9月1日、金曜日の午後。宿直室で課題をしている奈美と晴美を残して絶望先生が向かったのは、望の高校でSC(スクールカウンセラー)をしている新井智恵先生のオフィスである。  
 もちろんデートなどではない。智恵先生が今年からメンタルクリニックを学校の近くで開設しているのだが、これから小節あびるの父親と待ち合わせ、そこへ向かう予定になっている。  
 
 実は、去年からあびるのDVが徐々に悪化し、何度か父親が学校に相談に来ていた。もちろん絶望先生とも面談をし対策を練ったが、いっこうに効果はなかった。  
 智恵先生も彼女を診ていた。が、最近になって、あびるのDVはかなり重症で、このままでは他者へも加害が及びかねないと判断した。  
 そこで、何かと制約の多い校内のSC室ではなく、自分のクリニックで本格的な治療をすることを提案したのだ。困り果てていた父親は、もちろん了承した。  
 
 今日は智恵先生が、担任である絶望先生も同席させ、今後の治療方針を父親に伝え、その後にあびるが治療を前提としたカウンセリングを受ける手筈になっていた。  
 
 「それでは、どうぞ娘のことを宜しくお願いいたします。娘は今日の夕方、動物園のバイトが終わってからこちらに寄るようなことを申していました」  
 「お任せください。お父様に快くご協力いただいて感謝します」  
 「糸色先生も、今日は娘のことでわざわざご足労頂き…」  
 「あ。いや、どうぞ気になさらないで下さい。自分の担任しているクラスの生徒さんのことですから…」  
 
 ここで智恵先生が望に声を掛けた。  
「では、糸色先生、学校関係の手続きの打ち合わせを…」  
 これを合図にしたかのように、あびるの父親が勤めに戻るために席を立った。教師の二人はまた何事かを話し合い始めた。  
 
 三人の打ち合わせの席では黙っていたが、智恵先生の見立てによれば、あびるの他害衝動を短期的に−−つまり高校在学中−−完全に押さえ込むことはもはや不可能な段階に達していた。  
 その衝動は、彼女の身近にいて、すべて受け止められる人に別の形に変換した上で発散することで抑えるしかなかった。それも可能な限り早く治療を始める必要がある。  
 
 ここまでを絶望先生に話すと、明日の最初のあびるの治療の前に、元々予定していた絶望先生の治療を行うことを手短に確認し、絶望先生も退散することにした。次の患者さんが待っていたからだ。  
 なお、絶望先生の治療に関しては、後ほど述べる機会があろうかと思う。  
 
 さて、では誰が彼女の他害衝動を受け止めるか? 上述のように、父親にはできなかった。  
 それなら彼女に好意を寄せている臼井ではどうか?もちろん駄目だ。  
 臼井は計算された苦痛なら快楽として感覚する事が出来た。だが、あびるの総てを受け止めるには、いかんせん若すぎる。  
 
(とすると…頼りないけど、彼を回すしかないわねえ)智恵先生は軽くため息をついて、明日の治療に思いを巡らせた。  
 
 一方、絶望先生は宿直室へ帰る前に、大型スーパーに寄った。食料品をまとめ買いするのと、課題を頑張っているであろう奈美と晴美に差し入れを買う積もりなのだ。  
 
 時が遡ること約半年、三月末近くの事である。智恵先生が、教員の飲み会で偶然、絶望先生の隣に座った。彼女は飲み会の席では寡黙で、決まって一次会で帰るのが常だった。(一次会で帰るのは甘党の望も同様である)  
 ところが、今日は智恵先生は服装こそいつもの清楚なフレアスカート姿で変わり映えしないものの、飲み会の間中、にこにこ微笑んでいて、愛想がいい。絶望先生は、改めて智恵先生を美人だと思い、ドキッとした。  
 智恵先生はお酒の方も、いつになくハイペースで進んでいた。日頃飲み付けない人が飲むと歯止めが利かなくなる。とうとう二次会にも行けない程度まで酔っぱらってしまった。仕方がないので、絶望先生が自宅まで送っていくことになった。  
 
 何とか自宅の場所を聞き出してタクシーで近所まで来たが、降りるべき頃には智恵先生は既にほとんど意識を失っていて、この綺麗な酔っぱらいを降ろすのに望は苦労した。  
 当然彼女一人では歩けないので、望が肩を貸し(というよりほとんど背負い)、どうやら智恵先生のマンションの部屋の前まで来た。  
 
