木津千里がまた宿直室に来ている。  
 日々の掃除や片付けをしてくれるのは確かにありがたい。  
 だが、今は押入の奥深くに隠してあるパットが見つかりはしないか、糸色望は気が気ではない。  
 
「あー、木津さん」  
 望はテレビを見ている千里に声を掛けた。  
 
「明日と明後日、私は用事があって留守にするんですよ。申し訳ないですが、交の世話当番の引継とか、万事お願いしていいでしょうか」  
「いいですけど、どこへ?」  
「北海道です」  
「北海道ぉ? なぜ、今ごろ?」  
 千里は目を丸くした。  
 
「学会なんですよ。太宰文学会」  
 こう言って望は薄手の地味な雑誌を千里に手渡した。  
 
 見ると、確かに『日本太宰文學會誌』というタイトルの、素っ気ない装丁で薄い雑誌である。  
 
 ペラペラめくって巻末を見ると、学会のお知らせが載っている。  
 開催地が北海道虻田郡……となっていて、案内地図にニセコという名前も見える。  
 
「先生、それに参加してきますから」  
「へええ……何だか凄いなあ。わかりました。後は任せて下さい。」  
 千里は胸をポンと叩いた。  
「その代わり……」  
「その代わり?」  
「北海道のお土産を、よろしく。」  
「はいはい」  
 望は苦笑しつつ答えた。  
 
 千里はまだもじもじとしている。  
 
「木津さん」  
 千里がはっとこちらを見た。何かを期待している顔だ。  
 ここで望は決め台詞を囁いた。  
 
「あなたが大学生になったら、一緒に学会に行きましょう。連れていってあげますよ」  
 望は千里の頬に軽く接吻した。  
 
 千里は頬を紅に染め、無言のまま宿直室を走り出ていった。  
 
 パタパタッと走り去る足音を聞きながら、望は腹の中で舌をペロッと出した。  
 
 ――すみませんね。こうでもしないと、おちおち羽根も伸ばせやしない……  
 
 望は去年の夏休みからのことを思い出していた。  
 
 去年の夏休みから、絶望ガールズが望を監視する傾向がみられた。  
 だが、特にこの年末年始は、による望の監視の目が厳しかった。  
 生徒達にしてみれば、望のことが心配でしかたがないのだろう。  
 だが当の望本人からすれば、嬉しい気持ちもあることはあるが、概して迷惑なのだ。  
 
 それに、ありとあらゆる絶望的アクシデントが望を待ち受けていた。  
 
 夏休みの宿題忘れに始まり体育会系文化祭、交の七五三、クリスマスから恐怖の大掃除。  
 さらには年賀の挨拶、悪夢のカルタ取り――。  
 どれをとっても死にたくなるような出来事ばかりである。  
 
      ☆  
 
 中でも千里! 彼女が問題の中心にいる。  
 秋分の日あたりにこの宿直室でテレビを観ることを覚えて以来、猟奇に走ることは少なくなった。  
 ところが、何かと理由を付けては宿直室に入り浸るようになってしまったのだ。  
 
 だから、当然、望の心の支えである霧と鉢合わせになることもある。  
 だが、意外にも二人は仲良くしていて、時には一緒に夕食を作ったりもするのだ。  
 
 もはや宿直室は望にとって安住の地ではなくなっていたのである。  
 かといって、蔵井沢へ逃げてもすぐさま追っ手が掛かるのは必定である。  
 
 それならと、もっともらしい理由をつけて北海道へ逃げ、つかの間の「心からの」休日を楽しむことにしたのである。  
 
 これには千里が勉学に明るい少女であったことも幸いした。  
 勉強に興味のないコなら、学会へ行くと言ってみたところで、せいぜい、それがどうしたの、という反応しかしないからだ。  
 千里は(きっちりすることの次に)勉強が大事で、そのためなら……という考えの持ち主である。このことが望に味方した。  
 
 
      ☆  
 
 
 北への逃避行に選んだパートナーは、加賀愛であった。  
 愛が望のことを本気で好いていることは、もはや疑いようがないだろう。  
 
 なにせ、担任教師から突然一泊二日の旅行に誘われたにもかかわらず、万事繰り合わせて望に付いてきたのだ。  
 
 二人は既に千歳空港行きの機中にいた。  
 
「先生、北海道へ行くのに、本当に東京の普通の冬の服装でいいんですか?」  
「ええ。今年はあまり寒くないそうですから、大丈夫ですよ。それに宿からあまり外にでませんしね」  
「そのことなんですが」  
 愛が心配そうに尋ねた。  
 
「先生、ニセコならスキーをなさいますよね? 足手まといですみません! 私、滑ったことないんです! ごめんなさいごめんなさい!」  
「いえ、スキーじゃあないんです。温泉にね」  
「ごめ……はぁ?」  
「いろいろと疲れが溜まってるので、骨休めに温泉に浸かりに行くんですよ」  
「はあ……」  
「あなたもいろいろとストレスやら疲れが溜まってらっしゃるはずです」  
 
 ここで愛は、ふと先日のカルタ大会のことを思い出した。  
 
 全裸で拘束されていた望。男のシンボルをそそり立たせて喘いでいた望。  
 成り行きとは言え、そんな望とキスをした自分。キスしている内にじわっと濡れてしまっていた自分……  
 
 色々なことが一度に思い出されて、愛は真っ赤になった。  
 
 そんな愛の様子を不思議そうに見つめていた望は忽然と赤面の意味を悟り、同じように真っ赤になった。  
 
 
      ☆  
 
 
 千歳空港からバスに揺られること数時間。  
 二人は無事に、ニセコアンヌプリから羊蹄山にかけて点在する温泉郷の一つ、七色温泉にやってきた。  
 
「おや? やはりあまり寒くないですね。それに思ったほど雪が積もってませんね。  
 まあ、我々は滑りませんからあまり関係ないですが」  
 望は意外そうな、そして幾分不満そうな口ぶりである。  
「はい……」  
 
