望が愛との行為を終えたとき、時刻は既に10時近くを示していた。  
そんな時間に女子高生を一人で外出させるわけにはいかない、と考えた望は愛を家まで送ることを決定。  
 
度重なる遠慮と謝罪を乗り越えて彼女を家に送り届けた望は、今ようやく、学校の前に戻ってきていた。  
 
「……さて、どうしたものですかね」  
現在時刻、0時。"神"が宣告した制限時間まで、あと30時間。既に折り返し地点は通過している。  
昨日は、校内に居た二人と偶然出会った千里。今日は、千里の呼びかけに応じた三人と身体を重ねた。  
早いうちに千里と巡り合えたことは幸運だったが……これまでのペースは一日に三人ずつ。  
 
最終日、望は四人の女性と性交を行わなければならない。  
「……考えてどうにかなるもんじゃありませんし、今日はもう寝て……」  
ブツブツと呟きながら宿直室の扉に手をかけ、ふと思考が停止する。  
 
宿直室に、電気が灯っている。  
 
(愛さんを送りに出るとき、確かに電気は消したはずですが……)  
交は今日、帰ってこないはず。だとしたら、誰が……?  
 
ぼんやりと考えながら、望は扉を開いた。  
 
「あら、お兄様。おかえりなさいませ」  
「り、倫……!な、なぜここに!?」  
部屋の中には望の妹、糸色倫の姿があった。  
「なぜって、連絡は入れたじゃありませんか」  
「いやいや、受けてませんよ連絡なんて!」  
「快く『それじゃあ交くんは一晩私が預かっておきます』と言ってくれましたが」  
「……なんで常月さんに私宛ての連絡をしているんですか……」  
なぜまといが交を自宅へと連れて行ったのか、その謎がやっと解けた。  
 
「……それで?何の用でわざわざここまで来たのですか」  
「あら、お兄様がピンチとの連絡を受けたのでやって来ましたのに、その言い草はあんまりじゃありませんか」  
倫は、ほらこんな連絡を、と携帯電話を開いてみせる。  
 
『緊急通達!以下略  
 
「…………………………は?」  
ゆうにいつもの五倍近い沈黙の後、望は疑問符を浮かべた。  
 
「ですから、お兄様の夜のお相手を務めさせて頂こうと……」  
「何を馬鹿なことを言ってるんですか!そんなことできるわけないでしょう!」  
「あら、何故ですの?」  
「私とあなたは兄妹ですよ!?関係など持てるわけがない!」  
「だから、何故です?」  
「え……そ、そう決まっているでしょう!」  
「お兄様、知らないのですね?近親姦を取り締まる法律は、日本には存在しないのですよ?」  
「……い、いや、法律がどうのという問題では」  
 
ぽふ、と倫の手が望の口を塞ぐ。  
 
「お兄様……私には、魅力を感じてくださらないのですか?」  
倫の声が少々震えていることに、望は気付いた。  
そして、これは倫が泣きだす予兆であることも、望は知っていた。  
「所詮私では、お兄様の相手は、務まらないのですか?」  
「だ、だからそういうわけではなく……!」  
慌ててフォローに回るが、倫は目を伏せてしまう。  
 
沈黙。  
 
しばらくすると、倫の肩が小刻みに震え始めた。ぽたり、と床に雫が落ちる。  
 
「り、倫……」  
「私は……私は、お兄様のことを……」  
時折鼻をすすりあげる音がして、望はふと、昔の倫の姿を思い出していた。  
 
しょっちゅう喧嘩をしては、最後には倫が泣き出し、怒られるのはいつも望だった。  
年上だからという理由で怒られる理不尽さに、当時の自分は腹を立てたものである。  
時にはお互い貶しあい、お互いを無視し、何度も、何度も喧嘩した。  
兄達の茶化しに負けた望が謝りに行くと、いつも倫は笑って抱きついてきた。  
 
