久藤が読書をしている。真剣な顔で本に向かう横顔は、端正で凛々しい。  
 
 ここは図書館である。高校の図書館にしては品揃えが豊富でユニークである。  
 そのせいか、外部からの利用客も多い。  
 
 今、久藤は新刊の棚の前で、入荷したばかりの本を読みふけっている。  
 背筋をぴんと伸ばし、本を手にする姿は実に様になっていて、まるで絵に描いたようだ。  
 
 その本の虫に熱い眼差しを注いでいる女子がいた。  
 真ん中分けの髪の毛に、それぞれお団子頭と眼鏡がよく似合っている。  
 
 二人の名は丸井と正方、茶道部員である。久藤に憧れているのは間違いなかった。  
 二人とも久藤を見つめる瞳は潤み、頬をほのかに赤く染めている。  
 丸井は手に彼宛のラブレターさえ持っている。  
 
 恋する乙女たちは、久藤には聞こえないよう、こっそりと囁き合った。  
 
「久藤くんかっこいいよね」  
「でも競争率高いよお」  
 
 ここで唐突に丸井に絡んできた者がいる。もちろん絶望先生であった。  
 丸井たちの背後からぬっと姿を現すと、当然のように二人の会話に参加してきた。  
 
「君の恋が実れば敗者が出ます。もしくは君が敗者です」  
「は?」  
「競争率一倍以下の恋をしませんか?」  
 
 
 絶望先生が丸井に絡んでいる隙に、千里が久藤の側にすっと近寄り、声を掛けた。  
 
「久藤君、ちょっと。」  
「何だい?」  
 
 久藤は読んでいた本から顔を上げた。端正でいて柔和な顔つきだ。  
 ドキッとしながらも、千里は何やら久藤に耳打ちした。  
 
「実は、ごしょごしょ……」  
 
      ☆  
 
「いっけない、遅れちゃう!」  
「急ぎましょ」  
 
 絶望先生に加えて微妙な上級生に延々と絡まれていた二人は、這々の体で図書館から逃げ出した。  
 鞄を取りに教室に戻ったところで、茶道部の開始時刻が迫っていることに気がつき、  
二人とも顔面が蒼白になった。  
 
 特に今日は丸井が亭主役、つまり茶を点てる番である。  
 万が一遅刻でもしたら、部長の千里が切れてどうなるかわかったものではない。  
 あたふたと鞄を手にすると、二人は茶道部の部室へダッシュした。  
 
「先に行くわよ」正方が駆け出す。  
「ああん、ちょっと待ってぇ!」丸井が慌てて後を追った。  
   
「し、失礼します」  
 急いで部室に飛び込み――と言っても戸をガラッと開けるのはマナー違反なので静かに開けるのだ――、恐る恐る中の様子を伺ってみた。  
 既に部屋の掃除はあらかた終わり、お道具のお手入れが始まっていた。  
 
「遅かったわね、二人とも。」  
 
 千里がジロッと睨んできた。二人は首を竦めた。  
「は、はい。どうも済みませんでした」  
 
 謝りながら、先に来ていた三角の方をそっと見た。  
 三角は、遅かったじゃないの、針のムシロだったわよ、と目で訴えている。  
 二人は視線でゴメン、と謝ってから、そそくさと掃除用具の片づけを手伝い、お道具の手入れに加わった。  
 今日は後でぜんざいを出すため、いつもより作業量が多い。  
 しばらく経つうち、何事もなかったかのように部活動は進行していくかに思えた。  
 
      ☆  
 
 先に述べたように、今日は丸井が茶を点てる番であった。  
 もちろん、正客(一番上座にいる人)は千里である。丸井は震える手で茶を点てようとした。  
 
 茶碗を湯で暖めるのは大丈夫だった。  
 次いで、その湯を捨て、茶碗に抹茶を入るため、棗(抹茶が入っている小瓶のようなもの)に触れようとした。  
 
 だが、緊張して指先の感覚が鈍ってしまっていたのか、蓋を掴み損ねて棗を倒しかけてしまった。  
 
「ほぁっ!」  
 
 丸井は慌てて左手を伸ばし、倒れかけた棗の位置を元に戻そうとした。  
 だが、左手の勢いが良すぎてかえって事態は悪化し、抹茶の詰まった棗でお手玉をする格好になった。  
 
「わたっとっとっとっとぉ」  
 
 ここでしっかりと両手で掴んでいればまだよかったかもしれない。  
 だが、運の悪いことに丸井はお手玉を続けるうちに手を滑らせてしまい、  
棗を畳に放り投げるように落としてしまった。  
 