 「さ、智恵先生、着きましたよ」彼女はまだ朦朧とし、鍵も出せない。  
 「あの、智恵先生ごめんなさいっ」このままでは隣近所の人が…と思った望は、智恵先生のハンドバッグからキーホルダーを探し出して何とかマンションのドアを開けた。  
 
 脱線するが、男性が女性のバッグの中身を見るのは何ともドキドキするものである。確か井伏鱒二のある短編のラストに、主人公が娘のハンドバッグの中身を見せて貰うシーンがあったと思う。  
 
 智恵先生が住んでいたのは、今風の小綺麗なマンションだった。が、感心する暇もなく、望は智恵先生をとりあえず奥へ連れていくと、偶然見つけたベッドに横たえた。  
 「このまま寝たのでは服が皺になっちゃいますから」  
半ば言い訳をするように声を掛け、望は智恵の上着を脱がせてハンガーに掛けた(スカートの方は遠慮した)。  
 智恵先生は眼をつぶってぐったりしている。  
「えーと、お水をもってきましょうか?」望は気遣うように声を掛けてみた。  
 
 店を離れて初めて智恵が口を開いた。  
「…冷蔵庫にポカリがあるから…持ってきて」  
「はいはい(酔っぱらいはもう…)」素直に望はポカリをコップに注いで持ってきた。  
 
 智恵先生の白いブラウスは胸元が大きく開いているタイプのモノだ。望は、ともすれば胸元に貼り付きそうになる視線を苦労してひっぺがしつつコップを手渡そうとした。  
 すると、  
「口移しで飲ませてぇ」と、甘く可愛くおねだりされた。   
 基本的にウブな絶望先生は、これで陥落した。  
 
 ドキドキしながらポカリを口に含み、智恵先生に口移しで飲ませる。もうそのまま唇は離さない。智恵先生が望の背に腕を回してきた。  
 望もおずおずと抱き返す。服越しとは言え、自分の胸の下で柔らかな胸が広がる感触がする。智恵先生から甘い香りが仄かに漂ってくる。  
 
 一度口を離し見つめ合った後、再度深く唇を貪り合う。そのまま、半ば智恵先生に引きずり込まれるかのように、望はベッドに突入した。  
 こんな素敵なヒトとどうしてこんなことに、と頭の片隅で思いつつも、望は行為に溺れていった。男女問わず、据え膳食わずは一生の恥なのである。  
 
 望は智恵先生の柔かで上等そうなブラウスとスカートを脱がした。やはり智恵先生は着痩せする質だった。スリップの上からは、彼女の素晴らしき巨乳が明らかになった。  
 それを深紅のブラで包んでいる。レースの飾りがたくさん着いている、アダルトな雰囲気満点のモノである。  
 
 絶望先生もあたふたと服を脱ぎ、何とか智恵先生からスリップを剥ぎ取った。深紅のブラの上から巨乳をむにゅむにゅっと軽く揉んでみる。弾力、柔らかさ共に素晴らしい乳だ。  
 「あ…」智恵先生は掠れた喘ぎ声を漏らした。  
 
 では下はどうか。こちらも深紅の、上とお揃いのパンツである。あそこに漆黒の蔭りが仄かに窺えるような気がして、何とも悩ましい。  
 試しに上から触ってみた。智恵先生の喘ぎ声が高くなった気がする。望は手をパンツの下に潜らせてみた。  
 
 なんと、中はもう湿っているではないか!指を蠢かせると、気のせいかくちゅくちゅっと微かな音を立てている気がする。しばらく優しくいじっていると、智恵先生の喘ぎ声はさらに大きくなった。  
 望は湿気を吸い始めていたパンツをパンストごと脱がせた。量は多くないが漆黒のヘアが露わになった。心なしか湿っている部分が灯りを反射しているようだ。  
 
 望は再び接吻をしながら智恵先生を左手で抱え起こし、右手でブラのホックを外した。見事な巨乳がついに姿を現した。  
 形が全く崩れていない完璧なフォルムで、何とも言えぬ品格がある。乳首は桜色で、男性経験の少なさを主張しているかのようだ。乳輪は小さく恥ずかしげであるのは言うまでもない。  
 望はホックを外した右手で智恵先生の華奢な身体を抱きしめながら、左手で全身をなぞり始めた。智恵先生も抱き返してきた。  
 
