望は追い詰められていた。  
 
 前から左右から可愛い教え子が迫ってくる。 千里が、まといが、奈美や芽留が、さらに後の方にも迫ってくる。  
 笛を手に高々と掲げてじりっ、じりっと間合いを詰めてくる。  
 背後には木立が聳え、退路はない。  
 
 切羽詰まった望は叫んだ。  
「待って! まだ私は教師としての通過儀礼を受けていません!」  
 
「教師としての通過儀礼?」千里が不審がった。  
「そっちを先に……」  
 
 だが、所詮その場限りの言い逃れである。  
 望のいつもの悪い癖だった。  
 後からさらに悲惨な目に遭うのがわかっていながら、つい目先の苦難をやり過ごそうとしては、口が勝手に動いてしまうのだった。  
 無論、今回も例外ではない。  
 死に勝るとも劣らない恐怖と屈辱、それに刹那的な快楽の一滴が望を待ち受けていた。  
 
        ☆  
 
 夜の2のへの教室。教室には明りが灯っている。  
 
 ガラッ…ぽすっ  
 
 望が戸を開けると、ラーフルが頭上に落ちてきた。戸に挟んであったらしい。  
 
 教室内には、昼間、交の七五三に参列してくれた女生徒たちが揃っていた。普段は望を囲んでいるコ達である。ただ、マリア、カエレ、愛、霧はいない。千里・奈美・可符香・あびる・芽留・まとい・晴美の七人の、いわば絶望ガールズである。  
 
 ラーフルを頭に乗せたまま、望が皆を見渡して爽やかに言った。  
「ようやくみなさんの担任になれた気がします」  
「これかよ!」千里が呆れたように突っ込んだ。教師の通過儀礼として、もっとハードなことを想像していたらしい。  
 
「ええ。これ、教師になった時からの憧れだったんですよ。じゃ、そういうことで…」  
 頭上にラーフルを乗せたままじりじりと後ずさっていた望は、くるりと後ろ向きになったかと思うと一目散に逃げ出した。  
 
「あーっ、逃げた!」可符香を除く皆が口々に叫んだ。  
「待ちなさい!」  
「謀ったな、シャア!」  
「卑怯者ぉ!」  
「しっぽの刑よ、しっぽ!」  
『逃げるなハゲ』  
 
 当然、望の逃亡は未遂に終わった。教室を出てすぐの所にロープが張ってあり、それに引っかかって無様に転んでしまったのだ。  
 
「ほわっ…あいたたた」  
 
 打ち所が悪かったらしく、転んだまま立てないでいる望を引き起こしながら、可符香が言った。  
「こんなこともあろうかと、先生の逃げそうな方角にロープを張らせてもらいました」  
「くうぅ…」  
 
 かくて望は皆にいとも易々と取り押さえられ、首輪手錠腰縄付きで連行される羽目になった。  
 
「通過儀礼を受けずに逃げようとするなんて」  
「呆れた奴ね」  
「さあ、きりきり歩け!」  
「とほほほほ…」  
 
 右腕を千里、左腕をまといに取られ、首輪につけた鎖を可符香が引っ張った。腰縄を握っているのはあびるである。奈美と晴美は後ろから付いていく。芽留はこの様子を写メで撮影している。  
 
 望が連れ込まれようとした先は、何のことはない、学校の好意で仮住まいをさせてもらっている宿直室である。だが、猛烈に嫌な予感がした望は、この後に及んでまだ下手な言い訳を試みた。  
 
「あのー、今日は交がいるので…」  
 もちろん、可符香に即座に否定された。  
「交クンは、今晩は倫ちゃんと一緒ですよぉ。本人から聞きましたから」  
「うっ…」  
「まー、まだ嘘ついて誤魔化そうだなんて、往生際が悪いわね」奈美が非難した。  
「はうー…」  
 
 勝手知ったる宿直室である。絶望ガールズは望から奪った鍵でさっさと入ると、望も部屋に連れ込み、首輪の鎖を入り口近くの柱にくくりつけた。  
 
「私はお散歩中のワンちゃんですかぁ!」  
「はいはい、先生はそこで大人しくしてて下さいねー」  
「ぶるる。さすがに夜は冷えるわね。」  
「ストーブつけようか」  
「うん。つけよう、つけよう」  
「あっ、もう炬燵が出てるよ」  
「ラッキー。入ろう入ろう」  
 
        ☆  
 
「ねえねえ」奈美が言った。「先生って、実質的に一人暮らしみたいなもんじゃない。だから、一人暮らしの通過儀礼してるかチェックしてみない?」  
「いいわねえ」  
「しましょう、すぐしましょう」  
 早速、冷蔵庫チェックが始まった。野菜を液状化させていないか検査するのである。  
 
        ☆  
 
「あれぇ?」  
 奈美の目論見は空振りに終わった。  
 ネギ、大根や白菜、葱など、野菜は申し訳程度にしかなかったし、しかも新鮮なままだったからである。  
 あとは豆腐やら納豆やら干物などが申し訳程度に入っていただけだった。  
 
 その代わり、大きめの箱や風呂敷包みがいくつも棚に並んでいた。  
 
「何かな?」  
「出してみよっか」  
「先生、中見せてね」  
「あ、あ…」  
 望が煮えきらないでいる内に、次々と炬燵に並べられた。  
 
がさごそ。ファサ…  
 
「わぁー!」  
「すごーい!」  
『旨そうだな』  
 手の込んだ和菓子やケーキの詰め合わせが姿を現した。どれもこれも、熟練した職人の手作りだと一目で分かる高級品である。  
 
「先生、これどうしたの?」  
「一人で全部食べるにしては量が多いみたいですが」  
 
「和菓子は、倫から貰ったんです。お稽古の時の余りが出ちゃって、日持ちしないからって」  
「ふーん」  
「倫ちゃん凄いなあ」  
「ケーキは私が見繕ったんですけど、まあ両方併せて今日交に付き合って下さった皆さんへのお礼を、と思ってたんですよ」  
「そうだったんですか…」少しは済まなさそうな様子で千里、あびる、奈美が言った。  
「先生…」  
「じゃあ…」  
「遠慮なく頂いちゃいますねっ」明るく晴美が言った。  
「そっちですかっ!」  
 
        ☆  
 
「先生、これは?」  
 まといが別の包みを開けてみた。  
 世界のチーズの詰め合わせとクラッカーのセットである。  
 赤、黄色、白と色とりどりのチーズのパッケージの中から、牛やら山羊やらおばあちゃんの笑顔やらが親しげに微笑みかけてきている。  
 
「チーズとクラッカーねえ…」  
 奈美は思案顔をしていたが、可符香が  
「あ、分かった!」  
と声を挙げ、再び冷蔵庫を開けた。  
 カルピコに加えて、今年のボジョレーヌーボーが数本、しっかり飲み物の棚に入っていた。  
 
「やっぱり…」  
「先生、お酒弱いのに」  
「う……だって、こういうのは季節モノじゃないですか。今雰囲気を味わっとかないと」  
「そうね。実に先生は正しい。季節の旬の物はきっちり味わうのが大事です」  
 珍しく千里が望を誉めた。だがこう言うときはろくな事がない。  
「先生に敬意を表して、季節モノのワインもしっかり私たちで頂きます」  
「え? そ、そんなぁ」  
 
        ☆  
 
 たちまちコップが出回り、コルクが抜かれた。  
ギリッギリッギリッ……ッポン! ッポン!  
 