 先ほど千里と三角が掃除したばかりの塵一つない畳に、上等の抹茶がサァーッと広がり、  
茶杓までがコロコロと小さな音をたてて転がった。  
 
「丸井さん!」さすがに千里は声を荒げた。  
「す、済みません……」丸井はまさに穴があったら入りたいとはこのことか、と自覚した。  
 
      ☆  
 
 手早く掃除した後、仕切直して再度丸井が茶を点てた。  
 
 今度は順調な滑り出しだった。茶筅の動きも危なげなかった。  
 
 その後、いつものように、茶碗を掌にのせ、左回りに二度回し、茶碗の正面を客の方に向け、右手で出す――筈だった。  
 
 だが、茶碗を回すときになって急に手が震えて力加減を誤った。  
 手が滑り、今度は点てたばかりの茶が入った茶碗を畳に落としてしまった。  
 
「ひぁあっ!?」  
 
 結局、今日の丸井は正客の千里にではなく、部室の畳にしこたま茶を振る舞う羽目になった。  
 
 果たして、丸井の度重なる失態が千里の逆鱗に触れた。  
 
「丸井さん!!」  
 
 千里の怒声が響く。丸井は縮み上がった。  
 
「は、はいぃ!」  
「あなた、今日は弛んでます!」  
「はい! どうも、済みません……」  
「掃除に遅れてきたあげく、次々に掃除の種を増やすとは、何事ですか!」  
「済みません……」  
 
 丸井は何の言い訳もできず、ただひたすら頭を下げ続けた。  
 今日は運がなかったのだ、と思いこもうとした。  
 
 だが、今回は運がないだけでは済まされなかった。  
 千里は茶道部では久しぶりに堪忍袋の尾が切れた。  
 
「お仕置きね。身体に分からせてあげます。」  
「ああっ」  
 
――やっぱり……  
 
 何となく予感はあった。  
 数日前、今日ぜんざいを作るため米粉や小豆の買い出しをしたとき、仄かな悪寒が背筋を掠めたのだった。  
 それがこんな形で具体化しようとは……  
 
「三角さん。戸に鍵をかけて。」  
「はいっ」  
 
 三角は施錠するために戸に向かった。  
 次いで千里は正方に尋ねた。  
 
「正方さん。小豆の煮たのはどうなってるかしら。」  
「はい。とろとろに煮こんで、もう砂糖も入ってるのが人肌に冷ましてあります。不意の来客に備えて、ちょっと多めに作ってます」  
 
「ん。」千里は返答に満足して頷いた。  
「ちょうどいいわ。今回のお仕置きは、『つぶ餡』をします。」  
「はいっ」  
「はい」  
「……はい〜……」  
 
      ☆  
 
 千里は畳の上に座布団を並べ、三角と正方に手伝わせてその上にシーツを敷き始めた。  
 
 丸井はのろのろと制服のリボンを解き、セーターを脱ぎかけたところで、千里が敷いたシーツの上にへたり込んだ。  
 
――あああ、部長…………助けて、久藤くん……  
 
 服を脱ぐ手が止まった丸井を、千里は叱咤した。  
「早くしなさい。……正方さん、三角さん、きっちり脱がしてあげなさい。」  
「はい、部長」  
「はいっ」  
「ふえええええん」  
 
 二人はシーツの上に丸井を横たえ、てきぱきと制服を剥いでいった。  
 
 たちまち、ピンクの水玉模様が目に鮮やかな、お揃いのブラとぱんつが露わになった。  
 
 だが、千里は素っ気なく指示した。  
 
「それも取って。」  
 
 女の子同士でもあり、何より今はお仕置きの場でもある。  
 なので、せっかくのラヴリィな下着に対しても特にコメントはないまま躊躇なく取り払われ、見る間に丸井は素っ裸にされてしまった。  
 
