「絶望した!!内容が最悪でも、最後に『世界にひとつだけの花』を歌うことでまあいいかってなる27時間テレビに絶望した!!」  
「とか言いながら最初から最後まで全部見てたじゃないか。あと、そんなネタは改蔵の時にやっただろ」  
7月のある日曜日、学校の宿直室にて、糸色望は甥の交と27時間テレビをちょうど見終わった所だった。  
「あのときは24時間テレビの『サライ』のことでしたよ。あと、夏休みは教師って暇だから、こんなことができちゃうんです」  
交に言い返すが、納得できる点は皆無だ。  
「先生だって夏休み働くだろうに・・・・・・・・・・・・・」  
望は交の声をほとんど聞いてなかった。  
「そんなことより私はもう寝ることにします。」  
望は、実際には30時間以上寝ていなかったので、体力的に限界だった。  
「(そんなになるまで見ること無いのに・・・・・・・・・)」  
交はもう言い返さなかった。  
気を遣ったというよりも、そんな望にあきれていた。  
ただ「おやすみ」とだけ言い、望は寝室の方へ歩き去った。  
 
ふすまを開けて、廊下から部屋の中に入る。  
本当に眠いので、布団を敷いてさっさと電気を消して寝てしまった。  
今日はクーラーがいらないくらい涼しい夜だった。  
すぐに寝られそうな眠気と環境が、望を夢にいざなう  
はずだった。  
「(どうしたことでしょう。熱くて眠れない・・・。  
それになぜか、体が重い・・・・・・これは、金縛り!?)」  
心なしか、まぶたも重く感じられる。  
「(目、目を開けなければ・・・)」  
顔面に力を込めて、バチッと開けるとそこにはー  
 
「つ・・・常月さん!!」  
「はい」  
そこには望の担任する生徒、ストーカー少女の常月まといが望の胸の上に寝そべる形でいた  
「いたんですか」  
「はい、ずっと」相変わらずの返しに望はいらつく。  
「こんなところでなにしてるんですか」  
「気にしないでください」  
「気にしないでって・・・あなたにそこにいられると眠れないのですが」  
「気にしないでください」  
眠気がすでに限界を超えている望には、冷静でいながらもいらだちは隠せない。  
「何なんですかあなた!いいから出て行ってください!!」  
「しぃーーー。先生、夜ですよ。お静かに。」  
いったん横になっていたので、睡魔で意識は朦朧としていて、まといの冗談を受け入れるだけの余裕はなかった。  
「どうしてあなたは私の自由を奪い続けるのですか!!」  
「?」  
 
まといには望の言っていることが、いや望自身も何を口走っているのか全く分からなかった。  
「だってそうじゃないですか!今現に私は寝ることができない!」  
「だから気にしないでどうぞ寝てください」  
まといは悪びれもせず言いのけた。  
「!・・・・・・・・・それに普段からあなたの視線が気になって・・・・・・自・慰・が・、出来ないのです!!!これは完全な拘束です!」  
「そ、それも気にしないでください・・・私、気にしませんから・・・」  
頬を染めつつ、まったく懲りていない。  
駄目だ。そう思った。彼女を言いくるめることは出来ないと思った。  
「先生、わたし、先生さえよかったら、・・・その・・・・・・  
結ばれても良いと思っていますから、・・・・・・お手伝いしますよ」  
何を言っているのだろうかこの娘は。こんな小さな少女に、誘われ、いや、からかわれている。  
いらだちは理性を打ち砕き、残ったのは支配欲と肉欲であった。  
 
もう我慢ならない!!!!  
「私だって、縛られるよりも縛りたいマジでえええええ」  
望は発狂した。  
「!きゃあっ!!」  
まといの背中を握り、脇をすくい上げ、帯取り返しの要領で、だが実に乱暴にのし上がった。  
布団越しに、まといは押しつぶされそうだった。  
電気をつけてから望は、自分の旅立ちパックを片手で彼女を押さえながら取り出し、開いた。  
「な、何ッするんですかセンセぇ」  
望は無言で答えた。旅立ちパックの中には、自殺のため物騒なシロモノが入っている。  
そこから取り出されたものは、首つり用のロープだった。  
 