 赤、白と注がれたコップを手に、可符香が音頭を取った。  
 
「それじゃあ、先生の一人暮らしにカンパーイ!」  
「カンパーイ!」  
「通過儀礼にカンパーイ!」  
「カンパーイ!」  
「あああ、買ったばかりのボジョレーヌーボーが…」  
 
 絶望ガールズによるボジョレーの宴が始まった。望の目の前で、チーズ、ケーキ、和菓子が着々と消費されていった。こういう時は誰もダイエットが…などとは口にしない。  
 
        ☆  
 
 ワインのボトルが空くにつれ、会話が弾むと共に、皆の顔色がほんのり赤くなった。  
 ただ、千里とまといは冷戦状態である。  
 場がいくら華やいでいても、ここでは一言も会話を交わしていないことに読者諸兄は注意されたい。  
 
 ここで、また可符香が宣言した。  
「えーっと、では一人暮らしの通過儀礼が終わって場も盛り上がってきたところで」  
「終わったところで!」すかさず晴美が合いの手を入れる。  
「男子の通過儀礼をしたいと思いまーす」  
パチパチパチパチ  
「いいぞー…ヒック」  
「ヒューヒュー」  
『ヤレヤレー(゚∀゚)ノ』  
 一斉に拍手と歓声が飛んだ。  
 
「男子の通過儀礼その一!『家に来た好きな女子に、エロ本がないか家捜しされる!』」  
パチパチパチパチ  
「キャー」  
「いいぞー! やれやれー…ヒック」  
「ヒューヒュー」  
 
 望は慌てた。  
「い、いやあなた、何言ってるんですか。そそそ、そんなのありませんよ。離して下さい!」望の顔色が赤く、そしてすぐに青くなった。かなり後めたい事があるようだ。  
 
(あああ、仏様、どうかアレは見つからないままでありますように、アーメン!)  
 必死に神仏に祈る望だったが、あっさり可符香が暴露してしまった。  
「押入の左下の棚にある段ボールを見て。密使から報告が上がってます」  
「風浦さん!」  
 
 早速絶望ガールズは、押入をスパンと勢い良く開けると、力を合わせて段ボール箱を引きずり出し始めた。  
「そーれ!」ズルズルッ。 「そーれ!」ズルズルッ。  
 
 たちまち大き目の段ボール箱が白日の下に晒された。  
 
「わーい!」  
「そーれ開けちゃえ〜〜」  
 
        ☆  
 
 箱の中から、どさどさっと畳に広げられたのは、大量のギャグ漫画だった。  
 
『ピンク・ポンク』『コキでか』  
『1・2のワッハ!!』『むしまる!』  
『すすむ!パイレーシ』『憂&美依』  
 
 望の嗜好は幼年誌、少年誌、少女誌を問わないようだ。  
 
『稲子が逝く!!』『おとんは心配症』  
『つる姫ぞよ〜!』『パラリロ!』  
『黒の悶々組』『マゾヒスティック19』  
『ヂャッピーと愉快な仲間たち』  
 
        ☆  
 
「ほおおおお」  
「ふぅ〜ん」  
「へえぇ〜」  
「なるほどぉ」  
「な……何ですか」  
 皆、一様にニヤニヤして漫画と望を交互に見ている。  
 『気分は形而下』『恋しいさやちゃん』『自然水族館』『冷凍庫物語』といった4コマ漫画も含まれているせいか、千里でさえ上機嫌で望を見つめている。  
 
「だ、だって面白いものは仕方ないじゃありませんか!」  
「ふふっ…何だかんだいっても、先生はギャグ漫画の主人公なんですね」珍しくあびるが漫画の話題でコメントした。  
「主人公の務めとして、他のギャグ漫画を研究していらっしゃるんですね」可符香が後を継いだ。  
「!…そ、そんなんじゃあありません!…カァッ」望は頬を染めてプイッと横を向いた。  
 
        ☆  
 
「箱にはまだたくさん残っているわよ。」千里が箱をチェックして言うと、  
「どれどれ?」晴美がすぐに反応した。  
 
 続いて箱の下の方から出てきたのは、感動モノであった。  
『せ・ん・せ・い……』『デヴィルマン』  
『星の瞳のジュリエット』『笑う堕天使』  
『跳ぶ教室』『むちゃんこ教室』  
『花の慶二』『日の出の王子』  
『浅い夢見た』『小さな茶会』  
『美少女戦士セーラーヌーン』  
 
        ☆  
 
「セーラーヌーンって、先生…」  
 さすがに奈美は一歩引いたようだ。  
 
『ヌキに代わってオシオキよってか? おめでてーな、オイ』  
 芽留が容赦ない言葉を打った画面を望に突きつけた。  
 
「くっ…だって感動したものは仕方ないじゃありませんか」  
「ふふっ…先生、何だかカワイイ」まといがにこにこして言った。  
「!…カァッ」  
 
        ☆  
 
「さ、もういいでしょう。今日はこのくらいにして」何とかこのままアレがみつからないでいれば、との思いで望はまとめにかかった。  
 
 だが、その願いを晴美が打ち砕いた。  
「待って。奥の方の、ここから陰になってる段ボールには何が入っているのかしら?」  
「!!そそそ、それはその、何と申しますか、あっそうそう、交、そうだ交の絵本ですよ。もう見なくなったやつ。『ひとまねこざる』とか『ぐりとぐら』とか。だからもうい」  
 
「えー、懐かしい」  
「見たーい」  
 ここで、動物の話題なのになぜか反応しなかったあびるが口を挟んだ。  
「ちょっといいですか。交クンが絶望先生の処に来た頃はもう絵本なんて読まなくなってる年じゃないんですか」  
「!」痛恨の一撃である。望は一言も反論できなかった。そんな望の様子を見て取った千里が、  
「…怪しい。検査します。」と宣告した。  
「そそ、そんなあぁ」  
 
「「「そーれ!」」」ズルズル「「「そーれ!」」」ズルズル  
 
たちまち2コ目の段ボール箱が引きずり出される。  
 
「「わーい!…あれ?」」  
 
 奥にあったにしては、最近開け閉めした形跡がある。  
 
 早速開けてみると、表一面に『EP.』のDVDがずらっと並んでいた。  
 
千里やあびるが口々に言った。  
「まだ観てなかったんですか?」  
「もう一旧さんに返しちゃったらどう?」  
「はあ…じゃあ、勇気を出してそうします。だから、そういうことでもういいでしょう。ね。ね」  
「下にあるのは何ですかぁ?」可符香が箱に手を伸ばし、『EP.』を外に出し始めた。  
 
「ああっ、下はダメ! 見ないで! ね。お願い!」もちろん可符香は手を緩めるどころか、動きを加速させて『EP.』の下に隠してあったDVDも躊躇わずに外に出してしまった。  
 
バサバサバサ…カタカタッカタッ  
 
        ☆  
 
「こ、これは…」一同が息を呑んだ。  
ケースの表には、カラフルな水着を身につけているスタイル抜群の女の子が、得意げにポーズを決めている物ばかりだったからだ。  
 
 気のせいか、芽留や千里の眉がつり上がっている。  
 
『Bump×2 原美貴恵』  
『RISA Session 工藤理紗』  
『98% 寺田由紀』  
 
「何これ…18禁のマークはないから、アイドルのDVD?」毒気を抜かれたように、晴美が呟いたのをきっかけに、絶望ガールズが思い思いに口を開いた。  
「先生、こんなの買ってるんですか?」  
「あっきれたぁ」  
「職業柄、やばいんじゃないですかぁ」  
『ヘンタイだな』  
「はううぅ………」望は隠しておきたかった秘密を暴露され、グウの音も出ない。  
 
 食い入るように色取りどりのケースを見比べていた千里が、やがて一本のDVDを手にすると望を詰問し始めた。  
「ちょっと! 先生! これはどういう事?」望の鼻先にカバーを突き出した。  
「へ?」そこでは、白いビキニを纏った黒髪の女の子が、柱を背にして悩殺ポーズを披露していた。『[17]Seventeen 本村百合』とタイトルが入っている。  
 