「とりあえず、宿に落ち着いたら、ご飯のまえにまず一風呂浴びましょう。長いこと乗り物に乗ってて疲れたでしょう」  
「はい……ありがとうございます」  
 
 珍しく望がてきぱきと女生徒をリードする展開になっている。  
 
 愛の場合、少しでも放っておくと加害妄想をこじらせる恐れがある。それで自然と彼が愛を導く形となっているのだ。  
 
 それに、望自身が、受け身で流されがちな自分から脱却し、生徒をリードしてみたいという気を柄にもなく起こしたせいもあった。  
 
 二人が泊まる宿は純和式旅館である。  
 
 愛はずいぶん豪華そうな宿だなあときょろきょろ辺りを見回していた。自分が場違いな気がして不安になったのだ。  
 
 だが望が宿の者に名を告げると、二人は丁重に部屋に案内された。  
 
 部屋と言っても、各部屋がみな離れになっている。  
 そしてそれぞれに内風呂と複数の露天風呂があるのだ。  
 
「せっかくだから露天風呂の方にしましょう。雪見しながらの露天風呂って、乙なものですよ」  
「はい」  
 部屋に通され旅装を解いていた愛が珍しくはきはきと返事をした。  
 雪見の露天風呂、というシチュエーションが大いに気に入ったのだ。  
 
「ん。いい返事です。先生は素直で消極的で内気なコが好きですから、ヒイキします。  
 けれど、ちょっとだけ積極さを見せるコはもっと好きなんですよ」  
「はあ……」  
 
「そうそう、風呂の話でした。どの部屋にも露天風呂が三種類あるんですって」  
「へえぇ……すごいなあ」  
 愛は素直に感心している。  
 
「それでですね。加賀さん、どうぞ先に入ってて下さい」  
「そ、そんな! 先生より先に入るなん」  
「いや、ちょっと荷物の整理に手間取りまして、もうちょっとかかりそうなんですよ。  
 そういう訳で、さ、遠慮せずにどうぞ」  
 
      ☆  
 
 愛が一番大きな浴槽――といっても三人入れるかどうかだが――に入っていると、いきなり戸の開く音がした。  
 望が入ってきたのだ。  
 
「せ…先生?」  
「私もそちらに入りますね」  
 なんと同じ浴槽に入ってきた。  
 
「いきなり一緒に入ろうって言っても、あなた恥ずかしがって逃げちゃいますからね」  
「いやああ……」  
 愛は小さな悲鳴を上げ、湯船の縁にしがみついてイヤイヤを繰り返している。  
 
「恥ずかしがる事ありませんよ。お湯に色が付いてますから、透けて見えませんし」  
「は、はあ…。でもぉ」  
 
「今私たちが入ってるのが金湯。といっても、ご覧のとおり茶色ですけれどね。  
 タオルは浸けちゃだめですよ。色が落ちなくなりますから」  
 
「ああぁ……」  
 愛はまだもじもじしている。  
「何を恥ずかしがってるんです。見えないんだからいいでしょう」  
「でも…」  
 
「まあ、しばらく浸かってなさい」  
 さすがに愛も黙った。やがておずおずと浴槽の中に体を伸ばし、望と共に眼前の光景を眺めた。  
 
 音もなく雪がちらつく露天風呂。  
 目の前には純白のニセコアンヌプリと羊蹄山の見事なシルエットだ。  
 東京ではついぞ味わえなかった静かな世界に、愛はいつしか恥ずかしさが薄れていた。  
 いつしか、愛する人との雪見露天風呂というロマンチックな雰囲気に浸っていた。  
 
「じゃあ、あっちのお湯にも浸かりませんか」  
望が隣の温泉を眼で示した。  
「あれは『床湯』といって、中で寝そべることができるんですよ」  
 
 愛も隣を見た。  
 人が一人なら楽に横になれる湯舟に、鮮やかなエメラルドグリーンの温泉が湧いている。  
 だが、どう見ても二人並んでは入れそうにない。  
 
「先生、お先にどうぞ」  
「ありがとう。でも、これ二人用なんですよ」  
「え?でも…」  
 愛は戸惑った。  
 
「実際に入ってみた方が早いですね」  
 望はさっと愛の前を横切ると、床湯に浸かって寝そべった。  
 ちょうど浴槽の縁の頭が当たる部分が枕のようになっている。  
 
 だが、寝そべるにしては望は深く沈んでいる気がすると愛は感じた。  
 
「さ、加賀さん。先生の上に寝そべって下さい」  
 望は自分の胸板をちゃぷちゃぷと叩いた。  
 
「え〜〜!? だって……だって、み、見えちゃい……」  
「じゃあ、先生にぴったりくっついていればいいんですよ。そうしたら見えませんから」  
 
 愛はしばらく逡巡していた。  
 だが、確かに望の他にだれも見ていない。  
 それに、なにより温泉の雰囲気が気に入っていたし、先生と二人きりの入浴にも慣れた。  
 愛は意を決して望の待つ床湯に足を入れた。  
 