 豊かで柔らかな胸に顔を埋めてみた。しびれるような幸福感が望にわき起こってきた。大好きな玩具を与えられた赤ん坊のように、乳房をそれは熱心に手でこね、揉みしだいた。  
 あるいは指先で麓を輪を描くように触っていき、段々と乳首周辺へじらしつつ登っていったかと思うと、不意に親指で乳首を掠めたりした。  
 「ああっ」これにはたまらず智恵先生は声を上げた。喘ぎ声以外では初めて聞く色っぽい声だった。  
 
 望はまだ智恵先生の乳房を愛しげに慈しんでいた。やがて舌先で乳輪をゆっくりなぞるかと思うと、乳首をツンッとはじいてみた。軽くレロレロと往復させたかと思うと、唇で摘んだ。  
 軽く、次にチュウッと音を立てて吸った。智恵先生の声がますます情熱的になり、絶望を抱く手に力が籠もった。  
 胸がかなり敏感なようだ。もちろん、左右を均等に、満遍なく攻めてあげた。  
 
 ようやく、望は舌を全身に這わせ始めた。胸、腹、臍、茂みのすぐ上までゆっくりきた。そして肝心の部分は手でごく軽く触れるに留め、左の太股へと舌を逃がした。  
 膝の内側に軽く接吻すると、智恵先生の身体が一瞬ぴくんと震えた。どうやら隠れたポイントだったらしい。右膝の内側もポイントのようだった。  
 
 そのまま舌で右太股を舐め上がっていき、あちこちにチュッチュッと軽く音を立てて吸いつきながら、茂みの中に指を潜らせ、優しく何度も撫でた。  
 「はあっ…うぅ…」  
 智恵先生の悩ましい太股が一瞬開いたかと思うと、望の頭を締め付けてきた。それまでじらされた分、ソフトな愛撫でも余計に感じているらしい。  
 
 既に絶棒は痛いほど勃起している。  
(もう…このまま入れてしまいたいです…)  
 望は智恵先生の膝に手を掛け開くと、そのまま彼女の上に覆い被さっていった。  
 
 智恵先生の中は十分潤っていて、絶棒にむにゅむにょと絡み付いてくるようだ。動いていて誠に気持ちいい。  
 眼下で智恵先生の胸が、腰の動きにあわせて揺れている。くいっ、くいっと突きながら、また胸をいじってみた。  
 「あん、ああん」普段の彼女から想像できないような可愛い鳴き声が、さらに高くなった。  
 
 より深い挿入感を味わうべく、智恵先生の両足を抱え肩にかつぎ上げ、奥まで突いてみた。  
 「ああん。ああっ。ああ…」智恵先生の声が、何かを訴えるような調子になった。望も想像以上の快感にヒートアップした。  
 
 (こ、このままでは長く持ちませんよ…)  
 目先を変えて何とか長持ちをさせようと考え、体位を変えることを思いついた。…ならばバックだ。望は喘ぐ智恵先生に声を掛けた。  
 
 「智恵先生…四つん這いになってもらえますか」  
 「…智恵って呼んで…」のろのろと、それでも望の意を汲んで身体を動かしつつ、智恵先生が小声で言った。  
 
 「智恵…さん。行きますよ」望はどうしても他人を呼び捨てに出来ない質なのだ。とにかく、どうにかベッドに手を突かせ、腰を上げさせると、自分は膝立ちになり、腰に手を当てて一気に挿入した。  
 
 「はあっ」智恵先生は一瞬頭を反らした。  
 「あうっ…うっ…」(し、しまった…かえってバックの方が具合が良かった…とろけそうです!)  
 望は長持ちをさせるはずがすっかり当てが外れ、半ば自棄になって激しく腰を打ち付けた。胸に手を廻し、下からすくい上げタプタプ揉みしだく。  
 
 「はあっ…ああっ…いい……いいっ!」  
 智恵先生も、もはや声を殺すことなく、素直に快感を訴えている。顔を紅潮させ、ショートヘアをしきりに左右にうち振っている。  
 
 「お願い。…最後は…顔を見ながら…あぁっ」と上擦った声でリクエストしてきたので、  
「智恵…さん、かわいいですよ」望は智恵先生を再び組み敷くと、ずむっと貫いた。  
 
