの下の胸が上下するのを見下ろして眉をわずかにひそめる。  
(心の壁がそんな事で取り払えるなら、どんなにいいかしらね)  
智恵はポケットに手を入れると、その中にあったもの――お札をぐしゃりと握りしめた。  
その紙きれがよれよれになる頃、自分の与えられている校内での仕事場の前まで戻ってきていた。  
カウンセラー室である。彼女は悩み多き思春期の少年少女のカウンセリングを嘱託されてこの学校に勤務しているのだ。  
控えめにいっても美人の範疇の上位に収まる容姿と丁寧適切なカウンセリングで、校内での人気は男女生徒どちらにも高い。  
その着痩せする魅惑的な肢体は、男子生徒には別の意味でも人気を博している。  
 智恵はポケットをまさぐり、ハンカチを取り出す。そしてドアのノブをハンカチごと握った。一方の手で鍵を取り出す。  
彼女には他人が握ったかもしれない、手油の付いたドアノブなどとても握れない。  
 潔癖症――。彼女の職業語でいうなら強迫性障害の一種である。  
カウンセリングを生業としているからといって、その人物が精神のひずみと無縁であるとは限らない。  
人間の心は誰しも、微妙な矛盾と均衡を揺らめかせながら成り立っており、彼女も例外ではないのだ。  
 
 智恵は鍵を挿し入れ、捻転させようとした。だが。  
―手応えがない。  
(開いている?出かけるとき鍵は掛けたはずなのに―)  
智恵は10メートルしか離れていないトイレにゆくのにも鍵を掛ける。  
自分の領域に自分の許可したもの以外は如何なるものも入れさせない、それは潔癖症と同じような強迫性の強い習慣だった。  
掛け忘れはありえない。注意を凝らすと、何か部屋内から大きくはないがくぐもった声のようなものも聞こえている。  
智恵はいぶかしみながらゆっくりとドアを押してゆく。  
 
 部屋に入った真正面、智恵が事務作業をするための机がある。  
カーテンは半分引かれ、窓からは寒空が朱に染まりゆく情景が見えている。椅子も、奥のカウンセリングスペースも変りない。  
当然、それは自分の知っている当たり前の部屋の状態だ。だが、その状態と一つ違っているものがあった。  
机の上のノートPCが開けられていて起動しており、画面がこちらを向いていた。  
動画とおぼしきものが再生されている。  
黄昏の淡い光が逆光となり、画面がよく見えない。不安からか足早に机に歩み寄った智恵は、PCの画面を覗き込んだ。  
そこには丸まった肉の塊のようなものに尊大に腰をおろし、ワイングラスを傾ける女が映っていた。  
女は扇情的な黒革の切片のような服を身にまとっている。四肢にはエナメルの手袋とブーツが照明を反射して細かく光っていた。  
部屋の天井側からでも撮影したのだろう、その男女を俯瞰するアングルだった。背中側からの映像で、顔は判然としない。  
「えっ…こ、これ…」  
智恵は息を飲んだ。  
 
 その画面の中では―。  
「動くな、と言ったでしょう?このキモハゲ!毛根死滅頭皮男!椅子の真似事もキチンと出来ないのかしら?」  
女はよく響く声でそう言うと、空いた手の平手でその肉椅子をびしゃりと叩いた。  
対して上がるのはフゴフゴという喘鳴だ。映像のアングル的に見えないが、どうやら口に猿轡的な物でも噛まされているようだ。  
言葉は何を行っているか分からないがどうやらこの肉椅子は喜びに打ち震えているらしい。  
彼女はその肉椅子の尻のあたりで音を立ててぐねぐね動く棒状の物体の端をつまむと、奥で先端が暴れるように固定し、ゆっくり出し入れし始める。  
「んごっ!んんごっ!」  
ブルブルと肉椅子が震え、女のグラスで紅い波が立ち、縁から零れ散った。  
「この愚図…せっかくちょっぴり可愛がってあげたのに、零してどうするのかしら」  
女は立ち上がると、這いつくばり額を床にこすりつけている肉椅子の後頭部を踏みつけた。  
そのまま屈むと、肉椅子の後頭部の、猿轡の戒めを解いてやる。  
グラスを持ち替えると、紅い液体に濡れた手を差し伸ばす――女王が騎士にくちづけを許すときのように。  
「顔を上げてもいいわ。お気に入りの手袋よ…舐めて綺麗にしなさい。上手にできたらご褒美を考えてあげてもいい」  
女は胸をそらしながら、顔を上げた肉椅子の腿を踏みつける。そのとき顎を逸らした女の顔がこちら側からはっきり見えた。  
随喜の表情で必死にワインにまみれたエナメルの手袋を舐めしゃぶる肉塊を、唇を歪めて見下ろす怜悧なその顔―。  
それは新井智恵、自身の顔だった。  
 
 バン!  
智恵はPCを叩きつけるように閉じていた。  
呪縛されたように動画に見入っていたが、画面の中の自分の顔を見て我に返ったのだった。  
「これ…こんな…これが…!何で…どうして!?」  
息が荒い。動悸が早鐘のように鳴っている。全身が粟立ち、怖気が走る。いつもは冷静な彼女も、激しく狼狽していた。  
なにせこの動画の出来事は身に覚えのある事だったのだから。そう、この動画で行われている一連の行為は、新井智恵の…。  
 
「それが知恵センセーのもう一つのお仕事なんダナ」  
「ひっ!」  
緊張感のない明るい声がした。  
真正面だった。机の向こう、窓を背に小柄な少女が沈みゆく黄昏の残光にたたずんでいる。  
細身のあどけなさの残る褐色の肌の体。明らかに日本人とは異なる、しかし可憐な顔立ち―。  
「い、糸色先生のクラスの…」  
関内・マリア・太郎だった。  
問題生徒の展示博覧会とも言われる二年へ組でも、編入経緯に大いに問題のあった生徒である。  
実年齢は高校生よりずっと幼く、国籍も本当は日本人ですらない――東亜細亜某国からの密入国者だ。  
なにか黒い巨大な力からの干渉でもあったのか、学校関係者は彼女(名簿上は彼だが)の問題にはスルーライフを決め込んでいる。  
智恵はその件に関してはよく知らない。  
「…デモ」  
なにやらマリアは手元のメモらしきものに視線を落とした。  
日が急速に落ちてゆき、空の青が深く暗い色に落ちてくる。褐色の肌の少女の表情はもう知恵からはよく見えなかった。  
「センセー、お客に自分のナマのハダ、触らせたことないのナ。ゼンブ手袋越し、靴越し…お客にエッチも、させてないのナ」  
「うっ…」  
マリアはぱさりとメモを閉じ、薄く笑った。  
「すごい手練手管ダナ」  
そのとき、智恵の背後のドアが音を立てて閉まった。  
続いてがちりとかかった鍵の音が、智恵の背筋を打った。  
 
