望たちの高校のほど近くに、閑静な小寺院──というよりは地元住民にもその存在を  
忘れられかけていて、ほぼ廃寺と言っていい──がある。  
その名を小林念寺という。普段から人気はほとんどない。  
森閑としているというよりは、どこか薄気味悪いほどである。  
 
 寺の古ぼけたお堂の中、望が兄の景の前で四つん這いになり、  
下帯一枚の姿を晒している。その下帯は少し緩んでいる。  
甚六先生のまさかの「過剰装飾」を目撃してしまった望は、当然の事ながら泡を喰って逃げ出した。  
だがその拍子に神の像を蹴っ飛ばしてしまった。  
その祟りを避けるため、景に筆で全身に──恥ずかしいところまで──  
お経を書いてもらっているのだ。  
 
 望が普通の姿勢に戻った。  
あとは眼鏡と絶棒付近のみというところまで書き終わったところである。  
 
 そこへ、まといが転がり込んできた。  
 
「常月さん! ど、どうしてここへ!?」  
「先生、私にもお経を書いて下さい!」  
「へ!?」  
「私、先生とずっと一緒にいたいんです。側にいたいんです。だから……だから、お願いします!」  
 
 まといの必死な様子を前にして、望は頭を抱えた。  
だが、元々まといは一途なところがあり言い出したらきかない質であるし、  
女性の真剣な願いを無碍に断れないのが彼の性格である。  
 
「うう……仕方ありませんね……」  
 
 望は頭を抱えたまま、兄の景に頼んだ。  
 
「兄さん、このコにも書いてやってもらえますか」  
 
「望……」景は静かな声で望に命じた。  
「眼鏡を外せ」  
 
 弟にめったに見せない厳しい表情であった。  
 
「……?」  
 
 訳が分からないまま、素直に眼鏡を外した望の頬を、景がいきなり張り飛ばした。  
 
「この馬鹿野郎!」  
「兄さん……」  
 
 驚愕した望は打たれた頬を押さえて景を見つめた。  
 
「オマエは、自分を好いてくれている女性の裸身を他の男に晒しても平気なのか?」  
「だって、兄さ」  
「オマエはいつからそんな情けない奴になったんだ! それでも糸色家の男子かッ! 恥を知れぃ!」  
「……!!」  
 
 いつになく激しい兄の言葉に、望は言葉もなかった。  
 
「少なくともオレは、結婚する前でも、由香の裸身を他人に晒そうなどとは、考えたこともないぞ」  
――そりゃあ、壁のシミの裸身なんて……  
 
 言い返そうとしたが、兄の目は真剣そのものである。  
これは反論するだけ無駄だと悟った。  
 
「すみませんでした。私が浅はかでした」  
 
 望は素直に頭を下げた。  
 
「先生は悪くないんです! 私のわがままで」  
 
 まといが望を庇って言い募るのを景は優しく遮った。  
 
「いや、いいんだよ、娘さん。人を想う気持ちって、大切なものだ」  
 
 景がまといを見る目つきは穏やかだった。  
 
「娘さん。名は?」  
「まといです。常月まとい」  
「まといクンか。いい名だ。……これからも望のこと、よろしく頼むよ」  
「……は、はいっ」  
 
 まといは、やや高ぶった声で返事した。  
糸色家の人間に自分たちが特別な関係だと初めて認められ、嬉しくなったのだ。  
 
      ☆  
 
「じゃあ、道具はここに置いておくから」  
 
 景はふと空を見上げた。  
 
「もうじき陽も落ちる。まだ明るい今の内に、急いでその娘さんにお経を書いて差し上げろ。  
その間、夜の分の食料を買いに行ってやるから」  
「はあ……どうもお手間を取らせてすみません」  
 
 景が去り、お堂の中は望とまといの二人きりになった。  
 望はしばらく丹念に墨を擦っていたが、やがてまといに向き直った。  
 
「じゃあ常月さん、そろそろ書きますね。……どうもすみません」  
 
 望が頭を下げた。  
 
「いいんです。先生、お願いします」  
「じゃあ、顔から失礼しますね」  
 
 望は眼鏡をかけ直すと、まずまといの前髪をかき上げ、  
額から顔にかけて経文を書き始めた。  
糸色家の人間なので、多少の教典は家の行事で自然に習熟している。  
望は一文字一文字小さく呟きながら書き込んでいった。  
 