 (も、もう間もなくイきそうです、うぅっ)望は限界を越えた。歓喜のフィニッシュに向け、加速にラストスパートをかけた。  
 「ああっ…も、もう…」智恵先生は落城寸前である。  
 
 「わ、私も、もう…もう」望ももうすぐ限界を突破しそうであった。最後は外に出そう、と絶棒を抜こうとすると、智恵先生がそうはさせじと脚を絡めてきた。  
 「あぁっ…今日は、だ、大丈夫だから…中に…」と切迫した調子で訴えた。そして、絶棒全体にさざ波がまとわりつくような感触で包み込むと、ぎゅうぅっと締め付けてきた。  
 
 これにはたまらず、望はついに欲望を解き放った。  
「ああ…もう…もうイきますっ」  
 
どくうっ。どくっ。どく…  
 
 「ああっ。イ…イく…イくうぅっ!」奔流を受け止めた智恵先生も、シーツを握りしめ、身体を大きく反らして達した。  
 
 「はあ…はあ…」  
 望は最後の一滴まで出し切ると、脱力して智恵先生の胸に顔を埋めた。やがて智恵先生が優しく望を抱きしめてきた。  
 
 バスタブに湯をためつつ、二人はシャワーを浴びた。智恵先生は、大分酔いが醒めてきたようだ。スポンジや掌にシャボンをつけると、互いの身体を丁寧に洗いっこした。  
 
 洗いっこしている間に、バスタブに湯が満ちてきた。  
「さあ、お湯がたまりましたよ」絶望先生が声を掛けると、  
「先に入ってて」と優しい返事が返ってきた。  
 
 「そうですか?…じゃあ」望が素直に先に浸かり、中であぐらをかいた。しばらくすると智恵が望の膝に乗ってきて、望の肩に頭を凭れると呟くように言った。  
 「もう…上手すぎよ。…まさかイかされちゃうなんて思わなかったわ」何だか悔しそうである。  
 
 「おや、そうですか?…でもマグレかも知れませんから、もう一度確かめてみたいですね」望は智恵を優しく抱きしめ、やがて下から乳房をゆさゆさしてみた。絶棒がむくりと頭をもたげた。  
 智恵先生もそれが当たってきたのを感じ取ると、凭れていた頭を強く望に押しつけた。  
 
 バスルームでも愛し合った二人は、居間で休憩した。智恵がコーヒーゼリーを冷蔵庫から持って来ると、望に勧めた。  
 「どうぞ、召し上がれ。さっぱりするわよ」  
 「ありがとうございます。嬉しいなあ」こぼれんばかりの笑顔でぱくつき始めた。  
 
 「ところで智恵…さん付けででいいですか?…あの、今日は飲み会で…」さすがに、まるでウワバミみたいでしたね、とは言えず、  
 「智恵さんがお酒を口にするのを初めて見ました。何か嬉しいことでもあったんですか?」  
 
 智恵先生はにっこりすると、はじけた理由を話し始めた。  
 「実は、去年は博士論文を書くために女を捨ててたんですけど、おかげさまで論文の審査がうまくいったみたいで…」  
 「じゃあ博士になるんですか? 智恵さん凄いなあ! おめでとうございます」望は素直に感心し、我が事のように喜んだ。  
 
 聞けば、智恵先生は、新年度からは高校の近くに  
メンタルクリニックを開き、SCは非常勤で続けることにするのだという。  
 「命先生−−お兄さまね−−が校医をしてくださることになったんで、思い切ってチャレンジしようと思ったの」  
 
 思わぬ所で、さっきまで自分と濃密な時を過ごしていた人から自分の兄の名が出て、ちょっと嫉妬した絶望先生は、  
「それはいいことですね。応援しますよ。できることは何でもしますから、ぜひ声を掛けて下さい」と、いつになく安請け合いしてしまった。  
 
 これを聞いた智恵先生の眼が妖しく光ったのだが、望は気づかなかった。  
 
 
 次の逢瀬で、早速絶望先生は智恵の餌食となった。  
 一回戦終了の後、  
「ねえ、先生…率直に言って、先生はマゾですね」  
 
 「は? あ、あの…それは…!?」およそピロートークにふさわしくない、甘い雰囲気を木っ端微塵に打ち砕く一言である。  
 しかも何となく自覚していたが、努めて意識に上らせないようにしていたことをずばり指摘され、望はしどろもどろになった。  
 
