「木津さん,ちょっと…」  
 
爆発の後,ようやく後片付けを終え,2のへの皆が教室に戻って行きつつあった。千里も,早くシャワーを浴びるべく更衣室に戻ろうとした最中,望が千里を手招きした。あとで宿直室まで来てほしいとのことだった。  
 
「もう,シャワーも浴びてないのに…」ぶつくさ言いながらも,千里は鉢巻まで巻いたまま,宿直室へ向かった。なんだかんだ言っても,望の頼みなら断れないのだ。惚れた弱みというやつだろうか。もっとも,千里がそれを認めるかどうかは別だが。  
 
「失礼します。」千里が宿直室の戸を開けて入ってきた。  
「すみませんね。よく来てくれました。さ,どうぞ」望はまださっきの服装のままである。汗だけは拭ったらしく,青いハンドタオルがちゃぶ台に置いてあるのが目に留まった。  
 
 
千里が部屋の奥まで入ったかと思うと,いきなり望が後ろから抱きついて来た。  
 
「ちょ,ちょっと,いきなり何をするんですか。」千里はびっくりした。まさか絶望先生が校内で不埒な振舞いに及ぶとは予想だにしなかったからだ。  
だが,望は抱きつく手の力を緩めない。あろうことか,自分の腰を千里のヒップにぐいぐいと押し付けてきさえした。  
 
「昼間に投げキッスをたくさん喰らったからでしょうか…どうにも我慢できないんですよ。それに」いつになく積極的な望は,言葉を継いだ。  
「あなたがいけないんですよ。袴姿がそんなに凛々しいんですから」そういうと,千里の全身を撫で回し始めた。  
 
「い…言っていることがわかりません。…うぅっ…」千里は抵抗しかけたが,望は彼女の腰に手を回し,袴の紐ををするするっと解いてしまった。そして太腿や微妙なところに手を這わせた。  
 
「そんなに凛々しいと,つい支配されたくなってしま…もとい」うっかり本音を口にして,慌てて言い直した。  
「たまには手を出してみたくもなります」  
言い直しを取り繕うように,指の速度を速め,すうっとパンツのゴムを潜らせた。  
 
「そ,そんなことしたら,責任をとって,けっこ…ひあっ。」もう指が秘所に侵入して来た。  
「結構なんですか? では先生も喜んで」望は秘裂の入口で指を妖しく蠢かせた。  
「違いま…あ,ああっ。…」いきなりの激しい指遣いに,千里の芯は解されていった。  
 
「おや? どうしましたか? …へええ,木津さん,かなり敏感なんですね。先生気付きませんでした」いつしか,千里の若叢から,微かな水音がしている。  
「そんな,い,いやぁ。……」的確に快感を育むテクニックに翻弄され,千里の全身から抵抗する力が徐々に抜けていった。  
 
そのまま窓枠に手をつかされる。足元に絡まっていた袴をすっと足から抜かれる。そのまま下着もするするっと下ろされる。あれよあれよという間に,千里の恥ずかしい所全部が露わになってしまった。  
「いやあっ!」  
「そんな声を出すと,外に聞こえてしまいますよ。 いいんですか? まだ体育祭の後片付けをしている生徒たちもいるでしょうし,こちらを通るかも…」  
 
「ああ…ひ,卑怯よ。……うぅっ。」千里の声が小さくなった。込み上げてくる快感を懸命に堪えようとする千里。  
だが,望はそんな千里を容赦なく,かつて講座で習得したフィンガーテクニックで翻弄した。裾から背中に手を差し入れ,背骨をつつつーっと指先でなぞったかと思うと,不意に胸元に手を差し込んで乳首を摘んだりする。千里はたまらず,時折ぴくぴくっと体を震わせた。  
 
「木津さん,あなた,本当に敏感ですね…本当はいつもえっちしたくてたまらない,えっち大好きっコさんじゃないんですか」  
「あぁ…。そ,そんなこと,ありませ…あうっ。…」  
首を振って快感に抗ううちに,つい項が見えたのを望は見逃さず,軽くちゅっと音を立てて吸い付いた。  
「いやあっ。…」千里は上半身を仰け反らせた。  
 
