芽留は、無事家に送り届けた。両親に怒られていないかどうかだけが心残り。
現在時刻は午前五時、既に朝日が顔を出している。追いつめられた望は今、もはや達観していた。
布団の上に目を瞑ってあぐらをかくその姿は、さながらヨガの精神集中のポーズである。
やるだけ、やった。性的な意味では勿論。
無駄とはわかりつつも、教え子の数人にメールを出してもみた。
『もしこのメールを見たら、返信を下さい』
……未だ、返信はない。
「あと一時間……か。遺言でも書いておきましょうかね」
冗談めかして言うも、冗談ではないことは自分が一番よく知っている。
あれが本当にただの夢であってくれれば……そんな淡い期待も脳裏によぎるが、すぐに消えた。
長いようで短いような2のへでの生活が、走馬灯のように思い出された。
……そして、矢の様に過ぎたこの三日間のことも思い返す。
静かに座禅(のようなもの)を組みながら、望はふと、呟いた。
「……死にたくない……」
日常に絶望し、いつも「死んでやる!」と死にたがり発言を繰り返すネガティブ教師。
彼が、これほど強く"死にたくない"と考えたことがあっただろうか?
このとき、死にたがりの彼の心に死にたくないという隙が生まれた。
窓を叩く、"彼女"の手。音に気づき、慌てて窓から外を見る望。
心の隙に付け入ることでは天下一品。超ポジティブ少女風浦可符香が、そこに立っていた。
「もうとっくにノルマは達成したと思ってました」
「……面目ありません」
急ぎ可符香を室内に招き入れた望は、何の余裕か彼女にお茶を振舞っていた。
優先順位、間違っちゃってますか?
「さっき、偶然何かの予感で目が覚めたんです。そしたら先生からメールが届いてるじゃないですか!」
可符香の方もまた、何の余裕か楽しげに演説している。
「『返信を下さい』……これはもう、まさかのノルマ達成ならずに違いない!と思って……」
「わざわざ会いに来てくれた、というわけですか……」
まさに的確な判断、といえる。鋭い、実に鋭い。
二人して、ズズ……とお茶を啜る。そんなことをしてる場合ではないだろうに。
タイムリミットまで、あと40分弱。いくら望が早漏であるとはいえ、限度というものがある。
「それで、あの……来てくれた、ということは、その……」
「もちろん!ここまで来といて『それじゃあ帰ります』だなんて言うわけありません」
準備は万端、のようだ。これで、間に合うかもしれない。
「ただし、条件があります」
……物事をかき回すのが可符香の趣味であることさえ、考慮しなければ。
「じょ……条件?」
「やだなぁ、先生。うら若き乙女がそんなに簡単に身体を差し出すわけないじゃないですかぁ」
へら、と笑う可符香。顔色を失う望。
「ま、まさかお金ですか!?いくら払わせるつもりです!?」
「いえいえ、お金なんかいりませんよぉ」
しゅび!と手を立て望の言葉を押し止めた可符香は、平然と続ける。
「愛あるえっちには、愛が必須ですからね」
「……具体的に、何をすればいいんですか?」
可符香は、いつもの挑戦的な笑みを浮かべて言った。
「たった一度で構いませんから……私を、ときめかせてください。それが条件です」
「と……トキメカセル?」
思わずカタコトになる望を相手に、可符香はあくまでマイペース。
「先生ったら、何を狼狽してるんですかぁ?それくらい簡単じゃないですか」
普通の女子生徒が相手なら、それも簡単かもしれない。
しかし相手がこの風浦可符香となれば……どうだろう?
だがしかし、躊躇している場合ではない。望は意を決し、即座に口を開いた。
「好きです!」
「却下します」
「大好きです!」
「大きければいいってもんじゃありませんよぉ」
「私、糸色望は、風浦可符香を愛しています!」
「丸パクりでときめくわけないじゃないですかぁ」
正座して思いつく限りの愛の言葉を叫ぶ望と、楽しげにそれを却下する可符香。これを見てどう思う?
