例えば、放課後の図書室。
この学校の図書室は図書館と言った方がいいくらいに大きい。蔵書も大量豊富で、高校には不釣り合いなくらいだ。
そのくせ民間に解放しているわけでもなく、本を読むために図書室に来る生徒もあまりいない。宝の持ち腐れ、というやつである。
人があまり来ないので、風浦可符香と久藤准にとっては好都合だった。
2つの頭が、入り口からもっとも遠い2階の本棚の陰からちょこんと出ている。上が風浦可符香で、下が久藤准だ。
2人は1階の貸出カウンターを観察していた。カウンターでは、図書委員が腕を枕にしてうたた寝を決め込んでいる。
「大草さん、寝ちゃいましたね」
可符香が囁いた。准も頷く。
「うん。そうみたいだ」
「きっと疲れているんですね。起こしたら可哀相だから、そっとしておきましょう」
可符香の頭が引っ込む。准は振り返って、それから可符香にならった。
壁際には小さな椅子が置いてあって、また本棚が両脇にあるので、そこはほとんど外界から隔絶していた。誰かがのぞき込まない限り、棚の合間に人がいるかなどわからない。
「ねぇ、久藤くん」
「なに?風浦さん」
准が椅子に座ると、可符香は准の膝の上に座った。准は手を前にまわして、可符香を抱き締める。可符香は少しだけ後ろを向いて、准の胸に手を当てた。
「激しいのは、また今度ですね」
2人はちょっと笑って、それから目を閉じた。ゆっくりと唇を合わせて、お互いの気持ちを確かめる。
「風浦さんって、本当にいい匂いがする」
「久藤くんも、すごくいい香りですよ」
少し、息が荒くなる。2人はまたキスをして、蜜の味を楽しむ。
「んっ……」
准の唇は可符香の唇を離れ、柔らかな首筋へと向かう。可符香は前を向いて、抱き締める准の手に自分の手を合わせた。
最初はキスだけ。少しずつ舌を出していく。首から耳に達する頃には、可符香の顔は朱に染まっていた。
「ぁ……すごく、いい、ですよ……」
セーラー服の下に手が伸びて、滑らかな肌に触れる。准の指に吸いつくような、気持ちのよい肌触り。
その手が小さな丘陵地に届くと、可符香の息は荒くなった。スカートの下にも指が届いて、そのはずみで床に水滴が落ちた。
「じらさないで……久藤くん」
彼女の表情は悦楽に満ちていた。可愛い口を少し開けて、舌を宙に浮かばせて。
下着に潜り込んだ手は、胸と茂みをやさしく撫でる。朱色は赤に変わり、息はさらに激しくなった。
突起に指が触れると、可符香は跳ねた。上の指は胸を、下の指は洞窟の中を。可符香は必死に我慢していたけれど、それでも喘ぎ声は漏れた。
「んぅ……っ!……ぁ、はっ……」
准の指と唇は容赦なく可符香を責める。突然、可符香が跳ね上がって、目を虚ろにした。
「……イった?」
准が聞くと、可符香は力なく頷いた。
しばらくしてから、可符香は余韻を感じつつ立ち上がった。准の方を向き、両手でスカートをつまんで、挨拶するように持ち上げる。
彼の方は、手慣れた手つきでゴムを装着した。准が素早くすませると、可符香は近づいて屈み、スカートを准の腰から足に被せた。
ショーツを少しずらして、可符香は准を迎え入れる準備を整えた。2人はお互いの背中に手をまわして、しっかりと抱き締めた。
2人から、息が漏れる。
動きは少しずつ激しくなって、息ができなくなる。
「風浦……さん、ぐっ」
「久藤くん……ああッ!」
ときどき、2人は小さな声で名前を呼び合った。キスして、耳を甘噛みする。
姿勢が変わって、可符香が椅子に手をついた。准は彼女の腰を軽く掴んで、快感の示すままに突く。
可符香は拳を握りしめて、准は歯を食いしばる。彼の手は腰から胸に移り、可符香を後ろから抱き締めるかたちになった。
「もうすぐ……だよ、風浦さん」
とろけそうな能の片隅で、可符香は准がそう言ったのを感じる。艶のある声を隠しながら准を見て、悦楽の表情で頷く。
准が何回か痙攣すると、可符香は手で口を抑えながら体をそらせた。息が盛大に漏れて、2人は椅子に体を預けた。
「久藤くん……」
「うん?」
「大好き……」
「ボクも……風浦さんが大好きだよ……」
可符香と准は長いこと動こうとしなかった。
沈黙を破ったのは、どちらでもなかった。
「何回言ったらわかるんですか……」
本棚の向こう側から、人が頭を出して2人の痴態を覗いている。
目の下に隈をつくった大草さんが、怖いながらもどこか無表情な顔で2人を見ていた。
「ここはそういう場所じゃないですっ」