「やはり,項もポイントでしたね…日頃隠れているところだから,攻められると免疫がありませんね」  
「はううぅ。…」今の項攻めで,千里はすっかり抵抗しなくなった。それに乗じて望は下半身に照準を合わせることにした。  
 
千里の後ろに跪くと,綺麗なヒップラインと,健康な女子高生らしい脚線美をしばし鑑賞した。そして,千里の両足首をしっかり掴んで開かせると,千里の太腿に舌を這わせ,ゆっくり舐め上げ始めた。  
 
しばし呆然としていた千里は,太腿を舐め上がってくる舌の感覚で,望の目標がはっきり分かった。何とかそれだけは避けようと,千里は最後の抵抗を試みた。  
「や,いやっ…汗臭いから! まだシャワー浴びてないんです! お願い。ちゃんときれいにしてから…。」  
「先生はこのままの方がいいんですよ」望はかまわず舌を進めた。菊のあたりを彷徨っていた舌先は,前に廻って茂みの下にずいっと侵入してきた。  
 
「う…うあぅ。…あ。…」  
本当なら難なく切り抜け,望をきっちり半殺しの目に合わせてやりたいところだが,今日はなぜか抵抗できない。湧き出る快感のせいで,目の前を火花が飛び交う。  
 
いつもは自分が主導権を握ってきっちり営みを行うのだが,今日は自分が攻められているせいだろうか,それもいつもは受け身な望が積極的に攻めてくれているからだろうか。何かが千里の感覚を狂わせていた。  
快感を堪えようにも,今は時折望の頭を太腿で挟む位しかできない。  
 
「じゃあ,時間もあれなので,そろそろ…」いつのまにか自分も袴を下ろした望の絶棒が,ぬぷっと入って来た。  
「ああああ。…ひああっ。」  
 
「ん……」望はしばらくぶりの千里の瑞々しい感触を味わうと,いきなり腰を使い始めた。  
「あっ…あっ。…先生,は,激しい。……いいっ。」  
先ほど十分解されているので,千里も痛みなど感じず,直ちに燃え上がった。  
 
「声を立てると誰かに聞かれちゃいますよ」また望が釘を刺す。  
「うっ…あうっ。…」千里は必死に声を立てまいと我慢する。だが望は,そこを声を挙げさせようと,よけいに腰を使って来た。  
 
激しく前後に抜き差しするかと思うと,深くずっぽり刺してそのまましばらく放置し,急に腰をひねってぐりぐりと絶棒を回転させる。千里は思わずうめいた。  
「ひあ。…うう,うぅ。……」  
 
望の手も,すっかりはだけた懐から侵入して胸を触ったり,前に回って叢を梳き起こしたり若芽を撫でたりして,何とか千里に声を挙げさせようと画策している。千里はこちらも懸命に堪えるものの,つい声をあげてしまう。  
 
「あ…あう。…」  
「気持ちいいですか?」  
「…知りませんっ。…あ。…」  
 
堪えている千里の耳元で先生が囁く。  
「先生は素直な娘さんが好きなんですよ」また若芽に手を伸ばし,今度は軽く押しつぶした。  
「はあっ!……気,気持ち…ああっ……気持ちいいです。…うあっ。」  
 
千里はたまらず本音を吐いた。くちゅっ,くちゅっと,千里の女性自身が喜びに溢れて鳴いている音が漏れていることも気付いていないようだ。  
「先生もとっても気持ちいいですよ」  
 
望は絶棒を繋いだまま,千里の右足を大きく上に抱え上げると,深く激しくグラインドし始めた。不安定な姿勢なのに,いつもと違う角度が新鮮な快感の荒波を呼び起こし,千里をさらに翻弄した。  
「ああ…うぁあっ。…」  
 
白い鉢巻が揺れる。  
黒髪がさらさらっと揺れる。また項が見え隠れしている。  
「あまりあなたが可愛いから,先生そろそろイきたくなりました」望も堪えきれなくなったのか,千里の足を下ろすと腰を掴み,ラストスパートに入った。  
 