「毎日毎日ぴちぴちの17歳、生の女子高生に囲まれていながら、私たちと同じ年のコのDVDを買うなんて! 何て汚らわしい!」  
 
 ここで千里の目が例の魚目にシフトした。  
「ひいっ」カタストロフィの予感に望は怯えた。  
「そんなにこのコがいいんだったら、同じような格好にしてあげるわ。」  
「ひいぃ…」恐怖の余り、望は舌の根が乾き、ろくに返事も出来なくなった。  
 
「へーえ。白のビキニね。…まあ、カワイらしいこと。先生はビキニが好きなのね。じゃあ、先生もよけいな上着は取っちゃいましょうねえ。」  
言葉は穏やかだがいささか乱暴に望の衣服を剥いだ。望はたちまち下帯一本だけにされてしまった。  
 
「どれどれ。えーと、柱を背にして、右手を頭の上で、左手を腰の処で縛る、と。」  
「えーと、あのう、そのDVDは縛ってないんじゃないでしょうか」遠慮がちに望が抗議したが、千里は無視して望の手を柱に縛りつけた。  
 
「それにしても…」魚目に邪悪な輝きが増してきた。  
「そんなに女性に節操のないのは、…ここか!」いきなり二本指で目を突いてきた。  
「ひいっ!」指先が望の眼鏡を直撃しガチッと音がしたが、互いに怪我は免れた。  
 
「ここか!」次に千里は胸に手刀をあびせると、左の乳首を捻りあげた。  
「はうっ……あ、あいたたたタターーーイー!」  
 望は一瞬息が詰まった。が、すぐに敏感な所を襲う痛みに泣き声をあげた。  
 
「それとも、ここかぁ!!」千里は最後に望の股間をわし掴みにしたが早いか、力任せにぎゅううっと引っ張った。  
「ひゃあああいたたた…痛いイタイ痛い!木津さん、離して!離してぇ!」  
 
「ここか! ここか! ここなのかぁー!?」掴んだまま望の秘部をグリグリグリッと乱暴にこねくり回した。  
 
「ああああああ、勘弁して下さい〜〜〜!!」  
「どれもこれも大きなおっぱいのDVDばっかり…どうせ私は大したことないわよ! 貧乳で悪かったなあ、オイ!!」  
握りしめた指や爪がぎりぎりと望の絶棒や宝珠に食い込んでいく。  
 
「痛い、潰れる、痛い! くく、食い込んで痛いです。つ、つ、潰れ、潰れる! 痛いですったらぁ」気のせいか、ぐりっ、ごぎゅっという何かが潰れるような嫌な音がしてくる。絶え間なく襲ってくる激痛と自分の男性性が破滅しつつあるという実感で望は泣き叫んだ。  
 
        ☆  
 
──悔しい! 悔しいけど、こんなにも私は先生のことが好きなのに…──  
 
 望には自分しかいない、と千里は自負していた。  
 
──それなのに、当の絶望先生はどうだ。  
 いっこうに自分のことを唯一のオンナだと認めてはくれない。  
 先生だけのモノにする印をこの身に刻もうとはしない。  
 いや、時折刻んでは睦言を囁いてくれる。  
 だが、その舌の根も乾かぬうちに他の女生徒にまで手を付けている。  
 あろうことか、こんな幻影にうつつを抜かしてさえいる。ならばいっそのこと、私が先生に刻印を……私だけの先生に…!──  
 
「…えーい、こんなに私を虐める憎いヤツは、いっそのこと、すぱっと切っちゃおうかしら。  
 そうしたらすっきりするかしらね。」  
 千里は不意に手を離すと、望の筆立てから大きなハサミを持ち出してきた。  
 そして絶棒を握りしめ根本にハサミを当てるや否や、ゆっくり力を込め始めた。ステンレスの刃に絶棒の姿が鈍く映った。  
 
「いやああああああああああああ! 阿部定はいやああああああああああああ!」  
 
「千里ちゃん、ちょっと」可符香が千里の耳元で何やら囁く。  
 魚目になった千里の暴走を止められるのは可符香しかいない。  
「ごしょごしょ……通過儀礼……ごしょごしょ」  
 
「………ふ〜〜〜〜ーー……なるほど…じゃあ、まあ、しょうがないわね。」  
 どこをどう言いくるめたのか、あれだけ荒れ狂っていた千里が何とか矛を収めた。  
 絶棒に当てられていた刃がすぅっと離された。  
 巻き込まれて切れた望の陰毛が数本、はらはらっと畳に落ちていった。  
 
 恐怖の余り涙目になっていた望は、この絶体絶命の危機から救ってくれた可符香に一瞬感謝した。  
 だが、これが浅はかだったことをすぐに思い知らされることになる。  
 
        ☆  
 
「…とりあえず、DVDは全部没収します。  
 どんな中身なのか、みんなできっちり検査します。」  
「そ、そんなぁ〜…まだどれも1回か2回しか見てないのに…」  
「1回見れば十分です!」  
 
 もう暴走しそうにないと見て取った晴美がフォローした。  
「みんなの家で交代で観ましょうね」  
 可符香と奈美も続いた。  
「わーい」  
「いいぞぉー…ヒック」  
「とほほほほ…」  
 
 もっとも、今再生されなかったのは望にとって不幸中の幸いだったかも知れない。  
 千里の手にしていたものには、開始早々肉付きの良いTバックのヒップやらビキニブラで揺れる豊かな胸が、これ見よがしに映っているからだ。  
 
        ☆  
 
「あれ、このジャケットは?」まといが拾い上げたのは、アニメ絵のゲームソフトであった。  
 横から覗きこんだ晴美が解説した。  
「『普通のメイドたん』? これ、奈美ちゃんを祭り上げたときに作った、18禁のエロゲームじゃない?」  
「いやーー! ヒック…なんで先生が持ってるんですかぁ」  
「しかも開封してあるわ。きっと先生、プレイしてるわよ」あびるが冷静に分析した。  
 
「下品です! 先生!」奈美は真っ赤になって、先生の胸板を両の握り拳でポカポカ叩き始めた。  
「先生のばかばかばかぁ! えっち! ヘンタイ! ヒック」  
 
「暑いわね。ストーブ消しちゃう?」  
「そうね、それより」可符香が皆を集めてひそひそ密談していたかと思うと、次々と服を脱ぎ始めた。  
「ちょ、ちょっと皆さん! は、恥ずかしくないんですか!」望は慌てた。  
「先生になら別に見られても何とも思わないよ」あびるが全く動じることなく言った。可符香や奈美も相槌を打つ。  
「ねー」  
「そうよねー」  
「ううう…またそんなこと言って…」目の前に広がる下着姿の女子高生の団欒、というある意味では男なら一度は夢見る光景を正直に楽しめず、望は悲しんだ。  
 
「この箱、まだ中に何か入ってるね」  
「もうね、止めましょうよ。小節さん」  
「この際だから全部出し切ってスッキリしましょ」晴美は中の本を取り出し始めた。他のコ達も進んで協力したのは言うまでもない。  
 
「藤吉さんも! 本当に駄目ですって。ああみんな、止めて、お願い。止して〜〜!」  
 
 だが、全員の流れ作業で望の致命的な秘密がどんどん暴かれていった。  
「それそれそれ〜」  
「はああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!」  
 
        ☆  
 
 DVDの下には、また漫画の単行本がぎっしり詰まっていた。  
 だが今度は、表紙が刺激的な図柄の女の子達ばかりである点で、先程のコミックスとは様相を異にしていた。  
 見れば、黒いカバーに扇情的なイラストの表紙の文庫本もちらほら混じっている。  
 
『僕の空』『To rub ル』『やるきは騎士』  
『電隷少女』『イけない!ルナ先生』  
『きっこう仮面』『AH!!透明人間』  
『は〜とエッチいづみちゃん』  
 
        ☆  
 
 ペラペラ頁をめくっていた絶望ガールズ達は、さすがに戸惑っているようだった。  
 先のDVDで予想はしていたものの、晴美を除いては初めて目にする物ばかりだったからである。  
 
