──ヒョオオオオォォォ……!  
 
ところが、望が扉を開けた途端、一陣の旋風が吹き込んできた。  
 
「うわあああぁぁっ!」  
 
 望はお堂の中央まで吹き飛ばされてしまった。  
彼が床に倒れる音で、まといがはっと目を覚ました。  
 
「……先生?」  
 
 自分と固く抱き合っていたはずの望が側にいない。  
あわてて音のした方を見ると、望が無様に倒れているではないか。  
 
「ぅぅぅ……」  
「先生!」  
 
 まといは望の元に駆け寄り、抱き起こした。  
 
「先生! しっかりして下さい!」  
「うぅ……つ、常月さん……」  
 
 望が弱々しく扉の方を指さした。まといは望の指す方を見ると、息を呑んだ。  
 
「こ、これは!」  
 
 外はまだ真っ暗だった。  
望はまんまと物の怪の計略にはまり、夜が明けるまでは決して開けてはならない扉を、  
自分の手で開けてしまったのだ。  
 
 果たして、あまたの亡霊がわらわらと堂内に入り込み、あっという間に二人を取り囲んできた。  
 
『フォッフォッフォッ……フォッフォッフォッ……』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
 
 二人が肩を寄せ合って震えているところへ、開いている入り口から手錠が二つ、  
すーっと空中を飛んでくると、望たちの目の前でぴたっと止まった。  
 
――そ、その手錠は!  
 
 望は見覚えがある手錠にハッとした。  
自分が電車に乗る際に備えて常に持ち歩いている手錠なのだ。  
 
 手錠や睡眠薬やエンヤのCDを収めた旅立ちパックは、お堂に籠もる前に兄の景に預けていた筈である。  
 
――な、なぜあれがここに!?  
 
 望は混乱した。  
だが、解答を出す前に手錠は二人の目の前でパッと八つに分裂すると、いきなり望たちに飛びついてきた。  
 
「わっ!!」  
「きゃあっ!!」  
──ガチャッ、ガチャッ、ガチャリ、……  
 
 恐れおののく二人の手足に手錠がはまった。  
そして両手首にかかった手錠のもう片方が、頭上にある見えない留め具に掛けられた。  
その留め具がお堂の天井に向かって徐々に浮き上がるにつれ、二人は強制的に万歳をさせられ、  
どんどん吊り上げられていく。  
しまいには、否応なしに立たされてしまう。  
 
「うう、何をする! 離せ、霊!」  
「いやっ! 離して!! 離してったら!!」  
 
 だが、足首にはまった錠も同様に、二人を徐々に空中へ誘っていく。  
せめて足は床につけていたいと思っても、爪先立ちに、そして空中へ……  
ついに爪先も床から離れ、二人は完全に空中へ吊り上げられてしまった。  
 
 二人が完全に宙吊りにされ、万歳をさせられた状態になったのを見極めたかのように、  
留め具がぎりぎりと左右に分かれ、手錠が掛けられてもなおばたつく手足を無理矢理開いていく。  
二人がどんなに抵抗しても、開いていくペースはあくまで一定で、微塵も揺るぎがない。  
 
 やがて、二人は全裸で宙吊りにされたまま、大の字に拘束されてしまった。  
しかも向かい合わせである。  
互いに相手の裸が丸見えだが、今はそれを恥ずかしがっている余裕などなかった。  
 
 二人が身を捩るときに乳房や絶棒がぷるん、ぷるるんっと揺れた。  
だが、いくら身体を揺すっても、手錠がわずかに音を立てるだけで、見えない磔台からは逃れることができない。  
二人は絶望的な気分になりながら、なお抵抗を試みた。  
 
「は、離せ!」  
「下ろしてよっ!」  
 
 二人の叫びをよそに、亡霊どもは絶棒を気味悪く見つめながら会話を交わしていた。  
 
『ヒヒヒ……手間ヲ掛ケサセオッテ』  
『今度コソ、持ッテイッテクレヨウ』  
 
 やがて人外の手が絶棒を握り、ぐいぐい引っ張ってきた。  
望は今度こそ絶望を引き抜かれてしまうという恐怖に駆られた。  
 
「いやああああああ!」  
『……ム?』  
 
 だが、絶棒が引きちぎられることはなかった。  
冷やっとした手で握っていた物の怪は、絶棒がしっとり濡れているのに気付くと仲間に声を掛けた。  
 
『チョットコレヲ見ロ』  
 
 物の怪どもが絶棒の周りに集まってきた。  
そしてグロテスクな手の中で恐怖に縮こまっている絶棒を注意深く眺めた。  
 
『フム……濡レテイル』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
 
 ついでまといの秘部を覗き込むと、口々にくぐもった笑い声をたてた。  
 
『フォッフォッフォッ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
『……ヤハリナ』  
 
 ある亡霊が、まといの秘部に二人が愛を交わした名残があることに気付いた。  
すぐにその旨を仲間に伝えると、他の物の怪たちも寄ってたかって覗き込んできた。  
 
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
『フォッフォッフォッ……フォッフォッフォッ……』  
『ヒヒヒ……コレハイイ』  
『モットヨク見セロ』  
 
 まといの秘裂には上からお経が書いてある。  
だが長い間絶棒が入っていた名残で、今は少し隙間ができ、サーモンピンクのまとい自身が可憐な姿を覗かせている。  
そこを悪鬼どもに覗き込まれているのだった。  
 
『モットダ。モットヨク見セロ』  
「ああ……いやぁっ」  
 
 まといの脚がぎりぎりと開かれていった。  
普段なら絶対に人目に晒さない自分の秘部、それも愛を交わした後のそれを、  
よりによって数多の物の怪に見られてしまう恥ずかしさに、まといは身が竦む思いになっだ。  
なんとかして足を閉じようとしたが、足首にはめられた枷はびくともしなかった。  
 
      ☆  
 
 今やまといの脚は大きく開かれ、美しい太腿がぴーんと張っている。  
その合わせ目にある露を含んだ美しい若叢の下に亡霊が群がり、潤んだ媚肉を濁った目で覗き込んでくる。  
 
「ああっ、嫌っ! 見ないでぇ!!」  
『フウム、コレハコレハ……』  
『ナカナカ淫靡ナ色ニ染マッテオルデハナイカ』  
『本気汁ガタップリ出テオル』  
『キット淫乱ナ質ダナ』  
『中ノ具合モサゾ良カロウテ』  
『フォッフォッフォッ……フォッフォッフォッ……』  
 
 まといは人外どもに愛の名残を興味本位に見られ、自分の恥部を下品に論評されることに耐えがたい恥辱を覚えた。  
 
『ドウセナラ』  
 
 ここで亡霊が恐ろしい企みを口にした。  
 
『コノ女モアチラニ持ッテイコウ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
『ソレハイイ。向コウデ慰ミモノニシテヤロウ』  
 
 亡霊どもは、彼女をあちらの世界に連れ帰って邪欲の餌食にしようというのだ。  
まといは恐ろしさに卒倒しそうになった。  
 
 物の怪どもが額を寄せ集めて相談し合った結果、まといの愛液や望の先走りで少女の全身の文字を消し、  
経文を無力化してまといを持っていこうということになった。  
 
『フォッフォッフォッ……ソレハイイ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
「いや、や、止めてっ!……いやああぁぁ!」  
 
 恐れおののくまといの目の前に筆が飛んできた。  
望がまといの全身にお経を書いた筆だ。  
その筆が、彼女に見せつけるようにゆっくりと数本に分裂した。  
そして、そのうちの一本がまといの秘部に徐々に近づいてきた。  
 
「いやあああっ! こ、来ないでええ!!」  
 
 まといは絶叫した。だが物の怪は楽しそうに計略の開始を宣言した。  
 
『ソウ心配セズトモヨイ。コレカラ死ヌホドイイ気持チニサセテヤロウ』  
 
 あと少しでまといの中に穂先を入れ込むばかりだった筆が、いったん左の膝の裏に回った。  
別の筆が右膝の裏に飛んで来た。  
 
──サワ……サワサワ……サワ……  
 
 二本の筆が、同時に太腿を少しずつ掃きながらゆっくり這い上っていった。  
 
「あああ……」  
 
 まといは気味悪さに鳥肌が立った。  
だが、意外にも穂先の感触は柔らかい。  
穂先がさわさわと肌を撫で上げてくるむずがゆい感触が、徐々に性感に変わっていく。  
まといは戸惑った。  
 
――ああ……いやよ、いやぁ!  
 