      ☆  
 
「さ、じゃあまず、ここに座って、私にもたれて下さい」  
 愛は素直に望の膝に腰を下ろし、望の胸板に背中を付けると、肩に頭を載せた。  
 
 望は愛の腹に手を回した。  
 
「じゃあそのままで」  
 望が身体を倒していくにつれ、愛も全身が湯に浸かっていった。  
 
 望が頭を浴槽の縁に乗せると、ちょうど良い加減で愛も湯に浸かる格好になっている。  
 
 望が耳元で囁いた。  
「ほら、ちょうど二人が床に入っているみたいでしょう」  
 確かに、お湯は愛を覆うのに十分な量であった。  
 
 望は時々お湯を愛の身体に掛けながら愛を気遣った。  
「寒くないですか」  
「だ、大丈夫です」  
 
 愛は望の体温と温泉の温もりの双方を感じた。 異性と身体を密着させている恥ずかしさの中にも、徐々に心が安らいでいった。  
 望の肩に載せていた頭や全身からやや力が抜け、望に体重を預けていった。  
 
「さ、空をご覧なさい。そろそろ一番星が見える頃です」  
 望に言われ、愛は空を眺めた。  
 まだ夕方五時前なのに、遙か遠くに一番星が瞬いているのが見えた。  
 
「あ、先生、あそこ!」  
 愛が空の一点を指さした。すらりと伸びた腕から脇の下にかけてのラインが見事だ。  
 
「どれどれ」魅力的に白く輝く脇の下を一瞥すると、望も愛の指さす方向に目を向けた。  
 
 早くも夜の帳が下りつつある空に、金色に輝く星が一つあった。  
 
「おお…先生も見えますよ」  
 望はそう言いながら湯の中でゆるゆると手を動かした。  
 愛の脇腹から徐々になぞり上げ、脇の下を掠めると、胸の下にそっと添えた。  
 そしてゆさゆさっと愛の白い乳房を揺さぶり、丘の麓をやわやわっとごく軽く揉み始めた。  
 
「あ」  
 
 愛は望の腕を振り払おうとした。  
 しかし、望は手を休めない。  
 
「そのまま…ねっ」  
 
 望の囁きを耳にして、愛の抵抗は止まった。望の腕に手をかけたままでいたが、やがてその手も外れた。  
 
 望の愛撫はごく軽いものであった。  
 ふんわりと盛り上がっている乳房の麓を指でなぞったりしている。  
 かと思うと、愛らしい頂上を親指の腹でくすぐったり、軽く摘んだりする。  
 じわーっと心地よさが全身に広がっていった。  
 
「あ…いやっ」  
 たまらずに愛は小さく呟く。  
 
 望は左手で相変わらず胸を攻めながら、右手を徐々に下へ這わせていった。  
 
 指先が腹を滑り降り、愛の秘密の部分に至った。  
 
「いやン」  
「そのまま…そのままですよ」  
 
 愛は恥ずかしさの方が先行して足をぴっちり閉じようとした。  
 しかし望は耳元でさらに甘く囁くと、若い茂みをかき分け、入り口をなで始めた。  
 
「は…あっ」  
 まだ胸は望の左手に揉まれている。  
 
      ☆  
 
 絶棒がむくむくと頭をもたげて愛の尻に当たり始めた。  
 
「せ、先生……あ、当たって……」  
 愛はこれだけを言うのが精一杯だったが、望は分かったようだった。  
 ちょっと愛の腰を掴んで位置を調整すると、熱気をはらんできた絶棒を愛の太腿の間に挟むようにしてきたのだ。  
 
「これなら…ねっ」  
 位置を整え終わった望は、愛の秘所と胸の愛撫を再開した。  
 
「どう? 気持ちいいですか?」  
 
「……うっ……やぁっ……」  
 愛は顔を真っ赤にし、時折首を左右に振っては快感を堪えている。  
 
「昼間も言いましたけど、先生は受け身で消極的なコは好きですよ。でも、ちょっとだけ積極的になれるコはもっと好きです」  
 こう優しく言いながら、望は特に敏感な部分をなでてきた。  
 
 愛はたまらず自分から接吻を求めた。  
 望はソフトな舌使いと胸の尖りをくりくりっと摘むことでこれに答えた。  
 
      ☆  
 
 望は片手で愛の白く柔らかな胸をいっぺんにわさわさっともんだ。  
 かと思えば固くなったピンクの乳首を愛おしげに愛でた。  
 
 もう片方の手では、敏感な尖りを中心に若草を満遍なく梳き、指でスリットを何度もなぞった。  
 時には、まさにその部分にぐりぐりっと妖しい刺激を与えたりした。  
 
 愛は自分独りでは味わったことのない快感に震え身を捩った。  
 そのたびに、細いが張りのある太腿の動きがたぎる絶棒に新鮮な刺激を与えた。  
 
 やがて絶頂が近くなったのか、愛はしきりに腰を捩って望の上から逃れようとした。  
 だが、望は両膝で愛の脚を挟んで抵抗を封じた。  
 依然として唇を合わせたまま、愛らしい粒を直接なで続けた。  
 
 人一倍敏感な愛は、望に軽く拘束されたまま、最初の高ぶりへ向け駆け上っていった。  
 
「んむぅ……うんんぅぅぅ……」  
 
 愛は少しの間全身を強ばらせると、ぐったりと脱力して望にもたれた。   
 
      ☆  
 
 そんな愛の全身を望は愛おしげになでた。  
 やがて愛を優しく抱え上げると、くるっと身体の向きを入れ替え、自分と抱き合う形にした。  
 
 愛の頭は望の右肩に乗っている。まだ荒い息をついていて、顔色は真っ赤である。  
 手はだらんと下がって湯の中だ。  
 乳房が望の胸板の上でつぶれ広がっている。  
 その柔らかな感触がなんとも嬉しい。  
 
 愛の体温を全身で感じながら望は後ろ姿を見下ろした。  
 愛のボディラインはほっそりとしているが、女性らしい優美でエロチックな曲線を描いている。  
 絶棒はさっきから硬く勃ったままだ。  
 愛の白い双丘の真下という絶妙の位置で太腿の間に挟まっている。  
 