「祝・祢神袂袍衲袷……」  
 
 まといは、望が至近距離で自分の顔を覗き込んでくるのが嬉しかった。  
瞼に文字を書かれるとき以外はずっと望の端正な容貌を見つめていた。  
 
 その視線を知ってか知らずか、望はまといの可愛い耳にも忘れず経文を書き終えると、  
髪に筆を進めていった。  
 
「絶・絵総給統綿継……」  
 
 耳に書かれる時もそうだったが、髪の毛に筆の先が走ると全身の肌にさざ波が立ってきた。  
その感覚に、まといは戸惑った。  
くすぐったいだけではなく、いつの間にかほのかな性感が芽生えていたのだ。  
 
――いけない! こんな時なのに、私ったら……!  
 
 だが、押さえ込もうとすればするほど、かえって身体の奥までざわめいてきた。  
まといはそっと手を握りしめた。  
 
 頭部を書き終えた望は、まといに躊躇いがちに言った。  
 
「すみません。あの……背中に書くので、上を脱いでいただけますか」  
「……はい」  
 
 まといは素直に白装束の上をはだけ、袖から腕を抜いて上半身だけ裸になると  
望に背を向けて正座した。  
以前別の男と付き合っていた時には小麦色に焼いていたが、  
望一筋の今はすっかり色白の滑らかな肌になっている。  
 
 望はまといのうなじから背中にかけて丁寧に文字を書き込んでいった。  
 
「望・笙筌笠筈笞淫……」  
「うっ……」  
 
 うなじが弱点だったまといは、筆先が走るとたまらず呻き声を上げてしまった。  
思わず体がぴくっと震えた。  
 
 続けて筆が背中を這っていく。  
むず痒い感覚がやがてうっすらと快感に変わっていった。  
まといは奥歯を噛みしめて必死に堪えたが、時々声が漏れてしまうのを抑えることができなかった。  
乳首がむくむくと頭をもたげていくのを自覚した。  
 
「んッ……うぅ……あン……」  
 
 望は、まといが声を出すまいと必死に我慢しているのに気付いていた。  
 
――そういえば、常月さんは敏感なコでしたね……  
 
 だが、それを口にするのは彼女に恥をかかせることになると思い、  
あえて淡々と作業を進めていった。  
 
「次は足の方に書いていきます。すみませんが、下も脱いで、俯せになってもらえますか」  
「……はい」  
――先生のためだもの、恥ずかしくなんかないわ!  
 
 まといは恥ずかしさを押し隠してするするっと袴を下ろし、下着も取って全裸になった。  
そして望の前に俯せに横たわった。  
 
「先・光兵充皃~党……」  
 
 望は、まといの意外に豊かなヒップから充実した太腿にかけて筆先を這わせていった。  
文字を書く場所を指先で軽く押さえ、少しずらしてそこに筆を這わせる。  
また押さえ、ずらし、筆先が触れる。  
その動きを丹念に繰り返した。  
 
 望の温かい指、続いて筆の冷たい穂先が臀部から太腿、太腿からふくらはぎに  
かけてのなだらかな曲線を移動していく。  
まといは指先と穂先から二種類の電気が発生し、触られた箇所に留まって増幅し合う錯覚に捕らわれた。  
 