      ☆  
 
 丸井は裸体をシーツの上に横たえている。手で懸命に胸と秘部を隠そうとしている。  
 
 暖房が入っているので、寒くはない。  
 だが、いくら同性の前だとはいえ、裸身をさらけ出すのは恥ずかしい。  
 
「正方さん、三角さん。さ、体の上に餡を載せて。」  
「はいっ」  
 
 二人は千里の指示に従い、テキパキと準備を始めた。  
 そして、ちょうど良い加減になっている餡を掬うと丸井の胴体にぽとり、ぽとりと落とし、周りに伸ばし始めた。  
 
「ひあああああ……」  
 
 丸井は妖しい感覚に身体を捩らせた。それを千里が叱った。  
 
「こらっ。動いちゃ、駄目でしょ。」  
「は、はい〜〜〜」  
 
 丸井は何とかして堪えようとした。  
 だが、餡が胸や下腹部にまで伸ばされる際に、ぞくぞくした感覚が生じるのまでは止められなかった。  
 
 やがて、丸井の胸から下の蔭りのすぐ上まで、ほぼ一面に薄く餡が塗られた状態になった。  
 
      ☆  
 
 お仕置き「つぶ餡」はここからが本番である。  
 
 身体の上に薄く伸ばした餡を、三人で舐め取っていくのだ。  
 餡とは言っても、小豆の粒がまだ形を留めているものが多い。  
 その小豆の粒を、身体の上で、唇で挟んで潰していく。  
 潰したら、その印にキスマークをつけていく。  
 
 正方と三角が上半分を、部長の千里が下半分を担当することになった。  
 
――あああああ……  
 
 不安で心が一杯になっているところへ、ぞろり、と三カ所で同時に舌が触れてきた。  
 
――ひあぁっ!?  
 
 舐められた所から、たちまち電流が全身に走った。  
 その流れは頭を痺れさせ、身体の心を解していくかのようだった。  
 甘美な電流は次から次へと生じ、丸井を慌てさせた。  
 単にピリピリくるだけではなく、舌のそよぎや唇の軽い吸い上げが心地よく感じるようになってしまったのだ。  
   
 体中を舌が這い回り、キスマークを付けられる感覚に丸井は我を忘れそうになった。  
 
 だが、あくまでお仕置きであるから、素直に快感を訴えるわけにはいかない。  
 できるだけ声をあげず、動かないよう、我慢しなければならないのだ。  
 
 正方と三角が胸を攻めてきた。  
 
 そんなに大きくはない膨らみの裾野に付いている餡を舐めとる。わざと舌先を乳輪に掠める。  
 そして小豆の粒があったところで唇をはむはむし、ちゅうっときつく吸いつく。  
 
 一連の所作を、あるときは鏡で写したように二人が同じ動きをする。  
 そしてまたある時は、別々の独立した動きで丸井を喘がせるのだ。  
 
「うぅ……はん……はぅっ……」  
 
 声を出せない分よけいに快感がつのり、丸井は身体の奥から露が滴ってくるのを自覚した。  
 
 そろそろ自分の秘所に近づきつつある千里に、もしや自分が濡れているのがバレやしないかと気が気でなかった。  
 
      ☆  
 
 乳首を唇で挟んでふにふにと甘噛みしていた正方と三角が口々に言った。  
 
「あれぇえ? この小豆の粒、なかなか潰れないわねえ」  
「そっちも? おまけに、だんだん大きくなるわ」  
 
 二人は口々に言いながら、さらに刺激を加えてくる。  
 自分でも分かるほど、乳首が勃ってその姿をアピールしている。  
 二人がその頂をついばむ度に、そこからじんじんした甘い電流が全身に伝わっていく。  
   
 丸井はしきりにつま先を膝を丸めたり手を握りしめたりしていた。  
 だが、ついに堪えきれずに大きく喘いでしまった。  
 
「ひゃあああん」  
「丸井さん、声が大きいわよ。」  
 
 千里がすかさず注意した。  
 そのくせ自分は丸井の白い腹、特に臍周りを丁寧にねちっこく舐めつつ攻めている。  
 
「は、はいぃ……すみません。……あぁんっ」  
 
 丸井は懸命に堪えようとした。  
 だが、一度喘ぎ声が出てしまうと、もう堪え性がなくなってしまい、どうしても押さえ込むことができない。  
 丸井は小さく喘ぎ続けた。  
 
「うっ……あん……やぁ……んっ……」  
 
 丸井は無意識に膝を立てた。  
 だが、その膝を千里が割ってきた。  
 丸井の脚の間に陣取り、二つ折りにした座布団を丸井の腰の下に敷いた。  
 そして、両手で太腿を押し広げると、下級生のまだ若い叢に舌を這わせてきた。  
 
「はぁん!……ぶ、部長」  
 丸井はたまらず腰を逃がそうとした。  
 
「だーめ。」  
 だが、千里は浮いた腰を押さえつけると、秘裂に沿って舌先を幾度もスライドさせた。  
 そして、その舌先を尖らせて丸井の中に入り込み、柔襞に沿って丁寧になぞった。  
 