「どれどれ…何これ、み〜んな裸ばっかり!」可符香が驚いたような表情を見せた。  
「本当だぁ」まといも呆れながら頁を繰っていく。  
「よく少年誌でこれだけ揃えたわねえ。一部青年誌のもあるけど」晴美がやや見当外れの感想を漏らした。  
「先生ったら、私達の陰に隠れてコソコソとこんなの読んでるのね」あびるが動物の載っている頁を探しながら望を追い詰める。  
「先生、不潔です! ヒック」熟読、というより凝視しながら奈美も詰る。  
『このムッツリスケベが!!』芽留までもが頬を染めながら望に画面を突きつけてきた。  
 だが、よく見ると、望を撮影する合間にこっそり手元の頁も撮影しているようだった。  
 
「こんなの、飲まなきゃ恥ずかしくてまともに見てられないわ。」  
 千里がグビッとワインを呷ったのをきっかけに、一同がまたワインを口にし始めた。  
 アルコールに弱い奈美を筆頭に、絶望ガールズの目が据わってきた。望をじろっとねめつけては手元のコミックスに目を落とし、時折コップを呷る。  
 
「見ないで下さいっ! 見ないでっ! 見るなあぁーー!!」  
 教職にある者として絶対に隠し通さねばならない自分の秘密を、あっさり教え子、それも可愛い女子高生達に暴かれてしまった望は、恥ずかしさに身を捩った。  
 
 機は熟したり、とみたのか、可符香が再び宣言した。  
「ここで、男子の通過儀礼その二!ですよぉ。『隠していたエロ本を好きな子に見つけられ、目の前で朗読される』」  
「イエーーイ」  
「いいぞー」  
「ヒューヒュー」  
 
 すっかり酔っぱらった絶望ガールズは、望の珠玉のコレクションを手にすると、依然拘束されている望の目の前で、任意に開いた頁を感情を込めて朗読し始めた。  
 
 トップバッターは晴美である。  
「『止めて。私は婦人警官よ』  
 『警官である前に、婦人なのです』」情感たっぷりに演じた。  
 
「ほぉーー? じゃあ私たちは、女子高生である前に女子なのよ。」千里が望の脇腹を突っついた。  
「ほーら、好きな女子にこんなことされて、嬉しくないかしら〜」千里の動きにヒートアップしたまといは、下帯の上から絶棒をさわさわし始めた。  
「ひぁあああぁ…」  
「ほら。ほらほらぁ。」まといの手の動きを見て取った千里は、胸をくすぐってきた。  
「どうかしら?」負けじとまといも動きを加速させた。しまいには指の邪魔だからと褌を外してしまい、直に撫でてきた。  
 
「ちょっと! 止めて、許して!! いやあぁぁ!」絶棒がむくむくっと頭をもたげ始めた。これは年上の男性として知られたくなかった。  
 だが望の魂の叫びは無視された。  
 
        ☆  
 
 次は可符香の番である。  
 手にしているのは、最近望が書店を数件ハシゴし、苦労して手に入れたばかりの一冊である。  
 それを知ってか知らずか、可符香はわざと嘲るように言った。  
「なぁ〜に、これぇ? 最後の方、触手がうねうねしてますねぇ」  
「どれどれ?…ヒック」奈美が覗きこんだ。  
「しっぽ?」あびるも目を遣った。  
 
        ☆  
 
「『断るなら 同じクラスの女が一人… 大変な事になるかもねェ〜』」可符香も迫真の演技を魅せた。  
 
「やだぁ、縛られてるわよ…ヒック」  
「自分が縛られるのが好きだからってねェー」自分の番を終えた晴美が軽口を叩いた。  
「ねー」まといも相槌を打つ。  
「わ、私は縛られるのが好きなんではありません!」望は懸命に否定した。だが、  
「へぇー、じゃあどんなのが好みなんですか?」と晴美に反問されると、  
「はうぅ…」望は答えに詰まった。おまけに、  
 
「それに、ここはそう言ってないみたいですが?」あびるに裏筋を撫でられては絶棒を反り返らせてしまうので、まるで説得力がない。  
 
「えーと、続きがありますよぉ。  
 『フフ… それにしても ララァに劣らずこの娘もなかなか…』」  
「あらあら、男のコは大変ねぇ。」千里も望を子ども扱いして相槌を打った。  
 
「ねえ、こっちにも…ヒック…触手いっぱい出てるよぉ」奈美が別の漫画を手にして言った。  
「やっぱりしっぽが好きなのかしら」  
「こっちのもよ。」千里も、別の単行本の中で頁の中を所狭しと蠢く触手を見つけたようだ。  
 
「機械から出てる触手に捕まってるのは、…えっと、…ヴィデオガァルあいねぇ…」千里が見ているコミックスを横から覗きこんだ晴美が言った。  
「ひょっとして加賀さんが触手に捕まってるのを想像してたの?」まといが訊ねた。  
 
「は?」  
 突然、愛の名前が出されて望は戸惑った。  
 だが、女性の名に敏感に反応した千里が、  
「何ですって!? 先生、どうなの? ほら!」と望に近寄ると、やや元気な絶棒を握りしめてぐいぐい扱いた。  
 
「ち、違います! あぁ、はあぁっ」  
 望は先程点けられた快感の火を何とか小規模に保とうと必死に否定した。すると、  
「え、やだ!」千里が突然手を離した。  
「先生の触手の先から何か出てきたわ!」  
 
        ☆  
 
 見ると透明な粘液が絶棒の口から滲み出ていた。先走り汁であって、男性の生理上仕方のないものである。  
 
 だが、絶望ガールズは容赦なかった。  
 
「いやぁー、不潔!」  
「不潔って、晴美ちゃんの本にも描いてあるじゃないですかぁ。ところで先生、指でも気持ちよかったですかぁ?」  
「私といふものがありながら…他人の指で気持ち良くなるなんて!」  
「先生、早すぎませんか?」  
「えっち! ヒック」  
『ヘンタイだな』  
「…ああ、死にたい…」  
 
        ☆  
 
 三番手は奈美である。先ほど手にしていたのとは別の本を選んだようだ。  
 
「『私が何とかしなきゃ、このコ死んじゃう〜ん!』ヒック」語末を鼻声で色っぽさを演出しようと工夫したようだ。  
 
 千里、まといが矢継ぎ早に追及した。  
「誰が死んじゃうって?」  
「自分のこと?」   
 
 可符香やあびるも追及した。  
「ルナ先生に教わりたかったんですかぁ?」  
「えっちな事も、教えるより教わる方が好きなの?」  
 
「先生、ルナ先生にこんなことされたかったの?」  
 千里とまといが望から離れている隙に、晴美が絶棒や珠袋をいじっては、その感触を念入りに確かめた。  
 冬コミに少しでも生かすつもりなのだろうか。  
 
「はぁあああぁぁっ…」晴美の思わぬ指技に望は喘いだ。  
 
『オマエもカテキョーとヤったのか、ボンボン?』  
「ああ、そんなことしてません…」  
 
「お、『おっぴろげアターック』って、…」  
 別の一冊を朗読しかけたまといは、思わず頁から顔を上げると、真っ赤になって俯いてしまった。  
「どうしたの?」たまたま隣にいたあびるがまといの手元を見て絶句した。  
 
 何事かと、まだ開いたままの頁を覗きこんだ絶望ガールズは、口々に叫んだ。  
 
「キャーーー!!」  
「いやぁぁぁぁぁ!」  
「凄いカッコ…ヒック」  
「もう! 見てる方が恥ずかしいわ。」  
『このキモイハゲが!! 救いようのないヘンタイだな』  
 