「あ,激しい。…あっ…あっ。…いいっ。」声を立ててはいけないと思いつつも,あまりの気持ち良さにどうしても声が漏れてしまう。いつしか,自分が上になって先生を責める時よりずっと早く絶頂が訪れようとしていた。  
 
「ああ…はあぁ。…うぅ……あぁっ。…」千里は窓枠をぎゅうっと握り締めた。千里の中も,きううぅぅっと絶棒を甘く締め上げ,蜜を絡ませてきた。  
「う,うっ…もう,…木津さん,もう……あうっ」こちらも限界に達していた望は,ついに千里の中で達し,絶棒が勢いよく樹液を迸らせた。  
「ああああ。……イ…イくぅぅ。…」奔流を中で感じた千里も,久しぶりに絶棒と共に迎える絶頂へ駆け上っていった。  
 
 
しばらくして望が離れると,千里はまだ窓枠に手を突いたまま,へたり込んだ。どうやら,あまりの快感に腰が抜けたようだ。銀杏が見える窓から,心地よい風が吹き込んでいる。  
 
望は懐紙でさっと絶棒を拭ってから,樹液が逆流し始めている千里の秘所も拭こうとした。  
「あ…いや。……」千里が弱々しく呟くが,無抵抗である。  
「いいんですよ。たまにはさせてください」  
「ああ。…恥ずかしい。……」自分の始末は自分でしたい千里だったが,今日はどうしようもなかった。望のなすがまま,女性自身を隅々まで丁寧に優しく拭われていると,  
 
―――ガラッ!  
 
突然,宿直室の戸が勢いよく開いた。  
 
ハッと振り返った望の目に入ったのは晴美の姿だった。  
 
「もう後始末終わりました?…って,まだ途中みたいね。それにしても本当に無用心ですね,先生。鍵も掛けてないなんて」  
既に制服に着替えた晴美が後ろ手にドアを閉めて入ってきた。もちろん鍵を掛けるのも忘れない。  
 
一方,揃って下半身丸出しの二人はどうか。望は金縛りにあったかのように動けない。欲望に浮つくあまり,鍵を掛けることなどすっかり失念していたのだ。千里はまだ事態が飲み込めていないようだ。  
 
やがて,どうやら晴美らしいと気が付いた千里が,すっかり腑抜けになった声で言った。  
「…その声は晴美? いやあ,…見ないで。…」まだ絶頂感が体奥に燻って動けない千里が,晴美には滅多に見せない自分の弱み,それもよりによってこんなシーンを見られたせいだろうか,いつになく弱々しく哀願する。  
 
だが晴美はわざと呆れたような声を掛けた。  
「あらあら,なあにそのはしたないカッコ…千里らしくもない」  
「ああ,言わないで。…」いつもの二人の力関係がすっかり逆転している。  
 
「相変わらず敏感なんだから。昔から千里ってくすぐったがり屋だったし,あちこちに感じるポイントがあるもんね。その分じゃ,一番感じる項も探し当てられたんでしょ」  
「……」図星を指された千里は答えられなかった。気のせいか,秘め事の余韻で赤いままの顔色に,さらに赤味が増したようだ。  
 
「い,いつからいたんです?」望がおそるおそる晴美に尋ねた。  
「さっきシャワーを浴びてたときに,いつもなら真っ先にシャワーを浴びてるはずの千里がいなかったから,もしかしたらって思ってこちらに急いで来たんです。  
私がここに来たときから,宿直室の前は誰も通らなかったし,安心していいですよ。部屋の外には声は漏れてなかったから……あんまり」  
 
「ああ,絶望した! 自分の浅ましさと迂闊さに絶望した!!」  
「絶望するのもいいですけど…あ,千里,鉢巻借りるね」こういうと,晴美は千里の鉢巻をすっと解くが早いか,それで望の両手首を縛った。  
「ふ,藤吉さん…いったい何をなさるんで!?」  
 