 智恵先生によれば、今のままでは、ただでさえ強固なマイナス思考の望の生活全般に秘められたM性がマイナス面の影響を及ぼすことになる。  
 さらに恐ろしいことに、望のM性は、以前から望が抱えている自殺衝動を他害衝動へ変質させる恐れさえあるというのだ。  
   
 智恵の残酷な宣告を聞いて望は死にたくなった。  
「いやああああ! 法廷画は嫌です! プロファイリングされるのは嫌だああ! ワイドショーは嫌だああああ!」事件を起こした後、全国の人々に晒し者にされ嘲笑される自分がまざまざと想起された。  
 
 「大丈夫よ。克服する方法が一つだけあるわ」智恵は冷静に告げた。  
「へ!?」望はうっすらと涙を浮かべてさえいた。  
 
 「どこかで、Mの性癖を思い切り解放してあげればいいのよ」  
 「はあ…」望はよくわからないまま、曖昧に相槌を返した。  
 「そのためのプランやタスクなら、私のお手のものなの。そういう人を(患者とは智恵は言わなかった)ケアするのも、私の専門のうちなの」  
 
 「なるほど…」そうだ、智恵さんは何と言っても博士になるんだ。ならば、今智恵さんに甘えれば、自分を治してもらえるかもしれない…  
 ここまで考えた望は、智恵に自分を委ねる気になった。  
 
 「私、今ならあなたを助けられるわ。いえ、助けてあげたいの。いいかしら」智恵が望の目をじっと見つめてきた。  
 「ええ。…お願いします、智恵さん。私を助けて下さい」(ああ…智恵さんが深い眼で見つめてくれる…)智恵の真意がよくわからないまま、望は「治療」に同意してしまった。  
 
 「じゃあ、早速…」  
 たちまち望は深紅のロープで全身を縛り上げられた。もちろん全裸のままである。  
 「……あれ?」  
 
 こうして望は智恵の奴隷となり、Mを仕込まれることになった。  
 
 SMビギナーの望に対し、智恵はまず一通りの責めを受けさせてみた。  
 望は鞭や蝋燭や浣腸といったハード系のメニューよりは、言葉責め等のソフト系の責めに好んで反応した。  
 
 この点で、もう一人の奴隷である臼井とは違っていた。彼は鞭や蝋燭はもちろん、ボールギャグを噛まされたり、鈴付き選択バサミなど、各種のハード系責めにも嬉々として対応していった。  
 智恵先生の調教を受ける内、やや不安定だった彼の精神は安定し、それが学力に反映した。絶望先生と出会った当初には夢物語でしかなかった東大進学が、今や十分に合格を狙える位置にまで来ているののだ。  
 
 智恵はS女王様としてもプロの教育者であった。女王様は絶対的な超越者であること、女王様の身体に許可なく触れることは万死に値するタブーである等のM奴隷の心構えも望に徹底させた。  
 勿論、望が粗相をしたときにはためらわずに鞭が飛んだ。一方、調教が上手くいった場合には、「ご褒美」にえっちを許して下さることもあった。  
 
 臼井の精神が安定していったように、望の精神も着実に安定していった。時々揺り戻しがあるものの、自殺衝動は確実に減退していったのである。  
 
 9月3日、日曜日の朝。  
 つまり、前日に奈美・晴美・可符香と奴隷契約(?)を結ばされた上に霧にもお泊まりをねだられ、断りきれずに迎えた朝である。  
 
 「……」望が目覚めると、隣に霧が寝ていた。気持ちよさそうに寝ている。何とも寝顔が愛くるしい。飽きずにしばらく眺めていると、霧も目を覚ましたようだ。  
「…ん…んん……おはよう、先生…」  
 
 結局、霧とは夜に二回、朝にも一回濃厚なえっちをしてしまった。  
 
「…いや。このままでいて。行かないで…」  
 霧はさらに甘えてきた。先生がちょっと疲れているようなのと、いつも以上に優しかった、いや優しすぎたことに、女の勘で無意識に先生の危機を感じたのかもしれない。  
 
 だが今日は智恵先生、いや智恵女王様の調教を受ける大切な日だ。地球が爆発したとしても馳せ参じなければならない。  
 望はぎりぎりまで共に過ごした後、涙を飲んで霧の部屋を後にした。  
 
 智恵のクリニックに向かう途中(調教は専らクリニックの「特殊治療室」で受けるのだ)、昨日からの「女難」が望の脳裏をよぎった。  
 (昨日から、えーと……きゅ、9発ですか!…体が持ちませんよ!)  
 
