こんな夢を見た。  
 
私はあたかも、躯からふらりふらりと抜け出た魂のように、自分を見下ろしていた。  
 
(なんなんでしょうこれは)  
 
眼下5メートル下ほどに見える自分の寝姿。  
 
いつも通りの袴姿。  
 
(もしや本当に死んでしまって幽体離脱を……)  
 
そこまで考えた時に、ふと自分がいる場所が異様なことに気付いた。  
 
(……えっと)  
 
真っ暗な舞台上で、自分だけがスポットライトを浴びている役者のよう。  
 
周りが暗闇で、自分の躯の周りだけ半径1メートルほどのまあるい光に照らされている。  
 
(寝ぼけているのでしょうか)  
 
目をごしごしとこすってみる。  
 
その時、暗闇から微かなうめき声が聞こえた。  
 
「ふぅ……ぅん」  
 
声はひとつではなかった。  
 
「ぁ……ん」  
 
二カ所、いや四方から聞こえる。  
 
わたしは幽霊のように宙に浮かびながら、手探りで闇を泳いだ。  
 
 
少し進むと、声の元に近くなる。  
 
 
(苦しそうな声……もし、苦しんでいるのならば、助けなければ)  
 
正義感なんて偽善的な感情で動いているわけではない。  
 
そのうめき声は、わたしの教え子の声にとてもよく似ていたから。  
 
だから。  
 
(助けなければ)  
 
 
パッと、二つめのスポットライトが舞台を照らす。  
 
 
淡い光に照らされた光景は、信じがたいものだった。  
 
(木村……カエ、レさん?)  
 
金髪の人格バイリンガルの少女が、苦しそうな体勢で頭上から吊られていた。  
 
胸を前に大きく突き出したような格好で、  
太ももの付け根にきつく食い込む縄に支えられて。  
 
彼女にとって唯一の救いは、制服のプリーツスカートもブラウスも、一切乱れていないことか。  
しかしその制服のまま戒められているという光景は、むしろ、はだけているよりも、余計に卑猥に見せていた。  
 
西洋人の様な白い頬は桃色に染まり、  
閉じられた目尻に苦痛のためか涙の跡が残っている。  
小さく開いた唇は、浅い呼吸と悩ましげなうめき声を繰り返して、まるで眠っているようだった。  
 
彼女を苦しめている縄を解こうと、私は彼女の躰に手を伸ばした。  
 
(ちょっと失礼……ってええええ!)  
 
驚愕した。  
なんてもんじゃない。  
私の手は彼女を通り抜けて、向こう側に行ってしまったのだ。  
 
(木村さん!)  
 
 
(声も、出ないのか)  
 
 
本当に幽霊になったようだ。  
触れることが出来なければ、触ることも出来ない。  
私は悪夢に、頭を抱えた。  
 
そう、悪夢。これはもしや夢なのか。  
 
 
その時、聞き慣れた声がした。  
 
「ほら、いつまで寝てるんですか。木村さん」  
 
――『私』が、彼女の頬を叩いていた。  
 
(『私』が、もう一人?)  
 
袴に眼鏡、鏡から抜け出したようにそっくりな糸色望が、そこにいた。  
 
(どういうことだ)  
 
心臓が、ドクンと大きくなる。  
 
(『私』が、二人)  
 
手足の先が冷えるのを感じた。  
 
(あいつは偽物だ)  
 
縛られた少女の躰を乱暴に揺すり、突き出された尻をなで回している偽物の『私』が、  
視線だけでこちらを振り返った。  
 
「私が本物です。ニセモノの貴方は、そこで指を咥えて見ていなさい」  
 
にやりと笑う目が私を射抜いた。  
 
(私は……実体もない、声もでない……)  
 
 
 
 
ニセ者ナノハ  
――ワタシノ方ダ  
 
 
 
そこから先の記憶は靄にかかったように曖昧  
 
だった。  
 
 
私はただ、時に生意気で、でも大抵は可愛らしい教え子達が、  
『私』に無惨にも陵辱されているのを見ていることしかできなかった。  
 
 
 