「ひゃああん! 許して、下さい……はぅうん!」  
 
 前回のお仕置き以来の妖しい感覚に、丸井はたまらずずり上がろうとした。  
 だが、上半身は、胸を攻めている正方と三角にがっちり押さえ込まれている。  
 丸井は人前で達してしまう予感に震えた。  
 
「それじゃあ、最後の仕上げ、いくわよ。」  
「はいっ!」  
 
 お仕置き「つぶ餡」はラストに入った。  
 
 丸井の三つの「豆」を、三人で同時に攻めるのである。  
 両乳首は三角と正方が、クリは千里が担当する。  
 
 タイミングを合わせて、丸井の小豆をねっとり舐め回す。唇で軽く挟んではむはむする。  
 
 それから、豆の周りを舌先でゆっくり一周させる。れろれろっと軽快に何度も弾く。  
 むにゅっと押し潰してみる。  
 
 仕上げに、ちゅううっときつく吸い上げる。  
 
「ふぁあっ、あはん、うぅぅ……ああぁんっ!」  
 丸井は三人の息の合ったお仕置きに翻弄された。  
 このお仕置きでは、最終的に皆の前でイくまで許して貰えない。  
 このまま順調にいっても丸井が絶頂に達するのは明らかだった。  
 
      ☆  
 
 だが、ここで千里が丸井の秘所に、舌だけでなく指まで添えてきた。  
 この間絶望先生と身体を合わせたときにされた技を、早速試してみようと思ったのだ。  
 
 「これくらい濡れていれば、大丈夫かしらね。」  
 千里は、丸井の中に中指を挿入していった。もちろん柔壁を傷つけないように、慎重にそおーっと入れていく。  
 
「ふああああん」  
 丸井は新たな刺激に思わず声を漏らした。  
 
 やがて少し奥に入った上壁あたりに秘密のスポットを探り当てると、千里は指先でそのままつんっと押してみた。  
 
「ここね。これでどうかしら。」  
「ひゃうぅん!!」  
 
 丸井の目の前に極彩色の火花が飛び散った。  
 未知の強烈な快感に、目の前が一瞬真っ白になり、何も考えられなくなった。  
 トレードマークのお団子頭をしきりに左右に振って、真っ赤な顔をして千里に許しを乞うた。  
 
「はああぁん! そこだめぇ! 怖いコワい! 部長、許して下さ〜〜い」  
 
 丸井の反応に気を良くした千里は、さらに続けてそこを攻めた。  
 
「まだまだ。それそれ!」  
「ひやああ! 駄目だめダメですぅ〜! 飛んじゃいますぅ! いやああああああああん!」  
 
 丸井は全身をガクガク震わせ始めた。  
 丸井のスイートスポットをきっちり把握した千里が、トドメとばかりにぎゅうっと指先を押しつけた。  
 
「これで、どうかしら?」  
「ふああああああああああああああああん!!」  
 
 なおも千里がぐりぐりぐりっと刺激を与えながら脇に退くと、丸井は弓なりに背を反らし、  
透明な蜜をピュウッ、ピュッと間欠泉のように吹き上げた。  
 
 恥ずかしい潮はきれいな弧を描いて、千里のいたあたりからシーツぎりぎり一杯の所まで何度も飛んだ。  
 
 そうして三人の見守る中、丸井はついに若々しい絶頂に達し、かくてお仕置き「つぶ餡」は無事、成功裡に終了した。  
 
「ふああぁぁ……ああん……」  
 丸井は全身を朱に染め、荒い息をつきながらぐったり手足を投げ出している。  
 そんな丸井を見ながら三角と正方の二人はこそこそと囁き合った。  
「丸井ちゃん、前よりも敏感になったわねえ」  
「うん。なんだかスゴいなあ」  
「あんなに潮吹くなんて」  
「気持ちいいんだろうなぁ」  
 正方など、丸井がお仕置きを受けたというのにどこか羨ましげである。  
 