無邪気だった頃の記憶。  
 
月日は流れ、望も倫も、成長した。いつしか喧嘩もしなくなった。  
しかしそれと同時に、お兄様、お兄様、と自分を慕い追いかける倫の姿も見なくなった。  
 
そして、今。  
目の前ですすり泣く倫の姿は、いつか自分が泣かせた"妹"の姿だった。  
 
と、なれば。  
「……倫、聞いてください」  
それを泣き止ませるのもまた、自分の役目ではなかっただろうか。  
 
「あなたは、とても魅力的になりました。それは私が保証します」  
「……お兄様」  
「でも、私はあなたの兄です。あなたを守らなければならない」  
「?」  
「その私が、あなたを手にかけるようなことは、許されないのです」  
 
倫は望の目を見ていた。望は倫の目を見ていた。再び沈黙が場を支配する。  
 
「……では」  
応答に口火を切ったのは倫のほうだった。  
「私を守ってください、お兄様」  
そう言いながら、倫は着物の襟を両手で広げる。  
「この身体に、つまらぬ男の手が触れる前に」  
倫は、望から決して目を逸らさぬままに、その身を寄せる。  
 
「兄として、私を抱いてください。お兄様……」  
「……倫……」  
 
男としてではなく、兄として。望は無意識のうちに、倫の肩に手を回す自分に気付いた。  
(偉そうに言ったクセに、結局負けるんですね、私は……)  
 
兄とは、決して妹に勝つことの出来ない存在なのかもしれない。  
 
帯を外し、少しずつ裸身を露にしていく倫に応じ、望も上着を脱ぎ捨てた。  
 
「本当に……綺麗になりましたね、倫」  
「……お兄様も、ご立派に」  
それ以上、言葉はなかった。  
 
倫は着物を全て解き、艶やかな白い肌を望の前に晒す。  
望はその身体に、いささか緊張気味でぎこちない手を伸ばした。  
 
「……んっ」  
男を知らないその身体は、思いのほかに過敏だった。双丘の先端に望の指が触れると、倫は小さく刺激を訴える。  
望は愛しげにその周辺を撫で摩ると、二つの丘の中央に軽く唇を触れさせ、舌を這わせる。  
 
「……ふぁ、んぅ……」  
次第に、倫の声が熱を帯び始める。  
心を駆り立てられた望の舌は、胸の周囲から段々と丘を登るように滑っていく。  
「ひゃっ!お、お兄様……そこは……!」  
その先端をちろちろと弄ぶと、倫の声が少し甲高くなったようだった。  
「ぅぁ、やぁ、おにぃさま……?」  
倫の身体に力が入ったのを見てとり、望は這わせていた舌をそっと桃色の突起から離す。  
 
「……え?ん、ふぁぅんっ!」  
そして、ふと倫の顔に自分の顔を寄せると、その耳を軽く噛んだ。  
「お、お兄様!い、いきなり何を……!」  
「いえ……昔、よく倫の耳をこよりでくすぐっては殴られてたことを思い出しまして」  
「……なぜ、そんな唐突に……」  
「あの時の悲鳴に、今の嬌声が似ていたんですよ」  
らしくないぐらいににこやかに言うと、倫は昔よくした不貞腐れた表情になった。  
 
「……お兄様、あまり焦らさないで下さいな」  
 
……言うことはだいぶん大人びていたが。  
 
「焦らすな、とは?」  
「胸や耳を触っているだけでは、"性交"にはならないのでしょう?早く本番に移らなくては」  
「……倫。物事には順序があるのです」  
「そうなのですか?」  
 
きょとんとする倫の腹部に、望は再び舌を這わせる。  
 
「ひゃっ!……お、お兄様、不意打ちはいけませ……んんっ!」  
しばらくはそこに狙いを定め、望の舌は這い続ける。  
「……ん、ひゃぅ、ふっ、んんん……」  
そして、再び離す。  
 