……すごく……ユニークです……
数分の時が経ち、望は喉を潤すべくお茶を飲み干した。
「ほら先生。早くしないと、時間が来ちゃいますよぉ?」
……実に、楽しんでいる。
望は考えた。どうすればこの電波少女をときめかせることができるだろうか。
「叫んでるばかりじゃときめけませんよ?もっと、オトナな告白をお願いします」
突如閃いた。その作戦を実行するべく、望は確認をとる。
「……あの。あなたがときめくなら、何をやってもいいんですよね?」
「なんでもどうぞ」
許可を貰った望は、勢いよく可符香の両肩を掴んだ。
「へ?」
そのまま望は、可符香の唇に自分の唇を重ねる。
キス自体は、軽く、短く。離れた望は、考えられる限り最大限に甘い声を意識しながら、囁いた。
「……愛してるよ……可符香」
ぼんっ、と音がするぐらいの勢いで、可符香は真っ赤になった。
「今、ときめきましたね!」
「!?い、いや、全然ときめいてませんよぉ、ななな、何言ってるんですかぁ?」
形勢逆転。先ほどまで軽口を叩いていた可符香が、目に見えて動揺した。
「じゃあなんで赤くなったんです?トマトみたいじゃないですか!」
「こ、これは暑さで……」
「却下します」
「むぅ……!」
「どうやら私の勝ちのようですね!」
可符香相手に珍しく主導権を握った望は、嬉しそうに勝ち誇った。
「はぁ……仕方ないですね」
わざとらしく溜息を吐き、可符香は素直に負けを認めた。
「あーあ、もうちょっと先生の愛の告白聞いてたかったのになぁー」
「な、何を言ってるんですか……」
負け惜しみにも聞こえるような軽口を叩きながら、可符香は布団を整え始めた。
「じゃ、早くしましょうか!」
「き、切り替えが早いですね……」
「だって、早くしないと先生の命に関わるじゃないですかぁ」
「それなら最初っから協力してください!」
「やだなぁ、先生ってばがっついちゃって……」
「い、いやいや!そういうわけでは……!」
「……ほら先生、脱いで脱いで!」
「いや、結構ですから!自分で脱げますから!」
望が服に手をかけてくる可符香をけん制すれば、
「じゃあ、私がお先に失礼します」
可符香はがばっと自分のシャツの裾を捲り上げる。
……望の主導権は、わずか30秒にも満たない間に消滅していた。
「ほら、先生。このブラジャー、新品なんですよぉ」
「見せびらかさなくて結構ですから!」
それはもう、きれいさっぱり。
「さ、急いで急いで!」
躊躇いなく身につけたものを全て取り去った可符香は、ころんと布団の上に寝転んだ。
「え、ええ、わかりました……」
曝け出された裸身には予想していたよりも起伏があり、望の絶棒を高揚させる。
タイムリミットまで、あと20分。迷っている場合はない。
「では……えーと」
「さっきみたいに、可符香でいいですよ?」
「でも、ペンネームなんですよね?」
「気に入ってますから」
「……わかりました。では、可符香さん……いきますね」
最後の性交が、始まる。
可符香の横に並んで寝転んだ望は、妙に期待に満ちた視線を向けてくる可符香の首筋にキスを落とす。
「ん……ふふ」
くすぐったそうに首をすくめる可符香の姿は、どこか子供っぽい。ある意味"らしい"反応に、望は微笑む。
「くすぐったいですか?」
「むずむずします……」
問うのはそこまでで、望は再び行為を再開した。
可符香の首筋から鎖骨へ、舌をちろちろと出しながら、少しずつ進んでいく。
「ひゃふ……ぅふ、はぁん……」
含み笑いの混じったような、不思議な嬌声。どうやら可符香の肌は、人一番敏感であるようだ。
望は、そこまで来てようやく手を動かすことにした。
丸く弧を描くように、可符香の胸をさわさわと撫でる。
やはり可符香は、くすぐったそうに身をよじるのだが……その動きは、少し甘美な動きとなっていた。
「んはぁ……先生、上手なんですねぇ……」
