望が宿直室に帰り着いたのは、夕方の頃だった。  
部屋のちゃぶ台の上に一通のメモがある。  
 
『今日は、うちに交君を泊めます。心配しないで下さい。 あなたのまとい』  
 
「交を……?それに心配とは、なんのことでしょう」  
"あなたの"には特にツッコミを入れないことにした。疲れていた。  
敷きっぱなしの布団の上に寝転ぶと、案の定望の意識はすぐにかつ急速に薄れていった。  
 
ノックの音がした。  
コン、コン、という規則的なリズムに、望は重い瞼を開く。部屋の中は既に真っ暗。  
(もう夜ですか……誰ですかね、こんな遅くに)  
扉を開けようと望が腰を上げたとき、か細い声が聞こえてきた。  
 
「ああ、結局こんな遅くに……!迷惑でなければいいのですけれど……」  
 
一瞬で、誰が尋ねてきたのかわかった。  
 
「……加賀さん、ですか?」  
「……っ!す、すいません!私如きが尋ねて来てしまって!」  
平謝りする声に、加害妄想少女加賀愛がやって来たことを確信した。  
「ええ、と……とりあえず、入ってください」  
「いえいえ!私なんかが入っては、宿直室の評判が悪くなります!」  
「宿直室に評判もなにもありますか!」  
「ああ、それもこれも私がここに来たからいけないんです!」  
「それ、加害妄想ですから!」  
とにかく扉を開けて、望は愛を室内に引き入れた。  
 
「お茶でも入れましょう、紅茶と緑茶はどっちがいいですか?」  
「そんな!私には水で十分……いえ、それでも水に失礼なくらいです!」  
お茶を飲ませるのにも一苦労だ。  
「はい、ダージリンで良かったですか?」  
「す、すいません気を使わせてしまって……」  
おずおずとカップを受け取る愛に、望は早速用件を聞くことにした。  
 
「それで……何の御用でしょう?」  
「あ、あの……木津さんから、こんな連絡を受けまして……ご協力できたら、と」  
 
『緊急通達!先生のピンチを救いましょう!  
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(やっぱり、クラス全員に広まっているんですね……絶望した!)  
今日の昼、あびるから見せられたのと同じ文章を前に、深く溜息をつく望。  
そんな望を見て、愛の加害妄想が発動する。  
「そ、そうですよね、私なんかが来たら迷惑ですよね。すいません!すぐ帰らせていただきます!」  
「ちょ、ちょっと待ってください!」  
立ち上がって走り去ろうとする愛の腕を、望は強く掴んだ。  
「……っ!?」  
反動でバランスを崩した愛は、望に覆いかぶさるように倒れ……  
 
拍子に、唇が重なった。  
 
慌ててばっと体を引こうとする愛。だが、望が腕を掴んでいるため、少ししか離れられない。  
「……ご、ご、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!あの、決してわざとでは!」  
「……別に責める気なんてありませんって」  
「え、でもあの。さっき、メールを見て溜息を……」  
「あれは、あの文面がクラスの皆に回ってることを考えて頭が痛くなっただけです」  
「で、でも、その……」  
「あなたとキスをしておいて、気を悪くする人なんていないでしょうに」  
そこまで話をして、愛の腕を掴みっぱなしだったことに気付いた望は、そっと手をどけた。  
 
愛は、今度は身を引かなかった。顔を紅潮させ、硬直している。  
 
「……加賀さん?どうかしましたか?」  
「い、いえ嬉しくて……はっ!すいません、私なんかが嬉しさを感じ……っ」  
再び始まった加害妄想を止めるべく、望は強行手段に出ることにした。今度は意図的に、唇を塞ぐ。  
 
「ぷはっ……い、糸色先生……?」  
「確認します。ここに来てくれたということは、身体を預けてくれる、ということでいいのですね?」  
ダイレクトな質問に、一瞬面食らった表情になる愛だが、やがてこくこくと小さく頷いた。  
「あ、でも、私なんかじゃ……んむ」  
三度目の口付け。愛に喋らせると全てが加害妄想に繋がってしまう。阻止しなければ。  
「っ……あ、あの、先生?」  
「加賀さん、いえ愛さん。もっと自信を持ってください。あなたは十分素敵な人です」  
「え……」  
「そうでなければ、自分から口付けをしたい、などと思わないでしょう?」  
 
望は、愛の身体をそっと抱きしめた。  
彼女自身が"貧相"と称する華奢な身体。加害妄想という自虐的精神が宿るに相応しい身体。  
優しく扱わなければ折れてしまいそうな、そんな不安定さを感じる。  
 
「それでは愛さん、他に何か言うことはありますか?」  
「……そ、その……」  
加害妄想を口に出来ないと、大人しさに拍車がかかったようになる愛は、たどたどしく言った。  
「き、気を使わせて、申し訳ないんですが……や、優しくお願いしま、します」  
そしてそれっきり、ぎゅっと目を瞑った。  
 
畳の上で寝転んだまま、行為に及ぶわけにも行かない。望は愛を抱きかかえると、布団の上に寝かせた。  
そして、ゆっくりとその服を丁寧に脱がせていく。  
愛は、不自然なほどに抵抗しない。大方、動くと迷惑をかけるとでも思っているようだった。  
流石に下着に手がかかった時には身じろぎをしたが、それもすぐに治まった。  
完全な裸体となった愛の身体を、上から眺める。  
 