「…それはそうさ、マ太郎」  
甘やかな少年の声が、智恵の背後から上がった。  
「心の壁を守るため、だからね」  
智恵はその声にゆっくりと振り返る。  
細身の人影が立っていた。手には一冊の本を持っている。学生服の裾を翻し、彼は一歩前に進んだ。  
薄闇に端正な顔が浮かび上がる―。  
二年へ組の文学趣味―砕いて言えば本の虫―の男子生徒、久藤准だった。伏目がちの垂れ気味の双眸が、うす闇にかすかに光っている。  
そのたたずまいは物憂げで、なんとも言えない色気をほのかにまとわせていた。  
それでいてどこか得体のしれない、謎めくあやしさも彼は併せ持っていた。  
智恵はこの部屋で女生徒の恋愛の悩みを聞くことも多いが、この久藤准はしばしば話題に登っていた。  
「先生。僕、お話を考えたんです」  
「く、久藤くん?何を言っているの…?」  
即興で泣かせる童話を語るのは彼の専売特許だ。  
動転する智恵の質問に久藤は取り合わず、しかし優しく微笑むと語り始めた。  
「…『仮面の女王様』。  
 ――昔むかし…アイドルになりたかった女の子がいました」  
「っ!」  
智恵は再び息を飲んだ。  
久藤准の語りだした物語は、いつもの無残と感動の同居する童話ではなく、さりとてどこかで聴いたような寓話でもなく――  
新井智恵にとって二度と振り返りたくない、リアルな記憶の年代記だった。  
 
 久藤は薄い笑みを口の端に浮かべたまま、語り始めた。  
「―その女の子は『ちぃちゃん』といいました。ちぃちゃんは、とても可愛い女の子でした。  
 ちぃちゃんはテレビのなかで歌い踊り、歓声を浴びるアイドルに憧れていました」  
また一歩、久藤は前に出た。智恵は混乱と狼狽から後ずさる。  
と、その手をいつの間にか背後に回っていたマリアが掴んだ。  
「きゃ、な、何を!?」  
マリアはどこに持っていたのか、何か拘束具のようなもので智恵の両手首を後ろ手に拘束してしまった。  
「―ちぃちゃんは自分が可愛いことを知っていました。友達の誰より自分は可愛い、そんな自信もありました。  
 ちぃちゃんが『わたしもアイドルになりたい』こんな夢を抱くようになったのは自然なことでした」  
久藤は智恵の背後たたずむマリアに目配せする。  
たちまち智恵の襟が後ろに引かれた。同時に膝裏を『かっくん』と軽く突かれる。  
マリアが手際よく落ちてきた智恵の体を受け止め、床に座らせた。  
床の冷たさが、智恵のスカートを通して肌に伝わってきた。  
智恵の精神は自分の意志を無視して次々と手際よく進行する事態に気圧されるものを感じていた。  
狼狽は恐怖に変わりつつあった。  
―何だろう?何かがおかしい。何時からか?何処からか?ここは勝手知った自分の世界、自分の仕事場のはずなのに。  
 自分の知っている、普段は少々の問題はあってもそれなりに常識をわきまえた普通の生徒たちが―。  
智恵の内心とはかかわりなく、久藤の声は滔々とよどみなく続いてゆく。  
「しかしちぃちゃんは慎重でした。アイドルになりたいなどと突拍子もないことを言って両親を驚かせるのも憚られました。  
 けれど自分の進路というものを意識するようになる年頃、ちぃちゃんは決心したのです。『試してみよう…アイドルになれるかどうか』。  
 ちぃちゃんは高校生になっていました。可愛かった容姿は成長して、もう他人から『美人』と褒められる程になっていました」   
何かが二度三度、智恵の視界を横切った。それはマリアのしなやかな手と、それに握られたロープだった。  
ロープは智恵の胸乳の下あたりで絞られ、智恵の体は後ろに括られた手首と今度のロープとでさらに自由を奪われてしまった。  
食い込んだロープで智恵のシルクのブラウスに豊かな乳房がくっきりと浮かび上がった。  
智恵の背中側からマリアのため息が聞こえた。  
「スゴイおっぱいなのナ。マリアとは違った需要が、ありそうダナ」  
 男なら眼をそらすことなど出来ないはずのそのたっぷりとしたまるみに、しかし久藤は関心を示さずに『物語』をつむぐ。  
「ちぃちゃんは両親にも相談せず、何件かの芸能プロダクションのオーディションに応募したのです…ですが結果は無情なものでした。  
 いわく『美人すぎる』『女優かモデルにでもなれ』。そう、ちぃちゃんが自信を持っていたはずの容姿は逆にあだとなったのです。  
 ちぃちゃんの大人びて整ったどこか冷たい美貌は、華やかな可愛らしさを求められるアイドルとは相容れないものだったのです」  
智恵の背中を、いやな気配がぞろりとおりていった。  
「ちぃちゃんの歌も、踊りも、演技も、それは素人なりになかなか堂に入ったものでした。  
 それらにも自信があっただけに、ちぃちゃんの挫折感は深刻でした。勉強も運動も音楽もできた彼女の、人生で初めて味わう敗北感でした。  
 結果、ちぃちゃんは荒れました。…学校で、まるで女王のように振舞うようになったのです。  
 同級生や後輩を巧妙に罵り、あげつらい、特に気に入らない者は取巻きを使嗾して虐めたりしました。  
 それは夢の入口で否定されてしまった自分の自尊心を自分なりに守ろうとする彼女のあがきだったのかも知れません。  
 でも、他者を傷つけたのはやはり間違いでした。  
 …程なく、ちぃちゃんに報いが与えられる日が来たのでした」  
ついに智恵は震えだした。  
「い…いや…やめてよ…。どうしたの?何なの?久藤くん…」  
久藤の眼が、わずかに細められたようだった。  
智恵はそれに気づいて、確信した。  
――彼は、全て、知っている。…私があの日、陵辱された事を――。  
おののく智恵の首筋に、後ろから柔らかい唇が押し当てられた。  
「センセー、いいにおいダナ」  
くすくすと笑うマリアはどこまでも無邪気だった。そろりと智恵の突き出した乳房に両手を伸ばす。  
ボタンの間に指を差し入れたとみるや、勢い良く左右にかき開いた。ボタンがぱっとはじけ飛ぶ。  
ブラジャーも一緒に引き裂かれ、ぶるん、と、白くまるい乳房がこぼれだした。  
マリアの褐色の手指が、その輝くような柔らかい塊に遠慮なく食いこんだ。  
 