布団をまくり上げると、すかさず彼女の肩を持ち上げ、うつ伏せにして押さえつける。  
まといは言い知れぬ恐怖感を感じずにいられなかった。  
「先生・・・・・・・・・?」  
「おとなしくしていなさい」  
普段の様子からは想像出来ないような声に、思わずまといは動くことが出来なかった。  
彼女の両手は背中の上で望の片手でひしと押さえられた。  
さっき取り出したロープがスルスルと、袖から漏れる白い肌をかすめ取る。  
縄は正面にも現れて、胸部を強く締め上げる。望にSMの知識はないものの、縄の使い方には慣れているようで、  
あっという間に上半身を縛り上げてしまった。  
 
「立ちなさい」  
今の望の声には他人を従わせるだけの強みがあった。言葉使いは丁寧でも、ひどく乱暴な響きがした。  
そんな立ち居振る舞いにまといは、いままで感じたことのない魅力を見た。  
気づくといつの間にかまといは無言のまま立ち上がった。縄がギシリと小さく音を立てた。  
二人は向かい合うようにして立っていた。  
まといの胸が縄によって服の上からでも分かるくらいに誇張される。  
腕周りの柔肉もはっきりされ、かなりきつく締め上げられている。  
雑な仕上がりには緊縛美などはなかったが、縛られること快感を既に見いだし始めた少女の、  
恥じらいうつむく出で立ちは、どんな鬼畜酔狂の背徳感も満たすことが出来るだろう。  
「先生・・・あんまり、見ないでください・・・・・・」  
「何を言ってるんですか、私は朝から晩まですっとあなたに見られていたんですよ。今度は私の番です」  
「(怖い・・・・・・・・・先生じゃないみたい・・・)」  
望はまるで骨董品でも見ているかのように、彼女の全身をくまなく視姦した。  
じりじりとまといが退いて、とうとう部屋の隅へ追いつめられた。  
 
「先生・・・私まだ・・・心の準備が・・・・・・」  
本当ならすぐにでも逃げ出したかったが、説得することしか出来なかった。  
望は顔の高さをまといとそろえて、ギロリと睨みつける。あまりの形相に目を合わせることが出来ない。  
「先生がどうとかじゃないんですよ・・・ただ、!!」  
まといの唇は、言い訳を言い切る前に奪われてしまった。  
「んんっ・・・うんん・・・・・・・・・ふぁっ・・・あん・・・・・・・・・」  
中年のねっとりとしたディープキスは、ピチャピチャと音を立てる。  
淫靡な痺れは、全身に流れ、まといは立っていられなくなるほどの感覚を覚える。  
「ふっ・・・・・・はあんっ・・・」  
唇から吐息が出て行き、快感がそこから全身を廻る。膝の痙攣がとまらない。  
倒れそうになったところを望が片足をすくい上げて、後ろからまといの肩を左腕で抱える。  
急に優しい気遣い(?)を見せられ、まといは驚いてしまう。心のスキマがあいているうちに望が太ももに口づけをする。  
「ああんっ!」  
思わず声が出てしまう。  
「いいですよぉ。もっと可愛い声を聞かせてください。」  
徐々にではあるが、望の声は普段のやさしさを取り戻しつつあった。  
それを感じると、急にまといは恥ずかしさの感情が大きくなった。  
 
そんなことはお構いなしに、望の口は美しい脚を幾度もついばんで味わう。  
どんどんとそれがまといの局部に近づく。左手での愛撫もかかさない。  
下着越しに脚の方へ粘着質な蜜が流れ出る。  
「濡れてしまいますねえ。とってしまっていいですか、コレ」  
「へ・・・恥ずかしい・・・・・・・・・」  
普段から自分のすべてを見せる覚悟をしていたが、いざとなると辛かったりする。  
「困りましたね・・・そうだ、目をつぶっていてくれませんか」  
まといは言われた通りひしと目を閉じる。まといは手を離され、その場にへたり込む。  
望はまたしても自殺七つ道具、旅立ちパックから何か取り出した。  
まといは目を閉じながらもそれが何か分かった。「(ガムテープ・・・?)」  
 