「木村カエレの場合」 
 
 
「ちょ、ちょっと、なにこれ!」  
 
少女はようやく眼をさました。  
うまく動かない自分の姿態に気づき、必死に体を捩って抵抗する。  
 
「大人しくしなさい、いくら帰国子女でも日本人なのだからもう少しお淑やかに、ね」  
 
男がブラウスの上から胸の突起を摘んだ。  
 
「痛っ!先生、何するの、訴えるわよ!」  
 
男は手を止めることなく、両方の胸を好きなように弄ぶ。  
 
「……出来るものなら、どうぞ?」  
 
カエレはぐっと詰まると、自由な両足で目の前の男を蹴り上げた。  
それを男はひらりと避ける。  
 
「おっと、パンツが見えてしまいますよ。ああ、パンツ見せ要員でしたっけ」  
 
男は左手はカエレの胸で遊びながら、右手を剥き出しのふとももにやった。  
 
「ひゃあっ……」  
 
快感や痛みではなく、むしろくすぐったさに、甲高い声を上げる。  
 
「ほら、もう少し足を開いて」  
 
そう言いながら、手のひらで円を描くように白い足を撫でた。  
 
「やだ……やだあ!先生、どうして」  
 
抗議に涙が混じるが男は手を止めない。  
 
「さあ?どうしてと問うなら……そうですね。どうして、こんなに濡らしてるのですか」  
 
男は太ももを這う透明な液体を指で掬った。  
 
「やだ、やだやだやだ!」  
 
カエレは顔を真っ赤にして頭を振る。  
 
「まあいいですけど、いくら暴れたって。まだ始めたばかりですから」  
 
男は気にせずに手を進める。  
 
「嗚呼、中もぐちょぐちょだ」  
 
わざと呆れたような声を作り、唇を耳元に寄せ、カエレを揶揄した。  
 
「厭らしい娘ですね」  
 
と。  
 
 
 