「……はぁ……はぁ……お兄さま?なぜ……?」  
「そろそろ、身体も慣れたでしょうか?」  
「慣れ……?」  
「快感というのは、徐々に与えていかないと身体を壊しかねないんです」  
 
説明しながら、望はついに倫の秘部へと手を伸ばす。  
 
「……あなたの……妹の大切な身体ですからね。丁重に扱わなければ」  
 
その手もまた、倫の身体のように、小刻みに震えていた。  
 
「……怖いのですか、お兄様?」  
「それは、そうでしょう……まさか、あなたと関係を持つことになるだなんて……」  
続きを聞きたくない、とでも言うように、倫は望の口を手で押さえた。  
 
「心配、なさらずに。受け入れる準備はできています」  
「……倫」  
 
そっと、秘部にふれた。  
 
「……っ!」  
「り、倫?大丈夫、ですか?」  
心配になり思わず尋ねる望だが、再び倫に言葉を遮られる。  
「お兄様。他の人との行為のときも……そんなに心配をしていましたか?」  
「え……?」  
「確かに、兄として守ってください、とは言いましたが……」  
 
少し、大きく息を吸って。  
「今この瞬間だけは、女として扱ってください。……女性の花園に、触れているのですから」  
 
その言葉が、望に決断させた。再び倫の秘部に触れる。  
 
「……ん、ぁぁあ……!」  
浮かび上がる筋を、手探りのままに擦り続ける。  
「や、はぁん!んん、ぅぁあああん!」  
びくん、びくんと痙攣し始める倫の身体を、望は上から覆い被さって止める。  
 
そして遂に、禁断の行為に臨むべく……絶棒を取り出した。  
 
「……ふ、くぅぅぅ!あ、んあ!」  
そっと秘部に差し込まれた絶棒に、倫の身体は大きく揺れた。  
望が身体を上下させ始めると、その揺れは更に大きなものになっていく。  
「や、はぁあ!おに、さまぁ!ん、はぁぁぁぁぁ!」  
極度の緊張からだろうか、絶棒はいつにもまして自分を放出しようとしていた。  
 
が、望の身体が、意思に反して止まる。心の中で、最後の葛藤が起きる。  
 
「お、おにぃ、さまぁ……?」  
艶っぽい声と表情を向ける妹を、望は何も言えずに見つめた。  
 
それだけで、倫は全てを察したようだった。急ぎ呼吸を整えると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。  
 
「わたくし、は、大丈夫です。今日は、安全な、はず……」  
そこまでで再び息を整える。秘部に響く絶棒の重みが、少しだけ痛い。  
 
「お兄様のものなら、全て受け入れられます」  
倫は、望の腰に手を回し、うながした。  
 
「だって、私の、愛しいお兄様なのですから……」  
 
愛しい、お兄様。  
 
自分に顔を近づけてきた倫と軽く唇を触れ合わせ、望は静かに果てた。嬌声などあってはならない。  
望は男として欲望のままに女を抱いているのではなく、兄として妹を包んでいるだけなのだから……  
 
 
「ではお兄様……私、少し仮眠したら帰りますので……」  
「ええ、疲れたでしょう。ゆっくり休みなさい」  
 
望の声が届いたかどうかも怪しいぐらいのスピードで、倫は目を閉じ深い眠りに落ちた。  
そんな倫に毛布をかけてやりながら、望はぼんやりと考える。  
 
獣姦、同姓姦……そして、近親姦。神の定めた三つのタブー。  
 
「"神"の理不尽な要求に、"神"の定めたタブーで返す、か……」  
すやすやと眠る可愛い妹の寝顔を複雑な表情で眺めながら、望は呟く。  
 
「……これはもう……地獄逝き、決定でしょうね」  
 
その顔に浮かぶ苦笑は、諦めか、自嘲か……おそらく、その両方だろう。  
 
ふと、倫の寝顔が、唐突にほころぶ。  
おそらく夢の中で、兄が土下座でもしてきたに違いない。  
 
 

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