ビビィーーと音が聞こえ、顔にそれがひっつく。  
「もういいですよ、と言っても目は開きませんが。見られる事がわから無ければ恥ずかしくないでしょうねえ・・・(笑)」  
「あ・・・先生・・・これは・・・・・・」  
視界を奪われたまといは逆により恥ずかしさが増している。  
もちろん望は解ってやったのだ。  
「これだと・・・ずっと・・・・・・その・・・・・・ずっと、恥ずか、しいんですが・・・・・・」  
「そうですか、じゃあ私はでていきますね。」  
「?」  
そう言うと望は、部屋の戸を開け、そして閉めた。わずかに出来た隙間から、  
廊下の豆電球の弱々しい光が部屋にわずかに刺さり、闇に溶けゆく。  
「せ・・・先生?」  
 
望の声がしなくなった。それどころか一切の気配も。  
「(こんな状態で・・・放って行かれてしまった・・・・・・?)」  
言い知れぬ不安感にさいなまれ、何度も愛しき望を呼びつける。  
「先生・・・先生ーぇ・・・」  
反応はない。こんな状態を、望以外の誰にも見せるわけにはいかないのに・・・!  
「先生ーーぇ!!・・・・・・ぜんせぇーーーー!!!!」  
「・・・深夜に大声とは、先生感心しませんねえ」  
「!!先生!・・・いたんですか。」  
「はい、ずっと。」  
 
望は部屋を出て行ったわけではなかった。ただ、  
「あなたに言ってやりかったんですよねえ。“ずっと”って。これはいつものお返しです」  
「?・・・・・・あ・・・」  
それは普段望にとってはうっとおしいまといとの、うんざりしたやりとりだったが、  
今まといはこの言葉に暖かみを感じていた。  
「(こんなにもほっと出来る言葉だったなんて・・・)」  
感動にため息が出る。  
「続きを・・・・・・してください」  
「ふふ・・・もう恥ずかしさはないんですね」  
 
まといを自分の顔の上にまたがらせて、望は顔の正面で秘所が見える。  
まといは腕が動かせないので、望が下着を剥ぎ取る。大事なところを隠すにはあまりにも薄く小さかったが、  
それが守っていたものはあまりに美しかった。  
「キレイですね・・・常月さんんっ!」  
望は言い終える前に、まといの股間に吸い付いた。  
「あっ・・・んんんふ・・・・・・んっ」  
まといは言われたように、唇を噛みしめて、今にも溢れそうな嬌声をこらえる。  
「(これはこれでなんか、男として釈然としませんねぇ・・・そうだ・・・・・・)」  
 
「常月さんは感じやすいんですねえ」  
「や・・・そんなことは・・・んんっ・・・ふっ・・・つうっ・・・普通ですっ」  
「そうですか、でも・・・・・・やっぱり他人に見られると、女性は感じやすくなるんですかねえ」  
「ふぁっ・・・先生は・・・もう他人じゃあ無いです・・・あうっ」  
「ふ・・・そうですか。でもお・・・」  
「?」  
「私は交のヤツがこっちを見てるって言ってるんですよ」  
「!?」「へ?・・・・・・へえええ!!!!!!」  
「ふふ・・・交、こっちでもっと良くみませんか」  
「・・・・・・嫌!イヤアアアアア!!見ないでぇええ!!!」  
「まといさん?」  
 
まといは必死に足を閉じて秘所を隠そうとしたが、  
望の両手によって阻止されていた。  
それどころか、その蜜壺から溢れる液が止まらない。  
「見ないで・・・・・・帰ってえええぇ・・・・・・」  
「まといさん、“ウソ”ですよ?」  
「!?・・・・・・ウソ?」  
「そうです、驚かせましたかね?」  
「もぉう!先生ってばぁ、ホ、ホントに恥ずかしかったんだからぁ」  
「でも・・・」  
「?」  
「さっきよりずっと感じててくれたみたいですよ。ふれてもいないのにグッチョリ。」  
「!」まといは驚いた。自分が見られて、恥ずかしいはずなのに感じていたことに。  
羞恥心に、感じていたことに。  
 