『日塔奈美の場合』 
 
 
「先生、どうしてこんなことをするんですか!犯罪ですよ!他のみんなは……」  
 
後ろ手に縛られ、首に縄を回された少女は、  
天井から吊られているわけでもなく、泣きながら床にぺったりと座っていた。  
 
「先生は、こんなことする人じゃないと思っていたのに……」  
 
「あなたもですか?」  
 
男はこれ見よがしに大きな溜息をついた。  
 
「どうやら、『私』は相当人望があったようだ」  
 
「先生……?」  
 
男は足下に蹲る奈美を軽く蹴った。  
 
「ほら、立ちなさい」  
 
その乱暴な言葉に、また涙が浮かんだ視線を床に彷徨わせる奈美を、もう一度蹴り上げる。  
 
首から手首に回されている縄を引っ張り上げた。  
 
「腕、痛い!折れちゃうよぉ!」  
 
「だったら早く言うことを聞きなさい」  
 
男は苛立ちを隠そうともせずに奈美を完全に立たせ、  
躰を検分するように顎に手をやりな  
 
がら、矯めつ眇めつ眺めた。  
 
「先生、恥ずかしい、あんまり見ないでぇ……」  
 
じっと立っているだけでも辛くて、俯きながら小さな声を絞り出す。  
 
「じゃあ言うとおりにして差し上げましょうか」  
 
そう言うと男は奈美の後ろに回り、彼女を背後から抱きしめた。  
 
「こうすれば、躰を見ることは出来ないですから」  
 
「せ、先生?」  
 
この場に不似合いな一時の休息、腕の力強さと優しさに少女は戸惑った。  
 
だがそれも一時的なこと。  
すぐに安息は打ち破られる。  
 
「ふぁ…んぁあああ…やぁんぁあらめぇぇぇ」  
 
男の長い指が、彼女の温かく狭い穴を犯す。  
三本の指をバラバラに動かせば、少女は全身で拒絶を示した。  
 
「ぃた……ょお、痛ぃ…や、…だ…」  
 
「狭くて良い感じですよ」  
 
男は腕の中の彼女の汗ばむ首筋に、唇を落とした。  
 
「ぃたいょおお、やだ、こんな……慣れてな……」  
 
「そうですか。でも、初めてではない、と?」  
 
「んんぅ」  
 
自由にならない両手を縛める荒縄がぎちぎちと乱暴な音を立てる。  
 
「初めてではないんですか?先生に話してください」  
 
声だけは酷く優しく。でも発言の内容は卑劣そのもの。  
少女はとうとう、快楽に身悶えながら言った。  
 
「ぁ……はぃ、一人だけ……でも最後までは……ぁあ」  
 
少女がしゃべる間も男の指は縦横無尽に動いている。  
 
「そうですか」  
 
「ぁあ、んぁ、ぁ…ゃ、ふ」  
 
既に意味のある言葉を発する事も出来ない奈美は、甘やかな喘ぎを返事に代えた。  
 
その時少女の躰は痙攣したように一度跳ねたが、  
背後から羽交い締めの状態で男に支えられているため、  
ますます躰の奥深くに指を埋める結果に終わった。  
 
相手は過去に一人だけ、それも前戯のみ。  
 
「いたって、普通ですね」  
 
 
 
「木津千里の場合」  
 
 
男は一番無理な体勢に縛られ吊られた少女の髪を梳きながら、唇を歪めた。  
 
「さて、他の子達はあれでいいとして、あなたにはどうしましょうか」  
 
「先生、なんなのよ、これは。百歩譲って、こんな変態で錯綜的な状況は受け入れるわ。」  
 
少女は動揺しながらもはっきりと言葉を句切って言った。  
男は楽しそうに彼女の艶やかな黒髪を弄りながら聞いている。  
 
「この縛り方もきっちりとしてるみたいだし、だからそれは良いのよ。  
でも今、他の子達って言ったわよね?!他に誰がいるの?あの子達に何をしたの?!」  
 
男は無言で手を滑らせ、半分逆さまに吊られたせいでちらりとセーラー服から覗く愛らしい臍に触れた。  
 
「さすが、委員長ですね。皆のことが心配ですか」  
 
「私は委員長キャラなだけで委員長じゃないけどそれはおいといて。  
……当たり前じゃない!さあ言いなさい。」  
 
千里は男を精一杯睨め付けたが男は尚も笑うだけだった。  
 
「他には木村さんと日塔さんですね。彼女達は適当に遊んで放置してありますよ。  
今は中途半端な快感に悶え苦しんで居るんじゃないですか。あとは常月さんですが、彼女はまだです」  
 