「さあ、『つぶ餡』のお仕置きは終わったわ。身体を拭いてあげましょう」  
「はいっ」  
 丸井は、三人の手で全身をウェットティッシュで丁寧に拭われた。  
 さらにお湯で絞ったタオルでごしごしと拭かれ、餡のべとつきはなくなった。  
 みんなの目の前で派手に達してしまった丸井は、まだその残り火が体内でくすぶっているようだ。  
 全身に力が入らないで、どこか心ここにあらず、という調子でのろのろと衣服を身につけていく。  
 ようやく元通りに身なりを整えたところで、千里が丸井にメモ用紙を手渡した。  
「はい、これ。」  
 丸井はまだぼーっとした様子でメモに目を通した。  
 柔らかみのある端正な文字で、ケータイの番号とメアドが書いてある。だが、千里の字ではない。  
「部長、これ……」  
「久藤君のよ。書いてもらったの。本人には、あなたに渡す了解取ってあるから。」  
「部長!」丸井の顔がパッと輝いた。  
「あ、ありがとうございます!!」  
「部員の世話をするのも部長の務め。気にしないで。それより、お手紙はきっちり渡して、バレンタインに向けて、頑張るのよ。」  
「はいっ! どうもありがとうございます!!」  
 丸井が頭を下げる側で、もうお稽古は終わりと見たのか、正方が素朴な疑問を口にした。  
「あれ? じゃあ部長は誰にチョコをあげるんですかぁ?」  
「私てっきり部長と久藤センパイっていい仲なのかなって……」三角も付け加えた。  
「何言ってるの。」千里は即座に否定した。  
「じゃあ、他に好きな方がいらっしゃるんですか?」丸井が尋ねた。  
「そ、それは……。」千里はたちまち額まで朱に染めた。  
「シ、シーツ洗ってくるわね。」その場を逃げるようにシーツを持って駆けだした。  
 
      ☆  
 
 あっけにとられて千里の後ろ姿を見ていた三人が、やがて口を開いた。  
 
「見たぁ?」  
「うん。耳まで真っ赤になって。あんな部長、初めて見たわ」  
「こりゃあ、絶望先生と付き合ってるって噂は本物ね」正方が呟いた。  
「きゃー、やっぱり!?」三角が納得したように合いの手を入れる。  
「ひゃあぁ……オトナだなあ、部長」丸井が感心して言った。  
「そういえば、最近部長って優しくなったと思わない?」  
 ここで、正方が思いついたことを口にした。 二人も口々に同意した。  
「なったなった!」  
「うんうん」  
「こないだ読んだ雑誌に書いてあったんだけどさあ」ここで正方は急に声を潜めた。  
「性格のきつい女の人が、男の人とえっちを重ねるとぉ、欲求不満が解消されて、性格が穏やかになるんだって」  
 一気に話が下がかった方面に堕ちて、娘たちの声が桃色に染まった。  
「えーー!? 本当ぉー!?」  
「きゃー! やだぁー!」  
「ねねね、ということは、部長は」  
 興奮した口調で三角が言うと、丸井が跡を継いだ。  
「もしかして……」  
「そう! 絶望先生と、えっちしまくり!!」 正方が断言した。声が大きくなっていた。  
「きゃあーーーーーー!!」  
「ひゃあああああああ!!」  
 
──ガラッ  
 
 突然戸が開いて、千里が入ってきた。  
 
「ちょっと。あんたたち!」  
「はわわっ」  
「わたっ」  
「うひゃ」  
 
 慌てて三人は正座し、千里を迎え入れようとした。  
 部室の入り口に立ったままの千里は、こめかみに青筋を浮かべ、シートを握りしめた手がわなわなと震えている。  
 
 額に冷や汗を浮かべて三角が恐る恐る尋ねた。  
 
「ぶ、部長……いつからそこへ?」  
「さっきからいたわよ。洗剤を忘れたので取りに戻ってみれば、あなたたちは、もう!」  
「ご、ごめんなさーい」  
「すみませーん」  
「すみませんでしたぁ」  
 三人娘は平伏した。  
 
「正方さん。あなた、さっき目の前で『つぶ餡』のお仕置きを見たばかりでしょう。」  
「はい……」  
「それでもまだ分かってもらえないのなら、仕方ありません。あなたには『こし餡』を受けてもらいます。」  
「えぇーーーっ!?」  
「丸井さん。戸に鍵を掛けて!」  
「は、はいっ!」  
 
 ここで躊躇すれば、自分もまた恥ずかしいお仕置きを受けなばならない。  
 丸井は弾かれたように戸口へ飛んでいって施錠した。  
 
「じゃあ、覚悟なさい。」  
 
 千里が別のシーツを敷くと、そこへ正方を押し倒した。  
 三角が正方を押さえつけながら制服を脱がせていった。  
 戻ってきた丸井もそれに加わった。  
 
 正方はこれからのお仕置きに恐怖半分、そして期待半分で叫んだ。  
 
「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁん!」  
 
 
──[完]──  
 
 

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