「本当は、見るより見られる方がいいんですねえ」  
「!そんなことはないです」  
「?先生、嘘をつくのは好きですが、嘘つかれるのは嫌いですね」  
「うう・・・嘘じゃないですう・・・・・・」  
「あ!また・・・いけない口ですね・・・!」  
望はまといをドンと乱暴に押しのけ、  
ビビィーーーーーーー!まといは口にもガムテープを貼られてしまった。  
「んむうっ!!」  
「いけない口にはこうです」  
呼吸が制限され、鼻息が荒くなる。腕を縛られ、目と口を閉じられ、さながら  
「虫のようですね」  
 
「(虫・・・?そんな、そんなのって・・・)」  
「誉めてるんですよ、とっても良い格好だって」  
「それに、喜んでくれてるみたいですね。あなたのココは」  
「むうぅぅっ!」  
まといの蜜壺が指をつつかれて、中から溢れる淫水がからみつく。  
「なんだか強姦でもしているような気分ですねえ・・・。(このまま黙って挿れてしまおうか)」  
望は自分の分身を取り出し、まといを抱きかかえるとそのまま一気にまといの中につっこんだ。  
「ぶむうっ!んん!んん!んんん!」  
あまりに突然で、痛みに叫びそうになった。それさえ許さないガムテープが、頭の酸素を奪いだす。  
「ふ・・・ま・・・まとい!!」  
「(!?・・・先生が私を名前で・・・・・・?)」  
 
彼女にとって信じがたいことだった。望はその後何度も自分の名を呼ぶ・・・。  
          愛を、感じた。  
今まで自分がどれだけ愛していても振り向いてもらえなかった。  
なのに、今私は愛されている。愛を感じる。  
「(縛られることが、こんなに幸せだったなんて・・・・・・!!)」  
望の動きが激しくなるにつれて、まといの体は快感と苦しみの限界に近づく。  
「ふッふむうっ、んんんんんんんん!!!」  
「(先生・・・私・・・もう・・・)」  
「解っていますよ」  
「!?」  
「一緒に、イきましょうね」  
「・・・!!」  
酸素欠乏で脳の覚醒水準が低下し、意識の朦朧とするなかで、それは痛みを痛みと思わなかっただけであったが、  
まといは愛と快楽に包まれ、痛みなどは一切感じなかった  
 
 
部屋に光が戻り、世界が活動を取り戻す。  
「(あ・・・あさ・・・・・・朝あ!?)」  
そこは望たちの宿直室であった。部屋にはまとい一人。  
まといは昨夜の記憶が曖昧であった。口と目に貼られていたガムテープははがされていて、  
体中を締め上げたロープももう無かった。昨日から着ていた袴には、シワはあれど乱れた部分はなかった。  
「・・・・・・夢?・・・やだ、私ったら、先生のあんな夢を見るなんて」  
まといが起きあがろうとしたとき、ギシッ・・・  
「あれ、何これ!?腕が・・・」  
ロープで縛られていた。「(夢じゃあない・・・本当に私・・・・・・)」  
そのとき部屋の戸が開いた。入ってきたのは望だった。なんだか申し訳のなさそうな顔をしている。  
「あ・・・起きてらしたんですね。昨日はあのままお休みになってしまうんですから、先生てっきり・・・」  
「そんなことより何なんですかこれは」  
 
「あ、それはですねえ。私昨日は思いっきり暴走していまして・・・その、  
普段の欲望が爆発してしまったんですがね・・・その・・・・・・」  
「何なんですか。言ってください」  
「・・・目覚めてしまいました・・・・・・」  
「・・・はぁ?」  
「ですから、サドに目覚めてしまったんです。」  
「へえぇ!?」  
「すいません、だからロープを完全にほどくことが出来無くって・・・」  
「これからも、してもいいですかっ、たったまにっ・・・・・・」  
言っていることは実に変態的で、女性なら誰しも幻滅してしまう内容だったが、  
まといの体はまだ見ぬ快楽に早くも反応し始めた。  
「・・・・・・・・・ばか・・・・・・」  
まといは望の胸に顔を埋めることで答えた。彼女もまた・・・・・・  
 