 筆が内腿へ移動してきた。  
いつもは望の舌が這う柔肌を、今は妖かしの筆が這い進んでいる。  
 
 性感帯を的確に選んでちろちろと這っていく筆の動きが、夜の間に望と愛を交わし、  
燃え上がった身体の芯の残り火に火を点けた。  
 
 筆が二本とも太腿の付け根にたどり着いた。  
ただでさえ敏感な処を念入りにさわさわと掃かれて、かすかに汗ばんできた太腿がぴくん、と震えた。  
 
 なおもゆるゆると移動していた穂先が、茂みのすぐそばを移動していく。  
しばらく生え際を丹念に辿っていたが、やがて茂みの中に分け入ってきた。  
 
――ああぁ、いや、いやぁ……!  
 
 まといは自分がどうなってしまうのか不安で怯えた。  
 
 ついに邪悪な筆先がまといの秘裂を割り込んできた。  
一本がクレヴァスの上へ穂先を滑り込ませてくる。  
もう一本はそのまま下の方で会陰付近を散歩していて、いつでも参戦できるよう待機している。  
 
「ああ、は、入ってくる! いやっ、いやああ!」  
 
 上からそろりと侵入した筆は、迷うことなく秘豆を目指してきた。  
目標地点の付近に達すると、その極細の毛の集まりが豆の周りを撫でるように丸く掃いてきた。  
 
──サリ、サリッ……スッスッ……サワサワッ……  
 
 まといの秘豆は、望との情交でルビーのように色づき、ぷっくりと膨らんでいたのが  
ようやく収まりかけてきたところであった。  
それが淫微な筆先の刺激によって、瞬く間に再び大きく膨らみ始め、真っ赤にされていく。  
鋭く甘い刺激に、たまらずまといの腰が何度も跳ねた。  
 
「はああっ! いやっ……やああ!」  
──じゅん……じわぁ……  
 
 まといは恥ずかしい液体が自分の奥から湧き出してくるのがわかったが、自分ではどうしようもなかった。  
 
 それを待ちかまえていたかのように、会陰辺りをねちねち撫でていた下の筆が、ぬっと中に侵入してきた。  
潤んだ入り口付近を穂先がひとしきり動き回ると、奥へ奥へと入り込んでいく。  
そして容赦なく中で踊り回る。  
 
「はぐっ……ぐうぅ……んぅ……」  
 
その動きは執拗であった。  
中の柔襞を丁寧に丁寧に撫でては、自身を襞に擦りつける。  
それを各襞毎に飽きることなく繰り返す。  
まるで湧き出ている愛液を全て筆に含ませるかのようであった。  
 
「だめっ!止してえええ! う……はぅっ!」  
 
 一本でさえ堪えきれないのに、二本で縦横に責められてはひとたまりもない。  
間もなく物の怪が操る妖かしの筆の手による屈辱的な絶頂へ追い込まれていった。  
 
「あうっ、うっ、あっ……はううっ!」  
 
 別の筆が闇の中からすうっと現れた。  
迷わずまといの恥部に頭を突っ込んできたかと思うと、包皮の間からすっかり姿を現している  
赤く光った頭をその尖った穂先で一度突いた。  
 
──つんっ!  
「ひゃうっ!」  
 
 まといの眼前に大きな火花が飛んだ。  
強い電流が秘部から直接脳に流れた。  
 
――な、何なのッ……!  
 
 快感の波紋が体中を駆け巡り、まといが息もできないでいる内に、今度は二度突いてきた。  
 
──つん、つんっ!  
「あんっ、あうっ!」  
 
 さらに強烈な電火が二連発で来た。  
いつまでも快感の余韻を下半身に残した。  
もちろん、その間も先発の二本の筆は休まずまといを責めているので、余韻が減じることはなかった。  
 
 仕上げとばかり、新入りの筆が秘豆の頭を大きく掃き始めた。  
 
──ザッ!ザッ!ザッ!……  
「はああッ!……あぅ、あぁん…あああーーーっ!!」  
 
 手錠の鎖が激しくガチャガチャと音を立てた。  
今度は掃く動きを止める気配はない。  
それどころか穂の腰を生かしてリズミカルに往復する動きはますます速く激しくなる。  
 
 まといは腰をガクガク震わせながら、ついに悪霊の手による絶頂に達してしまった。  
 
 やがて愛液をたっぷり含んだ下の筆がつーっと離れ、まといの身体に自身の恥蜜をなすり付け始めた。  
 
 望は、さっきからまといが淫らに責められる様子を半ば呆然として眺めていた。  
不謹慎極まりないが、その責めに悶える裸身は美しかった。  
美しい蝶が見えない蜘蛛の巣に捕まって、最期の舞を舞っているように思えた。  
 
――ああ、私のせいで!  
 
 望は目をギュッとつぶった。  
ところが、亡霊はそれを許さなかった。  
 
『見セテヤロウ』  
 
 望の耳元で亡霊の冷たい声が響いた。  
旅立ちパックの中にあったテープがフラフラッと飛んでくると、先がちぎれ、さらに四本に分かれた。  
それぞれの一端が器用に眼鏡をかい潜って望の瞼の上下に貼り付き、  
目を強制的に開かせるように瞼をぐいっと引っ張って留めた。  
これで望は目を閉じるどころか、瞬きさえできなくなった。  
 
「ひぃっ! だめダメ! っんう……ハアウウゥゥゥッ!!」  
 
 まといのせっぱつまった声が耳に刺さった。  
見てはいけないと思いつつも、つい視線がいってしまう。  
 
 まといは髪を振り乱して責めに耐えていた。  
全身に経文を書いた美しい裸身が汗に濡れ、揺れている。  
秘部に筆が取り付き、淫らな動きでまといを翻弄している。  
望は思わず声を掛けた。  
 
「つ、常月さん! 大丈夫ですか」  
 
 まといは望の視線に気が付いた。  
 
「あああ、先生、見ないでっ! 見ないでぇ……」  
「す、すみません……」  
 
 望は慌てて顔を背けた。  
だが、今見ていたまといの裸身が悶える姿が瞼の奥から離れない。  
いつしか絶棒が痛いほど勃起していた。  
それでも、教え子が危難に遭っている姿で欲情するのは最低の教師だ、と思い直し、必死に絶棒を鎮めようとした。  
 
 だが、亡霊は容赦がなかった。  
 
『遠慮シナイデヨイ』  
 
 耳元で嗄れた声がすると、これも旅立ちパックにあったエンヤのCDが三枚飛んできた。  
CDの入ったジャケットが、左右の頬と顎の下に貼り付くと、望の顔をまといの方へ向けた。  
そしてそのまま望の頭部をがっちり固定した。  
三方から顔の向きを固められ、瞼を開きっ放しにされた望は、  
これ以上まといの痴態を見ないですむ方法が無くなってしまった。  
 
「はあぁん……いやっ、いやぁっ!……恥ずかしい……見ちゃいやぁ…っうんっ!」  
「ああ……すみません、すみません……」  
 
 申し訳ないと思いつつも、まといのあられもない姿を目にして、絶棒は十代の若者のように反り返った。  
まといが声をあげる度に先走りが後から後から出た。  
 
 その先走りを亡霊が待ち構えていた。  
絶棒が漏らした透明な露は、怪しい筆によって残らず掬われた。  
その筆先が鈴口を走る微妙な感覚に、望も思わず声を出してしまった。  
 
