「はぁ……」  
理科室からだいぶ離れた階段に座り込み、望は深々と溜息をついていた。  
「自分の生徒と関係を持ってしまうなんて……」  
「他の教員にバレでもしたら……良くて辞職、悪くて逮捕でしょうね」  
「その通りです。ああ、勢いに任せて理性を失う自分に絶望し……た!?」  
危うくスルーするところだったが、寸でのところで気付いた。  
愛深き乙女、もといストーカー少女常月まといが、いつの間にやら自分の隣に座っている。  
 
「どうかしましたか?」  
「どうもこうも、常月さん!いつからいたんです!?」  
「ずっと前から」  
「……正確には?」  
「先生が理科室に入った辺りからです」  
 
その言葉は望には、死刑執行の宣言のように感じられた。  
 
「つ、つまり、その……見たんですか」  
「流石にそこまでは。声しか聞こえませんでした」  
「……聞いてたんですか」  
「ずっと」  
(……お、終わった……)  
 
『女子生徒は見た!変態教師、生徒との淫行発覚!』  
望の脳裏に、明日の新聞を飾る自分の写真と大見出しがよぎる。  
 
「つ、常月さん。こ、これには事情が……」  
「言い訳なんか聞いてあげませんよ」  
まといにしては珍しく、つっけんどんな言い方だった。  
「私、怒ってますから」  
ツン、とそっぽを向くまとい。望にとってはレアな光景だったが、感慨に浸る場合ではない。  
 
膠着状態の空気を先に破ったのは望だった。  
 
「そりゃ、そうですよね。同級生と担任の性交なんて、到底容認できるものでは……」  
「そうじゃないです」  
が、すぐに打ち消された。  
 
「私といふものがありながら、小森さんとえっちしたことに怒ってるわけじゃありません」  
(人妻ですかあなたは!)  
「だって、十人がノルマなんでしょう?仕方ないじゃないですか、命がかかってるんだし」  
「そ、そんなところまで聞いて」  
「問題なのは」  
 
どうやらまといは、望に喋る隙を与えないようにしている。  
 
「どうして、最初に私じゃないんですか」  
「……は?」  
間の抜けた声で応答してしまったことを後悔する間もなく、まといが身体を寄せてきた。  
「こんなに、先生を愛してるのに」  
「い、いえ、それは重過ぎるほどに感じていますけれども」  
座高の差により、まといの視線は自然と望を下から射抜く形になる。  
 
その視線の強さに、望はたじろぐ。  
 
「だったら、どうしてまず私に相談してくれないんです」  
「それとこれとは話が別でしょう!あなたは生徒で私は教師なんですよ?」  
「小森さんには相談したじゃないですか」  
「ぐっ……そ、それは……」  
「相談、したじゃ、ないですか」  
 
望が霧とセックスをしたことは事実であり、それを知られている以上、主導権は、彼女にある。  
 
「なんで私じゃ……ないんですか……」  
 
まして、女の最大の武器である"涙"まで行使されては、反論する気概が沸くはずもない。  
 
「な!?なんで泣くんです、常月さん!」  
「……やっぱり、私は"常月さん"なんですね……」  
「っ……わかりました。まといさん、泣くのは止めてください」  
出来る限り穏やかに、子供に諭すように。望は精一杯気を使った言葉をかける。  
 
上目遣いに涙を浮かべる女性とは、なんと美しいのだろうか。  
そんな場違いなことを考えてしまう辺り、望もやはり男の一員である。  
いつもの望ならば、雄としての性欲に支配される自分に絶望したかもしれない。  
 