ある朝、ツネツキマトイが不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドの中で自分が一匹の、  
快楽をむさぼるだけの虫に変わってしまっているのに気がついた。  
 
 
さかのぼること12時間前、テレビを見終わった望が部屋へ帰った時、交はまだテレビを見ていた。  
テレビにも飽きたころ、交はあるものを思い出した。  
「そうだ、アレがあったんだった。」  
交はカバンから本を取り出した。写真集だった。  
表紙には今はやりのグラビアアイドル“リア・ヂゾン”か写っていた。  
交は望の生徒の久藤准と知り合いで、これは彼に借りたものだった。  
本当は久藤が傷心の交に気を利かせて別のクラスメートから交のために借りたものだったが、そうとは知らずに  
「(久藤・・・良い趣味してるな)」とか思っていた。  
傷心というのは、交は大分前から芸能人では眞鍋カヲリが好きで、ポスター等を持っていたりしたが・・・・・・  
・・・・・・みなまで言うまい。  
 
交はすっかり写真集に夢中になっていた。渇いた心に染み入る魅力。  
後ろから迫り来る影に気が付くはずもなかった。影は夏場にもかかわらず、  
と言う夏だからこそなのか、タオルケットのようなものを肩にかぶせていた。  
そこから驚くほど白い腕が素早く飛び出し、交から写真集を奪う。  
「あ!」  
「へええ〜、こんなの読んでるんだ〜。ませてるう」  
学校引きこもり少女、小森霧である。望と交とは変な意味は無しで、同棲状態である。  
「返せよ!!」霧は無視して交が届かないように写真集を持ち上げてペラペラめくっていく。  
「ほ〜、ほお〜〜、うあっ!こんなのまで・・・交くんってばどこでこんなの買ってくるの?」  
「ちっ違うぞ!それは久藤のもんなんだからな!!」嘘は言っていない。  
「え〜、久藤くんがこんなの持ってるように思えないけどな〜」間違いは言っていない。  
「・・・いいから返せよ!!」飛び上がって奪い返そうとする。そうはさせじと霧は片手で掲げる。  
「あっ駄目!白状しなさい!そしたら返してあげる〜」  
「だから久藤のだってるだろ!」  
「駄目〜。正直になりなさ〜い。」  
「・・・!!!!」  
「・・・・・・!!!!!!」  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
どれほどの時間そうしていただろうか、結局は霧のスタミナ負けで、写真集は交の元に返ってきた。  
「ぶ〜。つまんな〜い、教えてよ〜」  
普段から二人はこんな不毛な争い(?)をしているので、口げんかになることはない。  
霧が本気ではないことを、交は知っていた。  
「言ってるじゃん、あれは…」  
「久藤くんのなの?」交は黙ってうなずく。  
「そう……わかった、お姉ちゃん信じる。」  
「え?」あれだけしつこかった霧に、急に態度を変られると一瞬ポカンとなる。  
「ん?本当なんでしょ?それ」  
「うん」  
「なら信じる。私お姉さんなんだもん」  
これはひとつの(義務感っ)何だろうか。交があれこれ考えるのを尻目に霧は、  
「そうかー、あの久藤くんが…やっぱり男の子なんだな……」とか言ってる。  
 
………・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
「ところで交くん、眞鍋からもう乗り換えちゃったの?」  
本当に彼女は交をからかうのが好きなようだ。この年にして女難と言うやつか?  
「な…あんなの始めッから好きじゃなかったってば!」  
「ふ〜ん、他に男がいる女は好きじゃないんだ〜」全く無視。  
「…そんなんじゃないよ!……」古傷(?)をさわられて交はどんどん弱っていく。  
「交くんは駄目ね〜、そんなことでファン辞めちゃうだなんて。私だったら、先生がどこの女と何してこようが……!」  
 