 望は愛の背中や柔らかなヒップをゆるゆると撫でながら聞いた。  
「気持ちよかったですか?」  
「…………はい」  
 顔を伏せたまま、消え入りそうな声で愛が答えた。  
 
「そう。よかった」  
 望の指が愛の秘部を後ろからなでてきた。  
「先生、あなたと深く繋がりたいです」  
 
 愛は答える代わりに、顔色をますます赤くしながら望の首に手を回した。  
 
 望は愛の腰を掴み、挿入の予感でうち震える絶棒を愛自身の真下で数回上下させ、擦り合わせた。  
 
「あぁっ……」  
 収まりかけていた快感の火を再び点けられ、愛は可愛く鳴いた。  
 
 望は愛の腰を持ち上げると絶棒にかぶせ、じわり、じわりと沈めていった。  
 
「はあぁぁぁ……いやぁっ……」  
 愛が喘いだ。  
 
 ゆっくりゆっくりと愛の腰を沈めさせ、すっかり絶棒を収めてしまうと、望は愛の上体を再び自分に引き寄せた。  
 
 望は愛の肩から背中、背中からヒップへするすると指を滑らせる。  
 何度も飽きることなく滑らかな動きを繰り返す。  
 愛は、望の指が触れたところからジーンと痺れていき、そのしびれが徐々に自分の体を溶かしていくように感じた。  
 
 また、下半身で繋がっていても大きくは動かない。  
 ただ繋がっている部分の前後を望がなでるだけだ。  
 そして愛のヒップに手を添えると、軽くゆさゆさっと上下に揺らしてくる。  
 時にはその動きに回転を加える。  
 すると絶棒がいつもと違う角度で中を動き、思わぬ快感スポットを突いてくる。  
 
 一度達した後で敏感になっている愛には、それで十分な刺激だった。  
 再びクライマックスを迎える直前、愛は自分から望の頭をかき抱き、接吻を求めてきた。  
 
      ☆  
 
 愛が望に抱かれて床湯の次に入ったのは、『壷湯』である。  
 二人が抱き合ってようやく入れる程度の小さな丸い浴槽に、乳白色の湯がこんこんと湧き出している。  
 
 望は愛を壷湯に立たせると、その後ろに自分も立った。  
 それから狭い浴槽の中にあぐらをかいて座り、膝の上に愛をゆっくりとしゃがませた。  
 さっきから痛いほど勃っていた絶棒が愛の尻に当たると、位置を調節してさらに愛を座らせた。自然に絶棒は愛の中へ入っていった。  
 
「ふあああ……いやあ……」  
 愛は声を漏らした。  
 が、望は構わず、小刻みに腰を突き上げ始めた。  
 
「イヤッ……はあン、あん、やん……」  
 
 愛は浴槽の縁を掴んで快感を堪えようとした。  
 だが、望の手が再び乳房や秘部を縦横に動き回ると、もう堪えきれなかった。  
 
「あぁん、いやぁ……やぁ……」  
 
 狭い浴槽で肌が密着しているところに加え、望にどう攻められても身動きがとれない。  
 この壷湯では、愛は完璧な受け身であった。  
 望の恥ずかしい攻撃に、あえて身を任せるよりほかないのだ。  
 
 愛は望の動きとそれによって生ずる快感に翻弄された。  
 このまま自分の体が熱く溶けてしまい、温泉の乳白色の湯と同化してしまう気がした。  
 
 愛の中身は潤い、柔襞は絶棒を懸命に締め付け蜜を滲ませては熱い迸りをせがんだ。  
 
 だが、望は懸命に堪えた。  
 出そうになると動きを一時停止し、手を愛の秘部に這わせて草むらをかき分けた。  
 そうして秘裂に指を這わせたり、突起の周辺を根気よく刺激したりした。  
 
 縁を掴んでいた腕が湯の中に滑り落ち、愛は身体全体を丸めピクピクッと数度痙攣した。  
 
「ひあああぁぁ……はああん」  
 
 絶棒を胎内に咥え込んだまま、愛は三度絶頂に達した。  
 だが望は強烈な締め付けに歯を食いしばって耐え、まだ放出していない。  
 
      ☆  
 
 望は愛を向かい合わせにすると、そのまま  
腰を沈めさせた。  
 互いに抱き合う形で愛の中に絶棒が挿入されていき、やがて二人は完全に重なった。  
 
 望は愛の腰を両手で抱えたままじっとしている。繋がったまま、動きはしない。  
 二人の熱い吐息だけが湯煙に混ざり合う。  
 
 やがて望は片手で愛の腰を支えたまま、もう片方の手を愛の後ろ頭に添えると接吻した。  
 心ゆくまでねっとりと舌を絡ませ合う。  
 二人はいつまでも激しく唇を貪り合った。  
 