 すでに日は落ちていた。宵闇の深い青が窓の外の世界を覆っている。久藤はドアの側に行くと電灯のスイッチを入れた。  
そのまま部屋を大きく回り、窓のカーテンを閉めながら、『お話』を続ける。  
「その生徒はちぃちゃんのグループに虐められた女子に関わりがあったか、あるいはその子に好意を持っていたのか―。  
 怒りに震えるとある男子生徒が、だれもいない校舎の一室で、ちぃちゃんを襲ったのです。  
 ちぃちゃんを拘束し、身動きがとれないようにして――そう、ちょうど…今この時のように」  
「く、久藤くん…あなた…」  
そのとき智恵たちの前に戻ってきた久藤の表情が、はじめてはっきりと動いた。  
彼は優しい柔らかな笑みを浮かべていた。彼を慕う女生徒たちがこんな顔を向けられたら、脳髄の芯まで痺れていたかもしれない。  
しかし智恵にはその微笑みはただ不可解と恐怖を煽るものでしかなかった。  
久藤はゆっくりと口を開く。  
「先生…胸は気持ちいいですか?…ふふっ。普段からは想像もつかない、あられもない格好ですね」  
どうやら久藤の『お話』は一時中断らしい。智恵はそう言われて、自分が男子生徒の眼前に突き出すように双乳を晒していることを思い出した。  
成人女性としては羞恥な、そして屈辱的なその己の有様に、たちまち頭にかっと血が上った。  
首もとのボタンは締まっているためにひし形に開かれた白いブラウスと、  
そこから僅かに見える黒いブラジャーのレースは、智恵の乳房をふちどるように強調していた。  
後ろから廻されたマリアの手は、今なお智恵の乳房をもみくちゃにしている。  
彼女は新しいおもちゃを手にいれて夢中になった子どものように、無邪気に智恵の胸を揉みしだいていた。  
それを見下ろす先刻までは無関心だった久藤の眼にも、ほんの小さくだが火のようなものが揺らいでいる。  
それは無理もない事かも知れない。ここで行われているのは、年端も行かない童女による女教師ナマ乳揉み、という淫靡な見世物である。  
「いや…!見ないで…お願い」  
不自由な体勢と不可解な事態への恐怖からか、智恵の声は哀願するような気配を帯びた。  
肩をよじってはみるが、マリアの手の中で柔肉が形を変えただけで、それは単に扇情的な動作になっただけだった。  
マリアがまたくすりと笑った。  
「そう言ってるケド、センセーおっぱいで感じてるのナ」  
言われたとおり、智恵のその二つの胸の柔肉の中に、体温とは違う微かな温度が生まれている。甘い痺れのような、うずきのような。  
そのいわく言いがたい感覚が、智恵の乳房の二つの先端を内側から刺激していた。  
 マリアのしなやかな指が、智恵の乳首にからみついた。  
中指と親指とではさみ、親指の腹で擦り上げる。たちまちぷっくり起きてきた先端を、人差し指がはじくようにつまむようにもてあそぶ。  
「ひぁっ!あぁあっ…!やめなさ、い…っ」  
智恵は久藤の顔など見上げていられなかった。眼下で暴れ回る少女の手指を、咎めるような目で追うのが精一杯だ。  
そのマリアは味を占めたのか、鼻先で智恵の切り揃えたショートボブを掻き分けると、耳にむしゃぶりつく。  
可愛らしい八重歯が、智恵の柔らかな耳たぶに突き立てられた。  
そして首筋を舐めながら、襟を噛んでボタンをちぎり飛ばすと、覗いた鎖骨に吸いついた。  
骨までしゃぶる肉食の獣のように、マリアの唇からちゅるちゅると音が上がる。  
その間ももちろん、彼女の手指は智恵の胸で奔放に踊っている。胸と首筋と、連動する刺激のいちいちが智恵の性感を炙った。  
「うっ!あぁああぁっ…!どうして、あなた、こんな…っ」  
「アハハっ、柔らかいのナ」  
同性の肉を愛で回す、このマリアの手管の巧みさはどうだ。  
智恵は『仕事』で女も相手にすることはあるが、こんな『上手な』同性の客は一人もいなかった。  
智恵は背骨をうねらせながら、浮かんだ疑問を拭えなかったが―。  
「…マリア、イロイロ上手にしないと…生きてこれなかっタ、からナ」  
ぽそりとその言葉を吐いたマリアの顔は智恵には見えなかった。  
いつもはお日様に照らされたように脳天気なマリアの瞳に、その一瞬だけ深淵の闇がにじんだ事には、だから智恵は今後一生気付くことはない。  
「……え?あ、あなた…」  
「そんな事よりセンセー、准も結構キテルみたいだゾ」  
智恵がふと顔をあげると、その眼前には久藤がいつの間に移動させてきたのか、オフィスチェアに悠然と腰を下ろしていた。  
その股間が制服の上着をすら押し上げて、はっきり盛り上がっているのがわかった。  
 
ふいに、マリアが智恵の背中を押すように体重を預けてきた。智恵の体は不自由な姿勢のまま前方に流れ、久藤の内ももに頬が押し付けられた。  
智恵の胸からマリアの手が離れ、久藤の股間のジッパーを引き下ろす。下着を掻き分けるように少女のしなやかな指が動いた。  
マリアの荒い吐息が智恵の耳朶を打つ。  
「あっ…、い、いや…」  
呻いた智恵の鼻先をかすめて、肉の幹が天井をさして立ち上がっていた。  
それは智恵が眼にしたどんなモノよりも大きな――、持ち主の甘やかな顔に似合わない、欲望むき出しの凶器だった。  
 
 
「准の、いつ見てもおっきいナ」  
「ありがとう、マ太郎」  
少女の頭をさらりと撫でて、久藤はそのまま手を智恵の頭に移すと髪を指に絡めた。  
「ちぃちゃん…あの時はどんなふうにされたんだっけ?」  
久藤は唐突に『お話』を持ち出す。  
その呼びかけは引き金となって、智恵が生徒の肉棒に驚くよりも先に、過去に己が受けた出来事を思い出させる。  
―あのとき自分は何をされたのか。そしてその後どう変わってしまったのか。  
智恵は固まったまま、久藤の肉棒の示す先――彼の口元をおずおずと見上げた。  
その口がこれから語りだす過去は、現在ただ今ここで再現される――。そんな未来を確信したからだった。  
久藤の唇が開いてゆく――智恵は自分の何かに亀裂が入る音をはっきり聞いた。  
 