「これはもう、オシオキが必要ね。」  
「うん」珍しくまといが千里に同意した。  
 
 ここで、可符香がオシオキの中身を提案した。  
「じゃあ、その格好、先生にもしてもらいましょうか」  
「賛成ーーー!」  
「賛せーーい!」  
 
 口々に賛成の声が響き、またも拍手が沸き起こった。  
パチパチパチパチパチパチ……  
「いいぞーーーー!!ヒック」  
「いいいいい、いやですっ!」  
 当然、望の抗議は黙殺された。  
 
        ☆  
 
「えーと、仮面の代わりに私のパンツを被せるわね。色も似てるし。」  
 千里はこう言うと、穿いていたピンクの下着をするするっと下ろし、すっと足首から抜いて、望の頭に被せた。  
 
 いつもなら率先してこんなことはしないのだが、まといがいる分、ライバルには負けたくないという意識があったのかもしれない。  
 
(こ、これじゃ別の仮面ですっ!…って、そうではなくて!)  
「いやあああ、止めて! 取って下さい〜〜!!」  
 さっきまで目の前の千里が穿いていた下着の温もりや、微かな芳香を堪能する余裕はなかった。皆が二手に分かれて望の足を抱えてきたのだ。  
 
「芽留ちゃん、写メお願いね」  
『オーケー』  
「よいっしょっと」  
 絶望ガールズが掛け声と共に一気に抱え上げ、望を大股開きにした。  
 
「そーれ! おっぴろげアターーック!!」  
 パシャッ! パシャッ!!  
 
「いやあああああああああああああああ!」  
 
「シクシクシクシク………すんすん………」  
 千里のピンクのパンツを頭から被ったまま、肩を震わせ全裸で啜り泣いている望に、晴美が明るく告げた。  
「こういった漫画もぜーんぶ没収しますね」  
「そそそ、そんなああぁぁぁ」  
 望は泣きながら抗議した。  
 
 だが、あびるを始め、残りの面々が横から言い添えた。  
「交クンの教育に良くありませんから」  
「何てったって、私たちはァ、交クンの親代わりですからねー…ヒック」  
「嬉しそうにパンツ被ってる先生じゃあねェー」晴美まで嬉々として望をイジる。  
 
「う…パ……だ…だからっ、押入の奥に隠してたんじゃないですかあぁ」  
「これからは、先生が淫らな気分になって問題を起こさないように、私たちが先生の性生活をきっちりコントロールしますから。」  
『オレも時々ヌイてやるからな 女子高生にイジってもらえていいな、オイ』  
 
「いやだああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  
 
        ☆  
 
「じゃあ、ついに男子の通過儀礼その三! 本日のメインイベントですよぉ〜! ……『好きな子の笛舐め』、行きまーす!!」  
パチパチパチパチパチパチ…  
「イエーーイ」  
「いいぞぉー」  
「ヒューヒューヒュー」  
 
 可符香が高らかに宣言するや否や、長いこと柱に拘束されていた腕が解かれた。だが、ほっと息をつく間もなく望は寄ってたかって畳に押し倒され、押さえつけられた。  
 
 もちろん望も抵抗しようとした。だが先程来受けてきた精神的ショックもさることながら、華奢な望では、たとえ女子高生相手とはいえ、一度に七人に押さえ込まれてはどうしようもない。  
 
 あっという間に四肢を広げられ、大の字にされてしまった。  
 手足の上には一人ずつが陣取っている。  
 腹にも誰かが乗っかっている。  
芽留はカシャ、カシャと様々なアングルで写メを撮っている。予備の電源が側にゴロゴロしており、万が一にも撮り損ねはなさそうだ。  
 
        ☆  
 
「あああ…」  
 無理矢理笛を舐めさせられる恐怖と一沫の期待に震えていると、まず千里が胸に跨ってきた。  
 ブラも取ってしまい、全裸である。  
 最初に望に笛を舐めさせるのは自分だ、という勝ち誇った笑みを浮かべている。  
 自分のパンツを被ったままの望を見下ろすと、顎を掴み指先に力を込めた。  
 ギリギリ、と骨が軋む痛みが生じ、望はたまらず口を開けた。  
 そこへ縦笛を突っ込まれた。  
 
「むごがっ!」  
 想像以上の辛さに望は目を白黒させた。  
 何をどうしていいかさっぱり分からない。  
 
 すかさず千里の叱声が飛んだ。  
「じっとしてちゃ駄目でしょ! ちゃんと舌を動かしなさい。」  
 
 涙目の望は、口中で一番張り出している辺りをおずおずと舐め始めた。  
「そうそう、舌を使って。」  
 
 千里は笛を出し入れし始めた。  
「周りまできっちり満遍なく舐めなさい。」  
 望は舌を広げたまま笛の周囲を回転させ、できるだけ舐め残しがないように努めた。  
 
「そうよ、その調子。」  
 予想以上に望が従順なことに気を良くしたのか、千里は緩やかにピストン運動を続けた。  
 
 少し縦笛を抜き掛けると、  
「さあ、吹き口をしっかりしゃぶって。」  
 望はピチャッ、ピチャッと音を立ててしゃぶった。その方が千里を早く満足させられる、と感じたからだ。  
 
 また少しだけ入れてきた。  
「カーブしているところを、舌でなぞるのよ。」  
 望は右上から左下へ、そのまま上へ舌先を向かわせると左上から右下へ、たすき掛けの要領で舌先を這わせた。  
 できるだけ舐め残しがないように努めた。  
 仕上げにチュッチュッと音を立てて接吻した。  
 
 千里は、さらには、ほとんど口から笛を抜いてしまうと、  
「溝にもきっちり舌を這わせなさい。」と命令してきた。  
 当然逆らうことは出来ない。望は舌先を伸ばし、吹き口の溝をチロチロッとなぞった。口元から覗く鮮やかなサーモンピンクの舌先の動きがどことなく卑猥でもあり、滑稽でもあった。  
 
(とほほほ…なんでこんなことをしなくちゃいけないんでしょう…)  
 舐めながら涙が目尻から一滴こぼれた。  
 
        ☆  
 
 もういい加減勘弁、と思った処でようやく笛が抜かれた。  
「ああ、通過儀礼がきっちり終わったわ。…すごい快感!」  
「千里ちゃんいーなー」可符香が羨ましがった。  
「まあ、こんなもんでしょう。」  
 千里は満足そうに望から離れた。望には、千里が跨っていた部分が、そこはかとなく湿っているように感じられた。  
 
 やれやれ、と身を起こしかけた途端、  
「何勝手に起きてるんですか。あと六人もいるのに」  
「そうよ」  
「へ!?」  
 望は再び引き倒された。  
 次に跨ってきたのはまといであった。  
 
 千里に対抗してか、まといも全裸になっている。  
 乗り方はソフトだが、膝で肩を押さえているため、望は全く起き上がることが出来ない。  
そうしておいて、急に顔をくっつけるようにして囁いてきた。  
「じゃあ先生、私の笛も舐めて下さいね」  
 
「いやあああああああ…あ、あ、ああんぐ…んがぐっ」  
 一気に貫いてきた千里とは違い、まといはじわじわっ、じわじわっと挿入してきた。  
 かえって、挿入の過程すら楽しもうという貪欲さが窺えた。  
 
 まといは左手で笛を優しく抜き差ししながら、望の右耳を舐めてきた。そして、ふうっっと息を吹きかけた。望は耳が弱点であったので、つい妖しい気分になってしまった。先程来元気がなかった絶棒に熱が篭もり始めた。  
 
「わぐ……うう……」  
「うふ……先生……」  
 まといは微かに、だが甘く囁くと、望の耳たぶの縁を舌でなぞり、桜貝のような唇ではむはむする。そうして左手の笛を優しく出し入れした。  
   