「ひぁ……くぅ……はああぁぁっ!」  
 
 掬い終わった筆から順に、まといの元へ飛んでいってその肌に望の先走り液を擦り付け始めた。  
 
      ☆  
 
 まといの秘部に、また執拗な攻撃がされていた。  
一度達したからといって亡霊は容赦などしない。  
このまま連続して絶頂を極めさせ、より多くの愛液を出させるべく、新たに淫らな刺激が加えられた。  
 
 まといの秘豆を責めていた筆の穂先が二股に分かれた。  
というより、穂の本体からほんの一部が枝分かれした、という方が正しい。  
 
 その枝分かれした方が、既に充血し大きくなっている秘豆と、剥けかけている包皮の間の溝に入り込んできた。  
そして本体と併せて溝を掃除するようにさっさっさっと小刻みに掃いてきた。  
 
「ひ、ひぃっ!……だめ、それは駄目ぇ!」  
 
 まといはあまりに鋭く細かい快感の束の襲来に、目の前が真っ白になった。  
愛液がとめどもなく湧いて出た。  
まるで自身の奥の蛇口が閉まりきらずに漏れ出しているようだった。  
それを筆が交代で掬っては全身に擦っていく。  
 
 まといは腰を捩って何とか淫靡な穂先の責めから逃げようとするが、その筆が腰の動きを正確に追尾し、  
逃げる隙を全く与えなかった。  
どこまでもまといを追い込むために、溝の隙間・豆の外側を何度も何度も周回して丁寧に掃き清めていった。  
 
「はぁう……っくぅん……あぐぅ…もう」  
 
 まといが再度達しそうなのを察知した筆は、豆の周りを回るスピードを倍にした。  
溝と秘豆の横を高速で擦られる刺激は、普通の女子高生がとうてい耐えられるものではない。  
 
「いやぁっ…あう、あぅ、…あぐああぁっ!」  
 
 まといはまた人外の手で屈辱の絶頂に連れて行かれた。  
恥ずかしい蜜を後から後から吐き出し、妖かしの筆の掬い取るままにされていった。  
 
      ☆  
 
 一方、まといの裸身に、まとい自身の吐蜜や望の先走り液を塗り付けていた亡霊は、  
予期せぬ事態に困惑していた。  
 
『オカシイ……一文字モ消エナイ』  
『アレダケ塗リツケテモカ』  
   
 二人の液が塗られた部分は、堂内の薄暗い蝋燭の炎のわずかな明かりを反射して鈍く光っている。  
だが、文字は消えるどころか、一文字として薄くなってさえいなかった。  
 
 これではまといを亡霊たちの世界に連れていけない。  
望の絶棒に執着するモノは、確実な成果を求めてじれた。  
絶棒を握りしめてぐいぐい引っ張りながらせっついた。  
 
『今コレヲ持ッテ行コウデハナイカ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
 
 だが、女体に執着する亡霊も多数あった。  
そちらの方が、さらに淫らな計画を提示してきた。  
 
『女ヲ諦メルノハ惜シイ。ドウセナラダ』  
『絞レルトコロカラ絞リアゲテ文字ヲ消セバヨイ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
『ブッカケテ文字ヲ消ソウ』  
『ウム。何トカシテ連レテ行クゾ』  
『闇ノ世界デ永遠ニ弄ンデヤルノダ』  
『フォッフォッフォッ……ソウスルカ』  
 
 結局、まといをもっと感じさせて濃い本気汁を出させる。  
そして、望の男汁も搾れるだけ絞ってまといの上から掛ける。  
双方の液を引き伸ばして文字を塗りつぶし、経文の力を消すことで亡霊どもの意見が一致した。  
 
      ☆  
 
 ここで、空中で磔にされていたまといの頭が徐々に後へ倒されていき、  
床に水平に仰向けにされたところで止まった。  
見かけ上、地上約50センチの所で見えないベッドの上に拘束されているようだ。  
もちろん四肢は大の字に広げられ、きつく拘束されたままである。  
 
 続いて望もまといの上二・三寸のあたりでうつ伏せに固定された。  
後少しで互いに触れ合えそうだが、縛めのため決して触れられない。  
どんなに手を握りあって互いに励まし合いたいと思っても叶わない。  
二人は視線を見合わせた。  
 
「ああ、常月さん……」  
「先生! ううっ」  
 
 まといは思わず悔し涙を流した。  
だが、それを合図にしたかのように、非情で淫らな責めが再開された。  
 
      ☆  
 
 筆がさらに数多く分裂すると、まといの胸や背中、項、臍など、全身の性感帯に取り付いて一斉に撫で始めた。  
 
 ──さわさわっ──すーーっ──スリスリスリッ……  
  ──ジワジワ──すっすっすっ──シュルリンシュルリン……  
 
「はああっ! いやっ、いやあ! あう……」  
 
 まといは望に至近距離で見られながら妖かしのモノに全身を責められることで、  
羞恥心と相まってかえって快感が倍増してしまった。  
 
 まといの胸に取り付いた筆は、美しい膨らみの裾野をちろちろと這い回っていたかと思うと、  
徐々に頂に向かって穂先を進めてきた。  
そして、乳輪に沿って円を描くようにしつこくしつこく撫で回した。  
 
――ああっ、そんなに一度にされたら……私、堕ちちゃうぅ……  
 
 まといは股間や全身を這い回る筆が否応なしに与えてくる快感に加え、  
望が胸に経文を書いてくれた時の感覚がはっきり蘇ってきた。  
しかも、その時より何倍にも強力で、彼女を堕落させようとする邪悪な意図をはっきりと持った動きである。  
乳首は痛いほど勃起して、ジンジン痺れている。  
その痺れに身を任せていたら取り返しがつかなくなることが頭では分かる。  
だがまといはまったく抵抗できず、愛する人の目の前で、人外のモノが加えてくる快感で喘がざるを得なかった。  
 
 望を拘束している位置が、まといの胸がよく見える位置へスライドされた。  
もちろん、まといがその美乳を責められる様子を見せつけ、絶棒をさらに勃起させ、  
先走りの露を多く滴らせよようとする黒い意図でされたのである。  
 
 望の眼前わずか数センチの所で、恥ずかしげに頭をもたげたまといの桜色の両乳首に筆の穂先が被さり、  
ぐいっと押しつけられた。  
一見すると、毛でできた吸盤が乳頭に吸い付いているようにみえた。  
もちろん、乳首には穂先の細かい繊毛が触れ、ただ触れているだけでも実にむず痒い刺激を加えているのである。  
 
――あああ、先生に見られて、見られてるうぅぅ!  
 
 この段階では、まといは乳首の刺激もさることながら、望に見られていることの羞恥が勝っていた。  
だが、乳首に被さっていた筆が徐々に回転を始め、そのスピードが増してからは羞恥を感じる余裕が無くなった。  
 
──シュルシュルススススススシュルルルル……!  
「ひぁぁああ……止めて、やめ……いやああぁぁ!」  
 
 音を立てて回転する邪悪な穂先から両乳首へ送り込まれた快感が胸から溢れだし、  
熱い電流の束となって後から後から脳髄へ流れ込んできた。  
 
 今や筆は乳首に被さったまま高速で回転している。  
繊毛がまといに与える刺激は尋常のものではない。  
まといは望の目の前で何度も背を仰け反らせた。  
 
      ☆  
 
 望はまといの凄惨な乳首責めを至近距離で子細に見せられ、絶棒は痛いほど勃起していた。  
望は自分の教え子が自分の不注意のせいで恥辱を受けているのに、  
その姿を見て浅ましく欲情し勃起してしまう自分を恥じた。  
 
――ああ、常月さんが淫らな責めに遭っているというのに……  
「ひぁっ!」  
 
 突然、望の思考が中断された。  
絶棒を亡霊の手が握ってきたのだ。  
そしてぐいぐいと扱いてきた。  
 
――な、なんですか、これ……ひあああっ!  
 