 口を合わせたまま、愛は足を望の腰に絡みつけ、腕を望の背に回しきつく抱きしめた。  
 望と出来るだけ深く繋がっていたかった。  
 
 この狭い壷湯の中で、股間だけでなく肉体全てが密着している。  
 二人の心もまた、密着感が深まった。  
 
      ☆  
 
 壷湯はややぬる目の白濁湯だが、互いの体温と燃え盛る熱情で二人は眼が霞むようだ。  
 
 ひしと抱き合ったまま、どちらからともなく律動が始まった。  
 愛も動き、望も動く。互いにリズムを合わせる。  
 
 狂おしい快感を後から後から発生させる股間だけでなく、身体の全体を互いに擦りつけ合う。  
 肌全体が密着し、互いの快感を伝え合うようだ。  
 
「気持ち……いいですか?」  
 望が愛の耳元で囁いた。  
 
「う……」  
「気持ち良かったら……声を出していいですよ」  
「ああ……いやぁ……だめ……」  
 
 先程から何度も達している愛は、望の声で体の奥のタガが外れ、極みへ昇っていった。  
 
「はあぁ、また……許して、もう……いやぁぁぁ……」  
 昇り詰めた愛の内部が激しく収縮した。  
 絶棒をこれでもか、これでもか、と激しく扱きたてた。  
 
「ううっ……むぅっ!」  
 望も愛の腰をきつく抱え込み、最大限に膨張した絶棒が奥深くまで届くよう愛自身に押しつけた。  
 
 そしてこれまで堪えに堪えていた今日初めての白い絶射を愛の奥深くに放った。  
 
 愛は腰に来たようで、しばらくの間歩くこともできなかった。  
 
「ああ……すみません……すみません……」  
 望が体を拭いてやり、下着やら宿の浴衣やらを着せてやる間、愛は全く望にされるがままだった。  
 
 ようやく愛が動けるようになり、紙を乾かし終えた頃、夕食のお膳が用意された。  
 
「ね。旅館のご飯っていいでしょう。自分で何もしなくても、全て宿の方が準備してくれる。受け身ってこんないいことがあるんです」  
「ええ……」  
「これだけの皿を使って洗い物の心配をしなくていいなんて、天国ですよ」  
「くすっ……先生、なんか奥さんみたい」  
「まあ、一人暮らしが長いですから」  
「どの料理も美味しそうですね」  
「まあ、北海道の食べ物は美味しいに決まってますから。ありがたくいただきましょう」  
 
      ☆  
 
 お膳を下げにきた宿の者に、望はカクテルを数種注文した。  
 
 食後しばらくはテレビを見てくつろいだり、たわいもない話をして過ごしたりした。  
 
 加害妄想の殻が取れると、愛はとても可愛い少女であった。  
 話もふつうにできる。しかも自分を頼ってくれている。  
 良いコじゃないか、とますます愛のことが気に入った。  
 
      ☆  
 
 宿からカクテルが届けられた。  
 愛は初めて見る色とりどりの液体に興味津々である。  
 
「へーー、私ぜんぜん見たことなかったです」  
「そうですか? ……まあ、生徒にお酒を飲ませるなんて、悪い先生ですみません」  
「いえ……」  
「でも、今日は特別ですから」  
 
 望は透明で、わずかに朱色がかっているカクテルを愛に勧めた。グラスの中にチェリーが入っている。  
 
「最初は飲みやすいのがいいでしょう。マンハッタンっていうんですけど」  
 
「先生は?」  
「先生は、これ。男は黙ってスペシャルジントニック」  
望は自分のグラスを持ち上げて見せた。  
   
「じゃあ、乾杯」  
「乾杯」  
愛はカクテルをそっと口にした。  
「わぁ……甘ぁい。……それに、飲みやすいですね」  
「でしょう? 最初ですからね、口当たりのよいものをと思いまして」  
「あの……先生お酒弱いのに、よくご存じなんですねぇ」  
「ふふっ、弱いけれど大人ですからね。多少の知識くらいはあるんですよ」  
 
 望がジントニックを飲んでいるからといっても、急に彼がアルコールに強くなった訳ではない。  
 スペシャルジントニックの「スペシャル」とは、この場合「ニセの」という意味である。  
 種を明かすと、望が飲んでいるのは普通のサイダーなのだ。  
 
 愛は身体がふわぁっと浮き上がってくるのを感じた。  
 おまけにぽーっと暖かい。先生の側にいることがとても幸せに感じる。  
 いつの間にかグラスを空けていた。  
 
 望は空のグラスに気付くと、黄色いカクテルを勧めた。  
「じゃあ、ちょっとサッパリしたのをいかがですか。口直しになりますし」  
「はい……」  
「サイドカーって言うんですけれど、レモンの絞り汁が入っているから、後味がさっぱりしますよ」  
「ありがとうございます〜。いただきます」  
 
 愛は望の言うまま、サイドカーに口を付けた。  
 確かにレモンの味がする。一瞬、口の中がさっぱりした気がする。後味もよい。  
 何だか訳もなく嬉しくなってきた。  
 
「先せ〜い……うふふ」  
「どうしたんですか?」  
 望が愛の側に寄ってきた。  
 
「……えへへ、何でもないです」  
 愛はにこにこしている。  
 笑うと目が細くなり、泣きボクロとあいまって、とてもチャーミングだ。  
 
「加賀さん、あなた笑顔がとても素敵ですよ」  
 望が素直に感想を述べる。  
 
「そうですかぁ? そんなこと言われたの、先生が初めてです。……嬉しいな」  
 愛はこう呟いて、グラスを一気に干した。  
 
「あっ……あなた、結構いける口ですねえ」  
「えっへへへ……」  
「最初から飲み過ぎると後が大変です。トマトジュースが入ってるので毒消しをしましょう」  
 
 望はブラッディマリーを愛に渡した。  
 
「うわぁ…真っ赤できれーい」  
「これを飲んじゃったら、もうオシマイにしましょうね」  
「え〜〜〜」  
「さ、言うこと聞いて」  
 望は片手を愛の手に重ね、もう一方の手を愛の膝に置いた。  
 
 愛の眼はさっきからトロンとしていた。  
 ブラッディマリーを何とか空けるころには、愛はへべれけになっていた。  
 だが、望とは違って、眠くはならない体質だった。  
 時折上体がふらついてはいるが、眼を閉じたりはしない。  
 