舌ったらずな感じになる喋り方が、望の脳髄を刺激する。欲望を掻き立てる。
その欲望に忠実に従い、望は可符香の胸の先端を吸い上げた。
「はひゃぅん!」
激しい反応。少女にとって、そこが未開の地であることを示しているのか。
再び望は舌を出し、その先端をちろちろと弄んでみる。
「ひゃっ……はぁ、ぅぅん!」
しばらくの間、ひたすらに胸の先端を責め続けた。必然的に望は、可符香の顔を下から見上げ続けている。
快楽に支配される可符香の姿は、とても艶っぽかった。熱を帯び、真紅に染まりきった表情。
いつもの裏で何を考えているかわからない表情より、遥かに人間味溢れる表情。
普段見られない可符香の姿は、望の絶棒に最後の任務を遂行させるためのエネルギー源となる。
いささか準備が足りないような気もするが、望は可符香の秘部の具合を確かめる。
「あっ……ふぁ……」
そこは既に愛液に濡れており、絶棒を受け入れるに十分な状況であった。
望は、横目にちらりと時計を見る。あと、五分。
「可符香さん、少し早いですが……許してくださいね」
「……はい」
素直で、弱弱しい返答。可符香らしくはないが……魅力は十分である。
もともと望のストライクゾーンは消極的な子なのだから、それも当然だろう。
遂に絶棒が、十人目の秘部を貫く。
「……!っく!」
「大丈夫、ですか?」
ろくに慣らしもしないままの挿入。きっと痛いに違いない。
わかってはいたが、焦る気持ちも抑えられない。望は答えを待たずに腰を動かし始める。
「ぁ!んん!ひゃ!うぅ!」
可符香の爪が望の背中に突き刺さり、それが可符香が受けている痛みを伝えてくる。
気づけば、あと一分となったその瞬間。秘部を突き続けていた望が、ふとその動きを止めた。
……可符香の手が、望の胸を押していたため。
「ど、どうしました?」
突然の静止に焦る望。しかしその理由は、なんら他愛のないものだった。
「あ、の。最後に……さっきの、もう一回、言ってください」
ちょっと照れた様子で、可符香は要求した。
「さっきの?」
「もう、一回だけ、私を、ときめかせて……」
「ああ……はい。わかりました」
何度目かになるキスを交わし、望は可符香の耳元に囁く。
「愛してるよ……可符香……」
「私も……望……」
「……え」
望と可符香が達したのとほぼ同時に、時計が六時を示した。
突如、望の頭にハンマーで殴られたような衝撃が走った。目の前に星が飛び、望の意識は闇へと堕ちていく。
(……間に合わなかった、か?)
それが望の、最後の意識だった。
――糸色望。聞こえますか?――
忘れもしない"神"の声。それが今、望の耳に響く。
「……私は、死んだのですか?」
今回は、自分にも発言権があるらしい。望は尋ねた。
――いいえ、まだ死んではいません――
「まだ、とは?」
"神"は、しばしの間反応を示さなかった。困っているかのようだった。
しかし、十数秒の間を置いて、いつかのように淡々と語り始めた。
――そもそも、私がここに姿を表すことになったのは、あなたの所為なのです――
――いつも世界に絶望し、死んでやる、死んでやる、とのたまう――
――そのあなたの行動が、私があなたに死の試練を課す理由となりました――
一息ついた。
――私は死神です。本来今日この時間に、あなたの命を奪うはずでした――
――そのために、あなたが絶対にこなせないであろう試練を与えたのですが――
――あなたは、それをこなしてしまった。あなたを愛する者たちの協力の下――
"神"……いや、死神は、困惑していた。
こなせるはずがないと考えた自分の試練を、満身創痍ながらも乗り越えたこの男に。
――あなたは、死にたいのではなかったのですか?――
死神は、答えを促した。いつかとは違い、望の意見を欲したのである。
「……絶望の多い人生を、送ってきました」
今度は、望が語る番である。と言っても、その内容は単純明快であったが。