「…怒りに震えるとある男子生徒が、だれもいない校舎の一室で、ちぃちゃんを襲ったのです。  
 ちぃちゃんを拘束し、身動きがとれないようにして――そう、ちょうど…今この時のように」  
先ほどと同じセリフを、久藤は繰り返した。物語の再開を意味する彼なりのこだわりというやつかも知れなかった。  
「拘束されたちぃちゃんはもうりっぱな大きさになっていた胸をいじり回され、そして制服やスカートはそのままに下着を剥ぎ取られてしまいました」  
マリアが心得たとばかりに活動を再開した。  
褐色の手が智恵の胸を撫で回し、もみくちゃにする。薄桃の乳首をひっぱり、つねり、ねじり廻した。  
先刻から与えられていた刺激のせいもあって、いっとき萎縮していた智恵の性感はたちまち甘い痺れに変わった。  
智恵の胸からマリアの片手が離れ、今度は合わせられた太ももに指先から突っ込まれる。  
やわらかい手に触れるストッキングが汗と、それとは別のものにうっすら湿る。  
マリアの手はもも肉の弾力を押し分けながら奥のやわらぎに向かう。もう一方の手も降りてきて、タイトスカートの裾を邪魔げにめくり上げた。  
腰骨の下で黒のガーターがあらわになり、マリアはショーツのひもを器用に解いてしまう。  
「あ、や、やめなさい関内君!いや、やめて!」  
「んー…デモ、体は正直者なんじゃなイカ?准の話を怖がるクセに、センセーナゼか感じてるダロ」  
「そんな事っ…」  
智恵はかぶりを振ったが、振り乱れた髪が久藤の内ももと肉棒を撫でるのを感じて頭を動かすのをやめる。  
横目で見ると、肉棒に浮き出た血管が眼に入った。久藤の含み笑いが聞こえた。  
マリアは問答無用だった。  
智恵が腰をよじる前に、黒いレースのショーツをするりと引きぬいてしまう。  
糸引いてこぼれた液体のきらめきを見てくすりと笑った。  
「ホラ、やっぱりナ」  
マリアが手を離すと、ショーツはぺたりと湿った音をたてて床に落ちた。  
 
 マリアは智恵の胸乳の下を縛るロープを掴んで立ち上がり、智恵の体を少し引っ張り上げた。  
しぜん智恵は尻を浮かせ膝立ちの体勢になる。マリアは智恵の背中をぐいと押して、智恵の体を久藤の下腹に押し付けた。  
ちょうど、ひざまづいた智恵の胸の谷間に久藤の肉棒が挟み込まれるかたちになった。  
「いや…あ、熱…い…」  
たっぷりとした智恵の双乳に挟まれても久藤の肉棒は埋もれることなく、その先端は智恵の喉元あたりに覗いている。  
それはどくどくと脈打っていた。智恵が感じたのは、その中を巡る血液の運ぶ、若い欲望の温度だった。  
もっとも久藤准は、そんなものは少なくとも表情には一切表さない。  
 智恵は眼を伏せた一瞬、その亀頭に見入ってしまう。  
手淫など久藤は普段あまりしないのか、綺麗な明るい桃色だった。なんだか可愛らしくさえある。  
そしてすぐ、そんな想念を抱いた自分にかすかに驚く。  
場の異常な雰囲気に気圧されていたはずが、体と記憶をもてあそばれるうち、徐々に慣れてきてしまっているのだろうか―?いや、それとも?  
智恵が喉を鳴らしかけたとき、淡々とした久藤の声が頭上から降ってきた。  
「…ちぃちゃんはさらけ出された女の子の部分を、いいようにいじくられました。  
 ちいちゃんはあたまがぼうっとしてしまいます。  
 異性に肌を見られるのも、そんな行為をされるのも初めてだったのに、どうしたことでしょう?  
 それから男子生徒は剥きだしたちぃちゃんの胸に自分の肉棒を挟むと、胸を掴んでしごいたりしました」  
腰を浮かせている智恵の尻をマリアの指がそろりと降りてゆく。  
小さな指が、智恵の秘唇に触れた。  
「いぅっ!」  
「アハ…センセー、とろとろだナ」  
マリアの一方の手がすでにうっすら拡がってひくついている智恵の肉唇を押し広げる。ぷるぷるとした弾力を楽しみながら指先を割れ目に食い込ませた。  
「あぁぁぁっ…拡げ、ないで…」  
マリアの手が動くたび、床にぽたぽたと愛液がしたたり、染みを作った。  
そして智恵の体の前面から降りてきたもう一方の手が、茂みをそろそろとかきわける。  
肉唇の上部にある肉の芽にからみつき、軽く強く、不規則に転がし始めた。たちまち智恵の脊髄を快感が駆け上ってゆく。腰骨が勝手にうねってしまう。  
マリアの両手の指が前後から、まるで小さな触手のように智恵の入口をまさぐっていた。何本かが膣に挿し入れられ、かき回し、引き抜かれる。  
同時に手のひらが恥丘を撫ぜ、肉の芽をこすりまわしていた。  
くちゃくちゃと粘つくような音が智恵の脳髄をたたく。それは智恵が自分であげている音なのだ。  
「ひあぁっ!あああっ!…〜〜〜〜〜〜〜っ!」  
「ン…フフ、センセー軽くイッたダロ?いまマリアの指、きゅうってされたゾ」  
「あ、…うそ、うそよ…私…違うわ…っ!」  
マリアの吐息が首筋にかかる。智恵の首の後にうっすら盛り上がった背骨、首筋に、マリアはなんども吸いついていた。  
愛撫のたびにぴくぴく震えるその反応を唇で味わうと、マリアの官能も煽られるらしい。  
「センセー可愛いのナ…マリアもこーふん、してきたカモナ」  
マリアの内もももうっすら湿って光っていた。彼女は片手を智恵の愛撫から離すと、自分のプリーツスカートの中に突っ込んだ。  
普段から下着などはいていない無毛のそこを、慣れた手つきでまさぐりだす。  
すぐにそこからも糸を引くような粘ついた音が上がりはじめた。  
智恵を愛撫している指と動きを合わせ快感を味わうマリアの蕩けた表情は、とても童女とは思われない艶めかしさだった。  
 マリアの指の動き、そして相手の快感をコントロールする刺激を与える間は巧みだった。  
智恵が愛撫に身をそらせ、身を震わせるたびにそれに従ってたぷたぷ揺れる双乳が、その谷間の肉棒に奉仕するかっこうになっている。  
快感のあまり喘ぎっぱなしの智恵の口の端から、はしたなくよだれがしたたっていた。  
垂れた智恵の唾液は、はずむ胸から突き出ている久藤の亀頭を濡らしている。  
それに気づいた智恵は、今度は本当に喉を鳴らした。  
――そうだった。あの時襲われた時も、私はこんなふうに乱れていた…初めてだったのに。どうして?…どうして、と思ったから、私は――  
 久藤の手がふわりと伸びてきた。  
肉棒を挟む柔肉、その先端をきゅうとつまむ。そしてそれを波打たせるように動かして、自分の肉棒をしごき――否、智恵の双乳を犯し始めた。  
 