 頭がまといを見るように固定されているので、望にはどんな手が握っているのかは見えない。  
が、邪悪な意志を持っていることだけは分かった。  
 
 冷たいしっとりとした手だった。  
そして、やけに扱きが手慣れていた。  
 
 望がこれまでに女性に手で慰められた経験はある。  
単にあるというより、多少やんちゃだった学生時代から、教職に就いて以降絶望ガールズによるものまで、  
なかなか豊富で多彩である。  
 
 だが、この亡霊の手はその誰のものとも違うテクニックを持っていた。  
 
 掌を絶棒の上から軽く被せ、すっと亀頭を軽く握り、数本の指先で裏筋をぷにぷにと押さえる。  
そして、親指と人差し指をきちんと揃え、二本指の付け根の間に亀頭をめり込ませ、  
そのまま挟み付けながらぐいっと扱き下げ、また扱き上げる。  
しばらくそれを繰り返した後、今度は人差し指と中指の間に弾頭を誘い同じ要領で絶棒を扱きたてる。  
扱いている間は挟み具合に変化をつける。  
しかも、空いた指の腹は絶棒の根本に添え、やわやわと妖しく揉みたてるのである。  
 
 これらの動きは、互いに相まって、あたかも女性自身の中に挿入しているような感覚を絶棒に与えた。  
これまで望が味わったことのない絶妙なテクニックであった。  
 
──むにゅうっ…すっ……ずにゅうっ…しゅっ……  
 
 また扱く指が変わった。――また人差し指と中指に戻る。――今度は中指と薬指だ。  
そして、扱きたてる指を代える度に、その二本の指で亀頭の裏筋をぎゅうっと押してはさわさわとくすぐる。  
 
 中指を左右に不規則にずらして異なる挿入感を与えつつ絶棒を扱きたてる動きは、  
まさに悪魔のテクニックと呼べるものだった。  
望はまるで目の前のまといと直接交接しているような錯覚に捕らわれ、あっけなく高ぶっていった。  
 
「くあぁ……ん……はうぅ……」  
 
 思わず呻き声を上げてしまうほどの妖しい快感に、望は翻弄された。  
目の前で蹂躙されているまといの乳房を見ながら、程なく腰の奥に鈍い衝動が生まれていた。  
 
――ううぅ……だ、出してはいけない……出したら常月さんが連れて行かれてしまいます……  
くぅ……はぅん……でも……はあぁっ!……  
 
      ☆  
 
 望の頭が再びまといの頭の方へスライドされた。二人の顔が至近距離になった。  
目の前のまといは耳まで朱に染まって、髪を振り乱しいる。  
筆による妖しい刺激を、時折喘ぎ声を出しながらも歯を食いしばって耐えている。  
何とも健気なまといである。  
望は今まさにまといと身体を合わせている錯覚に捕らわれた。  
 
「つ、常月さん……」  
 
 望はそんなまといを少しでも励まそうと、首を伸ばしてまといの薄く開いた愛らしい唇に接吻しようとした。  
 
「せ、先生! ああ……」  
 
 まといも望の意図に気付いたのか、必死に頭を上げて望と唇を触れ合わせようとした。  
 
 だが、二人の唇が触れ合う寸前で、無情にも亡霊どもは望の向きをゆっくりずらせていった。  
二人の口から思わず悲鳴がこぼれた。  
 
「ああっ! 常月さん!」  
「先生! いやあぁぁっ!」  
 
 望はまといの全身を愛撫する筆の様々な動きをいやというほど見せられた。  
耳の後ろや項や首筋をねちっこく撫でている筆。  
相変わらず胸に取り付いて淫らに動き回っている筆。  
臍の穴をグリグリほじっている筆。  
内腿をちろちろさすっている筆。  
 
 そして今、体の向きを180度回転させられた望の目に、まといの秘部が飛び込んできた。  
 
 本来草むらに隠れているべき乙女のスリットはその神秘的な姿をすっかり現し、  
中のサーモンピンクが淫らに揺れている。  
秘豆に取り付いた筆は様々ないやらしい動きをしてまといに淫らな声を上げさせ、感じさせよう、  
達しさせよう、多くの汁を出させようとしている。  
そして中に頭を突っ込んだ何本もの筆は、ごそごそ襞を撫でるような淫靡な動きをしていたかと思うと  
蜜を蓄えたモノからまといの全身にそれを塗りたくっている。  
ぴちょっ、ぴちゃっと水音が筆の動きに合わせて目の前の茂みの奥から聞こえてくる。  
 
 一方、まといの眼前で絶棒はまだ妖かしの手で扱かれている。  
発射までもう余裕がない。  
刀身がすっかり反り上がり、鰓がぷっくり膨れて、絶棒全体がヒクッ、ヒクッと小刻みに震えている。  
おちょぼ口が開きかけて白い蜜を湛えている。  
 
――ああ、先生に出される、出されるううぅぅ!  
 
 まといは痺れる頭で、望も悪霊に責められていて余裕がないことを察した。  
 
――でも、先生になら出されてもいい……  
 
 こう思ったとたん、ほぼ剥けかけていた包皮が数本の穂先でぐいっと押し下げられ、完全に剥き上げられた。  
そして別の筆が豆本体の横や上に穂先を強く押しつけ、これでもか、これでもか、  
と言わんばかりに激しく往復させ始めた。  
 
「きゃああ! お、おぉ、堕ちる、私、堕ちるううぅぅ!」  
 
 まといは望の目の前で若い叢をガクガク振るわせ、惨めに達していった。  
望のほんの鼻先で、スリットから蜜が溢れかけ、それを筆どもが我先にと掬い取っていく。  
その様子を克明に目にしたところで望にも限界が訪れた。  
 
「あああ、常月さん、すみません、すみま……うぅっ! んぅ……」  
 
 望は亡霊の白い半透明の氷のように冷たい手に扱かれて、  
絶頂に悶えるまといの顔についに絶流を発射してしまった。  
望のエキスはまといの鼻筋から頬にかけて点々と飛び散った。  
 
――ああ、先生のが私の顔に……  
 
 まといが何度目かの絶頂に痺れた頭で望の汁を浴びた喜びを感じ恍惚とする間もなく、  
筆が望の出した男汁をまといの顔に伸ばし始めた。  
望のエキスでまといの顔にある経文を無力化しようというのだ。  
 
      ☆  
 
 絶頂に達した二人に休息は与えられなかった。  
亡霊の過酷な責めが引き続き二人を襲った。  
 
「うあっ! い、今出したばかりな……や、止めろぉ…止めて下さい……」  
 
 絶棒を扱きたてる手の動きはますます滑らかになった。  
出したばかりで敏感になっている箇所を、手首を利かせた超絶技巧で扱かれるのだから堪らない。  
ほどなく二度目の発射を迎えそうになってしまった。  
 
 一方、まといもこれまでの激しい刺激で最大限に膨らんでいるルビーにまたもきつい責めが  
加えられ、煩悶していた。  
 
「はあんっ! そこはもうだめ、ダメ! いやいや……いやああぁぁ!」  
 
すっかり剥け切った包皮の裏の裏側まで、悪魔の筆によって無残にいじり回された。  
真っ赤に膨らんだ豆本体にも、本体横を前後左右に掃くもの、上から押さえつけてぐりぐりと刺激するものなど、  
何本もの筆が取り付いてまといを悪魔的な快楽の底へ追い詰めた。  
 
「くぅ……いや、イヤ……先生、はぅっ、先生……溶ける、溶けるぅ! ううぅっ!」  
 
 まといは悪霊の与える凶悪な快感をまったく堪えることができないまま、濃い目の蜜をたっぷり滴らせ、  
ドス黒い高みに達してしまった。  
後から後から溢れる蜜は、残らず筆が掬い取り、まといの全身に飽きることなく塗りたくっていった。  
 