 既に足元がおぼつかなくなっている愛を、望は布団へ誘った。  
 布団は既にぴっちり並べて敷かれている。むろん枕もちゃんと隣り合わせだ。  
 
 柔らかな布団の中で、二人は息のかかるほど近くに向かい合って互いを見つめている。  
 
「加賀さん……」  
「先生……むぅ……」  
 愛は何かを言いかけたが、望の接吻で中断された。やがて愛は先生の頭をかき抱いた。  
 
 いったん二人とも唇を離すが、舌先を伸ばしててろてろと絡め合い、また唇を合わせる。  
 望が愛の上唇、下唇をつるりつるりと舐め、自分の両唇ではむはむっと優しく挟む。  
 愛も同じ仕草を返してくる。  
 
 舌先で歯茎をなぞると愛もなぞり返してくる。  
 時折ぴちゃっ、くちゅっと微かな音を立てながら舌を十分に絡ませ合う。  
 甘い吐息がどちらからともなく漏れる。  
 
 これだけのことなのに、二人にとってはなぜか無性に気持ちよい行為である。  
 じーんとした快感が、唇から秘密の回路を通じて下半身にも直に伝わってくるようだ。  
 
 ふっと唇を離した瞬間、二人の唇の間に唾液が透明な糸を引いた。  
 
      ☆  
 
 望は愛の前をはだけた。  
 
「あァ……」  
 愛が何か言いたげに喘いだ。  
 構わずブラを取り去りざま、左の乳首に舌をチロチロッ、チロチロッと這わせる。右は優しく手で摘む。  
 
「あっ……イヤッ」  
 愛が思わず声を立てた。  
 
「何がいやなんです?」  
 望が愛の白く柔らかい胸を触りながら優しく尋ねた。  
 本人はコンプレックスを持っているものの、望にはなかなか充実した中身だと思われる乳房であった。  
 
「あ……灯りを……やんッ」  
「加賀さんの綺麗な身体を見たいんですよ。温泉ではお湯に隠れてよく見えませんでしたから」  
 望は再び愛らしい乳首を口に含むと、指先を徐々に下へずらしていった。  
 
「いやぁ……」  
 愛は首を振って喘いだ。  
 
 サクランボを口に含み、美味しそうに舌先で転がしていた望は、ふとあることに気付いた。  
 愛の左の白桃を手で押し上げてみた。  
 次いでもう半分も同じように持ち上げる。  
 
      ☆  
 
「加賀さん。あなた、おっぱいの下にホクロが隠れてますね。両方とも」  
 望は感嘆したように言うと、それぞれのホクロのある辺りに代わる代わる舌を這わせた。  
 そして、チュッと音を立てて軽く吸った。  
 
「いやぁァ……恥ずかしい」  
 愛は両手で顔を覆った。  
 が、望はまたピンクの小梅を口に含むと、そのまま指を愛の秘部へ進めた。  
 
 クロッチの上からすりすりっとさする。つんつんっと指先で軽くノックする。  
 そのたびに愛は身を捩った。  
 
 ついに望が愛の純白の下着を足首へと引き下ろした。  
 愛の秘部には既に透明な蜜がとろりと湧き出ていた。  
 
 胸から舌を下に這わせ、臍を掠めて若い茂みに達する直前でいったん顔を上げた。  
 愛の脚をM字に折り曲げ、広げた。  
 
 望はそのまま再び顔を愛の恥部に寄せ、指でそおっと開いた。  
 濁った色など少しもない、清らかな滴が今にも溢れんばかりだ。  
 清楚な少女の秘めやかな世界が望の眼前に展開された。  
 
「加賀さん。ここも、綺麗で可愛いですよ」  
「いやあァ……言わないで……」  
 愛は両手で顔を覆ったままイヤイヤという風に首を振った。  
 
      ☆  
 
 甘い蜜を啜ろうとした望は、またあることに気付いた。  
 
「加賀さん……あなた、ここにもホクロがあるんですね」  
「……イヤァ!……」  
 愛はそんな場所にホクロがあるとは知らなかった。  
 自分でも知らなかった恥ずかしい秘密を、自分が慕っている望に知られてしまい、目の前が真っ白になった。  
 
――ああっ、もうお嫁に行けない……  
 
 望は愛の足首を掴んだままで言った。  
「ご存じですか。ここにホクロがある女性は、男女の秘め事が大好きなんですよ」  
 
「いや、イヤッ!先生の意地悪ッ……」  
 愛は顔を覆ったまま、また首を左右に振った。  
 あまりの恥ずかしさに、耳まで真っ赤に染まっている。  
 
 そのホクロに軽く接吻すると、望は愛の秘部を舌で突っつき始めた。  
 愛が一段と高い声で快感を告げると、スリットに沿って何度か舌先を上下させた。  
 そしてしとどに蜜に濡れた柔襞に沿って忠実に、しかも丹念に舌を這わせ始めた。  
 
「ひぁぁ……やあン……いゃぁ……」  
 愛は可愛く喘いだ。  
 開いていた足を一度大きく広げた。  
 次の瞬間、ばふっと閉じて望の頭を魅力的な太腿で挟んできた。  
 
      ☆  
 
 望は舌技を駆使し続けながら、愛の腰を掴んで徐々に上体を起こしていった。  
 やがて愛の脚を両肩に乗せたまま、胡座をかいて座った。  
 そして彼女の身体を手で支えながら、こんこんと湧き出る愛泉の水を舐めとっていった。  
 
──くちゅ、くちゅ、ちゅくっ。  
──ぴちゅ、ぴちゅ、ちゅぴっ。  
 
 望の舌が動くたび、愛の恥ずかしいところから軽やかな水音が漏れた。  
 
 愛は頭を布団につけただけで身体は望に全て支えられていた。  
 その身動きできない状態で送り込まれる淫美な快楽に、ただただ喘ぐしかなかった。  
 先生の舌のなびき、腰を掴まれ身動きできない悦び……  
 愛は受け身のままで快楽を味わうことの素晴らしさを身をもって覚えていった。  
 