「生・主由乍全写巨……」  
 
 足の裏に書かれるときはさすがにくすぐったさが先行した。  
自然に足の指が縮まり、太腿がぴくぴくっと震えた。  
 
      ☆  
 
「常月さん。まことに申し上げにくいのですが……そのぅ、四つん這いになって、少し足を拡げて下さい」  
 
「はい。……こうですか?」  
 
 まといは四つん這いになった。  
白桃のような瑞々しい尻を望に向けると、膝を少し開いた。  
望はまといの足の間に入り込むと、まといの尻たぶをそっと掴んだ。  
 
――ああ、先生にあんな所を見られている……  
 
「すみません。少しの間、我慢して下さい」  
「いいんです。先生、どうぞ」  
 
 まといは顔から火が出る思いだった。  
が、望が字を書きやすいように、かえって膝の間をさらに広げさえした。  
 
 望は、やわらかい尻たぶをぐいっと広げながら、まといの尻の谷間や菊座、  
さらにその下の普段は秘められた部分に丹念に筆を這わせた。  
 
「動・勧郵創働剰歃……」  
 
 筆先が微妙なところを撫でる感覚に、まといは思わず色っぽい声をたててしまった。  
 
「はああっ」  
 
 すぐに、しまったと思った。  
 
――はしたないオンナだと思われたのではないかしら……  
「す、すみません」  
 
 まといは真っ赤になって謝った。  
 
「いいんですよ」  
 
 望は優しく慰めた。  
 
「仕方ありませんよ。気にしないで下さい。私も先ほどそうでしたから」  
「そうなんで……え!?」  
 
「艶っぽい声だなって兄に笑われました」  
 
 望は、まといの気を楽にしようと、自分の恥を話してくれているのだった。  
 
「私は笑ったりしませんから、どうか気になさらずに声を出して下さい」  
「はい……」  
 
 その時の望の様子──自分と同じように、恥ずかしい部分を兄に晒して嬌声をあげる望──  
を想像したまといは、ついおかしくなって笑い声をあげてしまった。  
 
「うふふっ……あ」慌てて口を押さえた。  
「あ……す、すみません」  
「いいんですよ。じゃあ、その」  
 
 望は言いにくそうに言葉を一旦切った。が、もう時間がない。意を決したように言った。  
 
「ま、前の方も書いていきますので、そのう」  
「はい。お願いします」  
 
 まといはすっと起きあがると、望に向かい合って正座した。随分気が楽になっていた。  
 
     ☆  
 
 望は墨を筆先に含ませると、まといの首筋から胸にかけて文字を書いていった。  
 
「あ……」  
 
 首に触れる筆先の感触に、まといはおもわず顎を仰け反らせた。  
思わず胸を突き出すような格好になっていた。  
 
「常月さん、すみません……」  
 
 張りのあるまといの美乳に、望は丁寧に経文を記していく。  
 
「画・専雨勇函南兩……」  
「はぁん……うぁ……」  
 
 桜色をした小さな乳首にも望の筆先は滑っていく。  
こんな時に勃起してしまう乳首を、愛する望に至近距離で見られてしまうのが恥ずかしかった。  
一画が記される毎に先がじんじん痺れ、甘い電流が体中に流れていってしまう。  
身体の奥がとろけるようだ。  
 
――あぅ……  
 
 まといは、恥ずかしい蜜液が自分自身の奥から湧き出すのが感じられた。  
 
 やがて、筆先はまといの白い滑らかな腹部に向かっていた。  
 
「化・比仆仏任仍仇……」  
 
 形の良い臍の上まで書き終わると、望は再度横になるよう指示した。  
 
「すみませんが、今度は仰向けになってもらえますか」  
「……はい」  
 
 まといは素直に仰向けになり、肩幅ほど足を開いた。  
文字を書く邪魔になるといけないので、恥部を手で隠したりしていない。  
生まれたままの裸身を望の眼前に晒していた。  
肌の輝く白と若い草むらの艶やかな黒との対比が鮮烈だ。  
望は若々しい茂みをあえて見ないように努めながら、臍の下から下腹部のかげりの上、  
そして張りのある太腿から臑にかけて筆を進めた。  
 
「決・沢沃抉沈況汪……」  
――はぅん……  
 
 太腿の付け根を穂先が滑るとき、ついぴくぴくっと太腿が痙攣してしまった。  
しばらくすると、まといの充実した太腿からしなやかな臑までが経文に覆われていった。  
 
     ☆  
 
「では、最後の部分です。あのぅ……どうか我慢して、足を広げて、膝を立ててもらえますか」  
「は、はい」  
 
 望の言葉は、彼の前に自分の恥ずかしい部分をすべて晒すことを意味していた。  
だがそうしないと自分は望の側にいることができない。  
まといは羞恥の感情を抑えつけて足を大きく広げ、膝の裏に手を添えて膝を立てていった。  
 
――あああ、やっぱり恥ずかしい……先生にじっくり見られてしまうのね……  
「じゃあ、失礼します」  
 
 望はまといの膝の間に屈み込むと、まといの敏感な太腿の内側に経文を書き込んでいった。  
 
「はああぁ……あぁん!」  
 
 ある程度予想はしていたが、愛する望の前に女の子の秘密の部分を全て晒け出し、  
微妙な箇所に触れられるのは、想像以上に恥ずかしかった。  
 
 そして今、いつものえっちで望に触れられるよりもはるかに感じてしまう自分が疎ましかった。  
筆先が内腿を走るだけでぴりぴりと切なくなる。  
いや、望に見られているだけで中がじゅんっと潤うようだ。  
 
――い、いやっ、私ったら。いったいどうして……!?……はぁっ、はうぅんっ!  
 