「苛々するわ、適当って、中途半端って、何したのよ。」  
 
「指で散々嬲って、すこぅし催淫剤を飲ませて放置してあるだけですよ。  
でも縛られているため自分ではそれ以上慰めることも出来ないし、相当苦しいとは思いますが」  
 
男は慈しむように少女の頬を撫でた。  
 
「非道い…人間じゃないわ!!」  
 
「安心してください、あなたもきっっちり遊んであげますから。  
でもこんなにきっちり足を閉じて縛ってあると中に挿れづらいですね……」  
 
その言葉に脅えた千里は、必死になって逃れようと躰を前後に揺らしたが、  
虚しくも振り子のように前後を行ったり来たりするだけだった。  
 
「そうだ、面白い事を思いつきました」  
 
ぽん、と。男がわざとらしく両手を打つ。  
 
「これをこうして……ってこれはちょっと低すぎますかね」  
 
男が何か呟きながら縄を動かす。  
 
「きゃっ、な、な、ぅわ!」  
 
「これで良し、と」  
 
男はにっこりと笑って自分の袴を降ろした。  
 
「ねえ、咥えてくれませんか」  
 
縄の位置が変わったため、今や少女の躰は地面すれすれの位置にあった。  
そして千里の目の前には未だ萎えたままの陰茎。  
 
「嫌よ、絶対そんなことしないんだから。」  
 
千里が僅かに顔を赤らめ、そっぽを向く。  
 
「ええ、あなたは何もしないでいいですよ」  
 
徐に取り出した陰茎を数回扱くと、少女の口に突っこんだ。  
 
「あなたは何もしなくていいです。私が勝手にあなたの口を使わせて戴きますから」  
 
男は少女を吊る縄を掴むと前後に揺すった。  
彼女の躰全体がその動きに合わせて揺れる。  
 
「歯を立てたら、……わかってますよね」  
 
脅える少女に満足すると、縄を動かす速度を速めた。  
 
「ぅく……ららぁ……う……るり……ふぁ……え……ぐぅ」  
 
「ははは、何言っているかわかりませんよ」  
 
少女は口いっぱいに大きく育った男根に嘔吐く。  
しかも無理な体勢で揺らされているから躰全体が痛みを訴えた。  
 
ぴちゃ、ぴちゃ、という卑猥な水音。  
唇と男根の摩擦音。  
何処か遠くから聞こえる他の少女達の憐れな呻き声。  
縄が擦れる音。  
どれくらいの時間が過ぎたのか。少女には長すぎる時間だった。  
 
「っは……、そろそろ、出しますよ」  
 
男が自身を少女の口から抜き、大きく一度扱くと、少女の顔に掛けた。  
 
眉間の間辺りを狙って掛けられた白濁液は、  
 
呆然と見開かれた瞳や鼻や口の端を伝い、豊かな黒髪を白く染める。  
 
「……なん、で?」  
 
絶え絶えの息で千里が問う。  
 
「ふふ、飲ませると思いました?」  
 
千里は苦しげに、大きく頷いた。  
 
「だってこっちの方が面白いじゃないですか。  
拭くことも出来ないまま、しばらくそのままでいてくださいね」  
 
そして男は再び笑う。  
 
「顔や髪を精液まみれにした、みっともないその姿でね」  
 
一際大きく瞳を見開き、少女は嗚咽した。  
 
 
 
「ぁ……ゃ、ゃ、やあああああああああ」  
 
泣き続ける少女を射精した後の醒めた双眸で見つめると、  
男は闇の中から気こえる「挿レテ」と強請るような喘ぎ声に耳を澄ました。  
 
突如不思議なことが起きた。  
まるで空間ごと移動したかのように、カエレと奈美が先ほどと同じ格好のまま男の目の前に現れる。  
 
いや、先ほどと同じとは言い難い。  
恐怖で蒼白かった肢体は今や興奮で桃色に染められ、  
少しでも快感を逃そうと身を捩ったために二人の制服は乱れていた。  
 
何よりも。白い足を伝い流れる愛液の水溜まり。  
二人が過ぎた快楽に苦しんでいたのは明らかだった。  
 
「入レテ」「挿レテ」「射レテ」とおねだりする呻き声。  
囁くような少女の声に誘われ男が指を秘所に埋めると、少女は幸せそうに微かな喘ぎ声を漏らした。  
 
「わたし……も……」  
 
構ってもらえないもう一人の少女が腰を揺らす。  
男は反対の空いてる手で緩やかな下腹部に手  
 
を滑らせた。  
 
「せんせ……も、っと……」  
 
「我慢しなさい」  
 
男はわざと深い部分には触れず、浅い愛撫を繰り返した。  
 
 
「先生、私も……触って、ください……。」  
 
 
二人の少女の痴態は、顔中を白濁で汚された千里にも影響を与えた。  
切なそうに腰を揺らす。  
 
「ぃゃあ、せんせぃ……このままじゃ、おかしくなっちゃ、う……」  
 
三人の少女の声が暗闇に響く。  
 
挿レテ  
犯シテ  
触ッテ  
モットと。  
 
「どうぞ狂ってください、ご遠慮なく。でも、私には、私をいつでも待っていてくれるもう一人の愛しい少女がいるので、  
あなた方の相手をすることは出来ないんですよ」  
 
男は既に興味を失った玩具を見るように醒めた目で三人の少女を一瞥した。  
そしてただ、彼を愛する憐な乙女の元に歩き出した。  
 

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