 やがて、右手で望の頭をしっかり抱え込むと、そのまま望の上で身体を徐々に伸ばし始めた。  
 無論、できるだけ望と密着するようにである。  
 
 そして、身体を滑らせて両足を望の右脚に絡ませると、望の上で肢体をゆらゆらと滑らせ、くねらせ始めた。  
 まといが動く度に、まといの柔らかな腰や太腿が絶棒に触れる。  
 それに、若草の茂みが望の腹やら太腿やらを行き来する。たまには絶棒を掠めたりする。  
 勿論、まといの胸も望の上半身で自由自在に形を変えては望に性感を与えている。  
 あまりにも妖しい刺激に、絶棒は不覚にも本気で反応してしまった。  
 
        ☆  
 
(ふふ…私なら、笛舐めでも先生に気持ちよくなってもらえるわ)  
 千里に笛を舐めさせられている望の目尻に浮かぶ涙を見て思いついたまといの作戦であった。  
 
        ☆  
 
 かくて、七人七様、思い思いの方法で全員が望に笛を舐めさせたのである。  
 
 相変わらず望は頭に千里のピンクのパンツを被ったまま、畳に大の字になっている。  
 望のすぐ逃げ出す傾向を絶望ガールズは熟知しているので、誰も拘束を緩める者はいない。  
 いつの間にか彼女達も全裸になっている。  
 今、宿直室内で服を身につけている者は誰もいなかった。  
 ストーブのおかげで部屋は程良く暖まっているので問題はなさそうである。  
 
        ☆  
 
「じゃあ、次は男子の通過儀礼その四ね。『好きな子から笛を舐められる』」  
「なるほど。ヒック…でも、先生笛を持ってたっけ?」  
 奈美が訊ねた。  
 
「まあ、フルートや尺八とも言うわね」  
 中途半端に硬度を保っている望の絶棒を見遣りながら、晴美が平然と解説した。  
 
「あ、分かっちゃったぁ〜」  
「でもどうする? その『笛』は一つしかないわよ。」  
「一巡するのに時間かかりそう」あびるも思案顔である。  
 
「うーん…」しばし可符香は考え込んだ。  
 だがすぐに、とんでもない解決策を思いついた。  
 
「じゃあ、先に早く済む通過儀礼をしちゃいましょうか。男子の通過儀礼その五ね。『好きな子に射精の瞬間を見られる』」  
 
        ☆  
 
「ほぉーほぉーほぉー」晴美の眼も輝いてきた。  
「シャセ…あ、わかった。なるほどおぉ!…ヒック」  
「あ、それ見たことない」あびるも簡潔に同意した。  
「私も。」  
『オレも』  
「ちょっとおおぉぉぉ! あなた方、いったい何を」  
 
「先生、さっきも言いましたけど」あびるが再度裏筋を撫でてきた。  
「ここはそう言ってないみたいですが?」  
「はああぁぁぁっ、それ駄目、ダメ。止めてくださいぃぃ…くうぅ」  
 またしても絶棒は元気良く反り返った。  
 
「じゃあ、芽留ちゃんから二分交代できましょう。」  
『よっしゃ』  
 芽留がちょこんっと望の腹に馬乗りになり、絶棒に手を掛けた。  
 千里以上に(いや、以下にか)凹凸はないが、体つき全体はやはり紛れもない女子高生である。  
 
 芽留はしばし絶棒を眺めると、いきなり何もつけずに手を上下し始めた。  
「あいたたた、痛い痛い痛い」  
 望は思わず叫んだ。  
 
「ひーん」  
 血は滲んでないものの、ひりひりジンジンした痛みで望ははや涙目である。  
 
「さすがに何もつけないのはいけないみたいね」  
「面倒臭いわねぇ。」  
「お湯でも掛けようか?」  
「ニベアはどうかな?」  
「ソックタッチでも塗っとく?」  
 
 その他サラダ油、シャンプー、保健室のワセリン等々の意見が出た。  
 が、後の通過儀礼その四で絶棒を口にすることを考え、可符香がどこからか持ち込んできた業務用ローションをぬるま湯で溶いて使うことになった。  
 
        ☆  
 
 芽留の二分は何とか耐えた。  
 ここで出してしまっては、絶望先生ならぬ早漏先生というあだ名がこの先付いて回ることは間違いないからだ。  
 
 だが、次の奈美、晴美あたりから雲行が怪しくなった。  
 特に、晴美の駆使する読書から得たテクニックの中には、確かにツボを得たものもあって、絶棒は幾度も爆発の予感に震えた。  
 
「あー、また何か出てきたみたい」  
「涎かな?」  
「嬉し涙かしら?」  
「へー、気持ちよくて嬉しかったんだ。あたしも満更ではないのね」  
 なぜか晴美は嬉しそうである。  
 
 次のあびる、千里、まといが天王山だった。  
 特に千里とまといは互いに競って相手の目の前で撃墜しようとしてきたのだ。  
 
 勿論、あびるも密かに自分が発射させようと目論んでいた。  
 だが、先程の芽留の件で絶棒の感覚が多少麻痺していたのか、あびるの手慣れた扱きも何とかクリアした。  
 千里の確信に満ちた扱きにも、まといのねっとりとした扱きにも奇跡的に耐えた。  
 
 耐えはしたが、望はいつしか呼吸を乱すだけでなく、はしたない喘ぎ声まで漏らすのをどうにも我慢できなくなっていた。  
 
「ひあああ…ふああぁぁっ」  
 
        ☆  
 
 実は、二人とも勝負を焦る余り、望が歯を食いしばり手を握りしめ、さらには固く眼を瞑っていることに注意を払わなかったのである。  
 もし二人の内のどちらかが、いずれも全裸の自分を見つめるよう強制していたなら、それだけで間違いなく望は発射していただろう。  
 
「じゃあ、最後はあたしですねぇ」可符香である。  
「といっても、先生強くて長持ちするみたいだから、多分二周目の誰かの所までいっちゃうと思いますけど」  
 
 すかさず晴美や奈美が茶々を入れた。  
「強くて長持ち…先生、素っ敵ぃ」  
「愛してるわぁ先生ーん…ヒック」  
 
 これで望を含む全員の間に、勝負は二周目、という雰囲気が漂った。  
 
(そうですよね。ここまで保ったんだから、風浦さんもきっと大丈夫ですよね…)  
 
        ☆  
 
 だがこれこそが可符香の策略の手始めだった。  
 強くて長持ち、と誉めたところで望や他の生徒の警戒心を解き、いざというときの望の我慢する力を削いだのだった。  
 
 もっとも、すぐには発射させない。  
 絶棒の根本をぎゅうっと握りしめては悪意を持って望の射精感を引き延ばしたりもした。  
 逆に亀頭をしゅりしゅりしゅりっと擦り上げたり、蟻の戸渡りをついと押しては、射精ぎりぎりの瀬戸際へ追い込んだりもした。  
 無論、そのテクニックは他の女生徒が見ても容易には分からないように偽装してある。  
 
 可符香の老獪ともいえる技法に、望は為す術もなく翻弄された。  
 
 ただ牡の象徴を触られているだけなのに、その絶棒を媒介として自分の身体全体、いや心までもこのコの意のままに支配されているように思えた。  
 
 彼女の一擦り、一扱きを、絶棒だけでなく身体の全細胞が固唾を呑んで待っている。  
 そして、その御褒美とばかりにとびきり淫美な快感の洗礼が浴びせられると、下半身だけでなく全身がその効果の凄まじさに戦慄く。  
 そして随喜の火花の束を脳に送り込んでくる。  
 
 これに加え、そもそも望は可符香を含む七人の女子高生である教え子に甘く、だが堅く拘束されている。その十四の瞳で自分の教師としての尊厳を決定的に失う過程をまじまじと見つめられている。見られ、知られようとしている。  
   
「はああぁっ。ああ。ああ。うぅあぁぁぁん!」  
 いつしか、望はイきたいのにイかせてもらえないもどかしさに、自分が周りのコ達の教師なのだということなど忘れ去ったかのように泣き喚き、被虐の悦びを絶叫していた。  
 
 絶棒自体も最硬度に達し、鰓も最大限に赤く膨れ上がった。ぷるぷる小刻みに震えては健気に快感を訴えている。  
 
        ☆  
 
 あと十秒で二分経過という時、可符香は絶棒の根本に添えていた指に、抑えきれない濁流の兆候を感じた。  
 
(うふふ、堕ちたか…まあ、計算通りね)  
「ごめん、芽留ちゃん。お願い」  
 そう声を掛けると、流石に芽留である。しっかりムービーを撮り始めた。  
 
 可符香は望の珠袋を優しく揉んだかと思うと一転、ここぞとばかり絶棒を情熱的に扱きたてた。  
 
「ふううわああああああぁぁぁぁぁんっ!!」  
 
 望はついに我慢の限界を超えた。  
 絶望ガールズの注視する中、望は教え子の手で背徳の絶頂に追い込まれていったのである。  
 
──どぴゅうううううぅぅぅぅっっ!  
 