「ふふっ」晴美は不敵な笑みを浮かべた。  
「二人が散々楽しんでるのを聞きっ放しだったんで,いい加減私も疼いて我慢できません」こう言いながら,晴美は望の肩にすっと手を回すと,足を先生の足に絡ませ,そのまま畳の上に望を押し倒した。  
そして,やや力を失って半勃ち程度になっている絶棒を手にすると,いきなり口に含んだ。  
 
「あ,いやっ…今したばかりから! まだシャワー浴びてないんです! お願い。ちゃんときれいにしてから…」慌てた望の訴えを耳にすると,熱心に絶棒をモグモグし始めていた晴美が,ちょっと口を離して言った。  
 
「先生,それさっき千里が言ってた科白じゃないですか?」  
「晴美,いや,止めて。…私のがついてて,恥ずかしい。…」千里も横から言った。が,  
「私はこのままの方がいいの」晴美は構わずに,再び絶棒を口に含んだ。そして日頃の読書の成果を遺憾なく発揮し,猛然と絶棒を味わい始めた。  
 
「う…うあぅ…あ…」晴美の駆使する舌のテクニックにはたまらず,絶棒は見る間に屹立した。どうやら,晴美はBL本の中でもとびきり実用的なものを読み込んでいるらしい。望以外にテクニックを実地訓練する相手がいないにも関わらず,おそるべき熟達度ではある。  
 
 今度から藤吉さんには交当番を遠慮してもらったほうがいいですかねえ,などと望が快感の狭間でぼんやり思っていると,晴美が言った。  
「さぁて,昼間に先生が言ってた『さらにおぞましき物』って何なのか,じっくり確かめてみようかなっと」晴美は望の縛った両手を万歳の格好をさせ,先生の胸をはだけると,男の癖にやけに滑らかな肌の手触りを楽しみ始めた。  
 
「…中2の時の傷よーし」傷痕にチュウゥッと吸い付いてキスマークをつけた。  
「…高1の時の傷よーし。あの人と違って,ここは毒に侵されてないようね」縛られた手の傷痕にも口をつけた。  
「じゃあ,その後の傷はどこなのかなー」晴美の指が望の肌を妖しく滑った。  
「ひうっ…うあぁっ…」  
「声を立てると誰かに聞かれちゃいますよー」どこかで聞いた科白で晴美は望を追い詰めていった。  
 
「う……うぅ…」  
「あれぇ?……先生も,千里と同じくらい敏感で感じやすいんですね。」  
「…い…言わないで下さい…」  
「先生…前はエロスに興味がどうとか言ってましたけど,本当はいつもえっちしたくてたまらない,えっち大好きっコじゃないんですか」  
「そ…そんなことありませんっ」  
「じゃあ,確かめてあげます。…あれえ? ここは腐海の毒に侵されて,ものすごく腫れてますねえ。これは今すぐ清めないと…」と言いながら晴美が絶棒を自身に収めて来た。  
 
「あ…あ……うあぁ…」  
「よーし,すっかり入っちゃいました。じゃあ,動きますよ」  
こう言うと,晴美は望の上で卓越したボディバランスを披露し始めた。  
 
 結局晴美にこってり搾り取られた望は,  
(これで1勝1敗ですか…)  
などとぼんやり思っていた。するとそこで,ピロパロと望のケータイが鳴った。メールが届いたようだ。  
 
既に手の戒めは解かれていたので,のろのろとケータイを手にして発信者を確かめた。芽留からだった。  
 
『おいキモハゲ  
さらにおぞましき物ってなんだ  
よ 写して送ってこい それと  
も,今度オレが写してやろうか(゚∀゚)』  
 
「……とりあえず返事しときましょうか。『み…た…ら…う…な…さ…れ…ま…す…よ…。…お…こ…と…わ…り…し…ま…す…』っと。で,送信」  
 だが,送信をし終えたとたんに新たなメールが届いた。  
 