 いよいよ筆がまといの秘部に触れてきた。  
 
「定・室実家突宗空……」  
 
 穂先がまといの若叢をかき分け文字を記していく。  
 
「ああぁ……はあぁん……」もはやまといは喘ぎ声を隠せなかった。  
――はうぅ、先生! 私、もう、もう……!  
 
 まといは目をきつく瞑り、頭を左右に振って溢れる性感に耐えた。  
 
「すみませんっ」  
 
 望は短く叫ぶと、まといの茂みを指でかき分けた。  
そして露わになった秘裂に沿って筆先をするするっと運んでいった。  
 
「くあぁ!……あふぅ……ああーーっ!」  
 
 望の筆先はまといの敏感な部分をくまなく這い回った。  
お経が全て書き上がると同時に、まといは軽く達した。  
 
 上気していたまといの息が整ったところで、望が言いにくそうに頼みごとをしてきた。  
自分の絶棒と袋に経文を書いてほしいというのだ。  
 
「女性にこんなことをお願いするのはまことに心苦しいのですが……  
兄もここには遠慮して書かなかったんですよ。  
でも、よく考えてみたら、自分で書いたんじゃ効果ないんです、これ。  
このままでは亡霊に持って行かれてしまいますので」  
 
 まといは恥ずかしかったが、愛する人のためである。  
絶棒をそおっと摘み上げると、袋の付け根から書いていった。  
経文の文句は望が口伝えで教えた。  
 
 袋の裏も書き上げ、これから絶棒という段になった。  
再び絶棒の先を摘んだまといがふと望の顔を見た。  
一瞬視線が合うと、望は真っ赤になった。  
それと同時に絶棒がまといの指で摘まれたままむくむくと大きくなり始めた。  
まといも赤面した。  
 
      ☆  
 
 ここで、外から声がした。  
 
「おーい、望。帰ったぞー」景であった。  
 
「ちょ、ちょっと待って下さい」  
 
 望は慌てて返事をした。  
二人は動転してあたふたと身なりを整えた。  
 
 ややあって後、望はどたばたと戸口に駆け出し、扉を開けた。  
 
「お、お待たせしました」  
「ほら、差し入れだ」  
 
 兄が食事の入った風呂敷包みを手渡した。  
望は頭を下げた。  
 
「ありがとうございます。……あの、この度は本当にお手数をお掛けして」  
「気にするな。それより」景はまた空を見上げた。  
「もう日が暮れる。準備はいいか」  
「ええ」  
 
 望は兄につられて外を見た。  
 
 厚い雲がどんより垂れ込めている。  
わずかに残る雲間から見えた西の空には、夕焼けが不気味な色を残していた。  
いやな風も吹き始めている。  
 
「いいか。今晩は二人ともお堂を出るんじゃないぞ」  
「はい」  
 
 景の声が耳に入ったまといも、さすがに緊張した面もちだ。  
やや不安気になっているのは隠せない。  
 
「一晩耐え切ったら大丈夫だ。オレとこの娘さんが外に控えているからな」  
 
 望が景のそばを見ると、マリアが寄り添っていた。  
望とまといを心配して来てくれたのだ。  
 
 辺りがすっかり暗くなった。  
境内にテントを張ることにした景とマリアに見守られ、  
望はお堂の扉を中側から閉めた。  
 
 中を照らすのは蝋燭の明かりのみである。  
外は風が吹き、時折お堂のあちこちをガタガタと鳴らしている。  
 
 二人っきりで簡素な食事を済ませ、並んで静かに全跏を組んだ。  
と、それまで細長い炎を静かに揺らめかせていた蝋燭の明かりがぴたっと動かなくなった。  
炎がじわっと丸みを帯びた形に変わり、黄色の部分が強く光ってきた。  
 
──パキッ……  
   
 枯れ枝が折れたような音がお堂の隅でしたかと思うと、いきなり亡霊たちが現れた。  
 
『フォッフォッフォッ……フォッフォッフォッ……』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
 
――あああ……出ましたよ、出た出た……  
 
 何体いるのか分からない。  
それらは二人の周りをゆらゆらと漂っている。  
時には望のすぐ近くまでやって来ては、顔を覗き込むような仕草を見せたりもしている。  
 
 震えながら全跏を組んでいた望の白装束が、見えない何かによってはだけられた。  
程なくほぼ全裸に剥かれていった。  
まといも同様であって、女性だからといって容赦はなかった。  
まといは思わず望の背中にすがりついた。  
 
「先生!」  
「つ、常月さん……」  
――あ、当たってます!  
 