 第一波が勢い良く噴射され、宙に舞った。  
 
「やった!」  
「おおおぉぉー」  
 
 だが、可符香は扱く手を緩めなかった。  
 かえってストロークを長めに取りつつ、亀頭の傘下や裏筋の分かれ目などに左手の指を添えては、きゅっきゅっとリズミカルに擦りたてた。  
 
「はううぅぅっ。はああぁっ。うぅぅ……」  
 
──どくううぅぅっ。どぷうぅっ、どくっ…  
 
 望のポイントを知り尽くした愛撫に、第二波、第三波とも、望が自分で慰めるときより遙かに勢い良く噴き出していった。  
 
 白い毒液が自分の手を汚すのも構わず、可符香はゆっくりと絶棒を扱くのを止めなかった。  
 やがて噴出が止まると、絶棒の根本からゆっくりと絞り出すように一扱きした。  
 ぷくり、と最後の毒液が名残惜しそうに絶棒を伝い落ちていった。  
 
 可符香が手に付いた望の印をぺろっと一舐めした。その様子は一瞬何とも淫らに見えた。  
 
 なぜか、千里とまといは激しい嫉妬にかられた。  
(…こ、今度こそ私が貰うわ。絶対に。)  
(…口惜しい…それ、私のものなのに…)  
 
 芽留は動画の再生チェックを始めた。  
 繰り返し見ては頬を染めてほーっとため息を付いている。撮影は成功しているようだ。  
 
 一方、他の三人は毒気を抜かれたようである。  
「凄かったねー」晴美が素直に感心した。  
「ねーぇ…ヒック」  
「あれがお腹に入って赤ちゃんが出来るのね…」あびるも感に堪えたように呟く。  
「なんかいいもの見ちゃったな」  
「ちょっと感動したよぉ…ヒック」奈美など、少し涙ぐんでさえいる。  
 
        ☆  
 
「じゃあ、さっきの男子の通過儀礼その四ね。『好きな子から笛を舐められる』」  
 可符香はちらりと見せた妖艶な雰囲気を封印し、明るく言った。  
 
「ううう…まだするんですか…もう止めましょうよお」  
 先程絶望ガールズの目の前で怒濤の大噴射を遂げたせいか、望の抗議にはまるっきり迫力がない。  
 
 そんな弱気の虫が巣くった望を無視して…というよりわざと怯えさせるように、可愛い小悪魔達は次々と新しい通過儀礼を口にした。  
 
「まだまだ男子の通過儀礼はあるわよ。『好きな子に口移しでモノを食べさせる』というのもそうね。」  
「『好きな子と愛を交わす』!」  
「どうせなら、『好きな子とえっちしてイく、イかせる』までしないと」  
「んーとねぇ、『好きな子にィ、赤ちゃんをぉ、産ませるぅ』! ヒック」  
「まあ、最後のは今日だけじゃ通過するか分からないし、運も必要だけどね」  
 
「あわわわ…」  
 絶望ガールズが繰り出す底知れぬ恐怖の通過儀礼の数々に、望は声も出ない。  
 
「じゃあ、いっそのこと、全部まとめてしちゃいましょうか」  
パチパチパチパチパチパチ…  
「イエーーイ」  
「いいぞぉー」  
「ヒューヒューヒュー」  
「ひ…ひいいーーーー」  
 
        ☆  
 
 絶望ガールズが一斉に望を嬲り始めた。  
 
        ☆  
 
 あびるが接吻してきた。  
 何かを口移しで食べさせられる。ぼんたん飴だった。  
 そのまま舌を絡めてきた。  
 何とか応戦していると、やがてあびるの舌先が望の口腔を犯してきた。  
 
 右手には可符香がいた。  
 しきりに腕に接吻していたかと思うと、指を舐めてきた。  
 ねっとり舐めた後、一本一本美味しそうにしゃぶり始めた。  
 ちゅぱっ、ちゅぱっと音を立ててわざと望たちに聞かせるようにしゃぶった。  
 
 それを横目で見ていたのは、左手にいる千里だった。  
 すぐそばにいる、胸を愛撫していたまといにだけは負けまいと思っていたところに思わぬ伏兵を見つけ、衝撃を受けた様子だった。  
 だがすぐに可符香に負けじと、同様に指を舐めしゃぶった。  
 しゃぶる度に長髪がサラサラと揺れた。  
 
        ☆  
 
 まといは望の胸に手を這わせた。  
 指先でじりっ、じりっと乳首の周りをなぞったかと思うと、不意に指先を乳首に掠めた。  
 唇をあびるに奪われ声が出せない望が、胴体をぴくっと震わせた。  
 この反応に気を良くしたまといは、いきなり望の乳首をきつく吸った。  
 
 ちうううぅぅぅっ。  
 
 望は素直に身体を反り返らせて感じてくれた。  
 そのまま唇を離すことなく舌先でれろれろっと可愛い豆を弾き、もう片方の平らな胸を手でやんわり揉んだ。  
 
        ☆  
 
 右足の晴美、左足の芽留は二人とも望の白い脚──男のくせにほとんど毛が生えていず、カモシカのようにすらっとしている──に、なぜか嫉妬を覚えたようだ。  
 しっかり抱き抱えると、そこかしこにキスマークをつけ始めた。  
 
 絶棒を独占できたのは奈美である。  
 絶望ガールズの中では一番アルコールに弱い奈美は、しきりにしゃっくりを繰り返し、呂律も怪しくなっていた。  
 だが、望「で」妊娠し家を出る、という野望はまだ捨てていないようだった。  
 
 人目を気にすることなく、固くそそり立った絶棒を愛しそうに撫でていたが、ゆっくりと口に含み始めた。  
 取り立てて知識やテクニックは持っていない奈美は、ただ美味しいアイスキャンディーを溶けないうちに舐めしゃぶる、くらいのつもりで彼女なりに積極的に舌を這わした。  
 絶棒にとってそれそれがかえって嬉しかったらしく、しきりに先走りの涙を流してぴくぴくと反応した。  
 
   
 こうして、望は全身を蹂躙されていった。  
 
 数分毎に絶望ガールズは持ち場を交替した。  
 そのため、望は各人の癖に対応することも出来ない。  
 そして抵抗する手段が全くないまま、文字通り全身から押し寄せる性感、快感の洪水に溺れていった。  
 
 口移しを担当する者の中には、ケーキの残りや99%チョコ──これは可符香である──などを含ませるコもいた。  
 
 だが、中には望がアルコールに極端に弱いのを知っていて、わざとワインの残りを口移しで飲ませるワルイ娘もいた。  
 ワインが喉を通る度に望は身体がカッとなり、意識が朦朧となっていった。  
 
        ☆  
 
(……ん…んんっ!!)  
 