スクッ…交は黙って立ち上がった。今にも泣きそうな顔で、不機嫌なのは一目瞭然だった。  
「うるせーーんだよ!!もう!!!!姉ぶってるつもりかよ、このッ……」  
「引きこもりが!!!」  
 
水を打ったように静まりかえり、一瞬世界は止まる。霧の思考も。  
交がやってしまったと気づいてももう遅い。  
「………明日は月曜日よ。ラジオ体操行かなきゃでしょ。もう遅いんだから、ここからはもう……」  
「引きこもりの時間よ」  
霧の言葉は感情を押し殺したように冷ややかで、さっきまであんなに騒いでいた交に有無を言わさない。  
黙って戸を開け、交は寝室へつながる廊下を歩き出した。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・………  
霧は黙ったままテレビを見ていた。彼女は興味ない選挙速報が流れている。  
どこに変えてみても、“自民大敗”の文字。  
「…おもしろくないなぁ……本当におもしろくない………」  
部屋の電気が消されたせいか、霧の背中は弱々しく見えた………。  
 
交はモヤモヤした気持ちで豆電球1つの光を頼りに廊下を歩いていた。  
交の部屋へ行く前に、望の部屋の横を過ぎなくてはならないのだが…。  
 
人の声を聞いた。初めは望がまだ起きてるのかと思ったがそれだけではないと気づいた。  
「(女の人の…声がする…?悲鳴?)」  
交は前方の望の部屋を見た。わずかな隙間が空いている。  
暗がりに慣れた目が見たものは、にわかには信じがたい光景だった。  
 
そこにいたのは、自分の叔父と女性。  
交は望のクラスの生徒のことは、家族ぐるみでお世話になっていたりして、  
そのほとんどを知っていた。しかしながらその女性の名前はわからなかったが、  
普段から望にまといついている女生徒であることは知っていた。  
ストーカーにいそしみ、彼女の家でお世話になったことはない。  
そんなことはいい。衝撃的だったのは、陰部を露わにし、目隠しをされ、全身を縄のようなもので縛られている女が、  
望の顔にまたがり、望の舌で弄られていることだ。  
交には性的な知識がほとんど無かったが、それは今までのどんなトラウマより恐ろしかった。  
怖かった。二人が何をしてるのかまるで解らなかった。  
交にはただ、  
「常月さんは感じやすいんですねえ」  
顔は見えねど、なぜか得意げな望と、  
「や・・・そんなことは・・・んんっ・・・ふっ・・・つうっ・・・普通ですっ」  
悲鳴にも似た声で悶える女性。  
現実を忘れ、交は逃げることが出来なかった。  
 
しかしそれもつかの間、交をはっとさせることがおきる。  
「そうですか、でも・・・・・・やっぱり他人に見られると、女性は感じやすくなるんですかねえ」  
「ふぁっ・・・先生は・・・もう他人じゃあ無いです・・・あうっ」  
「ふ・・・そうですか。でもお・・・」  
「?」  
「私は交のヤツがこっちを見てるって言ってるんですよ」  
「!?」「へ?・・・・・・へえええ!!!!!!」  
「(ええ!!!!!!!)」  
今まで自分の存在を忘れていたが、この言葉で現実に戻ってきた気がする。  
「ふふ・・・交、こっちでもっと良くみませんか」  
「(な…何を言っているんだコイツ……)」交は何も考えられないほどに混乱していた。  
「(なんで気づかれた?向こうを向いていたのに!?)」  
交の混乱は加速する。  
「・・・・・・嫌!イヤアアアアア!!見ないでぇええ!!!」  
「まといさん?」  
まといといわれた女性が自分に対し、激しい拒絶をする。  
交は気づくと、元来た道を走って戻っていた。  
もちろん……  
 
「見ないで・・・・・・帰ってえええぇ・・・・・・」  
「まといさん、“ウソ”ですよ?」  
「!?・・・・・・ウソ?」  
「そうです、驚かせましたかね?」  
「もぉう!先生ってばぁ、ホ、ホントに恥ずかしかったんだからぁ」  
…そんなやりとりがあったということは知るよしもない。  
 