 智恵の眼前で、己の白い肉が上下する。  
肉が跳ねてピンクの亀頭を飲み込むが、すぐにそれは顔を出す。  
久藤の指はつまんだ乳首を細かくしごきながら、二つの丸い柔らかな肉を自在に揺らせてもてあそんでいた。  
その光景を見ていた智恵の眼はしだいにとろんと霞がかかったようになってゆく。  
―まるでオナホールか何かみたいに、挟み込んでいる肉棒にただ快楽を提供するモノとして扱われている自分の肉体の一部。  
そこから伝わってくる肉棒の温度、硬さ、大きさ、形状――。  
智恵はそれらのもの全てが、自分の存在を犯しているのだという気すらしてきた。  
いぜん下腹の底、智恵の秘唇からも、少女の指でぞわぞわと快感が送り込まれてくる。  
もうたまらない。我慢出来ない――。熱を帯びた視線で、頭上の久藤の顔を見上げようとしたとき―。  
「…ちぃちゃんはもう訳がわからなくなってきていました。  
 知らない男に襲われて体をいいようにされているのに、ちぃちゃんの火照りはどうしたことでしょう。  
 ちぃちゃんは突きつけられた男子生徒の肉棒をまるで吸い寄せられるように口に含んでいました」  
肉棒にみなぎる物を感じさせない、静かな久藤の声がした。  
 智恵は喉を鳴らし、尻を震わせた。  
――そうだ、あの時もあったことだ。あの時あったことは今ここでも起こるのだ――。  
もはや恐怖よりむしろ歓喜を持って、智恵は過去の自分を思い出した。久藤の語る『お話』の時、かつて智恵は―。  
マリアの手が智恵の後頭部を掴んでいた。  
「ホラ、センセー…欲しかったモノだゾ!」  
首をすくめるように、肉棒の先端に押し付けられる。  
智恵は期待感を満たされた喜びをもって赤い唇をいっぱいに拡げ、久藤の濡れ光る亀頭をむしゃぶりついた。  
しばし先端を含んだまま、大きさと形を口腔の中で確かめる。  
智恵はうっとりしていた。大きくて、固くて、熱い―。  
さっそく唾液をたっぷりのせた舌でとば口から尿道口を丹念に舐め、吸い上げる。  
ふるりと、久藤の腰がわずかにふるえるのがわかって、智恵は下腹が熱くなった。  
――久藤くんの、味。ああ、私は何をしているのかしら。学校の、それも自分の職場で――。  
智恵は首をすくめて深く肉棒を飲み込んだ。亀頭のえらを唇で細かくしごきながら先端に舌先をねじ込んで暴れさせる。  
吸いつきながらゆっくりと唇を離すと、唾液で濡れ光った亀頭にいとおしげにキスを捧げた。  
いぜん久藤の手指は肉棒を挟み込んだ智恵の乳房をまさぐり、揺らしていた。そのために肉棒への奉仕は先端部へと限定されている。  
智恵がちらりと見上げると、久藤はわずかに微笑んだように見える。  
「んー、准もキモチ良さそうダナ。でもセンセー、そんなんじゃいつまでたっても准はイかないゾ?」  
唐突にマリアの声が聞こえた。その声音には心なしかイラついた感じがする。  
久藤の肉棒を智恵が独り占めしていることに嫉妬でもしたのだろうか。  
 
 ふと、久藤の片手が智恵の胸から離れた。智恵の後ろのマリアの頭を撫でたらしい。  
「…けれど、不慣れなちぃちゃんの奉仕は少々じれったいものでした。  
 そこで男子生徒はちぃちゃんの頭を掴むと前後に揺すり、ちぃちゃんの喉奥を犯し始めました。  
 それは彼がひとまず射精するまで続けられました」  
久藤の声がした。  
――そんなこと、あの時されたかしら?  
智恵の官能に曇った脳裏に疑問が明滅したが、記憶を探るより前にのど元と後頭部をつかまれていた。マリアの手だった。  
一度、後ろに引かれる。上体が反らされ、肉棒から胸が離れてしまう。  
智恵はいやいやするように、舌をいっぱいに差し伸ばした。糸が引いて虚空に散る。  
だがその肉棒との別れは一瞬だった。すぐにマリアの手に押され、突き立った肉棒を少々乱暴にくわえ込ませられたのだ。  
「んんぅっ!」  
肉棒が一気に喉奥まで入ってきた――否、智恵が抑えつけられているのだが、智恵が苦しいそぶりを見せてもマリアは力を緩めようとはしない。  
「アハッ…いいゾセンセー、もっと奥までイけるヨナー?」  
「んん…んんぉぉおっ!」  
太い、長い久藤の肉棒が喉の奥の奥まで達していた。智恵は息の出来ない苦しさの中で、まるで脳髄の芯まで犯されたような錯覚を味わっていた。  
目の裏がぴりぴりとし、視界に火花が散る。軽くえづき、涙がこぼれる。  
気が遠くなりかけたとき、頭が引かれた。ちゅぽん、と間の抜けた音が唇から上がり、肉棒から解放される。マリアの含み笑いが聞こえた。  
「歯を立てチャ、ダメだゾ」  
呼吸をいくらもしないうちに、すぐに頭を押され、肉棒を押し込まれる。  
―押し込まれ、引きぬかれ、ときに深く喉奥まで貫かれ、あるいは浅く先端を上下させられる。  
前に後ろに、緩やかに、激しく。どれくらいそれが続いただろうか。  
頭を揺らされるたび、くびり出された双乳が大きく揺れ、汗が飛び散った。  
 久藤の手が、智恵の髪を手漉きに撫でていた。指が耳の裏を優しくくすぐっている。  
智恵は、気持ちいいよ、と褒められた気がして胸の底が熱くなった。  
もうあごは疲れ、唾液は胸までしたたっている。鼻腔の中まで肉棒の匂いでいっぱいになり、頭の中は快楽に曇っていた。  
マリアの顔が智恵の横に来ていた。その大きな澄んだ瞳が欲情できらきら光っている。  
さっきの強制パイズリどころではない。後頭部と喉にまわされたマリアの手が、智恵の頭部と上体をまるでモノのように動かしていた。  
久藤の手にはまだあった女体への優しさやいたわりといったものが、マリアの手にはさっぱり無かった。  
智恵を性具のように扱って久藤に奉仕させることで、自分が久藤に快楽を与えているような倒錯した悦楽にどっぷりひたっているのだ。  
それでも智恵は呻きながら舌を動かし、口内に出入りする熱い肉棒に必死に奉仕した。  
どういうわけか、苦しいほど下腹が、秘肉の奥が熱くなってくる。  
マリアの指はとうに離れているのに、ひくついた襞が、剥き出された肉の芽が空気に触れるだけでたまらない。  
後ろに拘束された手を使えないのがもどかしい――今すぐにでも、自分の手でぐちゃぐちゃにかきまわしたい―そんな思いも頭をよぎる。  
膝をついてマリアに支えられているこの体勢でなければ立ってなどいられなかっただろう。  
喉奥を一突きされるごとに起こる狂おしい快感は何処から来るのだろうか。  
 