「もう,しつこいですね」眉を顰めかけた望は,発信者を見て固まった。だが文面を読むと,大きな溜め息を一つつき,そそくさと出かける支度を始めた。  
 
「? 先生,用事できたんですか?」まだ服をはだけたままの千里が尋ねた。  
「ええ。ある意味,先生の将来を握っている人からの呼出しなんで,行かない訳には…」  
「?? 甚六先生が飲みに誘ってきたの?」事情がわからないでいる晴美も尋ねた。  
「…もっとコワい人です…あんまり言うと危ないので,とにかく行ってきます」  
 
 
夕方,望は閑静な住宅街にある一軒の家に着いた。呼び鈴を鳴らすと,すぐにドアが開いた。  
 
「さあ,どうぞ」出迎えたのは,あびるである。  
「ありがとうございます。お父さんはご在宅じゃあないですか?」それから小声で付け加えた。「あの,今日は調教の日じゃないですよね?」  
「父は今日は残業で遅くなるんです。だから遠慮しないで下さい。」それからあびるも小声で付け加えた。「ええ,今日は違います。……残念だけど」  
 
一応のルールという訳でもないが,調教の場面ではないので,あびるは特にしっぽを強要する素振りも見せないし,女王様として振舞う様子もない。  
 とりあえず,あびるから勧められるままに,望は壁一面にしっぽが生えた部屋で,図々しくもお手製の夕食をご馳走になった。  
 
 「いやあ,ご馳走さまでした。小節さん,料理が上手ですねえ。今すぐお嫁さんになれますよ」  
 望としては何気なく言った誉め言葉だったが,あびるは別の意味で気に入ったようだ。幾分口元が緩んでいるのがその証拠だ。  
 「お粗末さまでした。じゃあ,お茶入れますね」  
 
食後のお茶を啜っていると,あびるがじっと望を見つめてきた。そして,何気ない様子で聞いてきた。  
「先生,ちょっと尋ねたいことがあるんですけど,いいですか」  
 そうら本題に入ってきたな,と望は身構えた。  
「…ええ,いいですよ」  
 
「先生,昼間私のツッコミを無視しましたね。あれはどうしてだったの?」  
「うっ……」望は固まった。答えられないでいる望を,あびるは相変わらずじっと見つめたままだが,いくぶん目に冷ややかな光が加わった。  
「……やっぱり,しっぽ付けますか?」  
 
「いえ,いえ,いえ! 今日は勘弁して下さい」慌てた。あれを付けるには心の準備が要る。今日は勘弁してほしい。望は必死に言い訳を考えた。  
 
「あの,一応私にも立場という物がありまして,あそこで不用意に答えると,…そのう何と申しますか,…職を失いかねない内容だったんですよ。失業したら,一族の面汚しだってんで,おそらく糸色家からも勘当されるでしょうしね。」  
だんだん望は拗ねたような口調になった。  
「そうなったら小節さん,あなた私を養ってくれますか?」  
 
あびるは一瞬,自分の部屋で首輪をして鎖で繋がれている望を想像したが,それは隠したままで答えた。  
「そう…なら,まあ,いいです。……先生と交くんなら何とか養ってあげますけど」  
最後のほうは小声で独り言のように付け加えた。そして,またずばりと切り込んでた。  
 
「あと一つ。先生のそのキスマーク,取れないままなんですか」  
「はうっ……」またしても返答に詰まる質問をされ,望は固まった。まさか,晴美が面白がって元のキスマークの痕の上から丹念に全部付け直したとも言えないではないか。  
 
「あの……まだ取れないんですよ。……は,はは」  
「ふうん……」あびるは,おかしいなあとでも言いたげに小首を傾げた。これはまずいことになりました,と望が思っていると,いきなりあびるは自分の上着をはだけ,肩から胸を露わにした。  
 
「ちょ,ちょっと…」目が吸い寄せられそうになるのを必死で堪えて顔を背けようとする望に,あびるは言った。  
「ここを見てください」  
 
恐る恐る目を遣ると,あびるが左胸のすぐ上あたりを指差していた。見ると,自分のよりは薄いものの,キスマークらしき痣が残っている。  
「これ,取れないんです。責任を取れとはいいませんから…」ここまで言うと,あびるは望に抱きついてきて,低く甘い声で言った。  
「先生が清めてください」  
 