 こんな状況なのに、望はまといの乳房が背中に押し当てられる感触に  
少し胸がときめいてしまった。  
おまけに、彼女は全裸で自分にひしと抱きついている。  
少女の肌のしなやかな感触、体温のほのかな温もりが心を波立たせた。  
 
 だが、間もなくそれらを気にする余裕がまるでなくなった。  
何本もの半透明の気色悪い手が二人の身体の周りを這い回ってきたのだ。  
経文が書いてあるお陰で直接は肌に触れられないが、隙あらば持っていってやろうという  
邪悪な雰囲気は十分感じられた。  
 
      ☆  
 
 その様子を外の扉の隙間からそっと覗いていたマリアが景に尋ねた。  
 
「先生おしゃれ上級者ナノカ?」  
 
 それに対して景が解説した。  
 
「書いてない部分があると亡霊に持ってかれてしまうんだ」  
 
 これ以上見ていると危ないからと、景はマリアを促しテントへ籠った。  
 
 一方、中の望はあまりの気味悪さに涙を流しつつ心の底から叫んだ。  
 
「絶望した! おしゃれ上級者じゃないと持ってかれる祟りに絶望した!」  
 
 やがて、異形の手が絶棒を探り当てた。  
 
『フッフッフッ……見ツケタゾ』  
『モケケモケケ。モケケモケケ』  
『フォッフォッフォッ……コレカ』  
 
 冷やっとした気味悪い感触の手が絶棒を掴んできた。  
 
「ひょわっ!?」  
 
 望はそのおぞましい感触に鳥肌が立った。  
異形の手は絶棒をさかんにくいくいっと引っ張っている。  
やっと望は絶棒に経文を書き忘れていたことに気付いた。  
景が帰ってきた後にまといに書いてもらうことをすっかり失念していたのだ。  
 
――こ、このままでは持っていかれてしまいます!  
 
 望は焦った。だが絶棒を引っ張る手の力はますます強くなる。  
ちぎれるような痛みが絶棒を襲ってきた。  
望は絶叫した。  
 
「う、うわああああぁ! 持ってかれるぅ!」  
 
 この異変を、まといは恐ろしさに震えながら望の肩口越しに目にしていた。  
だが、このままでは望が危ない。  
まといは意を決して、望の前に回ると両手で絶棒をはっしと握りしめた。  
 
 一瞬冷やっとした不気味な感触があったが、不意にその雰囲気が消えた。  
気が付くと馴染みの絶棒が手の内にあった。  
まといの掌に書いてある経文のお陰で、すんでの所で持って行かれるのを免れたのである。  
 
――良かった……  
 
 まといは心から安堵して絶棒をしっかり握り直した。  
望もまといによって助けられたことが分かった。  
なにせ、男の象徴を持って行かれなくて済んだのだ。  
心底から助かったという心持ちがした。  
 
「常月さん、どうもありがとうございます」  
「先生……」  
 
 望はまといを感謝の意を込めて見つめた。まといも微笑み返した。  
 
――温かいです……  
 
 望はまといの手の温もりを絶棒に感じた。  
絶棒はまといの柔らかく温かい手の中で体積を増していった。  
 
 二人は見つめ合った。  
絶棒がますます硬く大きくなり、その先がまといの手の中から出そうになった。  
このままでははみ出た部分が持って行かれてしまう。  
 
――な、何とかしないと……!  
 