 望は青くなって薬局に飛び込むと、ユンケルの一番高いのやら金蛇精やらエビオスやらを手当たり次第に買い漁り、スタバで流し込んだ。女王様に無断で精を放出したのがばれると、手ひどい折檻を受けるからだ。  
 
 だが、さすがに前日来の荒淫は隠しきれず、何より絶棒の硬度、充実度がいつもより決定的に不足していることから、たちどころに智恵女王様に見破られるところとなった。  
 
 「どうしてこの奴隷は私の言うことが聞けないのかしら」  
 ここ特殊治療室で、ボンデージルックに身を包んだ智恵は眼を怖いほど光らせ、大げさにため息をついてみせた。  
 
 「ああ…お許し下さい…」智恵の眼に恐怖を覚えた望は、必死で許しを乞う。だが智恵は冷たかった。  
 「どうやら、普通の折檻じゃ駄目みたいね。…今日は特別なお仕置きをしてあげる」  
 
 望はいきなり頭に智恵の黒のパンツを被らされた。続いて黒のブラで目隠しをされた。もう何も見えない。  
 そして特殊治療室横のバスルームに連行された。お湯はもう貯めてあるようだ。  
 
 仰向けになりM字開脚、そして膝を抱え上げ、アヌスを両手で広げて待機せよ、という指示が智恵から下された。望はまた浣腸かと思ったが、そうではなかった。  
   
 「あれ、もうガバガバに緩んでるじゃない。いつアナル開発したの?」望の局部にシャワーを浴びせてから覗き込んだ智恵は、呆れたように言った。  
 望は黒のパンツとブラで目隠しされたまま真っ赤になった。  
   
 だが、ここで正直に「昨日女生徒たちに寄ってたかって開発されました」と答えることは、さらなる折檻を意味する。絶対に口を割るわけにはいかない。黙っていた。  
 ただ、智恵先生は、おおよそのあらましを既に可符香から聞いているのは読者所賢の想定内であろう。  
 「まあいいわ。アナル開発の手間が省けたから。今日はもう一つの部分を開発してあげます」  
 
 直腸洗浄の後、智恵は望を再び特殊治療室のベッドに横たえると、アヌスに、そしてその奥の方までローションを塗り始めた。そのひんやりとした感触に望の身体と絶棒がぷるるっと震えた。  
 「もう一つの部分って…!?」ローションを塗られている間も、智恵女王様の言葉が耳に残っていた。だが、ここでしばらく智恵が中座し、望の疑問は放っておかれることとなった。  
 
 やがて智恵が何かを手にして戻ってきた。それに誰かを伴ってきているのだが、もちろん望は気づかない。  
 「待たせちゃったわね」望に声を掛けると、智恵は先ほど塗ったローションが乾いていないかチェックし始めた。  
 「…大丈夫ね。それじゃあ」ここで先に手にしていた器具を望のアヌスにあてがった。  
 
 その器具は、大きな帽子掛けのような形とでも言おうか。壁に沿う方の長辺が10センチ強はある。帽子をかける方の短辺は5センチもない。各辺はなだらかに、そして不規則にうねっていて、端は丸くなっている。  
 特徴的なのは、短辺の反対側に出ている「しっぽ」だ。しっぽはネズミ花火のように、はたまた豚のしっぽのようにくるっと一回転している。  
 
 要は全体としてTの字に似ている。そのTの上の画の左半分が、直線ではなくてくるりと丸まったしっぽになっていると思っていただきたい。  
 そして、器具全体はメタリックシルバーに鈍く輝いている。強化プラ製だろうか。柔らかくはなさそうだ。  
 
 さて、今まさに、銀に輝く長辺が望の後ろに侵入しようとしていた。  
 
 「ひいっ…」望は得体の知れないモノをアヌスにあてがわれる恐怖に怯えた。  
 だが、智恵は淡々と説明し始めた。  
 「大丈夫。これは、エネマグラといって、元来は性機能をを回復させるために、前立腺に刺激を与えるためのものよ」  
 
 ここまで説明すると、口調が女王様のものにシフトした。  
 「生徒さん達によると、最近エロスへの興味が薄れているようだから、その治療も兼ねてるのね。  
 アナル開発の手間が省けた分、今日は徹底的にエネマに慣れてもらうから覚悟なさい」  
 「ひいっ!」(また後ろが責められてしまう!いやああああ!)  
   