「私は、死んでもいいのだと思っていました。ずっと」
望の頭に、この激動の三日間のことが蘇る。
霧。まとい。千里。マリア。あびる。愛。倫。奈美。芽留。可符香。
みな、望を救うために自らの身体を任せてくれた。
「でも、私は死んではいけない。なぜなら、皆さんが私を死なせてくれないからです」
――死んではいけない?それは、死にたくない、とは違うでしょう?――
「皆さんが、私に死ぬなと言うのなら。私はそれを裏切りたくない」
望は、語気を強めた。
「私は、死にたくないのです」
再び望の頭に、ハンマーで殴られたような衝撃が襲い掛かる。下へ下へと堕ちていく感覚。
「離しなさい!先生が死ぬわけないのよ!ちょっとひっぱたけばきっちり目を覚まして……」
目を覚ました望が最初に見たのは、眼前に迫り来る掌だった。
「うばぁっ!?」
強烈な一撃に、予期せぬ悲鳴が漏れたが、なんとか意識を維持する。
ちかちかする目を必死に見開くと、そこには……
「「先生!!」」
可愛い教え子達の姿があった。
「よかった!生きててくれたんですね!」
最初に行動を起こしたのはまとい。まるでタックルのような勢いで抱きついてきた。
「あ、マリアも!マリアもするヨ!」
続いてマリアが、今度は本物のタックルをかましてくる。眼鏡が吹き飛んだ。
「ふ、二人とも落ち着いてください……な、何がどうなってるんですか?」
「わからないのも無理ないですけど……先生、心臓が止まってたんですよ」
落ち着いて状況を説明してくれたのはあびるだ。心なしか、右目の目元が赤くなっている。
「し、心臓が?」
「私たち、木津さんに誘われて、先生の様子を見に来たんです」
応えたのは奈美。こちらは目が潤んでいるのを隠そうともしない。
「い、いざ来てみたら……せ、先生の周りを三人が囲んでいて……」
続ける愛。同じく、目が潤んで……むしろ、しゃくりあげている。
「私と常月さんで、六時過ぎに様子を見に来たんだ。そしたら、風浦さんが泣いてて……」
さらに霧。彼女に至っては、既に涙も枯れ果てているようだった。
「つまり私は……かれこれ一時間近く、心臓が止まったままだったと?」
『なかなかやるじゃねーか』
芽留からお褒めのメールを授かった。彼女の顔は、髪の毛に隠されてよく見えない。
「と、に、か、く!やっぱり私の言ったとおりだったでしょ!先生が死ぬわけないのよ!」
千里が、高らかに宣言した。ただし、彼女自身も目が少々潤んでいるので、いまいち説得力はないが。
望は、集まっている一同に、一通り話を聞くことにした。
どれだけ心配したかと愚痴を聞かされたかと思えば、でも本当によかったと泣きじゃくられる。
それぞれに感謝と謝罪と苦笑を送りながら、望はふとあることに気づいた。
「……あの。可符香さんはどこに?」
霧の話によれば、彼女は最初に望の傍で泣いていたはずなのだが……
「ついさっき……走って出て行っちゃったんですよ、あの子」
千里が言いにくそうに口火を切った。
「泣いてたみたいですから……責任を感じてたんじゃないでしょうか」
「すいません、すいません!引き止めようとすれば止められたのに!」
「みんな先生のことばっかり気にしてて……」
あびると愛、奈美が補足説明。
「行ってあげなよ、せんせ」
「多分、校庭に行けば居るはずですから」
「きっと、喜ぶヨ!」
霧とまとい、マリアが望を促す。
『とっとと 行って来い』
とどめに、芽留が後押ししてくれた。
一つ質問をしただけで、全員から答えが返ってくる。なんたる団結力だろうか。
……などと、少々教師らしいことを考えた後、望はさっと立ち上がった。
「すいません、皆さん!後でまた、改めてお礼はさせていただきますので!」
言い残して、宿直室から走り去る。
「お兄様!よくぞご無事で!」
校庭に出てすぐ、望はばったり倫に出会った。出会い頭に抱きつかれ、苦笑を返す。