 智恵の口腔の中で、久藤の肉棒もわずかづつ体積を増している。  
マリアが笑った。幼さなど微塵もない、淫靡な響きだった。  
「センセー、キレイだゾ。フフ…紅いくちびるに、出たり入ったり…アハハ、キレイなオナホだナ!」  
笑いながら、マリアは抱えた智恵の頭をひときわ激しく動かす――久藤から、何かを搾り取ろうとでもするように。  
童女の揶揄と嘲弄そのもののことばに、しかし智恵は気の遠くなるような甘い痺れを味わうだけだった。  
みじめな自分のみじめなさまに陶酔していた。自分の唇の中の温度を増す肉棒が愛おしかった。  
先ほどから先端から滲み出る久藤の牡の粘液を、智恵は唾液と共に飲み下す。  
――ああ、久藤くん、こんなあさましい私、男のモノを慰める性具にすぎない私で、こんなに感じてくれて――。  
…嬉しい。  
智恵が恍惚とそれを思ったとき、彼女の口内で肉棒が膨れ上がった。  
「っ!んんぅっ!」  
熱い液体が、うめく智恵の喉奥を打った。一度、二度、三度――。  
勢いの収まらない濃い粘液を受け止めかねて智恵は抑えつけるマリアの手にあらがい、肉棒から逃げるようにおとがいを反らした。  
唾液と精液の糸を虚空に跳ねあげた智恵を追うように、空気にさらされた久藤の肉棒から白濁がほとばしる。  
幾条か飛んだその粘液が智恵の紅潮した頬に、鼻筋に、濡れた唇にぶちまけられ、白く汚していった。  
 
 口内の白濁を飲み下しながら久藤の精を顔に受け止めた瞬間、智恵は同時に絶頂に達していた。  
視界がゆがみ、脳髄をかけのぼる快感に気が遠くなる―。  
その曖昧な感覚の中で、智恵は自分の世界に入った亀裂が広がり、その狭間にのぞいた何者かをはっきり眼にしていた。  
それはもう一人の自分――そう、被虐に酔いしれるもう一人の新井智恵だった。  
 
「…超一流のM奴隷の才能もあったのです」  
いつか何処かで聴いた声がした。――いや、きっと思い違いだろう――智恵はぼうっとした頭で考えていた。  
ふいに、首周りに冷たい何かが巻きついているような感覚があった。この身はどうやらあお向けに床に横たわっているらしい。  
智恵は努力して重いまぶたを持ち上げた―。  
「気がついたのナ」  
マリアの台詞の後半は湿った音にまぎれたものだった。智恵の視線の先で、褐色の肌の少女はチェアに座す久藤の股間に顔をうずめていた。  
一向に萎えない肉棒に唇をふれさせながら振り返り、こちらを見ている。  
自分の巧みな舌づかいを智恵に見せつけるようにしていた。  
「フン…おそーじも出来ないなんて、しょぼいM奴隷ダナ」  
マリアのその口の端から、白い粘液がひとすじ垂れていた。  
――ああ、あれは私のなのに――。  
智恵は脳髄を熱く焦がす下腹をもどかしそうにすりあわせ、身をよじる。  
――ご奉仕を捧げたのだから、次はこの中をそれでかきまわしてもらえるはず、それなのに――。  
智恵はそんなあさましい思いで少女を見上げた、そのとき―。  
 じゃらり。  
金属の触れ合う音がした。すると同時に、智恵の首が久藤の方に引っ張られた。  
智恵は身を起こしながら、自分の首にまとわりついている物が何かを悟る。  
それは鋲の打たれた革の首輪だった。気をやっている間に、マリアが着けたものだろう。  
鈍く光る細い鎖が久藤の手に連なっていた。  
 久藤は智恵を見下ろしながら、手の中の鎖をもてあそぶ。鎖は智恵の胸の谷間で冷たい音を立てて光った。  
「…顔も口も汚されてしまったというのに、ちぃちゃんはただただ興奮するばかりでした。  
 昂ぶりのなかで、ちぃちゃんは自分が何者か、おぼろに気づきかけていました。  
 そして今、自分が何を欲しがっているかはっきりわかっていました。  
 ちぃちゃんは立ち上がり、男子生徒にお尻を付き出して上体を折ると、あさましいおねだりの声を上げました」  
おもむろに久藤の静かな声が響いた。  
それは智恵の過去の物語なのか、それとも智恵に奉仕を強いる命令なのか、もうわからなくなっていた。  
智恵の官能にけぶる脳裏には、その久藤の言葉がかつてあったことなのかどうかなどもはやどうでもいい。  
大事なのは、久藤の語る物語はもはや神勅、託宣の類にひとしく、智恵が望む悦楽を得るためにはそれに従うほかないという事実のみだ。  
智恵は子猫みたいに切なげに鼻を鳴らすと、震える腰を持ち上げ、立ち上がる。  
久藤に背を向け、上体を折り尻を突き出していた。  
 たくし上げられたタイトスカートから覗いた、熟れた桃のような白い尻肉。  
それをふちどるレースのガーターとストッキングの黒が、白い肉に艶めかしく映えた。  
 
たちまちマリアの楽しげな声があがった。  
「フフ…見て准、センセーのココ、ぴくぴくしてるナ。物欲しソーによだれダラダラ垂らしてるノナ」  
年下の男子生徒と童女に自分のひくついた肉襞を晒している――そんな恥辱で、智恵はおかしくなりそうだった。  
同時に立っていられないほど感じてもいた。早くここを一杯にして欲しい―それだけで頭の中が埋め尽くされている。  
「でもナー、センセー…」  
「な、なに…?」  
「おねだりはドーシタ!?」  
びしゃん!  
「ひゃぁあっ!」  
マリアの平手が智恵の丸い尻肉を打っていた。危うく前にのめる智恵だったが、首輪に繋がる鎖が引かれ、何とか踏みとどまる。  
「欲しいダロ?准のコレ…センセー?」  
智恵は少女のくすくす笑いと久藤の視線を感じた――そうだった、『おねだり』しなくてはいけないのだった。  
かつて自分が『仕事』で相手をしてやった変態どもと同じように、できるだけはしたなく、無様に―。  
そうして初めて、M奴隷はご褒美を貰えるのだ。  
鎖がほんの僅かに張られた。智恵の喉が圧迫されるが、それは苦しいか苦しくないかの境界にある、絶妙の力加減だった。  
智恵はゆっくり顔を背後に巡らせる。唇を湿らせると、言葉をつむぎだした。  
「わっ…私の変態メス穴は、もう限界です…!そのおっきなおちんちんを…ここに…下さい…。奥までぶち込んで、かきまわして下さい…!  
 いつでも、好きなように射精して下さい…っ!  
 久藤くん、いえ、…ご主人様と、お願いします、セックスさせて下さい…っ!」  
一言ごとに目が眩んだ。何か自分の周りがゆがみ、崩れ、塗り変わっていくような感覚がした。  
 
 久藤が椅子から立ち上がる気配がした。尻がマリアに抱き抱えられ、秘所が指でいっぱいに拡げられる。  
優しく、そろりと尻肉が撫でられた。智恵が予感に身をよじる前に――  
「ちぃちゃん、…よくできました」  
この上なく優しい久藤の声がして、同時に智恵の奥の奥まで、久藤の肉棒が貫いていた。  
 