しばらく望の目を見て押し黙っていたまといは、唐突に流れる涙をぐいと袖で拭きとった。  
続けて望を見上げていた視線を外し、さらに身体を密着させる。  
 
「私だって、先生のためになるなら、なんでもできるんです」  
 
独り言のように、まるで自分に言い聞かせるように、まといは言った。  
 
「先生のことが好きなことでは、誰にも負けませんから」  
 
望の袴に手をかけ、ゆっくりと脱がせていく。  
 
「……!?ま、まといさん……?」  
「小森さんにはできないようなことだって、私なら……」  
 
再び外気に晒された絶棒は、つい先ほど欲望を吐き出したにも関わらず、華麗に蘇った。  
「まといさん、何を……?」  
「じっとしててくださいね」  
 
目の前に反り立つ絶棒をしげしげと眺めていたまといは、不意にそれを優しく銜え込んだ。  
 
「っ……あ!」  
ちゅぷ……と嫌らしい音を立て、まといの口腔に絶棒が沈み込み、望の全身に電流が走る。  
 
「ま、まといさ……そんな……」  
「んむ……」  
続けて、まといは頭をゆっくりと前後させ始める。  
 
「……!ま、待ってくださ……!」  
「ふ……んむ、ん、むぅ……」  
段々と表情を恍惚とさせていくまといに危機感を覚えた望は、まといの頬を両手で挟みこむ。  
「……んぅ?」  
「ちょ、ちょっと待ってくださいまといさん、こんなところで……はうっ!」  
まといは銜え込んだ絶棒を放そうとはしなかった。  
前後運動を止められながらも、舌で棒の先端をくすぐる作戦に切り替えて望を責める。  
新しい刺激を与えられた絶棒が、まといの口内で膨張するのを自覚し、望は大きく仰け反った。  
「まと……い、さん……だめ、です……」  
「んん……あむ、ん……んぁ……」  
巧みな舌使いで、味わうように絶棒を舐め回す。その甘美な刺激の前に、望はあっさりと白旗をあげた。  
 
「んむ……ん!んく……!」  
まといの口内に、白濁した液が放出される。  
 
「う、うう……はぁ、はぁ……だ、大丈夫、ですか……?」  
「んくっ……ぷはっ、はぁ、ふぅ……」  
白濁液を余すことなく飲み干したまといは、絶棒を口から解放し、荒い息遣いを整え始めた。  
「まといさん、まさか……飲んじゃったんですか?」  
一般に男性の精液は、苦く生温かいどろっとした液体で、とても飲めたものではないと言う。  
しかし、目の前の少女はそれを飲み干し、あろうことか口の周りに溢れた液さえも舐めとっていた。  
 
「ま、まといさん」  
「大丈夫です……先生の、ですから」  
まといは再び望の目を見上げた。  
 
ディープ・ラブ。以前望は、彼女の異常ともいえる愛情表現をそう称した。  
が、ある女子生徒は彼女のことを"ただの純愛"と称した。  
 
望は今、"ただの純愛"の本質を初めて見つけたような気持ちでいた。  
 
「よく、わかりました」  
「……何がですか?」  
「なんというか……あなた自身を、理解できた気がします」  
望にしては珍しい直球な優しい言葉に、まといは顔が熱くなるのを感じた。  
 
「ですから、今度は……私の番、です」  
「えっ?」  
言葉と同時に、望はまといを膝の上に抱き上げた。そのまま、目の前の唇に深くキスをする。  
「むぐっ?」  
直前に自分が出した精液の痕跡を掃除するように、望の舌はまといの口内を蹂躙する。  
息苦しさからか、まといが望の背中に軽く爪を立てた。それでようやく、望はまといを解放する。  
 
「まといさん、改めて相談させていただきます」  
「なん、ですか?」  
息を整えているまといに、望ははっきりと言い切った。  
 
「私が生き続ける為に、なんというか……協力、してもらえますか?」  
「……先生」  
まといは嬉しかった。  
このまま勢いで襲われてもいいと思ってはいたが、これからすることは先生の意思による、と確認できたのだから。  
 
「はい、喜んで」  
もちろんまといも、はっきりと言い切った。  
 
 
先ほどイかされたばかりだというのに、望の絶棒はその存在を強く主張し始めていた。  
「……倫と名前を交換するのも、ちょっと考えておきましょうか」  
自分のものとは言え、制御不能な海綿体に苦笑する。  
 