「小節さん…」まさかの成り行きに動けないでいる望に,あびるはさらに言い募る。  
「実は…何か変なんです。身体が火照っちゃって,我慢できないんです」望を抱く腕に力が篭ってきた。  
「…分かりました。私でよかったら。実は先生もそうだったんですよ」望は覚悟を決め,優しく抱き返し,痣の上から口を付けた。  
 
 あびるの部屋に移動すると,二人は女王様と奴隷,としてではない,至極ノーマルな男女のえっちをした。相変わらず素晴らしい巨乳に溺れた望は,今日三人目の相手であるあびるとも,無事に同時にエクスタシーに達することができた。  
一息ついていたところで,あびるに電話が入った。父親が,もうすぐ帰るから,と知らせてきたのだ。  
 
 電話の後あびるの家を後にした望は,いったん宿直室に戻った。遅い時間だったが,昼間からの疲れを癒す為に,いつもの銭湯に出かけた。キスマークを他人に見られたら恥ずかしいなどとは言っていられないほど疲れていて,明日に差し支えそうだったからだ。  
 
すっかりリフレッシュした帰り道のこと。  
「あ,よかった。まだやってましたね」馴染みになった屋台が出ていることに安心した望は,早速暖簾をくぐった。先客はいない。  
「こんばんは。天ぷらそばお願いします」  
「はいよ! で,そちらのお嬢さんは?」  
「?」自分は一人だがと思う間もなく  
「私も天ぷらそばをお願いします」と声がした。まといである。  
 
「い…いたんですか?」  
「ええ,ずっと。…って,今日は,爆発の後は銭湯の行き帰りだけですけど」望は冷や汗をかいた。  
 
 
「ご馳走様でした」「ご馳走様でした」  
「まいどありぃ!」  
 屋台を離れると,並んで夜道を歩き始めた。晴れた秋の夜空である。月が綺麗だ。  
 
「常月さん,今日はもう遅いから帰りなさい」  
「……つれないんですね」  
「いや,つれないとかじゃなくてですね…」困った様子の望を見て,まといはくすりと笑った。  
「…くすっ。じゃあ,今日は帰ります。でも夜道が怖いわ。家まで送って下さい」  
 
 夜道が怖いならストーカーなんかするもんじゃありません,などとも思ったが,確かに最近は何かと物騒な世の中になっている。一応自分の受け持ちの,そして自分を慕ってくれている生徒に万一のことがあってはいけない。  
「わかりました。じゃあ,お家まで送りましょう」  
「わあ,嬉しい」  
 
カラ,コロ。しばらく並んで歩いていると,まといが腕を組んできた。  
「ちょ,ちょっと!」  
「ふふっ…せっかくなんだから,いいでしょ?」  
邪険にするのも大人気ないので,望はそのまま腕を組まれた格好になった。  
 
「……こうしていると,私たち夫婦みたいですね」  
「ちょ,ちょっと!…意識しちゃうじゃないですか」  
「あら,意識してくれるの。先生,カーワイイ」  
「……年上の男をからかわないで下さい」  
 
二人は相変わらず腕を組んでいる。気のせいか,望の腕がまといの胸に当たっているようだ。自分が中等部か高等部の頃ならたまらなかったでしょうね,と思っているうちに,まといの家の近くまで来た。玄関に灯りが点いているようだ。  
   
「あ,先生,そこです。どうもありがとうございました」  
「どういたしまして。じゃあ,お休みなさい」望がこう言うと,まといが望の目を真っ直ぐ見つめて来た。  
「…お休みのキスは?」  
「これ! からかわないでって言ったでしょう」  
 
「からかってません」こう言うと,まといはすっと後ろ向きになり,背中から望に寄り掛かってきた。そして,望の右手を掴むと,自分の懐から胸へ導いた。  
 
「!」望は声が出せなかった。さすがにまずいと思い,腕を抜こうとしたが,まといがそうさせじと必死に押さえる。やがてあきらめた望が抵抗を止めると,まといは望の掌を自分の左の乳房に被せた。  
 