 まといは思わず望に身体を寄せていった。  
気が付くと胸と胸がぴったり触れ合っていた。  
勃起した乳首が望の胸板に当たっているのがはっきり分かる。  
望の体温が素肌を通して伝わってくる。  
 
 すぐ目の前には愛する望の顔がある。  
ほとんど唇が触れんばかりの距離である。  
 
 相手の呼吸音が間近に聞こえる。  
心臓の鼓動が二人分聞こえてくるようだ。  
 
 望が、思い詰めた表情をしたまといの顔を見つめたまま、彼女の身体をそおっと抱いてきた。  
抱いたまま徐々に後ろへ倒れていき、やがて静かに仰向けになった。  
 
 まといは望の動きに合わせ、絶棒を握ったまま彼の上に覆い被さった。  
亡霊が入り込まないよう自分から身体を望に密着させた。  
そして絶棒の頭を自分の臍に押しつけ、熱を帯びて硬くなった本体をギュッと握りしめた。  
 
 二人はまだ見つめ合ったままである。  
まといの瞳は燃え立つ炎のように爛々と輝いている。  
 
――先生!……  
――常月さん……  
――ええ……  
 
 二人は眼で心を通わせた。  
やがて無言のままそっと唇を合わせた。  
望はまといを抱いていた手を肩に回し、力を込めた。  
 
 まといは望の眼をみつめたまま、臍に当てた絶棒の頭をゆっくりと下方のまとい自身にずらしていく。  
 
「くっ……あぅ……」  
 
 素晴らしい摩擦感が望を喘がせる。  
望の喘ぐ様子を見ながら、反応を確かめるようになおも絶棒をずらしていく。  
 
 白い下腹部をじわじわと滑っていく赤銅色の絶棒の先が、黒い茂みの生え際に達した。  
 
「はぁッ!……んむぅ……」  
 
 触感の変化に望が感嘆の声を漏らした。  
望が素直に快感を訴えてくれることに、まといは喜びを感じた。  
快感に震える望の表情を見下ろしながら、なおも絶棒を茂みの中へ潜らせていった。  
 
 草むらが湿気を帯びてほどなく絶棒がまとい自身の入り口に到達した。  
まといはしばらく入り口で絶棒を休憩させた。  
その後入り口付近のぬかるみで絶棒を動かし、まとい自身になじませた。  
この間、まといは望を見つめたままである。  
   
 やがて二人は見つめ合ったまま、静かに合体していった。  
 
「んっ……」  
「あン……」  
 
 絶棒の先端がまといの最奥部に到達した後、まといは離した手を望の首に回した。  
二人は固く抱擁し合った。  
 
 二人が求め合う時には、合体する前に望がまといの美しい胸や素敵な秘所を長いこと口唇で愛撫するのが常であった。  
だが、今回はそれができない。  
無論、全身に舌を這わせたり軽いキスを落とすこともできない。  
接吻さえも、いつもに比べると随分動きを抑えざるを得なかった。  
そのせいか、今晩はまといが主役の丁寧で繊細なキスになった。  
 
 合体したまま、ほんのわずか開いた口をそっと触れ合わせる。  
まといの舌先が望の舌先を求めて口内をさ迷う。  
探り当てると、遠慮がちにちろっと舐める。  
望のものか確かめるように再度ちろちろっと舐める。  
愛する望の舌だと分かったところで舌先をぴったり合わせて押しつけ合ったまま、しばらくじっと動かない。  
やがて堪え切れずに舌先を望の舌の側面に滑らせ、奥まで舐めていく。  
それでようやく安心したように舌先だけをねっとり絡ませるのだった。  
 
