人並みで普通普通といわれる私だが、いわゆる一般的な男女づきあいはそうい  
えばもしたことがないなと気づいた。とはいっても正直、変人ばかり固めてでき  
たこのクラスで恋とか恋愛なんてことはあるまいと思っていた。  
 
・・・のだが、あろうことか自分の担任に恋してしまった。  
 
 しょせんあたしなんて普通の男と世間一般な模範的恋愛していくんだろーなー  
と自虐になってた時もあったが、まさか教師に恋するとは思わなかった。  
これはあきらかに普通ではない。  
 
 糸色望という先生。このクラスの変人の一人。常にネガティブ思考で生徒に迷  
惑をかける、お世辞にも素晴らしい先生とは言えない人。  
だが端正な顔立ちと若くて生徒たちと年の差を感じることがないためであろうか、  
もてる。 男性として、だ。  
 
 つまり私のようにその教師への禁断の恋をしてるのは他にもいるということだ。  
かなりオープン的に先生の追っかけをしてる生徒を何人か知っている。  
生徒と教師の問題とか年の差などの問題をものともせずに先生にアタックする姿  
はあたしから見ても惚れ惚れする。かなわないなぁと思う。  
 
 そんなわけであたしはこの背徳的な感情を表に出さずに今までやってきた。  
この強烈なクラスの中ではあたしは大人しいほうだし、先生にもそんなに印象に  
残っている生徒ではないと思っているし、あの先生が生徒の思いを受け取るはずがないだろう。  
(実際、生徒からの強烈な求愛をことごとくスルーしている)  
 
 倍率も高いし、くわえて生徒と教師。最初からあきらめてる。  
恋してるのは自分だけど、他人の恋を見てるようなそんな感じ。  
ならばこの普通でない想いを客観的に楽しんでいればいいのだ。そう割り切っていた。  
 
「奈美。あなた最近悩みでもあるの?」  
「・・・え?」  
 
いきなり声をかけられてびっくりした。  
なんとなく放課後に教室でのこっていたら、何となく残っていたであろう小節さんに  
声かけられた。まわりを見てみると私たち以外に生徒はない。  
 
「いきなり何よ〜。悩みなんてないわよ。もっとも進路の不安とかそういうのはあるけど」  
 
「もしかして恋の悩みかしら」  
 
私の言葉を無視してつないできた。しかも核心的である。どきっとした。  
 
「こ、恋。・・・な、なんで?」  
「たぶん相手は先生でしょ。それで悩んでるんじゃない?」  
 
とたんにあたしの顔は熱を帯び始めた。顔が真っ赤になってに違いない。  
 
「ち、ちがう、よ。そそんなことない」  
・・・苦しすぎた。ほんとあたしは反応もふつうだなぁと思う。  
 
「・・・あー、なんでわかったの? あたしそんなにわかりやすい?   
結構普通にやってきたつもりだったんだけど」  
 
「まぁ付き合い長いし、なんとなくあなたの先生への目が違ってきてるなーと。  
先生のこと好きなんでしょ?」  
 
「好きっていうか・・・。いや・・、うん、好き・・かも・・・。」  
恥ずかしい。恋愛相談というのはかくも恥ずかしいものなのか。  
 
「いつから?」  
 
「うーん、なんとなくいいなぁと思ってたのは3,4か月前くらいかな。それから・・・」  
 
「結構前からなのね。そのころは私も気がつかなかったから、ここ1か月くらいから思い  
が強くなってきたってこと?」  
 
「うん? 私はそんな自覚なかったんだけど。なんで?   
もしかしてあたし無意識に先生に熱のこもった視線でも送ってた?」  
だとしたら恥ずかしい。先生じゃないが自殺してしまいたい。  
 
「いや、そんなんじゃないけど、最近あなた千里ちゃんや常月さんが先生と  
絡んでるときに顔が無表情になってるときがある。  
それに先生に対するツッコミのキレも落ちてきてるわ」  
 
「はぁ・・・。さいですか」ツッコミって・・・  
 
「あなた嫉妬してるんじゃない?」  
 
「・・・嫉妬」  
言われるまで気がつかなかった。  
胸の中にしまっておこうとした感情がここまで大きくなってるなんて思わなかった。  
たしかにふと先生のことを想像することが多くなったような気もするし、  
心なしかため息も増えたような気もする。  
最初はここまで大きな想いじゃなかったんだけど。先生に嫉妬するまで大きくなるなんて。  
 
「そっかぁー。指摘されて気づいたよ。でもあたし特に先生とどうにかなりたいとか  
考えてないし。今まで以上に頑張ってこの気持を隠していくだけだし。告白する予定もないし」  
 
「しちゃえばいいじゃない。告白。別に隠すようなことでもないと思うわ」  
・・・この娘も無表情でとんでもないこと言うなぁと思う。  
 
「いや、あたしにそんな勇気は・・。  
それに告白したって先生が受け入れてくれると思わないし。」  
 
「たしかに先生があなたを受け入れることはないと思うけど、言えばいいと思うわ。  
少なくともすっきりはする。あなたが」  
・・・ほんとにはっきりと言ってくれる・・。怒っていいのかここは?  
 
「先生いいかげんだけど、根は真面目でいい人だからちゃんと向き合っていえば  
話は聞いてくれると思う。  
断られるとしても、奈美ちゃんを傷つけないようにやんわりと断ってくれると思うわ」  
 
「いや、それじゃ気まずくなっちゃうでしょ。卒業まで・・・」  
 
「そうね。最終的に決めるのはあなただし、今の状況と比べてどうなるかで  
判断すればいいと思う。  
特に恋愛したことない私が言えるのもここまでだし。  
・・・私もそろそろ帰るわ。とりあえずがんばって」  
なんか一方的に話を切られた。  
 
「あの、でも今日私にそんなこと話したの?  
なんか小節さんってそういうイメージじゃないかなと思ったんだけど」  
 
「・・・最近のあなた普通じゃないから。傍目から見て、元のほうがおもしろかったし」  
 
「・・・・ドーモ、ありがとうございます」  
あたしは頭を下げた。  
 
 そうやって言われたのが昨日の話。今日なぜか私は放課後、先生がいるで  
あろう宿直室の前にいた。単純な性格だと思う。それとも混乱してるのか。  
昨日までは特にさしたる問題でもないと思ってたのに、一度意識し始めると  
止まらなくなってしまった。  
 
――告白する。心の内を吐き出してすっきりするだけ。ただ好きだって言えばいいだけ。  
いややっぱり今なら引き返せる――  
 
言葉が頭の中を回る。なんだか頭まで回ってきた。  
 
「なにしてるんですか? 日塔さん」  
 
 ―心臓が飛び出るかと思った。いきなり後ろから声をかけられた。  
先生から。今会おうとしていた先生から。  
てっきり宿直室にいるとばかり思っていたがまだ帰ってなかったらしい。  
 
 とたんに私の顔はさらに赤くなった。心臓の脈が鳴ってるのがわかる。どきどきする。  
先生の顔を見てみた。先生は背が高いので私が見上げる形だ。整ってるきれいな顔だ。  
それ以外でどこを好きになったの?と聞かれても言葉に詰まってしまう。長所よりも短所が多い人だ。  
それでも私はこの人のために昨日一晩悩んで眠れなかったんだ。  
考えて、考えて結局告白することに決めた。  
 
 たぶん無理だろうとわかっていても私は先生のことが・・・  
「先生、私、あなたのことが好きです」  
 

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