 怯える望望の意思に反して、エネマグラが段々と望に飲み込まれていった。  
 「あああ…なんですこの感触は! 嫌だ、嫌あああ! 抜いて下さい」  
 内蔵を鷲掴みにするような圧迫感だ。息が詰まり、身体を動かせない。内部の重圧に耐えられず、望は叶わぬ希望を口にした。  
 
 だが、もちろん智恵は相手にしない。  
 「暴れてはだめよ。エネマグラは慎重に扱わないと、腸壁が傷つくおそれがあるの。それに今抜くと…」  
 ここで智恵が実際に少し抜いてみせた。途端に別の感覚−−排便感−−が生じ、望は慌てた。  
 「あひゃあ!? よ、汚れちゃいます。智恵女王様、離れて」  
 
 智恵は気にせず、再びエネマグラを押し込んできた。  
 「はあああああっ」  
 「大丈夫よ。さっき中を綺麗に洗ってあげたでしょ」  
 智恵は押し込み、抜きを繰り返しつつ、徐々に奥まで挿入していき、突然手を離した。するとエネマグラは自然に飲み込まれていき、やがて端が奥の目的地−−前立腺−−に自然に到着した。  
 
 「あひゃあああ!うわアッーーー!」突然目も眩むような強い快感が望の体の底から起こった。  
 智恵はエネマグラを優しく左右に振った。  
 「あい、あう、あいあうああああっ!」真っ暗な視界を、極彩色の火花がスパークした。下半身全体が痺れて動けない。  
 いつの間にか絶棒がそそり立ち、多量の透明な涎を噴いていたのだのだが、望には自覚する余裕はなかった。  
 
 「どう?エネマの味は? これが前立腺刺激の快感なのよ」智恵が楽しそうに教えてくれた。  
 「では、奴隷はとくとエネマの味を噛みしめなさい」  
こう言うと、智恵はエネマ責めを再開した。  
 
 「あうあうあふああああーーーっ」望の声が特殊治療室に響いた。  
 エネマを少し抜く。再び押し込む。手を離すと自然に奥に到達。三種の感覚のコラボレーションが望を襲った。智恵はエネマの抜き差しにもバリエーションを持たせ、望が動きを予測出来ないようにした。  
 
 そのうち、エネマを抜かれ、押し込まれる感覚の双方までも別種の快感だと感じられるようになった。  
 加えて、そそり立ち胸を張る絶棒を見た智恵から  
「まあ、そんなにエネマが気持ちいいの? 初めてエネマを使われたのにこんなによがってるなんて、この奴隷は救いようのない変態ね」と容赦ない言葉責めも加わる。  
 
 こうして望はエネマで責められ、初めての快感を堪能した。だが一方、昨日大活躍した絶棒の方はまるっきりのノータッチである。泣きたいほど気持ちいいのに出させてもらえない。これはまさに折檻の一種といえた。  
 
 「気持ちいい? イきたいの?」智恵女王様の問いかけに声も出せず、首を縦に振る望だったが、智恵はエネマを操る手を休めずに続行した。  
 
 「あらあら、はしたないわねぇ。こんなにエネマで気持ち良いのに、前でもイきたいなんて。贅沢よ」智恵女王様は、わざと哀れな奴隷をじらす。  
 「ああ…お願いします、智恵女王様…あひゃうっ…どうか、イかせて…下さ…あぁっ」望は切れ切れに懇願した。  
 
 「そう…じゃあ、今からいくつか質問するから、ちゃんと答えるのよ。ちゃんと答えたら、イかせてあげる」  
 智恵女王様は、仰向けの望に手で膝を抱え上げさせ、それをぐいっと開いて望の秘部を丸見えにすると、エネマに手を掛けたまま、どこか楽しそうに尋問を始めた。  
 