 望は下半身からの快感にも無抵抗でいることを余儀なくされ、まるでコントロール不能に陥っていた。  
 ついに誰の口撃により撃墜されたかも分からずに、また大量に発射してしまった。  
 
        ☆  
 
 誰かがケホ、ケホンッと可愛い咳をして噎せている。  
 
 芽留の口の中でイったようだ。  
 
『何だよこれ! 生グセーし にげーな、オイ』  
 
「あ、芽留ちゃんの口でイったのね」  
「いーなー」  
 
『よかねーよ! ペッペッ』  
 芽留はティッシュペーパーを鷲掴みにすると、その中へ絶棒のエキスを吐き出した。  
 
 またしても望の精を受け損なった千里とまといは、苛立ちを隠しきれないようだ。  
 
「愛が足りないわね。」  
「私なら全部飲み干すわ」  
「とにかく、次こそは、きっちり私の中でイって貰いますから。」  
 
 他の絶望ガールズも快感を貪ることに決めたようだ。  
「それに、私たちも気持ちよくしてもらわないとねー」  
「そうね」  
「ね〜ぇ…ヒック」  
 
        ☆  
 
 芽留の口内への発射を機に、教え子達の淫らな攻撃はさらにエスカレートしていった。  
   
 もはや望を快感にヨガらせて楽しむだけでなく、自分達も徹底的に気持ちよくなろう、という意気込みに満ち溢れていた。  
 
 望の全身を絶望ガールズの舌が這い回り、身体の表裏に無数のキスマークをつけられた。  
 
 手の指だけでなく、足の指まで一度に念入りにしゃぶられた。  
 指と指の谷間をちろちろっと舌でくすぐったかと思うと、じゅぽっと深く指をしゃぶって吸い上げた。  
 
 さらに、望の指を使って自分を慰めるコまで出てきた。  
 指先の儚げで柔らかくしっとりした感覚に、望は言いようのない高ぶりを覚えた。  
 教え子の女生徒に、快感を得る道具として自分のパーツを利用されるのは、今の望にとってはマゾヒスティックな悦びとなっていた。  
 
 望の唇に接吻していた娘達は、自分自身の秘所を舐めさせてきた。  
 望の奉仕の度合いが弱まると、顔にグリグリと押しつけてさらなる奉仕を催促した。  
 戸惑っていると、望の口に直接ワインを流し込んでから、さらにムギュッと押しつけてきた。  
 望は薄れていく意識の中、必死で目の前の百花繚乱のと言っていい花弁の数々に舌を這わせ、舐め続けた。  
 首が届く限り、可愛い秘豆も丁寧に舐めしゃぶり、ちゅっと吸ってあげることも忘れないように努めた。  
 
        ☆  
 
 とうに絶棒も彼女たち自身の中に挿入されていた。  
 それぞれキツいが個性ある締め付け、娘達の奔放な運動、それに各人の微妙な内部の違いによりもたらされる強烈で様々な快感の迸りに、望も絶棒も翻弄された。  
 
        ☆  
 
 望は性感の万華鏡の真っ只中にいて、周りに広がる極彩色の爛れた世界が広がっていた。  
 
 全身から高圧電流が発生し、脳に快感の連続を伝えていた。  
 眼前の中に無数のプラズマ球が発生しては爆発し続けていた。  
 
        ☆  
 
 誰かの中で達してしまったが、だからといって小休止すら貰えなかった。  
 続けて他のコに絶棒を初めとする全身を刺激され続け、また望も彼女達に奉仕することを強要され続けた。  
 いや、進んで奉仕し続けていたのか、もはや望にも既に分からなくなっていた。  
 
 望は自分でも回数を覚えきれないほど達した。  
 この辺りから記憶も途切れがちになった。  
 
        ☆  
 
 だが、千里とまといの声は朧気ながら覚えている。  
 
「…はああぁうぅっ、ようやく私でイってくれるのね。  
 ああぁぅ、わたしも、もう、もう。先生、先生、…せんせーーいぃ…!!」  
 
「…うふうぅん、先生に似合うのは、…あぁっ、私よ。  
 さ、一緒に…一緒に、いっしょ、いい、ああっいい、いいいいあああぁっ!」  
 
        ☆  
 
 絶え間ない強力な快感の連続とアルコールのせいで意識が麻痺し薄れつつあった望は、脳が快感受容能力をオーバーした処でついに気を失った。  
 
 目が覚めたら、窓から穏やかな陽光が差し込んでいた。もう朝だった。  
 望は布団に寝かされていることに気付いた。  
 横になったまま、のろのろと左右を見る。部屋はきちんと片付けられていた。  
 
 トントントントントントン…  
 
 台所から小気味よい音がする。味噌汁のほんわかした香りまで漂ってきた。  
 
(こ、小森さんかな…?!)  
 
 望は昨晩の疲れでなんとも気だるく、布団から起き上がれない。  
 
        ☆  
 
 望が起きたのに気付いたのか、台所から明るい声がかかった。  
 
「おはようございます、先生。」  
 
 声で誰だかすぐに分かった。千里だ。  
 
「早く起きないと、お味噌汁が冷めちゃいます。」  
 
 昨晩の事を思い出して、飛び起きた。  
「う…はは、はいっ!」  
 
        ☆  
 
 ちゃぶ台を前にして千里と向かい合った。  
 どこから持ってきたのか、千里は割烹着を着ている。良く似合っていた。  
 気のせいか、血色が良く、肌もつやつやしているようだ。  
 
 望は以前、無理矢理食べさせられた謎のちくわ料理の破滅的な味を思い出して死にたくなった。  
 が、昨日の今日である。無碍に断れない。  
 
「いただきます」  
「どうぞ、至らないものですが。  
 あ。冷蔵庫の中の余り物を使っておいて、こんな事を言ってはいけませんね。ごめんなさい。」  
 
 香りは宜しい。外見も普通の味噌汁だ。具は豆腐に葱である。  
 恐る恐る一口啜ってみた。  
 
 旨い。  
 
 もう一口…本当に美味しい。  
 ご飯の炊き加減も上々だし、干物も上手に焼いてある。  
 大根おろしまできっちり添えてある。  
 
 ふと千里の手元が目に入った。  
 指には古傷がたくさんついている。  
 料理をかなり練習したのに違いない。  
 
「木津さん…」  
 
 だが、自分のために練習してくれたんだろうか、とは決して考えないのが、良くも悪くも望の思考回路であった。  
 
 つい、素直に誉め言葉が口をついて出た。  
 
「あなた、いいお嫁さんになれますよ」  
 
        ☆  
 
 ──これだ。このタイミングでこの言葉!──  
 
 千里は悟った。この手で絶望先生はこれまで数々の女性を落としてきたのだ、と。  
 
 ──霧ちゃん、芽留ちゃん、まといちゃん、…晴美だってそうに違いない。  
 
 確かに自分は精一杯努力してきた。  
 
 先生にしてみれば、眼前の努力あるいは才能の成果に対して発する、普通の誉め言葉にすぎない。  
 そうに違いない。分かっている。充分分かっている。  
 
 でも、言われた方は思わず舞い上がってしまう。  
 自分だけを特別視してくれていると思ってしまう。  
 この間ゼクシィで見た素敵な家と素敵なカップルの写真をつい思い起こしてしまう。  
 
 何とも小憎らしい…──  
 
 望を見た。端正な顔でにこにこしている。私の心を惑わす憎い笑顔だ。  
 
 そんな奴には罰として、こちらもにっこり微笑んでこう言ってやろう。  
 
「…ありがとうございます。」  
 
 ──ああ……でも、もう少し。もう少しだけ私も夢を見ていいかしら。  
 
 先生…好きです。愛してます。  
 
 もう少しだけ、二人っきりでいさせて下さい…。──  
 
「お茶、淹れますね。」  
「あ、どうもすみません」  
 
 千里はゆっくりとお茶を注いだ。  
 
        ☆  
 
 外は風の音もせず、静かなことこの上ない。  
 しかも快晴の爽やかさが窓から伝わってきている。  
 
 今日は晩秋の穏やかな一日になりそうである。  
 
──[完]──  
 
 

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