ガサッバンッ!部屋に飛び込む交。  
「!どうしたの!?」不意をつかれた霧があわてて対応する。  
「な・・・何でもない・・・よ」  
「何でもないこと無いでしょ。何があったの」  
「何でも無いったら」  
「・・・何でもないなら寝てきなさいよ」  
「う・・・」  
「ほら、なんかあったんでしょ」  
「の・・・望が・・・」  
「先生に何かあったの!」部屋を飛び出ようとする霧を交が押さえる。  
「行っちゃ駄目だ!ぜ、全部言うから!」  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
交は二人が何をしているか分からなかったが、霧には‘エッチなこと’とだけ説明した。  
「ほら、あのストーカーの女だよ・・・」  
「そう・・・常月さんが・・・」霧は話を聞いているのかというくらい消沈していた。  
「な、元気出せよ。あ、あんなのどうだっていいじゃん・・・それに、  
あいつがどこでどうしてたった気にしないって言ってたじゃあ・・・!」  
霧は泣いていた。声を必死にこらえるが、涙を抑えることは出来なかった。  
「何で泣くんだよ・・・」交は面白くない顔をしている。  
「・・・・・・」霧は泣いている。答えない。  
「・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
 
また部屋に沈黙が訪れる。今度は時間の流れを感じることが出来て、ひどく居心地が悪い。  
「な、泣いたって、仕方ないじゃないか・・・」  
「・・・仕方ない?・・・・・・そうね・・・・・・仕方ないよね、あたし・・・引きこもりだもの」口を開いた霧がいきなり絶望するので交は焦る。  
「へっ、いやそうじゃなくって・・・」  
「いやそうよ。わたしがこんなだから・・・髪の毛だって長くって不気味で不潔で暑苦しいし、肌も白くて不健康でキモいし、  
引きこもりに先生を好きになる資格なんて無いの。だから・・・」  
「そんなことないよ!!」交が大声で反論する。  
「ねえちゃんの髪とってもキレイだし、肌だって白い方がいいって言うし、俺ねえちゃんのこと好きだよ!」  
「引きこもりが好きな人なんていないわ」冷ややかな声に押されそうになる。  
「そうかも知れないけど俺は・・・・・・小森姉ちゃんのことが好きなんだよ!!!!」  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
「ふふっアリガト。慰めてくれるのね」声がいつものトーンに戻る。  
「そうじゃなくって俺、本当に・・・・・・」急に恥ずかしくなって、言葉に詰まる。  
「!・・・ねえ、じゃあ、あたしたちも・・・してみる?」  
「な・・・・・・・・・!!!!!!」  
「あ〜、赤くなってるカワイ〜〜」  
「!・・・からかうなよ!!」  
「そう、じゃあホントにしてみよっか?」  
「ッ嫌だよ!」  
「え〜ッなんで〜〜?キョーミシンシンのくせに〜」  
「お前の体なんかキョーミねえっつうの!」  
「そうか、私が引きこもりだから・・・」  
「何でそうなる!!」  
「いいの、どうせあたしなんか・・・」  
「!!・・・・・・いいよ、わかったよ、するよ!!」  
 
「えいっ!!」  
突然、霧が自分のかぶっていたタオルケットを交にかぶせてきた。  
「う、うわあ!」これから自分に起こる‘何か’を察知してか、動悸が激しくなる。  
霧が交を左腕で押し倒して、抱き合うようにして寝たまま向かい合う。交はどうしていいか分からなかった。霧の顔を見上げる。  
「!・・・」  
霧は泣いていた。黙ったまま、目には涙が溢れていた。  
「今日はココで寝よう・・・一緒に・・・・・・寝て」  
悲しみに疲れた霧の顔が、無理に笑顔を作る。交は自分が‘そういった’対象としてみられていないことを、ハッキリ理解した。  
交もまた泣きそうだった。なぜかは分からないが涙が出てきそうになる。  
「(姉ちゃんはまだ、アイツのことを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)」  
白い肢体と女性特有の甘い香りと、少しの悲しみに包まれて、少年の夜は終わった。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 

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