 「奴隷は、自分のクラスの女生徒をいつもどういう風に思ってたの? まさかイヤラシい目で見てたんじゃないでしょうね」  
 「は、はいっ……私、…私は…いつも女生徒たちをイヤラシい目で見ていました!」思わず答えてしまった。ここで智恵の隣にいた人物が、大きく目を見開いたが、口は閉ざしたままである。  
 
 「そう…それじゃあ、いつかみんなとえっちしたいと思ってたのかしら?」智恵は尋ねながらエネマ責めを続行した。  
 「わひゃあっ! はい、いつか皆とヤってやろうと思ってました!」これを聞いて、くだんの人物は眉を顰めた。  
 
 「まあ、呆れたセンセイだこと。ひょっとして、私ともえっちしたかったの?」  
 「はい、智恵…うひゃあうぁっ!…初めてお見かけした日から、…あうぁっ!……いつか智恵女王様ともヤってやろうと思ってました!」  
 
 「まあ怖いこと…じゃあ、奴隷はもうエロスに興味ないってことはないわね? 大好きなのね?」  
 「はい、私はエロスにとっても興味があります!見て知りたくてたまりません! ああっ」  
 
 「そんなにえっちなセンセイじゃ、生徒や親御さんたちは心配じゃあないかしら?」  
 「あああ、生徒の親御さん、智恵女王様、どうもすみません!私は教師失格、人間失格ですぅ!」数え切れないほどの打ち上げ花火を眼前の宙に感じ取りながら、望は大声で答えてしまった。  
   
 「よく言えたわね。じゃあ、その情けないドジで間抜けな亀にご褒美をあげるわ」  
 智恵女王様は、今の答えに満足したらしい。望の足を下ろすと、絶棒に手を伸ばし、亀頭を指で優しく包むと、しゅりしゅりしゅりりっと「ご褒美」を与え始めた。  
 
 執拗なエネマ責めで極限まで高ぶっていた絶棒は、智恵女王様の柔らかい手の刺激であっけなく終末を迎えた。  
 「はうっ! い、いい! ああ、もう、もう…ああ」  
 「気持ちいい? さあ、イくときにはちゃんと言うのよ」  
 「はいっ…あ、ああ、ああああ、イ、イく、イきますううぅ」  
 
 手による刺激は短時間だったが、その快感はすさまじく、まるで腹から下が溶けて無くなったかのようであった。昨日の今日にも関わらず、どくどくどくっと後から後から放出しては、智恵女王様の手と自分の下腹部を汚し続けた。  
 
 ここで太宰の著作の名が出た。  
 絶望先生は無意識のうちに自己を太宰と結びつけて考える傾向がある。そうすることで少しだけ自己のコンプレックスが解消され、つかの間の魂の平安を得ることが出来るのだ。  
 
 これを人為的に結びつけさせるためには、絶望先生の口から自発的に太宰に関するキーワードを吐かせねばならない。  
 今回のプレイでは、無事そのキーワードが出た。今日の智恵先生の治療は成功した。これで絶望先生をまた少し自殺衝動から解放することができたのである。  
 
 
 望は一度バスルームで洗われ、再びベッドへ連れてこられた。そして、待機のポーズを取らされた。  
 (ちなみに、メス奴隷の待機ポーズは、膝立ちになって両手を頭の後ろで組むことだが、オスの場合は先ほど望が取ったように、仰向けに寝て手で膝を抱え上げ、それを開くのだ)  
   
 ここで智恵がこう言った。  
 「実は今度本を書くことになって、猛烈に忙しくなるから、奴隷をそんなに調教できなくなるの。だから、新しい女王様に身柄を引き渡します」  
 「ええっ! あの、あの、もう智恵女王様には調教していただけないのですか?」望は心底びっくりし、このまま自分が放っておかれるのでは、と不安になった。  
 
 必死な様子の望を見て、智恵はくすっと笑った。  
「大丈夫よ。私はずっとここにいるのよ。書き上げたら、またたくさん調教してあげるわ。  
  実は、さっきから新しい女王様に調教の様子を見学して貰ってたの。…新しい女王様にもしっかり奉仕するのよ。さ、返事は?」  
 
 「はい、新しい女王様、宜しくお願いします」望は従順に挨拶した。  
 新しい女王様は、奴隷の挨拶に答える代わりにエネマをいじった。望が悶絶している内に、目隠しが解かれた。  
   
 望はあたりを見回し、智恵の隣にいる新しい女王様を見て驚愕した。そこにいたのは……  
 
 

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