「…ちぃちゃんは、たった一突きで達してしまいました。けれど男子生徒はそんなことはおかまいなしです。  
 ちぃちゃんの処女穴を貪欲に犯し続けました。その刺激で、ちぃちゃんが眼を覚ますまで」  
久藤はその言葉通り、気を失った智恵の肉壷を嬲り回す。  
連続して与えられる刺激と律動に、ぐったりしていた智恵は意識を取り戻した。  
マリアは智恵の髪を掴むと顔を引き起こし、咎める。  
「センセー起きたカ?酷いヨナー、准はずっとセンセーに挿れててあげタんだゾ」  
「…えっ…!あ!ぁあっ!」  
久藤は何処吹く風で勢い良く腰を使っている。ぴしゃぴしゃと肉がぶつかる音に混じって糸引くような粘ついた音も上がっていた。  
「ホラ、しゃっきりシロ!」  
ばちん!  
「あうぅっ!」  
マリアの平手が智恵の尻肉に飛んだ。智恵は我に返ったが、たちまち突き上げられてくる快感の波にさらわれてしまう。  
「あひっ!ああああああっ!熱っ…いっ…」  
「アハハッ、センセー凄いナ!准のが根本近くまで入ってるゾ…マリアには半分しか入らないモンナ!  
 オトナの女スゴイのナ!」  
マリアは智恵の尻を打ったり、結合部を覗き込んだりと忙しく動き回りながら、智恵の羞恥を煽るように声をかける。  
「凄いコトになってるゾー…大洪水ダナ。准のが出入りするたび、センセーのが伸びテ拡がって、ビラビラめくれテ糸引いテー、フフッ」  
「や、やめて…言わない…で、…あ、ああああぅっ!」  
マリアは智恵の肉の芽をまさぐると、久藤の抽送にあわせてはじき、つねり、ねじる。  
「ひぃあっ!」  
脊髄を駆け上る甘い痺れが、何度も波のように智恵の脳の裏側を襲った。  
「アハハハハ、センセーまたイッたダロ?」  
「ちがっ…あああああああぅっ!」  
智恵の膝ががくがくと笑い、立っているのも困難なように落ちかける。  
久藤はひときわ強く突きあげて肉棒で智恵の腰を支えると、ささやくように言った。  
「ちぃちゃんの反応は可愛いものでした。無残に犯されているはずなのに快感に身を震わせ、乱れるさまは何としたことでしょう」  
「いぁああああああっ!」  
久藤の動きは先程の優しい仕草から打って変わって、智恵の肉襞から一方的に快感を貪り取ろうとする容赦の無さだ。  
奥の奥まで刺し貫き、先端が抜けるほど腰を引くとまた奥底のやわらぎまで突き込む事を繰り返す。  
両手は智恵の腰骨に据えられ、腰のうねりを制御していた。  
蠕動する襞をかき分け、左右の壁をえぐり、あるいは入り口の柔肉をこねまわす―  
そんな久藤の愛撫のいちいちに、智恵は尻肉を揺らせて反応した。  
 いつの間にか、マリアが智恵の体の下に潜り込んでいる。  
指を伸ばすと、智恵の下腹部をなでさすった。  
「おぉ、ふくれてるナ…准が出たり入ったりするたびポコポコ動くのナ」  
などと、面白げに実況する。そして振り返ると、下から激しく揺れる智恵の乳房を鷲掴みに掴んだ。  
「重くないカ?マリアが持ってやるゾ」  
「やぁ、いやっ!しぼらないでぇっ!」  
「アハハッ!」  
マリアは乳房を揉みしだきながら体の位置を変え、片方の乳首に吸い付いた。ちゅうちゅうと音を立てて吸い、舌の上で転がしてやる。  
少女の手が指が動くたび、まるで測っていたように久藤の肉棒が智恵の肉壷に突き立てられる。  
智恵の体を嬲る、少年と少女の連携は絶妙だった。  
 
 智恵は准に子宮の奥底までかきまわされ、マリアには性感帯のそこかしこをこねまわされ、もう息をするのも厄介な乱れようだった。  
―自分の勝手知ったはずの職場で。  
―顔見知りの生徒に。  
―忘れたかった過去を暴き立てられ。  
―ふたりがかりで体をもてあそばれている。  
頭の中がうっすら白く濁ってきて、全ての要素が快楽を高めてくれるモノのようにしか思われない。  
精神から肉体から『自分』が侵食され、悦楽に塗りつぶされてゆく。  
「…ちぃちゃんは感じ過ぎてもう気が変になりそうでした。学校では女王のような自分が、みじめであさましい姿を晒している――  
 そんな現実がむしろ、ちぃちゃんの官能を煽るのでした。男子生徒は乱れる彼女に意地悪に質問します。  
 『ねぇ、何処がそんなに気持ちいいの?僕のチンポ、そんなに気に入った?』」  
久藤の声が聞こえた。智恵は振り返ると、欲情に蕩けた顔で久藤に答えた。  
「『おまんこ…熱くて…いっぱいで…気持ちいいの…!だから…ちんぽ、好き…ご主人様のおちんぽ、だいしゅきぃっ!』」  
 久藤准が普段なら絶対使わないような表現をした事は、しかし驚くにあたらない。  
いまここはかつて智恵が陵辱された『あの時』に同調しているのだ。久藤は『あの時』の男子生徒になっているのだ。  
だから智恵も、『あの時』の智恵――ちぃちゃん、なのだった。だから智恵は『ちぃちゃん』として久藤に答えなければならない――  
智恵が答えた瞬間こそ、久藤の仕掛けた『お話』の構造の、完成の時だった。  
新井智恵はもはや物語に取り込まれていた。  
怜悧な美貌にまとっていた知性のペルソナをついに破壊され、彼女のもう一つの本質が剥き出しになったのだ。  
いまの智恵はまさに、メス肉M奴隷そのものだった。  
心の壁はこじあけられ、智恵の世界は暴かれた。  
 