 まといが達する様子をまたも鼻先に蜜が飛び散るほど間近で見させられていた望も、  
鈍い絶頂へ達していった。  
 
『次ハ乳ダ』  
 
 望が達する直前、亡霊どもは望の位置をスライドし、絶棒がまといの美乳のすぐ上に来るようにした。  
胸に男汁を発射させようという目論見であった。  
望はできるだけ発射を遅らせようと堪えたが、所詮発射の快感をより高めるだけに終わった。  
亡霊の計画はまんまと成功し、またも望は重く痺れるような射精感を強制的に味わわされた。  
 
「止めて、ヤメ……あああ、常月さんごめんなさい、許して……くうぅ!」  
 
 乳房を弄っていた筆が一斉に場所を空けた。  
とどめの一扱きで、まといの最大限に勃起しているピンクの乳首から  
なだらかな曲線を描いて血の気が差している裾野に至るまで、  
望は、ぴぴぴっと牡のエキスを迸しらせてしまった。  
すぐに筆が寄ってきてそれを文字の上に引き伸ばし始めた。  
 
      ☆  
 
『オイ、チョット待テ』  
 
 ここで、まといの顔にかかった望の精液を引き伸ばしていた亡霊が、やや焦った声を出した。  
 
『コレデハ女ヲ持ッテ行ケナイ』  
 
 先ほどの顔射分では、まといを冥界に連れて行くには不十分だというのである。  
亡霊どもがしばし協議した末、なるべく濃いエキスを再び顔射させることが決まった。  
そして、濃い汁をしぶかせるには、雌の発情した匂いを直接嗅がせるのがよかろう、という話になった。  
 
 そこで望の顔を三方から固定していたCDが離れると、顎がまといの若草に埋められた。  
 
――ううぅ……  
 
 顎の先に濡れた恥毛の感触がしたとたんに、顔がまといの秘部にぐいぐいと押しつけられた。  
まるでその中に埋めようかという勢いであった。  
 
 また、最大限に雌のフェロモンを吸収させるため、亡霊どもはまといの足首を縛めている  
錠を身体の方へ引き寄せ、脚をM字に折り畳んだ。  
そして、まといの汗と自身の愛液で濡れた太腿で望の頭をがっちり挟み込んだ。  
 
「……ぃゃぁ……ぁぅ……」  
「つ、……常月さ……ん……」  
 
 望の眼の前・鼻の下にはまといの女性自身が広がった。  
秘裂は無残に開き切って、充血して赤くなった柔襞がなぜかよく見えた。  
 
 一方、絶棒もまといの鼻筋にしっかり押しつけられた。  
万が一にも精を一滴たりとも逃さないようにするためである。  
 
 妖かしのうちの一体が望に男としての死刑を凶々しい声で宣告した。  
 
『最後ノ一滴マデ絞リ尽クシテヤロウ。覚悟スルガヨイ』  
「ああ……止めて、やめ……」  
──ズチュッ、シュッ、グニュッ、ズリュッ……  
「いやぁっ!! くぅっ! うぅ……」  
 
 すぐに地獄の手淫が再開された。  
 
 加えて、今度は望にも筆の攻撃が襲ってきた。  
後ろが開発済みの望は絶棒に加えられる激烈な快感のため、知らず知らずのうちにアヌスがひくついていた。  
菊がほんの少し弛み、亡霊が絶棒を扱く手の動きに合わせ、メダカが口で呼吸するようにパクパクと口を開けた。  
そこへ穂先が進入してきた。  
 
「うひゃあっ!」  
 
 そもそも、アヌスが固く閉じている分には、その上から書いてある経文のため筆は手出しできない筈である。  
望を含め、これまでまといと付き合った男はまといのバックバージンを奪わなかったので、  
まといの後ろは未開発のままであった。  
それで、まといの秘肛は前の快感に呼応することもなく、結果として筆の進入はなかったのである。  
 
 だが、少しでも隙間があるとそこは安全でなくなる。  
望の場合、不幸にして後ろは既に高度に開発されていた。  
なので前に刺激があると、後ろも快感を求めてひくつくのも無理はない。  
偶然、筆がそれを利用した形となった。  
 
──ズリズリッ……ズリュッ!!  
「あああ、入ってくる……いやあ!」  
 
 筆先が木ねじのように頭をどんどん突っ込んでいく。  
それにつれてアヌスがさらに弛み、筆の本体も回転しながら容赦なく望の菊を貫いていった。  
 
 そして、ついに筆先が前立腺に到達し、ポイントをサワサワっと撫で始めた。  
 
「ほぐわぁっ! いやだ、いやです〜!!」  
 
 望は未知の快感に怯えた。  
智恵女王様やあびるとのエネマプレイのような、脳内で極彩色の万華鏡が煌めくような快感とは  
また違うものがあった。  
腰から下が未知のウイルスで徐々に溶かされ、その際に特別濃厚で甘い快感を発生するような感じがした。  
 
 望はたまらず先走りを多量に滲ませ、まといの鼻筋を汚していった。  
それをすかさず筆がまといの頬へ塗り伸ばしていく。  
 
「うぐぁ……つ、常月さん、すみません……ほぅっ!」  
「ああ、先せ…ひゃうん!」  
 
 まといの方にも容赦ない責めが加えられた。  
それまで望の頭を器用に避けつつ秘豆を嬲っていた筆が合体したかと重うと、  
穂先が豆全体に吸盤のように覆い被さり、高速で回転しながら吸い上げ始めたのだ。  
 
――あああ、まだ先生に見られて、見られてるうぅぅ!  
 
 望の目の前で責められているのは分かっていた。  
だが、亡霊からどうやって逃れればいいのか、今のまといには全く見当がつかないまま、  
まるで望の顔にかけるように恥ずかしい蜜を後から後から生じるばかりであった。  
 
      ☆  
 
 二人とも度重なる強制絶頂で体力が弱っていた。  
異界の巧みで淫らな責めから逃れる術とてなく、このまま亡霊に辱められたまま、  
あちらの世界に連れて行かれるのも時間の問題かと思われた。  
 
『フフフ……イケ……ホウレ、イケエェ!』  
「ほわあああああっ! はううううッ!」  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
「ああ、先生! 先せ、きゃあぅっ!」  
 
 まといと望はまるで抵抗できずに、互いの目と鼻の先で亡霊に屈した絶頂の証をしぶかせ合った。  
望の絶流がまといの鼻筋をつたい、まといの粘り気のある蜜が望の鼻から口にこびりついた。  
惨めだった。  
 
      ☆  
 
『オイ! 薄イゾッ!』  
 
 だが亡霊も肝心の点を誤算していた。  
一晩中まといと交わり幾度となく達していた望のソレは極めて薄く、  
とうていまといを冥界に連れていける濃度はなかったのだ。  
 
 もう夜明けが近い。  
亡霊どもに焦りの気配が生じた。  
また、これまで二人が抵抗らしい抵抗をせず、自分たちのなすがままになっていたせいで油断もあった。  
一瞬、絶棒を扱いていた亡霊の手が離れた。  
 
――い、今だわっ!  
 