 やがて望の舌が小さな真珠に焦点を合わせてきたとき、愛はひときわ大きな声を出した。  
 
「はぅっ!……ん……んあぁ」  
 自分でも声が大きいと思った。  
 以後は手の甲を口に押し当て、必死に声を我慢し始めた。  
 
 望は何とか再び声を出させようと、その愛らしい小芽を集中的に攻めた。  
 肉芽の周りを何度も周回し、往復して弾く。  
 舌先で薄い覆いをずり下げ、可愛いボタンを押す。  
 溢れてくる甘く恥ずかしい蜜を啜る。  
 
「んん〜〜ッ! ンンッ、ん!……んうぅ……」  
 愛は顔を朱に染めてまだ声を殺そうとしている。  
 が、やがて望の舌先に合わせぴくぴくっと身体が痙攣してきた。  
 そして望がすっかり姿を現した小珠に軽く吸いついたとき、愛は一際大きく呻いた。  
 
「んんーーーーーうン!!」  
 
 望の顔に透明な迸りを少し浴びせ身体を硬直させると、ぐったりとなった。  
 
      ☆  
 
 愛は今日だけで何度絶頂を味わったことだろう。  
 身体はすっかり望に開発されてしまっている。  
 
 今は荒い息をついて、布団の上にすらりとした四肢をぐったりと投げ出している。  
 呼吸に合わせ、白いふくらみが上下している。  
 小振りだが仰向けになっていても型が崩れたりなどしない。若い証拠だ。  
 
 その愛をさらに大股開きにすると、望はゆっくりのし掛かっていった。  
 
「う……はぅ……」  
 
 十分すぎるほど準備したせいか、絶棒は極めて滑らかに愛の中へ収まっていった。  
 
「加賀さん……動きますよ」  
 徐々に徐々に望の腰が動き始めた。  
 望と男女の関係になってしばらく経つが、愛の中は窮屈ながらも滑らかだ。  
 それでいて絶棒をきゅっきゅっと甘く締め付けてくる。  
 
 望が動くにつれ、愛は無造作に投げ出していた両手を再び口元へ持っていった。  
 だが、望はその手を掴み、彼女の目論見を阻止した。  
 
「先生は、あなたの声を聞きたいんですよ」  
 こう耳元で囁くと、まず愛の左手を、次いで右手を布団へ大の字に押さえつけた。  
 そうして愛を完全に支配してから、ずむっ、ずむっ、と大胆に動き始めた。  
 
「さあ、加賀さん。声を、聞かせて、下さい」 望は腰をゆっくり大きなストロークで動かしながら催促した。  
 
 すると愛は観念したのか、頭を左右に振りつつ掠れた声で喘ぎ始めた。  
 
「ひあっ……いやぁ……ああっ……やぁぁ」  
「そう、それでいいんです。先生は素直なコをヒイキしますよ」  
 
 望はわざと短く小刻みに替えてみた。  
 
「やん、やん、やん、やン」  
 愛の喘ぎ声も短く刻まれた。  
 
 なんと素直な良い娘ではないか――望は動きながら愛の従順さと心地よい摩擦快感を堪能した。  
 
 動くたび、結合部からずちゅっ、ぬちゅっという音が漏れる。  
 愛の口からも可愛い声が漏れる。  
 
「ああ……ふあぁ……やあぁ」  
 
 望はこうした音の合奏を耳にしながら、ずいっ、ずいっと腰を進ませていった。  
 
      ☆  
 
 もうすぐ。もうすぐ二人ではじけるのだ。  
 いつしか二人は快感の荒波に翻弄されていた。  
 
 望は汗だくになりながら、ラストスパートに入った。  
 
 抜きかけては深く刺し、ぐりぐりっと奥をほじる。  
 かと思えば愛の足を折り曲げ、腰を密着させ小刻みに突いたりする。  
 
「やン、やン、やッ、やッ」  
 愛の声もせっぱ詰まってきた。  
 望の腰に脚を絡ませ、頭をかき抱いた。  
 全身が朱に染まっている。愛も汗びっしょりだ。  
 
 全身が火のように熱い。  
 酔いのせいだけでなく、望があそこから狂おしいほど気持ちよい熱を生み出してくれている。  
 全身がとろけ、弾けて跳びそうだ。  
 なのに突かれているとどこか安心できる。  
 
 愛はこれまでになく高ぶっていった。  
 
 
 望もここぞとばかり激しく追い込む。淫らな水音が響く。  
 
 自分が征服しつつある少女は、自分の動きに対して確かな反応を返してくれる。  
 突けば悶えてくれるし、甘い声をあげてはきゅっと締め付けてくれる。  
 全身がどこも滑らかで若々しく、肌を合わせていてまことに心地よい。  
 
