スタスタスタ。  
てくてくてく。  
 
私達の足音が、学校の廊下にこだまする。  
5mほど先を歩く先生の後ろを、同じ歩調で進んでいく、私の定位置。  
 
先生は、私のことに気付いているけれど、こちらを振り返ろうとはしない。  
でも、それもいつものことだからかまわない。  
 
と、前を行く先生の背中に緊張が走った。  
―――ああ、また…。  
眉をしかめて視線を先生の前方に移すと、そこには、やはり彼女がいた。  
 
超ポジティブでありながら、ペンネームを名乗る、一風変わった雰囲気を持つクラスメート。  
先生が、彼女のことを気にしているのは、初めて会ったときから分かっていた。  
彼女、風浦可符香は、初日、学校が始まる前に先生に出会ったらしい。  
そのとき、先生を首吊りから救った(?)とも聞いている。  
 
…最初は、先生が彼女を気にしているのは、そのせいなのかと思っていた。  
 
だから、私はその話を聞いてから、先生が首を吊ろうとしたときはいつも、  
縄を切ったり、輪をずらしたり、邪魔をしようと試みてきた。  
でも、先生の私に対する態度は変わらない。  
 
そして、あるとき、気がついた。  
先生の風浦さんへの視線―――そこに込められた、切ない、想いに。  
 
彼女は、常に生命のエネルギーに満ち溢れているような少女だった。  
ネガティブな思考に陥りがちな先生と、何があってもポジティブな彼女。  
闇が光を欲するように、月が太陽にあこがれるように、  
先生も彼女に惹かれているのだろうか―――。  
 
私は、そんなことを考えながら、今も風浦さんを見つめている先生を、  
後ろからぼんやりと眺めていた。  
先生は、彼女が廊下の角を曲がって視界から消えると、小さなため息をついた。  
それから、はっと気付いたように私を振り返った。  
 
私は、先生に向かって、にっこりと微笑んで見せた。  
先生は、私を見て、ぎこちない笑みを浮かべると、再び前を向いて歩き始めた。  
私も、同じように足を進める。  
 
ごめんね、先生。  
私がここにいる限り、先生は、風浦さんに自分から話しかけることもできない。  
 
先生を一心に慕う私の前で、他の女性、ましてや同じクラスメートである  
彼女への想いを明らかにしたりなんかは、先生には、絶対にできやしない。  
 
なぜなら、先生は、優しいから。  
…なぜなら、私は、先生の大切な「生徒」だから…。  
 
本当は、何もかも、分かってる。  
先生の気持ちも、私のこの想いが報われることがないことも。  
でも、私がこうやって付きまとっている限り、先生は身動きが取れない。  
 
だから、私は今日も先生の後をついてまわる。  
私には、それしかできないから。  
先生がときおり見せる、辛そうな表情にも、そ知らぬふりで…。  
 
 

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