 まといは数えきれず絶頂に達し、二度も顔射を受けて意識が朦朧としていた。  
だが気丈にも、まだ滴を湛えていた絶棒をはっしと咥えた。  
 
『アッ!』  
『マサカ、アレダケ達シテオイテ!』  
 
 手を離した亡霊が慌てて二人を引き離そうとした。  
二人の身体の他の部分には経文が書いてあるため、妖かしの身では直接手を触れられない。  
そこで四肢を拘束していた手錠をぐいぐい引っ張って、  
なんとかまといの口の中から絶棒を引きずり出そうとした。  
 
だが、まといは歯を立てないように気を遣いながらも、唇でしっかりと絶棒の根本を咥えこんでいた。  
万が一にも抜けないように、絶棒本体にもしっかりと舌を絡みつけてある。  
鼻先に望の袋の、顎に茂みの感触があったが、まったく気にならなかった。  
 
「つ、常月さん……!」  
 
 意識が半ば飛んでいた望は、絶棒に何か暖かく優しいものが被さってきたのに気がついた。  
それがまといの口であることが分かったとき、初めて自分の身体の一部が連れて行かれる  
危機を脱したことを悟った。  
 
「常月さん、ありがとうございます! ありがとう……」  
 
 まといは返事をする代わりに絶棒の根本を唇で優しくはむはむっと甘噛みし、  
地獄の手淫で疲れきった絶棒を舌腹で労うように包み込んだ。  
 
 亡霊が徒労のあげく気付いた時には、もうどうやっても絶棒を自分たちの世界へ  
持っていくことが不可能になっていた。  
まといの望への一途な想いのなせる奇跡的な技であった。  
 
 果たして、計画を潰された亡霊どもはいきり立った。  
 
『エエイ、モット責メロ!』  
『責メテ責メテ責メマクレ!』  
『向コウデ死ヌマデ、イヤ死ンデモ魂ヲ嬲リ尽クシテヤル!』  
 
 まといに見せつけるように、目の前で筆の穂先が次々に気味悪い触手様のものに変化していくと、  
一斉にまといの全身に飛びかかった。  
 
 まといはおぞましさに全身総毛立った。  
 
――あああ、いや、こんなのはいやあぁ……  
 
 だが、叫ぶことはできない。  
叫べば口を開くことになる。  
口を開ければ、その隙に絶棒を引き抜かれてしまうのは火を見るより明らかだったからだ。  
 
      ☆  
 
「んうっ……んうん……んぐうーーーーっ!!」  
 
 まといは目の眩む快感の連続に、大声で叫びたいのを必死に耐えていた。  
 
 穂先から変化した幾多の白く細い触手が、まといの身体を縦横無尽に這い回っていた。  
全身の性感帯を刺激し、人が与えることが決してできない快楽でなんとかしてまといを喘がせよう、  
快感を叫ばせて口を開かせ絶棒を引きずり出してやろう、という意図が明白であった。  
 
『フォッフォッフォッ……フォッフォッフォッ……』  
『闇ノ快楽ヲ先取リシテ教エテヤロウ』  
 
 全身を覆う触手が大きくくねる。  
くねる度に眼前の宙を鋭い性感の火花が飛び散った。  
 
 左の乳房に、先端が蛇の頭に似た太目の触手が絡み付いてきた。  
裾野からずりずりっと巻き付くと、締め上げては弛め、締め上げては弛める動きを繰り返した。  
そうしながら触手の先端が鎌首を擡げたかと思うとぱかっと割れた。  
そして乳首にきつく吸いついた。  
 
「んぐむっ!!」  
 
 まといは快楽の電撃に一瞬目の前が白くなった。  
続いて右胸にも同じ電撃を感じ、思わず口元の力が抜けそうになった。  
 
 吸い付いた触手の口の内部は、毛筆の極細の毛が変化した繊毛で覆われていた。  
触手がただ咥えているだけでもそれが一斉にそよいでまといの敏感な乳頭をくすぐり、  
上下左右を撫で上げ、むず痒い刺激を与えてくる。  
それに加えてその口はまといの乳首を軽く捻ったりきゅっと鋭く捻り上げたりして、  
脳に快感の束をこれでもか、これでもかと送り込んでくる。  
 
 まといは、魔のもたらす快感に何度も我を忘れそうになった。  
だが、絶棒から口を離したらおしまいだ、との一念で必死に耐えた。  
 
――でも、このままではいずれ……  
 
 痺れる頭でそう思ったまといは、先に限界まで責められ、力を失ったままの絶棒に舌をきつく絡ませた。  
ともすれば舌がずれ、絶棒が抜けそうになる。  
まといは弛みがちな唇に力を込め、何度も絶棒に舌を絡ませ直した。  
 
――ああ、先生……私、もう……  
 
 だが、そんな努力をあざ笑うかのように、まといの股間で蠢いていた触手の群れが、  
望の目の前でまといの恥裂を次々に割って入っていった。  
 
――ああ、常月さん……!  
 
 望は、自分の眼前でまといの大事な部分が汚されていくのに、何一つできない自分を情けなく思った。  
自分の受け持ちの生徒であり、自分を好いてくれているコを守ってやることが出来ない。  
しかもその責任はなべて自分にあるのだ。  
せめて目を瞑っていたい、顔を背けていたいと思っても、それはできなくされていた。  
それどころか、かえって頭の位置・顔の向きを微調整され、  
まといの無惨に開かれた陰部を余す所なく視界に入れられている。  
陰唇だけでなく、膣口やその奥の襞の重なり、包皮が剥け切って大きく膨らんでいる秘豆まで、  
自分が舌でまといを愛している時のようにはっきり見えている。  
だが、今は望ではなく無数の触手がまといの恥部を存分に犯し抜いているのだ。  
 
      ☆  
 
 まといの中はいまや無数の細い触手で埋め尽くされていた。  
それらはまといの中で盛大に動き回っている。  
それぞれが激しくのたうち回り、身をくねらせて柔襞に表面を擦り付けては、  
まといの蜜液を少しでも吸収しようとしている。  
 
「んむっ、んぐ、……んむーーーーーーっ!!」  
 
 まといは、魔のもたらす底知れぬ快感に突き上げられ、幾度も達した。  
だが、物の怪どもは容赦しなかった。  
単に恥ずかしい蜜を湧き出させて身体に塗り付けるためだけではない。  
体力が尽きるところまで絶頂を連続させ、気力をも萎えさせるつもりであったのだ。  
 
      ☆  
 
 極細の長い触手が敏感な突起にきゅっと巻き付いてきた。  
 
「むぐぅっ!」  
 
 まといはのどの奥で悲鳴を上げた。  
 
 それは巻き付いた後も力を込め、女の一番敏感な部分をぎりぎりと締め上げる。  
そしてつるつるっと擦り上げながら解けていく。  
その度にまといがくぐもった呻き声を発し、ぴくんっ、ぴくんっと腰を痙攣させる。  
 
──ジュルジュル…ピチュッ……グリュグリュ……  
 
 触手ののたうつ音と密かな水音が混じり合って、なんとも淫靡な音がしていた。  
まといの腰が激しく数度痙攣し、充実した太腿で望の頭を挟み込んだかと思うと、ふっと力が抜けた。  
陰核責めでまたも達したのだ。  
 
      ☆  
 
 望は、眼前でまといが闇の存在に淫らに蹂躙されるのを、ただただ血を吐くような  
絶望感に苛まれながら見つめているしかなかった。  
しかも、その凌辱を受けている少女が自分の絶棒を咥えてくれている間は、自分はある意味安泰なのである。  
 
――常月さん、すみません、すみません、ごめんなさい!…………  
 
 さらに自己嫌悪に陥ったことがある。  
望は目の前の光景を見せられているうち、絶棒にまといの舌の滑りと暖かさを感じてしまったのだ。  
 
――あうぅ、常月さん……恥知らずな教師ですみません!  
 
 絶棒に再び力が漲ってきた。  
まといの口の中でむくむくと容積を増していった。  
 
 だが、まといの受け止め方は違っていた。  
 
 今、触手は両乳首と陰核にタイミングを合わせて巻き付いては擦り上げる責めを行っていた。  
強烈な快感の電撃が一度に三箇所から脳髄に叩き込まれていた。  
 
 まといは電撃快感のトリオで強制的な絶頂に連れて行かれながらも、脳裏で別のことを考えていた。  
 
――先生、私で……私の口で気持ちよくなってくれたんですね。嬉しい……!  
 
 まといはあれだけ悪鬼に扱き立てられた絶棒が自分の口の中で回復してきたことで勇気づけられたのだった。  
 
――嬉しい嬉しい…あん、あぅ……ああーーーーっ!!  
 