眺める。  
 
眺める。  
 
「あ、あの……先生……」  
「なんでしょうか?」  
「恥ずかしいですから……見ないで下さい、こんな貧相な身体……」  
「いえ、あなたは少し、被害を被る感覚を覚えた方がいいと思いましてね」  
「……?」  
「恥ずかしい、と思ったでしょう?これで、私のことを責める理由が出来ましたね」  
「っ!わ、私如きが先生を責めるなんて……」  
「気を使いすぎると疲れてしまいますからね。たまには私を責めて気晴らししてください」  
それだけ伝えると、望は愛の身体の上にのしかかる。  
 
「……っ!」  
それだけで身体を固くする愛。今まで身体を重ねた誰よりも、緊張しているようだった。  
日頃から気を使う少女のこと、恐らく情事の最中でも相手に気を使ってしまうのだろう。  
「力を抜いて、愛さん。緊張する必要はありませんから……」  
愛の気を緩ませるため、望はできる限り優しく話しかける。  
開始した愛撫も、非常にゆっくりと小ぶりな胸の周りを撫でるだけのものだった。  
 
「ふぅ……ん……くぅ……」  
無論、愛の吐息に甘美な声が混じり始めるのにも時間がかかった。  
それを確認してから、望は少しずつ手の動きを速めていく。  
「あ……ふ……んぁぅ……」  
愛の喘ぎが、段々と鼻にかかったような声へと変わっていく。合わせて望は、愛撫の範囲を広げていく。  
 
胸から脇腹へ、腹部へ、少し下って太ももへ……  
愛撫する部位が変わると、それに合わせて声の質も変わる。  
 
そして、望の手が遂に秘部に到達した時。  
「……!っ!」  
愛は、それまで出していた声を、無理矢理に押し込めた。  
 
「どうしました?」  
「せ、先生には、はしたない声を聞かせたくなくて……」  
望は、苦笑した。今更"聞かせたくない"もないだろうに。  
「いいんですよ、愛さん。私は聞きたいです」  
「!……で、でも」  
「気は使わないで下さい。遠慮もしないで下さい。……私は、本気ですから」  
 
それだけ言うと、望は手を再度動かし始める。  
秘部を掠めるように。時には秘密の溝に指を通らせるように。  
懸命に声を堪えていた愛だったが、そのフィンガーテクニック(資格取得済み)に……  
 
「ふっ、うぁあん!」  
陥落した。  
 
「や、はぁ……んぁ!やぁ!せ、せんっ!せい!」  
「はい?」  
「あぅ……だ、だめです!そん、な強くされて、は……私、耐え切れ、ない、はぁん!」  
手はぎゅっとグーの形に。口はまっすぐ一文字に。愛は、もたらされる絶頂感に必死で抵抗していた。  
 
「いいですよ、愛さん。指だけじゃ、満足できないでしょうから……」  
「え……や、んひゃぁぁぁあああ!」  
指の動きだけでも十分に追い込まれていた愛の秘部に、望は新たに舌での刺激を加える。  
 
抵抗を容赦なく打ち崩された愛は、経験したことのない絶頂感に、意識を手放してしまった。  
 
「……愛さん?」  
異変に気付き声をかけるが、返答はなく。  
「……やはり、調子に乗るものじゃありませんね」  
無駄なサドッ気を抑えきれない、自分の理性に嘆息する。  
 
「仕方ありません、起きるのを待ってすぐ、では身体が持たないでしょうし……」  
息も弱弱しい愛を見ながら、望は絶棒を取り出す。  
 
(知らぬが仏、ということで……許してください、愛さん)  
 
理不尽な"神"の指令に、望は忠実に従った。  
 
 
「すいません、先生……私だけ先に……」  
「いえ、全然。気にしないで下さい」  
 
妙に打ちひしがれる少女を前に、望は事後の無気力感の中で考え込んでいた。  
これで六人。いよいよ峠は越えた。あと一日で四人の相手を探すことが出来るだろうか。  
とにもかくにも、目の前の少女には礼を述べなければならないだろう。  
 
「本当にご迷惑をおかけして……助かりました」  
「い、いえ!いえいえ!わ、私が自分から来たんですから!」  
手と首をぶんぶんと振って否定する愛だが、少し間を置いてからぽつりと呟いた。  
「で、でも……先生のお役に立てたなら……よかったです」  
「本当に……恩に着ますよ、愛さん」  
 
ガーン!と漫画的効果音が鳴り響く。  
 
「だ、ダメです先生!恩に着られては困ります!」  
「え?あ、ああそうでしたね……」  
「べ……べ、べつに先生のために相手したんじゃないんだからね!」  
 
真っ赤な顔で言われても、正直説得力はない。ただのツンデレにしか見えない。  
そんなことを思いながら、悪戯っぽく言う。  
「つまり、あなたがしたかったからした、と?」  
「っ!?……す、すいません!あの、そういう意味ではなく……!」  
 
加害妄想少女の慌て姿になにやら魅力を感じてしまう辺り、  
(もしかしたら私、やはりサドなのでしょうか……いや、でもマリアさんとのときは……)  
 
望はぶつぶつと悩み始めた。その悩みに答えが出ることは、恐らくないのだろう。  
 

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