 だが、それだけで二人の心は完全に通い合い、性感が身体の内側から高ぶっていった。  
一種の極限状況の中での交わりで、二人の身体は熱く燃え上がった。  
 
「ふぁっ……あん……っあぅ……ん……」  
 
 まといがほんのわずか切なそうに前後に動く。  
時には腰を擦り合わせ、押しつけるようにぐりぐりと回転させる。  
それだけで泣きたくなるほど気持ちが良かった。  
 
 望もそれに合わせてまといの腰に添えた手を動かした。  
時には尻に手を添え下から捻りを加えた。  
その度にまといの口から情熱的な喘ぎが漏れた。  
 
「はぁっ!……あぁん……せ、せんせ……い」  
 
 まといの甘い喘ぎを耳にするうち、望の腰の奥に発射の気運が漲ってきた。  
まといも快感の束が腰から背筋を駆け上っていった。  
 
「ああ……先生……も、もう!……お願い!」  
「ええ。私ももう……一緒に、うぅっ……!」  
 
 絶棒から発する快美な電流をこれでもか、これでもかと流し込まれ、  
望の腰の奥がじんじん痺れてくる。  
やがて熱い塊が絶棒の中を徐々に昇っていった。  
 
 絶棒が最大限に膨らむと、それを察知したまといの中が甘い蜜を吐き出して絶棒に絡めた。  
そしてきゅうぅっと甘えるように締め付け、愛を交わした証をねだった。  
 
「常月さん。もう、もう……うぅあッ!」  
「はぁン、先生、先生……あああぁん!」  
 
 やがて望がまといの腰を折れんばかりに抱きしめ、精を彼女の奥深くに打ち上げた。  
 
 まといも望にひしとしがみつき、全身がとろけるような絶頂に達した。  
 
 ここで望が上になった。絶棒は挿入したままである。  
 
 二人が密着して動いている間は亡霊は手出しできない。  
だが、少しでも動きが止まったり、二人の間が離れたりすると、亡霊が持ち去るものを求めて  
二人の周りに妖かしの手を漂わせてくるのだった。  
 
 望は自分のせいでまといを亡霊の邪悪の雰囲気に触れさせたくなかった。  
自分が上になることでまといを少しでもその手から遠ざけようと思った。  
それで望自身は緩慢に、だが休まず動き続け、発射した後も抜かずにいるのだった。  
 
 やがて、望はまといの胸に手を這わせた。  
今まといの乳房は望の胸板の下にあって、望の愛撫を待っている筈であった。  
だが、今宵はその美しい姿を眺めることも、口唇でその愛らしい果実を愛でることもできない。  
望はその分心を込めて丁寧に揉み抜いていった。  
 
 望は掌を広げ、五本の指先を膨らみの裾野に置く。  
その裾野をくすぐるかのようにさわさわっと優しく撫でる。  
撫でながらほんの少し掌で押してみる。  
 
 男なのに柔らかい望の掌。  
その掌で包まれているまといの乳房は、望の掌全体が発する磁気で甘い快感にうち震えている。  
まるで甘い快感の膜で覆われているようだ。  
 
 乳首の頭が望の掌の腹に触れている。  
触れているだけでそこが痺れてたまらないのに、上から押されると快感が束となって  
胸から腰を貫いていく。  
 
 さらに、その掌の腹が少しずつずれていく。  
擦られていく時に電流が乳房に流れ込んでくる。  
やがて、人差し指と中指の付け根辺りで優しく挟まれる。  
 
 裾野を撫でていた指にほんの少し力が籠もり、指先がやわやわと膨らみを揉んでくる。  
リズミカルに揉み込むかと思えば、五本指を不規則に動かす。  
まといは望の指に翻弄された。  
 
      ☆  
 
 その間も望は少しずつ変化を付けながら動き続けている。  
柔襞が優しくうにゅうにゅと蠢き、絶棒を労るように絡みついてきた。  
 
「ふぅ……あはン……」  
 
 まといの口から喘ぎ声が漏れた。  
脚を望の腰に絡めた。  
さらなる愛撫をせがんで、絡めた脚と腰を淫らにくねらせた。  
 
「気持ちいいですか?」望はまといの耳元で囁いた。  
「……ええ。と、とっても。……っんぅ」  
「こんな時ですから、せめてもっと気持ち良くなってもらいますね」  
 
 望はほんの少し腰を送り込んだ。  
 
──くいっ、くいっ。  
「はうっ!」  
 
 小さな電撃が下半身を直撃した。  
まといは電撃の余韻に震えながら次のシャフトを期待した。  
だが、また腰の動きは微かなものになってしまった。  
代わりに、じれったいほど丁寧な乳房への愛撫が再開された。  
 
 望がまといの乳輪を指の腹で撫でてきた。  
じっくり輪に沿って何周も撫で上げるかと思うと、一部だけを小刻みに擦り上げる。  
 
 乳輪への愛撫が一段落すると、今度は親指の腹で乳頭の下側を撫でてきた。  
ゆっくりゆっくり往復して撫でているかと思うと、急に素早く小刻みに擦る。  
親指の腹で擦っている間に、人差し指の腹も乳頭の上側に触れてくる。  
だがこちらは触れるだけで、動かしはしない。  
いや、微妙に動かしているのかも……  
 
――ああ、もっと……もっとぉ!  
 
 まといはじれったさに身が焦がれた。  
心の底から、乳房全体を思う存分揉んでほしいと思った。  
めちゃめちゃに揉みしだいてほしかった。  
 
 今、身体が芯から火照って仕方がない。  
望に全身を激しく愛し抜いてほしくて仕方がない。  
なのに、望はまといの思いをそしらぬ風に、愛らしい乳首だけを両指でずっと愛でていた。  
 
      ☆  
 
──きゅっ!  
 