 まといはまたも達し、視界が霞んでいった。  
だが、それでも絶棒は咥えて離さなかった。  
 
 結局、触手が何度まといを絶頂に追い込んでも、この健気な少女が口を開けることはなかったのである。  
 
      ☆  
 
 業を煮やした亡霊は、さらなる責めを加えることにした。  
 
 まといの秘裂の中にいる触手の一部が融合して二本の小さな指ができた。  
その指がまといの恥核をきゅうっと抓った。  
 
「んぐゥッ!!」  
 
 度重なる絶頂で意識が遠くなりかけていたまといだったが、今の衝撃で背筋から脳天にかけて  
大電流が走り抜け、意識を回復させられた。  
痺れのきつい波紋が体内を何往復もした。  
 
 指になったモノを含めまといの恥部を責めている触手を残し、全身を覆っていた触手がまといの目の前に  
次々に集結するとみるみるうちに合体し、一本の筆に戻った。  
 
 そしてまといの眼前で、筆が徐々に肉茎に変化していった。  
ドス黒く汚れ、所々イボが付いたおぞましい逸物である。  
 
――ああ、何これ……いやあぁぁ……!  
 
 まといの下半身では触手の激烈な動きが再開されていた。  
意識がそちらに向かおうとしているところに、闇のペニスが頭をまといの首筋に押しつけた。  
 
そして白い首筋を半周して項に達すると、自己の存在をまといに分からせ続けるよう、  
なだらかな背骨のラインに頭を押しつけながらつつうっと下っていく。  
 
「むぐ……んむぅ……」  
 
 度重なる絶頂で痺れる頭でも、まといはそれが自分の下半身に向かっていることは分かった。  
とすれば狙いはあそこしかない。  
 
――ああぁ、いや嫌、それだけはいやあぁ!  
 
 まといは必死に腰を捩った。  
だが魔の剛直は徐々に尻へ、そして尻の割れ目から可憐な蕾を通り過ぎて前へ回ってきた。  
もはや狙いは明らかだった。  
さんざん嬲られ、今も触手が蠢いているまといの入り口に向かっているのだ。  
 
――先生の目の前で入れられるのは嫌ぁ!  
 
 まといはなおも腰を捩って抵抗しようとした。  
そこへ再び幽鬼の指がまといの恥核をつまんでくりくりっと転がした後、前にも増して強くきゅううっと抓り上げた。  
 
「――……!!」  
 
 今度は一言も発することができず、まといは達してしまった。  
しばらく息も出来ないほどの衝撃だった。  
 
 抵抗が止まっている間に、闇の剛棒がついにまといの入り口へ到達し、  
望の目の前にそのおぞましい姿を現した。  
 
 ここまで来るとその動きに躊躇はない。  
触手が蠢く内部へ侵入すべく、鰓のよく張った頭を浅瀬でぴちゃぴちゃと遊ばせ、  
蜜を頭に満遍なくなじませた。  
 
――ああっ! い、いけないっ!!  
 
 望にもまといの危機が分かった。  
異界のモノの侵入を阻止すべく、なんとか首を伸ばしてまといの膣口を覆おうとした。  
だが、そんな動きをあざ笑うかのように、筆の化身は望の目の前で触手をかき分けながら  
まといの中に侵入していった。  
 
「う、むぐーーぅ…………うぐぅっ!」  
 
 絶棒と同じくらいの太さにも関わらず、恥蜜に滑った触手のせいで妖かしの剛棒の侵入はスムーズであった。  
奥に達するまでの間に数本の触手が剛直に絡みつき融合し、それはさらに太くなった。  
 
――くっ……ふ、太い! あぐぅ……  
 
 まといは圧迫感に息が詰まりそうだった。  
闇の肉棒はゆっくり抽走を始めた。  
と、すぐに鰓がまといのスイートスポットを掠めた。  
 
「むぐぅんっ!」  
 
 まといの目の前に大きな火花が散った。  
あれだけ達していたのに、またも新たに恥ずかしい液がとろとろっと奥から溢れてきた。  
 
 この変化を剛棒は見逃さなかった。  
少女の弱点は見切ったとばかり、今見つけたスポットを集中して突き、擦ってきた。  
 
「ん!! んむぅ!! んぐぅ!!……」  
 
 連続して原色の火花が目の前を飛び交った。  
頭だけでなく全身が電撃の連続で痺れ、力が抜けていった。  
もう暗い絶頂が目の前に来ていた。  
唇にも力が入らなくなってきた。  
 
――ああ……ぬ、抜けてしまうぅ……!  
 
 このままではいずれ口から絶棒が抜けてしまう、と薄れゆく意識の底で感じたまといは、  
先ほど大きくなりかけていた絶棒を喉の奥まで咥え込んだ。  
 
 一方、望はまといの口腔の奥での締め付け、舌の滑りと暖かさのコンビネーションを絶棒に感じた。  
もうないと思われた腰の奥のしびれを感じ、発射の予感が絶棒に漲ってきた。  
 
 まといを闇に堕とすべく、妖かしの肉棒の抽走も激しさを増していた。  
 
『ホレホレ、イケ! イクガヨイ! 素直ニ声ヲ出サヌカ!』  
 
 何とかまといに声を上げさせようと、闇の肉はまといの女の弱点をしつこく突き上げた。  
鰓やイボが実に巧みにそこを掻き上げた。  
 
 その度にまといの媚肉はたまらず闇の肉棒にしとどに蜜を浴びせかけ、きゅうっと締め付けた。  
すると締め付けた柔襞とイボが擦れ、さらに新たな快感をまといに与えた。  
 
 だが、それでもまだ亡霊はまといを許さなかった。  
どうしても連れて帰らねばならない女には、最凶の責めを見舞って仕留めるつもりだった。  
万が一にも手ぶらで冥界へ帰ることがあってはならない。  
 
      ☆  
 
 筆の化身が一段と太くなった。  
圧倒的な存在感でまといの胎内を往復し、奥をズムッ、ズムッ、と突き上げる。  
鰓やイボが抽走の過程でまといの中のあらゆる弱点を擦り上げ、恥蜜を掠めていく。  
 
『マダカ……エエイ、マダ放サヌカァ!』  
 
 さらに肉芽をコリコリと揉み解す指も責めに加わった。  
 
──ズンッ、ズン、ズンッ!……  
 ──コリコリッ、クリクリ、コリコリッ!……  
 
 まといは、もはや声も上げられず、達してはまた達するという連続絶頂地獄を味わわされていた。  
 
――わ、私堕ちちゃう、お……せ、先生助け…お、堕ちちゃううぅーーっ!!  
 
 まといは無意識のうちにきつく絶棒を吸引し、口の奥や喉で絶棒の頭を締め付けた。  
 
 この急な刺激には望も辛抱できなかった。  
まといの口の中で徐々に回復していた絶棒は、舌と喉の感触に歓喜した。  
あるいは、まといの非常時の願いに、絶棒が望の預かり知らぬ所で反応したのかもしれない。  
ついに絶棒が男のエキスを、ほんの少しではあるが、まといの喉の奥深くに迸らせた。  
 
――先生、私でイってくれたのね……私、が、頑張り…ま……  
 
 まといは望が達してくれたことで安堵感を覚えつつも、亡霊の最後の苛烈な責めによる絶頂の連続で、  
いつしか意識が遠のいていった。  
 
 はたして、まといは最後まで亡霊の責めに耐え、絶棒を離さないでいられるであろうか。  
 
 外がほのかに明るくなってきた。  
気の早い小鳥のさえずりが聞こえ始めてきた。  
もう亡霊が活動できる時間帯ではなくなりつつあった。  
 
『クッ……モウ朝ダ』  
『日ガ昇ッテシマウ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
 
 まといは亡霊の淫惨極まりない責めの連続に、ついに耐え切って絶棒と自分の身を守り抜いたのだった。  
 
 亡霊たちは何一つ手土産なく自分たちの冥界に帰らねばならないことに落胆した。  
 
 だが、ここで一体が奇跡的に、望の身体にあるものでまだ名前の書かれていない部分を見つけた。  
 
『フォッフォッフォッ……ヤット見ツケタゾ』  
『ウム! コレナラチョウドヨイ』  
『セメテコレダケデモ!』  
 
 まといの中にあって彼女に凌辱・蹂躙の極みを尽くしていた触手どもが、  
最後の力を振り絞って我先に秘裂から勢いよく飛び出して来た。  
 
──ブジュルルルルル! ギュリュリュジュルルル……  
 
 望は元々まといの秘部に顔を押しつけられていたので、触手の襲来をまともに顔面から浴びてしまった。  
とても逃げられなかった。  
 
「うわあああっ!……うぐぅ……」  
 
 穂先が変化した妖かしの触手はまたたく間に望の頭を覆い尽くし、  
凶々しい光を放ちながらうねうねと蠢いた。  
 
──ブキュルルギュリュリュルルジュジュ……  
 
 絶棒を咥えているまといの股間で、望の頭が邪悪な光に包まれ、大小様々の触手で揉みくちゃにされていった。  
望の悲鳴がだんだん掠れくぐもったものになり、ついには全く聞こえなくなった。  
 
「あああぁぅ!……ぅぁ………………………」  
──ブジュジュジュルルルルル…………………  
 
 望の悲鳴に、まといの遠くなりかけていた意識がはっと戻った。  
   
――先生!! 先生!! いやああああああああ!!  
 