 しかもそれが自分の受け持ちの女生徒だ。  
 本来なら決して手を出してはならない、禁忌の蜜の味だ。  
 望の全身の気が絶棒に送り込まれてきた。  
 
 
 これまでにない大波が二人を襲った。  
 逆らわずに波に飲まれることにした。  
 
 こうして二人は揃って背徳のエクスタシーの極みへ手を携えて駆け上っていった。  
 
「加賀さん、先生、そろそろ、う、ううっ、う、う、ううっ!」  
「あッ、あッ、いッ、いいッ、はンッ、せ、せん、先生ーーーーッ」  
 
 愛が絶棒にしとどに蜜を絡ませ、ぎゅうっと絞り上げた。  
 目の奥で七色の閃光が飛び交う。  
 
 望は今日二回目の白い絶流を、愛の中に注ぎこんでいった。  
 
 すっかり愛の中に注ぎ終わると、望は愛を優しく抱きしめた。  
 
 望の腕に抱かれた愛の目尻から涙が一筋、泣きボクロへつうっとこぼれかかり、さらに頬へ伝っていった。  
 
 望はそれを舌先で掬い、流れた跡を舐め上がっていくと、泣きボクロに軽く接吻した。  
 
 
      ☆  
 
 
 翌日、空港の売店で愛がおみやげとして買ったのは、白いアザラシの小さなぬいぐるみだった。旭山動物園のマスコットである。  
 このコらしいな、と望は好感を持った。  
 
 当の望は空港内の売店を何軒もハシゴした。  
 まず、なぜかジンギスカンの店やら絵葉書やらの店に立ち寄った。  
 
 かと思うと、北海道のお菓子をしこたま買い込んだ。  
 白い恋人やらマルセイバターサンドやら、三方六やらロイズの生チョコやら――きりがない。  
 
 しかも宅急便でレジカウンターに山積みの分量を別送を手配したはずなのに、機内にも紙袋が破れそうなほど持ち込んでいる。  
 
「先生、本当に甘いものがお好きなんですね」  
 愛が半ばあきれたように言った。  
 幸い、二日酔いなどしていない様子である。  
 
「ええ。――そうそう、加賀さん」  
 望は愛を見た。  
「はい」  
「ご覧のとおりお菓子はたーくさん買いましたから、よかったらいつでも宿直室に食べにいらっしゃい。  
 一人で来にくかったら、みんなと一緒でいいですから」  
 
 愛はにっこり微笑んだ。  
「はい。ありがとうございます。じゃあ、きっと」  
 
――やはりこの子は笑顔がチャームポイントだ。  
 
 笑うと可愛いですよ、と本人に言いかけた。  
 が、ここが機内であることを思い出し、望も愛に微笑みかけるに留めた。  
 
 あと一時間もせずに東京だ。  
 これだけお菓子があれば、しばらくほっぽっていた他のコの機嫌も少しはおさまるだろう。  
 
 今年が二人にとって良い年でありますように。  
 
 これが今この瞬間の二人の共通の願いである。  
 
      ☆  
 
 愛を自宅方面へ向かうバスに乗せてから、望は宿直室に直行した。  
 空港に降り立ってから、胃のあたりに言いようのない不安感が芽生えていたのだ。  
 
 部屋の前まで戻ってくると、やはり宿直室には明かりが灯っている。  
 ここから一瞬でも気を抜いたら、それは即ち死を意味する。  
 
 望は深呼吸をした。戸をノックしてガラガラッと開ける。  
 
「ただいまぁ」  
「あ。お帰りなさい。」  
 流しから声がした。千里が夕食の支度をしてくれているのだ。  
 
「学会お疲れさまでした。もうすぐ出来るから、炬燵で待ってて下さい。」  
 何かを煮ているらしく、しきりに火加減を見ながら鍋の中をかき回している。  
 エプロン姿がなんだかいじらしい。  
 
「済みませんね。どうもありがとうございます」  
 押入のパットはまだ見つかっていないようだ。罪悪感に胸がチクチク痛んだ。  
 
 そうこうする内に夕食となった。  
 千里がシチューやご飯をかいがいしく炬燵の上に並べる。  
 
――やれやれ、やっぱり私は受け身から逃れられないんですかね……  
 
 暖かいシチュー(ちくわ入り)を口にしながら、望は心の中で自嘲した。  
 
      ☆  
 
 夕食の後片付けが終わって一服したところで、望が切り出した。  
 
「そうそう、これ、お土産です。いくつでも好きなのを持って帰って下さい」  
 望が千里に手渡したのは、各種の有名なお菓子の小さな包みが入った手提げ袋である。  
 
「あ、後からたくさん宅急便でも届きますから、どうぞどれだけでも遠慮なく」  
 千里が大量の北海道銘菓を手にして呆気にとられた。  
 その側で、望はさらに鞄をがさごそまさぐった。  
 
「それから、ご当地マスコットはよく分からないので買わなかったんです。  
 けれど、こんなのはあなたが好きそうだと思って買ってみたんですが」  
 
 望がようやく鞄から何かを取り出し、千里の前に出した。  
 見ると、北海道の風景を題材にした写真や水彩画、パステル画の絵はがきセット数点である。  
 旅館のロビーや空港の売店で買い求めたものだ。  
 
 千里は一枚一枚炬燵の上に並べてみた。  
 
 夕焼けに染まる白雪を抱いたニセコアンヌプリ。  
 春の若草が萌える羊蹄山。  
 一面のラベンダーがそよぐ富良野の丘。  
 
 等々、どれもこれも一度は訪れてみたくなる景色で溢れていた。  
 オーソドックスだが、皆しっかりしたメッセージ性を持っている。  
 千里の好みにも合ったものだった。  
 
 果たして、みるみる千里の顔に喜色が満ちてきた。  
 
「うわぁ……素敵! いただいちゃっていいんですか?」  
「どうぞ。全部あなたのですよ」  
「嬉しい! ありがとうございます。」  
 千里はまだ嬉しそうに絵葉書を眺めている。  
 
 望は千里の後ろに回って肩を揉み始めた。  
 
「留守中、いろいろありがとうございます。大変だったでしょう」  
「いいんですよ。大したことありませんでしたから。…………先生。」  
「ん?」  
「……私、今日、少し遅くなっても、いいんです。」  
 
 望は黙って千里の横に座ると彼女の顎に片手を添え、自分の方へついっと上向かせた。  
 そして唇を合わせた。  
 
「ん……。」千里は拒まなかった。  
 
 望は千里の肩を優しく抱き寄せ、そのまま畳へ横たえながら自分も上に重なった。  
 やがてボディラインをゆっくりなで始めた。  
 
 千里の両手がそっと望の背中に回った。  
 
 
──[完]──  
 

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