「今日は家に親がいるからここまでだけど,これは帰りを送ってくれたお礼とでも思ってください」そう言うと,乳房に被さっている望の手の上からさらに押さえた。望の掌からは,まといのやわらかい胸の形,体温,鼓動が一体となって伝わってくる。  
 
「……これが私よ。先生,この感触,覚えていてくださいね。今日は他の女の人のを触っちゃダメですよ」こう言うと,まといは振り向き,望の首に手を回すと唇を求めてきた。  
今度は望も拒否せず,二人は情熱的に唇を貪り合った。  
 
 どちらからともなく唇を離すと,まといは無言のまますっと自分の家に入っていった。望はまといの後姿をじっと見送って,彼女が家の中に入ってもしばらくそこに佇んでいた。が,やがて二階の灯りが点いたのを潮に,ゆっくりそこを後にした。  
 
 深夜の宿直室。交は当番の家にお泊りに行って留守だが,素敵なお客様が来ていた。霧である。テレビは深夜映画を流している。洋画のラブロマンス物らしい。部屋の隅に,布団がもう敷いてある。  
 
ふと思いついて,望は霧に尋ねてみた。  
「ねえ,小森さん」  
「なあに,先生」  
「昼間言ってたじゃないですか。働く気はあるよって」  
「うん」  
 
「どんな仕事をしてみたいとか,あります?」こう望が聞くと,霧はみるみる顔を真っ赤にした。  
「…うん,あるよ」恥ずかしそうに言った。  
「へええ,どんな仕事ですか? よかったら先生に教えてください」  
「………それはね……」霧はますます顔を赤くした。心なしか目許が潤んでいるようだ。  
 
「それは?」  
「…それは……先生とずっと一緒にいられる仕事なら…いいなって…」ここまで言うと,霧は望の胸に顔を埋めてきた。  
「小森さん…」望はそっと霧の肩を抱くと,やがて耳元でそっと囁いた。  
「ありがとう。先生,とっても嬉しいですよ」  
嬉しいという言葉を耳にした霧がはっと顔を上げると,望が唇を近づけてきた。  
 
テレビの中ではベッドシーンが始まっていた。これからこの部屋でも甘いラブシーンが始まるのは間違いなさそうだ。  
 
 
布団では,望が霧を愛撫していた。  
 霧の豊かな胸を揉みながら,望はふと風呂からの帰りがけのまといとの事を思い出した。  
(常月さんとの約束が守れな……そうか,もう12時を廻ってるから,約束を破ったことにはなりませんね)  
 
こう思い至ると,白い双球の頂点を代わる代わる口に含んだ。  
「ああっ…あっ…あんあんっ」  
霧は望の頭をかき抱いた。  
(やっぱり,小森さんは色白ですね…それに…一番敏感でしょうか)  
そんなことを考えながら,霧の全身に指と舌を這わせていった。  
   
 
 やがて望は霧の両足を抱え込むと,ゆっくり侵入していった。  
「ふあ…ふあああん……」霧はこの瞬間が好きだった。自分の愛する人と一体になれることを実感できたからだ。  
「じゃあ,動きますよ」望が律儀に声を掛けて来た。  
「うん……いいよ…」  
 
望が優しく動くたび,霧は可愛い声で鳴いた。切れ切れに,  
「あ…先生,先生……嬉しい,あんっ…嬉しい……あぅ…幸せ,幸せ…」とうわ言のように繰り返す。  
「小森さん…先生も…うっ…嬉しいですよ」望も次第に高ぶっていく。  
   
 
 テレビの映画が終わる頃,二人は揃ってクライマックスを迎えた。  
明日は学校は休みである。このまま二人が宿直室で夜を明かしても大丈夫なのだろう。外は静かである。秋の虫の声が控えめに響いている。  
 
やがて宿直室の灯が消えた。望の腕枕で,霧が幸せそうに寝息を立て始めた。  
 
――完――  
 
 

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