「そうそうお兄様、私との駆け落ちの件ですけれど……」
「ええ!?そ、そんな約束しましたか!?」
「あら、お忘れですかお兄様。あの日の秘め事を……」
「いやいや、綺麗にまとめて誤魔化そうとしてもそうは行きませんよ!」
「……む。流石はお兄様ですわね。それで、どうしてそんな血相を変えているのですか?」
「あ、ああそうでした……その、可符香さんを見かけませんでしたか?」
倫は、きょとんとした表情をした。
「そこにいるじゃありませんの」
「え!?」
望の視線の先に、呆然と口を開けている可符香の姿があった。
「せ、せ、せ、せ、せ……」
その口からは、壊れたレコードのように「せ」の文字が流れ出ている。
「お陰さまで、地獄の淵から帰って来ました。可符香さん」
「先生!」
倫が解放したばかりの身体に、今度は可符香が抱きつく。ちょっと頬を膨らませる倫。
「良かった!先生、私が時間を浪費させたから、間に合わなくて死んじゃったのかと……」
先刻霧が言ったとおり、可符香は泣きじゃくっていた。
三時間ほど前の頬を真っ赤に染めた表情と言い、今日は随分珍しい可符香を見た気がする。
「そもそも可符香さんが来てくれなければ、私はあっさり死んでましたよ。感謝しています」
「……や、やだなぁ。先生ともあろうお方が、そう簡単に死ぬわけ……ないじゃないですかぁ!」
必死でいつもの自分を貫こうとしているようにも見える、可符香の姿。
その姿が、望にはなんだかとてもいじらしく見えた。思わず、その肩に手を置く。
そして、二人の唇が近付き……
「はーい、そこまで!カットカット!先生!風浦さん!二人だけで抜け駆けは許しません!」
望と可符香の間に、千里の身体が滑り込んだ。
「こっちが先です、先生!昨日メールしましたけど……今日こそ、きちんとこの婚姻届に……」
気づけば千里の後ろに、他の生徒たちも続々と集まってきていた。
「約束どおりハンコを押してもらいますからね!もう申請の準備はきっちりできてるんですから!」
「それじゃあマリアも押すヨ!ハンコある、ダイジョーブ!マリアも、先生と結婚デキル!」
「婚姻……お、お兄様!自由の国に参りましょう!それならきっと、兄妹であっても……!」
「……あの、先生。私は婚姻は結構ですから、良ければ今度、ご一緒にしっぽプレイを……」
「あ、せんせ。じゃあ私も。今度は一緒にお昼寝しようよ。抱き枕がほしかったんだよ」
「先生、私のディープラブを受け取ってくださるんですよね?つきましては、まず清純なデートから……!」
「あ、ズルい!じゃあ私ともデートしましょうよ!今度は朝ごはんだけじゃなくて、もっと他の場所にも!」
「あの……ご迷惑でなければその、私とも……ああ、厚かましくてすいません、すいません!」
『やれやれだな ……オレともだぞ? 忘れるなよ』
「ああ、ちょっとちょっと!もっと順序立てて喋ってください!誰が誰だかわかりません!」
望の生活はおそらく、これからかなり忙しくなると見ていい。
どんな事情があったにせよ、望が彼女たちと関係を持ったのは事実であり、無論責任も生じる。
つまり望には……これからも、この十人の娘たちのお相手を務めぬく義務があるのだ!
……もう、戻れない。と、三日前に覚悟は決めていた。でも……
死神によれば、望が世の中に絶望し過ぎていることが、今回の騒動を引き起こしたらしい。
しかし、それでも望はこの言葉を……もう一度だけ、叫んでおくことにした。
「絶望した!私のカレンダーから休日がなくなりそうな現実に絶望した!」
「やだなぁ、先生。予定と希望でいっぱいの、とっても素敵な未来じゃないですかぁ」
気づけば、可符香もすっかり元通りになっていた。
ならば折角なので、最後は可符香に締めくくってもらうことにしよう。準備はOK?
「それでは皆さん、ご一緒にどうぞ。糸色先生の前途ある未来に、かんぱぁい!」