 まといは絶棒を咥えたまま声を上げられず、喉の奥で絶叫した。  
 
「んーー!! んーー!! んんーーーーーー!!」  
 
 いつしか本格的に外が明るくなった。  
それとともに、あれだけ望の頭を覆い尽くしていた妖しい光が  
跡形もなく雲散霧消してしまった。  
 
 お堂に眩しい朝日が射し込んできた。本物の朝がやって来たのだ。  
ふっと拘束が解け、二人は床に落ちた。  
 
──ドサッ  
「はうっ!」  
 
 まといは全身に痛みが走った。望が上になったまま、背中から落下したのだ。  
 
「うう………………はっ! せ、先生!?」  
 
 まといはそれでも気丈に望の姿を探した。  
幸い、望はまといのすぐ側にうずくまっていた。  
だが様子がおかしい。顔を覆って何やら呻いている。  
 
「ウウウ……メ、メガ……」  
「先生!?」  
 
 まといは慌てて望を抱き起こした。  
 
「先生! しっかりして!」  
「メ、メガ……」  
 
「せ、先生!!」  
 
 まといは泣きながら望の頭をかき抱いた。  
望が覆っていたのは、顔というより目であった。  
確かに眼球には経文は書かれていない。  
亡霊は望の目を十分見開かせて乾かせたあげく、眼球を抉り取っていったのであろうか……  
 
「メガ……」  
「先生〜〜〜〜!! いやあああぁぁ!!」  
 
 まといは愛する望の一部が持って行かれたと思い込み、絶叫した。  
 
 だが、望はまといに抱かれたままなお続けてこう言った。  
 
「めが……ね……が……」  
「あああぁぁ…………え!? めが……ね?」  
 
 まといは自分の胸に顔を埋めている望の頭・顔を隅から隅まで手で触ってみた。  
耳も鼻も無事だ。顎も唇も歯も舌も無事だ。  
 
 勇気を出して、望の頬に両手を添えて自分の胸から引き剥がし、顔を覗き込んだ。  
 
 目は無事だった。望の端正な顔と凛々しい瞳はそのままだったのだ。  
 
「先生!……よかったぁ……」  
 
 結局、長いこと目を開けていたので目が乾いてしまったものの、大事には至らず、  
眼鏡だけが持って行かれたのだと分かった。  
 
 一晩中加えられた責めで体力を消耗し、全身の力が抜ける思いの二人であった。  
それでも互いに固く抱き合って無事を喜んでいると、外から景とマリアが声を掛けてきた。  
 
「おーい、大丈夫かー」  
「先生、無事ダッタカ」  
 
 今度は本当の二人だ。望とまといはようやく気が抜け、脱力した。  
 
「……ええ、無事ですよ」  
 
 望がようやく安堵した声を絞り出した。  
 
 景とマリアがお堂の中に入ってきて、すっかり気が抜けて呆けたようになっている  
全裸の望とまといに毛布を被せた。  
幸い、足元はおぼつかないものの、人の手を借りればなんとか歩けるようであった。  
景とマリアは二人に肩を貸し、お堂の外へ連れ出した。  
 
 ちなみに、景とマリアはついさっきまでテントの中で熟睡していた。  
望の旅立ちパックにある睡眠薬のストックから一錠ずつを、昨晩亡霊が二人の口に含ませたのだ。  
 
      ☆  
 
 気持ちの良い晴れの日である。  
早朝の澄んだ空気の中を、揃ってお堂から出て高校へ向かう途中で、  
ふと漫画の神様の像の側を通りかかった。  
 
 見ると、神様の像の眼鏡にヒビが入っていた。  
そして、像の側に望の眼鏡がきちんと畳んで置かれていた。  
 
 しばらくその様子をじっと視ていた景がしんみりと言った。  
 
「望がこの像に蹴躓いたとき、きっと眼鏡にヒビが入ってしまったんだ。  
 それで、この神様に仕えていたモノ達が、せめて眼鏡だけでもオマエから奪ってお供えしたかったんだろうな」  
 
 望は今更ながら自分のしたことの因果に想いを馳せた。  
 
「神様の像には、悪いことをしてしまいました。……どうもすみませんでした」  
 
 四人は無言で頭を垂れ、しばしの間祈った。  
眼鏡はそのままお供えすることにした。  
 
      ☆  
 
 早朝の校内は人気がないものの、爽やかな静けさに溢れていた。  
宿直室の前まで二人を送ってきた景が、からかいを含んだ調子で望に言った。  
 
「その墨には私が開発した秘伝のニカワが混じってるから、そう簡単には落ちんよ」  
「はあ……」  
「まあ、二三日は二人で隅から隅まできれいに洗いっこするんだな」  
 
 二人は一瞬顔を見合わせると赤面して俯いた。  
マリアも二人を見比べてにこにこしている。  
 
 頃良しと見たか、景が再び口を開いた。  
 
「マリア君、ご苦労だったな。朝飯にしよう。私と由香の手料理だから質素だが、量はたくさんあるぞ。  
 家でたらふく食べてってくれ」  
「本当カ?」  
「ああ。じゃあな、望。それと、まといさんだったな」  
「二人とも、どうもありがとうございました」  
「ありがとうございました」  
 
 望とまといは揃って深く頭を下げた。  
 
「ん。じゃあ」  
「んジャ、またナ〜〜」  
 
 景は帰り際、軽く右手を挙げた。マリアは振り返って両手を頭上で大きく振った。  
小鳥が楽しげにさえずる中、二人が景の家へ向かう後ろ姿を望とまといは並んで見送った。  
 
      ☆  
 
 二人の後姿が見えなくなってなおしばらくした後、望とまといは宿直室に入った。  
静かで穏やかな一時である。自然に二人は抱き合い、唇を合わせた。  
 
「よかった。先生が無事で」  
「私も常月さんが無事で本当に良かったです。  
私のせいで、怖くて、そのぅ……とんでもない目に遭わせてしまって」  
「いいえ、いいんです。先生の側になら、どこまでもついていたいもの。……でも」  
「でも?」  
「…………先生、お願い。私を清めて下さい」  
「……」  
 
 望は無言のまま唇を重ね、激しく吸った。  
そして今度はねっとり舌を絡め合う。  
ひとしきり無事を確かめ合うと、望はまといの肌に安心して舌を這わせ始めた。  
 
「あ……」  
 
 まといは首を仰け反らせた。その様子は心の底から安心しきっているようだ。  
そして、望の与えてくれる感覚は決して受け漏らさないようにしよう、という覚悟をしているようにみえる。  
 
 二人とも、今はただ、未曾有の危機を乗り越えた自分たちの愛の絆を一刻も早く確かめ合いたかった。  
 
 二人が風呂場でゆっくり墨の落としっこをするのは、しばらく先のことになりそうである。  
 
 
──[完]──  
 
 

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