「先生……」  
望の絶棒を銜え込んだ時とは違い、まといの瞳には不安の色があった。  
「大丈夫、ですよ」  
「……はい」  
その不安を払えるように、望は優しくまといの背中をさすってやる。  
意外と広い望の胸の中で、まといは安らかに目をつむる。  
 
頃合を見計らうように、望の手がまといの下腹部にのびた。  
「……ん」  
ピク、とまといの身体が振動し、彼女の身体に流れた刺激を表す。  
背中を撫でる優しい手と、秘部を愛撫する卑しい手。望の両手は、二つの動きを的確に使いわけていた。  
「ふあ……あ、うぅん……」  
さっきのフェラチオの余波か、まといの秘部は既にうっすらと濡れていた。  
少し触るだけで、じわりと愛液がにじみ出るのがわかる。  
 
ちょっと意地悪な気持ちになり、秘部には直接触れずにその周囲を指でなぞると、  
「やぁ……あんまり、焦らさないでください、先生……」  
まといは切なげに身を揺すった。その様子は、望の絶棒をさらに充血させる。  
 
「……まといさん、そろそろ、いいですか?」  
「……来て、ください」  
まといは、見られるのが恥ずかしいのか、火照った顔を望の首筋に埋めた。  
それに呼応するかのように、望はまといの下着を下ろし、露になった秘所に絶棒を差し込む。  
 
「ぁふ……」  
思ったよりも狭い入り口が、絶棒をきつく圧迫する。  
「ちょっと、きついみたいですね……」  
「せ、先生のが大きいんです、んぁ!」  
まといがぎこちなく身体を上下させるのに合わせて、望も下半身を何度も突き上げる。  
「あっ、やっ、ひゃふっ!んぁ、ふっ!」  
そのリズムに合わせて律儀に喘ぐまといの顔がよく見えないのは残念に思えたが……  
 
望の身体には、十分すぎる快楽が供給されていく。  
 
「ひゃっ、んああっ、先、生…っ!あぁあぁあああ!」  
高い嬌声とともに、まといが達した。腕の中でまといの身体が脱力していく。  
「……っ!まとい、さん……」  
望は、突き上げる速度を速め、絶棒に強い刺激を与えられるようにした。  
程なくして望の絶棒も、本日三度目となる射精の快楽に沈んだ。  
 
 
 
 
望は、絶頂の余韻から腰が立たなくなっているまといの秘部をティッシュで軽く拭うと、下着を履かせた。  
「す、すいません先生……」  
「いえ、こちらこそ……私なんかのために付き合わせてしまって……」  
お互いに微妙な笑顔を称えて会話している光景は、なんとほのぼのしていることか。  
 
きちっと服を身につけた二人は、最初のように隣り合って階段に座りなおした。  
 
「……これで、あと八人ですよね?」  
「ええ、そういうことになります」  
「急いだ方がいいんじゃないでしょうか」  
(……急いでも、しばらくは精力が戻らない気がしますけども)  
これほどの短時間で三回も射精すれば、それも当然だろう。  
 
「あてはあるんですか?」  
「全くありません」  
夏休みなのに学校に居る、という稀有な条件を満たす女性は勿論数少ない。  
霧とまといは、その数少ない例であるが……これ以上を望むのは、まさに絶望的だろう。  
 
「どっちにせよ、先生が生きるためですから……私、もうちょっとだけ見逃してあげます」  
まといは、自分の頭を望の肩に乗せる。望も、拒まない。  
「でも……先生を愛することにかけては、私絶対、誰にも負けませんから」  
 
望には、何も言うことはできなかった。無論、それを否定することなどできない。  
そして肯定することも、恐らくまといは望まないだろうと思ったのだ。  
 
何せ自分は、これからまとい以外の女性と身体を重ねるのだから。  
もし望が、彼女に答えを返すとしたら。  
 
(全部、片がついてから、ということになるでしょうね)  
 
今の自分には、何も言えない。だから今は、ただ肩を貸しておこう。  
 
午前十時。少しずつ温まってきた階段に、寄添う男女が居た。  
 

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