 久藤は智恵の返答を聞くと鎖を引き絞り、智恵の上体を起こして抱き寄せた。  
残った手で智恵の顎を掴むと、自分の顔の側に向ける。羞恥と快楽に染まった智恵の瞳を見て、久藤ははっきり言った。  
「フフ…ちぃちゃん、可愛いよ。じゃあ…その大好きなモノで、イかせてあげるよ」   
 久藤の腰が引かれ、尻肉の下から智恵の深奥へ突き上げられた。  
「んぃあああああっ!」  
のけぞった智恵はつま先まで真っ直ぐにそらし、痙攣する。  
智恵の女の肉の一番深いところ、それがこじあけられ、突き込まれる。  
肉棒で肉壺を攪拌されるうち、何度も何度も突きあげてくる久藤の律動から、体の真ん中を脳天まで貫く快感が走り抜ける。  
いまや智恵の体を抱き抱えた久藤の手が指が、一突きごとにたぷたぷ揺れ跳ねる乳房を揉みしだいていた。  
もう智恵は息も絶え絶えだった。  
 マリアは上下に激しく揺れる二人の前にひざまづき、その結合部に濡れ光る肉と肉に口づけて舌と唇で愛撫を捧げている。  
垂れ落ちる愛液を舌に溜め、剥き出された智恵の肉の芽に摺りつけてすすり飲むマリアの顔も、官能にとろけきっていた。  
激しい出入りで収縮する肉に興奮するのか、自分の指で無毛の秘所をめちゃくちゃにかきまわしていた。  
あどけない肉襞からしたたる粘液が、足下に小さく溜まっている。  
「二人ともぴくぴくしてるゾ…イきそうなんだナ?マリアも、イきそうだゾ…」  
久藤の肉棒がひときわ深く打ち込まれた。  
そのまま腰をうねらせると、智恵の肉の深くで螺旋を描く。一度、二度、三度―。  
「あ、やあああああああぁっ!だめ、おちんぽぐるぐる、だめぇえええええっ!」  
智恵の視界は快感のあまり溢れた涙、振り乱れた髪と飛び散る体液でおぼろに明滅している。  
その向こうで世界が不規則に揺れ動き、ぐるぐる廻っていた。  
ダメ、と言いながらしかし絶頂を求める智恵の肉襞は、久藤をくわえ込んでしぼりあげる。  
奴隷のサガが、全霊で肉棒に奉仕していた。  
久藤はそれに応えていとおしむように激しく、突き上げてやる。  
愛液が飛び散り、汗が揺れる乳房から跳ねた。  
「だめぇっ!いっひゃうから、だめなのぉっ!」  
「いいよ、イッても。フフ…ちぃちゃんの中にいっぱいあげるよ!」  
最後のひとうねりとともに、久藤の肉棒が膨れ上がった。  
「うあぁあああああああっ!ごしゅりん、さまぁぁっ!」  
子宮の中いっぱいにご褒美が注ぎ込まれるのを感じた瞬間、智恵はからだを棒のようにそらせながら絶頂へかけのぼっていった。  
 
 智恵は尻を持ち上げた恥ずかしい格好で床にうつ伏せに転がっていた。  
短い失神から我に返ると、ふと両手の拘束が自由になっていることに気づく。  
くい、と首輪が引かれた。どうやら鎖はまだ繋がっているらしい――。  
智恵はあることにはっと気づくと、急いで体をめぐらした。  
その先には彼女の思ったとおり、ご主人様がチェアに悠然と座ってこちらを見ている。  
その股間に屹立する、複数の粘液にまみれた肉棒に大急ぎで這い寄ると、ひざまづいて主人の言葉を待った。  
彼女の主はすぐに答えてくれる。  
「…ちぃちゃんは初めてのセックスではしたなくも絶頂をむかえ、自分の被虐嗜好の本性に気づいてしまいました。  
 気がついた彼女は、さっきまで自分の中に入っていた男子生徒の肉棒に、お掃除の奉仕を捧げます。  
 うやうやしく、感謝をこめて―」  
智恵は『よし』と言われた犬のように嬉しそうに顔を上げる。  
濡れ光る肉棒にくちづけると、赤い唇をいっぱいにひらいて吸いつき、したたる粘液を舐め取っていった。  
 チェアの背もたれ越しに久藤の首に両腕を廻したマリアが、それを面白そうに見下ろしている。  
少女は久藤の耳元で智恵に聞こえぬよう、そっとささやいた。  
「ひとまず上手くいったナ、准」  
久藤は軽く頷くと、今度はマリアに耳打ちする。  
「ウン、わかッタ」  
マリアは身を翻すと部屋のドアに駆け寄った。  
 
 智恵はすっかり舐め上げて綺麗になった主人の肉棒をズボンの中におさめていた。  
女の子座りで主人を見上げていると、よしよしと頭をなでられ、眼を細める。  
久藤は掌中の鎖を放ると立ち上がり、智恵のデスクへ歩み寄った。ノートPCを開くと手慣れた様子でキーを叩く。  
画面を智恵に向け、にっこり笑った。  
「その日の陵辱はひとまず収まりました。  
 でも男子生徒はちぃちゃんを辱め続けるために手を打っていたのです。  
 彼は自分とちぃちゃんの痴態をビデオに収めていたのでした」  
画面に動画が再生されていた。  
 
―『だめぇっ!いっひゃうから、だめなのぉっ!』  
 『いいよ、イッても。フフ…ちぃちゃんの中にいっぱいあげるよ!』  
 『うあぁあああああああっ!ごしゅりん、さまぁぁっ!』――  
 
画面の中でついさっき智恵と久藤とマリアとが演じた痴態が再現されている。アングルは部屋の奥側――カウンセリングのブースからだろうか。  
智恵の頭は真っ白になって止まっていた。  
「え、こ、これ…」  
久藤は構わなかった。これから語ることも、実際にあったこと。そう、かつて智恵の身にあったこと。  
物語は、再現されねばならない。――語り部は淡々と物語った。  
「その映像は男子生徒の仲間に流出していました。  
 陵辱の日からいくらもすぎないある日、男子生徒の仲間がちぃちゃんを襲ったのです」  
「!」  
智恵が記憶を探り、思い当たる前に――、マリアの手でドアが開けられ、二人の人影がそそくさとカウンセリング室に入ってきた。  
学生服―男子生徒のようだった。  
「う、うわ、マジだ!本当だ!知恵先生、ホントにヤッちゃってるよ!」  
「久藤、お前、スゲーな!動画まで俺らに実況で配信しちゃって…」  
いささか興奮が過ぎた二人の男子生徒は久藤と親しい二のへ組の男子生徒――青山と芳賀、だった。  
マリアが、そっとドアを閉め、鍵を廻した。  
そのまま眼鏡をかけた男子生徒―青山の袖を引くと、低いがよく通る声でささやいた。  
「…オマエたち、智恵センセーのカラダ、好きにシテいいゾ」  
 さして広くもない部屋に、何かの気配がむっと充ちた。  
青山と芳賀の視線が智恵の剥き出しになった胸、尻、ふともものあたりを舐めるように動いていた。  
 
 智恵は少女の言葉に、むしろ情欲に波打ってしまった事を受け止めていた。  
――どうやら自分は、解放されつつあるらしい――。  
飛びかかってきた二人の男子生徒の荒々しい手に衣服を剥ぎ取られながら、脳裏に何故かふと、そんな思念が浮かんだ。  
投げ出される智恵のジャケットから、しわくちゃになった魔除けのお札が飛び出し、宙に舞った。  
『…さあ、皆さん!私たちは兄弟です!お互いの恥部を隠す必要はありません!  
 心の壁を取り払って、みんなと一つになりましょう!』  
―智恵の耳にそんな声が聞こえた気がした。  
 
久藤准は今度は机に腰掛けると、眼下に始まった痴戯を悠然と見下ろした。  
――そして、厳かささえ湛えた声で、語りだした。  
 
 
 
                          『素晴らしくも素晴らしき新世界』 前編おわり 後編につづく  
 
 
 
 

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