 不意に望がまといの乳首を優しく摘んだ。  
 
「はうん!」  
 
 まといの身体がぴくんと反り返った。  
望は摘んだままくりくりとねじった。  
 
「はあん、先生、お願い、もう……あぅ!」  
 
 望は親指の腹で上からぎゅうっと押さえつけると、ぐりぐりっとこね回した。  
まといは後から後から自分の蜜が分泌されるのを自覚した。  
 
──ちゅぷっ、くちゅっ……ぴちゃっ……  
 
 一度達してから後、望はわずかしか腰を動かしていない。  
それなのに、いつの間にか、微かだが淫靡な音がお堂に響いていた。  
まといは自分の中から恥ずかしい汁が溢れてくるのをどうしようもなかった。  
 
 たまらず望に哀願した。  
 
「はああん!先生、もう、お願い、お願い!」  
 
 やっと望が乳房全体をぐいぐい揉んできた。  
 
「ふあああぁぁっ! あっ、っんっ、はぅっ……」  
 
 揉み込みながら、絶棒を短いシャフトでクッ、クッと強く突き込んでくる。  
奥まで挿し通すと、ぐりぐりっと「の」の字を書くように押しつけながら回転させる。  
それを逆向きに繰り返して捻りを加える。  
またズンズンと突く。  
 
「はああああああっ!」  
 
 先ほどまでとはうって変わった望の激しい動きに翻弄されながら、  
まといは待ち望んだ高みに連れて行かれた。  
 
 まといの柔襞は今や淫らに蠢いて望の精を盛んに求めている。  
絶棒はすっかり回復していて、襞の心地よい動きに包まれ、さらに刀身を反り返らせている。  
 
 まといの中が、奥の方からきゅうっと絶棒を締め付けてきた。  
肉襞の蠢きと合わせ、一刻も早く絶棒からエキスを搾り取ろうとするような強烈な締め付けだ。  
望はたまらず呻いた。  
 
「うぅっ!……っん!」  
――こ、これは……凄い!  
 
 まといの中が恥ずかしい蜜をしとどに絶棒に浴びせかけ、さらにその摩擦快感を倍加させてきた。  
早く欲しいと泣いてねだっているようだ。  
 
 絶棒は限界まで硬くなり、まといの中で膨れ上がった。  
 望は激しくストロークを刻みながら、まといの耳元に限界が来たことを伝えた。  
 
「うっ!……そ、そろそろ……一緒に!」  
「ひゃうぅん!……あっ、先生、先生!」  
 
 ついに力の漲った絶棒が再び熱い濁流を放出した。  
 
「むっ……っんッ……くうぅっ、あぅッ!!」  
 
 二度目なのに驚くほど多量の絶流が絶棒を駆け抜けていった。  
焼け付くような快感が望の下半身を覆い尽くした。  
 
「はあぁっ!…んっ、はうううぅぅんっ!!」  
 
 まといは胎内に望の精を浴びせかけられ、全力で望を抱きしめたまま絶頂に駆け上っていった。  
そして望の肩に顔を埋め、達した余韻で全身が弛緩するのを堪えた。  
 
 こうして二人は固く抱き合ったまま、幾度となく絶頂に達した。  
 
      ☆  
 
 何度達した後のことだろう。  
ふと望が気が付くと、お堂の中にもう亡霊の姿はなかった。  
 
 まといは自分に密着して目を閉じている。  
彼女が脚をきつく絡めてくれているので絶棒は挿入されたままだが、さすがに今は小さくなっている。  
 
 蝋燭は親指の先ほどに短くなっている。細長い炎も後少しで消えそうだ。  
夜通し吹いていた風がいつの間にか止んでいて、どこからか小鳥のさえずりが聞こえてくる。  
穏やかな日差しが戸や窓の隙間からお堂に差し込んでいる。  
 
 外から景とマリアが声を掛けてきた。  
 
「おーい、大丈夫かー」  
「先生、無事ダッタカ」  
 
 望はここで初めて、助かった、と思った。  
 
「ええ、大丈夫です!」  
「じゃあ、ここを開けてくれないか」  
「はい!」  
 
 望はそっとまといを離した。  
恐怖の一夜を何とか乗り切った安堵感で一杯になりながら望は扉を開けた。  
 

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